地道な業務改善の積み重ねが 「本当のチーム医療」の確立を導く ·...

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2 QCサークル No.613

いつも患者の側にいる医者でありたい

早速ですが,医師を志望されたのは,どういう動機からですか? 私の育った環境は,よくあるような開業医の家ではなくて,父は横浜中央卸売市場の鮮魚の仲買人でした。私は 3 人兄弟の長男で,家には父母と祖父母と叔父の合計 8 人が一緒に暮らしていました。 ところが,祖母が結核に感染し,おばあちゃん子でいつも側で寝ていた私まで感染してしまいました。当時は結核についての正しい知識がない環境だったのです。学校は留年もせずに通いましたが,体育の授業はいつも見学でした。 そんな子ども時代を過ごしたので,将来は病気を治し,正しい病気の知識を伝えられる

ような仕事をしたい,と思うようになったのです。

内科ではなく外科を選ばれたのは? テレビドラマ「ベン・ケーシー」の影響ですね。主人公が,格好いい脳神経外科医でしたから(笑)。ケーシー型白衣というのは,あのドラマから流行ったのです。 それに,内科はあれかこれかと考えながら診療しますが,外科は良いところと悪いところ,手術すれば治るかどうかといった点がスパッとわかる。気が小さくて内気な性格でしたが,かえって単純明快なものが好きになり,外科医の道を選んだのです。

内気な性格でしたら,手術で血を見て卒倒したりしませんでしたか? 意外にそうでもなかったのです。学生時代,

地道な業務改善の積み重ねが「本当のチーム医療」の確立を導く

社会医療法人ジャパンメディカルアライアンス海老名総合病院院長

内う ち

山や ま

喜き

一い ち

郎ろ う

さん

2012年 8月号 3

解剖実習がありまして,白い布で覆われた遺体を前にした瞬間は,凄いショックなんです。4 人一組で実習するんですが,私は人体に触れながら学んで解剖に興味津々で,毎回出席しました。ところが,ほかの 3 人はしょっちゅう欠席していましたね。血液を見てもまったく恐怖感はありませんでした。

別の質問ですが,先生が座右の銘とされている言葉は? 孟子の「公

こう

孫そん

丑ちゅう

」に,「自ら反かえり

みて縮なお

くんば,千万人と雖

いえど

も吾れ往ゆ

かん」という言葉があります。自分で決めたことや行動を振り返ってみて,正しいと思ったら,どんなに抵抗されても貫けという教えです。猪

ちょ

突とつ

猛もう

進しん

ではなく,「自ら反みて」という部分が重要ですね。 今,病院長という立場にあって,いろいろな意見に耳を傾けなければなりませんが,決断する時は断固として決断する。そういう時に,背中を押してくれる言葉です。 病院長職は,私にとっては最大の不得意科目ですが,これも人生の一過程かなと受け止めています。だから,私はよく「院長では絶対に終わらない」と言っています。これは本当の医者になるための大切な過程だ,と思うようにしているのです。 その先にある「本当の医者」とは何かと言えば,治療手段の有無にかかわらず常に患者の側にいる医者,これが本来の姿ではないでしょうか。そこで,将来は在宅医療をやろうと考えています。在宅医療では,大きな医療機械も,検査設備もありません。あるのは自分の経験と腕と頭だけです。患者さんと触れ合い,医者として持っているすべてを投入して治療にあたる。それが私の医者としての最後の務めだと思っています。

本当のチーム医療を目指す

海老名総合病院では業務改善活動に積極的に取り組んでいらっしゃいます。これは先生の発案で,2005 年から始まったそうですね。

 あれは院長になる前で,現場でもっと外科医らしい仕事をやっていた頃ですが,当時の外科病棟の看護師さんは,看護から介護,薬の配薬,配膳まで何でもやっていました。一人で何役もこなしてしまう。大変きつかったはずです。だから辞めていったり,過労に陥ったり,悩んでいる人もたくさんいました。この看護師さんの業務をもっと分業化できないか,というのが出発点でした。 ちょうどその頃,東京医科歯科大学の川渕孝一教授から,「米国シアトルにあるスウイディッシュ・メディカルセンターが,クオリティ・インプルーブメント(Quality Improvement)をやっているから視察しないか」という誘いがありました。そこは,ベッド数約 1 万床の大病院で,近くにある航空機メーカー,ボーイング社の業務改善活動を導入している,というのです。 実際に視察して驚いたのは,担当部署に30 名もの専任職員を配置して業務改善・品質改善に取り組んでいることでした。話を聞いてもっと驚いたのは,その業務改善のルーツが,実は日本にあったということです。 その後,仙台で開かれた「医療の質安全学会」に参加し,薬剤師さんたちと一緒に QC手法の講習も受けました。 そうした準備を積み重ねて,2005 年 7 月に「業務改善推進プロジェクト」を立ち上げ,2008 年に「業務改善委員会」に発展させました。そして 2009 年からは,QC を病院全体で展開するまでになったのです。

先生が播ま

いた一粒の種が,病院全体の業務改善活動として開花したのですね。 いや,まだ業務改善活動が全体に波及した

第4回業務改善発表会入賞チームのみなさん

4 QCサークル No.613

とは,とても言えません。人員不足から業務改善室もいまだにできていません。 積極的に参加してくれたのは,薬剤師さんや看護師さん,理学療法士さんなど専門職の人たちでした。これまでの彼らの活動からは,すばらしい改善事例が生まれています。 たとえば,食道がんの患者さんは,手術が終わると人工呼吸器を装着して病棟に帰ってきます。その時点から,理学療法士さんに来てもらうことにした,という事例があります。 それまで,理学療法士さんは,病棟に来て患者の側でリハビリを行うということがなかった。医師と看護師で術後管理をしていました。 これを,理学療法士さんが病棟に来て呼吸リハビリができるように改善したところ,患者さんがみるみる良くなった。痰

たん

の出方も変わった。それで,看護師さんは「リハビリってすごい」と思ったんですね。自然に「次もまた来てね」という言葉が出た。そう言われると,理学療法士さんも嬉しくなって,「また来ます」と言葉を返す。コミュニケーションが生まれ,交流が始まる。つまり,チーム医療の始まりです。 私は,常々,各職種の人たちが互いの垣根

を取り払って本音で話ができ,話を聞ける。相手を認めることができる。出てきた障害はみんなで一緒に克服でき,問題を乗り越える。こういうことができて初めて「本当のチーム医療」だと言っています。

今後,業務改善の活動が拡大し,「本当のチーム医療」が生まれるには,何が必要だとお考えですか?  実は,3 年前から経営を可視化するツールとして BSC(バランスト・スコアカード)を導入し,QC は個別のアクションプランを実行するためのすなわち,業務改善の手法として使うように少し位置づけを変えたのです。毎年の改善事例発表大会は,とても賑やかにできるようになりました。発表数は少なくても,中身の濃い改善事例が多くなりました。確実に進歩していると思います。 ただ,どの病院にも言えることですが,BSCも業務改善も,診療部には導入が遅れているのが実態です。やれる科からやっていくつもりですが,ここが変われば「本当のチーム医療」が生まれると,大いに期待しているところです。 (取材 ・ 構成 山口哲男)

病院全景

 当院は 1983 年,地域の熱い期待(救急医療)に応えて設立されました。以来,診療姿勢は一貫して「救急が診療の基本」です。20 数年を経て,当院が担当すべき疾患も多種多様となり,地域医療支援病院として 100 名を超える医師たちを中心に,皆さまに満足していただける質の高い医療を提供しています。 行政,地域医師会や海老名市民の皆さまの支援をいただき,神奈川県県央地域の中核病院として活動する私たちは,高い理念とビジョンを掲げて日々の業務に取り組んでいます。

〈理  念 − Mission −〉 仁愛の精神のもとに,皆さまとともに考える医療を目指します〈ビジョン − Vision −〉 ◦診療の基本は救急医療       ◦質の高い急性期医療を提供する ◦地域に対し,医療と教育で貢献する ◦健全かつ安定した病院経営を実現する 地域の皆さまが医療の良きパートナーとして,心から信頼して診療やケアを受けてくださるためには,職員自ら働きがいのある最良の職場,最良の研鑽の場であると感じていなければなりません。私たちは,そのような環境づくりを常に心がけています。

社会医療法人ジャパンメディカルアライアンス海老名総合病院所 在 地:神奈川県海老名市河原口 1320開  設:1983 年 9 月職  員:820 名ホームページ:http://ebina.jinai.jp/

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