イスラム金融シンポジウムの模様について2.基調講演...

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イスラム金融シンポジウムの模様について

日証協・平成 21 年 11 月 11 日

本協会は、去る 11 月 11 日に、日本経済新聞社、日本政策金融公庫・国際協力銀行との共催で、

「イスラム金融シンポジウム 2009」を、日経新聞社内カンファレンス・ルームで開催した。 近年、イスラム金融は急成長を遂げつつあり、また、ロンドンのみならずシンガポールや香

港といった非ムスリムの国際金融センターでも、イスラム金融の積極的な取組みの動きがみら

れ、韓国等でも関心が高まっている。日本企業においてもイスラム債券の発行や、証券会社が

仲介する取引事例等が出てきている。このようななか、今回のシンポジウムは証券ビジネスに

焦点をあてた本格的なイスラム金融を議論する日本で初めてのイベントとなった。 本シンポジウムには来賓として三国谷金融庁長官を招くとともに、国内外から 18 名のスピ

ーカー(バーレーン、香港、アラブ首長国連邦、マレーシア、英国、日本)及び約 300 名の

聴衆が参加したイベントとなった。この内、証券界からは本協会員を中心に 100 名以上の参

加があった。 [シンポジウムの概要]

(午前のセッション) 1.開会挨拶及び来賓挨拶 主催者を代表して、日本経済新聞社の杉田会長および本協会の安東会長の開会挨拶が行われ

た後、三国谷金融庁長官より来賓挨拶が行われた。三国谷長官は、現在、世界的な金融危機の

影響下にあるが、日本の金融行政を振り返ると、日本では既に 10 年前に金融混乱を経験し、

金融機関の債権処理や破綻処理、セーフティネットの構築、利用者保護のための金融商品取引

法など一連の金融インフラ強化が図られてきていると述べた。また、そのような中でイスラム

金融についても我が国の金融・資本市場の競争力を増すための「強化プラン」の下、銀行法施

行規則を改正し、銀行・保険会社の子会社による取扱いを可能にした。金融庁としては、今後

もイスラム金融も含めた我が国の国際金融センターとしての機能強化に努めたいとし、一方で

イスラム金融の拡大に伴い、取扱い金融機関におけるリスク管理のあり方などにつき検討を要

する場合には、当局として適切な対応を考えていきたいと述べた。

開会の挨拶を行う安東会長 三国谷金融庁長官のご挨拶

2.基調講演 この後、イスラム金融の全般的状況について3名のスピーカーより基調講演が行われた。 基調講演の最初のスピーカーとして登場したバーレーン中央銀行のラシード・アルマラジ総

裁は、国際金融危機の中でなぜイスラム金融に対する関心が高まっているのかを、その基本原

理(損益分担の原則)にさかのぼって説明し、日本を含む非イスラム地域での更なる発展の可

能性、バーレーンでのイスラム金融への取組みの経験および課題について語った。 続いて、香港特別行政区金融サービス財務長官の K.C.チャン氏より非ムスリム市場(特に

東アジア)でのイスラム金融の発展状況についての報告が行われた。同氏は特に過剰流動性が

あり高い貯蓄率を誇るアジアではイスラム金融の発展の可能性は高く、今後、イスラム金融の

法制度面の整備を進めていくことにより、シンガポール、香港、東京といった非ムスリムの金

融センターでも十分な市場が形成されうるとの考えを示した。 基調講演の最後として、日本政策金融公庫副総裁・国際協力銀行経営責任者の渡辺博史氏よ

り、国際金融危機という文脈の中でイスラム金融が果たす役割(金融の多様化と安定化)につ

いて講演が行われた。特に、世界的に資金の供給が縮小化傾向にある中、新たな資金の供給ル

ートとしてのイスラム金融への期待は大きく、またそのことが国際金融システムの安定化にも

つながると締めくくった。

バーレーン中央銀行総裁ラシード・アルマラジ氏 香港特別行政区金融サービス長官 KC チャン氏

国際協力銀行経営責任者渡辺博史氏

3.パネル・ディスカッション この後、基調講演の内容を踏まえ、「イスラム金融と日本」と題して 4 人のパネリストによ

るパネル・ディスカッションが行われ、今後のイスラム金融が大きな成長のポテンシャルを持

つ一方、その課題(シャリア解釈の統一化、流通市場の整備等)も見えてきたなかで、日本は

イスラム金融にどう係わり、そのためにどのような行動や制度的対応が必要かが議論された。 まず、財務省理財局国債企画課長の貝塚正彰氏より、日本国債の海外からの投資の現状につ

いて解説があり、今後、日本国債の安定的な消化を確保するためには海外投資家の保有比率を

高めていく必要があり、このため財務省では中東地域の資金を呼び込むためにこれまで3回に

わたり同地域での IR 活動を行ってきていることが報告された。現時点でイスラム債券(スク

ーク)の形式で日本国債を発行する考えや、日本政府としてイスラム金融のハブとなるといっ

た国家的目標があるわけではないが、先進国の中でも英国がスクーク国債発行の検討を行って

いる事実や、中東地域からの資金の呼び込みの必要性に鑑み、引き続きイスラム金融に関する

様々な事例について調査を継続する必要があると述べた。 また、大和証券投資信託委託取締役専務執行役員の荒井勝氏からは、同社が 2008 年 5 月に

シンガポール取引所(SGX)に上場したシャリーア適格日本株上場投資信託(ETF)の設定

の経緯や、その商品内容についての報告がなされ、証券界としての具体的なイスラム金融ビジ

ネスの実践事例が紹介された。さらに同氏は、各国の取引所は同じ ETF 商品のクロス・リス

ティングを推進し市場活性化に努めるべきであるとの提言を行った。 早稲田大学大学院教授の北村歳治氏からは、イスラム金融発展の歴史的経緯についての解説

がなされ、今後、イスラム金融がさらに発展していくためにはその損益分担という基本理念を

前面に出して推進する必要があるとした。日本がイスラム金融に取組む際、経験のないシャリ

ーア審査、日本の法体系との整合性などが問題となるとし、イスラム金融一般の問題点として

利子禁止という命題下での困難な商品組成などについての見方が示された。また、日本は国際

的なシャリーア解釈の標準化や制度作りなどに積極的に加わるべきであると提言した。 最後に、日本で早くからイスラム金融の取組みを開始している国際協力銀行の国際経営企画

部長前田匡史氏より、日本がようやく銀行法施行規則の改正によりイスラム金融進出への道

(金融機関によるアセット・トレーディングの可能性)を開いたことについては評価できる一

方、シンガポールや香港と比べイスラム金融に関する取組みにおいて日本は国家的戦略性の点

でこれらの諸国に比べ見劣りするとの指摘がなされた。

パネル・ディスカッションの様子 会場の聴衆の様子

(午後のセッション) イスラム金融の各論に関する4つのワークショップが開催された。イスラム債券(スクーク)、

イスラム株式運用、イスラミック・バンキングと保険(タカフル)、シャリアおよび法的観点

からの実務支援の各テーマに分かれ、それぞれの分野に詳しい内外の専門家による報告に加え、

会場との活発な質疑応答が行われた。このような、各論についてのワークショップの開催は、

日本では初の試みであり、日本でもイスラム金融への取組みが、初歩的な概念理解の段階から

一歩進んで、より実務に近いところでの議論に確実に移行し始めたことを示すものと言えよう。 なお、プログラムの詳細は別紙に示すとおりである。

ワークショップの様子

以上

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