子ども虐待の理解と支援 ーこころとからだに与える...

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子ども虐待の理解と支援 ーこころとからだに与える影響ー

信州大学医学部附属病院 子どものこころ診療部

原田 謙

救急医療,小児科,形成外科,整形外科,産婦人科に

進もうと考えているあなた!特によく聞いていて下さい !!

Mental Health Clinic for Children Shinshu University Hospital

児童相談所における子ども虐待相談件数

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↖児童虐待防止法施行

↙66807件

虐待の分類と頻度

身体的虐待 (46%)

ネグレクト (38%)

心理的虐待 (13%)

性的虐待 (3%)

@ DVの目撃

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虐待者

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実母 63% 実父 23% 義父 7% 義母 2%

虐待が身体に与える影響

虐待による外傷・熱傷

以下の状態が同時に複数存在,あるいは反復して存在

外傷(痕),火傷(痕),骨折,誤飲,事故(含溺水)

境界が明瞭な,パターン化している,新旧混在している外傷(痕),火傷(痕)

保護者が述べる受傷理由で説明できない外傷(痕),火傷(痕)

多数の虫歯,口腔内熱傷,乳児の骨折・頭部外傷

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虐待によって ケガをし やすい部位

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虐待による熱傷

外部から見えにくい部位

大腿,腋窩,臀部など

境界が明瞭

小円形(煙草,シガーライター),棒状(カールゴテ),三角形(アイロン)

熱傷面が一様の重症度,splash burnではない

回避行動を取らない

特異な形状を取る

手袋状・靴下状,ドーナツ現象

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乳幼児の頭部外傷

骨折

通常の骨折は縫合線を超えない!

⇔ 虐待による骨折は多発,複雑,陥没,解離骨折

頭蓋内出血

硬膜外血腫=通常の事故でも起こる

硬膜下血腫=交通外傷以外は起こりにくく虐待が多い

Shaken Baby Syndrome(揺さぶられ乳児症候群)

・乳幼児を揺さぶることによる暴力的なむち打ち状態

・直後からの意識障害,嘔吐,痙攣,呼吸障害

・橋静脈の破綻による硬膜下出血

・網膜出血(眼底所見を取る)

・びまん性軸索損傷 ⇒ びまん性脳浮腫

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Shaken Baby Syndrome(揺さぶられ乳児症候群)

・乳幼児を揺さぶることによる暴力的なむち打ち状態 ・直後からの意識障害,嘔吐,痙攣,呼吸障害 ・橋静脈の破綻による硬膜下出血 ・網膜出血(眼底所見を取る) ・びまん性軸索損傷 ⇒ びまん性脳浮腫

ネグレクト 栄養ネグレクト

⇒ 体重増加不良,栄養失調,脱水症

衛生ネグレクト

⇒ 汚い身なり,体臭,湿疹,う歯

情緒ネグレクト

⇒ 低身長,低体重,反応性愛着障害

環境ネグレクト

⇒ 家や車に放置

医療ネグレクト

⇒ 必要な健診を受けない,重篤な疾患で薬を飲まさない

@ネグレクトを察知しながら通告を行わないのは,専門職によるネグレクトと言われても仕方ありません。

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・虐待を受けた子どもは発育が遅れることが多くみられる。

・十分な食事や栄養が与えられないため発育不良には当然だが、保護されて栄養が十分に与えられるようになっても、発育が十分になされないことも少なくないといわれている。

・これは、幼いころから虐待を受け続け、養育者から愛情を注がれなかった心理的影響が発育面にも影響を及ぼすと考えられている(母性剥奪症候群)。

身体的発育への影響

・頭を殴打される、強く揺さぶられるといった頭部への外傷を加えられることにより、脳や神経系に障害が加えられた結果、知的障害やてんかんになることがある。

・そのような傷害を加えられなかった場合でも、親から虐待を受け続けたことによる心理的な影響や、発達に不可欠な幼少期の好奇心を満たす「遊び」が暴力的に抑圧されるため、知的な発達が遅れると言われている。

知的発達への影響

The more categories of trauma experienced in childhood, the greater the likelihood of experiencing: • smoking • obesity • alcoholism and alcohol abuse • illicit drug use • multiple sexual partners • risk for intimate partner violence • unintended pregnancies & fetal death • depression • chronic obstructive pulmonary disease (COPD) • ischemic heart disease (IHD) • liver disease • sexually transmitted diseases (STDs) • suicide attempts

健康への影響 ACE studyから

虐待がこころに与える影響

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不適切な養育の罪悪

1. 守られるべき大人から受けるトラウマ

2. 日常で繰り返されるトラウマ体験

3. 発達の途上で起きるトラウマ

4. 癒しの場の欠如

@特に性的虐待はこころへの影響が深刻

子ども虐待に認められた併存症(N=916,杉山)

併存症 合計 % 広汎性発達障害 244 26.6 注意欠陥多動性障害 153 16.7 その他の発達障害 86 9.4 反応性愛着障害 418 45.6 解離性障害 434 52.3 PTSD 308 33.6 反抗挑戦性障害 133 18.3 行為障害 267 29.1

発達障害

虐待の後遺症群

非行群

愛着の障害 ・最も愛されるべき親から愛されず、逆に虐待を受け続けた結果、人を信用することができず、うまく周囲の人と人間関係を作っていくことが困難になることが多い。 ・慢性的な愛情飢餓の状態にあるため、自分の要求を受入れてくれそうな大人に対して、距離感なくべたべたしたり(脱抑制型)、逆に対人関係を拒否したりする(抑制型)。 ・際限なく要求をしたり、自分の要求を受入れてもらえないと教室から飛び出すなどわざと相手を怒らせ振り回す言動をとる(試し行動)。 ・「虐待関係の反復傾向」が生じることがある。これは、虐待を受けた子どもが虐待した親以外の大人に対しても挑発的態度や反抗的態度をとり,神経を逆なでさせ,自ら「虐待的関係」を引き起こしてしまう傾向をいう。 ・これらの背景には、虐待を受けた子どもは虐待的関係以外の大人とのかかわりあいを知らないという事情や,安定した信頼関係を築くことへの恐れや不安・不信が存在すると考えられている。

解離性障害

・解離は本来、自分自身を苦痛や悲しみ、攻撃から守る自我防衛機制としての働きを持つ。過去に虐待やいじめ、暴行といった外傷体験をして受けた耐え難い苦痛や無力感、絶望、悲しみといった感情を伴う記憶を,解離を用いる事で自分とは関係がないものとして切り離してしまう

・『静かな室内で、好きな音楽を聴きながら空想に耽っている』、『好きなアーティストのライブで、大音量の音楽を聴きながら恍惚感を感じて陶酔している』などの正常な解離もある。

・解離の程度が、質的にも量的にも激しくなり、周囲の生活環境に適応できなくなった場合『解離性障害』と呼ばれる。

・健忘,遁走,人格障害

心的外傷後ストレス障害(PTSD)

・虐待されたことを繰り返し突然に思いだし、苦痛を感じる。悪夢,フラッシュバック(侵入症状)

・虐待に関連する事項、人、活動などを回避する (回避症状) ・活動性の低下,感情の麻痺,希望の欠如(麻痺症状) ・ささいな刺激で非常に激しい怒りを持つ。

その怒りを暴力的衝動や破壊的行動で表現したり、あるいは自傷する

不眠,易怒性,集中困難(過覚醒症状群)

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攻撃性

虐待を受け続けた子どもはそうでない子どもに比べ強い攻撃性を持つことがある。これは心理的に2つの理由があると言われています。 ・親との同一化 虐待された子どもは,親からの暴力に対して無力感や絶望感を強くもつようになる。無力感や絶望感は抑うつ気分を引き起こす。それを防衛するために、自分を虐待した親と同一化し、暴力をふるうようになってしまうということが考えられる。 ・解決方法の学習 親が子どもに対して殴るなどの虐待行為を行うのは、トラブルの解決方法として暴力をふるうという面がある。虐待を受けた子どもは親からトラブルの解決方法として暴力をふるうことしか学習しておらず、それを自分も利用するようになってしまうと考えられる。

反社会的行動

・反抗挑戦性障害:かんしゃくをおこす、大人と口論をする、大人のいうことをきかない、わざと他人を怒らせる、意地悪で執念深い、おこりっぽい、いらいらしやすい、自分の失敗を人のせいにする など生意気な子ども達

・行為障害:触法行為、残虐行為など非行を繰り返す子ども達

・DBDマーチ

加齢

ADHD(発達障害)

反抗挑戦性障害

素行障害

反社会性 人格障害

・人は生まれてから数年間で、親から愛され慈しみを受けて育てられることにより、人や社会一般に対して基本的な信頼関係を持ち、自分に自信を持つことができると言われている。

・幼少期に虐待を受け続けた場合には、人や社会に対して信頼関係を持てない。

・自分に自信を持つこともできず、繰り返し親から「お前は悪い子だ、だめな子だ」といわれ続けた影響も受け、劣等感や無力感を持ち、自分に対する評価が低くなる

⇒リストカット,自傷,自殺企図,いじめ,不登校,家出,自殺

摂食障害,依存症,うつ病・双極性障害,人格障害

健康な自己愛が育たない

子ども虐待の早期発見、早期介入をこころがけ

子どもたちの笑顔を取り戻しましょう

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おまけ ー虐待を疑う所見と対応ー

虐待を疑うX線所見

年齢>虐待による骨折の90%は2歳未満

=2歳未満の骨折はそれだけで虐待を疑う

⇒2歳未満なら全身骨X線撮影を行う

部位>虐待による骨折は,骨幹端骨折,胸骨,肋骨(背部の肋骨脊椎接合部),棘突起,肩甲骨,鼻骨などの骨折が多い

受傷機転>骨幹端骨折,らせん状骨折,鉛管骨折

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虐待を疑う行動の問題

幼児

無差別な対人希求,対人希求が乏しい,乱暴な言動,

ガツガツ食べる,盗み食い

小学生

単独での非行(金銭の持ち出し,人を騙す,万引きなど),

動物虐待,集団からの逸脱,容赦のない攻撃的な言動

中高生

酒,タバコ,怠学,夜間徘徊,家出,暴力行為

年齢不相応な性的行動

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虐待が疑わしい親の特徴

子どもを見る目が険しい・冷たい,「嫌いだ」と言う

状況の説明に一貫性がなく,矛盾してる

以前から症状が出ているのに受診が遅れがち

子どもについて,誤った確信を持っている

体罰容認,育児マニュアルに固執など

周囲の人間と衝突を繰り返している

医師の診断・治療に関心を示さない/拒否する

親自身に虐待された既往がある

母親が父親からDVを受けている

@虐待している親を責めたり罰する態度ではなく,支援が必要な親だという認識が必要

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虐待を疑ったら・・・

1.「虐待」という言葉は使わない

2.虐待についての告白,故意かどうかなどを無理に聞き出そうと

しない

3.親の説明を曖昧,不自然だと感じても,ひとまずは受け入れる

4.親の苦労をねぎらい,必要な検査,処置を進めていく

5.身体的問題に対応するという態度を一貫させる

6.自宅に帰すかどうかの判断を行う

7.児童相談所への連絡を行う

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自宅に帰せない場合

帰せない状況

・入院を必要とする外傷,熱傷,重篤な身体状況

・複数の外傷,熱傷

・点滴が必要な脱水,栄養障害

・性的虐待

・親が「殺してしまいそう」と述べる,または,医療者が感じる

「身体的問題に対して」入院させる

自施設が満床の場合は,他施設へできるだけ救急車で送る。家族には他院に後ほど電話を入れることを告げておく。 他院には虐待疑いであることを連絡しておく

医療福祉支援センター(虐待対応委員会)に連絡

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親が入院を拒否する場合

生命の危険があるにもかかわらず入院を拒否する場合は、 診療科長に報告の上、再度入院を説得する

それでも入院を拒否された場合、警察への通報に関して児童相談所に相談し判断に従う。

以上の経緯を詳しくカルテに記載する

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自宅に帰す場合

「帰せない状況」以外は治療後帰宅させる

必ず次回の診療を約束させる

「経過が心配なので,受信されない場合はこちらから連絡を入れることがあります」と告げ,親の携帯電話番号を聞いておく

医療福祉支援センターに連絡し,対応を協議する

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児童虐待の通告

虐待を疑った場合には通告する義務がある

(児童虐待防止法5条)

虐待の通告は医師の守秘義務違反には当たらない

(児童虐待防止法6条)

虐待かどうかの事実を確認する必要はない

「おかしい」と思った時点で連絡する

連絡することに関して,親に告知したり,同意を取る必要はない

医療福祉支援センターに連絡し,対応を協議する

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参考資料

子ども虐待診療手引き(日本小児科学会HP)

http://www.jpeds.or.jp/guide/index.html

子ども虐待対応の手引き 日本子ども家庭総合研究所編 有斐閣

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