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非接触型の膝前十字靱帯 (ACL) 損傷は、バスケットボールの試合や練習中のストップ動
作、ランディング動作、そしてカッティング動作時に起こることが多い 。なかでもサイド
ステップカッティング動作時の非接触型膝 ACL 損傷は方向転換前、急なストップ時に発生
すると報告されている。しかし、高速で前方へ 2 歩助走した後に、3 歩目を踏み切り、側方
移動時に非接触型膝 ACL 損傷が起こったケースを報告した研究がある。サイドステップカ
ッティング動作のストップ時と側方移動時に膝関節の外反が現われるため、各動作で ACL
を損傷する可能性があるのではないかと考える。実際多くの場合、サイドステップカッテ
ィング動作時のどの時期に ACL 損傷が発生しているのかは不明である。したがって、ACL
損傷が起こりやすい時期を推定することは、ACL 損傷を予防する点で重要な課題である。
先行研究では、ACL 損傷はストップ動作あるいはランディング動作時に膝関節軽度屈曲
位で発生するとされている。しかし、膝関節に外反ストレスが加わらないと、前方へのス
トレスのみでは、ACL 損傷は起こりにくい。そして、膝関節の外反は ACL 損傷の主要な因
子のひとつであるといわれている。また、女子選手では大腿四頭筋に対するハムストリン
グの筋活動量の比率(H/Q 比)が低いと、大腿四頭筋の収縮で ACL の歪みが増加するため、
低い H/Q 比は女子選手における非接触型 ACL 損傷率が高くなる要因の一つとなるかもし
れない。よって、サイドステップカッティング動作時の膝外反角度や膝周囲筋の筋活動か
ら、ACL 損傷が起こりやすい時期を推定できる可能性があると考える。そこで、本研究の
目的はサイドステップカッティング動作時の膝外反角度および膝周囲筋の筋活動を分析し、
ACL 損傷が起こりやすい時期を推定することである。
対象は 10 名の健常女性バスケットボール選手とした。2~3m/s の速度で前方へ 2 歩助走
し、3 歩目に非利き脚で踏み切っている瞬間に、利き脚(ボールを蹴る脚)方向へ 90°サ
イドステップカッティングした。その際、ハイスピードカメラ 3 台を用いて失状面および
前額面から撮影し、同時に非利き脚の外側広筋(VL)、内側広筋(VM)、大腿二頭筋(BF)
および半膜様筋(SM)の表面筋電図を導出した。撮影した映像を三次元的に解析し、非利
き脚の膝屈曲角度と外反角度を算出した。各筋の筋活動量は最大等尺性収縮時の活動量に
対する割合で表記した。ACL 損傷が起こりやすい時期を確認するため、サイドステップカ
ッティング動作をストップ期と側方移動期に分けた。ストップ期は非利き脚で足部接地か
ら膝最大屈曲位までの期間とした。側方移動期は膝最大屈曲位から 90°サイドステップカ
ッティングを行い、足尖離地までの期間とした。なお、本研究では VL と VM の筋活動量
の平均を大腿四頭筋の筋活動量、BF と SM の筋活動量の平均をハムストリングの筋活動量
とした。
その結果、対象の最大膝外反角度の 5 回平均値の経時的変化をみると、二峰性の曲線が
認められた。膝外反角度はストップ期と側方移動期の両方それぞれ 1 回ずつ、計 2 回のピ
ークが現われた。ストップ期の膝外反角度のピークは側方移動期より大きい傾向にあった
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が、両者の間に有意な差は認めなかった。ストップ期の大腿四頭筋の筋活動量は側方移動
期より有意に高値を示したが (p < 0.01) 、ハムストリングの筋活動量には有意な差を認め
なかった。また、ストップ期の H/Q 値は側方移動期より有意に低値を示した (p < 0.01)。
本研究ではストップ期の膝外反角度のピークは側方移動期より大きい傾向があるため、
ストップ期で膝関節にかかるストレスが大きいと考える。ストップ期で大腿四頭筋の筋活
動量が大きくなったが、ハムストリングの筋活動量が小さかった。先行研究では ACL 損傷
は大腿四頭筋の強い収縮とハムストリングの不十分な収縮により生じるとしている。スト
ップ期において、大腿四頭筋の収縮により強い脛骨前方引き出し力が生じ、同時にハムス
トリングの筋活動が低下することで脛骨の前方への制動が不十分となり、ACL 損傷のリス
クが増加する可能性が高まると考える。また、本研究ではストップ期の H/Q 比は側方移動
期より有意に低値を示した。大腿四頭筋とハムストリングを含めた下肢筋群の同時収縮は、
膝関節の安定性を増加させる。低い H/Q 比ではストップ期で膝関節が不安定となり、脛骨
を前方へ移動させ、ACL の歪みが増加する可能性がある。ACL の歪みに膝外反ストレスを
加えることはストップ期で ACL 損傷が起こる可能性が高まる。よって、女子バスケットボ
ール選手におけるサイドステップカッティング動作時の非接触型膝 ACL 損傷は、側方移動
期に比べてストップ期で起こりやすいのではないかと考える。
(2000/2000)