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パネルディスカッション「地方から変わる生活」

IoT推進ラボは、平成30年9月18日に開催したIoT推進ラボ合同イベント –IoTで、生活は変わるか。 –

にて、東京ではない、地域の生活について議論を行うパネルディスカッションを開催した。

IoT・AI・ビッグデータを活用した地域でのビジネス創出を支援する取り組みである「地方版IoT推進ラボ」が全国に

広がっている。平成30年9月7日には、新たに19地域が加わり、9月18日に開催されたIoT推進ラボ合同イベントにて、

経済産業省から選定証が授与された。

同イベントでは、「地方から変わる生活」と題してパネルディスカッションを行った。地方での活動を進められてい

る、学校法人金沢工業大学 産学連携局次長 福田崇之氏(白山市IoT推進ラボ)、サイファー・テック株式会社 / 株式会

社あわえ 代表取締役 吉田基晴氏(美波町IoT推進ラボ)、株式会社ABBALab 代表取締役、さくらインターネット株式

会社 フェロー、京都造形芸術大学 教授 小笠原治氏が登壇、モデレーターは一般社団法人シェアリングエコノミー協

会 事務局渉外部長、内閣官房シェアリングエコノミー伝道師 石山アンジュ氏が務めた。

ディスカッションの様子

各登壇者から、それぞれの地方とのかかわりをベースに、地方の魅力、

課題、テクノロジーの可能性、地方から見えるこれからの日本について

ディスカッションいただいた。

ディスカッションのはじまりは、地方の魅力から。

まず、地方中核都市を拠点に、テクノロジーを活用したスタートアップ

支援に取り組む事例が紹介された。大都市と地方、人材面での差はなく、

取り組むテーマは一緒であっていい。地方のほうが、泥臭いことをやりや

すいというのはあるという。また、人材として、これから育っていただけ

るような人が大都市よりも多い印象で、中核都市などでそういった雰囲気

がよいところへ、リクルーティングの名目で、企業が拠点を出す。例えば、

福岡は、良い意味で「浮かれて」いて、成長率がよく、若手が増えている。

「日本一のサービスをつくる」と言うことが許される雰囲気というのは、

新しいサービスを生み出すのに大変重要だという。

一方、過疎が進む地方については、IoTを含むIT系のベンチャーを誘

致して、地域課題をビジネスに変えることに取り組んでいる例が紹介

された。生活環境もビジネス環境も自然環境も、魅力的だという。日

本が縮小社会になっていくとすれば、縮小社会に沿ったITソリュー

ションができれば、それは日本中に展開できる。

また、都会ではなにもかも役割が分かれてしまっているが、過疎地

ではまだ、稼ぐ・消費する・子育てする・お隣さんを気遣う・祭りを

支える・時には火事を消しに行く、など、本来ひとりでやらなければ

いけなかったことが、そのままひとりの人間の中に残っている。これ

を普通の暮らしの中で味わえることが貴重である。本来人間は、仕事

と遊びが断絶していない中で生きている。未来の新しいものをつくる

とき、或いはビジネスプラットフォームとしても、この環境は非常に

いいと感じているという。

いまなぜ、地方なのか

福田 崇之 氏

関係人口という言葉が流行り、地方にもう一つ拠点を置きたい、よりど

ころを置きたいという人も増えた。大都市との二拠点居住も可能なように、

子供が複数の学校に通えるという教育制度(デュアルスクール)も推進さ

れているという。家族での二拠点居住のためには、教育制度が変わらない

とハードルが高い。子供にとっても、都会で過ごしているのと、地方で過

ごすのとでは、出会う人の幅が全く違い、貴重な体験が得られる(地方で

は、漁師から議員まで、日常で触れ合うことができる) 。同じことを都会

で体験するのは大変なこと。こういった、地方の本当の魅力をとらえた取

り組みを進めていく中で、本当のテクノロジーへのニーズも見えてくるの

ではないか。

石山 アンジュ 氏

吉田 基晴 氏

次に、地方における課題について、お聞きした。

1つは、地方がもつ良い意味での「余白」の活用がうまくできていな

いこと。余白があることを、不便だとか、マイナスと感じすぎている。

例えば、データセンターを地方に立てた際に、先の地震でも、余白と

いったものがしっかりあって、なにかあったときに備えて十分な準備が

できていた、という体験をした。昨今の、働き方を見直す流れの中でも、

地方での余白のあり方は再評価されてしかるべき。もっと地方が自己評

価を高めてほしいという。

また、特に過疎地に目を向けると、ここから20年、30年、自分や子供、

家族を経済的に支えていくことのできる、若い世代が地域にいないこと

が問題と指摘された。地域の意思決定をしているのは、極論「勝ち逃げ

できる世代」の人たちで、若い世代が意思決定に入れていない。その背

景には、高等教育が地域にないということも影響しているという。昨今、

大学進学が一般的となり、どうしても高等教育の環境のある都会に、若

者が出ていってしまう。親も、子供にとりあえずパイの大きい進路を目

指させるのが実情だ。

日本社会全体でみて、人の流動性を高めるためには、この教育の問題

の解決が大前提だ。例として、通信制の大学院での、社会人を対象とし

た研究生制度が紹介されたが、このような仕組みは、小学生からだって

できるはず。「教育」を「教」と「育」に分けて、「教」はオンライン

で実施するなど。IoTでデータが取れれば進捗が自然にとれたりもする

だろう。「育」はいまの学校をうまく使えばよい。全国どこにいても

しっかりした教育が受けられる形をつくることが、必要になってくる。

地方についての課題感

小笠原 治 氏

テクノロジー、 I o Tのこれから

今回のディスカッションの中から透けて見える、テクノロジーの在り方とは、何だろうか。

過疎地の例では、人や家畜が担ってきた部分をIoT技術が代替するという点には、期待が寄せられている。例えば、昔は農家が犬を放し飼

いにしていて、それがイノシシ等を追い払ったり、人の自然の境界線をつくっていた。それが現代ではできなくなったのであれば、犬の眼や

鼻の代わりに、それをIoTで担うことができるのではないか。また、物理的な環境のデータをもっと蓄積して、AIで分析していくことで、こ

れまでに思っても見なかったような解決策が見いだされる可能性も、まだまだあるのではないかとの指摘があった。

ディスカッションは、IoTが活用される社会全般にまで及んだ。今、IoT、ディープラーニング、ロボティクス、モビリティ、スマートシ

ティなどのキーワードが出てきているが、20年前のインターネットの状態とすごくよく似ているという。正直なところ、まだ皆がIoTを信じ

ることができておらず、自分のリアルデータ、動作、行動、対外変化、環境変化といったものを預けることを怖がっているが、それが当たり

前になっていくのがここからの5年、10年後の世界。いまが、一番面白い新しいテクノロジーやエコシステムができるタイミングだという。

一方で、家の中のIoT化もだんだん一般化しつつあるが、どこまでどう使っていいのかがわからないというのが、個人の本音であったりす

る。一体何が足りないのか。

一つの回答として、到達点がないことが原因ではないかとの指摘がさ

れた。戦後、このくらい豊かになりたいと一致団結した時には、少なく

とも、テーマ設定・目標設定が今よりもあったはずである。それが今は

ない。なので「世界で一番、おじいさん、おばあさんが快適に暮らせる

地域にする」ということを、目標に設定してはどうか。人がやりたいと

思うこと以外は自動化すると決めて、そこにテクノロジーを当てはめて

みて、足りないところをサイエンスでやるという目標設定。寝たきりに

なって排便などを人に任せるのはやっぱり嫌だし、遠慮などはなくした

い。快適(な世界)とはそういうことではないだろうか。

AIやロボティクスで自動化というと、すぐに仕事がなくなる、奪われ

るという議論が起きてしまう。それらを回避するために「スマート〇

〇」と言っているわけだが。「スマート〇〇」のために、センシング

(IoT)で、膨大にデータを増やして、AIに食べさせて、人がどういう

ことをどんな時にしたいのか、自動化するにはどうしたらいいのかを今、

徹底的に考え、やってみる。到達点を一旦、具体的に置いてしまったほ

うがいい。そして「世界で一番、おじいさん、おばあさんが快適に暮ら

せる地域にする」に置いてみれば、地方はそれをチャレンジするための

場所として、ものすごくいい環境として、浮かび上がってくる。

このパネルディスカッションでは、大都市、地方中核都市から過疎地までの広い領域における、生活や仕事の中の多様な価値や、その課

題、テクノロジーの在り方に触れていただいた。

「ひとり何役」という、一人でいくつもの役割を担っていく時代を、どうつくっていくかというのは、今、大きなテーマの1つだ。地方で

は、そういう生き方を意識せずにやっている方がたくさんいる。それが最先端の生き方になっているということを、地方の人も認識を改め

て、モデルになっていくというのが、国内だけでなく、海外、特に新興国といわれている国でも、とても必要とされてくるだろう。

また、テクノロジーの在り方という点では、例えば先に取り上げた通り、到達点を「世界で一番、おじいさん、おばあさんが快適に暮ら

せる地域にする」と具体的に置いたとしたら、その結果、世界中から資産家のおじいさん、おばあさんが日本にくるかもしれない。その資

産運用で若手にチャンスが生まれるかもしれない。人口ボーナス期からオーナス期、その乗り越え方を、シンガポールとはまた違う形で、

経済もセットで動いていった方がいいし、そうしていきたいとの言葉もいただいた。

地方が持つ魅力と課題、それを乗り越える/さらに魅力あるものとする、制度、教育、テクノロジーの在り方、大都市とのデュアルな関係

作り。このセッションでの発信が、地方の魅力を再認識する・発見するものとなり、来場された皆様の、前に進む力となれば幸いだ。

豊かで快適な生活のモデルを、日本から

当日の様子

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