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天然物を用いたプラスチックの開発[東京理科大学 Ⅰ部化学研究部 ]吉永 順和、宮崎 拓也、村上 碧

1.目的および動機

2.実験

3.結果

①酢酸エチルを溶媒としてカルダノールをビーカー内で溶解した。

②3種のイソシアナートを1当量分だけ加えた。

③最後にアセチルセルロースを加え、

イソシアナートを介してカルダノールを付加した。

・マススペクトル分析フラグメントのマスナンバーから部分構造を予測して反応の進行を確認した。

・アントロン法セルラーゼを用いて、短時間でセルロース及びアセチルセルロースを分解した。これらをアントロン試薬により色の違いから生分解度を定性評価した。

•測定方法

・FT-IRスペクトル分析官能基の測定によって、ウレタン結合の確認をおこなった。

・2,2,4-THDI系ポリマー•反応時の様子・1,4-PPDI系ポリマー

②で微小な析出物が少量生じた。③でゼラチン状の沈殿物が多量生じた。

・4,4’-MBDI系ポリマー②で粒状の析出物が少量生じた。③で粒状の沈殿物が多量生じた。

②で析出物は生じていない。③で微量の白濁となり析出は生じていない。

3種の合成物すべてにウレタン結合を示すピークが存在した!

3310 cm-1・・・ヒドロキシ基 2850 cm-1・・・アルキル基

3100 cm-1・・・フェニル基 1740 cm-1・・・カルボニル基2270 cm-1・・・イソシアナート基

1550 cm-1・・・ウレタン結合(アミドⅡ吸収)黒線はアセチルセルロースのIRスペクトル

アセチルセルロース

3-ペンタデシルフェノール

(カルダノール)

2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート(2,2,4-THDI)

4,4’-メチレンビスフェニルジイソシアナート(4,4’-MBDI)

1,4-フェニレンジイソシアナート

(1,4-PPDI)

•合成手順

合成物の一例

付加するとウレタン結合が生じる。

•FT-IRスペクトル

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

14001900240029003400

波数[㎝-1]

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

14001900240029003400

波数[㎝-1]

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

14001900240029003400

透過率

[%]

波数[㎝-1]

しかし

ゴミ問題の一つ不法投棄や燃焼によるダイオキシン類

などの環境悪化

解決策に、生分解性プラスチックの使用と普及

生分解性プラスチックは、脆く十分な強度が兼ね備えておらず「実用には至っていない」

ナッツの殻成分(カルダノール)をウレタン結合でセルロースに付加したプラスチック開発

非可食部ベンゼン環による

強度増加ダイオキシン原因物質なし

•アントロン法による生分解性についてアセチル基の導入により生分解性が低下したと予想できる。これは酵素の基質特異性が高いことから、立体障害が大きく影響し反応性が変化したためと思われる。

•マススペクトル

•アントロン法

• 4,4’-MBDI系ポリマー242中 326中 561弱

• 1,4-PPDI系ポリマー242強 343強 474弱 529弱

• 2,2,4-THDI系ポリマー

185強 393弱 402弱 423強

マスナンバー:402

(合成物のマスナンバーを比較し、一致していない主な値と強度を示す。)

セルロースとアセチルセルロースを等量で目視による比色分析

4.考察•反応時の様子

実験開始した当初、ジイソシアナートとカルダノールを有機溶媒中で混合し、触媒として4-ジメチルアミノピリジンを加えた。この時速やかに白色結晶が生じた。これはイソシアナート基が加水分解し、アミンが生成したと考えた。そしてアミンとジイソシアナートが反応しポリ尿素が生成したと思われる。反応式は右の図に示す。対照実験として溶媒を水にすると、似た結果となった。ただし物質量の違いがあるためアミンによる黄色が見られた。

イソシアナートの加水分解

ポリ尿素の生成

•FT-IRスペクトルこの測定によってウレタン結合が生成したと言える。一般にウレタン結合(アミドⅡ吸収) は

1550 cm-1付近に現れるため、反応が進行したと推定できる。また、このピークはアセチルセルロースにはない。スペクトル上にイソシアナート基のピークも存在していたため未反応物があると思われる。残留物の除去方法を確立すべきだった。

•マススペクトル

マスナンバー:402 分子式:C26H45NO2+

セルロース アセチルセルロース

質量分析によって、私たちが合成した化合物の構造を大まかに理解する事ができた。まず、リニア式を用いてマスナンバーが12万程度まで観測された。アセチルセルロースを購入した際には平均分子量が4

万を選んだが、ジイソシアナートによる架橋反応が生じたと考えられる。またマスナンバーが4万から12万まで幅広く分布していたことから、分子間の水素結合による分子会合が生じたと思われる。得たマススペクトルからどのようなフラグメント構造があるか推定した。マスナンバー402に注目したところ、これは右図の構造式の分子量と一致しており、安定した構造であるから検出されたと考える。つまり生成物はこの部分構造を持っていると推定できる。IRによる情報とも併せて、カルダノールと2,2,4-THDI系が反応した結果、ウレタン結合が生じたと結論できる。

6.展望

・効率化と成形Arなどの不活性ガスで満たされた環境

下での実験と不純物の除去方法の確立を行い、高分子にどの程度付加したかを定量評価する必要もある。

そして、実用に向けた型の形成を試みたい。

・多糖類及びジイソシアナートの変更

使用用途に合わせたプラスチックの開発を目指す!

セルロースのアセチル化度の違いによる物理的性質の変化

セルロース誘導体、ジイソシアナートの様々な組合せの模索

・自然環境に基づく生分解

自然環境を反映していない

土壌や海水に埋め込む

CO2排出量と重量変化による評価

7.参考文献 ・“生分解性プラスチックの実際技術”,赤松清ほか,シーエムシー,2001年(第1刷)・“有機化合物のスペクトルによる同定法”,荒木峻ほか,東京化学同人,2007年(第7版)

・“実験化学講座14”,日本化学会,丸善,2005年(第5版)

5.結論

合成に成功

強度がある丈夫な

天然物によるプラスチック開発の見込みは十分に

ある!

FT-IRスペクトルから

ウレタン結合の形成を確認できた。

MSスペクトルから

ウレタン結合をもつ構造を確認できた。

アントロン法による生分解性の低下を定性的に確認できた。

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