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鉄道廃線と代替交通-バスは鉄道を代替できるのか
流通経済大学 板谷和也
公共交通マーケティング研究会第5回例会 帯広場所 於日専連ビル 2019/10/05
Shin-Totsukawa Station
自己紹介• 板谷和也(いたや・かずや)
• 2005年3月 東京大学大学院新領域創成科学研究科修了• 2005年4月 横須賀市都市政策研究所• 2006年4月 (財)豊田都市交通研究所• 2008年7月 (一財)運輸調査局• 2015年4月 流通経済大学
• 博士(環境学)、技術士(建設部門)• 専門
• 都市工学、土木計画、交通計画• フランスの交通、公共交通全般、自治体政策等 論文多数
• 公職• 龍ケ崎市地域公共交通協議会 会長• 白井市地域公共交通活性化協議会 副会長• 富士見市地域公共交通会議 副会長• 三芳町地域公共交通会議 副会長• 千葉市開発審査会 委員 など
• 著書• 地域魅力を高める「地域ブランド」戦略」(2008年・共著)他
22019/10/05
交通機関の役割分担に関する世界の潮流
•グレタ・トゥーンベリ氏「How dare you! (よくもそんなことを)」
• 気候変動を止めるために、航空から鉄道へ• 地球規模の課題:温室効果ガスの排出削減
•フランスにおける交通権「交通手段選択の自由」• 自動車でしか移動できない状態は望ましくない• 複数の交通手段が利用可能な状態を目指す政策
• JR北海道問題「単独では維持困難な路線」• 環境の観点からは も優れた交通機関が維持困難
• 利用減と費用負担者不足
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北海道の現況• 廃止(予定)路線:• 2014 江差線・木古内-江差• 2016 留萌線・留萌-増毛• 2019 石勝線・新夕張-夕張• 2020 札沼線・北海道医療大学-新十津川• 計122.4km
• 休止路線:• 日高線・鵡川-様似• 根室線・東鹿越-新得
• 計157.5km
過去の事例との比較 輸送密度
•江差線 木古内-江差
• 41人/日•留萌線 留萌-増毛
• 67人/日•石勝線 新夕張-夕張
• 80人/日
•札沼線 北海道医療大学-新十津川
• 57人/日
•鹿島鉄道• 664人/日
•日立電鉄• 546人/日
•名鉄岐阜市内線• 5482人/日
•三木鉄道• 315人/日
•北海道ちほく高原鉄道• 262人/日
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JR北海道はむしろここまでよく維持してくれていた
なぜ、鉄道でなければならないと思うのか
1. 「地域の衰退」につながる•鉄道がなくなると街は衰退してしまうのではないか
2. JRの努力不足•まだコスト削減の余地があるのではないか
3. 国の責任•社会の基本的なインフラだから、赤字かどうかに関わらず維持されるのが当然ではないか
•いずれも、バスに代替できない理由ではない
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鉄道廃止による地元への影響
• 「地方鉄道の存廃による地域経済への影響」• 板谷・森田2010(日本計画行政学会全国大会で報告)
• 鉄道路線の廃止(存続決定)前後における地元の経済指標を比較し、廃止による悪影響が出ているかどうかを検討
•結論:廃止事例と存続事例の間に有意差なし• 鉄道の存廃に関係なく、元気な街は元気
• 「地方鉄道の存廃に関わる要因」• 板谷・森田2009(日本計画行政学会全国大会で報告)
• 2000年以降に存廃が議論になった40路線(廃止28・存続12)を対象に、存廃の要因を分析
•結論:路線の輸送密度と地元都道府県の財政状況が大きく影響• 輸送密度1500~2500、財政力指数0.4~0.6が境界
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鉄道の社会的な影響が小さい路線で廃止されている鉄道の存廃は街の盛衰に影響しない
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2010年の研究成果から人口の変化
有意差なし:豊田市と富山市の伸びが大きい(合併の影響あり)が、人口の増減は存廃とは関係がない
-20,000
-15,000
-10,000
-5,000
0
5,000
10,000
15,000
20,000
25,000豊田市
富山市
和歌山港線和歌山電鐵日立電鉄
廃止路線 存続路線
JR北海道問題の原因(北海道内)1. 国鉄の分割民営化が間違っていた
•初めから赤字だとわかっている会社を作ったことが悪い。国の責任だ。だから国が責任を取れ
2. 経営安定基金の運用益が出なくなった•金利が下がった分の基金の積み増しがなかった。国の責任だ。だから国が責任を取れ
3. 北海道には予算がない•北海道の自治体は、どこもぎりぎりの予算でやっているので、鉄道に出せる予算は残っていない。だから国が責任を取れ
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JR北海道問題の本質•北海道民の大半はJR北海道を利用していない
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4.5 95.5
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
月に数回程度以上 年に数回程度以下
11.4 41.9 13.2 9.0 9.1 15.4
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
JR 国 道 沿線自治体 利用者 わからない
路線維持のための費用を誰が負担すべきか
ふだんJR北海道をどのくらい利用しているか
出所:NHK放送文化研究所
公共交通を使う生活とは
•環境のために公共交通機関を使う:世論と文化• ヨーロッパでは当たり前に。日本でもできるか
•公共交通で生活するには•自家用車をやめて鉄道・バスで通勤•会議の開始時刻を、鉄道・バスの時間に合わせる
•公共交通利用を妨げる要因•鉄道駅近くに魅力的な商業施設や飲食店がない•ロードサイドには様々な店舗があり選択可能
•クルマの方が文化的な生活ができるのに、敢えて鉄道・バスを使う人がどれくらいいるのか
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鉄道の守備範囲
•旧国鉄の赤字ローカル線対策1. 「赤字83線」(1968年・国鉄諮問委員会)基準なし、廃止路線わずか
2. 「地方交通線」選定(1980年・日本国有鉄道経営再建特別措置法)輸送量による分類基準あり
•鉄道路線の存廃基準の考え方(分類方法)1. 鉄道運営に必要な全ての費用を、運賃収入でまかなえる路線
2. 必要な費用が運賃収入ではまかなえないものの、他の交通手段ではかえって輸送効率が悪くなる路線
3. 必要な費用が運賃収入でまかなえないうえ、他の交通手段の方が効率的に運行できる路線
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鉄道の守備範囲
国鉄時代の路線評価基準
• 存続路線• 幹線:8,000人/日以上• 地方交通線:4,000人/日以上
• 廃止路線
• 第1次特定地方交通線• 営業キロ30km未満かつ輸送密度
2,000人/日未満かつ盲腸線(行き止まり線)
• 営業キロ50km未満かつ輸送密度500人/日未満
• 第2次特定地方交通線• 残る輸送密度2,000人/日未満の路線
• 第3次特定地方交通線• 残る輸送密度4,000人/日未満の路線
• 例外規定• ピーク時輸送人員が1方向1時間あたり 大1,000人以上
• 代替輸送道路なし
• 代替輸送道路が積雪のため年間10日以上不通
• 旅客1人あたり平均乗車キロ30km以上でかつ輸送密度1,000人/日以上
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• 存続路線• 幹線:8,000人/日以上• 地方交通線:4,000人/日以上
• 廃止路線
• 第1次特定地方交通線• 営業キロ30km未満かつ輸送密度
2,000人/日未満かつ盲腸線(行き止まり線)
• 営業キロ50km未満かつ輸送密度500人/日未満
• 第2次特定地方交通線• 残る輸送密度2,000人/日未満の路線
• 第3次特定地方交通線• 残る輸送密度4,000人/日未満の路線
• 例外規定• ピーク時輸送人員が1方向1時間あたり 大1,000人以上
• 代替輸送道路なし
• 代替輸送道路が積雪のため年間10日以上不通
• 旅客1人あたり平均乗車キロ30km以上でかつ輸送密度1,000人/日以上
バスで運びきれない需要があるか
長距離の太い流動があるか
8,000人/日で採算
2,000人/日が存廃基準
本題:バスは鉄道を代替できるのか
•解答:路線による
•宗谷線(名寄・稚内)• 403人/日・183.2km
•釧網線(東釧路・網走)• 513人/日・166.2km
•石北線(新旭川・網走)• 1141人/日・234.0km
•日高線(苫小牧・鵡川)• 589人/日・30.5km
•自動車での代替が困難な場合• 長距離の業務交通(出張):都市間交通
• 定時性のある交通機関鉄道>バス
• 鉄道を残す意味がある• バスで代替できるのは、輸送力が確保でき、かつ遅れが生じにくい場合
•都市内・都市近郊輸送はバスで代替可能
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•解答:路線による
•宗谷線(名寄・稚内)• 403人/日・183.2km
•釧網線(東釧路・網走)• 513人/日・166.2km
•石北線(新旭川・網走)• 1141人/日・234.0km
•日高線(苫小牧・鵡川)• 589人/日・30.5km
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西鉄(旧)宮地岳線:西鉄新宮駅 北海道ちほく高原鉄道(旧):本別駅
(旧)日立電鉄:久慈浜駅
廃止後の旧鉄道駅のすがた
のと鉄道(旧)能登線:珠洲駅
利用者は交通手段をどう選ぶか(都市内交通)
•東京-木更津(東京駅・木更津駅間で計算)
• バス:所要1時間、1350円• 鉄道:所要1時間10分、1320円(乗り換えあり)
• 特急:所要1時間、2250円• 房総方面は自動車・バスが優位
• この状況になった要因は、アクアラインの開通と値下げ
• 鉄道利用者は減少・本数削減
•東京-流山(東京駅・流山駅間、南流山駅間で計算)
• 流鉄:所要1時間、640円(乗り換えあり)
• つくばエクスプレス:所要40分、710円(乗り換えあり)
• 所要時間でつくばエクスプレスが圧倒的に優位
• 自動車は渋滞が多く競争力弱い
• 所要時間と運賃のバランスで交通手段が決定される
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選択肢があることの利点(都市間交通)
•中央東線•新宿・甲府:123.8km
• 3890円(2310円+1580円):全車指定
• 2710~3490円(トクだ値)• 高速バス:1650~2200円
•新宿・松本:225.1km• 6620円(4070円+2550円):全車指定
• 4620~5950円(トクだ値)• 高速バス:2400~4300円
•常磐線•上野・水戸:117.5km
• 3890円(2,310円+1,580円):全車指定
• 3490円(トクだ値)• 高速バス:1950~2120円
•上野・いわき:211.6km• 6290円(3740円+2550円):全車指定
• 5650円(トクだ値)• 高速バス:3500円
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都市間交通北海道の場合(1)
•札幌-北見•鉄道
• 頻度:1日4往復• 所要時間:4時間30-50分• 価格:• 片道9660円(普通車指定席)往復13170円
•バス• 頻度:1日10往復• 所要時間:4時間40分• 価格:片道5440円、往復
10240円
•札幌-稚内•鉄道
• 頻度:1日3往復• 所要時間:5時間10-30分• 価格:• 片道11090円(普通車指定席)往復(Rきっぷ)12550円
•バス• 頻度:1日6往復• 所要時間:5時間50分• 価格:片道6200円、往復11300円
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都市間交通北海道の場合(2)•札幌-留萌•鉄道
• 頻度:1日7往復• 所要時間:2時間-3時間• 価格:3630円+特急料金
•バス• 頻度:1日14往復• 所要時間:2時間-3時間• 価格:2410円
•札幌-浦河•鉄道(休止前)
• 頻度:1日5.5往復• 所要時間:3時間30分-5時間• 価格:4510円
•バス• 頻度:1日6往復• 所要時間:3時間40分• 価格:2980円
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都市間交通において鉄道とバスは競合関係というより補完関係優等列車の走る鉄道路線をバスで置き換えると弊害がありそう
費用負担の方法
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• 乗らなくても、JRを支援することは可能• 赤字分の負担方法:駅に行ってきっぷを買う• 乗らなくてもよい
• JR北海道の赤字:148億円(2016年度連結決算)• 北海道民538万3579人(2015年国勢調査人口)• 赤字を人口で割ると、一人当たり:年に2749円、月に229円
• 住民:自分では利用しないので、負担はしたくない• 沿線自治体:住民が利用しないので、負担はしたくない• →これが観光に活路を見出したくなる原因
観光列車の採算
•観光列車で採算を確保するのは困難
•事例:• JR東日本(五能線ほか)• 大井川鉄道• 嵯峨野観光鉄道
•観光列車単独ではなく、観光列車に乗るまでのアプローチで利益を出す• できれば沿線への経済効果も
2019/10/05 21
JR東日本:リゾートしらかみ
大井川鉄道:SL列車
•観光の経済効果は泊りがけで来てもらわないと出にくい• 交通+宿泊のパック
•観光列車+宿泊という企画は作りにくい• JR東日本・西日本・九州の豪華列車
•観光列車が呼び水となって観光客数が増えれば、それを理由にして沿線からの補助が見込める• 結局、沿線自治体がどこまで覚悟を決められるか
2019/10/05 22
観光列車の位置づけ
嵯峨野観光鉄道
しなの鉄道「ろくもん」車内
おわりに
• 観光で公共交通を活用してもらうには• 結節点における乗り継ぎ抵抗の低下• 各交通手段間の協力で自家用車に対抗
• 鉄道は劇的な集客要因になりにくい
• バスは鉄道を代替し得るか• 都市内・都市近郊の鉄道は代替可能• 都市間輸送を担う鉄道は代替困難
• 鍵となるのは• 頻度、速度、利便性(アクセシビリティ)、案内、安定性
• マーケティングで何とかなる部分も!• 自治体の意識が変わらないと地域全体で地盤沈下
2019/10/05 23