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社会性の認知脳メカニズム
明治大学理工学部
嶋田総太郎
第28回全脳アーキテクチャ勉強会@SmartHR Space(六本木) 2019年12月6日
自己紹介• 嶋田総太郎
– E‐mail: sshimada@meiji.ac.jp
• 明治大学理工学部電気電子生命学科 教授– 慶應義塾大学大学院理工学研究科 計算機科学専攻 修了– 東京大学大学院総合文化研究科 研究員– 明治大学理工学部 専任講師~准教授~教授
• 身体性と社会性の認知脳科学– 脳機能イメージング(NIRS, EEG, fMRI, tDCSなど)
• 主な著書– 「認知脳科学」、コロナ社.(2017)– 「脳のなかの自己と他者-身体性・社会性の認知脳科学と哲
学」、共立出版. (2019) 他
本日の内容• ミラーニューロンシステム
– 運動レパートリー
– 目標志向性
– 模倣
– ロボット観察時の活動
– エラー観察時の活動
– 応援
• ミラーシステムのモデル– Direct Matching– Teleological Reasoning– Predictive Coding
• 心の理論
• 他者が運動しているのを見ているときと、自分が同じ運動をしているときとで同じように活動する
ミラーニューロン
Rizzolatti (2001) Nat Rev Neurosci
Di Pellegrino et al., 1992; Rizzolatti et al., 1996
⇒ 自己と他者の共通表象
ミラーニューロンシステム
頭頂葉運動野体性感覚野
• 脳内では自己と他者の感覚運動表現がオーバーラップしている
シミュレーション仮説
他者の行為を理解するために、自分があたかも同じ行為をしたかのようなシミュレーションを脳内で行っている
経験による影響(運動レパートリー)
• 運動学的には非常に似ているが、異なる2つの運動– バレエ vs. カポエラ
• 自分が習熟した運動を見ているときのほうがミラーシステムは強く活動する
Calvo‐Merino et al. (2005) Cereb Cortex
目標志向性• 目標物体があるほうがMNSの活動は大きい
• 目標が直接見えない位置にあっても同様
Umilta et al. (2001) Neuron
目標志向性
• ミラーニューロンは、実際の運動ではなく、その運動の目標をコードしている
• 運動学的には異なる運動でも、目標が同じであれば活動する
Umilta et al. (2008) PNASRizzolatti & Sinigaglia (2010) Nat Rev Neurosci
[Vogt et al., 2007]
模倣学習[Vogt et al., 2007]
• ギターのコードの押さえ方を学習
• 練習したコードを押さえている手を見るときよりも、練習していないコードを見ているときのほうが運動野の活動が高い
キネマティクス人間
人間
ロボット
ロボット
外見
ロボット観察時のミラーシステムの活動[Shimada, 2010]
• 外見とキネマティクスが一致しているとき(人間、ロボット)にMNSの活動が見られた
• 人間のモデルがロボット的な動きをしたときにMNSでDeactivationが見られた
[Shimada, 2010] Brain & Cognition
Aglioti et al. (2008) Nat Neurosci
プロスポーツ選手の脳活動
・ プロバスケット選手、コーチ、一般人・ フリースロー(成功or失敗)の観察・ 観察中にTMSを運動野に与え筋電を
計測・ 選手のみ、成功と失敗で有意差
[Shimada, 2009]
野球観戦における運動野の活動(Shimada, 2009)
• 野球経験者(野手、N=12)• バッターがアウトになるときのほうが運動野の活動が高い
[van Schie et al., 2004]
エラー観察時の運動野の活動減衰
他者の運動エラーを観察したときは、正しい運動を観察した時よりも運動野の活動が低下する
応援とミラーシステム
人々はなぜ応援するのか?なぜ応援は楽しいのか?
どのようにして選手との一体感をもたらすのか?
結果を伴う行為を見ているときのミラーシステムの活動(Shimada&Abe, 2009)
じゃんけんの映像
• 手前の手が勝つ、負ける、あいこで脳の活動は変わるか?• 手前の手を「応援」するように指示
結果• 勝ちで最も強い脳活動が見られた• 勝ち>負け、引き分け(P<0.05)
ミラーシステムの活動は、応援している他者の行為が望ましい結果を生み出すときに強くなる
腹内側前頭前野(報酬系)
[Shimada et al., SCAN, 2016]・ミラーシステムは、応援しているプレイヤーとの主観的な「一体感」の強さと相関した活動を示した(r=0.334, p<0.05)
左運動前野(ミラーシステム)
・ 報酬系の活動は応援してい
る他者が成功したときの方が失敗したときよりも強かった(p<0.05)。
・応援していた他者に対して、報酬系とミラーシステムの間に強い機能的結合が見られた(p<0.01)
応援は代理報酬を促進し、このときにミラーシステムと報酬系の機能的結合も高まる
応援とミラーシステム
応援時の2者同時脳活動計測
応援はプレイヤーと観察者のミラーシステムの機能的結合を促進する→ We-mode(われわれ感、⼀体感)
[Koide & Shimada, 2018] (日本心理学会優秀論文賞)
本日の内容• ミラーニューロンシステム
– 運動レパートリー
– 目標志向性
– 模倣
– ロボット観察時の活動
– エラー観察時の活動
– 応援
• ミラーシステムのモデル– Direct Matching– Teleological Reasoning– Predictive Coding
• 心の理論
Direct Matching仮説 (Rizzolatti, 2001)
Rizzolatti (2001) Nat Rev Neurosci
• 他者運動の感覚的(視覚、聴覚、他)入力は、自己の運動表現を’Direct’に賦活させる
– 認知的なパスは必ずしも必要ない
Associative Sequence Learning (ASL)(Heyes, 2001)
• MNSは一般的なvisuomotormappingの派生物にすぎない
• 新生児模倣はどうやって説明できるのか??
[Heyes, 2010]
Teleological Reasoning (Csibra, 2007)
• Direct matching仮説に則ると、われわれはまずMNSによって
他者の運動を脳内に再現した「後で」、その行為の意味を理解する
• ところが様々な研究(特に発達心理)が、模倣や他者行為の理解において、必ずしも他者の運動表現を忠実に再現する必要がないことを示している。
合理的模倣 Rational Imitation
• 14ヶ月の乳児は、模倣することが合理的な場合にだけ模倣する(Gergery et al., 2002)
失敗した行為の模倣
• 18ヶ月児は、大人の失敗した行為の意図を的確に読み取って「正しく」模倣する (Meltzoff, 1995)
• Direct matchingではなく、他者の意図を読み取って模倣を行っている
Teleological Reasoning (Csibra, 2007)
• Direct matching仮説に則ると、われわれはまずMNSによって
他者の運動を脳内に再現した「後で」、その行為の意味を理解する
• ところが様々な研究(特に発達心理)が、模倣や他者行為の理解において、必ずしも他者の運動表現を忠実に再現する必要がないことを示している。
• 他者の目的の理解(teleological reasoning)がまずあって、そこから運動表現へ賦活が波及する
Teleological Reasoning (Csibra, 2007)
• Top‐downの「emulation」または「action reconstruction」– Emulation:他者の
「目的」の模倣。手段は必ずしも模倣しなくて良い
• Direct matchingが低
次の運動理解とすれば、teleological reasoningは高次の運動理解
Predictive Coding (Kilner, 2007)• 運動制御の回路(Forward model)がMNSとして利用されている
• MNSの主な機能は「運動予測」
• ‘Prediction error’が運動目的の推論プロセスを始動させる
本日の内容• ミラーニューロンシステム
– 運動レパートリー
– 目標志向性
– 模倣
– ロボット観察時の活動
– エラー観察時の活動
– 応援
• ミラーシステムのモデル– Direct Matching– Teleological Reasoning– Predictive Coding
• 心の理論
「心の理論」
• 個体が他の個体が見ていることや感じていること、考えていることを理解し、それに基づいて他個体の行動を予測できる能力– チンパンジーはバナナの隠してある
場所を誰に聞くか?(プレマック&プレマック、2002)
• サリー・アン課題– 誤信念課題
– 現実とは異なる心的状態を他者は持ちうることの理解
– チンパンジーにはできない– 人間も4歳ころまで正解できない– 自閉症スペクトラム児には困難
誤信念 (false-belief) 課題
「心の理論」の脳領野
Carrington et al. (2009)
• 内側前頭前野 93%• 帯状回前部 55%• 側頭頭頂接合部(TPJ) 58%• 上側頭溝(STS) 50%• 扁桃体 38%
Amodio & Frith (2006) Nat Rev Neurosci.
上側頭溝
TPJ
内側前頭前野(mPFC) 帯状回前部(ACC)
共感の2つのシステム
• 情動的共感 emotional empathy– 他者の情動状態の知覚が、ダイレクトに自己の情動状態を同じように変化させる
– 無意識的・自動的な模倣から引き起こされる
• 認知的共感 cognitive empathy– 他者の視点取得 perspective taking– 意識的な努力が必要
– 「心の理論」
2つの共感システムの二重乖離
• 情動的共感システム
– ミラーシステム(運動前野)損傷群
• 認知的共感システム
– 「心の理論」領野(vmPFC)損傷群
→ IRIのスコアおよび認知課題成績に有意差
情動的共感と認知的共感は異なるシステム(二重乖離)
IFG
vmPFC
PCShamay‐Tsoory et al., 2009, Brain
自己と他者の脳内表象
Keysers & Gazzola, 2007 TICS
内側前頭前野(mPFC) 帯状回前部(ACC)
第1章 自己とは何か
第2章 世界の中の自己
第3章 感じる自己
第4章 ミラーシステム
第5章 脳のなかの「他者」
第6章 共感からwe‐modeへ
第7章 プロジェクションと物語的自己
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