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20 MICE Japan 2016・5月号 あらゆる組織は周辺環境に影響を及ぼし、また影響を受け ています。これは会議やイベントでも同じことです。イベン トに関わるさまざまな組織や個人(参加者、スタッフ、サプ ライヤー、関連コミュニティなど)は、イベント企画運営に おけるあらゆる判断に影響を及ぼし、また影響を受けていま す。こうした組織や個人が「ステークホルダー」です。 ステークホルダーとの関係を良好に保つということは、すな わちイベントの計画段階でステークホルダーの視点を取り入 れるということでもあります。彼らの考え方を理解すること に充分な時間をかけることにより、ステークホルダーの要求 やゴールを、イベントのゴール・目的とうまくすり合わせる ことができます。 ステークホルダーの特定と区分 Sub skill 13.01 – Identify, Assess, and Categorize Stakeholders プランナーとして活動するにあたっては、各種のステー クホルダーと関わっていくことになります。イベントにおけ るステークホルダーは”persons or organizations who are actively involved in the project or whose interests may be positively or negatively affected by the performance or completion of the project” (PMBOK Guide, 2008, p.23)と定 義されており、主催団体の内部・外部それぞれに存在する個 人または団体であり、主催団体およびイベントに密接に関わ る狭義のステークホルダーとしては従業員・イベントスタッ フ、マネジメント層、サプライヤー、参加者、スポンサーな どが挙げられます。 さらに広義のステークホルダーとしては開催地域の自治 体・地域コミュニティや地元企業など、経済波及効果やそれ 以外の影響を受ける個人・団体も含まれます。各ステークホ ルダーはそれぞれの目的と役割・KPIを持っており、それゆ えに必要とする情報もそれぞれ異なります。 こうしたステークホルダーとうまく連携するためには、プ ランナーはコンサルタントのような意識を持ってステークホ ルダーと接する必要があります。各ステークホルダーの持つ 事情とニーズの把握に努め、イベントにおける意思決定プロ セスにステークホルダーを巻き込んでいく必要があります。 これを怠ると、「ふたを開けてみたら複数のステークホルダ ーの利害が対立していた」という事態になりかねません。そ れくらい、それぞれのステークホルダーは多様な事情を抱え ています。 けれども、きちんとステークホルダーとの連携に気を配る ことによって、たとえばスポンサー獲得や定着率の向上につ なげることができます。主催団体の印象はより強いものとな り、その目的やビジネスを達成しやすくなります。ですから ぜひ、プランナーはステークホルダーとの関係構築や維持の ために、ふだんから充分な時間を割くようにしてください。 主催団体やイベント、外部委託状況によってステークホル ダーの構成はさまざまですが、CICが典型例として挙げてい るものを表にまとめました。なお、ここでの内部ステークホ ルダーの役割は、実際にはプランナーが兼務しているものも 多いです。 ステークホルダーの活動 Sub skill 13.02 – Manage Stakeholder Activities 内部・外部ステークホルダーを特定し終えたら、適切な段 階でそれぞれのステークホルダーとの連携をはじめます。ま ずはそのニーズを把握するために、インタビューを行いまし CMP (Certified Meeting Professional) から SKILL 13: STAKEHOLDER MANAGEMENT Sub skill 13.01 – Identify, Assess, and Categorize Stakeholders Sub skill 13.02 – Manage Stakeholder Activities Sub skill 13.03 – Manage Stakeholder Relationships CMP出題頻度:12問(合計150問) 表1. イベントにおけるステークホルダー例 A. 内部ステークホルダー Organisation owner 主催団体の CEO、理事会、メンバーなど Event owner イベントプランナー、組織委員会、 プロダクトマネジャーなど Finance 財務責任者 Procurement 調達管理担当 Sales and marketing スポンサー募集・参加者プロモーション担当 Technology テクノロジー担当 Legal and risk management 法務・リスクマネジメント担当 Security セキュリティ担当 Ethics and compliance コンプライアンス担当 Sustainability department サステナビリティ担当 Human resources 人事担当 Training and development 教育訓練担当 Facilities management 施設との折衝担当 Employees and labour unions 従業員と労働組合 B. 外部ステークホルダー Participants/attendees イベント参加者 Suppliers サプライヤー (オフィシャルホテル、運営会社、 ケータリング、旅行代理店、通関業者、AV など) Media 各種メディア Partners and contributors 出展者・スポンサー、登壇者など Local community organizations and businesses 開催地自治体、コンベンションビューロー、 地元企業・NGO など The Convention Industry Council Manual 9th, p130-132より筆者作成 SKILL 13: STAKEHOLDER MANAGEMENT

SKILL 13: STAKEHOLDER MANAGEMENT ... stakeholder 外部ステークホルダー Internal stakeholder 内部ステークホルダー Stakeholder ステークホルダー Stakeholder

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Page 1: SKILL 13: STAKEHOLDER MANAGEMENT ... stakeholder 外部ステークホルダー Internal stakeholder 内部ステークホルダー Stakeholder ステークホルダー Stakeholder

20 MICE Japan 2016・5月号

 あらゆる組織は周辺環境に影響を及ぼし、また影響を受けています。これは会議やイベントでも同じことです。イベントに関わるさまざまな組織や個人(参加者、スタッフ、サプライヤー、関連コミュニティなど)は、イベント企画運営におけるあらゆる判断に影響を及ぼし、また影響を受けています。こうした組織や個人が「ステークホルダー」です。ステークホルダーとの関係を良好に保つということは、すなわちイベントの計画段階でステークホルダーの視点を取り入れるということでもあります。彼らの考え方を理解することに充分な時間をかけることにより、ステークホルダーの要求やゴールを、イベントのゴール・目的とうまくすり合わせることができます。

ステークホルダーの特定と区分Sub skill 13.01 – Identify, Assess, and Categorize

Stakeholders プランナーとして活動するにあたっては、各種のステークホルダーと関わっていくことになります。イベントにおけるステークホルダーは”persons or organizations who are actively involved in the project or whose interests may be positively or negatively affected by the performance or completion of the project” (PMBOK Guide, 2008, p.23)と定義されており、主催団体の内部・外部それぞれに存在する個人または団体であり、主催団体およびイベントに密接に関わる狭義のステークホルダーとしては従業員・イベントスタッフ、マネジメント層、サプライヤー、参加者、スポンサーなどが挙げられます。 さらに広義のステークホルダーとしては開催地域の自治体・地域コミュニティや地元企業など、経済波及効果やそれ以外の影響を受ける個人・団体も含まれます。各ステークホルダーはそれぞれの目的と役割・KPIを持っており、それゆえに必要とする情報もそれぞれ異なります。 こうしたステークホルダーとうまく連携するためには、プランナーはコンサルタントのような意識を持ってステークホ

ルダーと接する必要があります。各ステークホルダーの持つ事情とニーズの把握に努め、イベントにおける意思決定プロセスにステークホルダーを巻き込んでいく必要があります。これを怠ると、「ふたを開けてみたら複数のステークホルダーの利害が対立していた」という事態になりかねません。それくらい、それぞれのステークホルダーは多様な事情を抱えています。 けれども、きちんとステークホルダーとの連携に気を配ることによって、たとえばスポンサー獲得や定着率の向上につなげることができます。主催団体の印象はより強いものとなり、その目的やビジネスを達成しやすくなります。ですからぜひ、プランナーはステークホルダーとの関係構築や維持のために、ふだんから充分な時間を割くようにしてください。 主催団体やイベント、外部委託状況によってステークホルダーの構成はさまざまですが、CICが典型例として挙げているものを表にまとめました。なお、ここでの内部ステークホルダーの役割は、実際にはプランナーが兼務しているものも多いです。

ステークホルダーの活動Sub skill 13.02 – Manage Stakeholder Activities

 内部・外部ステークホルダーを特定し終えたら、適切な段階でそれぞれのステークホルダーとの連携をはじめます。まずはそのニーズを把握するために、インタビューを行いまし

CMP (Certified Meeting Professional) から

SKILL 13: STAKEHOLDER MANAGEMENT Sub skill 13.01 – Identify, Assess, and

Categorize Stakeholders Sub skill 13.02 – Manage Stakeholder

Activities Sub skill 13.03 – Manage Stakeholder

Relationships CMP出題頻度:12問(合計150問)

表1. イベントにおけるステークホルダー例A. 内部ステークホルダーOrganisation owner 主催団体のCEO、理事会、メンバーなどEvent owner イベントプランナー、組織委員会、

プロダクトマネジャーなどFinance 財務責任者Procurement 調達管理担当Sales and marketing スポンサー募集・参加者プロモーション担当Technology テクノロジー担当Legal and risk management 法務・リスクマネジメント担当Security セキュリティ担当Ethics and compliance コンプライアンス担当Sustainability department サステナビリティ担当Human resources 人事担当Training and development 教育訓練担当Facilities management 施設との折衝担当Employees and labour unions 従業員と労働組合B. 外部ステークホルダーParticipants/attendees イベント参加者Suppliers サプライヤー (オフィシャルホテル、運営会社、

ケータリング、旅行代理店、通関業者、AVなど)Media 各種メディアPartners and contributors 出展者・スポンサー、登壇者などLocal community organizations and businesses

開催地自治体、コンベンションビューロー、地元企業・NGOなど

The Convention Industry Council Manual 9th, p130-132より筆者作成

SKILL 13:STAKEHOLDER MANAGEMENT

Page 2: SKILL 13: STAKEHOLDER MANAGEMENT ... stakeholder 外部ステークホルダー Internal stakeholder 内部ステークホルダー Stakeholder ステークホルダー Stakeholder

MICE Japan 2016・5月号 21

考えるMICEのグローバルスタンダードと日本基準

ょう。ただし時間がかかるため、影響度の高いステークホルダーから順番に優先順位を設けて、なるべく対面で実施します。こうして得られた下記のような情報は、ステークホルダー情報(stakeholder profile)として蓄積します。・ ステークホルダーの氏名、役職、イベント実行組織におけ

る役割・ イベントがそのステークホルダーにとってどのような意味

を持つか・ ステークホルダーが重要視していること、優先順位、KPI・ ステークホルダーが影響力を持つ個人・グループ・ つながりやすい連絡手段(メール、電話、SNSなど)・ イベントにおける主要目的・ あらかじめ設定したKPIに基づく目標達成度の判断基準 このインタビューを実施するメリットは、早期段階でプランナーとステークホルダーの相互理解を図ることができて、さらに集めた情報によってより的確なプランニングができることです。 インタビューを実施するにあたっては、あらかじめインタビューの目的と質問内容を伝えることで、回答者側が充分な準備の時間がとれるように配慮してください。インタビューの構成は下記を参考にしてください。・ イントロダクション・ イベントの内容とプランナーの役割の紹介・ Event ownerが誰なのか、主催団体の目的、求められる

成果・ ステークホルダーによるサポートの重要性・ 他のステークホルダーとの利益相反があればその特定・ ステークホルダー情報(stakeholder profile)の確認・ ステークホルダー側からの質問を受ける・ イベントへの可能な関与度合いを確認する・ 次のステップを説明、合意を取り付ける

ステークホルダーとの連携   Sub skill 13.03 – Manage Stakeholder

Relationships ステークホルダーとの長期にわたる良好な関係を維持するためには、次に挙げる4つの要素が重要となります。・ コミュニケーション(communication)・ 承認(recognition)・ 紛争解決(conflict resolution)・ 法的考慮(legal consideration) 中でも特に重要なのは、前項に挙げたインタビューから始まる密接なコミュニケーションと、ステークホルダーの貢献度合いに応じてそれを表彰することにより承認することです。大がかりな表彰式を実施する場合もあれば、手書きの感謝のメッセージを渡すこともあるでしょう。こうしてステークホルダーのモチベーションを向上させることは、プランナ

ーの重要な役割でもあるのです。

がんばろう熊本!Thoughts for Kumamoto from Frankfurt

 ドイツ・フランクフルトで開催された世界最大のMICE商談会IMEXフランクフルトの前日、ICCA(国際会議協会)アジアパシフィック部会219団体のメンバーが一堂に集まる機会がありました。この機会をお借りして熊本国際観光コンベンション協会からのメッセージを紹介させていただくとともに、それぞれがどんな支援を行うことができるか考える時間を持ってほしいとメンバーに呼びかけました。熊本には新しくコンベンション施設が建設されています。コンベンション産業が復興の助けになることを、心よりお祈りしております。

Convention Industry Councilで試験問題作成委員および国際標準委員を担当。ICCAアジアパシフィック部会担当理事。はじめて「ステークホルダー」という言葉を聞いたのは第3回世界水フォーラムでのことでした。この会議ではステーキを出すのかな?と思っていたことは内緒です。

西本 恵子 Keiko Nishimoto, CMP 日本コンベンションサービス(株) MICE都市研究所 主任研究員

押さえておきましょう! CMP用語集(terminology)Budget owner 予算執行権限者Event attendees /participants イベント参加者Event owner イベント興行主External stakeholder 外部ステークホルダーInternal stakeholder 内部ステークホルダーStakeholder ステークホルダーStakeholder approach ステークホルダー・

アプローチ