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無断での複製・頒布を禁じます
1 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 11 回
ミクロ経済学 基本講義
第 11 回 市場の失敗 Ⅱ
Ⅰ.外部が い ぶ
効果こ う か
(外部性がいぶせい
)
(1) 外部が い ぶ
不経済ふけいざい
①.限界げんかい
損失そんしつ
(= 限界げんかい
外部が い ぶ
費用ひ よ う
)
⇒ ある財(x財)の生産によって、企業の生産コストとは別に、社会に発生させる費用。
外部が い ぶ
効果こ う か
(外部性がいぶせい
) …… ある人(企業)の行動が、他の人(企業)の利潤や効用に
影響を与えること。
・技術的ぎじゅつてき
外部が い ぶ
効果こ う か
(外部性) 悪い影響 : 外部が い ぶ
不経済ふけいざい
ex.公害
・金銭的きんせんてき
外部が い ぶ
効果こ う か
(外部性) 良い影響 : 外部が い ぶ
経済けいざい
ex.教育
【 生産量に比例して発生 】 【 生産量に関係なく一定額が発生 】
ex.自動車の生産によって発生する騒音・排気ガスなど
●
P
X O X0
G
P
X O
G
●
X0
C ●
市場価格
の変化
企業A
企業B
直接的に影響 金銭的きんせんてき
外部が い ぶ
効果こ う か
市場の失敗を
発生させない● ● ● ●
技術的ぎじゅつてき
外部が い ぶ
効果こ う か
市場の失敗を
発生させる● ● ●
限界損失の合計
= 外部不経済
余剰分析では、限界損失の
合計を“マイナスの余剰”
として扱う。
無断での複製・頒布を禁じます
2 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 11 回
②.私的し て き
限界げんかい
費用ひ よ う
曲線きょくせん
(PMC)と社会的しゃかいてき
限界げんかい
費用ひ よ う
曲線きょくせん
(SMC)
③.市場しじょう
の失敗しっぱい
(余剰分析)
※ 自社内で発生しているコスト(労働や資本の費用)はともかく、企業は外部に発生させている外部
不経済(“ご迷惑”な限界損失)を負担しようとはしません。
私的限界費用曲線 …… 企業が自社内で負担する追加的な生産コストを表す曲線。
( = これまでの市場供給曲線) (Private Marginal Cost:PMC)
◆ 社会的限界費用(SMC) = 私的限界費用(PMC) + 限界損失(限界外部費用)
社会的限界費用曲線 …… 企業が負担する生産コストに限界損失を加えた、社会全体
の追加的な費用を表す曲線。
( = これまでの市場供給曲線)
(Social Marginal Cost:SMC)
企業の生産コストが高まらなければ財の価格も上昇することがないため、消費者も安価に
財を需要することが可能となります。
外部不経済という社会のコストを企業も消費者も負担しないため、外部不経済を発生させる
財が、望ましい水準を超えて過剰● ●
に取引される結果となります。
P
X O
●
X0
G
● B
● E0
P●
MC
S●
MC P
X O
G
●
X0
C
●
●
B
● E0
P●
MC
S●
MC
【 生産量に比例して発生 】 【 生産量に関係なく一定額が発生 】
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3 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 11 回
ⅰ).限界損失が一定のケース
【 余剰分析 】
● 外部が い ぶ
不経済ふけいざい
(-) : = - CGE0B
● 総余剰(TS) AE*C-E*GE0
● 消費者余剰(CS) : AE0X0O - P0E0X0O = AE0P0
● 生産者余剰(PS) : P0E0X0O - BE0X0O = P0E0B
P0
X0 X
P
O
D
A SMC
PMC E*
F
G
B
E0
●
●
P* ●
●
●
●
X*
● C
CS+PS
市場均衡点はE0点となる(価格P0、取引量X0)
取引量X0は最適な資源配分といえるか?
※ 企業は限界損失を負担しないので、PMCを前提とした財の供給を行う。
限界損失を負担し、SMCに
沿った財の供給を行えば、取
引量はX*となり、総余剰は
AE*Cとなります。
◆ E*点における総余剰(=AE*C)に比べて厚生こうせい
損失そんしつ
(E*GE0)が発生してしまう。
よって、取引量X0は最適な資源配分とは言えない。
この市場全体が負担す
べきものなので、全体の
余剰から差し引く。
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4 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 11 回
ⅱ).限界損失が生産量に比例して発生するケース 【 参 考 】
【 余剰分析 】
● 外部が い ぶ
不経済ふけいざい
(-) : = - BGE0
● 総余剰(TS) AE*B-E*GE0
● 消費者余剰(CS) : AE0X0O - P0E0X0O = AE0P0
● 生産者余剰(PS) : P0E0X0O - BE0X0O = P0E0B
P0
X0 X
P
O
D
A
SMC
PMC E*
F
G
B
E0
●
●
P* ●
●
●
●
X*
CS+PS
厚生損失(死荷重)
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5 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 11 回
④.ピグー的ぴ ぐ ー て き
課税か ぜ い
政策せいさく
♪ 外部不経済が発生していても価格が上昇しないために、結果として財の配分が過剰● ●
になる。
【 余剰分析 】
従量税 …… 追加的に 1 単位生産を拡大するごとにt円の課税を行う。
PMCがt円分だけ上方● ●
にシフトする
取引量を抑制するため、人為的に(= 政策的に)市場価格を上昇させる必要がある。
パレート最適な資源配分(E*点)を実現するため、企業側に課税を行う。
● 外部不経済(-) : = - CE*FB
● 総余剰(TS) AE*C
● 消費者余剰(CS) : AE*X*O - P*E*X*O = AE*P*
● 生産者余剰(PS) : P*E*X*O - CE*X*O = P*E*C
● 政府せ い ふ
の余剰よじょう
(GS) : 税率(t)・取引量(X*) = CE*FB(税収ぜいしゅう
)
SMC = PMC+t
P0
X0 X
P
O
D
A
PMC E*
F
G
B
E0
●
●
P* ●
●
●
●
X*
● C
t
TS最大化
税金は負担しても、外部不経
済は誰も負担していないの
で全体の余剰から差し引く。
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6 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 11 回
※ 限界損失が生産量に比例するケースにおけるピグー的課税政策 【 参 考 】
【 余剰分析 】
⑤.コースこ ー す
の定理て い り
● 外部不経済(-) : = - BE*F
● 総余剰(TS) AE*B
● 消費者余剰(CS) : AE*X*O - P*E*X*O = AE*P*
● 生産者余剰(PS) : P*E*X*O - CE*X*O = P*E*C
● 政府せ い ふ
の余剰よじょう
(GS) : 税率(t)・取引量(X*) = CE*FB(税収ぜいしゅう
)
◆ 交渉にかかる取引費用がゼロであるならば、加害者・被害者のどちらに権利が存在する
場合にも、当事者間の自発的な交渉によって同一のパレート最適(効率的)な資源配分を
実現することができる。
考え方
P0
X0 X
P
O
D
A
SMC
PMC E*
F
G
B
E0
●
●
P*
●
●
●
X*
PMC+t
● C
●
t
TS最大化
♪ 自発的な交渉は、少なくとも加害者と被害者の利得り と く
(≒利潤、利益)
の合計が最大となる状態(改善の余地のない状態)で成立するはず。
パレート最適(効率的)な状態が実現される。
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7 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 11 回
~★ 計算練習 ★~ (国家一般職 平成 28 年)
素直に 2 つの企業の利潤の合計(Π)を式にします。
Π = π1+π2
=(Px・x-c1)+(Py・y-c2)
= 80x-2x2+60y-2y2-8x
= 72x-2x2+60y-2y2 …… ①
①式をxについて微分してゼロとおくと(共同利潤最大化)、
(※ Y財については、①式をyについて微分してゼロとおくことで、y=15 となります)
X財を生産する企業 1 とY財を生産する企業 2 の間には外部性が存在し、企業 1 は企業 2 に
外部不経済を与えているとする。
企業 1 の費用関数は、
c1=2x2 (x:企業 1 の生産量、C1:企業 1 の総費用)
で表されるものとする。
他方、企業 2 の費用関数は、
c2=2y2+8x (y:企業 2 の生産量、c2:企業 2 の総費用)
で表され、企業 2 は企業 1 の生産量xに影響を受け、損害(追加的費用)を受けているとする。
X財とY財の価格は完全競争市場において決定され、X財の価格は 80、Y財の価格は 60 と
する。
いま、二企業間で外部性に関して交渉が行われ、二企業間の利潤の合計を最大化するように生
産量を決めることが合意された場合、企業 1 の生産量xはいくらになるか。なお、交渉のため
の取引費用は一切かからないものとする。
1. 10
2. 15
3. 18
4. 20
5. 24
⊿Π
⊿x = 72-2・2x2-1 = 0
⇔ 4x=72 ∴ x=18 (正解は肢 3)
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8 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 11 回
Ⅱ.公共こうきょう
財ざい
(1) 公共財とは?
以下の 2 つの性質を同時に満たす財を特に純粋じゅんすい
公共こうきょう
財ざい
と呼ぶ。
排 除 性
あ り な し
競
合
性
あ
り
な
し
私的し て き
財ざい
(これまでの通常の財)
クラブ財(準 公 共じゅんこうきょう
財ざい
)
(有料道路、スポーツクラブなど)
共有きょうゆう
財ざい
(準公共財)
(無料駐車場、一般道路など)
純粋じゅんすい
公共こうきょう
財ざい
♪ 競合性きょうごうせい
…… 誰かが消費したら、他の人の消費量は減少することになる性質。
♪ 排除性はいじょせい
…… 対価を支払わない者を消費することから排除できる性質。
消費の非競合性
ひきょうごうせい
…… 複数の人々が同じ財を、同時に、同じ量だけ消費できると
いう性質(= 等量とうりょう
消費性しょうひせい
、100%外部経済)。
消費の非排除性ひはいじょせい
…… 対価を支払わない者を消費することから排除できないと
いう性質(= フリーライダー問題)。
◆ 仮に、誰かが対価を支払って消費しても、他の者も同じ量だけ消費できてしまう。
⇒ 消費者は財に対する私的所有権が確立できないため、やがて対価を支払うインセンテ
ィブを失ってしまい、必然的にフリーライダーを発生させてしまう。
ex.警察、消防、国防、外交、公園、一般道路 など
企業は利潤を確保することができないため、公共財は過少● ●
供給● ●
となってしまう。
《 市場の失敗 》
基本的には、政府が純粋公共財の供給を担うことになる。
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9 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 11 回
(2) 公共こうきょう
財ざい
の最適さいてき
供 給きょうきゅう
条件じょうけん
(サムエルソン条件)
① 公共財の需要曲線(= 限界げんかい
評価ひょうか
曲線きょくせん
)
※ 公共財には等量消費性という性質があるために、市場全体の需要を捉える際、私的財のように需要
量の“水平和”をとっても意味がない。
そこで、消費者に「最大限の支払可能額」を申告させる形で公共財に対する需要をとらえます。
F
A
社会的しゃかいてき
限界げんかい
評価ひょうか
(便益べんえき
)曲線きょくせん
(MB=MBA+MBB)
PA1+PB1
X1 X
P
O
MC(限界費用曲線)
B
E*
PA1
X*
C
●
●
●
●
X0
垂直和
♪ 社会的限界評価曲線 ≒ 市場需要曲線
♪ 限界費用曲線 ≒ 市場供給曲線
【 A氏の公共財の需要曲線 】 【 B氏の公共財の需要曲線 】 P
X O X1
MBA
P
X O X1
B
A
●
●
● ●
「最大限の支払可能額」
= 公共財に対する評価
需要曲線(d)
= 限界げんかい
評価ひょうか
曲線きょくせん
(MB)
MBB
X0 X0
PA1 PB1
これは今まで通り!
●
●
三角形AE*Bで総余剰は最大
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10 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 11 回
(3) リンダール・メカニズム(リンダール均衡)
=(-2xA+40)+(-xB+20)
=-3X+60
【 公共財の最適供給条件 】(= サムエルソン条件)
xB=―PB+20
※ 社会全体の公共財に対する評価(= 需要)をとらえるには、各消費者の「最大限の支払可
能額」を集計すれば良い(垂直和)。
各消費者の限界評価曲線 : [A氏] PA=-2xA+40 [B氏] PB=-xB+20
xA= ― PA+20 1
2
社会的限界評価曲線 : MB=MBA+MBB (MB:社会全体の限界評価)
(MBA) (MBB)
公共財の等量● ●
消費性● ● ●
から
xA=xB=X
リンダール・メカニズム …… 政府が市場の役割を果たし(= 疑似ぎ じ
市場しじょう
メカニズム)、
公共財の最適供給を実現しようとするもの。
【 プロセス 】
ⅰ).政府が公共財の総量と各消費者に公共財の費用負担率(αA、αB)を提示する。
ⅱ).各消費者は、自分が望む公共財の量(xA、xB)を申告する。
ⅲ).仮に、xA>xBとなったら、Aさんの負担率(αA)を引き上げる。
仮に、xA<xBとなったら、Bさんの負担率(αB)を引き上げる。
ⅳ).xA=xB(等量消費性)となったら最適供給量と判断し、調整を終了する。
詳しくは、時間● ●
が●
あったら● ● ● ●
財政学で学
習します。
MBA + MBB = MC
社会的限界評価(便益)
公共財の最適供給量(X*)
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11 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 11 回
H MB(社会的限界評価)
(xA=xB=X*)
X
P
O
MC(限界費用曲線)
E*
X*
●
●
●
【 リンダール均衡 】(= 最適さいてき
費用ひ よ う
負担ふ た ん
割合わりあい
)
◆ 最適供給量(X*)における各消費者の最大限の支払可能額(PA*、PB
*)に応じて費用
負担を求める。
PA*
PB*
この価格を前提として
比率を求めればよい。
※ 公共財の最適供給とリンダール・メカニズムの問題点
⇒ 各消費者は自己の限界評価や望む公共財需要量を正しく申告するとは限らない。
αA=
PA*
PA*+PB
* αB=
PB*
PA*+PB
*
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12 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 11 回
最低限解くべき問題
番 号 1 回目 2 回目 コメント
№ 264 / │ / │ 基本的なパターン。レジュメの復習と合わせて。
№ 265 / │ / │ “余剰の表し方”の特徴をこの問題で確認しておきましょう。
№ 267 / │ / │ 「厚生損失がなくなる」=「社会全体の余剰は増加する」
№ 268 / │ / │ 同上。練習、練習!
№ 271 / │ / │ 解き方を覚えてしまえば簡単。№270 も同じパターンです。
№ 275 / │ / │ コースの定理はしっかり暗記しておきましょう。
№ 276 / │ / │ 公共財の定義の確認に。
№ 279 / │ / │ 最適供給条件(サムエルソン条件)の確認に。
№ 280 / │ / │ まずはこれを。最も基本的な計算問題です。
№ 282 / │ / │ P=~の形にしてから合計しましょう(垂直和)。
№ 284 / │ / │ 限界便益(MB)は価格(P)と同じ扱いで。
№ 289 / │ / │ リンダール均衡の確認に。
№ 290 / │ / │ 同上。
№ 292 / │ / │ 余力のある方は是非。p.15 を参照してね。
№ 295 / │ / │ 余裕のある方のみ。このレジュメの“おまけ”参照
№ 297 / │ / │ (A)が重要。このレジュメの p.16 を参照してね。
№ 298 / │ / │ 消去法で。基本的な用語と理論の確認に良い問題です。
№ 300 / │ / │ これも基本的な用語と理論の確認に良い問題です。
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13 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 11 回
~★ 計算練習 ★~ (国家一般職 平成 28 年)
まず私的総費用関数(PTC)から私的限界費用(PMC)を計算します。
次に、外部不経済における費用(C)から限界損失を計算します。
①式と②式から、社会的限界費用(SMC)は以下のようになります。
SMC = PMC+限界損失
= 4q+2q
= 6q …… ③
完全競争市場の下で、ある産業における市場全体の私的総費用関数が、
PTC=2q2+10 (PTC:私的総費用の大きさ、q:財の生産量)
で表されるものとする。
この財を生産するにあたって、外部不経済が存在し、
C=q2 (C:外部不経済による費用)
の費用が追加的に生じるとする。
一方、この市場の需要関数が、
で表されるものとする。
いま、政府が、社会的余剰を最大化するために、この産業に対し生産物 1 単位当たりの課税
を行った。この場合の税収の大きさはいくらか。
1. 144
2. 192
3. 256
4. 288
5. 384
Q=- p+48 (p:財の価格) 1
2
PMC= = 2・2q2-1+0= 4q …… ① ⊿PTC
⊿q
限界損失= = 2q2-1= 2q …… ② ⊿C
⊿q
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14 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 11 回
社会的余剰を最大化させる最適均衡(E*点)は、③式と需要関数から計算します。まず、需要関
数のQをqとして(Q(需要量)=q(供給量))、p=~の形に変形すると、
p = -2q+96 …… ④
となります。ここで③式と④式を連立して解くと、
6q = -2q+96 ∴ q=12 p=72
となります。
q=12 を PMC(①式)に代入すると、p=48 となります(F点)。よって、生産物 1 単位あた
りの税率(t)は、
t = 72―48 = 24
と計算できます。よって、政府の税収は、
税収 = 24・12 = 288
となります(正解は肢 4)。
48
X
P
O
D
A
SMC = 6q
PMC = 4q
E*
F B
E0
●
●
72
●
●
12
PMC + t
●
●
t
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15 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 11 回
~★ 計算練習 ★~ (V問題集 №292)
各消費者の費用負担率は、公共財の最適供給水準における限界評価(= 需要曲線上の価格)の比
によります。そこで、手順としては、①公共財の最適供給量の計算、②そのときの限界評価(= 需
要曲線上の価格)の計算、③費用負担率の計算となります。
公共財の最適供給量を計算します。まず、公共財の需要曲線の“垂直和”をとって社会的限界評
価(MB)を計算します(各需要曲線をp=~の形にすることを忘れないようにしましょう)。
p1=-x+10
公共財の最適供給条件(サムエルソン条件)から、最適供給量は以下のように計算できます。
個人 1 と個人 2 から成る経済において、公共財の需要曲線がそれぞれ、
x=10-p1
x=5-2p2
であるとする。ここで、xは公共財の数量、p1は個人 1 の公共財に対する限界評価、p2は個
人 2 の公共財に対する限界評価を表す。公共財が限界費用 8 で供給されるとき、個人 1 と個人
2 の費用負担率として正しいのはどれか。
1.
2.
3.
4.
5.
個人 1 個人 2
7
8
1
8
7
8
1
8
3
8
5
8
5
8
3
8
1
2
1
2
p2=- x+ 1
2
∴ MB=p1+p2=(-x+10)+(- x+ )=- x+ 1
2
3
2
5
2
5
2
25
2
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16 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 11 回
MB(=p1+p2)=MC
この最適供給量を需要曲線に代入すると、各消費者の限界評価を計算することができます。
p1=-3+10 ∴ p1= 7
よって、各消費者の費用負担率は、
となります(肢 2 が正解)。
~★ 練習問題 ★~ (V問題集 №297)
本問で注意しなければならないのはAの記述です。
外部不経済を発生させている財は、取引量が過剰になってしまいます。公害等の外部費用を誰も
負担せず、価格が上昇しないからです。そこで、企業による生産量を抑制するために、生産量の拡大● ●
に●
つき● ●
税金● ●
を課します。これは生産量の拡大による追加的な生産コストを高めることになりますか
ら、私的限界費用(PMC)が税率(t)分だけ上方にシフトすることになります(左図参照)。
次のA~Dのうち、市場の失敗を補完するために政府に期待される役割に関するものをすべて
選んだ組合せとして、妥当なのはどれか。
A.外部不経済の発生者への補助金の交付
B.非競合性や非排除性を持つ財の供給
C.外部経済が発生している産業に対する生産抑制施策
D.平均費用逓減産業において限界費用価格原理により価格が決定される場合の補助金の交付
1. A C
2. A D
3. B C
4. A B D
5. A C D
⇔ - x+ = 8 ⇔ -3x+25=16 ∴ x= 3 3
2
25
2
p2=- 3 + ∴ p2= 1 1
2
5
2
個人 1 : = 個人 2 : = p1
p1+p2
p2
p1+p2
7
8
1
8
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17 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 11 回
一方、過剰な取引量を抑制する政策として、生産量の減少● ●
に●
つき● ●
補助● ●
金●
を支給するという方法も
あります。つまり、「おたくの製品は社会にとって迷惑だから生産量を減らしなさい。その代わり、
生産の減少による利潤の減少分を、政府が補助金を支給して補填してあげましょう」というわけで
す。これによって企業が生産量を減少したなら、取引は過剰ではなくなり、最適な資源配分を実現
することになります。
さて、補助金がもらえるのは生産量を減少させた場合ですから、逆に生産量を拡大させた場合に
は、もらえるはずの補助金を失うことになります。このような、ある機会選択を行うことで失うこ
とになる収入額のことを機会き か い
費用ひ よ う
といいます。経済学では、この機会費用も生産コストの一部と考
えます。したがって、生産減少に補助金を支給するという政策を行うと、生産拡大による追加的な
費用の増加が発生することになり、私的限界費用曲線(PMC)が生産量 1 単位当たりの補助金額
(s)の分だけ上方にシフトすることになるのです(右図参照)。
生産減少に補助金を支給する政策は、生産拡大に課税する政策と同様の政策効果を得ることがで
きるのです。
【生産量の拡大に税金を課す】 【生産量の減少に補助金を支給する】 P
X O
PMC
P
X O
t
PMC+t
PMC s
PMC+s
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18 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 11 回
■ 情報じょうほう
の非対称性ひたいしょうせい
まず注意しておきます。「情報じょうほう
の非対称性ひたいしょうせい
」という話は「不完全競争理論」の 1 つです。V 問題集
では 11 回目に掲載されていますので(№293、№294、№295)、ここで紹介します。
完全競争市場であるための条件の一つに「情報じょうほう
の完全性かんぜんせい
」というのがありましたよね? これは、
「売り手と買い手が持っている財に関する情報は同じ」ということを意味します。しかし、現実には
売り手と買い手が保有する情報は必ずしも均一ではなく、どちらかに偏っているのが普通です。
例えば、中古車が取引されている市場です。売り手である中古車ディーラーは、売ろうとしている
車に関する情報(事故歴があるヤバい車か、事故歴のない良質な車か)を完全に把握しています。一方、買い手(需
要者)は、店先に並んでいる車に関する情報はほとんど持っていないはずです。このような、売り手
と買い手が持っている情報が同じではない状況を情報じょうほう
の非対称性ひたいしょうせい
といいます。
このような情報の非対称性が市場に存在する場合、市場での取引はパレート最適なものにはなりま
せん。論点としては、以下の2つが重要です。
(1) 逆選択ぎゃくせんたく
(レモンれ も ん
の原理げ ん り
)
① レモンの原理
モデルを設定しておきましょう。中古車ディーラー(供給者)がN人存在するとし、各ディーラ
ーは各々1台の中古車を保有しているものとします。つまり、市場にはN台の中古車が存在するの
です。中古車には、事故車(レモンれ も ん
)のグループと良質な中古車(ピーチぴ ー ち
)のグループの2つがあ
り、それぞれの存在割合が 50%であるとします(N/2 台ずつ)。この下で、本来の各中古車の価
格(供給曲線上の最低限の保証価格)は、
レモン : P1(100 万円)
ピーチ : P2(200 万円)
であるとし、当然P1<P2という関係になっているとします。
おまけ (読む気になる方はどうぞ)
◆ 逆選択
ぎゃくせんたく
(レモンれ も ん
の原理げ ん り
)
⇒ 経済主体の財の品質に関する情報に非対称性がある場合。
◆ 道徳的どうとくてき
危険き け ん
(モラル・ハザード)
⇒ 経済主体の行動に関する情報に非対称性がある場合。
無断での複製・頒布を禁じます
19 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 11 回
中古車ディーラーは、中古車の品質に関する情報を完全に把握しています。一方、買い手である
需要者は、経験上、レモンとピーチの存在割合は知っていますが、個別のタイプについては識別す
ることはできないとします。つまり、存在割合は知っていても自分が選んだ車がどちらのグループ
に属するのかは判断できないのです。
さて、売り手であるディーラーは、良心的な業者であろうと悪徳業者であろうと、提示してくる
価格は常にP2(200 万円)です。良心的な業者は正直に「この車は“ピーチ”ですから 200 万
円です」と言い、悪徳業者は裏で舌を出しながら同じことを言うでしょう。
一方、この状況は需要者側からすれば、確率が分かっている下で“くじ”を引くようなものです。
ハズレくじを引くかもしれないという不確実性に直面したとき、需要者はディーラーが提示する価
格に素直に従うことはできません。そこで、需要者は確率に応じた期待き た い
価格か か く
(Pe)(確率に応じた平均
値)を提示します。存在割合(確率)はそれぞれ 50%(0.5)ですから期待価格は、
Pe=0.5P1+0.5P2
=0.5×100(万円)+0.5×200(万円)
=150(万円)
となります。要するに、「100 万円で売ってくれ!」というとレモンを掴まされそうだし、提示通
りに 200 万円出す勇気もないため、レモンとピーチの間の価格を提示するのです。先の最低限の
保証価格との関係は、
P1<Pe<P2
となります。
さて、このときの中古車の需要曲線と供給曲線を描いてみましょう。
需要曲線(D)
供給曲線(S)
P
O N
Pe
中古車
A
E
N/2
P1
P2
レモン(N/2) ピーチ(N/2)
B
●
●
●
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20 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 11 回
市場全体の中古車の供給量はN台であり、本来、価格P1の下でレモンが供給され(N/2台)、
価格P2でピーチが供給されます(N/2台)。よって、供給曲線は以下に示すような階段状の右上
がりの形状を持つことになります。
一方、需要者は情報が不完全な状況下においては常に期待価格(Pe)で需要しようとしますから、
需要曲線は期待価格Peの水準で水平的な形状で描くことができます。
需要と供給が一致するのは図におけるE点です。したがって、この市場で取引されるのはレモン
のN/2台となります。
需要者が提示する期待価格Peの下ではピーチの供給を意図していた良心的なディーラーはまっ
たく商売になりません。期待価格Peがピーチの価格(P2)を下回るからです。よって、ピーチの
供給を意図する供給者は、長期的にはこの市場から退出(撤退)してしまいます。すると、レモン
とピーチの存在割合が変化し、需要者が提示する期待価格は次第に低下していきます。例えば、レ
モンの存在割合が 70%(0.7)、ピーチの存在割合が 30%(0.3)になったとすると、
Pe´=0.7×100(万円)+0.3×200(万円)
=130(万円)
となります。このような形で需要曲線がP1に向けて下方にシフトしていくことになります。最終的
には、中古車ディーラーは悪徳業者のみとなり、取引される中古車もレモンのみとなってしまいま
す。
通常は、市場での競争にさらされて良質でないものが淘汰されるものです。しかし、市場に情報
の非対称性が存在すると、逆に良質なものが市場で淘汰されてしまう結果になってしまうのです。
これが逆選択ぎゃくせんたく
という状況です。経営学などに登場する「悪貨は良貨を駆逐する」というグレシャムぐ れ し ゃ む
の法則ほうそく
というのをご存知の方も多いのではないでしょうか。これも同じロジックです。
② シグナリング
この逆選択という問題は、良心的なディーラーにとっては大問題です。どんなに「私達は、お客
様の信頼に応えます!」と力説したところで問題の根本的な解決にはなりません。逆選択という問
題を回避する手立てはないのでしょうか。
逆選択の問題点は、情報の非対称性によって需要者が中古車の個別のタイプを識別できず、素直
に価格に従うことが出来ないところにあります。
そこで良心的なディーラーは、自己が供給する財は良質であるという価格に代わる“シグナル”
を需要者側に送ればよいのです。例えば、売却後一定期間内については無料保証サービスを付ける
という方法があります。この無料保証がここでいうシグナルです。ピーチの供給を意図するディー
ラーは、車が故障を起こす確率が極めて低いことを確信しているため、このようなサービスを付け
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21 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 11 回
ることができます。一方で、レモンの供給を意図する悪徳ディーラーはこのようなサービスを付け
ることはできません。需要者は、これを価格に代わるシグナルとして行動すれば、レモンをつかま
される危険性は回避できるというわけです。これ以外には、ブランドやチェーン店などがシグナル
としての機能を果たすことが考えられます。
(2) 道徳的危険(モラル・ハザード)
若干ズレますが、イメージをお話ししておきましょう。
資格取得のための専門学校では、受講生サービスの一環として“講義レジュメ”を配布します。こ
れは、受講生が板書をノートにとる手間を省き、授業内容に集中してもらうために講師が作成します。
講師としては、「試験合格に必要な知識は全部まとめた! 板書なんかとらなくていい! 授業に集中
してほしい!」という気持ちで配布します。ところが、受講生の側では、「あ~眠いな~。寝ちゃおう
かな…。必要なことはレジュメに全部書いてあるし、後で見ておけばいいか。寝ちゃおう…ZZZ」って
な感じで、授業中に寝てしまったりする人がいるのです。これでは講師の側ではレジュメを作った時
間と紙の無駄、受講生の側では授業時間と教室まで来るのにかかった交通費の無駄になります。これ
がモラル・ハザードと呼ばれる現象です。
モラルも ら る
・ハザードは ざ ー ど
とは、契約後、契約相手の行動が監視できないために、契約相手が注意や仕事を
怠るようになり、資源の浪費が発生することをいいます。いくつか試験に出そうな事例を挙げておき
ましょう。
① 保険契約
モラル・ハザードを最も端的に表すのが保険契約です。
例えば、医療保険に入ったことで加入者は些細なことで医者に通い、結果として保険会社の保険
金支払いが多くなります。「折角入ったんだから、使わなきゃ損!」という加入者の行動が、保険金
の過剰支払いをもたらすのです。
自動車保険や老人医療の無料化もモラル・ハザードを引き起こします。自動車保険は本来車に乗
るべきでない人の公道デビューを可能にし、老人医療の無料化によって病院の待合室はお年寄りの
社交場と化します。数多くの損害、無駄を発生させます。
仮に、保険会社等が契約後の加入者の行動を監視でき、加入者の行動に関する情報が完全であれ
ばモラル・ハザードは回避できます。人為的に事故率を高めているような加入者に対しては、保険
料を引き上げたり、保険金の支払いを拒絶したりするなどの措置を講ずることができるからです。
しかし、実際には監視のための費用は非常に高くつき、保険金の最適配分は難しいと言わざるを得
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22 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 11 回
ません。
② 固定給契約
例えば、営業マンを固定給契約で雇用するとしましょう。会社の側は「従業員の生活を保障し、
安心して仕事に取り組んでもらいたい」という気持ちで固定給を支給するのでしょう。
しかし、営業マンは効用を最大にするように行動します。効用を高めるのは余暇よ か
と所得しょとく
であって、
労働供給は効用を低下させてしまいます。よって彼等にとっては、日中はマンガ喫茶で時間をつぶ
し(終日余暇、労働供給ゼロ)、固定給(所得)はしっかり貰う、という行動を選択することが合理
的です。これは賃金の過剰支払いになり、モラル・ハザードの一例になります。これを回避するに
は、歩合給などのインセンティブ契約を導入することが有効です。
③ 預金保険機構によるペイオフ制度
これは、銀行が破綻しても預金保険機構の積立金から預金者に一定額(1,000 万円まで)が払い
戻される制度です。このような制度がなければ、銀行が破綻したら預金は戻ってきませんから、嫌
でも銀行経営に関心を持つようになるでしょう。
しかし、この制度があることで預金が保護されていることに安心し、銀行経営に関心を持たなく
なります。すると、銀行経営者は預金者からの監視がないので放漫経営を行う可能性が高くなって
しまいます。これはまさしく、銀行経営者の行動に関する情報の非対称性が引き起こす問題で、モ
ラル・ハザードの一例になります。
以 上
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