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生物多様性の定量化
松石 隆
生物多様性とは
生物の多様性に関する条約 Convention on Biological Diversity(CBD)
1992年5月22日、ナイロビ(ケニア)で採択 2010年6月現在、192か国及び欧州連合(EU)が締結 。ただし、米国は未締結。
条約の目的 (1) 生物多様性の保全 (2) 生物多様性の構成要素の持続可能な利用 (3) 遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分
生物多様性とは
生物多様性とは、生きものたちの豊かな個性とつながりのこと。
地球上の生きものは40億年という長い歴史の中で、さまざまな環境に適応して進化し、3,000万種ともいわれる多様な生きものが生まれた。
これらの生命は一つひとつに個性があり、全て直接に、間接的に支えあって生きている。
生物多様性条約では、3つのレベルで多様性があるとしている。
http://www.biodic.go.jp/biodiversity/wakaru/about/index.html
3つの多様性
生態系の多様性 森林、河川、湿原、干潟、サンゴ礁…
種の多様性 動植物から細菌などの微生物…
遺伝子の多様性 同じ種でも異なる遺伝子を持つ
http://www.biodic.go.jp/biodiversity/wakaru/about/index.html
生態系サービス
私たちの生活の中で当たり前と思っていることの多くが、生物多様性のたくさんの恵み(生態系サービス)の上に成り立っている
http://www.biodic.go.jp/biodiversity/wakaru/about/index.html
すべての生命の存立基盤
酸素の供給 ・気温、湿度の調節 ・水や栄養塩の循環 ・豊かな土壌
植物が酸素を生み、森林が水循環のバランスを整えるなど、生命の生存基盤は多くの生きものの営みによって支えられています
http://www.biodic.go.jp/biodiversity/wakaru/about/index.html
暮らしの基盤
食べ物 ・木材 ・医薬品 ・品種改良 ・バイオミミクリー(生物模倣)
毎日の食卓を彩る野菜などの食料はもちろん、新聞や本などの紙製品や医療品など、生きものの遺伝的な情報、機能や形態も私たちの生活の中で利用されています。
http://www.biodic.go.jp/biodiversity/wakaru/about/index.html
豊かな文化の根源
地域性豊かな文化 ・自然と共生してきた知恵と伝統
海に囲まれ、南北に長い国土と季節の変化に富む日本では、地域ごとに異なる自然と一体になって地域色豊かな伝統文化が育まれてきました。
http://www.biodic.go.jp/biodiversity/wakaru/about/index.html
自然に守られる私たちの暮らし
マングローブやサンゴ礁による津波の軽減 ・山地災害、土壌流出の軽減
豊かな森林や河川の保全は安全な水の確保や、山地災害の軽減、土壌流出防止など、私たちが安心して暮らせる環境の確保につながります。
http://www.biodic.go.jp/biodiversity/wakaru/about/index.html
生物多様性に迫る危機
日本の生物多様性は4つの危機にさらされている。
過去にも自然現象などの影響により大量絶滅が起きているが、現在は第6の大量絶滅と呼ばれている。
人間活動による影響が主な要因で、地球上の種の絶滅のスピードは自然状態の約100~1,000倍にも達し、たくさんの生きものたちが危機に瀕している。
第1の危機 開発や乱獲による種の減少・絶滅、生息・生育地の減少 鑑賞や商業利用のための乱獲・過剰な採取や埋め立てなどの開発によって生息環境を悪化・破壊するなど、人間活動が自然に与える影響は多大。
ヒメサユリ(新潟 田代平) ヤンバルクイナ(沖縄)
第2の危機 里地里山などの手入れ不足による自然の質の低下 二次林や採草地が利用されなくなったことで生態系のバランスが崩れ、里地里山の動植物が絶滅の危機にさらされています。また、シカやイノシシなどの個体数増加も地域の生態系に大きな影響を与えています。
荒れた竹林 エゾジカの食害(知床)
第3の危機 外来種などの持ち込みによる生態系のかく乱 外来種が在来種を捕食したり、生息場所を奪ったり、交雑して遺伝的な攪乱をもたらしたりしています。また、化学物質の中には動植物への毒性をもつものがあり、それらが生態系に影響を与えています。
外来種のアライグマ
外来種のオオクチバス 外来種のグリーンアノール (小笠原)
第4の危機 地球温暖化による多くの種の絶滅や生態系の崩壊 地球温暖化は国境を越えた大きな課題です。平均気温が1.5~2.5度上がると、氷が溶け出す時期が
早まったり、高山帯が縮小されたり、海面温度が上昇したりすることによって、動植物の20~30%は絶
滅のリスクが高まるといわれています。
高山帯に生息するライチョウ (富山 立山室堂)
サンゴの白化現象 (パラオ)
種多様性の評価
種多様性の例
アリ:アマゾンの流域の1本の木から43種。これはイギリス全土のアリの種数に匹敵(Wilson 1987)
顕花植物:全陸域の1.4%の面積に全顕花植物の44%の種数(13万種)が分布する(Myers et al. 2000)
底生無脊椎動物:ロシアのバイカル湖には580種。ほぼ同じ大きさのカナダのグレートスレーブ湖には4種。(Kozhov 1963; Sanders 1968)
種多様性 species diversityとは
ある地域、生息域に含まれる種組成の多様さ。 種数が多いほど多様-種の豊富さrichness 各種の組成が均等なほど多様-均等度 evenness
階層性
全生息域が複数の地域からなる場合、全生息域の多様性は、1つの地域の多様性と地域間の違いを合わせたものとなる
γ多様性: 全生息域の多様性 α多様性: 地域内の多様性 β多様性: 地域間の多様性(γ÷α)
γ多様度=2
α多様度=2
β多様度=1
γ多様度=3
α多様度=3
β多様度=1
γ多様度=2
α多様度=1
β多様度=2
生物多様性の測定
種の多様性の尺度
種多様性には豊富さと均等さが関係する 種の豊富さの指標:種数 種の豊富さは面積と関係が強い 補正のため、種数-面積曲線を用いる
均等さを含む指標:単純に比較できない 相対優占度曲線 多様度指数
種数面積曲線 species-area curve (Arrhenius 1921)
zCAS = S: 種数 A: 面積 C, z: 定数
AzCS lnlnln +=
相対優占度曲線 relative abundance curve
横軸に個体数の多い順に並べた種の順位 縦軸に相対優占度 全個体数に対するある種の個体数の割合
右に伸びているほど種が豊富(種数が多い) 傾きがなだらかなほど均等 比較が難しい場合も 種数が多いが傾きが急 種数が少ないが傾きがなだらか
多様度指数 diversity index
種の豊富さと種組成の均等さの両方を含んだ指標
数多く提案されているが、比較的使われるのは Shannnon-Wiener’s H′ Simpson’s D
Shannnon-Wiener’s H′
∑=
−=S
iii ppH
1ln'
pi: 相対優占度 S: 種数
計算例
549.0'=H
Species Abundance pi ln(pi) pi ln(pi) Sp. 1 1000 0.855 -0.157 -0.134 Sp. 2 100 0.085 -2.460 -0.210 Sp. 3 50 0.043 -3.153 -0.135 Sp. 4 20 0.017 -4.069 -0.070 Total 1170 1.000 -0.549
Shannnon-Wiener’s J′
均等度の指標 完全に均等な時の
H′ (H′max )との比
[ ] SSS
SH
HHJ
ln1ln
1max
max
=−=′
′′=′
計算例
396.0386.1549.0386.1ln
4549.0'
max
max
==′′=′==′
==
HHJSH
SH
Species Abundance pi ln(pi) pi ln(pi)
Sp. 1 1000 0.855 -0.157 -0.134 Sp. 2 100 0.085 -2.460 -0.210 Sp. 3 50 0.043 -3.153 -0.135 Sp. 4 20 0.017 -4.069 -0.070 Total 1170 1.000 -0.549
Simpson’s D
∑=
−=S
iipD
1
21
pi: 相対優占度 S: 種数
計算例 Species Abundance pi pi
2
Sp. 1 1000 0.855 0.731 Sp. 2 100 0.085 0.007 Sp. 3 50 0.043 0.002 Sp. 4 20 0.017 0.000 Total 1170 1.000 0.740
260.0740.01 =−=D
Simpson’s Dとα、β、γ多様度
βαγ DDD +=
∑=
−=S
iipD
1
21γ
−= ∑∑
==
S
iij
N
jj pqD
1
2
11α
( )∑ ∑= =
−=N
j
S
iiijj ppqD
1 1
22β
どの尺度を選ぶか
大きな面積での調査:種数 小さな面積での調査: 個体数の多い種に注目→D 個体数の少ない種に注目→H
群集A 群集B 群集C 種構成
種数 5 2 5
H’ 1.61 0.69 0.76
D 0.80 0.50 0.34
仮想数値例
事例紹介
Impacts of Biodiversity Loss on Ocean Ecosystem Services Science 3 November 2006: vol. 314 no. 5800 787-790
海洋生態系における崩壊した種数
◆年ごとの崩壊種数、▲累積崩壊種数 赤:種数が多い生態系、青:種数の少ない生態系
種の豊富さと生態系サービス
種の豊富さと、崩壊した種の割合、生産力
種の豊富さと生態系サービス
種の豊富さと、回復した種数、漁獲種数
種の豊富さと生態系サービス
種の豊富さと、漁獲量の変動係数、平均漁獲量
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