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20206アジア・パシフィック(APAC) 不動産投資市場: 投資環境の大幅な変化でも底堅い投資利回り 【和訳・要約版】 John Marasco マネージング・ディレクター | キャピタルマーケッツ | オーストラリア & ニュージーランド +(61) 3 9612 8830 [email protected] Andrew Haskins エグゼクティブ・ディレクター | リサーチ | アジア +(852) 2822 0511 [email protected] Terence Tang マネージング・ディレクター | キャピタルマーケッツ | アジア +(65) 6531 8565 [email protected] COLLIERS RADAR CAPITAL MARKETS & INVESTMENT SERVICES | ASIA PACIFIC

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2020年6月

アジア・パシフィック(APAC) 不動産投資市場: 投資環境の大幅な変化でも底堅い投資利回り【和訳・要約版】

John Marascoマネージング・ディレクター |

キャピタルマーケッツ | オーストラリア & ニュージーランド

+(61) 3 9612 [email protected]

Andrew Haskinsエグゼクティブ・ディレクター |

リサーチ | アジア+(852) 2822 0511

[email protected]

Terence Tangマネージング・ディレクター | キャピタルマーケッツ | アジア

+(65) 6531 [email protected]

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13兆米ドル2020年1月末現在、マイナス利回りの負債総額(概算値)

0.0%-2.8%10年国債利回りAPAC 市場:日本が最低値、中国が最高値

要約&考察本レポートは、2部構成である。第1章では、アジア太平洋地域(APAC)における機関投資家向けの不動産投資利回りを、相当する国債、株式の利回りと比較することにより、投資妙味の高い分野をハイライトする。第2章では、賃料の見通しとアセットクラス別の投資妙味について検討したい。

はじめに、地域内投資取引高に大きく影響を与える要因は大きく2つに分けて検討したい。1番目は新型コロナウイルスの伴う景気低迷であるが、これは今後改善していく見通しである。2つ目は、景気対策の一環として、史上最低水準までに低下した金利水準である。低金利政策により、国債の強気市場(利回りは低下)が各国で長期化している。また、主要各国の配当利回りは大きく上昇したものの、今後見込まれる企業収益への悪化を反映して、弱含みで推移していくであろう。こうした環境下で比較すると、APACの主要な不動産市場におけるプライム/グレードAオフィス資産の投資利回り(2.8%〜5.8%)、物流/産業施設の投資利回り(3.5%〜6.1%)は、魅力的な水準にとどまっている。次に、域内商業用不動産の賃料の動向をみると、オフィスでは幅広い都市で、物流/産業施設では、ほんの一部の都市で、賃料減額の流れが生じつつある。ただし、このような下落圧力も株価下落の変動制や勢いと比べれば極めて限定的といえるだろう。

1.9%-4.9%米国の S&P 500 および主要アジアの株式市場における配当利回りの範囲 –景気低迷による企業収益の急落に関連したリスクは増大傾向に

2.8%-5.8%2020年第一四半期、APAC主要国のオフィス資産の投資利回り (香港¹ が最低値、オークランドが最高値)

3.5%-6.1%2020年第一四半期、APAC主要国の物流/産業施設の投資利回り (香港が最低値、シンガポール等が最高値)

第1章 – 不動産収益および他の資産クラスとの比較

¹「中華人民共和国」の香港特別行政区

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0.0%

1.4%

2.8%

0.5%

0.9% 0.9% 0.9% 0.8%

2.5%2.3% 2.4%

2.8%

2.4%

2.8%

2.4%

4.1%

4.9%

3.4% 3.4%

2.9%

3.5%

4.2%4.5%

4.7% 4.7%

2.8%

3.9%

4.7% 4.6%

4.2%

5.3% 5.2%

5.6%

6.1%

3.5%

6.0%

5.5%

4.7%

5.8%5.6%

0.0%

1.0%

2.0%

3.0%

4.0%

5.0%

6.0%

7.0%

Ten-yr govt bond Equity mkt Grade A offices Logistics

ソウル東京 北京 上海 シドニー オークランドメルボルンシンガポール香港広州

APAC: 資産クラス別に期待収益率を比較する

出典:コリアーズ・インターナショナル、S&P グローバル・マーケット・インテリジェンス、フィナンシャル・タイムズ、香港ハンセン株価指数

10年国債利回り(%)

各国株式市場の配当利回り(%)

プレミアム/グレードAオフィス利回り(%)

産業施設/物流利回り(%)

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景気回復の兆しがみられる間に、新たなバリュー投資の機会を検討すべき

図1:実質GDP成長予測 (%)2019 2020F 2021F

中国 6.1% 0.8% 8.3%

日本 0.7% -6.5% 3.2%

韓国 2.0% -0.7% 3.2%

香港 -1.2% -6.0% 6.4%

シンガポール 0.7% -6.0% 7.1%

台湾 2.7% -0.6% 3.5%

インド 5.3% -5.7% 10.8%

オーストラリア 1.8% -5.0% 3.3%

ニュージーランド 2.2% -5.6% 7.3%

米国 2.3% -6.1% 6.3%出典:オックスフォード・エコノミクス (発表されている最新の数値)

まだ不確実性は高いものの、良い材料としては、中国で既に始まっている景気回復傾向は、2020年下半期には域内諸国にも波及し、2021年内には、景気が急回復する可能性がある。中国は購買力平価ベース(図2参照)でみれば世界最大の経済国であるため、ある程度は世界経済の牽引役として機能する潜在力がある。

経済成長の落ち込みは、順次回復に向かう2009年から継続していた世界的な景気拡大の流れは完全に止まった。新型コロナウイルスの伝染拡大は、国内の封鎖を引き起こし、全世界における期待成長率も大幅に低下させた。 2020年の実質GDP成長率予測をみると、中国を除くほぼすべてのアジア諸国で、マイナスに転じる見通しである。

脆弱な景気回復の始まりは金利上昇に繋がらない

図2:世界経済に占める主要な経済圏の比率(購買力平価(PPP)ベース)

米国 中国 日本

15%

ユーロ圏

SARS GFC COVID-1925%

20%20%

17% 18%19%

15%15% 12% 11%

10%

5%

9%6% 5% 4%

0%2003 2008 2019

出典:オックスフォード・エコノミクス

新型ウイルス収束後には明るい兆しがある。過去1年間、域内の中央銀行は、政策金利をゼロ水準で維持、またはさらに引き下げてきた。 早期の景気回復段階では、この方向性を変わることはほぼないだろう。それどころか、金利は今後数年間は低位安定すると弊社は予想している。2022年末まで米国の金利をゼロ近辺に維持する¹と見込む米国連邦準備銀行の最近のコメントを受け、このシナリオの蓋然性は更に高まっている。¹ 参考としてフィナンシャル・タイムズ記事 “Jay Powell delivers dovish message to financial markets”、 2020年6月11日付を参照

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今回の不況下の明るい兆しとしては、過去12ヵ月間でAPACの中央銀行は、政策金利を低水準で維持、またはさらに引き下げてきた。域内5つの主要な投資不動産市場(中国、日本、香港、シンガポール、オーストラリア)における実質短期金利は中国(約2.3%)が最も高い。次に、経済活動を推進する上でより有効とされている実質金利(インフレ率控除後の金利)を検討したい。実質金利は長期にわたり香港と日本ではマイナスであったが、デフレ同時進行の不況の影響から、プラスの領域に急上昇する見通しである(図3を参照)。オーストラリアの中央銀行は、約2年半前から金利を引き下げてきたが、マイナスにとどまる実質金利も、インフレ率が低下すればプラスに転じる可能性が高まる。中国でも、高止まりしていたインフレ率が低下するにつれて実質金利の急上昇が見られるようになるが、2021年以降は、再び下降傾向に転じるだろう。シンガポールと韓国では実質金利が低下しており、2021年までにマイナスに転じる見込みである。先進国および新興国ともに金利は低下傾向にあるが、新興国の金利水準は依然として高い。

たとえば、2020年第2四半期のインドの短期金利は5.5%、インフレ率が3.9%、実質短期金利は1.6%であり、年内は上昇する見通しである。同様にインドネシアでは、実効短期金利は約4.8%、実質短期金利は2.2%、低下余地もほぼ見当たらない。新興市場の課題は、脆弱な通貨の安定性を考慮すると、金利引き下げの余地が限定的なことである。インドネシアのルピアは、年初にかけて(危機的状況下で需要が強まる)対米ドル相場が急落したが、その後、再び堅調に推移している。中央銀行が再び金利を引き下げれば、自国通貨の不安定性は更に高まらざるを得ない。現在の不動産市場環境下では、先進国は新興市場よりも安定しているといえるだろう。

低金利の恒久化により、不動産価格は底支えされる見通し

出典:オックスフォード・エコノミクス 2020年5月14日付

-3.0%

-2.0%

-1.0%

0.0%

1.0%

2.0%China Hong Kong Japan Singapore South Korea Taiwan Australia New Zealand

図3:実質金利 (2019 – 2023予想):APACの主要な先進国および中国市場

中国 香港 日本 韓国 台湾 オーストラリア

ニュージーランド

シンガポール

Presenter
Presentation Notes
先進国の超低金利政策は: 債券価格を押し上げ、債券利回りを低下させる 株式価値の割引率を低下させ、株価を上昇させる 商業不動産の鑑定で使用される割引率は緩やかな上昇へ
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不動産投資はより魅力的な利回りに> 物流資産においては、シンガポール(利回り6.0%、イールド・スプレッド5.1pp)とメルボルンおよびオークランド(利回り5.5〜5.6%、イールド・スプレッドで4.6〜4.8pp)も投資妙味が高い。ソウルでも5.0%を超える利回りが見込まれるが、シドニーや東京では4.0%〜5.0%の間で推移している。ほとんどすべての国で、物流セクターの中期的な賃料上昇の見通しは底堅い。

> 小売資産の利回りについては、中国とシンガポールは、約4.2%〜6.5%の範囲で推移、東京と香港の利回りは2.7%〜4.5%の範囲とさらに低くなっている。ただし、資産クラス別に比較した場合、オフィスや物流資産、さらにはホテルよりも、中期的な賃貸市場回復の見通しについては不確実性が高いと弊社は判断している。

国債のほぼマイナスの利回り、株式配当利回りが低下する可能性が高まるなか、APAC市場の不動産投資は投資妙味が高い。具体例として:

> 次項(図4)に示すように、域内先進国におけるオフィスセクターの利回り¹は、最低値となるプライム・グレードの香港オフィス(2.8%)から最高値のオークランド(5.8%)まで幅広い。新興国のグレードAオフィスの投資利回りは更に高く、インドの都市部では最大9.0%である(ベトナムやフィリピンなどの市場では更に高まる)。オフィス賃料引き下げへの圧力は高まっているが、株式市場において期待されている企業収益への圧力に比べれば小さい。

> 同じく、対10年国債のスプレッドを比較すると、北京(約1.7pp)が最低値。一方、最高値はオークランド(約5.0pp)、シドニーとメルボルン(約3.7pp〜3.8pp) 、東京(約3.5pp)と続いている。

> 次々項(図5)に示すように、中国の物流資産は5.2%〜5.9%の範囲の投資利回り、イールド・スプレッドては2.4pp〜3.1ppの範囲で推移している。

¹アジアでは、不動産利回りを「実効賃料」(募集賃料からフリー・レントなどのインセンティブを差し引いた賃料)を不動産価格で割算したものとして定義される。オーストラリアの場合、「市場/持続可能な利回り」を引用し、これは鑑定士に評価された正味収益を売却価格、または引当金、資本支出、現在価値への調整額などの資本調整を行った時価換算値で割算した値として定義される。。

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4.5 4.7 4.7

2.84.2

2.53.9

8.5 8.0

4.7 4.65.8

1.7 1.9 1.9 2.32.8

2.1

3.53.53.0 3.2

2.2

3.8 3.75.0

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

図4: APAC オフィス市場 – 利回り、イールドスプレッド、賃料上昇率予想

出典: S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンス、フィナンシャル・タイムズ、コリアーズ・インターナショナル、他

プレミアム/グレードAオフィス利回り (%)

対10年国債イールドスプレッド(パーセントポイント)

香港上海 ソウル北京 東京 バンガロール台北 シドニーシンガポール オークランド広州 メルボルンムンバイ

年平均、賃料上昇率 (%, 2019-2024年予測)

%

0.0-0.7

1.5

-0.2

1.2

2.4

0.6

3.3

0.8

3.2 2.91.9 2.2

賃料上昇率

利回り

%4.03.02.01.00.0

-1.0

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5.95.2 5.5 5.6

3.5

5.36.0

5.54.7

5.6

3.12.4 2.7 2.8 3.0

4.24.23.9

5.1 4.63.8

4.8

2.0

0.0

4.0

図5: APAC 物流/産業施設 – 利回り、イールド・スプレッド、賃料上昇率予想

注:中国南部の利回りは、深圳と広州の平均値。出典: S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンス、フィナンシャル・タイムズ、コリアーズ・インターナショナル、他

中国東部 ソウル中国北部 東京 シドニーシンガポール中国南部 メルボルン

物流センター利回り (%)

%6.0

2.74.6

-1.7

2.71.1 1.3

3.0

0.21.5 1.9 1.8

賃料上昇率

利回り

中国西部

%6.0

4.0

2.0

0.0

-2.0

香港 オークランド

8

対10年国債イールド・スプレッド(パーセントポイント)

年平均、賃料上昇率 (%, 2019-2024年予想)

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他の投資資産と比較して、不動産の利回りは大概にして高い。ただし、今後の景気後退局面では賃料収入が縮小し、流動性リスクも高まるため、持続可能でない可能性も残る。しかし、年内のオフィス・セクター動向をみると、香港¹ とマニラの2都市で10%以上の賃料下落が予測されているのみとなっている。中期的なオフィス賃料上昇の見通しは明るく、5年間での年平均上昇率予測はシンガポール(3.3%)、バンガロール、メルボルンが続く。堅調な需要が、域内全体の物流セクターを底支えしている。5年平均賃料上昇率が2.5%を超える市場としては、中国北部(総面積は小さい)、中国南部およ東部、ソウルが含まれる。続くのはシドニーとオークランドだが、投資利回りも4.7%から5.9%の範囲で推移し、低リスクで安定した収益成長率が期待できる。ホテル・セクターの過去を振り返ると、危機に伴う急激な売上高の減少は、急激な回復が続いていることを示している。今後の価格反発の可能性が高まっている市場としては、シンガポールと香港が挙げられる。オーストラリアでも、国内娯楽施設関連は最も早く市況が回復するだろう。日本は、改善傾向にあるとはいえ、引き続き供給過多に悩まされている。小売セクターは、従前は景気循環に対する耐性が見受けられた。ただし、現在直面している構造的問題は景気の悪化以上に長期的な大きな課題である。適切に管理された都心型または郊外型のショッピング・モールは、依然として投資対象となりうるが、全体的に短期的な市況の見通しは悪化しており、投資リスクも高まりつつある。資産別の収益力上昇の見通しが様々であることを鑑みると、APACの資産を一括りの資産クラスとしてみなすことはもはや不可能である。一般的に、オフィスや物流の資産はリスク・プレミアムが低く、ホテルや小売り資産はリスク・プレミアムが高い。ただし、一部の市場におけるホテル市況の急速な回復の可能性は、より高いリスク・プレミアムを十分に補う水準にあるといえるだろう。

要約と考察–0.7% to 3.3%

53.6%, 59.0%

–1.7% to 4.6%

域内オフィス市場における今後5年間の年平均賃料上昇率の予測範囲(最低値:上海、最高値:シンガポール)

域内物流市場における今後5年間の年平均賃料上昇率の予測範囲(最低値:中国西部、最高値:中国北部)

アジア金融危機後の1999年、世界金融危機後の 2009年における日本以外APACのホテルセクターの株式投資収益率。当時のGDP成長率と収益の回復への期待を反映している。

¹「中華人民共和国」の香港特別行政区

第2章 – 資産クラス別の投資推奨

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3

北京

上海 広州

ソウル

台北

東京

メルボルン

シドニー

オークランド中国南部

中国北部

中国西部 中国東部

香港

東京

ソウル

シンガポール

メルボルン

シドニー

オークランド中国東部

シンガポール

香港

シンガポール

香港

シドニーメルボルン

2.5%

2.0%

3.0%

3.5%

4.0%

4.5%

5.0%

5.5%

6.0%

7.0%

6.5%

ホテル利回り

(%)

APAC 先進国市場:投資利回り&今後5年間の年平均収益増加率

5年平均収益増加率予想 (CAGR %, 2019-2024年)

シンガポール

東京

香港

産業施設/物流プレミアム/グレードAオフィス

投資妙味が低い 高い

-2.0% -1.0% 0.0% 1.0% 2.0% 3.0% 4.0% 5.0%

注: 1) 市場流通利回りが存在しない場合、弊社鑑定部門が提供するキャップ・レートで代用している(主にホテル)。 2) 弊社では RevPAR をホテル収入の代用値としている。出典:コリアーズ・インターナショナル

リテール

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第2章からは、賃料上昇予測の鈍化が不動産利回りにどの程度影響するかを検討していきたい。

2020年第1四半期、域内全域でCOVID-19による空室面積の増加、需要の低迷、賃料の落ち込みが確認された。テナントは、 景気低迷懸念から拡張計画を延期しているが、広がる在宅勤務の有効性が確認されれば、早期のオフィス・スペース需要回復への期待も腰折れとなるだろう。仮に床需要が拡大したとしても、賃料の割安な都市部周辺地区に短期間集中するだろうと予測される。2020年内に、賃料が下がらないであろう期待が残るのは台北、せいぜい東京とオークランドだけにとどまる。こうしたオフィス市場が好調な理由は、空室率が極めて低く、(東京の場合)新築ビルの内定率が非常に高いからである。残りの殆どの都市で来年の展望は厳しい。> 2020年末までに香港の平均オフィス賃料は約14%も低下すると弊社は予測。 新型ウイルスに伴う不況が、 昨年から続く抗議活動の影響の長期化、米中貿易戦争の副作用に追い打ちをかけて悪化傾向に。

> 中国の一級都市は短期的に賃料下落の可能性が高まっている。オフィスは再開し、従業員も仕事に戻ってきたが、特に上海と深圳では都市全体で空室率が25%と29%に上昇するほどの過剰供給に直面している。上海では年内に賃料が平均6.1%低下することが予測されるが、他の都市の低下率はこれより低いだろう。2021年も供給量が高止まりすれば、2022年からの回復を見込んだ賃料の上昇機運も更に弱まるだろう。

> シドニー及びメルボルンでは力強い成長が数年続いたが、足許の賃料上昇予測は大幅に停滞した。これは第2四半期に行われた都市封鎖とその後の不況を反映している。ほぼ過半数を超えるテナントが貸主に対して賃料減免を要求している状況を弊社では確認している。

> 新興市場ではインドの都市で、第2四半期に行われた国内全域にわたる都市封鎖の影響で賃料動向が不安定になっているようだ。しかし、最も甚大な賃料の急降下に直面している新興都市はマニラであり、年内に約17%の賃料低下を弊社では予測している。これは第2四半期に行われたルソン島の都市封鎖、中国企業が支配的な地位を占めるフィリピン・オフショア・ゲーミング・オペレーターズ(POGOs)からの床需要の消滅という同時発生的要因を反映したものである。

オフィスセクター

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不動産収益の鈍化とリスクに対する認識の変化

Source: Colliers International

KEY MOMENT

KEY 成都、ジャカルタ

香港

シドニー、メルボルンデリー NCR

MOMENTソウル、ムンバイ

深圳

図6:アジアのオフィス市場:不動産市場サイクル

¹ https://www.marketwatch.com/story/sp-500-cash-spending-will-plunge-by-a-record-33-in-2020-as-companies-scramble-to-shore-up-balance-sheets-says-goldman-sachs-2020-04-20参照²フィナンシャル・タイムズ “UK PLC cuts dividends by GBP24bn in face of crisis” (2020年5月8日付)参照。

台北

東京

シンガポール、バンガロール

拡 張賃料の伸び率の鈍化

不 均 衡需給不均衡;賃料の低下

収 縮賃料の底打ちへ

回 復賃料の伸び率が加速

注 :1. 2020年第一四半期末のデータに基づく予測2. グラフは今後12-18 カ月間の市場予測値を示す3. チャートの左側は貸主に優位な市場、右側はテナントに優位な市場

マニラ北京、広州

上海

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APAC都市で予測される賃料収入に対する短期的なプレッシャーは、相対的に見ればそれほど大きくないことをここで強調したい。殆どの場合、2020年の賃料低下率は10%以下にとどまっている。これと比較すると、ゴールドマンサックスは2020年の米国S&P 500指数構成企業からの配当金支払総額が23%低下すると予測し1、FTSE100指数構成英国企業では2020年の現時点で配当金支払238億ポンドが滞っており、これは今年の支払予定総額の26%² に相当する。

APAC都市の賃料上昇については短期的予測より中期的予測の方がはるかに明るい。今後5年間(2019年〜2024年)で賃料上昇が見込まれる都市はシンガポール、メルボルン、そしておそらくオークランドであり、新興都市の中で賃料上昇の可能性が最も高いのはバンガロールである。

> シンガポールは2020年、市内全域で賃料が5.0%低下すると予測されるが、新規供給計画は限定的であり、依然としてアジアではテナントの人気が高い都市にランクされるのは確実である。2021年以降は賃料が回復し5年間で平均3.3%の賃料上昇が予測される。

> メルボルンは正味床需要及び賃料の面で短期的プレッシャーに直面している。しかし、オーストラリアにおける都心部のテナント需要は国境封鎖が解除されれば改善の兆しがあり、賃料の水準がシドニーよりも低位に位置することから、賃料上昇率も今後5年間で平均3.1%に高まると予測される。オーストラリア、特にメルボルンはバイオメディカル研究の世界的中心地であるため、投資家はバイオメディカル特区に注目すると見られる。

> オークランドでは旺盛な需要、オフィスから住居やホテルスペースへの用途変更、限定的な新規開発によって、都心地区の需給バランスがほぼ10年間にわたりひっ迫してきた。空室率は過去最低となる4.7%、過去5年間の賃料上昇率は年平均3.9%を維持している。しかし国内景気回復は遅まる可能性もあるため、この記録的水準を維持することは困難であろう。

> バンガロールは、依然として中期的なGDP上昇率予想がアジアで最も高い都市である(オックスフォード・エコノミクスによると新型ウイルスの影響を考慮しても、今後の5年間年率平均で8.7%)。1

急成長がテナントの床需要を強力に後押しし、賃料上昇につながると見られ、今後5年間の賃料上昇率も年率平均3.2%と予測される。

出典: S&P グローバル・インテリジェンス、フィナンシャル・タイムズ、コリアーズ・インターナショナル、その他。注:グラフは、本レポート第1章の図4下半分を意図的に複製したもの。¹ https://www.marketwatch.com/story/sp-500-cash-spending-will-plunge-by-a-record-33-in-2020-as-companies-scramble-to-shore-up-balance-sheets-says-goldman-sachs-2020-04-20.参照² フィナンシャル・タイムズ “UK PLC cuts dividends by GBP24bn in face of crisis” (2020年5月8日付)参照。 ³オックスフォード・エコノミクス “Asian Cities and Regional Forecasts - Coronavirus scenarios” (2020年5月12日付)参照。

0.0

1.5

-0.2

1.2

2.4

0.6

3.3

0.8

3.2 2.9

1.9 1.8

0.0

-1.0

3.0

2.0

1.0

-0.7北京 上海 広州 香港 ソウル 台北 東京 シンガポール ムンバイバンガロールメルボルンシドニー オークランド

賃料上昇率

%4.0

図7: APAC都市型オフィス市場:今後5年間 (2019-2024年) における賃料上昇予測、年率平均

APACの中期的なオフィス賃料の成長見通しは依然として明るい:シンガポールは今後5年間で3.3%の年間平均成長率を達成する見込みであり、バンガロールとメルボルンが追随している

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中国はAPACで最大の物流用不動産市場である。北京政府は、物流プロジェクトの建設を厳しく管理し、土地取引を周辺地域に限定することで、高い賃料上昇率を下支えている。力強い需要増大を上回るほどに、周辺地区で供給が急拡大しているため、空室率が急上昇している。例えば2020年、物流施設の空室率は上海で9.5%から15.8%に急上昇すると予測される。大量の新規供給に伴い、2020年〜2021年の賃料動向も横ばいまたは緩やかに低下すると見られる。しかしその後の需給は安定化、賃料に対する下押しも弱まる見通しである。東京首都圏では、高度化した施設の比率が総床面積の5%程度にすぎないため、相当な改善が必要だが、都心部における需要は極めて堅調である。

オーストラリアでは、Eコマースの利用が増大し、大都市内の環状道路沿いの中小規模の産業用施設向け用地が不足しているため、大都市に近接したエリアでの需要が急増している。今後5年間においては年平均でシドニーで約1.9%、メルボルンで約1.5%と力強い賃料上昇が予測される。最後にオークランドでは、産業用施設は空室面積が少なく、供給も適度に抑制され、開発用地へのアクセスも制限されてきたため、長年にわたり貸主優位な市場が続いていた。最新の弊社調査によると、空室率は1.4%で、171,000平方メートルの空き面積が散在しており、建築中の産業用施設も約30万平方メートルにとどまっている。これらは前回の景気後退サイクルを大幅に下回る水準に抑制されており、今後数年間にわたる賃料をさらに押し上げていくだろう。

図8: 中国物流市場 – 年末推定空室率 (%、左軸、2019-2024 年予想)、平均年間賃料上昇率 (%、右軸)

20.0

Vacancyend-2019 Vacancyend-2024

4.6%

2.8%

Beijing Shanghai

Vacancyend-2020 Rental growth (%)

1.5%

-1.7%

Guangzhou Chengdu

5.0%

4.0%

15.0 3.0%

2.0%

10.0 1.0%

0.0%

5.0 -1.0%

-2.0%

0.0 -3.0%

物流/産業施設 セクター

注:中国南部の利回りは、深圳と広州の平均値。 注:グラフは、本レポート第1章の図5下半分を意図的に複製したもの。出典: S&P グローバル・インテリジェンス、フィナンシャル・タイムズ、コリアーズ・インターナショナル、その他。

2.7

4.6

-1.7

2.71.1 1.3

3.0

0.21.5 1.9 2.2

%6.0

4.0

2.0

0.0

-2.0

賃料上昇率

出典:コリアーズ・インターナショナル

図9: APAC物流/産業用施設市場における賃料上昇予測、年率平均 (2019-2024年)

大規模な都市封鎖や在宅勤務など、COVID-19の影響で域内全体でのeコマースとラストマイル倉庫を支える需要が高まっている。独立した物流業者、冷蔵倉庫などの高度化した物流施設への関心は、今後数年にわたり、堅調に推移する見通し。

2019年末空室率2024年末空室率

2020年末空室率賃料上昇率(%)

北京 上海 広州 成都

中国南部 中国北部 中国西部 中国東部 香港 東京 ソウル シンガポール メルボルン シドニー オークランド

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オフィスや物流セクターと比べると、ホテル、リテールセクターでは短期的な収益増の可能性は低い。アジア全域のホテルセクターは渡航禁止令の打撃を受けており、2020年第一四半期の域内ホテル平均稼働率は42%、極端な場合は10〜20%まで低下した。この水準は為替変動によって増幅された可能性があるが、域内で利用可能な部屋単位で測定した収益(RerPAR)は、第1四半期で前年比約40%減少した。

ただし、第2四半期には緩やかな回復の兆しが見受けられる。年初5か月間だけをみれば、客室の稼働率は約38%であった。しかしながら、検疫施設として、政府がホテルを利用することで回復が一部後押しされていることを鑑みても、稼働率は一部の市場(シンガポールなど)で予想よりも高まりつつある。APAC全域でロックダウンや緊急事態が徐々に解除されていくため、年内は回復傾向が継続すると予測している。通年ベースではRevPAR全体でみれば、25-30%の減少となり、オーストラリアでは一段低い45%の減少となる見通しである。

図10:危機的状況下、及び危機収束後におけるセクター別株式インデックスの収益率日本を除くAPAC FTSE Index returns(%) 1997 1998 1999 2002 2003 2004 2008 2009 2010製造業 -35.3 14.7 72.7 -0.8 53.8 26.4 -50.2 86.0 31.5建設業 -57.3 -13.7 33.1 14.3 60.1 33.9 -60.3 67.7 19.5小売業 6.9 2.6 9.3 -0.4 54.4 33.9 -47.2 65.6 15.9ホスピタリティ -53.5 -22.1 56.3 11.7 37.6 36.3 -53.8 59.0 39.3技術系 31.0 -12.5 200.6 -45.2 46.4 2.0 -49.1 102.5 19.1金融業 -19.1 -4.4 12.0 -6.7 37.6 32.1 -48.8 67.4 10.6不動産 -41.6 -1.4 33.8 -17.7 42.5 32.8 -57.9 -22.6 12.7

ホテルセクター

ホテルセクター回復の可能性を最も明確に示すのは、株式指数構成銘柄の動向である。下図に示すように、日本を除くアジア株式市場について、ホテルセクターは1997〜1998年のアジア金融危機と2008〜2009年の世界金融危機のいずれにおいても、株価が急激に落ち込んだが、直後から大幅な回復を遂げた。また、図11のデータから分かるように、このような株価回復の力強さは、ホテルセクターのGDP貢献度の動向においても十分に反映されていることが多い。

図11:危機的状況下、及び危機収束後におけるホテル・セクターのGDP貢献率の年度別変化

前年比からの推移 (%ポイント) 1997 1998 1999 2002 2003 2004 2008 2009 2010

宿泊業、飲食業 (proxy for Hotels) 0.3 -13.8 12.3 -3.3 -4.5 19.3 -3.0 -5.9 18.9

過去の事例を振り返ると、ホテルセクターは危機から急激に回復できる可能性が高い。弊社シンガポールに関するレポート「Resilience and Rebound Ranking」(2020年5月29日)では、産業別に過去の危機から回復した度合いを推し量るために、GDP成長率、株式インデックス・リターン、今後の営業利益予測という3つの基準に基づく比較を行った。このランキングにおいて、ホスピタリティ事業は製造業、テクノロジー産業に次いで第三位にランクされている。コリアーズ、シン

ガポールによる調査によると、ホスピタリティ業界はコロナ危機収束後には業界で第3位となる大幅な業績回復の可能性を秘めている。

出典 : コリアーズ・インターナショナル、S&P

出典 : コリアーズ・インターナショナル、S&P

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しかし、この地域の観光需要は中国本土からの訪問者に圧倒的に依存しており、コロナ前のインバウンド観光客の80%を占めていた。既に香港は国境封鎖を段階的に緩和しているが、中国本土からの訪問客数がいつ回復するかは不透明である。それでもなお、香港のホテル市場は底値にとどまっていると考えられる。2019年10月から2020年3月までの6ヵ月間に、香港のホテル総投資額は、3月の合計取引額88億香港ドル(11億米ドル)に比べて77%減少し、21億香港ドル(3億米ドル)になった。2019年半ばのホテル売買の気配値は、最近のピークである1平方フィートあたり18,910香港ドル(2,460米ドル)から約30%も下落している。弊社の見解では、この下落幅はすでに予測される収益の縮小幅を十分以上に反映している。

ホテルの営業利益の内訳80%はRevPARが占める。このため、RevPARをホテル収入の代用として使用するのは妥当である。弊社予測では、2020年にRevPARが25-30%減少、20201年にはRevPARが10-20%回復し、その後数年間でさらに回復すると想定している。 、RevPARは今後5年間、つまり2019年から2024年までの平均年率で3.5%上昇すると弊社では予測している。

主要国別の見通し

オーストラリア、特にシドニーやメルボルン都心地区のホテル需要をみると、2020年に45%近く落ち込んだ後に、2021年には50%以上の回復を成し遂げることも可能であろう。とはいえ、2019年の水準に回復するまでには、 2023年までかかることが予想される。総括すると、2019年から2024年までの年平均成長率は1.0%未満にとどまる可能性が高い。オーストラリア人はコロナ疲れから休暇や週末の保養を待ち望んでいる。「島国」であることから地理的に十分隔離されているため、州内の観光市場がまず恩恵を受け、その後クイーンズランド等、従来から存在する主な観光地に恩恵をが波及していくであろう。近年オーストラリアからの渡航者は、海外からの渡航者を上回って推移している。海外渡航が禁止となる間は、その旅行費用は国内の旅行先における消費へと振り替えられることとなる。さらに、ニュージーランドと締結した「トランス-タスマン・バブル」協定によって両国は共に国内需要増大の恩恵を共有することになるだろう。

シンガポールでは過去の経験則に基づき、観光客の来訪数が回復していくと予測している。長期的な需要の原動力は変わらず、短期的にはタイトな需給や多くの観光名所を有する集客力が市況を支えていくだろう。シンガポールの弱点としては、国の人口が570万人と少ないため、国内需要の規模が限定的とならざるを得ないことである。香港のホテルセクターの収益回復には、実現するのに時間がかかる可能性がある。2003年のSARSの例では、ホテル稼働率の急激な回復が見られた(右図参照):香港政府観光局(HKTB)によると、2003年2月〜5月の間、ホテルの全体稼働率は82%から17%に落ち込んだが、その後3ヵ月以内に88%まで回復した。

ホテル市場で最も早く収益の回復が見込まれるのは、国内観光需要が強い市場である。国際会議施(MICE)関連の需要は最も回復が遅れるであろう。

日本ではオリンピックの延期にもかかわらず、国内観光客や企業の堅調な需要が東京のホテル市場をサポートするだろう。コロナ危機により大阪や京都など人気観光地のホテル過剰供給に対する懸念が高まっている。弊社では地方都市でのホテルが急激な値下げに直面していると見込んでいたが、コロナ危機のプラス効果としては、新規供給の一部の竣工が延期されているため、不動産価格への下落圧力も緩和される可能性がやや高まっている。

出典 : STR、香港観光局、コリアーズ・インターナショナル

2003年6月渡航禁止令の

緩和

2003年7月:WHOSARS 抑制された

との判断2003年3月:WHOSARS感染の警告

6ヶ月

3ヶ月

バンコク ハノイ ホーチミン 仁川 & ソウル プーケット

シンガポール

東京

図12: 2003年SARS渦中の香港ホテル稼働率の推移(2003年3月―11月)

3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月

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リテールセクターの収益回復度合いについては、ホテルセクターよりも悲観的な予測となっている。弊社の「Resilience and Rebound Ranking」調査によると、リテールセクターは過去には収入増と消費意欲を反映して反発できる回復力を示していた。しかし、新たなEコマースからの脅威の高まり、高まる賃料、そして従来の小売業では明らかに対応が困難な「体験型」ショッピングの需要の拡大など、数多くの構造的な問題を抱えている。コロナ危機の鎮静にともない、小売売上は多くの市場で短期的に回復する可能性がある。しかし中期的な売上増に関しては、上場企業のなかで小売セクターの今後3年間の収益予測が最も低いことに注目している(下図を参照)。

リテールセクター

総括すれば、リテール市場では様々な部門が、程度の差はあるものの、環境の変化による影響を相応に受けているということが分かる。例えばスーパーマーケットやドラッグストアにおいては、殆ど悪影響は認められていないが、ハイブランド店舗は相当な悪影響を受けている(上図参照)。

全般的に、日用品を中心に取扱う生活密着型の郊外ショッピング・モール、店舗数やアクティビティが充実し、管理の行き届いた都心型ショッピング・モールの賃料上昇率は、高級品を中心に扱う目抜き通り沿いの店舗に比べれば高まっていくだろうと予想される。

利益上昇率 ROE 順位 (1=トップ)

テクノロジー 24.3% 9.3% 1

製造 19.0% 10.1% 2

サービス 16.8% 9.1% 3

不動産1 11.4% 8.5% 4

建設 10.4% 4.6% 5

金融サービス 8.1% 8.5% 6

リテール 2.9% 7.4% 7

図13: APAC株式セクター-2020年3月末〜2023年3月末の年平均利益上昇率予測及び3年間のROE(株主資本利益率)

出典 : コリアーズ・インターナショナル、Simply Wall St. 2020年4月30日付予測。ROEのベースは2020年3月。 1 プロフェッショナルサービス分野の代替

影響度高低

出典:コリアーズ・インターナショナル(フィリピン)、Moody’s

ペット用品

カフェ

化粧品

ホームセンター

映画館

ハイブランド

ファストファッション、スポーツ用品

スポーツジム

旅行用品、旅行会社

薬局

スーパーマーケット

eコマース

ファーストフード

銀行、両替所

図14:小売業の位置づけ:COVID-19の産業分野別影響度は?

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執筆者:Andrew Haskinsエグゼクティブ・ディレクター | リサーチ | アジア+852 2822 [email protected]

寄稿者:Terence Tangマネージング・ディレクター | キャピタルマーケッツ | アジア+65 6531 [email protected]

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発行日2020年6月29日