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2009 - 9「車両技術 238 号」 61 東京都交通局 都電荒川線 8800 形車両 ※半 はん まさ かず 写真 1 外観 要旨 東京都交通局では、都電荒川線の活性化と、老朽化した 7500 形車両との置換えを目的として、2009 年 4 月に 8800 形車両 2 両を導入した。 8800 形車両は、“先進性と快適性”をコンセプトとし、従来車両のイメージを一新することを目的として製作 した。誰もが乗りやすいユニバーサルデザインを取入れた設計を行うとともに、デッドマン装置の設置、戸閉め 回路への走行検知機能の追加など、走行安全性にも配慮した車両としている。 本稿は、都電荒川線 8800 形車両の概要について紹介する。 (編集部注:8500 形車両は、192 号- 1990 年 10 月参照) 1.はじめに 1.1 都電荒川線について 東京都の路面電車は、1955 年(昭和 30 年)には 1 日約 175 万人のお客様を運び代表的な輸送機関として活躍し た。しかし、自動車交通量の増大や、1959(昭和 34)年 からの専用軌道内への自動車乗入れが許可されたことによ って、その数は減少の一途をたどり、1965(昭和 40)年 には 125 万人と最盛期の約 70%まで乗客数が減少した。 当局における軌道事業の経営は悪化し、これに伴い、路 面電車の廃止が決定され、順次、撤去が行われたが、沿線 住民をはじめ、都民からの強い要望によって、1969(昭和 49)年 10 月に荒川線と改称された 1 路線のみ存続してい る。(図 9 路線図参照)早稲田から大塚、王子、町屋を 通り三ノ輪橋までの路線長 12.2 ㎞、全 30 停留場からなる 荒川線は、地元に密着した交通手段として、現在 1 日あた り 5 万人強のお客様にご利用頂いている。 1.2 都電荒川線への新車導入経緯 荒川線には在来車として、7000、7500 及び 8500 形車両 が配備されている。8500 形車両は 1990 年から 1993 年に かけて 5 両製作されたが、それ以降は、厳しい経営状況が 続いたことで、新車を導入することはなかった。2004 年 ※ 東京都交通局 車両電気部車両課 車両係 写真 2 左:9001 号車(2007 年 5 月運行) 右:9002 号車(2009 年 1 月運行)

東京都交通局 都電荒川線8800形車両 · 2011. 11. 22. · 2009-9「車両技術238号」 61 東京都交通局 都電荒川線8800形車両 ※半 はん 田 だ 仁 まさ

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  • 2009 - 9「車両技術 238 号」 61

    東京都交通局 都電荒川線 8800 形車両※半

    はん

     田だ

     仁まさ

     一かず

    写真 1 外観

    要旨東京都交通局では、都電荒川線の活性化と、老朽化した 7500 形車両との置換えを目的として、2009 年 4 月に8800 形車両 2両を導入した。8800 形車両は、“先進性と快適性”をコンセプトとし、従来車両のイメージを一新することを目的として製作した。誰もが乗りやすいユニバーサルデザインを取入れた設計を行うとともに、デッドマン装置の設置、戸閉め回路への走行検知機能の追加など、走行安全性にも配慮した車両としている。本稿は、都電荒川線 8800 形車両の概要について紹介する。(編集部注:8500 形車両は、192 号- 1990 年 10 月参照)

    1.はじめに1.1 都電荒川線について東京都の路面電車は、1955 年(昭和 30 年)には 1日約

    175 万人のお客様を運び代表的な輸送機関として活躍した。しかし、自動車交通量の増大や、1959(昭和 34)年からの専用軌道内への自動車乗入れが許可されたことによって、その数は減少の一途をたどり、1965(昭和 40)年には 125 万人と最盛期の約 70%まで乗客数が減少した。当局における軌道事業の経営は悪化し、これに伴い、路面電車の廃止が決定され、順次、撤去が行われたが、沿線住民をはじめ、都民からの強い要望によって、1969(昭和49)年 10 月に荒川線と改称された 1路線のみ存続している。(図 9 路線図参照)早稲田から大塚、王子、町屋を通り三ノ輪橋までの路線長 12.2 ㎞、全 30 停留場からなる荒川線は、地元に密着した交通手段として、現在 1日あたり 5万人強のお客様にご利用頂いている。1.2 都電荒川線への新車導入経緯荒川線には在来車として、7000、7500 及び 8500 形車両が配備されている。8500 形車両は 1990 年から 1993 年にかけて 5両製作されたが、それ以降は、厳しい経営状況が続いたことで、新車を導入することはなかった。2004 年

    ※ 東京都交通局 車両電気部車両課 車両係

    写真 2  左:9001 号車(2007 年 5月運行)右:9002 号車(2009 年 1月運行)

  • 東京都交通局 都電荒川線 8800 形車両62

    表 1 東京都交通局 都電荒川線 8800 形車両 車両諸元

    会社・車両形式 東京都交通局 都電荒川線・8800 形使用線区 都電荒川線 軌間(㎜) 1 372基本編成 1両 許容軸重(kN) 73.5(7.5 t)用途 通勤電車 電気方式 DC600 V

    架線電車線方式車体製作会社 アルナ車両㈱ 製造初年 2009台車製作会社 住友金属工業㈱ 1次製作両数 2主回路装置製作会社 東洋電機製造㈱ 車両技術 238

    個別の車種形式 8800 形車種記号(略号) -空車質量(t) 18.5 定員(人) 61うち座席定員(人) 20特記事項

    VVVFなど

    車両性能

    最高運転速度(㎞/h) 40加速度(m/s2) 0.83(3.0 km/h/s)減速度(m/s2)

    常用 1.25(4.5 km/h/s)非常 1.38(5.0 km/h/s)

    ユニット当りの定格出力(kW) 120定格速度(㎞/h) 40ユニット当りの引張力(kN) 32動力伝達方式 平行カルダンWN継手方式

    ブレーキ制御方式

    電気指令式電磁直通空気ブレーキ(回生/発電ブレンディングブレーキ、応荷重、保安ブレーキ、デッドマン付)

    制御回路電圧(V) DC24こう配条件(‰) 67抑速制御 -運転保安装置 -列車無線 空間波無線(VHF帯)非常時運転条件 -

    電気駆動系主要設備

    集電装置形式/質量(㎏) PT7148-A2/130

    方式シングルアームばね上昇空気下降式

    制御装置形式/質量(㎏) RG699-A-M/380制御方式 VVVFインバータ制御方式仕様 IGBT 2 レベルインバータ

    主電動機

    形式/質量(㎏) TDK6051-A 形/ 350方式 三相かご形誘導電動機1時間定格(kW) 60 × 2 台回転数(min - 1) 1 610連続定格(kW)

    主回路標準限流値

    力行(A)ブレーキ(A)

    凡例●;駆動軸 ○;付随軸 >;パンタグラフVVVFなど;主制御装置、ブレーキ装置ST;起動装置 CP;空気圧縮機SIV;補助電源装置 空調;空調装置BT;蓄電池

  • 2009 - 9「車両技術 238 号」 63

    車体の構造・主要寸法

    構体材料/構造 全鋼板製車両の前面形状 非貫通型運転室 半室構造

    長さ(㎜)Mc車 13 000M車 -

    連結面間距離(㎜)

    Mc車 -M車 -

    心皿間距離(㎜) 6 700車体幅(㎜) 2 200

    高さ(㎜)屋根高さ 3 200屋根取付品上面 3 800(パンタ折りたたみ)

    床面高さ(㎜) 786

    車体特性・構造及び主要設備

    相当曲げ剛性(MNm2)相当ねじり剛性(MNm2/rad)曲げ固有振動数(㎐)ねじり固有振動数(㎐)内装材 アルミ基板メラミン樹脂側窓構造 下部:固定式、上下:引違窓妻引戸 -

    側扉構造 入口:片開戸、出口:両開戸片側数 2

    戸閉め装置形式/質量(㎏)

    Y6-1000AR/13.3(片開き)Y4-C/13.4(両開き)

    方式 電磁空気(単気筒複動)式

    腰掛方式脚台式クロスシート(一人掛)及びロングシート

    車体連結装置

    先頭車 連結棒使用中間車 -

    空調換気システム

    冷房方式 屋根上集中方式暖房方式 座席下シーズヒータ換気方式 自然換気配風方式 天井ダクト、ラインフロー

    車内主要設備

    照明方式 直接照明、蛍光灯移動制約者設備 車いすスペース便所 -汚物処理 -

    その他の主要設備

    主幹制御器形式/質量 ES917-A-M/26速度計装置 指針式車両情報制御システム

    モニタ装置 -モニタ表示器 -

    非常通報装置 -

    行先表示器前面 LED式側面 LED式

    車内案内表示 液晶式(15 インチ 2画面)× 2列車情報装置 -

    放送車内向け 自動放送方式 スピーカ 2台車外向け スピーカ片側 1台× 2

    車両間連結電気系 -空気管系 -

    その他の主要設備

    補助電源装置

    形式/質量(㎏) DA61TK40/500方式 静止形インバータ方式

    容量CVCF AC200 V 10 kVAVVVF AC200 V 10 kVA

    蓄電池種類 /質量(㎏)

    鉛蓄電池 DC24 V(DC12 V × 2)/52

    容量(Ah) 83

    空調装置形式/質量(㎏) CU771B-G1/350方式 屋上設置集中型容量(kW) 24.42

    暖房装置 容量(kW) 5

    空気圧縮機形式/質量(㎏) D3360-HS5/220圧縮機容量 600㍑ /min電動機方式 直流直巻補極付 開放自己通風形

    空気タンク元空気タンク 87㍑供給空気タンク 70㍑

    標識灯前灯

    ハロゲンランプ DC24 V75/70 W× 4

    尾灯 LED式 DC24V × 4その他 制動灯;LED式 DC12 V × 2

    ブレーキ

    ブレーキチョッパ 形式/質量(㎏) -ブレーキ抵抗器 形式/質量(㎏) R2152-A-M/103

    ブレーキ装置 形式/質量(㎏)HRDA-1/125BCD23/55

    台   

    形式M台車 FS91BT台車 -

    支持装置車体 インダイレクトマウント方式軸箱 山形緩衝ゴム方式(シェブロン方式)

    けん引装置 ボルスタアンカ装置ばね方式 コイルばね軸距(㎜) 1 600ばね定数

    (N/㎜)

    まくらばね 670(1 個当たり)軸ばね

    コイルばね - 総合 -防振ゴム 1 618(1 箱当たり)

    台車最大長さ(㎜) 2 574車輪径(㎜) 660基礎ブレーキ

    M台車 踏面ブレーキT台車 -

    ブレーキ倍率 駆動軸 5.5 付随軸 4.65(てこ比)

    制輪子M台車 鋳鉄T台車 -

    ブレーキシリンダ・個数

    M台車 4T台車 -

    駆動方式 平行カルダンWN継手駆動方式歯数比(減速比) 6.54継手 歯車形軸継手軸受 密封形複列円すいころ軸受

    質量(㎏)M台車 3 750T 台車 -

  • 東京都交通局 都電荒川線 8800 形車両64

    図1 形式図

  • 2009 - 9「車両技術 238 号」 65

    度は、1日平均乗車人員が 5万 6千人を割り込んだ。当時の全保有車両数 41 両のうちの 36 両を占めている 7000 形、7500 形車両は、製造から約 50 年が経過し、車体などの老朽化が進行していた。この状況を打破し、荒川線の活性化を図る目的で、2005

    年度に局内プロジェクトチームを発足し、観光の目玉となる話題性のある新形車両の製作が決定した。これに基づき、9000 形レトロ車両 1両(9001 号車:2007 年 5 月運行開始)が財団法人日本宝くじ協会殿からの助成金により製作された。9001 号車は、大変好評だったため、東京都交通局にて、レトロ車両を 1両追加製作した(9002 号車:2009 年 1 月運行開始)。そして、8500 形車両の導入から 16 年ぶりに老朽化が進む 7500 形の代替車両として、8800 形車両 10 両を順次導入することも決まった。

    2.8800 形コンセプト及びデザイン決定の経緯2.1 局内方針9000 形レトロ車両は、8500 形車両の基本設計をベース

    に、近年の要求であるバリアフリーも配慮した車両であるが、イベントなどへの活用や、人々の注目をひく車両とするためにデザインを明治から昭和初期の東京市電をモチーフしたレトロ調の特殊な車両となっている。これに引き続く 8800 形車両の製作に当たり、車両のコ

    ンセプト及びデザインなどの方向性について、局内の総務、営業、運転、車両、広報などの各関係部門を網羅しての検討会を開催した。“荒川線の未来を開く先進性と快適性”を車両のコンセプトとして、今後の荒川線の活性化に向け、従来のイメージを一新するとともに、日常的な利用に対する快適性も視野に入れている。“最近の LRTのようなざん新な外観と室内”をデザインの方向性とし、荒川線沿線の景観に調和することを配慮しつつ、新たに導入された車両であることを明確に印象づける外観を目指すこととした。これらのコンセプトを基に、①走行安全性の向上、②誰でも利用しやすく快適な車両、③環境に配慮した車両の 3点を新形車両のキーワードとし、車両を製作した。2.2 一般投票の実施車両のコンセプト、キーワードに基づいた候補デザインを作成し、交通局内で外観デザインを 3つの案に絞った。

    一般の皆様の意見を反映するために、新聞及び東京都交

    図 2 車体断面

    ・№ 1案: 丸みのあるスタイルで優しさと親しみやすさをイメージ。(写真 3)

    ・№ 2案: 曲面の柔らかさの中にスピード感とスマートさを表現。(写真 4)

    ・№ 3案: シャープさを強調しシンプルで都会的なイメージを表現。(写真 5)

  • 東京都交通局 都電荒川線 8800 形車両66

    通局ホームページなどでお知らせしたところ、10 日間で1 263 票の投票(インターネット及び葉書)を頂いた。投票者の地域別では、東京都が 800 名と多数を占めたが、北海道から沖縄、また、ベルギー在住の方からも投票を頂いた。投票結果は、№ 1案が 642 票、№ 2案が 288 票、№ 3案

    が 333 票となり、過半数の支持を受けた№ 1案に基づいて8800 形車両は製作された。

    3.8800 形車両の概要3.1 車体外観・デザイン車体は、全鋼板製の構造とし、車体の主な寸法は 8500形車両と同寸法とした。前頭部は、前面窓及び運転台そで窓に 3次曲面ガラスを使用し、丸みのある親しみやすいデザインを採用した。塗色は、正面、屋根肩部及び台枠部分を、荒川線沿線に近隣住民の皆様が植えてくださっている“バラ”をモチーフにしたローズレッドとし、側面は白色(シルキーホワイト)を基調に、窓回りを黒色で塗り分けて、引き締まったイメージとしている。側面の入口付近には、東京都シンボルマーク(一般にはイチョウマークと呼ばれるマーク)と車両番号及び荒川線の英文ロゴをグリーン色のカッティングフィルムで大胆にレイアウトし、従来の荒川線車両のイメージを一新した。将来、在来車と同様の側面外部ラッピング広告が行われた際に、オリジナル塗色に影響が少ないデザインとした。前面窓ガラスは車外側から接着する構造である。運転台

    右側そで窓には、換気ができるように引き窓を設けている。前部標識灯は、ハロゲンの 2灯とし、後部標識灯は LEDタイプを採用した。前部標識灯周辺の前面カバー及び緩衝器のキセは、3次曲面の FRP 製とした。側窓は、上部 4ヶ所を引違い窓、それ以外は固定窓とし、取付は車外側からの接着である。3.2 乗務員室乗務員室は、前面窓を大形の 1枚窓とし、良好な前方視

    界を確保している。腰掛と料金箱との間隔は、従来より余裕を持たせるために拡大した。ハンドル方式は、従来車と取扱い方法を合わせるため、主幹制御器とブレーキ制御器からなる 2ハンドル方式を採用し、相互の位置関係についても同様の寸法とした。無線機は、従来は背面に設置していたものを、主幹制御

    器の前方に移設して取扱いやすくした。表示灯には、走行表示灯を追加した。走行表示灯は、約 5 ㎞/h 以上で走行すると点灯し、戸開閉スイッチによる戸の開閉ができないようになっている。また、足踏み式のデッドマン装置を新設し、乗務員に万一、異常が発生した場合においても、自動的に電車を停止できる。3.3 客室と内装室内デザインは、ホテルのようなイメージを演出するこ

    とで優雅さを表現し、外観デザインと同様に最近の LRTをイメージさせるものとした。車内の壁面と天井中央部は、清潔感と落ち着きのあるアイボリーで統一し、木目調の柄を天井の側寄りに配置することで、アクセントをもたせるとともに、全体の引き締めを図った。そで仕切りと床敷物にはモノトーンの石目柄を配置した。また、天井はすっきりとしたフラット形状とし、照明は直接照明を採用して室

    内の照度を確保した。腰掛は従来と同様に、優先席は一人掛腰掛、一般部は長手腰掛(ロングシート)とし、座席表地は外板色と同様のローズレッドを基調とした“バラ”の花柄を採用した。腰掛詰物は、リサイクル可能なポリエステル製を採用している。腰掛端部のそで仕切りは、お客様どうしの接触を避けるため大形化を図った。  混雑時の客室流動性を確保するために、ロングシートを9人掛けから 8人掛けとしたこと及び乗務員腰掛に背ずり付回転いすを採用するために運転台スペースを若干客室側

    写真 3 外観デザインNo.1

    写真 4 外観デザインNo.2

    写真 5 外観デザインNo.3

  • 2009 - 9「車両技術 238 号」 67

    図3 運転室機器配置

    写真6 運転台

  • 東京都交通局 都電荒川線 8800 形車両68

    に拡大したことによって、客室定員は 61 人で、在来車である 8500 形及び 9000 形の 63 ~ 65 人と比べて減少した。3.4 バリアフリー対応バリアフリーに対応し、車内全体に手すり及び握り棒を

    増やすとともに、通常の高さより 100 ㎜低いつり手も適宜配置した。優先座席部は、黄色のつり手を使い、優先座席を容易に識別できるようにした。8人掛ロングシートには 3人+ 2人+ 3人に区切る形で、

    立ち席握り棒を設けた。表面に凹凸をつけ黄色の塗装をすることでグリップ及び視認性を向上させた。立ち席握り棒は、立席側に湾曲させてお客様が握りやすいようにしている。乗車口及び降車口の床とドア先端部を黄色とし、視認性

    を向上させた。出入口の床面高さは、一般床部から 20 ㎜の勾配を付けて、ホームとの段差を縮小している。また、各ドアの上方にはドア開閉時に点滅する赤色の開閉予告表示灯を設置した。車いすスペースは従来どおり、1両に 2箇所設置し、腰の高さの握り棒(クッション付)を設け、きせ内に車いす固定用のベルトを収納した。専用となる降車合図ブザーも従来どおりに設置している。

    4.8800 形車両 主要装置4.1 制御装置制御装置は、最近の主回路素子として一般的に使用されている IGBTモジュール素子(1 700 V、800 A)を採用し、

    写真 7 室内

    写真 8 座席表地

    写真 9 降車口(床とドア先端部の黄色表示)

    写真 10 車いすスペース

  • 2009 - 9「車両技術 238 号」 69

    図4 室内機器配置

  • 東京都交通局 都電荒川線 8800 形車両70

    図5 機器配置

    a)屋根上機器配置

    b)床下機器配置

  • 2009 - 9「車両技術 238 号」 71

    図6 動台車(FS91B)

  • 東京都交通局 都電荒川線 8800 形車両72

    図7 主回路つなぎ

  • 2009 - 9「車両技術 238 号」 73

    高信頼化、高効率化及び軽量化を図った。制御方式には、電動機のトルクを高精度に制御可能なベ

    クトル制御方式を採用した。装置の主回路には、回路構成がシンプルな 2レベル方式

    の VVVF インバータ制御方式を採用し、1ユニットで 2個の主電動機を制御している。主回路素子の冷却には、冷媒を使用しない冷却フィン方式を採用するとともに、床下機器スペースが限られることからファンモータによる強制風冷方式も採用し、装置の小形化を実現した。

    高速度遮断器には、デアイオングリッドによるアークレスタイプを採用し、遮断時にアークが飛散しない構造とした。単位スイッチは、アークレスタイプの電磁投入式を採用し、空気配管を不要とするとともに静粛性の向上を図った。電気ブレーキの制御には、ブレーキ抵抗器を設置することで、回生ブレーキと発電ブレーキを併用する制御を採用し、回生負荷が足りなくなり架線電圧が上昇したときには、ブレーキ抵抗器によりエネルギーを消費する事で安定したブレーキ力を確保できるようにした。また、最高運転速度が 40 ㎞/h であることから、この運転速度を超過して加速することのないように、速度 40 ㎞/h でのノッチオフ機能追加した。4.2 主電動機主電動機は、自己通風方式の三相かご形誘導電動機を採用した。1時間定格出力は 60 kWである。ストレーナには、塵じん

    埃あい

    の分離効率の高いサイクロンタイプのクリーンストレーナを採用するとともに、塵埃の排出には主電動機ファンの吸引力を利用し強制排出とすることで、メンテナンスの向上を図った。駆動装置側との結合は、従来どおり、平行カルダンWN継手方式を採用した。回転検出部は、ダブルパルスセンサと、回転子に組み込まれた PGギアからなり、調整が不要な構造とした。軸受部には給油口を設けて、中間給油が可能な方式としている。主電動機は、1台車につき 1台の構成である。4.3 ブレーキ装置ブレーキ装置は、応荷重機能付きの電気指令式電磁直通空気ブレーキ方式である。常用ブレーキは、ブレーキ制御器からの 3本の指令線のON/OFF の組み合わせにより 7段階の制御を行う。また、M軸とT軸では、それぞれ独立して制御を行っている。M軸は 7段階のブレーキ指令に基づき、ブレーキ受信装置にてブレーキ力を演算し、制御装置との間で電制力指令、電制力等価信号の送受信を行い、電制ブレーキを優先的に作用させ、不足分を空気で補う電空協調制御を行っている。T軸については、ブレーキ受信装置を介さずブレーキ指令により直接、電磁弁を駆動させることによって空気ブレーキのみが作用する。また、

    図 8 カ行性能曲線

    :複線

    図 9 路線図

  • 東京都交通局 都電荒川線 8800 形車両74

    ブレーキ受信装置にて重大な故障が発生した場合は、常用ブレーキ指令線からの空気ブレーキのみの制御に切替える機能ももっている。非常ブレーキは、1段のブレーキでM軸、T軸独立し

    た回路によって空気ブレーキが作用する。保安ブレーキは、応荷重機能のない 1段ブレーキで、非常ブレーキと同様に、M軸、T軸独立した回路によって空気ブレーキが作用する。保安ブレーキは、2001 年の“鉄軌道車両制動装置の改

    善整備について”の通達に従い、M軸、T軸毎に独立した保安ブレーキ回路、空気タンク及び逆止弁などを設置することによって、二重化を図っている。複式逆止弁は、M軸用はブレーキ作用装置内に、T軸用は配管途中に設置し、事故などによってブレーキ作用装置が破損した場合に 2系統の保安ブレーキ回路が同時に不作用となることを防止している。追突事故対策として、在来車と同様に LEDを使用した制動灯(ブレーキランプ)も設置した。4.4 補助電源装置補助電源装置は、在来車に搭載している機器と同様に、

    IPM素子を用いた静止形インバータ方式を採用した。受電した架線電圧DC600 V をチョッパユニットによりDC275 V(20 kW)に降圧し、VVVFユニットでは冷房装置コンプレッサ及び暖房ヒータ用として三相 200 V(10kVA)に変換し、CVCF ユニットでは照明などの一般負荷用に三相 200 V(10 kVA)の固定電圧に変換し供給している。この三相交流 200 V から、三相変圧器、整流回路を通して、一般直流負荷回路用のDC24 V も作り出している。4.5 戸閉め装置戸閉め装置は、操作方式は電磁空気式で、入口扉用には

    片開き式で有効幅 1000 ㎜の Y6 形を、出口扉には、両開き式の有効幅 1300 ㎜のY4形のものを採用した。Y6形は、Y4形戸閉め機械を基本として開閉機構を片開き用としたものである。特徴は、小形軽量の本体に電磁弁を一体形として取付けた構造で、シリンダ本体と両開き機構部とは分

    割が可能であるため、保守が容易にできる。4.6 台車台車は、ボルスタ付 2軸ボギー台車で、軸箱支持装置は山形緩衝ゴム(シェブロン)方式を採用した。車体が傾いたときには側受でも車体支持のできるインダイレクトマウント方式とし、側受は車体と揺れ枕間に設け、高さ調整を容易に行えるライナ調整式とした。車輪は丸リング付き防音一体圧延車輪で、車輪径は新品時 660 ㎜である。台車の基本構造は、1990 年から導入した 8500 形用台車とほぼ同一の設計となってるが軸ばねを若干固くし、ばねの全長を短くすることで、8500 形車両と比較した場合で、床面高さで 4㎜下げることができ、ホーム高さとの段差を少なくした。4.7 空調装置空調装置は、7000、7500 及び 9000 形車両に搭載のもの

    と同仕様の屋根上集中式ユニットクーラで、冷房能力は24.42 kWである。冷風ダクトは軽量化・静粛性に優れたガラス繊維ボードを使用したプレナムチャンバ式とし、グリルより吹き出す方式とした。リターン口のエアーフィルタは左右の側天井に設け、従来と同様に自動巻取式のロールフィルタを設置している。4.8 車内表示器車内表示器は、乗務員室仕切上部に、従来からの運行案内に使用する LED式表示器に代えて、15 インチ× 2画面の液晶表示器を新設し、向かって左画面に行先及び次停留場名などの案内を、右画面には乗換案内などを表示する構成とした。4.9 前方映像記録装置交通事故対策として、在来車を含むすべての荒川線車両に、前方映像記録装置を取付けている。走行中の映像をGPS による位置情報とともに常時記録し、必要時にはデータを取り込み、再生することが可能である。

    5.おわりに今回導入された 8800 形車両 2両は、4月 26 日に出発式が行われ、多数のお客様に 8800 形車両の出初めを見送っていただきました。現在は在来車、9000 形レトロ車とともに、荒川線の新しい戦力として、日々営業運行に使用されています。今後 8800 形車両は、順次投入され、最終的には合計 10

    両となる計画です。現状では、レトロ車両と同様 2両のみということもあり、普段ご乗車している限りはなかなか乗り合わせないかと思われますが、今後追加投入されるに従い、荒川線の新しい顔としてその地位を確立していくことと思います。今後末永くお客様から愛される車両となることを期待しています。最後に、今回の新車を製作するに当たり、多大なるご協力を頂きました関係各位に対して改めて深く感謝を申し上げます。

    写真 11 車内表示器(表示例)