4
1 4. 環境工学-10. 温熱感 準会員 ○ 清水麻央 *1 正会員 リジャル H.B. *2 正会員 吉田一居 オフィス リビング 気温 季節 寒暑感 快適温度 快適温度はオフィスの快適性や作業効率を高めるため に非常に重要である。日本の設定温度は冬に 20℃、夏に 28℃と推奨されているが、フィールド研究に基づいて検 証されていない。オフィスにおける快適温度を明らかに し、その温度に近づくような環境調整行動を行えば冷暖 房等のエネルギーの節約に役立つと考えられる。現在ま でに快適温度に関する研究は国内 1)~10) や国外 11)~14) で行わ れている。しかし、長期間のデータをもとにした研究は 少なく、季節差について明らかでない。実際、日本人は 一年間の四季における様々な気候の中で暮らしているた め、執務者の熱的快適性を向上させるためには、長期間 のデータから快適温度を算出し、気候の変化による快適 温度の変動を明らかにする必要がある本研究では、関東のオフィスビルにおける温熱環境の実 測と、執務者の熱的主観申告調査を行い、快適温度の季節 差を明らかにし、快適温度と外気温度の関係について検討 する。 調 調査場所は東京都と神奈川県にある 11 棟のオフィスビ ル(東京:7 棟、神奈川:4 棟)である。申告対象人数は 1350 人であり、約 4660 人の申告数が得られた。表 1 に申告項目と尺度を示す。調査期間は 2014 8 月~2015 9 月で、実測調査は申告時に合わせて計器を持ち運び ながら測定する移動測定を行った。申告調査は執務者の 性別や年齢、冷暖房の好み等、体質(暑がり、寒がり) に関する事項等を尋ねる基本事項申告票と着衣量、活動 量、申告記入時の体感や心理状態を尋ねた。また、申告 調査は 1 ヶ月おきに 1 度執務中に行った。さらに、物理 量との対応をみるため、室温、相対湿度、室内グローブ 温度、風速、表面温度を測定した。なお、本研究の外気 温度は調査対象建物の最も近い気象台で測定したデータ を用いた。 寒暑感の尺度 尺度 寒暑感 適温感 1 非常に寒い もっと暖かく 2 寒い 少し暖かく 3 やや寒い このままで良い 5 やや暑い もっと涼しく 6 暑い 7 非常に暑い 4 少し涼しく どちらでもない (暑くも寒くもない) 快適温度は回帰方法と Griffiths 法を用いて計算する。 回帰法では室温やグローブ温度と寒暑感申告の一次回帰 から、「4. どちらでもない(暑くも寒くもない)」に相当 する温度を求めて快適温度とする方法である。フィール ド調査では回帰法による快適温度の算出がうまくいかな い場合もあるため、下記の式を用いて Griffiths 15), 16) も快適温度を検証する。 7 F 7& a Tc Griffiths 法による快適温度℃、7:室温やグロー ブ温度℃、C:寒暑感申告、 a回帰係数である。本研究 では回帰係数を0.50とした。 非冷暖房時は FR モード(Free Running Mode)、エアコン をつけている時は CL モード(Cooling Mode)、暖房をつけ ている時は HT モード(Heating Mode)である。 申告中の外気温度の変動について明らかにするため、図 に各月の平均外気温度と%信頼区間を示す。平均外気 温度は月で℃、月で℃であり、両者の差は℃ である。 次に、申告中の室温を明らかにするため、図2に室温と グローブ温度の分布を示す。申告中の平均室温はFRモー 4031 121 2015年度日本建築学会 関東支部研究報告集Ⅱ 2016年3月

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― 121 ―

2015年度日本建築学会 関東支部研究報告集

2016 年 3 月

4

くなっており、着工床面積が大きい際の省エネが全体のエ

ネルギー消費量の削減に有効であることがわかる。また、

1990年代と 1995年代以外の年代では点 Bの組み合せが点Aの組み合せに比べコストをかけているが、図-8を見ると、非最適組み合せの最適組み合せに対する余剰コストによ

るエネルギー消費量の減少率(黄矢印)が、1990 年代と1995 年代の最適組み合せの非最適組み合せに対する減少率(青矢印)に比べて低い。コスト上限を引き上げてでも

費用対効果の良い組み合せを選択する方が変遷全体での

エネルギー消費量の減少率が高いことがわかる。 図-6の点 A、C、D、Eと各年代で一切省エネをしなかっ

た場合(点 X)、各年で最大限コストを投じた場合(点 Y)について、年毎に選ばれた最適点のコストと年間二次エネ

ルギー消費原単位を図-10に示す。 パレート曲線の低コストの部分(点 X→点 C)では、1990

~2010 年代において省エネとなっている。点 C から点 Dではそれまであまり省エネとなっていない 1980、1985、2010、2015 年代でコストがかけられた。1990~2000 年代では点 C の段階で最大限の省エネに近しい値が取られており、その他の年の省エネ余力のある部分でコストをかけ

ると費用対効果が良い結果となったと考えられる。コスト

が大きくなると年代全体として満遍なく省エネが進んで

いくが、低コストの領域では着工面積や電力一次エネルギ

ー換算係数に応じて優先度が生じると考えられる。 4.おわりに 時代変遷を考慮した最適化によって、時代ごとの最適解

を無作為に選ぶだけでは必ずしも最適な組み合せとなら

ないことが分かった。今回は非常に限定した建物形状や空

調システムを用いたため、様々な建物形状や、空調システ

ムでも同様の検討が必要である。また、コスト算定の精度

を上げるとともに、ランニングコストや工事費等の詳細な

コストを検討する予定である。 本研究では過去の機器価格、電力一次エネルギー換算係

数、事務所ビルの着工面積等を調査し、それに応じた最適

組み合せを導出したが、これらの項目の将来予測や、変動

シナリオを考慮に入れることで、発展途上国などのエネル

ギー消費の急激な増加が見込まれる国に対して省エネの

コストをかける時期や対象を提示できる可能性がある。

参考文献

1) 滝沢博:標準問題の提案(オフィス用標準問題), 日本建築学会環境工学委員会熱分科会第 15回熱シンポジウム, pp.35-42, 1985年 9月

2) 福田航、赤司泰義:日本の事務所ビルにおける省エネ手法とエネルギー消費量の時代変遷, 空気調和・衛生工学会学術講演論文集, pp.81-84, 2015年 9月

3) 一般財団法人建築環境・省エネルギー機構:建築物総合エネルギーシミュレーションツール The BEST Program1406, 2014 年 7 月 http://www.ibec.or.jp/best/

4) IBM:SPSS Statistics Version22, 2013年 8月 5) 財団法人 建設物価調査会:建設物価, 1980, 1985, 1990, 1995,

2000, 2005, 2010, 2015年 1月号 6) 財団法人 建設物価調査会:建築統計年報, 1976~2014年版 7) 社団法人 日本ビルエネルギー総合管理技術協会:平成 24 年度

版 建築物エネルギー消費量調査報告書, pp.16-17, 2013年 3月 *1 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 修士 2年

*2 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 教授・博(工)

*3 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 助教・博(工)

2.6

2.65

2.7

2.75

2.8

2.85

2.9

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015

電力一次エネルギー換算係数[

-]

事務所着工床面積[㎡

/年]

事務所着工面積 電力一次エネルギー換算係数

300

350

400

450

500

550

30,000 35,000 40,000 45,000 50,000

二次エネルギー消費原単位[

MJ/㎡]

イニシャルコスト[円/㎡]

1980 1985 1990 1995 20002005 2010 2015 最適(点A) 非最適(点B)

図-8最適組み合せと非最適組み合せの年代変遷

図-9事務所着工床面積と電力一次エネルギー 換算係数の時代変遷

[年]

図-7最適点と非最適点の比較

200

300

400

500

600

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015

年間二次エネルギー消費原単位

[MJ/㎡

]

単位床面積当たりコスト

[円/㎡

]

単位床面積当たりコスト(点A) 単位床面積当たりコスト(点B)二次エネルギー消費原単位(点A) 二次エネルギー消費原単位(点B)

[年代]

200

300

400

500

600

700

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 年間二次エネルギー消費原単位[

MJ/㎡]

単位床綿製当たりコスト[円

/㎡]

単位床面積当たりコスト(点Y) 単位床面積当たりコスト(点X)単位床面積当たりコスト(点C) 単位床面積当たりコスト(点D)単位床面積当たりコスト(点A) 単位床面積当たりコスト(点E)二次エネルギー消費原単位(点Y) 二次エネルギー消費原単位(点X)二次エネルギー消費原単位(点C) 二次エネルギー消費原単位(点D)二次エネルギー消費原単位(点A) 二次エネルギー消費原単位(点E)

[年代] 図-10最適組み合せの比較

2015 年度日本建築学会 関東支部研究発表会

1

快適温度に関する研究

その 1 関東のオフィスビルにおける快適温度に関する研究

4.環境工学-10.温熱感 準会員 ○ 清水麻央*1

正会員 リジャルH.B.*2

正会員 吉田一居

オフィス リビング 気温

季節 寒暑感 快適温度

はじめに

快適温度はオフィスの快適性や作業効率を高めるため

に非常に重要である。日本の設定温度は冬に 20℃、夏に

28℃と推奨されているが、フィールド研究に基づいて検

証されていない。オフィスにおける快適温度を明らかに

し、その温度に近づくような環境調整行動を行えば冷暖

房等のエネルギーの節約に役立つと考えられる。現在ま

でに快適温度に関する研究は国内 1)~10)や国外 11)~14)で行わ

れている。しかし、長期間のデータをもとにした研究は

少なく、季節差について明らかでない。実際、日本人は

一年間の四季における様々な気候の中で暮らしているた

め、執務者の熱的快適性を向上させるためには、長期間

のデータから快適温度を算出し、気候の変化による快適

温度の変動を明らかにする必要がある。 本研究では、関東のオフィスビルにおける温熱環境の実

測と、執務者の熱的主観申告調査を行い、快適温度の季節

差を明らかにし、快適温度と外気温度の関係について検討

する。

調査方法

調査場所は東京都と神奈川県にある 11 棟のオフィスビ

ル(東京:7 棟、神奈川:4 棟)である。申告対象人数は

約 1350 人であり、約 4660 人の申告数が得られた。表 1に申告項目と尺度を示す。調査期間は 2014 年 8 月~2015年 9 月で、実測調査は申告時に合わせて計器を持ち運び

ながら測定する移動測定を行った。申告調査は執務者の

性別や年齢、冷暖房の好み等、体質(暑がり、寒がり)

に関する事項等を尋ねる基本事項申告票と着衣量、活動

量、申告記入時の体感や心理状態を尋ねた。また、申告

調査は 1 ヶ月おきに 1 度執務中に行った。さらに、物理

量との対応をみるため、室温、相対湿度、室内グローブ

温度、風速、表面温度を測定した。なお、本研究の外気

温度は調査対象建物の最も近い気象台で測定したデータ

を用いた。

表 寒暑感の尺度

尺度 寒暑感 適温感

1 非常に寒い もっと暖かく

2 寒い 少し暖かく

3 やや寒い このままで良い

5 やや暑い もっと涼しく

6 暑い

7 非常に暑い

4 少し涼しくどちらでもない

(暑くも寒くもない)

快適温度の算出法

快適温度は回帰方法と Griffiths 法を用いて計算する。

回帰法では室温やグローブ温度と寒暑感申告の一次回帰

から、「4. どちらでもない(暑くも寒くもない)」に相当

する温度を求めて快適温度とする方法である。フィール

ド調査では回帰法による快適温度の算出がうまくいかな

い場合もあるため、下記の式を用いて Griffiths 法 15), 16)で

も快適温度を検証する。 = a

Tc Griffiths 法による快適温度 ℃ 、 :室温やグロー

ブ温度 ℃ 、C:寒暑感申告、 a 回帰係数である。本研究

では回帰係数を0.50とした。

結果と考察

非冷暖房時は FR モード(Free Running Mode)、エアコン

をつけている時は CL モード(Cooling Mode)、暖房をつけ

ている時は HT モード(Heating Mode)である。 外気温度と室温の分布

申告中の外気温度の変動について明らかにするため、図

に各月の平均外気温度と %信頼区間を示す。平均外気

温度は 月で ℃、月で ℃であり、両者の差は ℃

である。

次に、申告中の室温を明らかにするため、図2に室温と

グローブ温度の分布を示す。申告中の平均室温はFRモー

4031

― 121―

2015年度日本建築学会関東支部研究報告集Ⅱ

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2015 年度日本建築学会 関東支部研究発表会

2

ドで25.2℃、CLモードで26.1℃、HTモードで24.0℃であり、

グローブ温度もほぼ同じ値になっている。特にHTモード

の平均室温は、推奨温度20℃より4℃高い。

図 申告中の外気温度

図 申告中の室温 上段 とグローブ温度(下段)

寒暑感の分布

執務者の温熱感覚を明らかにするため、図3にFR、CLとHTモードの寒暑感の分布を示す。寒暑感申告の平均値は

FRモードで4.0、CLモードで4.2、HTモードで3.7である。

どのモードでも「4.どちらでもない」の申告が非常に多く、

オフィスの環境は整っていることが分かる。 また、CLモードでは「5. やや暑い」、HTモードでは「3.

やや寒い」の申告も多く、オフィスビルの冷房・暖房の設

定温度は快適範囲内(申告3~5)に設定していることが分

かる。

図 各モードの寒暑感の分布

回帰法による快適温度の検討

まず寒暑感と室温の回帰分析を行い、快適温度の予測を

行う。図4にFR・CL・HTモードの寒暑感と室温の散布図

を示す。回帰分析から寒暑感申告(C)と室温(Ti 、℃)

やグローブ温度(Tg、℃)の間に下記の式が得られた。 FR C=0.180Ti-0.515 (n=424, R2=0.50, p<0.001) (1) CL C=0.223Ti-1.581 (n=2,573, R2=0.29, p <0.001) (2) HT C=0.167Ti-0.277 (n=1,699, R2=0.29, p<0.001) (3) FR C =0.183 Tg —0.554(n=422, R2=.0.5,p<0.001) (4) CL C=0.228 Tg -1.657(n=2537, R2=0.28,p<0.001) (5) HT C=0.168 Tg-0.261(n=1699, R2=0.29,p<0.001) (6)

回帰係数が比較的小さい。これらの式(1)~(3)を用いて、

寒暑感「4.どちらでもない」を代入して快適室温を予測

すると、FRモードで25.1℃、CLモードで25.0℃、HTモー

ドで25.6となる。同様に快適グローブ温度を予測すると、

FRモードで24.9℃、CLモードで24.8℃、HTモードで25.4℃となり、快適室温と値が近い。特にCLモードの快適温度

は寒暑感の「4.どちらでもない」や適温感の「3.このまま

で良い」の平均温度より低くなっている(表2)。また、

HTモードの快適温度も、表2の値より高くなっている。回

帰法による快適温度もややデータが少ない部分に決まっ

ている。これらのことから次節でGriffiths法を用いて快適

温度を予測する。

表 該当申告に対する室温とグローブ温度

度数 平均 標準偏差 度数 平均 標準偏差

室温(℃) 260 25.1 1.6 301 25.1 1.6

グローブ温度(℃) 259 25.0 1.6 300 24.9 1.6

室温(℃) 1424 26.0 0.9 1552 26.0 0.9

グローブ温度(℃) 1424 25.8 0.9 1552 25.8 0.9

室温(℃) 1027 24.2 1.1 1076 24.2 1.1

グローブ温度(℃) 1027 24.0 1.1 1076 24.0 1.1HT

寒暑感=4 適温感=3Mode 変数

FR

CL

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2

ドで25.2℃、CLモードで26.1℃、HTモードで24.0℃であり、

グローブ温度もほぼ同じ値になっている。特にHTモード

の平均室温は、推奨温度20℃より4℃高い。

図 申告中の外気温度

図 申告中の室温 上段 とグローブ温度(下段)

寒暑感の分布

執務者の温熱感覚を明らかにするため、図3にFR、CLとHTモードの寒暑感の分布を示す。寒暑感申告の平均値は

FRモードで4.0、CLモードで4.2、HTモードで3.7である。

どのモードでも「4.どちらでもない」の申告が非常に多く、

オフィスの環境は整っていることが分かる。 また、CLモードでは「5. やや暑い」、HTモードでは「3.

やや寒い」の申告も多く、オフィスビルの冷房・暖房の設

定温度は快適範囲内(申告3~5)に設定していることが分

かる。

図 各モードの寒暑感の分布

回帰法による快適温度の検討

まず寒暑感と室温の回帰分析を行い、快適温度の予測を

行う。図4にFR・CL・HTモードの寒暑感と室温の散布図

を示す。回帰分析から寒暑感申告(C)と室温(Ti 、℃)

やグローブ温度(Tg、℃)の間に下記の式が得られた。 FR C=0.180Ti-0.515 (n=424, R2=0.50, p<0.001) (1) CL C=0.223Ti-1.581 (n=2,573, R2=0.29, p <0.001) (2) HT C=0.167Ti-0.277 (n=1,699, R2=0.29, p<0.001) (3) FR C =0.183 Tg —0.554(n=422, R2=.0.5,p<0.001) (4) CL C=0.228 Tg -1.657(n=2537, R2=0.28,p<0.001) (5) HT C=0.168 Tg-0.261(n=1699, R2=0.29,p<0.001) (6)

回帰係数が比較的小さい。これらの式(1)~(3)を用いて、

寒暑感「4.どちらでもない」を代入して快適室温を予測

すると、FRモードで25.1℃、CLモードで25.0℃、HTモー

ドで25.6となる。同様に快適グローブ温度を予測すると、

FRモードで24.9℃、CLモードで24.8℃、HTモードで25.4℃となり、快適室温と値が近い。特にCLモードの快適温度

は寒暑感の「4.どちらでもない」や適温感の「3.このまま

で良い」の平均温度より低くなっている(表2)。また、

HTモードの快適温度も、表2の値より高くなっている。回

帰法による快適温度もややデータが少ない部分に決まっ

ている。これらのことから次節でGriffiths法を用いて快適

温度を予測する。

表 該当申告に対する室温とグローブ温度

度数 平均 標準偏差 度数 平均 標準偏差

室温(℃) 260 25.1 1.6 301 25.1 1.6

グローブ温度(℃) 259 25.0 1.6 300 24.9 1.6

室温(℃) 1424 26.0 0.9 1552 26.0 0.9

グローブ温度(℃) 1424 25.8 0.9 1552 25.8 0.9

室温(℃) 1027 24.2 1.1 1076 24.2 1.1

グローブ温度(℃) 1027 24.0 1.1 1076 24.0 1.1HT

寒暑感=4 適温感=3Mode 変数

FR

CL

2015 年度日本建築学会 関東支部研究発表会

3

図 寒暑感と室温やグローブ温度の関係

Griffiths法による快適温度の予測

Griffiths 法で各モードの快適温度を検証する。図5に各

申告と室温やグローブ温度から計算した Griffiths 法によ

る快適温度の分布を示す。 Griffiths法による平均快適温度は、FRモードで25.2℃、

CLモードで25.7℃、HTモードで24.6℃であり、グローブ温

度もほぼ同じ値になっている。 また、住宅における同様の調査の快適室温はFRモード

で23.6℃、CLモードで27.0℃、HTモードで19.9℃であり10)、

本研究のHTモードの値と大きな違いが見られた。これは

住宅では着衣量が自由に調整できるためと思われる。

各季節の快適温度

この節では、各月や各季節の快適温度を検討し、季節

差について明らかにする。まず、快適温度を比較するた

め、図 6 に各月、図7に各季節の平均快適温度と 95%信

頼区間を示す。各月や各季節の快適室温と快適グローブ

温度に有意差がない。春と秋の月の快適温度が低くて、

夏の月の快適温度が高い。このことから、快適温度は気

候の変動に伴って変動し、室温や外気温度と共に快適温

度も変動すると思われる。

図 各モードにおけるGriffiths法の快適温度の分布

図 各月における快適温度

図 各季節における快適温度

― 123―

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2015 年度日本建築学会 関東支部研究発表会

4

快適温度と外気温度の関係

図8に快適温度と外気温度の関係を示す。外気温度と快

適室温や快適グローブ温度に強い相関関係がある(r=0.82)。両者の回帰係数が類似している。これらの結果は今までの

研究結果と類似している。回帰式を用いれば、外気温度が

分かれば、室内快適温度を予測することができる。

y = 0.3057x + 18.669R² = 0.6705

y = 0.3074x + 18.453R² = 0.683

20

21

22

23

24

25

26

27

28

10 12 14 16 18 20 22 24 26

快適温度(℃)

外気温度(℃)

Mode: FR

快適室温

快適グローブ温度

図 快適温度と外気温度の関係

まとめ

本研究では、関東のオフィスビル調査を対象に温熱環境

の実測と執務者の熱的主観申告調査を行い、下記の結果が

得られた。 1. FR モードで最も多く申告されたのは「4.どちらでも

ない」申告であり、執務者は温熱環境に満足している

といえる。 2. Griffiths 法での快適温度は FR モードで 25.2℃、CL

モードで 25.7℃、HT モードで 24.6℃であった。 . 春と秋の快適温度にほとんど差がみられなかったが、

冬と夏の快適温度を比較すると、4℃の季節差がある。

謝辞

実測調査と申告調査に学校法人五島育英会、株式会社

日建設計、東急不動産株式会社、東京都市大学、パナソ

ニック株式会社、ヒューリック株式会社、横浜市都筑区

役所の執務者の方々に多大なご協力を頂いた。本研究は

科学研究費(基盤研( ): 、基盤研究( ):

)の助成を受けた。記して謝意を表す。

参考文献

1. 中谷岳史、松原斎樹、藏澄美仁:関西地域の住宅における熱

的快適性に関する実態調査:夏季の中立温度と許容範囲、日

本建築学会環境系論文集、第 597 号、pp. 51-56、2005.11. 2. 飛田国人、中谷岳史、松原斎樹、藏澄美仁、島田理良:関西

地域の住宅における冬季の実態調査による中立温度・許容範

囲の算出、日本建築学会環境系論文集、No.614、pp. 71-77、2007.4.

3. Rijal H.B., Honjo M., Kobayashi R., Nakaya T. (2013),

Investigation of comfort temperature, adaptive model and the window opening behaviour in Japanese houses, Architectural Science Review 56(1), pp. 54–69.

4. リジャル H.B.、本庄美穂、小林良太、中谷岳史:住宅におけ

る適応的快適性と環境調整行動に関する研究、日本建築学会

第 42 回熱シンポジウム、pp. 107-114、2012.11. 5. 勝野二郎、リジャル H.B.、宿谷昌則:夏季のリビングにおけ

る居住者の快適温度と熱的適応に関する研究、日本建築学会

環境系論文集、第 80 巻、第 707 号、pp. 13-20、2015.1. 6. Imagawa H. and Rijal H.B. (2015), Field survey of the

thermal comfort, quality of sleep and typical occupant behaviour in the bedrooms of Japanese houses during the hot and humid season, Architectural Science Review 58(1), pp. 11-23.

7. Rijal H.B., Humphreys M. and Nicol F. (2015), Adaptive thermal comfort in Japanese houses during the summer season: Behavioral adaptation and the effect of humidity, Buildings 5(3), 1037-1054.

8. Rijal H.B., Humphreys M.A., Nicol J.F. (2014), Development of the adaptive model for thermal comfort in Japanese houses, Proceedings of 8th Windsor Conference: Counting the Cost of Comfort in a changing world, Cumberland Lodge, Windsor, UK, 10-13 April 2014. London: Network for Comfort and Energy Use in Buildings, http://nceub.org.uk

9. リジャル H.B.:アジア地域の適応的快適性と環境調整行動、

2015 年度日本建築学会大会(関東)、環境工学部門、研究協

議会資料、pp. 21-26、2015.9. 10. リジャルH.B.:日本の住宅に適応モデルの提案、日本建築学会

第45回熱シンポジウム、pp. 73-80、2015.11. 11. リジャル H.B、吉田治典、梅宮典子:住宅におけるネパール

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東京都市大学環境情報学部 講師・博士(工学)

株式会社東急不動産次世代技術センター 上席研究員

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