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研究主題
黙働清掃で心を磨く -たかが清掃、されど清掃-
富山市立大広田小学校
くらしつくりプロジェクト 加藤 志のぶ
Ⅰ 主題設定の趣旨
清掃の目的は、本来保健衛生や生活しやすい環境維持から必要なものである。学校教育に
おいては清掃活動は子どもたちにどんな成長を願って展開されなければならないのであろう
か。美意識に映る学校の印象は、そこに生活する子どもの心的状況の反映であり、一方整え
られた環境も子どもの心を育てることとなる。すなわち、環境に働きかけ、健康的な生活環
境をつくる過程の中で、子どもの豊かな心をはぐくむことができると考える。
しかし、現実を直視すると課題も多い。
右のグラフ1は、本校の平成20
年度に実施した清掃活動にかかる自
己評価である。「清掃活動」に関し
て、子どもや保護者は高い評定をし
ているものの、教員は不十分という
回答が多く見られる。掃除の手を止
めておしゃべりに夢中になり、とたん 《グラフ1》
に箒の動きが止まってしまうことも見られ、教師の指示で回避しようとしても、一過性のも
のになってしまっている。こうした状況から脱却するためにも、「させられる清掃」から「す
る清掃」への転換を図り、心をはぐくむ清掃の在り方を模索する必要があると考えた。
今年度、校務分掌で清掃担当となり、心をはぐくむ清掃活動(=「黙働清掃」と呼ぶ)の
推進をはかるべく具体的目標と方策を構想した。清掃の目的を「きれいにすること」ではな
く、「きれいにしようとする意志、能力、態度を育てる」こと、すなわち「心を磨く」こと
を眼目として、発揮させたい三つの力を設定した。また、実践化にあたっては、子どもの自
発性・自主性を育てる方向の中で、子どもと一緒に学習し研究しながら学校独自の清掃スタ
イルを創りだすようにしたいと考え、実践を試みた。
Ⅱ 研究の視点
1 視点ア 心を磨く子どもをはぐくむ、黙働清掃の学校体制づくりと構想
2 視点イ 心を磨く子どもをはぐくむ、意欲の継続化を促す支援
3 視点ウ 心を磨く子どもをはぐくみ、より高めるための振り返り
清掃に熱心に取り組んでいるか(5点満点)H21,1月調査
0 1 2 3 4 5
保護者
子供
教師
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Ⅲ 研究の内容
1 研究の視点アにかかわる実践と結果
(1) 指導者として互いの考えを“確かめ合う場”の必要性
本校では「学びつくり」「くらしつくり」「自分つく
り」の視点から目指す子どものイメージを設定してい
る。この視点において三つの活動推進のためのプロジ
ェクトチーム(PJ会議)が組織されている。(資料 1-1)
その一つの「くらしつくり部会」において、昨年度か
ら、黙働清掃の目標やその方策について話し合ってきた。 《PJ会議》
その流れを受け、今年度4月再構成された「くらしつくり部会」で黙働清掃について
の目標や具体的な方法を練り上げた後、教職員の共通理解と方向性を一つにすること
を願って、職員会において提案した。(資料 1-2)
(2) 学校教育目標との関連を図った黙働清掃の全体構想
さらに、子どもたちが黙働清掃をイメージしやすく、また自己評価の時も想起しや
すいようにキャッチフレーズをつくって提示した。
【キャッチフレーズの設定】
また、子供たちが自分で汚れを見つけ、自分を振り返りながら清掃に取り組む姿を
期待して、大きく三つの取り組みの節を設定した。次の表は、その概要である。
黙働清掃(もくどう)は、
「くじけずがまんする心」「どこでもよごれを見つける心」「うつくしい、親切の心」
【清掃によってはぐくまれる力や具体的な姿】
学校教育目標 はぐくまれる力 具 体 的 な 姿
最後まで ○意志力 人の邪魔をしないで、我慢して清がんばる子ども 「がまんして、 掃に取り組む姿。
やり通そうとする力」
学び続ける ○創造力 人が見つけられないような仕事を子ども 「次々と新しいことを 見つけたり、人が考えられないよう
見つけ出そうとする力」 な方法で清掃したり、時間いっぱい仕事を見つけたりする姿。
思いやりの ○情操力 友達のよいところを見つけたり、ある子ども 「人への優しさ(親切心)や お互いに気働きをして助け合ったり
美しいものへの憧れ」しながら、行動する姿。
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教職員の間では、第1段階の「おしゃべりの我慢」が、まず徹底できるのであろう
かという不安があった。子どもたちに的確な清掃指導を行うためには、清掃活動時間
に、各々場所で説明をする必要性もあると感じていたからである。この「我慢する心」
は、子どもたちにだけではなく、教職員
においても同様に求められることとなっ
た。一方、第2段階と第3段階について
は、図1のようにその二つの心は時系列
的にはぐくまれるものではなく、心静か
に黙々と清掃する中で、スパイラルに且
つ自発的にはぐくまれる心であろうと考
えた。 《図1》
(3) 新しい清掃を宣言し、一体感をもった「心を一つにチェンジ集会」(資料 2-1、2-2)
教職員の共通理解を図ったところで、黙働清掃に取り組む契機とするために全校集
会を行った。集会では、美化委員会と「くらしつくり部会」の教師による劇を行い、
これから取り組む清掃に「今までの清掃との違い」「黙働清掃の意味」「黙働清掃の約
【黙働清掃の3段階】
段 階 子 ど も の 動 き 教 師 の 働 き
【第0次段階】 ・ 箒や雑巾、ちりとりの基本的 ・ 学年の発達段階に応じて、動用具の使い方を知る な使い方を知る。 作化等の手法を活用して、用具
・ 基本的には雑巾が主。 の使い方を指導する。
【第1段階】 ・ 不必要なこと、必要なことの ・ 清掃についての構えを話す。がまんする心 一切のおしゃべりをしない。 ・ ほめたり、しかったり一切し
・ 集中して清掃をする。 ない。意 「おしゃべりの ・ おしゃべりをしていて、先生 ・ おしゃべりをしている子ども志 がまん」と に肩をたたかれた子どもは、静 の肩をポンポンとたたく。力 「やる気」を養う。 かにその場にすわっている。 ○ この3点を事前に子どもと約
・ 働けそうになったらもとの場 束しておく。所にもどる。 ○ 帰りの会等で取組み状況を話
し合う。
【第2段階】 ・ 普通の仕事以外に、ためにな ・ 仕事が未完成で終わることが創 見つける心 る仕事を見つけて働く。 あっても、指導しない。それこ造 そ連続性となる。力 ためになる仕事を見 ○ みんなのためになる取り組み
つけて働く。 の事例を、帰りの会等で敷衍する。
【第3段階】 ・ 一切おしゃべりをしないで、 ・ おしゃべりをしなくても、協情 親切の心 協力し合ったりゆずり合ったり 力的に清掃ができることを話す。操 しながら、清掃する。 ○ 話さなくても協力できること力 心を汲み取った働き 「声なき声を聞く」 を事例をもとに、帰りの会など
をする。 「言葉ではなく行為で協力 」 で話し合う。
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束」などを感得するようにした。教師と子どもが出演して説明をしたこと、全校児童
教職員みんなが集会に参加したことで、「大広田小学校全員で心を一つにして取り組
む」という一体感を醸成することができた。
《教員と子どもと劇の一場面》
2 研究の視点イにかかわる実践と結果
(1) 意欲の継続化を促す視聴覚教材の作成
① プレゼンテーション「トイレ掃除の仕方」「トイレの使い方」の作成
黙働清掃が始まり、静かに清掃をしようとする子どもたちの気持ちは表出してきて
いたが、依然として話をする子どもの姿も見られた。そうしたおしゃべりの大半は、
「どのように掃除をするか?」「机を戻そうよ」といった掃除に関する内容であった。
こうした状況から「我慢する心」の強化を唱えるだけでなく、ハード面で子どもの働
く意欲を支える必要もあるのではないかと考えた。また、担任にとっても、第0時段
階の用具の使い方に関する指導を、どこでどのように行うべきかという問題が解決さ
れないと、黙働清掃に対する意欲低下「やらさせている感」が燻り出るのではないか
と懸念した。
担当者として、黙働清掃をしながら様子を見回ると、特にトイレ掃除で子どもたち
が、相談している姿が見られた。掃除の担当は理解しているが、手順について十分理
解されていないために意思の疎通を図ろうと会話が必要になり、そのことが引き金と
なっておしゃべりが始まっていくことが分かった。また、各クラスにおいても清掃の
仕方が統一されていないため、メンバーが変わる毎に話し合いが必要になっていた。
そこで、養護教諭や用務員さんの協力を得ながら、清
掃の手順や方法を示すプレゼンテーション「トイレ掃
除の仕方」を作成した。(資料 3-1)さらに、トイレ
掃除のない1,2年生用に「トイレの使い方」のプレ
ゼンテーションも合わせて作成した。(資料 3-2)汚
さない工夫や後始末の仕方などのマナーを知り実践す 《2年生の朝の会での指導》
【4月23日の集会後の子どもの感想から】
・ 今まで黙働清掃のことをただ、しゃべらないで掃除することと思っていたけど、黙働清掃にもちゃんと意味があることが分かりました。 (4年 M 子)
・ 劇で、車先生が机が持てないとき、土山先生が気がついて、いっしょに手伝うところがすごいなと思いました。わたしも机を運ぶときに手伝ってもらって、「ありがとう」という気持ちが出てきました。わたしも相手が苦しいときに、お返しをしたいです。
(4年 Y子)
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ることは、清掃している上級生に感謝の気持ちを表すだけでなく、互いに気持ちのよ
い集団生活を送る上で大切なことだと考える。両プレゼンテーションは、週に2回設
けられている「学年朝の会」で活用し、指導していただいた。
4年生では、「トイレ掃除の仕方」を学んだ後、全員でトイレ清掃に取り組み、実
践力につなげていった。
《トイレ清掃の確かめをする4年生》
② DVD「そうじ名人」の作成
10月下旬に、全校児童の黙働清掃に対する2学期の中間の振り返り(自己評価)
を行った。黙働清掃に対する慣れからくるゆるみであろうか、1学期と比べて「くじ
けず我慢する心」の向上が見られなかった。しかし、その中で「汚れを見つける心」
は、子どもたちの心に浸透しているように見受けられた。その育ちを生かして、一生
懸命に集中して清掃を行うことで、自然に黙々と働く姿が期待できるのではないかと
考えた。そこで子どもたちに効率的で有効な清掃の仕方を習得すればより集中した清
掃ができるのではないかと考え、「そうじ名人」の DVD(資料 4-1)を作成し、視聴
することにした。内容は、雑巾の絞り方、箒の使い方、黒板の消し方、階段掃除の仕
方などを七つ紹介したものである。DVD は各学年に1枚ずつ配付し、正しい清掃の
仕方について学ぶ機会を設定することとした。
DVDの視聴で習得した清掃の仕方を、活用し実践できるようになることを図って、
美化委員会で、「そうじ名人になろう」カードを作成した(資料 4-2)。子どもたちは
【DVDを作成した美化委員会の子どもと、DVDを視聴した子どもの感想から】
・ 私はビデオをとるとき、正直恥ずかしくて、いやだなあと思いました。(中略)でも、クラスで机ふきの時、私たちが言っていたことをちゃんとやってくれている人がいて、うれしくなりました。 (美化委員会の児童)
・ DVD を見て、「こんなことをしたらきれいになるのか」と思ってやってみたら、きれいになったのですっきりしました。だから、掃除の時間が少し、楽しみになりました。 (3年 K子)
・ 今では、ほうきの使い方が正しくなりました。最初はほうきをモップみたいに使っていたけれど、今では、しっかり板の目にそって使っています。 (3年 O 子)
【教職員のアンケートから】
・ 視覚で、具体的にどうするとよいのかが分かり、子どもがまねをしてやるようになった。・ DVDを、家庭科の「身の回りの整とん」の学習と関連づけて視聴した。具体的に汚れている場所や、清掃の仕方を話し合った。
【6月17日のトイレ清掃をした感想より 】
トイレ清掃をして、本当はみんながやらない所を、特にやらなくちゃいけないことが分かりました。見た目はきれいなのに、ふくと真っ黒でした。見た目だけでは、だめだなと気づきました。 (4年 R男)
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黙働清掃に限らず、給食前の机ふき、日直の黒板ふき、家庭での清掃などの場面で実
践し、生活の中で生かしている。さらにお昼の校内放送で、子どもたちが実際に試し
た清掃の仕方や黙働清掃の感想の紹介や掃除クイズを行った。黙働清掃が身近で日常
的な営みの一つであるという思いをいだかせたいと考えての取り組みである。
(2) 環境への意識を高める教職員の連携
掃除をしっかり行うためには、道具の不備があってはならな
い。扱いやすい道具が不足なく揃っているように配慮すべきで
ある。写真は、用務員さんに手を加えてもらった低学年用の清
掃ロッカーである。(資料 5-1)この工夫により、低学年にと
って取り出しやすく、また、箒の毛先を痛めないように意識づ
けしながら片付けることができるようになった。
また、本校では、児童が運動場に行くときに、下足箱から外
履きを持って校舎内を移動している。 《掃除ロッカーの整備》
毎朝用務員さんが掃除してくださっているが、掃除
で集めた砂を使って、子どもたちに自分たちの外履き
の持ち方はどうであるかを問い、自分を見つめるしか
けも教務主任によって行われた。(資料 5-2)このよ
うに、清掃道具を大切に扱う心や、自分たちの学校を
汚さないための工夫をしたり、行動を振り返ったりす
る機会を設け、知恵を出してかかわることによって子 《環境への意識を高める掲示物》
どもの心は磨かれていくこととなる。
(3) 環境に働きかける意志や実践力を強化する、道徳の学習(資料 6-1、6-2)
子どもたちは、自分なりの目当てをもって黙働清掃を進めており、活動を重ねるご
とに、静かに黙って清掃をすることの難しさや、集中して行うことできれいにするこ
とができる満足感、仲間と共に取り組む喜びなどに気づき始めている。しかし、とり
あえず黙って時間を費やしていたり、清掃時間にはごみを見つけきれいにしようとす
るが、他の時間においては、ゴミを拾ったり、積極的に身の回りをきれいにしようと
したりする子どもの姿を見ることは少ない。このような子どもたちに、自分の身近な
環境に進んで働きかけ、互いに気持ちよく過ごそうとする心情や態度をはぐくみたい
と願い、道徳の授業を設定した。
授業では、夢と感動を与えるディズニーランドの裏舞台で活躍する掃除スタッフ「カ
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ストーディアル」の話を題材に、環境に働きかける心について考えた。清掃の仕方は示
したものの、子どもたちにとって、やはりトイレの清掃は苦手らしく、「汚いから手で
掃除するのはいや」という正直な意見の中、自分とは違う価値観に出会い、「なぜ、そ
んな便器もきれいに掃除しようと思うのか」という素朴な疑問から、自分の清掃に対す
る気持ちを振り返ることができた。アイ子さんは、「一つ一つの便器に名前をつけると
いうことは、その便器に大切にしている証拠だ」と発言した。物への愛着、こだわりが
「きれいにしたい」という願いを生み出す動機となることに気づいたのである。
3 研究の視点ウにかかわる実践と結果
(1) 1年生と美化委員会の心をつなぐかかわり
入学間もない1年生が「黙動清掃」を行うのは、大変に困難を要する。
1年生が、黙って清掃に取り組めるような手立て(図2)を考え、実践した。
《図2》
〈 実態 〉 (1年担任より)
・ 上級生の黙働清掃を見学したが、自分たちの「黙働」に結びつかない。
・ 意識せずに声を発している。「しゃべっている」いう自覚がない。
〈 手立て 〉① 試す初めに4年生の子どもを2人、1年4組の清掃に参加させてみる。
② 実践美化委員会の6年生を2人ずつ、1年生教
室掃除に配属。
1年生の清掃の評価を‘マスク’で表す。
第一段階《おしゃべりがたくさん聞こえるとき》赤テープで×マークが付いたマスクを使用。
第二段階《少し、話し声が聞こえるとき》マスクの×マークを取る。
第三段階《静かなとき》マスクを取る。
※注意事項・ 6年生は、ただ黙って黙々と清掃すること。・ 指示するのではなく1年生の気配を見て、一緒に机をもったり、近くで活動したりすること。
・一緒にふり返りの時間をもつこと(よいこと、次にがんばることの2つの面から1年生に話をする。)
《1年生用に作成したポスター
》
自信
がんばろう。
【アイ子さんの感想から】 (資料 6-3)わたしは、物は大切にしているけど、そんなおもちゃや便器に話しかけるほど、物を大切にしていなかったです。たぶんその人(カストーディアル)は、物だけど、人間ぐらいに大切にしているんだと思います。 お母さんから「花に声をかけてあげるといい」と聞いたときがあるので、いっしょだなと思いました。
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1年生の子どもたちは黙って清掃をしながらも、六年生の評価(マスク)を気にして
いた。この他者による評価は、黙働清掃の約束「叱らない、褒めない」に反しているよ
うに思える。しかし、6年生のマスクの状態を見ることで、1年生自身が今の取り組み
を自覚し、主体的に行動を決定することができるという方法は 1年生には分かりやす
く、効果的だったのではないかと思われる。「6年生がマスクを付けていない状態」が
「おしゃべりをがまん」できている時なのだと体験を通して認識することができ、黙働
清掃のイメージを、しっかりと把握することができたのではないだろうか。
清掃後、1、6年生で振り返りの時間をもった。
1年生自身も、一生懸命に清掃をして満足感を得
てはいるが、6年生から認められることで「この
行動でよかったのだ」と納得し、自分の清掃の仕
方に自信をもつ。しかし、1年生といえども闇雲
に褒めるのは、自尊心を損なわせてしまう。よく
なかったと思われるところは、適切な言葉で評価し 《1年生に感想を語る6年生》
て誠実に伝えることが、
「次もがんばろう」いう意欲を引き出す契機になると考えた。また、6年生にとっても
この振り返りの時間を通じて活動の充実感を再確認したり、1年生との心の交流から自
己有用感を高めたりする機会となった。(資料 7)
以下のグラフ2は、1学期末に行った「1年生の黙働清掃の振り返り」(自己評価)
の集計結果である。
【1=くじけずがまんする心、2=どこでもよごれを見つける心、3=うつくしい親切の心】
《グラフ2》
わたしの担当していた1組さんでは、いつもしゃべっていた K 君という男の子がいました。その子は、最後の日とっても静かでした。これからもしゃべらなければいいなと思います。わたしは、1年生さんの黙働清掃を手伝わせてもらってよかったなと思いま
した。 (6年 Y 子)
1年
35.5%
68.2%
41.1%
50.5%
19.6%
36.4%
5.6%
7.5%
14.0%
8.4%
4.7%
7.5%
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
1
2
3
ある
わりとある
あまりない
ない
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くじけずがまんする心は、「ある」と「わりとある」で約90%に達している。黙働を
守ろうと「心の声」を発し、その声を友達が聞いてくれる喜びを味わう1年生。清掃
を通して友達や上級生と心を通わせながら、自分自身の成長を実感している様子を見
取ることができる。1年生ながらも、清掃の時間は、身近な人と協力しながら、集団
の中の一員として働く時間であるという意識が育ちつつある。
(2) 心を磨くために、自分を振り返る活動の設定
全校児童が、「黙働清掃の振り返り」を各学期ごとに行っている。「三つの心」につ
いて4段階で自己評価したものを学級、学年、全校別に集計してその結果を教職員に
配付し、周知を図っている。(資料 8-1,2)その際、数値ばかりにとらわれず、カード
に書かれた感想や日頃の清掃の取り組みの様子を思い出して、実像から離れない実態
が把握できるように心がけている。教職員が子どもたちの意識の傾向や、今の思いを
知ることで、今後の指導や支援に役立つと考えている。このように、子どもの活動状
況を日常的に話題にしていくことで、各学年に応じた黙働清掃の振り返りの実践も見
られるようになってきている。(資料 8-3)
子どもたちにとっても、振り返りカードをしたためていくことで、自分の歩みが自
覚できる。前出のアイ子さんは、自分の思いを正直に話すことができる活発な子ども
である。これまでも、自分の取り組みをふり返って、「どうしても話したくなるから
人と離れて清掃する」という作戦を立てている。自分を律することが難しいと感じて
いただけに、道徳の授業での話し合いは心に響いたようである。2学期末の振り返り
でアイ子さんは、次のように書いている。
アイ子さんの振り返りは、1回1回誠実に書きつづられてきた。目当てを常に意識
しながら、嘘も偽りもない自分に正対してこそ生まれる「できるようになりたい」「な
ぜ、我慢できないのだろう」という心の揺れや葛藤が、心を磨いていくことにつなが
【1年生の感想から】
・ 手伝ってと心の中で言うと、手伝ってくれるからうれしいです。・ 最近、汚いところが分かってきた。・ しゃべったけど、だんだんしゃべらないようになったよ。・ お兄さん、お姉さんがきたときから、上手になりました。・ ごみをよく見つけられて、雑巾がすごく黒くなって、自分がすごくがんばっていると思う。
【12月24日のアイ子さんの感想から】 (資料 8-4)
最近トイレ掃除で、手で周りの汚いところをふくようになりました。トイレは、みんな使うし、汚くなりやすいので、掃除当番の1週間毎日しっかりふかないといけないので大変だけど、続けてみたいです。1学期、「ここは、ほかの人がやってくれるだろう」と思っていたけれど、積極的に「人のために
も自分のためにもがんばろう」という気がしてきました。5年生になったら、もっと大事な掃除場所がくると思うので、みんなにもきれいと言われるくらいきれいにしたいです。
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るのではないだろうか。
(3) 次年度に生かす教職員の振り返りアンケート
2学期末に、教職員を対象にアンケートを行った(資料 9)。グラフ3に見られるよう
に、全員が、昨年度(或いは4月当初)と比較し、子どもたちの清掃への取り組みに成
果が見られたと感じている。また、グラフ4から分かるように、黙働清掃は心をはぐく
むことに役立っており、特に自主性や規範意識の成長を挙げる意見が多かった。さらに
清掃時における心の成長のみならず、授業中などでも規範意識、気働きの向上を感じて
いる教職員もおり、黙働清掃が単なる清掃にとどまらず、人間形成に大きな役割を果た
しているように思われる。
しかし、黙働清掃初年度であるが故、まだまだ課題も多い。「黙働」の意識が十分で
はない子どもへの指導の在り方、見通しをもった活動の工夫、清掃指導の時間設定など
である。また、アンケート結果からも「愛校心」が育っていると感じている教員は少な
い。子どもたちの普段の行いから、まだ十分ではないと見受けられるのであろう。自分
の学校が大好きだから環境を整えたいという思いは、将来、地域や郷土への愛着を高め、
積極的にかかわりをもとうと働きかける心につながっていくと考えたとき、発達段階に
応じて大切にはぐくんでいきたい心である。わたしたち教職員は、子どもたちの姿や表
出されていない思いをしっかり汲み取り、よさを子どもたちに還元していく努力をして
いき、子どもたちの内面に芽吹いた「心」がしっかりと根を張るよう、成長させていか
なくてはいけないと思う。
Ⅳ 考察
1 研究の視点アに関して - 強い意志としなやかな対応 -
自分自身の意識が変わった。今まで、何を話しながら清掃していたのかなと思った。本当は半信半疑だったが、子どもたちが黙々とそしてすみずみまできれいにしている姿
を見て、やればできるものだと確信しました。
グラフ3子どもたちの清掃への取り組み
(昨年と比較して)
3%
60%
37%
とてもよい
よい
わりとよい
かわらない
悪い
グラフ4
はぐくまれた心
0
5
10
15
201自主性
2規律
3愛校心4気働き
5我慢強さ
人数
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上記は、ある教師の感想である。確かに昨年に比べて、
おしゃべりは減り、しんと静かな中で、子どもたちが清
掃にいそしむ姿が定着してきている。(資料 10)全校で
取り組む「黙働清掃」が、まずまずの成果を上げられた
背景には、教職員間の共通理解を円滑に図ることができ
た学校体制とベクトルを合わせた協働の精神がある。不
安や疑問があっても、子どものためによかれと思うことは 《ヒーターの下を清掃する子ども》
とりあえず、スタートを切ってみる。そして歩きながら、常に教職員が一丸となり子ども
たちの「心を磨く」成長に資するように働きかけることで、子どもたちも本気になって取
り組んでいく。実践するにあたって、全体構想をもって進めるが、もし実態に合わないな
ど異があれば、変更・改善する柔軟性も必要である。
2 研究の視点イに関して -大切な‘気づき’の心-
子どもたちは、清掃に関して正しい方法や知識を知り、日々の暮らしの中で繰り返し実
践することで、実践力を高め、集中して黙働清掃に取り組むようになってきている。教師
は、子どもにただ「がんばれ」と叱咤激励するのではなく、何が問題なのか、どのように
したらできるのかを慮り、改善を図るよう務めることが大切である。そのために、担当者
は、足で稼ぐ軽いフットワークと教職員とコミュニケーションを図る広いネットワークに
心がけなければばらない。
3 研究の視点ウに関して -子どもの心を磨く、師弟同行-
振り返りとして、データを取るのは、子どもたちの意識の大まかなところをつかむため
であり、その数値がすべてを物語るわけではない。数値の裏にある子どもの思いを汲み取
るために、子どもと共に活動する師弟同行の姿勢が求められる。また、子どもの心に響く
振り返りを意識しなければならない。共に働く楽しさ、充実感や清々しさといったプラス
の記憶の累積が、清掃にとどまらず、ともに汗を流すことができる人をつくり、ボランテ
ィア精神も宿すと考える。
<今後の課題>
最終的には、分担がなくともやるべきことを見つけ、判断力を生かして適切に清掃活動
できる能力を身につけさせたい。そのためにも友達と協調し、見通し(人数、道具、手順、
時間など)を立てて活動できる力をはぐくむ工夫も今後考えていきたい。
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