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DCF法の考え方② 知的財産価値評価推進センター 評価人候補者研修
弁理士 松本浩一郎
2013年9月27日
1.DCF法の仕組み キャッシュフローと割引率の対応
調達資金と事業用資産
運転資本
固定資産
有利子負債 (Debt)
株式 (Equity)
事業用資産 調達資金
フリーキャッシュ
フロー
投資家
融資
出資
特許 商標
2 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
事業へ投資
事業の成果
配当金や利息として投資家へ分配
事業価値の二面性
「事業用資産」の価値と「有利子負債」および「株式」の価値は等しい
事業価値
有利子負債の価値
株式の価値
運転 資本
固定 資産
投資家から見た価値
事業用資産の価値
特許
商標
3 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎 4
三洋電機の事業用資産評価額(パナソニック買収時点)
パナソニックは三洋電機の普通株式の50.2%を
4,038億円で買収
事業用資産のうち無形資産が約1兆円
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎 5
GoogleはMotorola
Mobilityの普通株式の全部を125億ドルで買収
事業用資産の大部分が特許等の無形資産
モトローラの事業用資産評価額(Google買収時点)
DCF法とは
インカム・アプローチに属する価値評価方法 評価対象資産(事業用資産)から発生する、
評価基準日以降の将来キャッシュフローを、 当該キャッシュフローのリスクに応じた割引率で現在価値に割り引いて、
評価対象資産(事業用資産)の価値を評価する方法
理論的には、価値評価方法として最も合理的 将来予測に全面的に依存→客観性に欠ける 他の評価手法によるクロスチェック推奨
6 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
DCF法による事業価値評価
事業用資産から発生する将来キャッシュフローの割引現在価値が「事業価値」
キャッシュフローのリスクに対応した割引率で現在価値へ割引
残存価値 FCF
5
事業価値 FCF
4 FCF2
FCF3
FCF1
7 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
DCF法の計算式
前記の概念図を式に表すと以下のとおり
BVは事業価値(Business Value)
FCFnは各期のフリーキャッシュフロー
rは割引率
TVは残存価値(ターミナルバリュー:Terminal Value)
8 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
2.DCF法の2つの要素 フリーキャッシュフローと割引率
2013/9/27
フリーキャッシュフローとは
フリーキャッシュフロー(FCF)とは、事業用資産から発生するキャッシュフロー 事業開始時など、投資額が回収額を上回るときはFCFはマイナスになることもある
「フリー」とは、事業資金の調達先である債権者および株主に分配可能であるということ 債権者へのキャッシュフローは、借入金の金利支払いおよび元金返済
株主へのキャッシュフローは、株式配当金のほか自社株買いによる支出、有償減資による支出
10 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
割引率とは
DCF法で用いる割引率とは、評価対象資産から発生する将来キャッシュフローを、現在(または評価基準日)時点の価値に割引くために使用するもの
時間価値に相当する部分と、キャッシュフローに含まれるリスクを負担する部分を含む 時間価値部分は、リスクフリーレート リスクフリーレートを上回る部分は、リスクを引き受けることによって得られるプレミアム 貸付金の場合には、デフォルト(債務不履行)リスク
株式の場合には、事業リスク等すべてのリスク
11 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
キャッシュフローと割引率
FCFのリスク(割引率)は直接測定することができないので、株式と借入金の要求収益率(=割引率)を加重平均(Weighted Average)してフリーキャッシュフローの割引率としている
FCFと割引率(WACC)は事業用資産を介して対応
12 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
事業価値
有利子負債の価値
株式の価値
運転 資本
固定 資産
投資家から見た価値
事業用資産の価値
特許
商標
フリーキャッシュフローの計算
フリーキャッシュフローは一般的に以下の算式に沿って計算される FCF=営業利益ー営業利益に対する法人税額+減価償却費ー設備投資±運転資本増減額
法人税額については、営業利益に実効税率を乗じて算出 繰越欠損金がある場合には、その使用を考慮
減価償却費については、営業利益段階で控除されているものについて、実際のキャッシュアウトがないため足し戻し(減価償却費はキャッシュのインフローではない)
13 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
加重平均資本コスト(WACC)
WACCとは、Weighted Average Cost of Capital の略であり、加重平均資本コストという
Dは負債の時価
Eは株主資本の時価
kdは負債コスト
keは株主資本コスト
なお、(D+E)は前述のとおり事業価値に等しい
14 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
(参考)リスク調整後CF法
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎 15
一般的なDCF法では、将来キャッシュフローのリスクは割引率に反映
将来キャッシュフローの発生確率を合理的に設定できる場合には、将来キャッシュフローに発生確率を乗じることにより、直接リスクを反映することが可能 創薬事業に関するキャッシュフローの評価や、クレジットデフォルトスワップ(CDS)の評価で用いられる
リスクの反映方法 割引率
通常のDCF法 割引率に反映 リスクフリー+リスクプレミアム
リスク調整後CF法 キャッシュフローに反映 リスクフリー
3.FCFの計算 事業から発生するキャッシュフローの把握
2013/9/27
FCFを求めるステップ
1. 事業計画の入手
2. 営業利益および法人税額
3. 減価償却費および設備投資
4. 運転資本投資およびその増減額
5. フリーキャッシュフロー
17 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
Step 1. 事業計画の入手
キャッシュフロー算定の基礎となる事業計画は、(原則として)クライアントから入手
事業計画を作成するに当たっての前提条件の合理性や、事業計画の達成可能性を確認・検証することは困難
仮に、弁理士が事業計画作成を支援する場合でも、最終的に依頼人の確認を得て使用(作成責任は依頼人)
ただし、事業計画の前提条件については、専門家として分析・検討し、その結果を報告書に記載
18 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
Step 1. 事業計画の入手(続)
事業計画の利用に関する留意事項を記載
(記載例)◯◯特許事務所は、×××の算定に際し、△△会社から提供を受けた情報、一般に公開された情報等を原則としてそのまま採用し、それが全て正確かつ完全であることを前提としております。
(記載例)◯◯特許事務所は、提供を受けた情報等について、独自にそれらの正確性および完全性の検証を行っておりません。
(記載例)対象会社の財務予測については、対象会社の経営陣により現時点で得られる最善の予測および判断に基づき、合理的に作成されていることを前提としております。
19 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
20
事業計画の例
(出所:筆者作成)
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
Step 2. 営業利益および法人税額
各期の営業利益に、当該各期の実効税率を乗じて法人税を算出し、それを控除して税引後営業利益を算出
会社の実力である営業利益に対する法人税額を求めるため、営業外損益や特別損益は考慮しない
ただし、発生が確実なものは考慮する
実効税率は、復興特別法人税の影響に留意 2015(平成27)年3月期までは約38.0%、その後は約
35.6% ただし、1年前倒しで終わる可能性
21 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
22
営業利益および法人税の計算例
(出所:筆者作成)
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
Step 3. 減価償却費および設備投資
減価償却費(無形固定資産やのれんの償却費を含む)は、フリーキャッシュフローの計算において加算項目となっているが、現金流入があるわけではない
営業利益段階において減価償却費が既に差し引かれているため、それを足し戻しているもの
23
減価償却費控除前 営業利益
減価償却費
営業利益
税引後 営業利益
法人税等
税引後 営業利益
減価償却費
キャッシュアウトなし
キャッシュアウトあり
キャッシュフローの 調整
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
Step 3. 減価償却費および設備投資
設備投資は、固定資産の取得に伴うキャッシュアウト
事業を維持していくためは、事業用の固定資産について定期的な投資が必要
定常的な状態では、減価償却費と設備投資は同額
24
期首 固定資産 残高
償却後 固定資産 残高
減価償却費
償却後 固定資産 残高
設備投資
キャッシュアウトなし
キャッシュアウトあり
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
25
減価償却費および設備投資の計算例
(出所:筆者作成)
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
(注)減価償却費および設備投資の金額は、20ページの事業計画に記載
Step 4. 運転資本投資増減額
運転資本投資は、必要現預金、流動資産(現預金を除く)および流動負債(有利子負債を除く)のネット額
現預金については、事業運営に必要な額とそれを超える部分に分け、前者を運転資本、後者を非事業用資産とする
貸借対照表計画がある場合には、計画上の数値を使用
貸借対照表計画がない場合には、過去の売上高に対する回転期間等から推定
各期の運転資本投資の増減額をフリーキャッシュフローの計算に反映(運転資本増→キャッシュフロー減)
26 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
27
運転資本投資および増減額の計算例
(出所:筆者作成)
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
ここでは、過去3期間の回転期間の平均により、計画期間の運転資本投資額を計算している。 また、必要現預金については、売上高の2%と想定している。
28
運転資本投資増減額の計算例
(出所:筆者作成)
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
(注)運転資本投資の増加がマイナスのキャッシュフローとなることに注意
Step 5. フリーキャッシュフロー
Step 2からStep 4で求めた、以下の項目を加減算することにより、事業計画期間におけるフリーキャッシュフローを計算
1. 営業利益
2. 法人税額
3. 減価償却費
4. 設備投資
5. 運転資本投資増減額
29 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
30
フリーキャッシュフローの計算例
(出所:筆者作成)
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
4.WACC その1 株主資本コストの計算
株主資本コスト(理論モデル)
CAPM(資本資産評価モデル)
keは株主資本コスト
Rfはリスクフリーレート
Rmは株式市場の期待収益率
βはRmに対するkeの感度
)( fmfe RRRk −+= β
Rf
収益率
リスク β=1
Rm
β=0
ke
32 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
株主資本コスト(実務モデル)
CAPM(資本資産評価モデル)
keは株主資本コスト
Rfはリスクフリーレート
βはRmに対するkeの感度(前述)
ERPは株式リスクプレミアム(Equity Risk Premium)
SCPはサイズプレミアム(Small Capitalization Premium)
SCPERPRk fe +×+= β
33 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
株主資本コストを求めるステップ
1. リスクフリーレート
2. 類似会社の選定
3. 類似会社の(レバード)ベータ
4. 類似会社のD/Eレシオおよび実効税率
5. 類似会社のアンレバード・ベータ
6. 対象会社に適用するアンレバード・ベータおよびD/Eレシオ
7. 対象会社に適用する実効税率および再レバード・ベータ
8. 株式リスクプレミアムおよびサイズプレミアム
9. 株主資本コスト
34 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
Step 1. リスクフリーレート
日本国債(10年もの)の利回りを用いるのが一般的
直近日を採用(一定期間の平均とする場合もあり)
データ入手先 Bloomberg
http://www.bloomberg.co.jp/apps/quote?T=jp09/quote.wm&ticker=GJGB10:IND
財務省 http://www.mof.go.jp/jgbs/reference/interest_rate/index.htm
35 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
36
(出所:Bloomberg)
リスクフリーレートの例(1)
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
37
(出所:財務省)
リスクフリーレートの例(2)
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
Step 2. 類似会社の選定
同一・類似の事業を営む上場会社(5〜10社程度)
商品・サービス、事業規模(売上高、利益、総資産、純資産)、事業構成、ビジネスモデル、資本構成、地域
適当な会社が見つからない→類似の範囲を広げてみる
データ入手先 業界団体
会社四季報、日経会社情報
楽天証券業種分類スクリーニング(東洋経済新報社提供) https://www.rakuten-sec.co.jp/web/market/category/
38 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
39
(出所:楽天証券、東洋経済新報社)
(1)パン
(2)総合不動産
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
類似会社の選定例
Step 3. 類似会社各社のベータ
市場インデックス(TOPIX等)と類似会社各社の株価の変化率を求めて回帰分析 → 回帰直線の傾きがベータ
過去2年/3年の週次データで計算するのが一般的 決定係数(R2) → 低い場合には採用できない
修正ベータ(0.67×未修正ベータ+0.33×1) → 将来ベータの推計値
データ入手先 Bloomberg(有料)
エクセルを使った株価ベーター値の算出 http://kabu-data.info/beta-9.htm
SPEEDA(有料) https://www.ub-speeda.com/
プルータス・コンサルティング(有料) http://www.plutuscon.jp/delivers/
40 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
Step 4-1. 類似会社各社のD/Eレシオ
Step 5で各社の観測されたベータ(レバード・ベータ)をアンレバード・ベータにするために必要
有利子負債(D)は直近の貸借対照表による帳簿価額、株式時価総額(E)は自己株式を除く発行済株式数に市場株価を乗じて算出
ベータの観測期間中に資本構成が大きく変動している場合には、D/Eレシオを期間平均とすることを検討
データ入手先 株式データ分析サイト等 ヤフーファイナンス、日経ウェブサイト等
41 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
42
(出所:楽天証券)
有利子負債および株式時価総額データの例:三井不動産
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
43
D/Eレシオの計算例:三井不動産
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
有利子負債残高(D)は2,120,223百万円。 株式時価総額(E)は3,089,394百万円。 これより計算されるD/Eレシオは、0.686となる。 負債割合(D/(D+E))は40.7%、株主資本割合(E/(D+E))は59.3%となる。
Step 4-2. 類似会社各社の実効税率
Step 5でアンレバード・ベータを計算するために必要 各社の有価証券報告書の税効果会計に関する注記を参照
簡便的には38%(現在の法定実効税率)を使用
44 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
(出所:PwC)
45
(出所:有価証券報告書)
実効税率データの例:三井不動産
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
Step 5. 類似会社のアンレバード・ベータ
Step 3で求めたベータ(レバード・ベータ)は、類似会社各社の資本構成(有利子負債と株式の割合)の影響を受けているため、そのままでは横並びで比較できない
このため、レバード・ベータをアンレバード・ベータ(有利子負債がない場合のベータ)に変換する βUはアンレバード・ベータ、βLはレバード・ベータ、tは実効税率
46
( )EDt
LU
−+=
11
ββ
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
47
類似会社のアンレバード・ベータの計算例
(出所:筆者作成)
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
( )EDt
LU
−+=
11
ββ
Step 6. 対象会社のアンレバード・ベータおよびD/Eレシオ
アンレバード・ベータ Step 5で求めた類似会社各社のアンレバード・ベータを参考にして、対象会社の株主資本コストの計算に用いるアンレバード・ベータを推定
異常値による影響を避けるため、中央値や異常値を除いた平均値を検討
D/Eレシオ 対象会社に目標資本構成がある場合には、それを採用。
目標資本構成がない場合には、Step 5で求めた類似会社各社のD/Eレシオを参考にして、対象会社の株主資本コストの計算に用いるD/Eレシオを推定
48 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
49
対象会社のD/Eレシオおよびアンレバード・ベータの計算例
(出所:筆者作成)
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
Step 7. 対象会社の実効税率および 再レバード・ベータ
対象会社のベータを算出するための実効税率は、将来(割引くキャッシュ・フローの発生期間)の実効税率
復興特別法人税の影響に留意 2015(平成27)年3月期までは約38.0%、その後は約35.6% ただし、1年前倒しとなる可能性
適用するアンレバード・ベータ、D/Eレシオおよび税率から再レバード・ベータを計算
50
( )
−+=
EDtUL 11ββ
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
51
対象会社の再レバード・ベータの計算例
(出所:筆者作成)
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
( )
−+=
EDtUL 11ββ
Step 8-1. 株式リスクプレミアム
株式リスクプレミアム(ERP)は、株式の期待リターンからリスクフリーレートを差し引いたもの(株式のリスクを引き受けることに対する追加リターン)
ヒストリカルERP:過去の超長期の実績データから推計
Ibbotson Associates社(米国:1926年〜)、プルータス・コンサルティング社(日本:1949年〜)等が提供
Ibbotson SBBI Valuation Yearbook
プルータス・コンサルティング “ValuePro”
実務では、4%〜6%の範囲内で設定される例が多い
52 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
Step 8-2. サイズプレミアム
サイズプレミアム(SCP)は、株式時価総額が小さな企業について適用するプレミアム ベータが同じである場合に規模の大きな企業よりも小さな企業の方がリターンが高いという実証研究に基づくもの
実務では、モーニングスター社が毎年公表している資料を参考に設定 対象会社の株式時価総額の規模に応じて、適用するサイズプレミアムを設定
53 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
54
サイズ・プレミアム
(出所:Ibbotson Risk Premia Over Time Report)
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
Step 9. 株主資本コスト
CAPM(再掲)
リスクフリーレート(Rf)、ベータ、株式リスクプレミアム(ERP)およびサイズプレミアム(SCP)から、株主資本コストを計算
55
SCPERPRk fe +×+= β
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
56
株主資本コストの計算例
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
• リスクフリーレート(Rf)を 0.7 % • 再レバード・ベータ(β)を 1.38 • 株式リスクプレミアム(ERP)を 6.0% • サイズプレミアム(SCP)を 3.81%
とすると、 • 株主資本コスト(ke)は12.79%と計算される。
SCPERPRk fe +×+= β
5.WACC その2 税効果を考慮した負債コストの計算
負債コスト
対象会社が資金調達のために借り入れる資金のコストであり、以下の3つの変数によって決まる リスクフリーレート クレジット・スプレッド 実効税率
WACCの計算に用いる負債コストは税効果考慮後負債コスト
税効果考慮前負債コスト(=表面利回り) リスクフリーレート+クレジット・スプレッド
税効果考慮後負債コスト 表面利回り×(1−実効税率)
58 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
負債コストを求めるステップ
1. リスクフリーレート(株主資本コストのStep 1)
2. クレジット・スプレッド
3. 実効税率(株主資本コストのStep 7)
4. 税引効果考慮後負債コスト
59 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
Step 2. クレジット・スプレッド
クレジット・スプレッドとは、企業の信用力の差に起因する借り入れコストの差 デフォルト・リスクを反映
格付けと満期までの期間で概ね決まる
対象会社が社債を発行している場合は、その社債の流通利回りを採用
データ入手先 日本証券業協会ー売買参考統計値
http://market.jsda.or.jp/html/saiken/kehai/downloadInput.php
60 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
61
社債の流通利回りの例
(出所:日本証券業協会)
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
Step 2. クレジット・スプレッド
対象会社が格付けを取得している場合は、その格付けに対応する利回りを採用
データ入手先 日本証券業協会ー格付マトリクス
http://market.jsda.or.jp/html/saiken/kehai/downloadInput.php
62 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
63
格付マトリクス
(出所:日本証券業協会)
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
Step 2. クレジット・スプレッド
対象会社が社債を発行しておらず、格付けも取得していない場合は、有利子負債残高と支払利息から借入れコストを推計 有利子負債の残高は期首・期末の平均
データ入手先 決算短信、有価証券報告書
64 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
Step 4. 税効果考慮後負債コスト
負債の利息は、法人税の課税所得の計算において損金となるため、負債コストを計算する際にはその効果を考慮 債権者には税引前の利息が支払われるが、同時に利息の支払いによる税額の減少があるため、事業にかかる実質的な負債コストはネットとなる
フリーキャッシュフローが税引後となっていることに対応
(計算例)表面利回りが2.0%、税率が35.6%の場合 税効果考慮後負債コストは 2.0% ✕ (1-35.6%)
= 1.288%
65 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
6.WACC その3 フリーキャッシュフローに対応する割引率
弁理士
松本浩一郎
加重平均資本コスト(WACC)
WACCの計算式は以下のとおり(前述)
負債割合(D/(D+E))および株主資本割合(E/(D+E))は、株主資本コストのStep 6で採用したD/E レシオから計算
kdは(税効果考慮後)負債コスト
keは株主資本コスト
67 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
68
WACCの計算例
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
• D/Eレシオを 1.805 とすると、 • 負債割合(D/(D+E))は 64.4%、株主資本割合は
(E/(D+E))は 35.6% • 負債コスト(kd)を1.288%、株主資本コスト(ke)を12.79%とすると、
• WACCは 5.38 %と計算される。
3.事業価値の計算 残存期間の検討および現在価値への割引
2013/9/27
弁理士
松本浩一郎
事業価値を求めるステップ
1. 割引率(WACC)
2. 残存期間の価値
3. ディスカウントファクター
4. 事業価値
5. 感度分析
70 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
Step 1. 割引率(WACC)
加重平均資本コスト(WACC)の計算式(再掲)
Dは有利子負債の時価
Eは株主資本の時価
kdは(税効果考慮後)負債コスト
keは株主資本コスト
以下、説明の便宜のためWACCを「12%」とします。
71 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
Step 2. 残存期間の価値
ゴーイング・コンサーン(継続企業の前提)
対象会社は永続的に事業を継続することが前提となっているため、事業計画期間以降を残存期間として計算
事業計画期間の最終事業年度を参考に残存期間を想定
通常、インフレ率等を考慮して永久成長率を設定するが、日本企業の場合には成長率は通常0%
設備投資は、維持更新投資のみを前提に、減価償却費と同額とする場合が多い(→固定資産の残高一定)
成長率を考慮する場合、運転資本投資は成長率に応じて増加
72 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
Step 2. 残存期間の価値(続)
残存期間のフリーキャッシュフローの価値(残存価値)は、以下の公式による(無限等比数列の和)
上記で計算される値は、事業計画期間の最終年度における価値となっていて、現在価値ではないことに留意
計画期間以降は一定の状態が継続する前提
73
残存価値 =
事業計画最終年度の翌期のフリーキャッシュフロー
WACC ー 永久成長率
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
74
残存期間の計算例:永久成長率 0.0%
(出所:筆者作成)
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
残存価値 88,550 = 10,626 / (12.0%-0.0%)
75
残存期間の計算例:永久成長率 2.0%
(出所:筆者作成)
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
運転資本投資増減 64 = 3,180(16/3期 運転資本投資)✕ 2.0% 残存価値 107,749 = 10,775 / (12.0%-2.0%)
Step 3. ディスカウントファクター
WACCに基づき、各期のフリーキャッシュフローを現在価値に割引くための係数(ディスカウントファクター)を算出
評価基準日からキャッシュフローの発生時点までの期間に応じて割引計算
各期におけるキャッシュフローは各期の中央で発生するものと想定 (mid-year convention)
このため、初年度は0.5年分の割引、次年度は1.5年分の割引
残存価値は、事業計画の最終年度と同じ比率を用いて現在価値に割引
76 2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
77
ディスカウントファクターの計算例
(出所:筆者作成)
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
0.945 = 1/(1+12%)^0.5
Step 4. 事業価値
前のセクションのStep 5で求めたフリーキャッシュフローと、本セクションのStep 3で求めたディスカウントファクターを乗じて、フリーキャッシュフローの現在価値を計算し、それを合計して事業価値を求める
なお、得られた事業価値から有利子負債を控除して、営業外資産を加算することにより、株式価値が得られる
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現在価値および事業価値の計算例
(出所:筆者作成)
2013/9/27 弁理士 松本浩一郎
Step 5. 感度分析
前述のとおり、DCF法による価値評価結果は、多くの前提条件に基づく 前提条件の変化によって結果がどのような影響を受けるかを理解することが重要
通常、永久成長率とWACCについて0.25%刻みまたは0.5%刻みでの感応度分析が行われている
感度が高い(少しの変化で結果が大きく動く)パラメータについては、より精緻な分析と慎重な設定が必要 具体的な計算については、Excelのデータテーブル機能により簡単に実行可能
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感度分析の計算例
(出所:筆者作成)
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ありがとうございました
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