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ネ ッ トワーク経済の可能性 につ いて (1) は じめに 1 組織 と情報 1- 1 情報の問題 1- 2 情報通信 システムの問題 は じめに 80 年代の米国経済の不調が嘘であったかのように,現在の米国産業は復調 し,最先端産業の国際競争力が復活 している。 たとえば,現在 もっとも激 しい競争を繰 り広げている情報通信産業分野で も しか りである。半導体分野で は米国の生産量が世界一 に返 り咲いた ことが象徴 的出来事である。その中で も, コンピュータの心臓部 にあた る MPU(Micro ProcessingUnit) の生産では,世界の大半 (イ ンテル社だけで も世界の シェア 7 割以上)は米国企業による。 ソフ トウェアの O Sもまった く同様 である DB 数や世界 的ネ ッ トワーク数 も群を抜 いてい る。 巨大市場が予想 され,その開発競争が もっとも機烈な分野 は,マルチメディ ア関連であるが,その通信イ ンフラ整備 も米国が先をい く1) 。 このよ うな最先端産業のみでな く,多 くの産業 も業績を回復 させている。 その再生 の シナ リオの 1 つ とな ったのが,MITの産業生産委員会が出 した 〔293〕

はじめに 1-1 情報の問題 - CORE · 2020. 1. 28. · BusinessProcessRedesign''3)であり,M.ハマーの"Reengineering Work:Don'tAutomate,Obliterate"4)である。 M.ハマーは自著5)の中で,リエンジニアリングとは「コスト,品質,サー

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ネットワーク経済の可能性について (1)

近 勝 彦

目 次

はじめに

1 組織と情報

1-1 情報の問題

1-2 情報通信システムの問題

はじめに

80年代の米国経済の不調が嘘であったかのように,現在の米国産業は復調

し,最先端産業の国際競争力が復活している。

たとえば,現在もっとも激しい競争を繰り広げている情報通信産業分野でも

しかりである。半導体分野では米国の生産量が世界一に返り咲いたことが象徴

的出来事である。その中でも,コンピュータの心臓部にあたるMPU (Micro

ProcessingUnit)の生産では,世界の大半(インテル社だけでも世界のシェア

の7割以上)は米国企業による。

ソフトウェアのOSもまったく同様である。 DB数や世界的ネットワーク数

も群を抜いている。

巨大市場が予想され,その開発競争がもっとも機烈な分野は,マルチメディ

ア関連であるが,その通信インフラ整備も米国が先をいく1)。

このような最先端産業のみでなく,多くの産業も業績を回復させている。

その再生のシナリオの1つとなったのが,MITの産業生産委員会が出した

〔293〕

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2.94 商 学 討 究 第45巻 第 3号

rMadeinAmerica」 2)という報告書である。

その要旨は,米国企業は,(i)短期的な経営を重視しすぎ,(ii)開発と生

産における技術的劣弱さを上げ,(in)人的資源の軽視等の問題を指摘 したも

のである。

これは日本型経営の本質とされる長期的経営戦略,長期的雇用制度,労使一

体経営と好対照をなす。であるから,いわゆるバブル全盛時には日本産業の賛

美論が広く流布していた。

しかし,バブル崩壊後の長期にわたる不況により,日本型経営 (産業システ

ム)も再構築をせまられることになった。たとえば,高コス ト体質や,売上拡

大至上主義や,長時間労働体質や規制緩和の問題などの多くの社会経済的課題

が露呈している。

米国産業の再生は,上記報告書のような基本的認識に立って,業務プロセス

の抜本的見通しを行うことであった。

それに理論的根拠をあたえたのだが,T.H.ダベンボー ト&J.E.ショー

の "TheNew lndustrialEnglneering:InformationTechnologyand

BusinessProcessRedesign''3)であり,M.ハマーの "Reengineering

Work:Don'tAutomate,Obliterate"4)である。

M.ハマーは自著5)の中で,リエンジニアリングとは 「コスト,品質,サー

1)たとえば,ニュ-メディアのなかで最も現実性が高いものがCATVであるが,そ

れの日米の比較を行うと以下ゐようになる。

加入世帯数では,米国61.5% (1992年末),日本3.1% (193年 3月末)平均チャ

ンネル数,米国37(1992年末),日本22(1992年 3月末)市場規模,米国215億 ド

ル (1992年末),日本530億円 (1993年 3月末)

2)1986年,MiTが産業生産性調査委員会を発足させ,委員長にM.L.ダートウゾ

ス教授,副委員長にL M.ソロー教授によって運営。

3) "TheNewindustrialEngineering:InformationTechnologyandBus1-

messProcessRedesign",SloanManagementReview,Summer 1990.

4) "ReengineeringWork:I)on'tAutomate",HarvardBusinessReview,

July-August,1990.5)REENGINEERING THECORPORATION A ManifestoforBusiness

Revolution,HarperBusiness,1993,邦訳 「リエンジニアリング革命」,日本経

済新聞社,1993年

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ネットワーク経済の可能性について (1) 295

ビス,スピードのような,重大で現代的なパフォーマンス基準を劇的に改善す

るために,ビジネス ・プロセスを根本的に考え直し,根本的にそれをデザイン

し直すこと」であるという。そしてその定義には4つのキーワー ドを含んでい

るといい, 1つが,「根本的」,2つ目が 「抜本的」であり,3つ目が 「劇的」

であり,最後が 「プロセス」であるという。

これに対しては,日本の実務界から多くの否定的見解6)もだされている。

しかし,それがサブタイ トル通り,マニフェスト的 (宣言的)であり,アジ

テーション要素が強すぎようとも,「不要な業務」は当然廃止すべきでありビ

ジネス ・プロセスを重視し,「ビジネス ・プロセスを根底から再設計し,その

成果を劇的に改善させるために最新の技術の力を用いること」には異論がない

であろう7)0

また, 3つのC,つまり,「顧客 (Customer),競争 (Competition),変

化 (Change)」8)が,過去のものとは驚くほど異なっていることも,昨今の企

業環境や企業群を直視すれば当然肯首できよう。顧客も,「一般的な顧客」な

るものはもはや存在せず,「ある特定の一人の顧客」が存在するだけのように,

大衆市場は細分化されている。競争も,数が増えただけはなく,その種類も多

岐にもたっており,変化も至る所で起き,しかも常態化しているのである。

すなわち,現在の企業環境は,極めて変化が激しく,しかも予測不可能な状

況であるといえよう9)0

このような環境下で生き残るために唯一はっきりしていることは,激しい環

境変化に対応していくためには自らも変革しっづけていかざるを得ないという

ことである。なぜならよくいわれるように,企業は,環境適応業であり,それ

6)日本は持続的な改革に取り組んでおり,今更,BPRをやる必要はないとか,不況

にあえぐ情報産業やコンサルタント業が商売のタネにしようとしているだけである

とか,BPRの内容が不鮮明であるなどの批判がある。

7)ビジネスプロセスの重視は逆に言えば,維識の固定化を否定することである。これ

は近年の構造から機能重視の社会学の流れにも沿っている。

8)注 5参照

9)Tom Peters,"LIBERATIONMANAGEMENT'',邦訳 「自由奔放のマネジ

メント」(大前研一監訳)で力説されている。

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296 商 学 討 究 第45巻 第 3号

に即した商品やサービスを提供することにあるからである。 そしてもう1つ明

らかなことは,やはり最新の情報技術を積極的に活用していくことであろう。

しかし やみくもに最新のIT(InformationTechnology)を導入すれば

経営改善 (変革)につながるのかという疑問には素直に耳を傾けなければなら

ない。70年代に主張されたMIS(ManagementinformationSystem)や80

年代後半に主張されたSIS(StrategicInformationSystem)の教訓がそ

れを物語っている。(その通信政策版がニューメディア論であり,マルチメディ

ナ論である。 ちなみに上記と同じ時期に主張された。)

しかし,SISとは単なる情報技術の組織展開ではなく,まさにス トラテジッ

クに構築運用されるべきものであった。すなわち,単なる経営ツールの 1つと

いうよりは,企業経営の根幹にかかわるコア ・テクノロジーであったのであ

る。 そうであるならば,組織全体の再設計 (Redesign)と連動したものでな

ければならなかったのである。

そこで,本論稿は,組織と情報の関係を議論の中心に据え,その組織の中で

も,最近話題になっているネットワーク組織と情報との社会的 ・経済的問題を

考察したものである (本論稿は連作のうち第一回目にあたる)。

1 情報と組織

1-1 情報の問題

情報とは何かを考えることは,非常に莫臣しいことである。なぜなら,情報と

いう言葉は各専門分野によってその定義(内容)は異なっているからである10)。

ここでは経済学的視点に立って論議することにしよう。そこでまず上げられな

ければならない重要な基礎的見解が2つある。

1つが,現代情報理論を成立させたといわれる C.E.ジャノン (C.E

Shanon)の説である。彼によれば情報とは 「1つのメッセージを選ぶときの

10)情報の多様性に関しては 「ネットワーク組織論」(今井賢一,金子郁容)を参照

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ネットワーク経済の可能性について (1) 297

選択の自由度の尺度である」とする。これによって,情報量という根本概念が

導き出された11)。 いまひとっは,現代システム科学に絶大な影響をあたえた

サイバネティクス (Cybernetics)の創始者であるウィーナー (N.Wiener)

の説である。彼は,情報を 「我々が外界に適応しようと行動し,またその調整行

動の結果を外界から感知する際に我々が外界と交換するもの」であるとした12)0

その主義からも分かるように,彼は情報装置のみではなく,広く生物や人間集

団 (組織)にも情報のフィー ドバックによる制御という性質があることを明ら

かにしたのである。

前者は数理論的情報概念を確立すると同時に,それは情報のもつ不確実性を

明らかにしたのである。後者はそれを前提にしなが ら,情報によって組織

(System)の制御と調整が可能となることを明らかにしたのである。

それをうける形で経営科学の中に情報処理パラダイスを持ち込んだのは,

H.サイモン (H.Simon)である。彼は,組織の本質は不確実な状況から1

つの意志を選択するという意思決定を中核とした情報処理体系であり,組織の

階層は人間の認知及び情報処理能力の限界を克服するためにあるという考えを

提示した13)0

この発展型として,ガルブレイス理論がある14)。 彼によれば,組織設計の

枠組みの基礎概念は不確実性15)である。そして不確実とはタスク (課題)杏

遂行するのに必要な情報量を組織が既に獲得 している情報量の差であるとす

る。そしてタスクを遂行するのに必要な情報量は目標の多様性と分業と目標パ

フォーマンスという3つの要因の関連であるとされる。そして組織設計戦略に

ll) "AMathematicalTheoryofCommunication"(1948*)

12) "CYBERNETICS"(1961年)

13)∫.G.マーチン-H.A.サイモン,土屋守章訳 「オーガニゼーションズ」,ダイヤモンド社,1977

14)∫.K.Galbraith,OrganizationDesign,Addison-Wesley,1977.

15)同上

16)組織要素の制約から,削減しなければコントロールできないのと構造変革等でコントロールできるものとがある。その組み合わせによって,全体のパフォーマンスを向上させようというもの。

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298 商 学 討 究 第45巻 第 3号

は,情報処理量を減少させるべきものと,情報処理能力を拡大させる2つのも

のがあり,その組み合わせによるとする16)0

以上 4つの基礎理論の上に,コンティジェンシー理論や最近のBPRの考え

方が展開されているのである17)0

本論稿も組織行動や構造を情報処理過程とみなし,そのあり方によってどう

情報が生成し,加工され,伝達されているのかを考えてみたのである。

そこでまず情報のもつ特性をみてみよう。 この特性によって企業内や企業主

体問の情報の意味や機能が規定され,さらに市場のあり方や構造を左右するか

らである。

まず第 1に,非有体性をもつということである。 これによりモノ (有体物)

のような完全な排他力のある所有は成立しない。これを別の言葉で言えば,悼

報には複数の人の所有を許す共有性がある。そうであるから共同消費も可能と

なる。又,非有体性は概念性 (観念性)と同値なので,あらゆるメディアに複

製することができる。例えば,画像情報であれば,まず紙 (又は物体表面)に

印画でき,CRY (display)に表示でき,デジタル化すれば,磁気媒体やCD

-ROMにのり,送信を可能というようにあらゆるメディア交換が可能であ

る。この性格のなかに,いわゆるメディア産業群が市場を成立させることが可

能となるのである (情報の加工と複次提供が可能となる)。

第 2に,事前確認困難性 (認知するということ)がある.すなわち,情事削ま

知るということに第一義的意味があるので,いったん知ってしまえば価値を失

うこともある。それゆえ,事前の評価にはなじまないものが多い。このような

性格を有する情報をどうすれば客観性が保てるのかという問題 (情報の公正性

の確保)と,逆にどうその情報を囲いこむかという問題 (情報の保護)がでて

くる。

これと関連しているのが,第 3の特性として機密性又は優先性がある。すな

17)組織と環境との適応関係を重視したものを,一般にコンティンジェンシー理論と言

う。そしてコンティンジェンシー要因としては,環境,規模,技術,戦略,構成員

等があるが,さらにこの要因のなかにも条件適合性が兄いだせよう。

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ネ ットワーク経済の可能性について (1)

(蓑1〉

299

情報過程 価値創出のためのポイント 情報過程 価値創出のためのポイント

創造過程 (彰新規性 処理過程 (9迅速性

②革新性 (参分散性

③ユニーク性 ③的確性

④連結性 ④高変換性

⑤選択性⑥時間性 ⑤自動性

蓄積過程 (丑多量性(卦秩序性

入手過程 (彰迅速性

(診正確性 ③信頼性

(診広範囲性 ④専門性

④直接性⑤信頼性 ⑤検索性

発信過程 (五時間性

わち,いかなる情報がそれを創造した個人に占有され,いかなる情事削まその利

用を公開するのかということである。なぜなら,情報の生産者はその開発に費

用を出している (とくに経済財としての情報には)のであり,それが他の者に

開発のための限界費用なしで利用できるのであれば,生産者が一方的に不利で

あり,開発のインセンティブがさかなくなるからである。そこでその開発のた

めに,特許法や著作権法やその他の個別の保護法が法的制度としてある。次に

今度は,情報の経済的価値を決定する要因を考えてみることにしよう。

情報行動は,すでにみてきた通り,企業経営における重要な資源であると同

時に,意思決定及びそれに基づく活動それ自身でもあるので,そのあり方はき

わめて重要である。

企業における情報過程には5側面がある。それぞれの過程についてその価値

創出のポイントをそれぞれ列記したのが,表 1である。

まず創造過程においては,まずその情報がまったく新しいこと (新規性)が

あり,しかも画期的なもの (革新性)であり,独自なもの (ユニーク性)であ

ることが求められている。これらは特許法の要件でもある18)が,情報とは,

同一化機能というよりは差別化,差異化に特徴があり,そのことに価値を有し

18)親規性 (公知,公用,公刊されていないこと),と進歩性 (課題解決の困難性)が

要求されている。

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300 商 学 討 究 第45巻 第 3号

ている(差異化そのもの)のであり当然である。次に情報を創造するためには,

異なる知識体系(分野)や異なる価値を有する主体間の結び付きが重要である。

なぜなら,新しい情事削ま,異なる情報が結合することよって新しい情報を創る

ことであり,又は組み合わせることであるからである。又は他の組織へ応用す

ることによって別の価値を創出することであるからである。

又,連結ではなくても,多くの情報の中から求められている情報を選び出す

ことも情報を創ることである (DBにおいて検索能力が重要な要件であること

を示す)。最後に創造された情報も時を逸 しては価値がない。適切な時間的条

件の中でのみ価値をもちうるのである。

次に入手過程においては,まず迅速性が要求される。なぜなら,情報は鮮度

が命であり,古くなれば急激に価値を失うからである。時間的に遅い情報はマ

イナスの価値すら生むのである。又,情事削ま当然,正確でなくてはならない。

当然の事であるが,情報探索とは正 しい情報を入手することであるからであ

る。その正確性を担保するには,より広い範囲から情報を得なければならない。

しかもなるべく情報は発信源からダイレクトに入手する必要がある。それは,

情報が多くの人の手にわたれば当然ノイズも多くなり意味が変容する危れがあ

るからである。これらによって信頼性を得られるが,入手先の信頼性も重要で

ある。 先程もみたように情報には事前確認が困難であるという制約があるから

である。そこで情報の信頼性を担保するには発信者自体の評価が問われるので

ある。 又,入手活動も費用がかかるので,安価な方が好ましい。しかし,それ

は上記5つの条件を満たした場合であるのは当然である。

次に処理過程においては,まず迅速性が要求され,処理結果が目的を満たし

たものでなければならず,その意味で的確性は重要である。速くかっ的確であ

るという二律背反した要求を実現するためには,なるべくルーチン領域は自動

化し,かつ高い情報変換を達成できるソフトウェア (アルゴリズム)を用いる

べきである。 そして人でなければできない高度な価値判断を必要とする領域に

集中的にマンパワーをふりあてるべきである。そして,各部内ごと,事業所ご

とに分散的に情報を処理すべきである。そうでなければ,情報の質は落し,形

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ネットワーク経済の可能性について (1) 301

式的は情報にもとづいた判断が流布することになるからである。

次に蓄積過程においては,まず情報が多量でなければならず,かつ使用目的

に応じて秩序だっていなければならない。誤った情報が混入することを避け,

信頼性が高くなけばならない。そして専門的な内容でなければ,使用者は使用

しなくなり,蓄積された情報は価値を失うのである。そしてよい DBがてき

たとしても,情報の検索に多量の時間がかかったり,検索しにくいものであっ

てはならないOそこで検索機能 (方法)はストック情報の価値と同じくらい重

要なのである。

最後に,発信性をみてみよう。 いくら価値を有する情報でも,そのタイミン

グを逸したり,発信先を間違ったり,状況にあわなければ意味をなさない。な

ぜなら発信においては,相手が価値のあると思う情報を価値のある形で受けて

はじめて有意味性を発揮するからである。

以上の5つの過程がそれぞれ最適な状態に保たれてはじめて,情報処理シス

テムとしての企業内組織のパフォーマンスが向上することになる。

今度は,それを支える前提を考えてみよう。まず情報の伝達(又,受信)は,

サイバネティクス流にいえば,大きく分けて3つありうる。 1つは,機械対機

械が情報を交換しあうものであり,物理的,ソフトウェア的インタ-フェース

が問題となる。次に人対機械の場合は,マン・マシン・インタフェース(man-

machineinterface)と呼ばれ,信束酔陸や危機管理等で大変大きな問題 と

なっている。そして人対人である。この場合のインターフェースは人間関係で

あり,PM 理論19)やソシオメ トリー20)が明らかにする通り,心理学的な問題

であるが,組織構造と情報構造にも大いに左右される。個の特殊性に影響され

ない情報伝達機能の実現を目指 していたのが,ヒエラルキー秩序でもあった

が,定形性の高い業務では機能するのであるが,非定形的で創造性の高い業務

には向かないことが明らかとなってきている。その機能不全を補うためにイン

19) リーダシップ解析のためにP (目標達成機能)とM (集団維持機能)の関係に注目

する理論。

20)広義には人間関係や集団の構造や動態を,記述,測定する方法論をいう。とくに,

J.F.モレノによって体系化されたもの。

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302 商 学 討 究 第45巻 第 3号

フォーマルコミュニケーションが重視され,そのための組織内融和が促進され

ることになる。ただ,日本型の組織が万能でないことは,後で検討することに

する。

又,それよりももっと抽象度が高いが,情報過程の機能を制約するものとし

て,企業風土 (組織風土)がある。風土とは,ある組織に特有にみられる全体

的な価値観や行動様式を指すとすれば,同じ産業に属していても各企業ごとの

業績が異なっているように,風土もそれぞれ異なっているといえよう。 情報に

関して言えば,たとえば, トップが開放的な性格で情報流通に関して熱心であ

れば,自ずと階属を越えたコミュニケーションも促進されることになろう。 ま

た,長年に亙って作られた情報網も企業の生産資源であると同時に,その流れ

を変革しようとするときには障害となることがある。なぜなら,その企業固有

の情報網も効率に問題があっても歴史的変動に耐えてきたことには間違いがな

く,その変革はそのネットに慣れた人やネットによって恩恵を得ていた人に

とっては,既得権の剥奪を意味したり,これまでの業績の否定にも繋がるから

である。特に,日本の企業は個人に特有の技能を求めているというよりは,隻

団的組織的成果を追求してきたのであり,それは,逆にいえば,個人に占有さ

れる情報的固有性は少ないと言わざるを得ないであろう。 ようするに,既存の

組織構造に自分の存在根拠をゆだねているのである。企業風土や企業習慣が容

易には変わらない理由がここにある。

しかし,風土や企業習慣を含めた組織構造やビジネスプロセスの改善 ・変更

なくしてはいくら最新の情報システムを導入 しても,企業全体の情報処理パ

フオ-マンスは向上しないし,逆にシステムの撹乱となり,既存成果を下回る

可能性すらある。

次に企業規模と情報の流通の問題を考えてみよう。雑織と情報に関しては,

まず組織構造との関係とその規模との関係がある。規模が大きい企業は程度の

差こそあれヒエラルキー構造をとらざるを得ないので,詳しくは後はど考察す

るが,ここでは規模に限って論じてみよう。

大きく分けて4つの視点が考えられる。まず,情報の共有性がある。すなわ

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ネットワーク経済の可能性について (1) 303

ち,情報がどれだけの社員に共有されるかである。共有率が低いということは,

情報の経路に問題があるのであり,それによって社員のロイヤリティや業務パ

フォーマンスに影響が出てこよう。 社内に限らず社外にも広く情報を共有でき.

れば,例えば部品提供の下請けでは,対応が早くなりコス トパフォーマンスが

向上しよう。 販社にとっても適切な販売活動が採れよう。

次に情報の波及時間性が上げられよう。これは企業規模が大きくなければ一

般に市場変化に対応する時間が遅くなると考えられているが,その前提とし

て,市場情報の伝達も含めて,あらゆる情報が トップの所に伝わる速度が遅く

なったり,又各事業所の意思決定が遅れるのもこの情報の波及する速度が遅延

することが考えられる。

次に,情報の歪曲性の問題が考えられる。 すなわち,組織の成員が多くなれ

ばなるほど結節点の数がふえ,ノイズが混入する可能性が大きくなるのであ

る。計算上では情報経路の工夫をしなければ (全員が連絡するとすれば),班

n (n-1)となり,例えば100人いれば,4950回情報をやりとりすることに

なり,情報の歪みと同時に,情報経費だけでも膨大なものとなる。それを1人

に何人かの部下がいるヒエラルキー組織であるとすれば,情報経路を大きく減

らせることができるのである。しかし,その際コミュニケーション回数は減る

と同時に,形式的制度が有効なコミュニケーションにとってかわることにな

り,コミュニケーションのダイナミズムは失われることになる。

又,歪みは意思の不統一の可能性を高め,全般的な統一行動がとれなくなる

危れがでてくる。これによって,激しく変化する環境に対応できなくなるので

ある。 なぜなら意思統一にさらに多くの時間をさかなければならなくなるから

である。

最後に,情報の価値の相対的減少性があげられる。すなわち,成員が多くな

れば,当然,情報量も多くなり,組み合わせの増大により,より組織管理のた

めの情報が増大する。すると, 1人あたりの情報は相対的に減少してゆかざる

を得ない。すなわち,情報蓄積量が大きくなれば,総体としての情報価値は大

きくなるが, 1個当たりの情報価値は減少するというパラドクスが生じるので

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304 商 学 討 究 第45巻 第 3号

ある。 これによっていくら個人が有意義な情報を出してもいくつもの多種な価

値尺度をもつスクリーンで排除される可能性が高まる。又は,排除されなくて

も, トップがそれを選択することが事実上不可能となる。すなわち,規模が大

きくなれば,斬新でクリエイティビティ-が高い情報であっても,一般的,常

識的な既存パラダイムに合致する情報のみが生き残り選択され, トップに伝え

られることになるからである。

1-2 情報通信システムの問題

情報技術は,素子レベルの急速な発展につれて応用領域を拡大しっっ進展し

ている。そこでまず情報技術の トレンドをみてみよう。 なぜなら,これは単な

る技術革新のみではなく,社会 ・組織自体のあり方にも多大な影響を与えるか

らである。その トレンドは一般に4つ考えられる。

まずネットワーク化である。かつては処理と通信は別のものであったが,今

や完全に融合し,ネットワーク環境での使用が常態化しだした。しかも,通信

は数値信号だけではなく,文字や画像も送受信できるコミュニケーションツー

ルになっている。現在はさらに,多種類のメディアをやりとりする双方向性(2

waycommunication)の実験が行われ,一部実用段階に入っている。

ネットワークの重要性は後に詳しく論じるが,まず時間と空間の壁をとり除

くことにある。しかも,ディジタル化を媒介とすると,様々なメディアの変換

が可能となる点にある。このネットワ-クによって企業内のコミュニケーショ

ンが促進されると同時に,グロ-パル化した経営が可能となるoそして一企業

のみならず,関連会社や取引会社との交渉や取引形態に影響をあたえると考え

られる。

次にオープン化がある。これによってどのメーカ機種でも1つの情報システ

ムに連結可能となる。 これによってネットワーク領域がせばめられる可能性が

小さくなり,よりユーザの情報化が進むと考えられる。ただ,メーカによって

はいわゆる囲い込みができなくなり,既存の市場を失う可能性がでてきた。す

なわち,技術的特性によって他メーカの参入をはばむことが不可能となってき

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ネットワーク経済の可能性について (1) 305

ている。そうなれば,メーカ側の変動要因は大きくなるが,もはや一企業では

すべての技術 ・製品をカバーすることは事実上不可能であると同時に,戦略上

有利ではなくなった。なぜなら,他のメーカが提携したり,システム標準化す

ると,一気に自らが反体制の地位になり,孤立することになるからである。で

あるから今とられている戦略は,優れた技術又はそれに裏付けされた実態を

ベースに,その技術の公開とライセンス販売と同時に事実上の標準化 (de-

factostandard)の確立を目指しているといえよう。 しかし,これは企業間

の技術格差を締める効果も働くので,一社独占の地位は揺らぐことになる。た

だ,あらゆる技術が高度化する中で,-技術のみに固執して囲いこむことは経

済的にも不可能となっているのである。

次に,ダウンサイジング化がある。これによって,高価で使い勝手が悪かっ

た汎用機から高機能のパソコンにコンピュータの需要が移って行った。またこ

れは当然,中央集権型情報処理システムから分散型の情報構造への移行を意味

するOそして,分散化によって,現場ニ-ズにあった情報システムが構築され

ることになる。これは一層,水平的情報構造が推進して行くとともに,現場の

情報が上位者に伝わりやすくなる可能性が増すことになる。しかし,直接の上

司よりも上のクラスの人にダイレクトに情報が伝わる可能性も大きくなるの

で,中間の情報の集約 ・評価者としての地位はおびやかされることになろう。

むしろ,最下位者が機器の導入に習熟し,評価能力をもつならば,自らが行え

ば足りることになり,中間者の必要性は著しく減少することになる。

つぎにマルチメディア化がある。これにより,情報量が飛躍的に高まると同

時に,情報の高度化が促進される。また,情報の質が格段に高まることになろ

う。 しかも,通信手段としてのマルチメディア化は階層の垣根を越えて,情報

の交流が進むと考えられる。そうなると,中間管理者の文字と数値といういわ

ゆるテキスト情報の意味が減少することになろう。 勿論,多様で無秩序な情報

を統合し集約して,上位者に報告することは,上位者の情報処理時間の節約と

なり,有意義である。しかし,それによって生じる情報の標準化,一般化によっ

て本来の革新性がゆがめられることがあった。すなわち,今後はデータの情報

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306 商 学 討 究 第45巻 第 3号

化,情報のデータ化が重要になると考えられる。

マルチメディアでは圧縮され,加工される前の生の情報がダイレクトに上位

者に届くことになり,情報管理や加工,操作を主な仕事にする者 (管理階級の

人)に甚大な影響を及ぼすことになる。

又,この技術は,あいまいな部分 (感性的情報)の情報化を意味しているの

であり,̀あいまいな経営 (ファジブルの高い)を維持してきた日本的経営には

大きな影響を与えよう。

日本の経営は英米法の契約理論には馴染まないものであり,長期的な雇用関

係を前提とした,包括的無際限的 (全体的)労働をその内容に含んできた21)。

であるから,個別的専門的な技術を持たない新卒者を一括して採用し,年次送

りにある程度の出世を前提として,すべての者にジェネラルの教育をOJTを

含めて行って来た。

そこで発生するのは,労働者には全人的な企業への奉仕であり,企業は家族

丸抱えで厚生福利の充実を図ってきた。このようなシステムでは,勿論明確な

個人責任は発生せず,全体として責任を取ることになる。

情報においては,この全人的奉仕様式は,都合が良いことが多い。なぜなら,

情事鋸ま公式的ルート内を流れるよりは個人的,人間的理由によって流通するこ

とが多いからである。また,労働範囲が無際限であるから,情報の垣根は否定

され誰でもが自由に意見を述べることができる (勿論,人間的文脈の了解のも

とで)。

また,個人が大変ユニークで価値のある時報をもっていても,その情報は企

業の帰属となる。 その意味においては,情報の発見や創造に個人の帰属は認め

られず,対価性は少ない。勿論,社内昇進や事実上の社会地位の向上で応えら

れようがその評価は概して低い。

そうであれば,個人の情報開発-のインセンティブは働かず,失版の可能性

は高い (社内の嫉妬や白い目を含めて)情報創造,発信はやめて,規則の順序

21)英米系の契約関係の発展的理論として,エージェンシー理論がある。

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ネットワーク経済の可能性について (1) 307

を第一となる。これが進行すれば,自由な発信機能は弱まり,管理中心の--

ド情報システムにおける機械的統一的情報が中心となり,その流れが一層,個

人の情報に対する自由度を抑圧する結果になろう (負のフィードバックの強化

現象が生じることになる)0

これを防ぐには,専門者(異能者)の採用と硬直化した情報ループの解体と,

インオフィシャルな情報チャンネルの容認と育成しかないであろう。 しかし,

インオフィシャルの容認化は制度化であり,それは硬直化をまぬがれない。そ

れを防ぐには,常に情報ループ開拓と既存システムの日々の更新しかない。そ

れは組織の変更と全く同じ理由である。情報の活性化と組織の活性化は同値で

あるからである。であるから,逆に言えば,情報システムの再設計は組織の再

設計を伴わなければならないのである。

次に,情報システムの成長と組織成長との相関性をみてみよう。

情報通信システムの発展は大きく分けて4つの段階に分かれる22)。

第一期は,スタンドアロンの時代である。コンピュータ導入期である。コン

ピュータは非ネットワーク環境で構築していた。情報処理はバッチ処理であ

り,計算が主なタスクであった。

22)オペレーションズ ・リサーチ,1992年 3月号,「戦略情報システムの概念と構造」

P112の図のように分類することもある。

65 75 85 90

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308 商 学 討 究 第45巻 第 3号

情報は個人で集め,個人がその素養と経験で分析していた。個人芸が重要視

された時代であった。裏をかえせばコンピュータの性能が極めて低いことを物

語っている。

情報の蓄積は個人ベースで行われ,その伝達は個人対個人で行われていた。

一言で言えば,非組織的情報型 (個人機能優位型)であった。

第二期は,セントラル型である。コンビュ-夕でいえば,大型汎用機全盛の

時代である。組織と売上規模の拡大に伴い数量的情報量は激増し,それを処理

するために演算パワーと蓄積媒体の大きさが要請された。

情報は一括してすべて中央 (ホスト)に収集し,蓄積する。判断は機械的で

合理的である。しかし,それは合理的数値情報しか扱われていないからでもあ

る。それ以外の情報 (主に感性情報や部門別詳細情報)は意図的に排除してい

たのである (というよりは処理能力がなかった)。であるから,MISは構想

されるが,情報の種類と量に大きな制約があるために全く実現できなかったの

である。

中央集中による情報によっで情報のもっダイナミズムは喪失され,情報の質

の劣化とコミュニケーションカが限定されていたのである。

しかし,この時期は日本では,高度成長期の頃と符号しており,まだ商品や

サービスに多様化が本格化するまえのことであり,これで充分対応できたので

ある。

第三期は,分散/集中型である。

個人の価値観や噂好の多様化の時代に対応する中央管理情報処理になじむ情

報とローカル処理になじむ情報に区分し,それぞれ処理しようとしたものである。

これによって部門ごとを単位として支援するシステムが構築できることにな

る (具体的にはクライアント/サーバ方式がそれである)。

しかし,部門ごとの分散処理は意思の不統一と情報費用の増大を生むと考え

られ,いま見直され始めている (ダウンサイジングからライ トサイジングへと

いう言葉が物語っている)0

第四期が企業と外部 (子会社,取引会社)とのネットワーク化である。 (こ

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ネ ッ トワー ク経済の可能性 について (1)

れについては後述)

これを図示すれば以下のようになろう。

(図 1)

309

~̀第 一 期 第 二 期 第 三 期 第 四 期

目 的 個 人 情 報 基 幹 情 報 ローカル情報 別主体の連結

形 態 00~㌧C)J1O cT,(/[';rTblで J一■..--/.●、ー■-∫- 了「人.'. JtIJ、ヽノ~I\、_∫

生産様式 機 械 生 産 大 量 生 産 少 量 多 品 種 ソ フ ト生 産

リーデング産業 重, 化 学 サ ー ビ ス 産 業

以上を見れば,情報システムはその時代の情報処理能力に規定されていると

同時に時代の要求に即したものとなっている。すなわち,情報と組織は不即不

離 (密接不可分)の関係であることが分かる。

次に示す図は組織の拡大過程と情報の問題を模式図で表したものである。

次ページの図のようにかつて組織 (企業)は,規模の拡大化を究極の目標に

おいていた。そして,成長はオープン化とクローズド化を繰り返し規模の拡大

を実現していた。まずオープン化によって,外部を取り込むことである。 しか

し,これによって,組織内の不安定化が増す。そこで,それを取り除き安定性

を獲得するために,拡大部分を自己同一化する。学習と順化 (情報の普及と共

育)を行い,新しい部分の組織化と全体の再組織化を行うのである。この時期,

コミュニケーションは活発化すると同時に,既存のシステムにも知識の転移が

おこり,組織全体のスキルアップが生じる。 しかし,ほどなくすると,企業内

順化の完了とともに,企業の活性化が失われていく。 それは市場の成熟と情報

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商 学 討 究 第45巻 第 3号

の陳腐化と情報格差の終結による (あたかも,熱力学における平衡状態に似て

いる)0

そして,また新たな成長を求め,外部の取り込みを行う。 これを繰り返すこ

とによって,企業の成長 ・拡大が可能となる。

しかしその拡大路線も市場の限界まで達すると,それ以上の成長はとれなく

なる。外部の取り込みによる情報拡大も本体の規模の大きさの前には余り意味

のないものとなるからである。しかも,市場が成熟化 (又は寡占化)し,以前

とは異なる経営環境に入るからである。

そこで新たな革新手法が必要となる。それを示したのが以下の図である。

組織の自己発展性 (単一主体)が極限まで達すると,その成長至上主義は機

能しなくなる。その根本的理由はやはり,意思決定の限界性の露呈である。こ

こでいう限界性は,(丑能力の限界,②活性力の限界,③市場の限界である。

①は経営者の能力が限界に達することである。まず,組織の巨大化により組

織内の情報量が増大するが,それに対応しきれなくなる。また多品種の商品を

評価できない。また,組織はそれまで成功してきているのであり,_全く異なる

企業理念を打ちたてることは同一人物では不可能である。また組織の複雑化に

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ネットワーク経済の可能性について (1)

〈図3〉

よって意思を統一させることが困難となる。

②は,組織が大きくなると当然に,企業に危機意識がなくなり,また個人の

能力が相対的に低下することによる無力化の蔓延,多くのブランドによって安

全経営化が進み,革新性と戦闘力がなくなる。

③は,もはや市場が大きくならないにもかかわらず,技術の進歩がなくなり,

生産性の向上が鈍化すれば,付加価値が下がり,儲からなくなる。そこで組織

解体という新たな企業戦略が採用されることになる。

それを克服するためにはそれぞれの部門が,それぞれの意思決定によって高

度化し,独自化することである。そのためには組織を部門ごとに分割し,柔ら

かいネットワ-クの中で,それぞれが最高のパフォーマンスを挙げられるよう

にすることである。(今まさに問われているのは,企業解体手法と新 しいコー

ディネーション理論であろう。)

これによって,情報の同質化を防ぎ,一般化による画一化,非創造化をさけ

る.また,規模の縮小によって個人情報の価値を高める。しかし,ネットワ-

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312 商 学 討 究 第45巻 第 3号

クがなければ,個人の力がまた発揮できないのも事実である。要するに個人が

最も高いパフォーマンスをあげられるような情報構造を作り上げることである.

それは広範囲で高密度なネットワ-クを作ることによってのみ可能となろう。

つぎに情報通信システムが可能にすることを考えてみよう。

まず,ボーダレス化がある。ボーダレス化とは,産業の垣根がなくなること

をいう。又は,既存の産業市場が崩壊し,新たな市場が生まれることを言う。

そのありかたには,3つが考えられる。

1つは,情報通信システムの活用によって,既存の市場が変容を受け,新た

な市場が誕生することである。2つ目が,既存の市場への参入障壁が低くなる

ことである。3つ目が,かっては異なるとされた市場や産業が同一の産業とみ

なされることである。

次にグローバル化があげられる。

情報通信システムの支援によって,まず量的な拡大が可能となった。ここで

は,業務量の拡大に比例して作業者が増えるのではなく,業務が増えても,作

業員数が増えないことを意味する。すなわちこれはコストパフォーマンスが向

上したのである。

又,多くの主体者を結ぶことによって,新たな仕事をすることができる。多

くの異業種の存在を取り込むことが可能となる。たとえば,製販一体の開発に

はこのシステムが欠かせない。又,これによって開発日数の削減による合理化

が可能となる。

たとえば,コンビニと製造業の共同開発によるPB商品開発がある。銀行

であればフォームバンキングやホームバンキング,証券会社でいえばホームト

レー ドが可能になるのである。

又,国際的経営が可能になる。最近は円高と国内の高賃金が国際競争力を失

わせっっあるが,それを乗り越えて経営を維持していくにはどうしても海外に

生産拠点を持っ必要がある。

又,その国にあった商品を作るには海外で設計も開発も行うことが望まれ

る。そのためには,各研究所や開発チームが緊密なコミュニケーションを行う

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ネットワーク経済の可能性について (1) 313

必要がある。そのためにはどうしても高度かつ高密度情報通信システムが経営

資源として必要となる。

次に,技術の高度化があげられる。

これに対応するためには情報通信システムがぜひとも必要である。高度の技

術開発には高度の技術をもった技術者が必要であるが,それだけではなくそれ

らのコミュニケーションを高め,多くの技術要素を結合させる融合機能が不可

欠である。そのためにはツールの共有化と同時にシステム化する技術が重要性

を帯びてくる。

理論的に言えば,高技術といっても永遠に追いっかれないというものはな

く,常に技術格差として存在しているにすぎず,その格差分が収益の差となっ

て現れているのである。もっといえば,他社に技術的にキャッチアップされる

時間差が収益の源となっているのである。

その差を維持して行くには,他社がキャッチアップする時間の間に,さらに

それを突き放す技術改良が必要であり,そのためには開発期間を削減する必要

がある。そのためには開発ノウ-ウの標準化とシステム化が重要である。又,

それを可能にする手法にコンカレント化がある。

次にリエンジニアが可能となることがあげられる。

組織が大きくなると業務数も多くなり,当然に従業員数も大きくなる。しか

し,それにつれて無駄も大きくなる。組織には一間無駄なようにみえても維持,

発展には欠かせないものや,それによって組織の安定化や危機管理ができるこ

ともあり,間接部門でもその存在は否定できないものも少なくない。しかし,

市場が変わり,経済環境が変わり,生産能力や手法が変わっていくのにもかか

わらず,組織だけが同一であることはミスマッチを生んでいる可能性が大き

い。例えば,なくてもいい業務もあるのではないか。又は,機械で代替した方

が適切な業務ではないか,などの検討は当然行われるべきである。特に情報通

信システムの導入でビジネス ・プロセスが変われば当然に問われるべきもので

ある。一般に規模が大きくなれば間接部門が肥大化すると考えられる。それは,

人や設備や資本や情報といった経済要素が多くなり,それへの管理のため,人

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314 商 学 討 究 第45巻 第 3号

員は増加しがちである。又,非経済的活動が増大することが考えられる。企業

も社会的実体であるので社会のために貢献するのは当たり前であるとする考え

方もあるが,効率の面からすれば収益は落ちる (ただ,社会活動自体は企業の

評価を高めるというプラス効果はあり,かえって重要であるとも考えられる)0

すくなくともその活動のためのマンパワーをふりあてることになり,業務への

集中度は落ちるからである。他には官僚化が進み,コミュニケーション能力が

低下することが考えられる。

以上のような複合要因によって,新規でタイトでシンプルな組織構造をもつ

企業に追いっかれ,すくなくとも価格競争では負けることになる。

それが競争が少なく,市場参入が困難な分野や時代ならいざ知らず,今日の

ようにすぐに競争条件が変わる時代には旧来システムを維持した企業はどうし

ても劣勢に立たされる。

それを抜本的に,根本的に,徹底的に刷新することがリエンジニアリングで

ある。

企業は多くの部分の集合であると同時に,全体的連環の中でその総体として

企業活動を営んでいる。であるから,一部分のみを改めたとしても,それが全

体のパフォーマンスをあげることにはならないことが多い。かえって,既存の

システムや価値体系 (経営コンテキス ト)の中では不整合状態を示し,システ

ムが撹乱されパフオ-マンスを下げる結果となることもある。そこで企業理念

や企業風土の刷新までを考慮に入れて,再設計をしなければならないのは当然

である。

リエンジニリングの評価として,これは日本の日常的漸進的改良 (たとえば

TQCなど)と同じものであり言葉のあそびであるとする意見も多 くあるが,

少なくとも理論的に異なるものであるといえよう23)。

現在の日本企業の業績の相対的な低下は,日本が得意としていた改善 ・改良

主義のパラダイムが限界にきていることを示しているのかもしれない。もう-

23)BPRの問題点と有効性については 「戦略コンピュータ」1994年 5月号と6月号の

「BPRと情報システム」,石川昭を参照のこと。

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ネットワーク経済の可能性について (1)

皮,日常的漸進的改良活動それ自体の再評価の時期にきているといえよう0

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