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z/OSマイグレーションの簡素化と役立つ新機能 ① USERMOD廃止のチャンス到来 8 1 LE 実行時オプションのカスタマイズ これまでのカスタマイズ方法 教授 今回は、LE (Language Environment)実行時オプションのカスタマイズについて 考えてみましょう。 生徒 どんなお話が聞けるか楽しみです。よろしくお願いします。 教授 こちらこそ。 最近は、 アプリケーションの稼働環境として、 LE 化対応を余儀なくされ るケースが増えてきたと思います。 LE 実行時オプションのカスタマイズを、どんな方 法で行っていますか? 生徒 はい、 教授。ちょうど今、 z/OS V1R6 からV1R10 への移行プロジェクトが始まり、 その中で、 LE 化も対応することになりました。 実行時オプションのカスタマイズは、 以前の VS COBOL IIと同じような方法で、 提供されるアセンブラー・マクロを使って オプション指定し、それをSMP/E USERMODとして適用する予定です。 - USERMOD廃止のチャンス到来 1 z/OS環境にて稼働する製品では、 導入オプションや実行時オプションなどの カスタマイズ(省略時値の変更)をモジュール形式で行う場合が少なくありませ ん。 一般的に、このような場合、 カスタマイズ内容はSMP/E USERMODとし て管理することを推奨しますので、 バージョン・アップやリリース・アップの都度、 USERMOD の再適用が繰り返し必要となります。 このような背景から、 z/OS マイグレーション作業をより円滑に進めるためにも、 従来のモジュール形式(SMP/E USERMOD)に加え、 パラメータ形式によるカス タマイズ機能が望まれています。 第 1 章 - ❶では、3 回に渡り、 上記のようなUSERMODを廃止可能とする新機能 の概要をご紹介します。 バージョン・アップやリリース・アップ作業の簡素化のみならず、日頃の運用負荷軽 減にもつながります。

1 usermod廃止のチャンス到来

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z/OSマイグレーションの簡素化と役立つ新機能① USERMOD廃止のチャンス到来

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1  LE実行時オプションのカスタマイズ

これまでのカスタマイズ方法

教授 : 今回は、LE (Language Environment)実行時オプションのカスタマイズについて考えてみましょう。

生徒 : どんなお話が聞けるか楽しみです。よろしくお願いします。

教授 : こちらこそ。最近は、アプリケーションの稼働環境として、LE化対応を余儀なくされるケースが増えてきたと思います。LE実行時オプションのカスタマイズを、どんな方法で行っていますか?

生徒 : はい、教授。ちょうど今、z/OS V1R6からV1R10への移行プロジェクトが始まり、その中で、LE化も対応することになりました。実行時オプションのカスタマイズは、以前のVS COBOL IIと同じような方法で、提供されるアセンブラー・マクロを使ってオプション指定し、それをSMP/E USERMODとして適用する予定です。

第1章-

USERMOD廃止のチャンス到来 1

z/OS環境にて稼働する製品では、導入オプションや実行時オプションなどのカスタマイズ(省略時値の変更)をモジュール形式で行う場合が少なくありません。一般的に、このような場合、カスタマイズ内容はSMP/E USERMODとして管理することを推奨しますので、バージョン・アップやリリース・アップの都度、USERMODの再適用が繰り返し必要となります。このような背景から、z/OSマイグレーション作業をより円滑に進めるためにも、従来のモジュール形式(SMP/E USERMOD)に加え、パラメータ形式によるカスタマイズ機能が望まれています。

第1章-❶では、3回に渡り、上記のようなUSERMODを廃止可能とする新機能の概要をご紹介します。バージョン・アップやリリース・アップ作業の簡素化のみならず、日頃の運用負荷軽減にもつながります。

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第1章-

USERMOD適用JCL

CEEDOPTのカスタマイズ(z/OS V1R4の場合)

USERMODソース

教授 : なるほど。図①-1にあるように、LEの実行時オプション変更は、CEEDOPT (Non-CICS)、CEECOPT (CICS)などのモジュール形式で行うのがまだ主流かも知れませんね。ただ、その方法だと、バージョン・アップやリリース・アップの都度、SMP/E USERMODの再適用が必要になります。これは、とても煩わしいと思いませんか?

生徒 : はい、もちろん、私もそう感じています。何か簡単にカスタマイズできる方法があればうれしいのですが。

PARMLIB(CEEPRMxx)メンバーによるカスタマイズ新機能

教授 : 数年前から提供されている、とても簡単な方法がありますよ! z/OS V1R7からは、PARMLIBの新規メンバーCEEPRMxxを利用して、LE実行時オプションの省略時値をカスタマイズできるようになったのです。とても便利な機能だと思いませんか?

生徒 : それは助かります。ぜひ、私のプロジェクトでも、利用する方向で検討してみたいと思います。

教授 : この新機能を利用すれば、SMP/E USERMOD方式を廃止して、より簡素化されたカスタマイズ手順に移行することができるわけです。おまけに、z/OS V1R10では、活動化前に、CEEPRMxxメンバー指定値の構文検査を行う機能(ツール)も、下記のように新しく提供されました。

    ・PGM=CEEPRMCC (構文検査をバッチ・プログラムにて行う場合)    ・CEEPRMCK (構文検査をCLISTにて行う場合)

図①-1. SMP/E USERMOD方式(例)

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生徒 : オプションの指定方法は、これまでのアセンブラー・マクロ形式 (USERMOD方式)と同じでしょうか?

教授 : いえ、そこが少し違う点です。利用するCEEPRMxxメンバーのサフィックスは、PARMLIB(IEASYSxx)メンバーのCEE=(xx,…,xx)パラメータにて指定しますが、このCEEPRMxxメンバーでは、EXEC PARM形式でオプションを指定します。例えば、"ALL31=ON"というアセンブラー・マクロ形式とは異なり、"ALL31(ON)"というパラメータ形式にて指定するわけです。

生徒 : そこは注意が必要ですね。

教授 : はい、z/OS V1R11までは、その制約が残ります。ただ、新機能への移行容易性を考慮して、z/OS V1R12では、従来のアセンブラー・マクロ形式 (USERMOD方式)も新たにサポートされました。ちょっと、うれしい話だと思いませんか?

生徒 : 素晴らしいです! それは移行しやすくなりますね。ところで、これまでのSMP/E USERMOD方式も、まだ使えるのですか?

教授 : はい、SMP/E USERMOD方式も、これまで同様に利用することができます。また、新規CEEPRMxxメンバーによるオプション指定値は、対応するUSERMOD指定値をオーバーライドします。

生徒 : その機能を利用する上で、何か新しいコマンドはあるのでしょうか?

教授 : はい、例えば、下記のようなものがあります。もちろん、z/OS V1R10でも利用できます。

    ・SET CEE=xx コマンド・・CEEPRMxxメンバーの置換 (動的活動化)    ・SETCEE コマンド・・・・・オプションの選択的置換    ・D CEE,ALL コマンド・・・CEEPRMxxメンバーで現在有効なオプションの表示                 (USERMOD指定値はマージされません)

生徒 : 3番目のコマンドは、とても役立つ新機能だと思います。これまでのUSERMOD方式だと、設定状況の確認を行うために、バッチ・ジョブやCICSトランザクションを実行する必要があります。CEEPRMxxメンバー方式に移行すると、それがコマンド一発で確認できるのは、とても簡単ですね。

第1章-

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第1章-

教授 : その通りです。図①-2には、PARMLIB(CEEPRMxx)メンバーの活用例を載せましたので、参考にしてください。また、z/OS V1R10にて提供されるヘルス・チェック機能(IBM Health Checker for z/OS)では、CEE_USING_LE_PARMLIBという新しいチェック項目が追加されており、PARMLIB(CEEPRMxx)メンバーが使用されていない場合に、メッセージを出力して、USERMOD方式からの移行を促してくれます。

CEEPRMxxメンバー方式の制約と方向性

生徒 : ところで、PARMLIBメンバーCEEPRMxxを利用すれば、カスタマイズ作業や管理がとても楽になると思うのですが、何かデメリットのようなものはあるのでしょうか?

教授 : そうですね。強いて言えば、実行時オーバーライドを不可にできない点だと思います。つまり、新規メンバーCEEPRMxxで指定された省略時オプションは、全て、実行時にオーバーライド可能(OVR扱い)として定義されるのです。従来のSMP/E USERMOD方式では、アセンブラー・マクロ形式でオプションを定義する際、実行時オーバーライド不可(NONOVR扱い)という属性を与えることができますが、この新機能では、それがサポートされていません。よって、実行時オーバーライドを禁止したいオプションがある場合は、従来のSMP/E USERMOD方式を併用する必要があるというわけです。

図①-2. z/OS V1R10におけるPARMLIB(CEEPRMxx)メンバー方式(例)

①設定SYS1.PARMLIB(CEEPRM01)

②活動化SET CEE=01コマンド

③反映確認D CEE,CEEDOPTコマンド

MSGFILE DD名の省略時値を、SYSOUTからLEOUTに変更

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生徒 : なるほど。幸い、私のプロジェクトでは、実行時オーバーライド禁止という要件はありませんが、確かに影響を受ける場合も出てきそうですね。でも、教授。そんな制約があるとすると、SMP/E USERMOD方式を廃止して、CEEPRMxxメンバーに完全移行することは無理ではないでしょうか?

教授 : はい、確かにその通りです。その制約を排除するため、z/OS V1R12では、CEEPRMxxメンバーの各オプションに対して、NONOVR属性が指定可能となり、実行時オーバーライドを禁止できるようになりました。この結果、SMP/E USERMOD方式を継続利用する必然性がなくなりますから、今まで以上に、CEEPRMxxメンバーへの移行が強く推奨されます。

生徒 : それは役立つ新機能だと思います。

教授 : そんな背景もあって、z/OS V1R12では、SMP/E USERMOD方式のサポートを廃止する将来計画(方向性)が盛り込まれています。具体的には、z/OS V1R13が、SMP/E USERMOD方式をサポートする最後のリリースになる計画です。

生徒 : なるほど。その将来計画も、z/OS V1R12で制約排除が実現できた結果なのですね。とてもよく理解できます。

教授 : 国内でも、CEEPRMxxメンバーの利用実績が出てきているようです。せっかくの機会ですから、USERMOD廃止に向けて計画しましょう。あと、図①-3には、機能比較を簡単にまとめましたので、こちらも忘れずにチェックしてみてくださいね!

生徒 : はい、教授。今日は、大変参考になるお話、ありがとうございました。これからも、よろしくお願いします!

教授 : こちらこそ。お役に立てて、よかったです。次回は、SDSF導入オプションのカスタマイズについて、一緒に考えてみましょう。

第1章-

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SMP/E USERMOD方式 PARMLIB(CEEPRMxx)メンバー方式

利用可能な稼働環境 限定せず z/OS V1R7以降に限定

カスタマイズの方法 ++USERMODの適用 PARMLIBメンバーの編集

z/OS移行時の対応 USERMODの再適用 必要に応じて更新

構文検査の機能 機能なし

z/OS V1R10で機能追加

・ PGM=CEEPRMCC (バッチ実行)

・ CEEPRMCK (CLIST実行)

オプション指定の形式 アセンブラー・マクロ形式 (例: ALL31=ON)

EXEC PARMパラメータ形式 (例: ALL31(ON))

※ z/OS V1R12からは、アセンブラー・マクロ形式もサポート

設定内容の確認方法 ・ RPTOPTSオプション (非CICS環境)・ CLERトランザクション (CICS環境) D CEE, ALLコマンド

実行時オーバーライドの禁止機能

・ OVR属性 (オーバーライド可) ・・・省略時解釈

・ NONOVR属性 (オーバーライド不可)

常に OVR属性 (オーバーライド可)の扱いとなる

※ z/OS V1R12からは、NONOVR属性の設定をサポート

方向性将来的な機能廃止の意向あり

※ 当機能のサポートは、z/OS V1R13が最終となる計画

今後主流となるカスタマイズ方式

図①-3. 主な機能比較

第1章-

■ z/OS Language Environment カスタマイズ (SA88-8552-08) http://publibfp.dhe.ibm.com/epubs/pdf/a8885528.pdf第2部 Language Environment のカスタマイズ: ランタイム・オプション、出口、およびプロシージャー第6章 CEEPRMxx (z/OS Language Environment パラメーター)

■ z/OS Language Environment Customization (SA22-7564-10) http://publibz.boulder.ibm.com/epubs/pdf/ceea5190.pdfPart 2. Language Environment Customization: run-time options, exits, and proceduresChapter 6. CEEPRMxx (z/OS Language Environment Parameters)

【関連マニュアル 】

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第1章-

2 SDSF導入オプションのカスタマイズ

ISFPARMS USERMOD方式は手間が掛かる?

教授 : 今回は、SDSF導入オプションのカスタマイズについて考えてみましょう。

生徒 : どんなお話が聞けるか楽しみです。よろしくお願いします。

教授 : こちらこそ。いきなりですが、PARMLIB(ISFPRMxx)メンバーを利用して導入オプションのカスタマイズを行っているのでしょうか?

生徒 : はい、教授。以前担当したプロジェクトでは、確かにそうでした。でも、今のプロジェクトでは、ISFPARMSモジュールによるSMP/E USERMOD方式を依然として使用しています。

教授 : そうですか。では、SDSFサーバーは起動していないのですね?

生徒 : はい、DISPLAYコマンドで確認しても、SDSFアドレス空間が稼働していないので、最初は少し戸惑いました。ところで、z/OS V1R10では、ISFPARMSカスタマイズに関するSMP/E USERMODのサンプルJCL(ISFPARME)が、いつものSISFJCLデータセットに見当たりません。これは、いよいよ、PARMLIB(ISFPRMxx)メンバーによるパラメータ方式への移行が必須になったということなのでしょうか?

教授 : 確かに、z/OS V1R10からは、サンプルJCLの提供が廃止されています。ただし、これは、PARMLIB(ISFPRMxx)メンバーへの移行が必須になったという意味ではなく、従来のUSERMOD方式も利用可能です。

生徒 : ありがとうございます。ひとまずは安心ですが、パラメータ方式への移行も合わせて検討したいと思います。

教授 : z/OS V1R10で、ISFPARMSモジュールを利用したUSERMOD方式を継続する場合は、注意すべき点がありますので、忘れないでくださいね。

生徒 : いつものように、FMIDが変わる以外に何かあるのでしょうか?

教授 : まず、提供されるISFPARMSのソースが、SISFSRC (または、AISFSRC)データセットからSISFSRC1 (または、AISFSRC1)データセットに移動しました。また、モジュールISFPARMSの格納先も、SISFLOADからSISFMOD1データセットに変わって

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います。このような背景もあって、SMP/E USERMODのMCSステートメント見直しが必要です。特に、図①-4で示したように、FMID(JJE775S)やDISTLIB(AISFSRC1)指定が、これまでとは全く異なりますから、注意してください。

生徒 : やはり、USERMOD管理の場合は、いろいろと手間が掛かるのですね。

教授 : はい、その通りです。パラメータ方式への移行を支援するREXXツール(ISFACP)も利用できますから、z/OSマイグレーションを簡素化し、維持・管理作業の負荷を軽減する意味でも、PARMLIB(ISFPRMxx)メンバーへの移行をおすすめします。また、z/OS V1R10にて提供されるヘルス・チェック機能(IBM Health Checker for z/OS)では、SDSF_ISFPARMS_IN_USEという新しいチェック項目が追加されており、ISFPARMSモジュールを利用したカスタマイズが今でも行われている場合に、メッセージを出力して、パラメータ方式への移行を促してくれます。

ISFUSER Exitによるカスタマイズは荷が重い?

教授 : 話は変わりますが、SDSFでは、何らかの理由で標準機能(省略時解釈の処理)を変更する際、ユーザーExit ISFUSERのコーディング・導入を必要とする場合があります。みなさんは、使用していますか?

生徒 : はい、教授。今のプロジェクトでは、ISFUSER Exitを使用しています。以前、z/OS V1R7へ移行した際、SDSF APAR PK06616 (zAAPサポート)による機能変更で、DAパネルのタイトル行に、スタートI/O情報(SIO)が表示されなくなったので、その表示を復活させる目的で、ISFUSER Exitを初めて導入しました。

教授 : なるほど。やはり、その対応ですね。他にも、同様な報告を何件か聞いたことがあります。

生徒 : ISFUSER Exitの中身は、あるフラグのビットをオンするという単純なロジックですが、以前と同じパネル内容を表示するために、Exitを導入するしかないというのは、ちょっと荷が重いと感じています。

図①-4. z/OS V1R10におけるUSERMOD方式(例)

第1章-

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教授 : 確かに、マイグレーションの負荷という観点でも避けたいですね。

生徒 : 以前と同じように、DAパネル・タイトルのSIO情報を表示したまま、ISFUSER Exitが廃止できれば最高なのですが。

PARMLIB(ISFPRMxx)メンバーの機能がパワー・アップ!

教授 : はい、それなら、おすすめの新機能がありますよ! z/OS V1R9では、SDSFサーバーで利用されるPARMLIB(ISFPRMxx)メンバーが機能拡張され、ISFUSER Exitを代替するための新規ステートメントPROPLIST、PROPERTYが提供されました。これを活用すれば、ISFUSER Exitなしでも、簡単にSIO情報の表示ができますから、もはや、それだけを目的としたISFUSER Exitの導入は必要ありません。

生徒 : その新機能は、ISFPARMS USERMOD方式では使えないのでしょうか?

教授 : そうです。USERMOD方式では、同等機能が提供されていません。つまり、これはSDSFサーバー稼働時のメリットと言えます。もちろん、ISFUSER Exitの継続利用もできますが、対応する新規ステートメント(ISFPRMxxメンバー)に移行することでExitの廃止が可能となり、より簡素化されたカスタマイズ手順を実現することができます。

生徒 : ちなみに、どのような設定になるのでしょうか?

教授 : 例えば、DAパネルのタイトル行でSIO情報表示を行うには、図①-5のように指定し

図①-5. PARMLIB(ISFPRMxx)メンバー設定(例)

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ます。PROPERTYステートメントのNAMEパラメータは、大文字・小文字どちらでも指定可能です。なお、参考までに、カスタマイズ実施前後のパネル表示を掲載しましたので、図①-6、図①-7を参照してください。

生徒 : なるほど、これは簡単です! 他には、この新機能を活用できるものはありますか?

教授 : 他には、SDSF PREFIXコマンドで指定された値(ABC)に対し、総称文字(*)を自動的に付加する(ABC*)ことができます。つまり、利用者の方は、*を明示的に入力せずともすむわけです。この機能は、当初、z/OS V1R8 SDSFに対するAPAR

図①-6. カスタマイズ実施前のDAパネル表示(例)

図①-7. カスタマイズ実施後のDAパネル表示(例)

第1章-

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第1章-

PK36698で提供され、ISFUSER Exitによるカスタマイズでのみ実現可能でしたが、z/OS V1R9以降では、下記のような簡単な指定で対応できます。

生徒 : これは知りませんでした。この新機能を使えば、いろいろなメリットがありそうですね。私のプロジェクトでは、ISFUSER Exitを廃止するために、PARMLIB(ISFPRMxx)メンバーへの移行を検討してみたいと思います。おかげさまで、ISFPARMS USERMOD方式の廃止が見えてきました。

教授 : とても前向きな、素晴らしいアクションだと思います。

生徒 : はい、教授。今日は、大変参考になるお話、ありがとうございました。これからも、よろしくお願いします!

教授 : こちらこそ。お役に立てて、よかったです。次回は、DFSORT導入オプションのカスタマイズについて、一緒に考えてみましょう。

■ z/OS SDSF オペレーションおよびカスタマイズ (SA88-8610-08)第2章 カスタマイズとセキュリティーのためのISFPARMSの使用カスタマイズされたプロパティー(PROPLIST)

■ z/OS SDSF Operation and Customization (SA22-7670-11)Chapter 2. Using ISFPARMS for customization and securityCustomized properties (PROPLIST)

【関連マニュアル 】

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3 DFSORT導入オプションのカスタマイズ

ICEMAC USERMOD方式での苦労話

教授 : 今回は、DFSORT導入オプションのカスタマイズをテーマに考えてみましょう。

生徒 : どんなお話が聞けるか楽しみです。よろしくお願いします。

教授 : こちらこそ。DFSORTといえば、ICEMAC導入オプションのカスタマイズを行うケースが多いかと思います。いかがでしょうか?

生徒 : はい、教授。私のプロジェクトでは、リリース・アップなどで新規オプションが追加された際、従来との互換性を維持できるよう、その省略時値をカスタマイズしています。同じような目的で利用される場合は、意外と多いのではないでしょうか。

教授 : そうですね、私もそう思います。ところで、ICEMAC導入オプションのカスタマイズは、SMP/EでUSERMOD管理していると思いますが、これまでの苦労話は何かありますか?

生徒 : 苦労話といえば、以前、DFSORT製品の提供ライブラリー名が変わったことで、++ SRCUPDステートメントのDISTMOD指定値を修正する必要がありました。また、マクロのPTFレベルが更新された関係で、++ VERステートメントのPRE指定値を修正する必要が生じたこともありました。あの時は、"GIM38201E MOD ID ERROR"メッセージでなかなかUSERMODが適用できず、苦労した覚えがありますね。

教授 : なるほど、それは大変お疲れ様でした。とても具体的な話で、苦労が目に見えるようです。

生徒 : SMP/E USERMODの再適用は、マイグレーションの都度行うので、ある意味、定型作業なのですが、もっと簡単にカスタマイズできれば、とても助かると思います。

PARMLIB(ICEPRMxx)メンバーによるカスタマイズ新機能

教授 : うれしいことに、ようやくその機能が提供されましたよ! z/OS V1R10からは、PARMLIBの新規メンバー ICEPRMxxを利用して、DFSORT導入オプションの省略時値をカスタマイズできるようになりました。これは、おすすめの新機能です。

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生徒 : それは便利ですね! そうすると、SMP/E USERMODも廃止可能ということですか?

教授 : はい、その通りです。この新機能は、8つの導入環境(JCL/INV/TSO/TSOINV/TD1~TD4)すべてを対象にしていますから、SMP/E USERMODを廃止して、より簡素化されたカスタマイズ手順に移行することができます。

生徒 : それは、とても助かります。教授、具体的に教えてください。先ほど、PARMLIBの新規メンバー ICEPRMxxを利用するとのことでしたが、そのサフィックスは、やはり、PARMLIB(IEASYSxx)メンバーで指定するのでしょうか?

教授 : いえ、そうではありません。ちょっと珍しい方法かも知れませんが、活動化するメンバー ICEPRMxxはPARMLIB連結内に作成しておき、そのサフィックスを、START ICEOPT,ICEPRM=(xx,…,xx)コマンドで指定するのです。具体例が図①-8にありますから、参照してください。また、このSTARTコマンドは、PARMLIB(COMMNDxx)メンバーに登録しておき、IPL時に有効化するのが一般的だと思います。

生徒 : そうなのですね。確かに、ちょっと独特な感じがします。

教授 : ICEOPTというプロシジャーは、ServerPacで導入すると、SYS1.IBM.PROCLIBデータセットに提供されます。中身は、PGM=ICEPRMLを実行するステップになっています。

生徒 : ICEPRMxxメンバーのサフィックスは、いくつまで指定可能でしょうか?

図①-8. ICEPRMxxメンバーの設定と活動化(例)

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教授 : メンバーのサフィックスは、最大10個まで指定できます。例えば、全システム共通のメンバーと、各システム固有のメンバーを組み合わせて運用することができます。また、複数のICEPRMxxメンバー間でオプション指定が重複した場合は、最後に指定された値が有効になります。

生徒 : オプションの指定方法はどうでしょうか?

教授 : これは、かなり柔軟性があり、keyword=(value)形式、keyword=value形式、keyword(value)形式のいずれかを使用することができます。つまり、従来のアセンブラー・マクロ形式(SMP/E USERMOD方式)から、容易に移行できるような設計になっているわけです。

生徒 : 従来のSMP/E USERMOD方式も、まだ利用することができますか?

教授 : はい。もちろん、これまでのUSERMOD方式を継続利用することも可能です。また、オプション・マージの優先順位は、下記のようになっています。

      PARMLIB(ICEPRMxx)メンバー指定値 > カスタマイズ後のICEAMx/ICETDxモジュール指定値 (ICEMAC導入オプション) > IBM省略時値

生徒 : なるほど。z/OS V1R10では、ICEPRMxxメンバーへの移行が必須というわけではないのですね。理解しました。

PGM=ICETOOLのDEFAULTS LISTコマンドがパワー・アップ!

教授 : PGM=ICETOOLのDEFAULTS LISTコマンドを使って、設定オプションや省略時値の一覧を確認することはありますか?

生徒 : 教授、もちろんです。PTF適用時やマイグレーションを計画する際、いつも活用しています。とても頼りになるツールだと思います。

教授 : はい、確かにその通りです。z/OS V1R10では、これがまた進化し、(a)ICEPRMxx/ICEMACマージ後のオプション指定値、(b)ICEPRMxxメンバーによるオプション指定値、(c)ICEMACマクロによるオプション指定値、を各々出力するようになっています。従来の出力は、(c)だけでしたね。参考までに、図①-9では、(b)ICEPRMxxメンバーによるオプション指定値、の出力結果だけを抜き出してみました。

第1章-

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第1章-

生徒 : なるほど、これは本当にパワー・アップです。意図した設定値が(b)に正しく反映されているかどうか、自分の目で確認できるのはうれしいです。

教授 : はい。実際にリストしてみると、情報量が多くて、結構なページ数になるのですが、大変役立つ機能です。

生徒 : ぜひ、私も試してみたいと思います。ところで、この新機能を利用する上で、注意すべき点があれば、教えてくださいませんか?

ICEPRMxxメンバー方式の考慮点は?

教授 : START ICEOPTコマンド実行時には、指定されたICEPRMxxメンバーを見つけるために、PARMLIB連結データセットが探索されます。従って、PARMLIBデータセットのRACF保護を行っているような場合は、READアクセス許可があるかどうか、開始タスク・テーブル、または、ICHRIN03の確認をおすすめします。

生徒 : なるほど、RACF保護の影響を受けるわけですね。確認してみます。

教授 : それから、START ICEOPTコマンドを、SUB=MSTR指定で実行する場合は、注意してください。この場合、TIMEパラメータ指定がないと、ABEND322が起きてしまいます。念のため、ICEOPTのカタプロをチェックして、TIME=30パラメータが明示指定されていることを確認してください。

生徒 : 提供されるカタプロを使用すればよろしいですね?

図①-9. ICEPRMxxメンバー設定の反映確認(例)

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教授 : はい、その通りです。z/OS V1R10のDFSORT APAR PK70523では、    TIME=30パラメータが新しく追加されています。

生徒 : ありがとうございます。確認してみます。

教授 : その他、DB2 V8およびDB2 9では、APAR PK59399のPTFを適用することで、DB2ユーティリティー実行時に、ICEPRMxxメンバーの設定オプション(ICEAM2環境)が有効となります。PTF適用状況を確認してください。さらに、DB2 V8のユーティリティーでは、APAR PK87450のPTFを含めた予防保守をおすすめします。

生徒 : DB2のユーティリティーとDFSORTは、お互い密接に関係していると思いますので、アドバイスいただいた点を確認してみます。

教授 : はい、よろしくお願いします。国内でも、ICEPRMxxメンバーの利用実績が出てきているようです。せっかくの機会ですから、USERMOD廃止に向けて計画しましょう!

生徒 : これから移行するz/OS V1R10での利用を検討してみます。

教授 : それから、参考までに、SORTジョブ実行結果の一部を、図①-10に載せました。目新しいメッセージICE252Iも出力されており、ICEPRMxxメンバーを利用していることがわかります。こちらも忘れずにチェックしてみてくださいね!

第1章-

図①-10. SORTジョブ実行時のオプション確認(例)

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生徒 : はい、教授。今日は、大変参考になるお話、ありがとうございました。これからも、よろしくお願いします!

教授 : こちらこそ。お役に立てて、よかったです。既に掲載済みの    ■1 LE実行時オプションのカスタマイズ    ■■■2 SDSF導入オプションのカスタマイズ    では、それぞれ、LEやSDSFのカスタマイズ簡素化をテーマにまとめています。    ぜひ、こちらもお見逃しなく!

■ z/OS DFSORT インストールおよびカスタマイズ (SD88-6332-02) 第2部 DFSORTのカスタマイズ第4章 インストール・デフォルトの変更

■ z/OS DFSORT Installation and Customization (SC26-7524-02) Part 2. Customizing DFSORTChapter 4. Changing the Installation Defaults

【関連マニュアル 】

第1章-