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1 ⽣化学Ⅱ 2009 年度期末試験対策資料(解答解説編) ◆編集:⽊下貴⽂(2008 年度⼊学) ◆2010.2.15 公開 この⽂書について z ⽣化学Ⅱの近年の過去問の解答解説です。以下の年度のものを扱いました。 ・2008年度の本試、再試、再々試 ・2007年度本試、再試 z もし間違いを⾒つけられたら、ご指摘いただけるとうれしいです。またご要望や質問などもぜひどう ぞ。直接知らせていただくか、ホームページのアドレスまでメールをください。 z 本資料では、反応式を以下のように略記することがあります。⼀般的な表記法ではないので、試験で は⽮印の上下に酵素などを書いてください。 ・酵素 E によって化合物 A が化合物 B に変化する反応: A→[E]B ・酵素 Eʻによって化合物 B が ATP から P を受け取ってリン酸化する反応: B→[Eʼ][+ATP]BP ⽬次 1、グルコース 6 リン酸の代謝 2、糖新⽣について 3、グリコーゲン代謝 4、クエン酸回路 5、NADH/NADPH の機能 6、脂肪酸の代謝(現在、ここの途中までしかできていません7、アミノ酸の代謝 8、飢餓状態の代謝変化 参考書について(Ⅰ、Ⅱ共通) z ストライヤー⽣化学 6版 z リッピンコット イラストレイテッド⽣化学 原書 4 版 z からだの⽣化学 2版 z ⽣化学は医学部だけでなく他の理系学部でも講義されるから、定番の海外教科書が出揃っている。レ ーニンジャー、ヴォート、ハーパーなど有名どころから気に⼊ったものを選ぶといいとおもう。本格 的に学びたいという⼈には、個⼈的に①ストライヤーを推めておく。 z ②は参考書的に親切で⾒やすく書かれてあって、特に反応のまとめ図がとても便利。 z ③は 300 ページ⾜らずの薄い本だが、重要な代謝反応は⼀通り扱っている。他の教科書にない特⾊ として、各代謝反応がヒトの⽣理にとってどんな意味や機能を持つかの説明に、かなり紙⾯を割いて いる。普通に頭から読んでみてとてもおもしろかったので、つい全部読んでしまった。

⽣化学Ⅱ 2009年度期末試験対策資料(解答解説編) F6P F1,6P F2,6P PFK2 glucagon insulin #ホルモンによる解糖・糖新 の調節 PFK1 F1,6Ase (解糖を促進)

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⽣化学Ⅱ 2009 年度期末試験対策資料(解答解説編)

◆編集:⽊下貴⽂(2008 年度⼊学) ◆2010.2.15 公開

この⽂書について

⽣化学Ⅱの近年の過去問の解答解説です。以下の年度のものを扱いました。 ・2008年度の本試、再試、再々試 ・2007年度本試、再試

もし間違いを⾒つけられたら、ご指摘いただけるとうれしいです。またご要望や質問などもぜひどうぞ。直接知らせていただくか、ホームページのアドレスまでメールをください。

本資料では、反応式を以下のように略記することがあります。⼀般的な表記法ではないので、試験では⽮印の上下に酵素などを書いてください。 ・酵素 E によって化合物 A が化合物 B に変化する反応: A→[E]B ・酵素 Eʻによって化合物 B が ATP から P を受け取ってリン酸化する反応: B→[Eʼ][+ATP]BP

⽬次

1、グルコース 6 リン酸の代謝 2、糖新⽣について 3、グリコーゲン代謝 4、クエン酸回路 5、NADH/NADPH の機能 6、脂肪酸の代謝(現在、ここの途中までしかできていません) 7、アミノ酸の代謝 8、飢餓状態の代謝変化

参考書について(Ⅰ、Ⅱ共通)

ストライヤー⽣化学 6 版 リッピンコット イラストレイテッド⽣化学 原書 4 版 からだの⽣化学 2 版

⽣化学は医学部だけでなく他の理系学部でも講義されるから、定番の海外教科書が出揃っている。レーニンジャー、ヴォート、ハーパーなど有名どころから気に⼊ったものを選ぶといいとおもう。本格的に学びたいという⼈には、個⼈的に①ストライヤーを推めておく。

②は参考書的に親切で⾒やすく書かれてあって、特に反応のまとめ図がとても便利。 ③は 300 ページ⾜らずの薄い本だが、重要な代謝反応は⼀通り扱っている。他の教科書にない特⾊として、各代謝反応がヒトの⽣理にとってどんな意味や機能を持つかの説明に、かなり紙⾯を割いている。普通に頭から読んでみてとてもおもしろかったので、つい全部読んでしまった。

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出題傾向と対策

ここ 2 年の 5 回分の試験では、以下のような分野から出題された。 2008 本試験:糖新⽣の調節、脂肪酸合成、グリコーゲン代謝、クエン酸回路 2008 再試験:β酸化、グルコース 6 リン酸の代謝系、NADH/NADPH の機能、クエン酸回路、アミノ酸代謝 2008 再々試:糖新⽣、アセチル CoA の代謝、クエン酸回路、アミノ酸代謝 2007 本試験:アセチル CoA、グリコーゲン合成、飢餓状態の代謝、アミノ酸代謝や尿素経路 2007 再試験:糖新⽣、脂質の合成と分解、グルコース 6 リン酸の代謝系、アミノ酸やヘムの代謝 これを出題分野別に無理やり整理すると、次のようになる。本資料はこの整理にしたがい、全体を 9 章に分けた。 1、糖代謝 ・G6P の代謝〇〇 ・糖新⽣〇〇〇 ・グリコーゲン代謝〇〇 ・クエン酸回路〇〇〇 2、脂肪酸の合成と分解〇〇〇〇〇 3、アミノ酸代謝、ヘム代謝、尿素回路〇〇〇〇 4、その他 ・飢餓状態の代謝変化〇 ・NADP/NADPH の機能〇 「説明せよ」式の問題が多いので、いったい何を書けばいいのか分からないとおもう⼈もいるかもしれない。筆者が聞いた話では、とにかく反応の経路図を細かく書けば、それだけ加点するという採点⽅式らしい。たとえば「糖新⽣について説明せよ」なら、⾺⿅みたいだがとにかく反応の経路や酵素を全部書いた場合にはそれだけでかなり⾼得点が与えられ、いっぽう定性的な説明を中⼼に書いた場合には、洗練された解答であっても低い点しか与えられなかったらしい。もちろん伝聞なので確かな話ではないが、いかにもありそうな話ではあるので、注意しておこう。

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1、グルコース 6 リン酸(G6P)の代謝 グルコース 6 リン酸(G6P)の代謝産物の重要性について述べよ(2008 再 2、2007 再 3) <解答例>

⾎中ではグルコースで存在するが、細胞に取り込まれるとすぐに G6P になる。G6P は細胞膜を通過できず、細胞内に留めおかれる。

G6P はグルコースの最もポピュラーな活性体で、各反応の結節点となる(解糖系、糖新⽣、グリコーゲン代謝の中間体、ペントース回路の起点など)。主要な反応経路を挙げると:

1. グリコーゲン代謝:筋や肝臓でグルコースを蓄積する。筋ではエネルギー源として、肝臓では⾎糖値維持に⽤いられる。

2. 解糖系:さまざまな組織で、嫌気的、好気的に酸化分解されて ATP を産⽣する。

3. 糖新⽣:空腹時の肝臓や腎臓で、糖原性物質からグルコースを合成する。

4. ペントースリン酸回路:さまざまな組織で、NADPH2 とリボースをつくる 。NAPDH2 は合成反応に還元⼒を提供し、リボースは核酸の構成部品となる。

★問題が本当に「G6P の重要性について説明せよ」だとすると、上記内容くらいしか書けないとおもうのだけど……。配点が 25 点だとすると、後半をもう少し詳しく書いた⽅がいいかもしれない(実際の経路の⼀部をかくとか)。 2、糖新⽣について <問題> ①糖新⽣について説明せよ(2008 再々1) ②糖新⽣の調整機構(2008 本) ③糖新⽣の出発物質となりうる物質をすべてあげ、経路について説明せよ(2007 再) <①解答例> (解答指針:下記の定性的な説明に加えて、ひととおりの経路を書く。物質名すべてと、少なくとも律 速段階の酵素を挙げる。)

脳や⾚⾎球はエネルギー源としてグルコースしか利⽤できないから、⾎糖値はほぼ⼀定(90mg/dl程度)に保たれなければならない。空腹時の⾎糖値維持には、まず肝臓のグリコーゲン分解がはたらくが、これは 6〜10 時間しかもたない。そこで、乳酸、グリセロール、ピルビン酸などの糖源性物質からグルコースを新しくつくる経路(糖新⽣)がはたらく。

糖新⽣の原料は、筋組織から供給される乳酸とアミノ酸(とくにアラニン)が多い。解糖は肝臓(90%)、腎臓(10%)で⾏われ、全⾝に対する主な機能は<空腹時に肝臓からグルコースを放出して、⾎糖値を維持すること>である。

<②解答例>

#G6Pの⾏き先 stryer 5th figure21.3

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糖新⽣の⼤部分は解糖の逆反応だが、⼀部の反応では異なる酵素が⽤いられる。これらの酵素が糖新⽣の律速段階となり、かつ反応速度の調節の対象となる。以下に各反応と主な調節機構を⽰す。 (1) ピルビン酸→[PC]OAA:アセチル CoA、ATP により促進される。 (2) F1,6P→[F1,6Pase]F6P:F2,6P、AMP により阻害。グルカゴンは、シグナル伝達の結果 F2,6P の

合成を促進し、糖新⽣を抑制する。逆にインスリンは F2,6P の合成を抑えて、糖新⽣を促進する。 (3) G6P→[G6Pase]Glc:Glc により阻害される。 ★糖新⽣の調節にかかわる物質は上記の他にも多くあるが、解答では重要性と覚えやすさから数を絞って採り上げた。順に説明していくと……

(1)は糖新⽣のスタート地点での正の制御。アセチル CoA と ATP は酵素 PC をアロステリックに活性化する。アセチル CoA と ATP が余分にある=エネルギーが充⾜されている状態だから、糖新⽣が促進されると考える。

(3)は逆に、最終⽣成物によるフィードバック阻害である。

(2)の制御が最も重要。まず AMP が多いことは、エネルギーの充⾜度が低いことを意味するから、AMPは F1,6Pase を阻害して糖新⽣を抑制し、逆に解糖を促進する。

次に F2,6P は、同じく F1,6Pase の強⼒なアロステリック阻害剤としてはたらく。F2,6P の合成は、グルカゴンにより促進され、インスリンにより抑制される。右下図参照。空腹時を例に説明すると…… ・グルカゴンは酵素 PFK2 を活性化して、F6P→F2,6P

の反応を促進する。 ・F2,6P は PFK1 をアロステリック的に活性化し(解

糖を促進)、同じく F1,6Ase を不活性化する(糖新⽣を抑制)。

<③解答例> 糖新⽣の経路に⼊りグルコースの材料となりうる物質を糖原性物質という。以下に、糖原性物質と、糖新⽣に到るまでの代謝経路を列挙する。

解糖系および糖新⽣の中間代謝産物すべて(とくにピルビン酸、乳酸、オキサロ酢酸)

クエン酸回路の中間代謝産物すべて(→オキサロ酢酸)

グリセロール(→グリセロール 3P→DHAP) ロイシンとリシンを除くアミノ酸(→アミノ酸の種類によって異なる。ピルビン酸、α-ケトグルタル酸、スクシニル CoA、オキサロ酢酸のいずれか)

奇数炭素の脂肪酸がβ酸化した残りのプロピオニル CoA(→メチルマロニル CoA→スクシニル CoA→オキサロ酢酸)

#糖新⽣とその調節http://kusuri-jouhou.com/creature1/glycogen.htmlを改変

Glc

G6P

F6P

F1,6P

PEPPEPC

OAA

PC

F1,6Pase

G6Pase

Glc

F2,6PAMP

ATPアセチルCoA

PFK1

F6P

F1,6P

F2,6PPFK2

insulinglucagon

#ホルモンによる解糖・糖新⽣の調節

PFK1

F1,6Ase

(解糖を促進)

(糖新⽣を抑制)

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★解糖系とクエン酸回路の経路を書いて、どの物質がどこに⼊るかを確認しておこう。後述するが、脂肪酸は(プロピオニル CoA を除き)糖原性ではないという点が重要。 3、グリコーゲン代謝 <問題> ① グリコーゲンの構造と合成反応について説明せよ(2007 本) ② グリコーゲン代謝におけるリン酸化の重要性(2008 本) <①解答例> グリコーゲンは、α-グルコースが主にα-1,4 結合で直鎖状につながり、10〜12 残基ごとにα-1,6 結合で枝分かれした構造を持つ(右図)。 グリコーゲンは次の順序で合成される: (1) G1P と UTP から、次のように UDP グルコースが合成される。

G6P →[ホスホグルコムターゼ]G1P →[UDP-Glc ピロホスホリラーゼ][+UTP]UDP-Glc

(2) グリコーゲンシンターゼによって、UDP-Glc がグリコーゲン鎖とα-1,4 結合をつくり、グリコーゲンを伸⻑していく。

(3) α-1,4 結合の直鎖が 11 残基以上になると、グリコーゲン分枝酵素がはたらき、直鎖の半分を隣接する鎖にα-1,6 結合で転移させる。

★グリコーゲンは、主に筋組織や肝臓で蓄えられる。筋細胞で蓄えられたグリコーゲンは、細胞内でエネルギー源として使われ、激しい運動ではすぐに消費されてしまう。いっぽう肝臓に蓄えられたグリコーゲンは、低⾎糖時にグルコースとして⾎中に放出されて、数時間程度のスパンの⾎糖値維持にはたらく(より⻑期的、持続的な⾎糖値維持には、糖新⽣がはたらく)。 ②の前提知識として必要となるから、グリコーゲンの分解についても整理しておこう。分解は次の順序で⾏われる: (1) ホスホリラーゼがα-1,4 結合の直鎖を 1 つずつ分

解していき、分解産物は G1P として放出される。

#グリコーゲンの構造 stryer 5th figure21.1

#グリコーゲン合成 からだの⽣化学2版より

#グリコーゲンの分解 stryer 5th figure21.4

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(2) ホスホリラーゼは分枝から 4 残基の Glc が残るところまでしか分解できない。そこでトランスフェラーゼがはたらき、分枝の⽚⽅の 3 残基を、もう⽚⽅の分枝に移す。

(3) α-1,6 グルコシダーゼが、分枝部分の残りの 1 残基を分解する。 (4) 分解産物は、筋組織では G6P のまま解糖系に⼊ってエネルギー源として利⽤され、肝臓では Glc

に戻して⾎中に放出され、⾎糖値の調節に使われる。 <②解答例> グリコーゲンの合成と分解の調節には、いずれも膵臓から分泌されるホルモンである、Insulin とGlucagon が重要な役割を果たす。これらのホルモンは、筋細胞や肝細胞の受容体に結合して、細胞内のシグナル伝達を通して、最終的にグリコーゲンシンターゼ、ホスホリラーゼの活性調節を⾏う。以下の BOX にホルモンの作⽤をまとめると……

このように、それぞれグリコーゲンの合成と分解を担うシンターゼとホスホリラーゼは、リン酸化によって、ちょうど真逆に活性が調節される性質を持っている。 ★グリコーゲン合成/分解のリン酸化による調節について答える(これはテストによく出るよ、と講義でも⾔っておられましたね)。まず概要を整理しておくと……

グリコーゲンのシンターゼ(合成酵素)とホスホリラーゼ(分解酵素)は、それぞれ活性型と不活性型があり、リン酸化によって相互転換する。

このリン酸化は、Insulin と Glucagon の受容体への結合からはじまるシグナルで制御される。 ⽳埋めで問われる可能性があるから、Glucagon からはじまる経路のシグナル伝達系を名前だけ追いかけておこう。PKA まではありふれた経路である。それ以降が少し⾯倒だが、最終的に「リン酸化」によって「グリコーゲンの合成抑制、分解促進を⾏う」ことをおさえておけば、あとは考えたらわかるだろう。

⾼⾎糖 →Insulin+、Glucagon- →(受容体〜シグナル伝達を経て)タンパクホスファターゼの活性化 →グリコーゲンシンターゼの脱リン酸化(活性化)とホスホリラーゼの脱リン酸化(不活性化) →グリコーゲン合成促進、分解抑制

低⾎糖 →Glucagon+、Insulin-、 →(受容体〜シグナル伝達を経て)タンパクキナーゼを活性化 →グリコーゲンシンターゼのリン酸化(不活性化)とホスホリラーゼのリン酸化(活性化) →グリコーゲン合成抑制、分解促進

Glucagon が代謝型受容体に結合 →アデニル酸シクラーゼ活性化 →cAMP 濃度上昇→PKA(プロテインキナーゼ A)活性化 → シンターゼのリン酸化(不活性化) ホスホリラーゼキナーゼの活性化 → ホスホリラーゼのリン酸化(活性化)

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4、クエン酸回路 <問題> ① クエン酸回路について以下の問いに答えよ(2008 再々) 問1.空欄を埋めよ クエン酸回路は、解糖系により⽣じた( 1 )が( 2 )内へ取り込まれることから始まる。取り込まれた( 1 )は脱炭酸反応を受けて( 3 )となる。この反応では( 4 )複合体が酵素として働くが、これがクエン酸回路において最も重要な調節因⼦となる。( 3 )はさらに( 5 )と縮合して( 6 )となり、これが代謝を受けて最終的に( 5 )を⽣じる。 問2.クエン酸回路は、糖のエネルギー代謝という異化経路の側⾯と、中間体を利⽤しての同化経路という側⾯を持つ。両⽅について説明せよ。 (wiki ⼊⼒者注:与えられた解答スペースは異化・同化ともにA3⽤紙で3⾏程度) ② クエン酸回路の⽳埋め、ヒ素の影響(2008 本) ③ クエン酸回路の⽳埋め、ピルビン酸デヒドロゲナーゼの調節機構(2008 再) <①解答例> 問 1 1、ピルビン酸 2、ミトコンドリア 3、アセチル CoA 4、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ 5、オキサロ酢酸 6、クエン酸 問 2 糖の異化について。グルコースの解糖産物であるピルビン酸はアセチル CoA になってクエン酸回路に⼊る。アセチル CoA 由来の 2 つの炭素は、酸化されて 2CO2 として排出され、回路を通して 1GTP の産⽣と、補酵素の還元(3NADPH2、1FADH2)が⾏われる。後者は電⼦伝達系に送られて ATP 合成の燃料となる。 またクエン酸回路の各中間体は、次のような経路で、糖以外の物質の合成反応の材料を提供する(右図参照)。

オキサロ酢酸→アスパラギン酸→その他のいくつかのアミノ酸、プリン、ピリミジン クエン酸→脂肪酸、ステロール合成 α-ケトグルタル酸→グルタミン酸→その他のいくつかのアミノ酸、プリン スクシニル CoA→ポルフィリン、ヘム

★つぎに、②③で問われたと予想される内容を解説しよう。 解糖で作られたピルビン酸はミトコンドリアに⼊り、ピルビン酸デヒドロゲナーゼによって脱炭酸と酸化を受けてアセチル CoA になる。反応式は次のようになる。 ピルビン酸+NAD+CoA → [ピルビン酸デヒドロゲナーゼ] アセチル CoA+NADH2+CO2 ……以上のように書くと簡単な反応みたいだが、実は 5Step からなるかなり複雑な反応で、なおかつ重要性はといえば、糖代謝の全体でも中でもトップクラスといえる。講義では 5Step の各々について説明

#TCAサイクルの中間体からの⽣合成 Stryer 5th figure17-19

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されたが、詳しい反応経路と関連物質をどこまで覚える必要があるかは、わかりかねる。ここでは⽳埋め問題対策として、カギとなる物質名と、反応の概要のみ整理するにとどめよう。 まず複合体を構成する酵素を下にまとめる。各酵素は機能を発揮するために補⽋分⼦を必要としている。 略称 酵素名 補⽋分⼦族 E1 ピルビン酸ヒドロキシラーゼ TPP(チアミンピロリン酸) E2 アセチルトランスフェラーゼ リポアミド E3 ジヒドロリポアミドデヒドロゲナーゼ FAD 反応の概要。右図上のように、ピルビン酸デヒドロゲナーゼは、3 種類の酵素 E1、E2、E3 からなる複合体をなす。右図下のように、各酵素が担う反応が順序よく起こって、脱炭酸と脱⽔素(酸化)がおきて、ピルビン酸からアセチル CoA ができる。 この反応がクエン酸回路の中でも特に重要なのは、次の 3 つの点があるから。 (1) クエン酸回路の調節点として。 (2) 不可逆反応であること。 (3) 脚気、⽔銀やヒ素中毒の発症原因となる。 (1)この反応はクエン酸回路の⼊り⼝にあたるから、サイクル全体の調節機構として重要な位置を占める。 反応の調節機構の模式図を右に⽰す。少し複雑だから、順に⾔葉に起こしていこう。 図の右側には、全体の反応(基質と産物)が⽰されている。まず産物であるアセチル CoA と NADH2 が、酵素複合体の⼀部を直接にアロステリック阻害して反応を抑制する。

前ページ図のように、NADH2 は酵素E3 を、アセチル CoA は酵素 E2 を阻害する。つまり⾃らの産⽣を触媒した酵素を阻害するという、負のフィードバックを⾏っている。

さらに図の左側にあるように、酵素複合体は、ホスファターゼとキナーゼによって、脱リン酸化(活性型)とリン酸化(不活性型)の 2 つの状態を持つ。このキナーゼとホスファターゼはさらに、次のように調節される:

#アセチルCoA合成の調節 Stryer figure 17-17

#ピルビン酸からアセチルCoAの合成

E2 +E3

+E1E2

E3

E1

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2、不可逆反応であること。つまり、ピルビン酸からアセチル CoA は合成できるが、逆にアセチル CoAからピルビン酸は合成できない。脂肪酸はβ酸化されて多くの場合はアセチル CoA になるが、アセチルCoA はクエン酸回路に⼊って消費されるだけで、糖新⽣の過程には⼊らない。つまり、脂肪酸は糖原性ではない(例外は奇数脂肪酸の残り物のプロピオニル CoA(炭素数 3))。よりマクロにみると、糖→脂肪酸という経路はあるが、脂肪酸→糖という経路はないということになる。 3、脚気、⽔銀中毒、ヒ素中毒の発症原因となる。

脚気はビタミン B1(チアミン)不⾜で起こる。上の表から、補⽋分⼦としてチアミンが使われていることが分かる。

またヒ素(亜ヒ酸 AsO33-)や⽔銀は、酵素 E2 の-SH 基に結合して、酵素活性を失わせる。

つまりビタミン B1 不⾜やヒ素、⽔銀は酵素複合体の活性を阻害して、ピルビン酸がアセチル CoA となってクエン酸回路に⼊ることをできなくしまう。 脚気やヒ素中毒ではさまざまな症状がでるが、特に中枢神経系を含む神経症状(感覚⿇痺や震え、意識障害、認知障害)がでる。これは⽣化学的に重要な点で、神経系のエネルギー供給はほとんど解糖→クエン酸回路により賄われているから(ケトン体も少しは使える)、もっとも深刻な影響がでるのだ。

ヒ素は無味無臭の無⾊の物質で、殺⾍剤(農薬)、殺⿏剤などに含まれ、⽐較的簡単に⼊⼿できる。⾃殺や殺⼈⽬的で使われることも含め、ヒ素中毒はある程度の頻度で起こっている。10 年ほど前には、夏祭りに出されたカレーにヒ素が混⼊され 4 ⼈が死亡した「和歌⼭毒カレー事件」があった。

5、NADP/NADPH <問題> NADH と NADPH の役割(2008 再) <解答例> NAD/NADH2、NADPH/NADPH2 はともに、酸化還元反応にかかわる補酵素であり、構造式や化学的性質はほとんど同じだが、はたらき⽅が異なる。 NAD/NADH2 は、細胞内では主に NAD(酸化型)の形で存在し、解糖系やクエン酸回路で還元されてNADH2 となって、次の反応にはたらく

嫌気呼吸時、ピルビン酸→乳酸の還元反応を⾏う。 好気呼吸時、電⼦伝達系で酸化されて、ATP 合成を⾏う。

NADP/NADPH2 は、主にペントースリン酸回路によって還元されて NADPH2 になり、細胞内では主に還元型で存在する。脂肪酸やステロールなどの合成反応に還元⼒を提供する。

ホルモン(アドレナリンなど)の作⽤ (受容体〜シグナル伝達)→ミトコンドリアの Ca2+濃度上昇→ホスファターゼの活性化→酵素複合体のリン酸化(不活性化)

反応産物(アセチル CoA、NADH2)が豊富に存在する場合 →キナーゼの活性化→酵素複合体の不活性化

(1) エネルギー充⾜率が低い(ADP 多い)、原料(ピルビン酸)が多い場合 →キナーゼの不活性化→酵素複合体の脱リン酸化(不活性化)

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★NAD は「ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド」の略、NADP はそれにリン酸がついて「同リン酸」の略である。右図に NADP の構造を⽰す。下半分は AMP にリン酸が 1 つエステル結合した構造で、上半分はニコチンアミド、リボース、リン酸である。⾚丸をつけたリン酸が-OH に変わると NAD になり、ニコチンアミドの窒素環の部分に H がふたつつくと NADPH2 となる。 NAD/NADH2 と NADP/NADPH2 は、いずれも多くの酸化還元反応にかかわる補酵素である。その⽣理作⽤は、次のようにいうと分かりやすいかもしれない。つまり ATP/ADP がエネルギー授受の通貨だとすると、NAD/NADH2 と NADP/NADPH2は酸化還元⼒の授受の通貨である、と。 両者は構造も化学的性質はほとんど変わらないが、各反応を触媒する酵素がどちらかの補酵素と特異的に結びつくため、両者ははたらく場所やはたらき⽅が異なる。以下に表形式でまとめておこう。

NADPH2 について解答を補⾜しておこう。NADPH2 は主にペントースリン酸回路(の、とくにホスホグルコン回路)の次の反応でつくられる:

NADPH2 は各種の合成反応に還元⼒を提供する。NADPH2 の⽣成がさかんな組織と、主な NADPH2による合成反応を⽰す。

肝臓:脂肪酸合成、コレステロール合成、P450 による解毒作⽤ 副腎、精巣、卵巣:ステロイドホルモン合成 乳腺、脂肪細胞:脂肪酸 ⾚⾎球:還元型グルタチオンの合成(過酸化物の除去にはたらく) 好中球やマクロファージ:過酸化物の⽣成

6、脂肪酸の代謝 ① アセチル CoA の関連する代謝反応を列挙して説明せよ(2008 再々、2007 本) ② 脂質の合成と分解の異同(2007 再) ③ β酸化について(2008 再) ④ 脂肪酸の合成反応(2008 本)

NAD/NADH2 NADP/NADPH2 主に NAD(酸化型)の形で存在 主に NADPH2(還元型)の形で存在 酸化分解反応(解糖系やクエン酸回路など) 合成反応(脂肪酸やステロールなど)

#NADPの構造Wikipedia(J) NADPより

#ホスホグルコン回路におけるNAPDH2の⽣成http://www.sc.fukuoka-u.ac.jp/~bc1/Biochem/hms.htmより

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<①解答例> アセチル CoA がかかわる代謝反応には次のようなものがある。

解糖系からクエン酸回路への中間体。解糖系で⽣成されたピルビン酸は、ミトコンドリアに運ばれて、脱炭酸と脱⽔素(酸化)によってアセチル CoA になり、クエン酸回路に⼊る。アセチル CoA はオキサロ酢酸(C4)と反応してクエン酸(C6)をつくる。

脂肪酸のβ酸化の⽣成物。脂肪酸はアシル CoA となり、β酸化でアセチル CoA を順次分解していく。 ケトン体合成。アセチル CoA とアセトアセチル CoA が縮合して HMG-CoA となり、アセト酢酸やβーヒドロキシ酪酸などのケトン体をつくる。

脂肪酸合成の出発点。脂肪酸合成は、アセチル CoA が炭酸化してできたマロニル CoA が主な中間体となる。

ステロール合成の出発点。ステロール合成も、上記の HMG-CoA を出発点とする。 <②解答例> 解糖と糖新⽣では⼀部を除き同じ反応が逆向きに進み、反応にかかわる酵素も多くは共有している。それに対して、脂肪酸の分解と合成は、中間体こそ共通するものの、別の場所、別の酵素により⾏われるまったく別の反応系である。 (これ以降の解答指針:まず下表から 1〜4 ⾏⽬くらいを書いておく。そしてβ酸化と脂肪酸合成の概要を説明する(③と④の解答例を参照)) ★脂肪酸の合成と分解についてまとめた表があったので、引⽤しておこう(③④のまとめとしても便利)。 脂肪酸合成 脂肪酸分解 活性化される条件 糖質が豊富な⾷事 飢餓 活性化するホルモン Insulin+、Glucagon- Insulin-、Glucagon+ 主な臓器 肝臓 肝臓と筋⾁ 主な反応部位 細胞質 ミトコンドリア 酸化還元酵素 NADPH2 NAD,FAD 反応単位となる中間体 マロニル CoA アセチル CoA 酵素の特徴 中間体は ACP(アシルキャリアタ

ンパク)に結合 多機能酵素複合体が存在

中間体は CoA に結合 各反応を個別の酵素が担う

活性化因⼦ クエン酸 抑制因⼦ ⻑鎖アシル CoA マロニル CoA 代謝産物 パルミチン酸(C16) アセチル CoA 中⼼となる反応 縮合→還元→脱⽔→還元 脱⽔素→加⽔→脱⽔素→チオール開裂 (イラストレイテッド⽣化学 原書 4 版 図 16.19 より ⼀部改変) <③解答例> ⾎中を輸送されてきた脂肪酸が、肝細胞や筋細胞に取り込まれた反応を順次追っていこう。 1. 細胞質に⼊った脂肪酸は、まず次の反応で活性体のアシル CoA になる。

脂肪酸+CoA+ATP →[アシル CoA 合成酵素] アシル CoA+PPi+AMP 2. アシル CoA は、カルニチンシャトルによってミトコンドリア膜を通過し、マトリックスに⼊る。

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3. アシル CoA は、①脱⽔素→②加⽔→③脱⽔素→④チオール開裂の 4 段階の反応を経て、1 分⼦のアセチル CoA と、炭素鎖が炭素 2 つ分短いアシル CoA ができる(右下図)。

(解答指針:右下の経路図を解答に書く。名称よりも構造式を書いたほうが楽かもしれない) 4、3 の反応を繰り返し⾏い、偶数鎖脂肪酸はすべてアセチル CoA に分解される。奇数鎖脂肪酸の場合は最後にプロピオニル CoA ができるが、これはメチルマロニル CoA を経てスクシニル CoA になり、クエン酸回路に⼊る。 5、脱⽔素反応で⽣成した FADH2,NADH2 は電⼦伝達系で酸化される。 6、アセチル CoA の⾏⽅。

筋細胞では⽣成したアセチル CoA はそのままクエン酸回路に⼊って酸化され、ATP を⽣成する。

肝細胞(とくに空腹時)では、アセチル CoA はケトン体合成に振り向けられる。

★⻑鎖脂肪酸の、カルボン酸末端の次の炭素をα炭素として、それ以降の炭素をβ炭素、γ炭素…と呼ぶ。β炭素をケト基(-C=O)にしてエネルギー的に切断しやすくし、α炭素とβ炭素の間で酸化的に切断するのが「β酸化」である。 ちなみに解糖系で F1,6P が開裂する反応も、やはりβ酸化である(解糖系の反応図を⾒直してみよう。Glc から F1,6P までの経路は、結局のところ<β酸化して C3 を 2 つ作る>ことを⽬指して進むのである)。 脂肪酸の分解により⽣成したアセチル CoA はクエン酸回路で完全酸化され、多くの ATP を⽣成する(C16 飽和脂肪酸のパルミチン酸 1mol から、ネットで 129mol の ATP が合成される)。この反応は、とくに空腹(⾎糖値低下)時に、多くの臓器でグルコースに次ぐエネルギー供給反応として⽤いられるが、重要な例外がある。脳と⾚⾎球は代謝酵素を持たないため、脂肪酸からエネルギーを得ることができないのだ。また、脂質の代謝産物は基本的に糖原性ではない(ピルビン酸からアセチル CoA を作る反応は、不可逆反応であった。アセチル CoA はクエン酸回路に⼊って分解されるだけで、糖新⽣の原料にはならない)。

脂質の代謝産物のうち、トリグリセリドが分解してできたグリセロールと、奇数脂肪酸が代謝されてできたプロピオニル CoA は糖原性である。

脳と⾚⾎球は、エネルギー源として主にグルコースしか使えない(⼀部はケトン体も使える)。そこで空腹時は、脳を除く各臓器ではグルコースの使⽤を抑制して脂肪酸を盛んに燃焼する。いっぽう肝臓では糖新⽣を積極的に⾏って⾎糖値を維持しようとし、同時にケトン体を合成してやはり⾎中に放出する。ケトン体は脳以外にも各臓器でエネルギー源として⽤いることができる。

#β酸化の過程http://kusuri-jouhou.com/creature1/oxidation.htmlより※アシルCoAを「AC」と略記した

アシルCoA

(カルニチンシャトル)

①脱⽔素酵素

②加⽔酵素

③脱⽔素酵素

④CoAチオラーゼ

trans2,3デヒドロAC

3-ケトAC

L3-ヒドロキシAC

FADH2FAD

NADH2NAD

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★④解答例は、解説をもって替える。 まず②の解答の追加で、脂肪酸合成が分解と異なる点を、2 点追加しよう。 (1) 反応の中間体は、CoA ではなく ACP(アシルキャリア

プロテイン)である。これは単に、CoA ではなく ACPと形式的に考えればいい。右図のように CoA と ACPは、⻩⾊の S がある側は共通していて、ACP にはタンパク、CoA にはヌクレオチドがついているという違いである。

(2) 合成酵素は、各反応で別々の酵素があるのではなく、超巨⼤酵素の脂肪酸合成酵素が⼀⼿に担う。脂肪酸合成酵素は、それぞれ異なる反応を触媒する、酵素活性部位を複数持っている。このような酵素を多機能酵素複合体と呼ぶ(こんなのがあるなんてビックリです)。右図のように、脂肪酸合成は、この⼆量体をつくるこの酵素の内部を、ACP と結合した伸⻑中の脂肪酸が(1→7 の順に)移動していって、各活性部位で反応を受けていく、という形で⾏われる。

以上で脂肪酸合成の場⾯は想像できるとおもうから、以降では脂肪酸合成の各ステップを追っていこう。 1、出発点のアセチル CoA はクエン酸の分解によりできる。 脂肪酸合成は細胞質で起こるが、解糖系の最後でミトコンドリア内で合成されるアセチル CoA は、膜を通過できない。そこでいったんクエン酸の形で膜外に出して、再度分解する(右図)。 2、脂肪酸合成に必要な NAPDH2 は、次の 2 通りで合成される。

クエン酸分解の結果⽣じたオキサロ酢酸を代謝して、2NAPDH2 ができる(右図)。

ホスホグルコン酸回路。G6P からリボース5Pが作られるときに、2NAPDH2ができる。

3、アセチル ACP とマロニル ACP の合成(右下図)。 ①アセチル CoA が炭酸固定してマロニルCoA になる。 ②アセチル CoA がアセチル ACP になる。 ③マロニル CoA がマロニル ACP になる。

#ACPとCoA Stryer 5th figure22.21

#脂肪酸合成酵素http://www.humboldt.edu/~rap1/BiochSupp/PathwayDiagrams/FASynth.gif 

#アセチルCoAとNADPH2の供給 stryer 5th figure22.25より

クエン酸 オキサロ酢酸

リンゴ酸

ピルビン酸

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①の反応は酵素複合体でできる複雑な反応で、脂肪酸合成の律速段階であり、この反応を触媒するアセチル CoAカルボキシラーゼは主な調節部位となる。調節の仕組みを簡単にまとめておくと:

クエン酸→アロステリック活性化 ⻑鎖アシル CoA→アロステリック不活性化 Insulin→(シグナル伝達の結果)脱リン酸化による活性化

Glucagon→(シグナル伝達の結果)リン酸化による不活性化

(1)(2)は基質と産物による制御、(3)(4)はホルモン性のリン酸化による制御である。ピルビン酸からアセチルCoA を作る反応の制御と、かなり似ている。 4、脂肪酸の炭素鎖伸⻑反応 アセチル ACP にマロニル ACP が縮合し、炭素鎖が 2 個分⻑い脂肪酸ができる反応の最初のサイクルを右に⽰す。テスト的にはどうかわからないが、この反応は構造式をフォローする⽅が楽だとおもう。 順にみていくと……

アセチル ACP に対して、マロニル ACP が、脱炭酸を伴って縮合する

還元→脱⽔素→還元反応で、ブチリル ACP ができる。 アセチル ACP とブチリル ACP を⽐較すると、炭素鎖が 2 つ伸びた(-CH2-が 2 つ挟まった)ことがわかる。こうしてマロニエ ACP を次々と縮合させていくことで、C16 のパルミチン酸 ACP にまで⾄り、ACPが外れてパルミチン酸となって反応が完了する。 ここで脂肪酸分解の反応経路を再度みてみよう。合成と分解では、反応を担う装置こそまったく異なるが、メインとなるサイクルで変化している部分はまったく同⼀の逆向きであることがわかる。以上より、中間体の名称を覚えるよりも構造式を覚えた⽅が、脂肪酸の合成と分解については楽だとおもう。 この⽅法は解糖系やクエン酸回路では微妙で、中間体がアミノ酸などの合成経路になっているから、結局、名称をすべて覚えざるを得ない。ただし、次の点に注⽬してほしい。つまり右で⾒た反応とほぼ同じ反応が、クエン酸回路のスクシニル CoA→→→→オキサロ酢酸の経路でも起こっている。結局、⽣体が⾏う化学反応のパターンは、かなり限られている、ということだろう。 5、脂肪酸のその後について簡単にまとめておく。

#脂肪酸合成の1サイクル stryer 5th figure 22.22

縮合

還元

脱⽔素

還元

#アセチルACP、マロニルACPの合成http://www.sc.fukuoka-u.ac.jp/~bc1/Biochem/fa-syn.htmより

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パルミチン酸(C16)をベースとして、炭素鎖の伸⻑反応や不飽和化反応が⼩胞体の酵素系で起こる。これによってさまざまな脂肪酸を合成することができる。

ただし不飽和化する位置に制限があるため、リノール酸とリノレン酸は栄養分として摂取する必要がある。この⼆つを必須脂肪酸と呼ぶ。

⻑鎖脂肪酸には界⾯活性作⽤による毒性があるため、⼤量の脂肪酸合成後は、グリセロール 3 リン酸とエステルをつくって不溶性の脂肪(トリグリセリド、TG)となる。

7、アミノ酸とヘムの代謝 ① アミノ酸代謝の⽳埋め(2007 本)

(1) アミノ酸が糖新⽣で代謝されるクエン酸回路中間体 (2) 必須アミノ酸8つ (3) 尿素回路の中間体について

② フェニルアラニンの代謝、及びその代謝に関連する異常症について述べよ。(2008 再々) ③ アミノ酸の代謝、尿素の N は何の物質由来か(2008 再) ④ アミノ酸とかヘムの⽳埋め(2007 再) <①解答> (1)オキサロ酢酸、αーケトグルタル酸、スクシニル CoA、フマル酸 (2)リシン、フェニルアラニン、トリプトファン、イソロイシン、ロイシン、バリン、 メチオニン、スレオニン (3)アルギニン、オルニチン、シトルリン ★もうそろそろ時間がなくなるので、以降は適当にやります。

(1)は左図を参照。 (2)は、⾮必須を覚えたほうがいいかもしれない(右図)。クエン酸回路の中間体から、または他の必須アミノ酸から合成できるものが⾮必須のアミノ酸(10 個)。残り 10 個が必須アミノ酸だが、アルギニンとヒスチジンは⾮必須とされることがあるので、残りの 8 個を挙げる。 (3)は右下の尿素回路の図を参照。

からだの⽣化学 2版よりからだの⽣化学 2版より

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<②解答例> フェニルアラニンは、モノオキシゲナーゼによってO 原⼦が付加されてチロシンとなり、そこから代謝分解される。このチロシンへの変換酵素がうまく機能しない場合に、⾎中のフェニルアラニン濃度が⾼まり、同時にその誘導体であるフェニル酢酸やフェニル乳酸が蓄積するようになる。これをフェニルケトン尿症という。

からだの⽣化学 2版より

からだの⽣化学 2版より

からだの⽣化学 2版より

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8、飢餓状態の代謝変化 <問題> 飢餓状態になった時の代謝変化(反応)につき説明せよ(2007 本) <解答例>

Insulin の分泌が増加し、Glucagon の分泌が抑制される。 脂肪細胞でホルモン感受性リパーゼがはたらいてトリグリセリドが分解される。グリセロールと脂肪酸は VLDL で⾎中に放出され、末梢組織や肝臓に送られる。

肝臓では、まずグリコーゲンを分解して、グルコースを⾎中に分泌し、⾎糖値の維持にあたる。同時に脂肪酸のβ酸化を開始する。 ・クエン酸回路を脂肪酸由来のアセチル CoA で回すようにする。 ・また脂肪酸の分解産物によりケトン体を合成し、⾎中に分泌する。 ・また糖新⽣を活発化させてグルコースを合成し、⾎中に分泌する。

末梢組織では、グルコースの消費が抑制される。かわりに脂肪酸をβ酸化してアセチル CoA を作り、クエン酸回路をまわす。また肝臓から供給されたケトン体はアセチル CoA に再分解して、優先的に消費される。特に筋組織では、筋原線維を分解してアミノ酸にし、⾎中に放出して肝臓に送り、糖新⽣の原料とする。

特に筋組織では、筋原線維を分解したアミノ酸や乳酸を原料に糖新⽣を⾏い、産⽣したグルコース 6 リン酸は、そのまま解糖系に⼊れて消費する。

脳と⾚⾎球のエネルギー産⽣はグルコースに依存するため、以上で節約された⾎中のグルコースは脳や⾚⾎球が消費する。また脳は、エネルギーの⼀部はケトン体を分解したアセチル CoA で賄うことができる。グルコースもケトン体も、クエン酸回路で完全酸化して消費する。

★総まとめのような出題。プレーヤーを「肝臓」「脳と⾚⾎球」「脂肪組織」「その他の末梢組織(筋組織で代表させる)」の 4 つに分けて、各々の役どころを考えるといい。

脳と⾚⾎球:この 2 つは脂肪酸の分解酵素を持っていないため、エネルギー産⽣をグルコースに依存している。この 2 つに対するグルコース

イラストレイテッド⽣化学(原書4版)より

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の供給維持が第⼀の命題である。 脂肪組織:脂肪を分解して⾎中に放出し、体内の各臓器に届ける。 筋組織:まず蓄積したグリコーゲンを消費する(これはすぐなくなる)。グルコース消費を抑制して、脂肪酸分解に切り替える。組織をアミノ酸に分解して肝臓に送り、糖新⽣の原料としてもらう。

肝臓:エネルギー調節でもっとも活躍する臓器。まず蓄積したグリコーゲンをグルコースに戻して⾎中に放出して、⾎糖値を維持する(数時間から最⼤ 10 時間程度)。同時に脂肪酸のβ酸化、ケトン体合成、糖新⽣を活発化させる。⽣成したグルコースは⾎中に分泌してとくに脳や⾚⾎球に送る。ケトン体も⾎中に分泌して、全⾝の臓器や脳にも送る。