101
序 文 2011 3 11 日の東日本大震災に伴い、東京電力福島第一原子力発電所で炉心溶融事故が 発生し、多量の放射性物質が外部環境に放出され、福島県を中心に、東日本の広範囲において 農作物や土壌が放射性物質に汚染されました。(独)農業環境技術研究所(以下、農環研)は 60 年以上に渡る環境放射能調査・研究の実績を生かし、事故発生当初から他の農業試験研究機 関等と連携して、農産物や土壌などの汚染実態の把握にあたりました。大気からの降下による 汚染が収まってからは、作物による放射性物質の経根吸収の要因解明に関する研究を実施し、 吸収抑制や除染に関する技術開発を進めてきました。 本報告では、「農業環境技術研究所における東京電力福島第一原子力発電所事故関連の 2011 年の放射能研究 」と題して、特に 2011 年、事故直後から農環研で進められた様々な緊急対応研 究等に絞って 10 報の論文を掲載しました。 福島第一原発から南南西約 170km の位置にある茨城県つくば市においても、3 15 日に放 射性プルームが通過し、高い線量率が観測されました。論文 1 では、つくば市にある農環研の 圃場における事故直後から 1 年間の、葉菜、土壌及び降水中の放射性核種濃度の推移について 取りまとめています。また、論文 2 及び 3 では、事故直後から県から緊急的に分析を依頼され た関東地方の野菜類の放射性物質濃度の推移や、福島県周辺の農地土壌の放射性物質濃度の分 析結果をとりまとめています。 論文 4 及び 5 では、放射性物質沈着初期の農地土壌を用いた放射性セシウムの抽出結果や、 農作業に伴い巻き上がる土壌粒子に含まれる放射性物質の評価について報告しています。 農環研では文部科学省の航空機モニタリングによる空間線量率マップ、デジタル農地土壌図 および放射性セシウム濃度の実測値に基づいて、農地土壌の放射性セシウム濃度分布図を作成 して公開しました。論文 6 及び 7 では 2011 年度に実施した緊急調査と本調査について取りまと めています。 また、論文 8 及び 10 では、2011 年秋に国の暫定規制値を上回る濃度の放射性セシウムが福 島県産の玄米から検出されたことを受けて取り組んだ、規制値超過要因の解析に関係する調査 を取りまとめました。 除染技術については、事故後に耕作が行われた圃場を対象とした、水を用いた土壌撹拌 - 引排水法について、論文 9 で取りまとめました。 東京電力福島第一原子力発電所の事故から 4 年が経過しました。 2014 年産の福島県の玄米の 全袋調査約 1100 万袋のうち基準値を超えたものはなく、カリ肥料の施用などの吸収抑制対策 の効果が確認されています。しかし、福島県の農耕地土壌で放射性セシウム濃度が 5000 Bq/ kg を越えている面積は数千 ha あると推定され、農環研では、今後も農業環境中の放射性セシ ウムの動態と作物吸収に関する実態把握や将来予測研究を進めていきます。 また、2012 年には、「土壌―植物系における放射性セシウムの挙動と要因解明」について過 去の研究をとりまとめた総説を農環研報告第 31 号(2012) に掲載しました。こちらもご活用下 さい。

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Page 1: Changes in radionuclides concentration in leafy …...Changes in radionuclides concentration in leafy vegetables, soil and precipitation for a year after the Fukushima Daiichi Nuclear

序 文

2011年3月11日の東日本大震災に伴い、東京電力福島第一原子力発電所で炉心溶融事故が発生し、多量の放射性物質が外部環境に放出され、福島県を中心に、東日本の広範囲において農作物や土壌が放射性物質に汚染されました。(独)農業環境技術研究所(以下、農環研)は60年以上に渡る環境放射能調査・研究の実績を生かし、事故発生当初から他の農業試験研究機関等と連携して、農産物や土壌などの汚染実態の把握にあたりました。大気からの降下による汚染が収まってからは、作物による放射性物質の経根吸収の要因解明に関する研究を実施し、吸収抑制や除染に関する技術開発を進めてきました。

本報告では、「農業環境技術研究所における東京電力福島第一原子力発電所事故関連の2011年の放射能研究」と題して、特に2011年、事故直後から農環研で進められた様々な緊急対応研究等に絞って10報の論文を掲載しました。

福島第一原発から南南西約170kmの位置にある茨城県つくば市においても、3月15日に放射性プルームが通過し、高い線量率が観測されました。論文1では、つくば市にある農環研の圃場における事故直後から1年間の、葉菜、土壌及び降水中の放射性核種濃度の推移について取りまとめています。また、論文2及び3では、事故直後から県から緊急的に分析を依頼された関東地方の野菜類の放射性物質濃度の推移や、福島県周辺の農地土壌の放射性物質濃度の分析結果をとりまとめています。

論文4及び5では、放射性物質沈着初期の農地土壌を用いた放射性セシウムの抽出結果や、農作業に伴い巻き上がる土壌粒子に含まれる放射性物質の評価について報告しています。

農環研では文部科学省の航空機モニタリングによる空間線量率マップ、デジタル農地土壌図および放射性セシウム濃度の実測値に基づいて、農地土壌の放射性セシウム濃度分布図を作成して公開しました。論文6及び7では2011年度に実施した緊急調査と本調査について取りまとめています。

また、論文8及び10では、2011年秋に国の暫定規制値を上回る濃度の放射性セシウムが福島県産の玄米から検出されたことを受けて取り組んだ、規制値超過要因の解析に関係する調査を取りまとめました。

除染技術については、事故後に耕作が行われた圃場を対象とした、水を用いた土壌撹拌 -吸引排水法について、論文9で取りまとめました。

東京電力福島第一原子力発電所の事故から4年が経過しました。2014年産の福島県の玄米の全袋調査約1100万袋のうち基準値を超えたものはなく、カリ肥料の施用などの吸収抑制対策の効果が確認されています。しかし、福島県の農耕地土壌で放射性セシウム濃度が5000 Bq/

kgを越えている面積は数千haあると推定され、農環研では、今後も農業環境中の放射性セシウムの動態と作物吸収に関する実態把握や将来予測研究を進めていきます。

また、2012年には、「土壌―植物系における放射性セシウムの挙動と要因解明」について過去の研究をとりまとめた総説を農環研報告第31号(2012)に掲載しました。こちらもご活用下さい。

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1

農環研報 34,1-9(2015)

つくば市において観測された 東京電力福島第一原子力発電所事故直後から1年間の葉菜、

土壌および降水中の放射性核種濃度の推移

Changes in radionuclides concentration in leafy vegetables, soil and precipitation for a year after the

Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant accident; In case of Tsukuba City, Japan.

大瀨健嗣*・木方展治**・井上恒久***・栗島克明****・福囿康志*****・谷山一郎******

(平成26年12月2日受理)

シノプシス: 東京電力福島第一原子力発電所から南南西およそ170kmの距離にある茨城県つくば市の農業環境技術研究所圃場において、事故直後から、葉菜、土壌について1年間、降水について8月間、それらに含まれる放射性核種(131I、134Cs、137Cs)濃度を調査した。3月15日につくば市を通過した放射性プルームからの乾性沈着により、葉菜の 131I濃度は著しく増加したが、事故後の3月21

日から3月23日にかけての最初の降水による湿性沈着の寄与は比較的小さかった。また、ホウレンソウとコマツナとでは各放射性核種濃度の推移に相違があった。一方、土壌中の放射性核種濃度は最初の降水による湿性沈着による増加がきわめて大きく、最初の降水の前に通過した放射性プルームによる乾性沈着の寄与は小さかった。

* 元土壌環境研究領域(現福島大学)** 土壌環境研究領域*** 元土壌環境研究領域(現日本土壌協会)**** WDB(株)***** (株)リクルートスタッフィング****** 元研究コーディネータ

Ⅰ まえがき

東北地方太平洋沖を震源とするマグニチュード9.0の地震が2011年3月11日14時46分に発生し、これに伴う津波によって、東京電力福島第一原子力発電所(以下、

福島第一原発)は全交流電源を喪失した。その結果、冷却機能のほとんどが失われ、翌3月12日には1号建屋で水素爆発が発生、さらに3月14日から3月16日にかけて、相次いで2号建屋、3号建屋、4号建屋で爆発や火災が発生し、大量の放射性核種が大気中に放出された。放

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2 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

出された放射性核種により、福島県を始めとする東北地方及び関東地方を中心に、東日本の広い範囲で高い放射線量が観測されるとともに、農畜産物や土壌の深刻な放射能汚染が次々と報告された。福島第一原発から南南西約170kmの位置にある茨城県つくば市においては、3月15日に放射性プルーム(放射能雲)が通過し、1.27 μSvh-1

をピークに高い線量率が観測された(佐波ら, 2011)。大気中に放出された放射性核種は、乾性沈着と降水に

よる湿性沈着により、植物および土壌に沈着する。植物への移行経路には、放射性核種の葉面等植物地上部からの取り込み及び土壌を経由した根からの吸収が報告されて い る( 津 村 ら, 1984;Zehnder ら, 1995;Singhal ら, 2004)。また、放出された放射性物質は、土壌中における挙動や土壌から植物への移行が核種毎に異なることが報告されている(結田ら, 2002;Ban-naiら, 2002)。しかしながら、これらの報告の多くは、大気圏内での核実験に起因する降下放射性核種に関するものか、実験室で得られた結果である。

独立行政法人農業環境技術研究所(以下、農環研)で

は、放射能調査研究の一環として、全国各地の定点圃場から採取した農産物および土壌の放射能モニタリングを行うとともに、放射能事故等の非常時に対応することを目的に、研究所内の圃場で常時葉菜を栽培し、速やかに放射性核種の測定を行う体制を整えている。今回の事故においては、緊急時対応として3月12日から1年間葉菜および土壌を採取するとともに、降雨ごとに降水も採取し、それらに含まれる放射性核種濃度について経時変化を調査したので報告する。

Ⅱ 試料および方法

農環研は茨城県つくば市の南部にあり、北緯36°01′38″、東経140°06′37″、筑波-稲敷台地上の標高約20 mに位置する。福島第一原発からは南南西に約170 km離れている

(図1)。葉菜および土壌は、同じ敷地内にある圃場から定期的

に採取した。採取した葉菜類は、主としてホウレンソウ(Spinacia oleracea L.)およびコマツナ(Brassica rapa var.

福 島 第 一 原 発

つ く ば 市

20 km

100 km

200 km

福 島 市

図1 福島第一原発に対するつくば市の位置

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3大瀨健嗣ら:つくば市において観測された東京電力福島第一原子力発電所事故直後から1年間の葉菜、土壌および降水中の放射性核種濃度の推移

perviridis)であり、両圃場は約150 m離れている。さらに、ホウレンソウ栽培圃場に隣接した圃場でチンゲンサイ(Brassica rapa var. chinensis) お よ び ニ ラ(Allium

tuberosum)を補足的に採取した。採取した葉菜の播種日と採取日は表1に示した。それぞれの試料は、対角線法により圃場の5ヶ所から採取し、混合した。その際、土壌の混入が起こらないように、地上部2~3 cmより上部をステンレススチール製の刃で切断した。洗浄は行わずに、1~2.5 cm角程度に裁断し、2 L容のアクリル製マリネリ容器(以下マリネリ容器)に充填した後、同軸形ゲルマニウム半導体検出器(セイコ-EG&G社製、1.33 KeV

相対検出効率58%および55%、以下ゲルマニウム半導体検出器)で放射性核種濃度を測定した。水による洗浄効果を見るために、コマツナの一部は流水で洗浄し、蒸留水で濯いだ後、水切りをしてから切断しマリネリ容器に充填した。土壌表層における放射性核種濃度の推移を調べるための土壌試料は、福島第一原発事故時にホウレンソウが作付けされていた圃場から採取した。この圃場は、事故後から採取していた間には耕起は行わなかった。この圃場の土壌は表層多腐植質黒ボク土に分類された。対角線法により圃場の5ヶ所から、土壌物理性測定用の0.1 L用ステンレス円筒を用いて、0~5 cmの深さの試料を採取し、混合した。水分を含んだまま厚さ2 cm、96 ml容のスチロール製容器に充填した後、ゲルマニウム半導体検出器で放射性核種濃度を測定した。

降水試料は研究所の敷地内に90 L容のポリエチレン製容器を設置し、降水ごとに回収した。採取した降水は、

落葉等の浮遊物を取り除いた後、そのままマリネリ容器に封入した。ただし、透明性が損なわれる程の浮遊物がある試料は、定性ろ紙(No.2)によるろ過を行った。放射性核種濃度の測定は、ゲルマニウム半導体検出器で行った。

Ⅲ 結果および考察

1)放射性プルーム通過による放射能汚染

佐波ら(2011)によると、つくば市に原発事故の放射性プルームが最初に到達したのは3月15日の2時13分であり、その日の8時38分に1.27μSv h-1 の最大値が観測された。つくば市において葉菜類から人工放射性核種が検知されたのは、表2に示すように、3月15日からであり、放射性プルームの到達時期と合致した。放射性プルームは測定器の汚染を引き起こし、福島第一原発事故前には0と見なすことができたバックグラウンド値が、2011年3月15日以降は認められるようになった。3月18

日に得たバックグラウンド値は、131Iで2 Bq相当、134Csおよび 137Csで1.5 Bq相当で、観測した中では最大であった。2011年3月15日~31日までの期間においては、2 Lマリネリ容器に封入した作物試料の最小値は、131Iで500 Bq、134Csおよび 137Csで25 Bqであり、バックグラウンドを差し引かない場合の誤差は 131Iで0.4%以内、134Csおよび137Csで6%以内にそれぞれ収まると考えられた。この期間においては、バックグラウンド値の変動が激しく、正確な差し引きが困難であったこともあり、バックグラウ

表1 栽培した葉菜の播種および採取日一覧

作目名 品種名 播種日採取年月日

年 月日

ホウレンソウ

ソロモン(針葉系) 2010/11/5 2011 3/12,3/13,3/14,3/15,3/16,3/19,3/24,4/1ソロモン(針葉系) 2010/11/11 2011 4/21,4/28,5/6ソロモン(針葉系) 2011/3/24 2011 5/12,5/26

アクティブ(針葉系) 2011/4/14 2011 6/24,7/8,7/21

ソロモン(針葉系) 2011/10/62011 10/28,11/10,11/25,12/8,12/222012 1/5,1/18,2/6,3/13

ソロモン(針葉系) 2011/11/2 2012 3/29

コマツナわかみ 2010/10/18 2011

3/15,3/16,3/19,3/22,3/23,3/24,3/25,3/28,3/29,3/30,3/31,4/1,4/4,4/6,4/8,4/11,4/15

楽天 2011/3/24 2011 5/12,5/26,6/9楽天 2011/4/14 2011 6/24,7/8,7/21,9/5

ニラ (不明) 2010/3/12 2011 6/9,6/23チンゲンサイ 夏帝 2011/7/12 2011 9/5

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4 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

ンド値の差し引きは行わなかった。なお、表2の3月14

日までの試料は、放射性プルーム通過前に測定を開始しており、各核種のピークも認められなかったことから、この期間のバックグラウンド値は各核種0 Bq相当と考えられた。

図2に、3月15日に採取したコマツナ試料のγ線スペクトルを示した。人工放射性核種として、131I(「The 8th

edition of the Table of Isotopes」による半減期8.0日、以下同じ)、132I(0.1日、132Teの娘核種)、133I(0.9日)、137Cs

(30.167年)、134Cs(2.065年)、136Cs(13.2日)、132Te(3.2日)、129m Te(33.6日)、99mTc(0.25日、99Moの娘核種)、

99Mo(2.7日)が検出され、放射性プルームが多核種による汚染を引き起こしたと考えられた。

2)降水による放射能汚染

福島原発事故後の降水中の放射性核種濃度および降水量の推移を図3に示した。福島第一原発事故後に1 mm以上の降水量が観測された最初の降水イベントは、3月21

日から23日にかけて発生した。同月の9日に23.5 mmの降雨があって以来、12日間0 mmを超える降雨は発生しておらず、それまでは大気は乾いた状態が続いていたと考えられる。図4に、2011年3月21日9時から3月22日

表2 地震翌日から放射性プルーム通過までのホウレンソウの放射性物質濃度変化

放射性核種 単位 試料採取日時3月12日7時40分

3月12日16時40分

3月13日9時40分

3月14日10時40分

3月15日9時10分

131I Bq kg-1 <0.30* <0.22 <0.22 <0.30 10500±10**

134Cs Bq kg-1 <0.17  <0.21 <0.21 <0.28 107±2.6137Cs Bq kg-1 <0.20  <0.19 <0.23 <0.29 98.7±4.8放射性Cs*** Bq kg-1 <0.37  <040 <0.44 <0.57 206±5.4

*;<の後の数値はCooper法(検出限界計数3)による定量下限値を示す。**;±の後の数値は、放射能計数値の標準偏差を示す。***;放射性Csは 134Csと 137Csの合計値を示す。

0(0.1667)

100

101

102

103

カウント/チャンネル

104

105

106

107

500(125.60)

1000(251.02)

1500(376.43)

2000(501.82)

チャンネル(エネルギ keV)

2500(627.20)

3000(752.57)

3500(877.92)

4000(1003.3)

図2 2011年3月15日に採取したコマツナのγ線スペクトル(0 -1000 keV)当日10時採取、10時40分から実測定時間7234秒で測定.図中の*はCooper法(検出限界計数3)でピークとして検出されたことを示す。

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5大瀨健嗣ら:つくば市において観測された東京電力福島第一原子力発電所事故直後から1年間の葉菜、土壌および降水中の放射性核種濃度の推移

0

20

40

60

80

100

120

140

160

採 取 日

降水量

降水量

3/1

3/11

3/15

3/22

4/19

4/23

5/11

5/13

5/17

5/22

5/29 6/

86/

136/

176/

23 7/1

7/21

7/29

7/31

8/4

8/19

8/22

8/26 9/

2

9/21

10/5

10/9

10/2

2

11/1

9

12/2

1/21 2/

72/

14

2/25

2/29

3/2

3/5

3/9

3/17

3/23

3/31

0.01

0.1

1

10

100

1000

10000

放射性核種濃度

131I

134Cs

   137Cs

Bq kg-1 mm

2012年2011年

 

図3 つくば市における降水中放射性核種濃度の推移

0(0.5428)

100

101

102

103

カウント/チャンネル

104

105

106

107

500(125.81)

1000(251.09)

1500(376.37)

2000(501.65)

チャンネル(エネルギ keV)

2500(626.94)

3000(752.23)

3500(877.53)

4000(1002.8)

図4 2011年3月21日9時から3月22日21時に採取した降水試料のγ線スペクトル(0 -1000 keV)当日9時から22日21時にかけて採取、21時28分から実測定時間22554秒で測定.図中の*はCooper法(検出限界計数3)でピークとして検出されたことを示す。

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6 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

21時にかけて採取した雨水のγ線スペクトルを示した。図2で示した湿性沈着の影響のないスペクトルと比べて、検出された核種に相違はないが、事故後10日ほどが経過し、半減期の短い核種の崩壊が進んだことで 137Cs

および 134Csのピークが目立ってきていることが明らかである。

3月21日から22日にかけて採取した降水について、131I、134Csおよび 137Cs濃度はそれぞれ、3440、203および207 Bq kg-1 と高い値を示した。気象庁によると、この3日間の降水量の合計が35.5 mmであることから、この降水によって地表に降下した放射性核種量は 131I、134Csおよび 137Csがそれぞれ122、7.2および7.3 kBq m-2

となる。次のまとまった降水は4月19日であったが、この降水中の放射性核種濃度は 131I、134Csおよび 137Csがそれぞれ26.2 、31.0および29.9 Bq kg-1 と、最初の降水時と比較して大幅に減少していた。半減期の比較的長い137Csで比較すると、最初の降水に対して4月19日の降水では0.4%に低下していた。また、その4日後の4月23日の降水では 131I濃度が0.7 Bq kg-1、134Csと 137Cs濃度がともに3.1 Bq kg-1 まで減少し、それ以降に採取された降水ではいずれの放射性核種濃度も1 Bq kg-1 未満であった。なお、図3では12月3日以降は、降水量のみを示している。

3)土壌の放射性核種濃度の推移

図5はモニタリング圃場から採取した表層土壌(0~5 cm)の3月15日から1年間の放射性核種濃度の推移を示している。濃度を表す縦軸は対数値で表記し、0.1 Bq kg-1 以下の濃度及び検出限界以下の値はすべて0.1としてプロットした。佐波ら(2011)によると、3月15日にピークがあった空間線量率はその後、一旦低下するが、3月21日の降水後に再び増加している。我々が採取した土壌試料では、3月15日の 131I、134Csおよび 137Cs

の濃度は、それぞれ406、28.5、および28.9 Bq kg-1 で、その後3月19日までは 131I濃度が374~675 Bq kg-1、134Csと 137Csの濃度がそれぞれ18.2~38.1 Bq kg-1 および27.8~40.2 Bq kg-1 の間で推移していた。しかし、最初の降水のあった3月22日には 131I、134Csおよび 137Cs濃度がそれぞれ2780、631、および640 Bq kg-1 にまで急激に増加した。このことから、最初の降水によって土壌に大量の放射性核種が沈着したことは明らかであり、降水後の空間線量率の増加の原因を降水による放射性物質の沈着によるものとした佐波ら(2011)の結果と一致する。

土壌試料では、131I濃度は最初の降水後の3月24日の

値が最大値となった(図5)。その後は時間の経過とともに減少し、およそ1ヵ月後の4月21日には529 Bq kg-1、5月26日には5.2 Bq kg-1、6月23日には1 Bq kg-1 未満となった。これに対し、134Csおよび 137Cs濃度は最初の降水後は比較的高い値で推移し、かつ変動が大きかった。2012年の3月13日における 134Csと 137Cs濃度はそれぞれ874 と1180 Bq kg-1 であり、事故後最初の降水があった2011年3月21日から2012年3月13日までに採取された土壌の 134Cs濃度は417~1300 Bq kg-1、137Cs 濃度は429~1320 Bq kg-1 の範囲であった。このことは耕起を行わない場合、土壌に加えられた放射性物質がそのまま高濃度で表層土壌に存在しつづけることを示唆している。放射性セシウムが畑地の表層土壌から減少する要因としては、物理壊変の他に、風雨による浸食や、耕起による下層との混合、作物吸収による系外への持ち出しなどが考えられる。また、土壌の粘土鉱物に特異的に強く吸着するため(FrancisとBrinkley, 1976)、地下への溶脱は ほ と ん ど な い こ と が 報 告 さ れ て い る(Rosen ら, 1999)。農環研では1950年代から日本全国の畑地土壌と水田土壌の放射能モニタリングを行っている。大気圏核実験由来の放射性セシウムの降下量がもっとも高かった1963年を基準に滞留半減期を計算すると、畑地では8~26年(平均18年)であった(駒村ら, 2006)。したがって、本調査地における畑地土壌中の 137Cs濃度が事故以前のレベルまで減少するには数十から百年を要する。

2)葉菜の放射性核種濃度の推移

ホウレンソウについては1年間、チンゲンサイについては半年間の測定結果を図6に示す。縦軸には対数値を取り、0.1 Bq kg-1 以下の濃度及び検出限界以下の値はすべて0.1としてプロットした。ホウレンソウの 131I濃度は3月16日に最大値12900 Bq kg-1 を示し、その後は急速に減少した。134Cs濃度と 137Cs濃度の合計値(以後、放射性セシウム濃度と称す)の最大値は原発事故発生後、最初の降水のあった後の3月24日に採取した試料で検出された1040 Bq kg-1 であり、その後は徐々に減少した。半減期の短い 131Iだけでなく、比較的半減期の長い 134Cs

と 137Csも短期的に減少した要因としては、作物自体の生育と放射性物質に直接暴露されていない新しい葉の展葉とによる希釈の効果が大きいと考えられる。また、5月12日以降は、事故後に播種したホウレンソウを採取したが、それらの試料では 131I、134Csおよび 137Cs濃度は検出されないか5 Bq kg-1 未満であった。ニラの播種は福島第一原発以前であったが、採取時期は2011年の6月9日

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7大瀨健嗣ら:つくば市において観測された東京電力福島第一原子力発電所事故直後から1年間の葉菜、土壌および降水中の放射性核種濃度の推移

以降であり、2011年に播種したチンゲンサイと同様に、131Iは検出されず、放射性セシウム濃度は2 Bq kg-1 未満であった。2012年3月29日においては、葉菜の 131I濃度は検出下限値以下となった。一方、放射性セシウム濃度は0.3 Bqkg-1 あり、福島第一原発事故以前のレベルには復していないが、2011年3月のピーク時の1/1000以下であり、事故による汚染の影響は小さくなっているといえる。

コマツナについては、131I濃度は3月15日から3月25

日まで2350~4480 Bq kg-1 の範囲で推移していたが、その後はホウレンソウと同様に急速に減少した。放射性セシウム濃度は、3月15日に99 Bq kg-1 に達し、16日から19日まで100~200 Bq kg-1 で推移していたが、3月

22日の降水時に707 Bq kg-1 に急増した。24日に最大値の898 Bq kg-1 に達した後、減少に転じた。5月12日以降の福島第一原発事故後に栽培を開始した試料間の放射性セシウム濃度の比較では、ホウレンソウよりもコマツナで高くなる傾向が見られた。

コマツナについては水洗をしない試料と、水洗をした試料との比較を行った。2011年3月21日の降水より前の試料については、131I、134Cs および 137Cs濃度がそれぞれ平均で45.9%、65.1%および62.0%、水洗により減少していた。しかしながら、降水後2011年の3月22日から4

月11日までの試料については 131I、134Cs および 137Cs濃度の減少がそれぞれ平均で26.6%、31.5%および31.0%と、水洗による減少率は小さくなった。

1

10

100

1000

100003/

1

4/1

5/1

6/1

7/1

8/1

9/1

10/1

11/1

12/1 1/1

2/1

3/1

I-131Cs-134Cs-137

3/153/22

Bq kg-1 乾土

放射性核種濃度

2011年 2012年採  取  日

図5 表層土壌の放射性核種濃度の推移

0.1

1

10

100

1000

10000

100000

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12/1 1/1

2/1

3/1

放射性核種濃度

事故前播種ホウレンソウ事故後播種ホウレンソウ事故前播種コマツナ事故後播種コマツナ事故前播種ニラ事故後播種チンゲンサイ

0.1

1

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10000

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12/1 1/1

2/1

3/1

放射性核種濃度

131I

134Cs + 137Cs

2011年 2012年

Bq kg-1 新鮮重

Bq kg-1 新鮮重

採  取  日

3/15

3/15

3/22

3/22

図6 葉菜類の放射性核種濃度の推移

Page 9: Changes in radionuclides concentration in leafy …...Changes in radionuclides concentration in leafy vegetables, soil and precipitation for a year after the Fukushima Daiichi Nuclear

8 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

放射性核種の濃度変動における土壌と葉菜類との大きな違いは、葉菜類の 131Iが最初に放射性プルームがつくば市に到達した時点で非常に高い値を示した点である。ホウレンソウでは特に顕著で、3月14日採取の試料では1 Bq kg-1 未満だった 131Iが、放射性プルームがつくば市に到達した3月15日には10500 Bq kg-1 になり、翌3月16日には今回の調査における最大値まで増加した。また、131Iに関しては降水後の増加は認められなかった。コマツナの場合はホウレンソウと多少異なり、131I、134Cs、137Csともに、まずプルーム到達後に増加し、最初の降水後にも再び増加していた。また、134Csと 137Csの最大値はコマツナとホウレンソウでは同レベルであったが、131I

についてはホウレンソウが3倍近く高い値を示した。ホウレンソウの品種は葉面の形状から針葉系と丸葉系に大別されるが、本試験では針葉系を用いた。コマツナはホウレンソウの丸葉系に近い葉面の形状を有しているとも考えられ、ホウレンソウとコマツナとのこのような違いは、両者の葉面構造の違いが影響したものと考えられる。

Ⅴ 引用文献

1) Ban-nai T ,and Y . Muramatsu (2002):Transfer

factors of radioactive Cs, Sr, Mn, Co and Zn from

Japanese soils to root and leaf of radish. J. Environ. Radioactivity, 63, 251-264

2) Francis C.W. and F.S. Brinkley (1976):Preferential

adsorption of Cs-137 to micaceous minerals in

contaminated freshwater sediment. Nature, 260, 511-513

3) Rosen K, I. Oborn, and H. Lonsjo(1999):Migration of

radiocaesium in Swedish soil profiles after the

Chernobyl accident.J. Envir. Radioactivity, 46, 45-66

4) 駒村美佐子・津村昭人・山口紀子・藤原英司・木方展治・小平 潔(2006):わが国の米、小麦および土壌における 90Srと 137Cs濃度の長期モニタリングと変動解析. 農業環境技術研究所報告, 24, 1-21

5) 佐波俊哉・佐々木慎一・飯島和彦・岸本祐二・齋藤 究・(2011):茨城県つくば市における福島第一原子力発電所の事故由来の線量率とガンマ線スペクトルの経時変化. 日本原子力学会和文論文誌, 10, 163-169

6) Singhal R.K., U. Narayanan, and R.P. Gurg(2004):Estimation of deposition velocities for 85Sr, 131I, 137Cs

on spinach, radish and beans leaves in a tropical

region under simulated fallout conditions. Water, Air, and Soil Pollut., 158, 181-192

7) 津村昭人・駒村美佐子・小林宏信(1984):土壌及び土壌―植物系における放射性ストロンチウムとセシウムの挙動に関する研究. 農業技術研究所報告, B, 36, 57-113

8) 結田康一・駒村美佐子・木方展治・藤原英司・栗島克明(2002):原子力施設事故等に伴う農作物・土壌の緊急放射能調査. 日本土壌肥料学雑誌, 73, 203-210

9) Zehnder H.J.,P.Kopp, J.Eikenberg, U.Feller,and J.J. Oertli(1995):Uptake and transport of radioactive

cesium and strontium into grapevines after leaf

contamination.Radiat,Phys.Chem., 46, 61-69

謝 辞

本調査に使用した葉菜類および土壌の採取について、農環研研究支援室 荒貴裕氏、山口弘氏並びに阿部勝男氏にご協力を頂きました。また、独立行政法人農業生物資源研究所の関係諸氏につきましては、コマツナの採取について許可を与えて頂きました。ここに記して謝意を表します。

なお、本研究は文部科学省放射能調査研究費によって行われたものです。

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9大瀨健嗣ら:つくば市において観測された東京電力福島第一原子力発電所事故直後から1年間の葉菜、土壌および降水中の放射性核種濃度の推移

Concentrations of radionuclides(131I, 134Cs, 137Cs) in leafy vegetables, soil, and precipitation were investigated in Tsukuba

City 170 km away from Fukushima Daiichi nuclear power plant, right after Tokyo Electric Power company's Fukushima

Daiichi Nuclear Power Plant accident occurred. The concentration of 131I in leafy vegetables, particularly spinach, signi�cantly increased because of dry deposition caused by radioactive plume passed Tsukuba-city �rst after the accident. The contribution of wet deposition to the concentration of radionuclides in leafy vegetables was relatively small compared

with dry deposition. Changes in the concentration of each radionuclide were different between spinach and komatsuna

(Japanese mustard). Concentration of radionuclides in leafy vegetables did not substantially decrease after washing with

water following the �rst precipitation. However, the concentration of radionuclides in soil signi�cantly increased by �rst

precipitation after the accident.

Changes in radionuclides concentration in leafy vegetables, soil and precipitation for a year after the Fukushima Daiichi Nuclear Power

Plant accident;In case of Tsukuba City, Japan.

Kenji OHSE, Nobuharu KIHOU, Tsunehisa INOUE, Katsuaki KURISHIMA, Yasushi FUKUZONO and Ichiro TANIYAMA.

Summary

Page 11: Changes in radionuclides concentration in leafy …...Changes in radionuclides concentration in leafy vegetables, soil and precipitation for a year after the Fukushima Daiichi Nuclear
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11

農環研報 34,11-21(2015)

福島第一原発事故直後の関東地方における 野菜類の放射性物質濃度

Concentration of radioactive materials of vegetables in the Kanto area just after the Fukushima

Daiichi Nuclear Power Plant Accident

木方展治*・大瀬健嗣**・谷山一郎***

(平成26年12月2日受理)

Synopsis:The authors measured 131I, 134Cs and 137Cs radioactive concentration of 56 vegetable samples

which was collected in Ibaraki, Tochigi, Gunma and Chiba Prefecture on the basis of the request of

the Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries (MAFF) and the prefectural governments just

after the accident of the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant (FDNPP) from March 18 to 25, 2011. The prefectural governments put the data of 131I and radioactive Cs concentration of

vegetables on the internet. The MAFF used the data to judge the shipment regulation policy of

contaminated vegetables. This paper shows the data of 134Cs and 137Cs concentration of vegetables

which has been never published. Spinach (Spinacia oleracea) grown outdoors which fecture on March 18 exceeded the provisional

regulation value for radioiodine (2000 Bq kg-1). Garland chrysanthemum (Glebionis coronaria)

which was collected in Mooka and Sakura City and spinach which was collected in Kaminokawa

Town of Tochigi Prefecture on March 24 exceeded the provisional regulation value for radioiodine. Spinach grown outdoors which was collected in Isezaki City of Gunma Prefecture on March 19

exceeded the provisional regulation value of radioiodine. eight green vegetables (including spinach

and “Kakina” (Brassica rapa)) exceeded the provisional regulation value of radiocesium

(134Cs+137Cs: 500 Bq kg-1).The range of 131I/ 137Cs concentration ratio of spinach was from 9.7 to 20.2 in Ibaraki Prefecture

in March 18, 9.2 on March 24 in Tochigi Prefecture, from 5.7 to 6.4 on March 19 and from 4.9 to 9.2

on March 22-25 on Gunma Prefecture. The higher ratio was observed in Ibaraki Prefecture. However, 131I/ 137Cs ratio between vegetables at the same location had large differences; from 1.6

* 土壌環境研究領域** 元土壌環境研究領域、現福島大学*** 元研究コーディネータ

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12 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

Ⅰ はじめに

2011年3月11日の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所(以下福島第一原発)の事故によって、大量の放射性物質が大気中に放出された。放射性物質は風向により大半が太平洋側に放出されたが、3月15日や3月21日などには陸側に大規模に放射性物質が降下し、土壌・河川・海洋が汚染され、用水・農畜水産物から放射性物質が検出された。事故直後、厚生労働省などが2011年3月17日に定めた放射性物質の暫定規制値を上回った農作物は、北は岩手県北部の牧草から、西は静岡県の茶葉まで広い範囲に及んだが、2012年4月に定められた新たな食品基準値を上回る農作物が2014年3月時点でも検出され、出荷規制が行われている(厚生労働省, 2014)。(独)農業環境技術研究所(以下農環研)は60年以上

に渡る放射能調査・研究の実績を生かし、事故発生当初から他の農業試験研究機関と連携して、農産物、土壌や農業用水の汚染の実態把握に対応するとともに、作物の放射性物質汚染要因の解明研究を実施し、吸収抑制技術や除染技術の開発に取り組んできた。

そのような中で、農環研は福島第一原発事故直後に農林水産省や県からの要請を受け、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県で採取された野菜などの試料の 131I、134Csおよび 137Cs放射能濃度を測定した。131Iおよび 134Csと 137Cs

放射能濃度の和である放射性セシウム濃度については各県のホームページ上で公開され、出荷規制対策などにも利用された。各県が公表したデータには農環研以外の分析機関の分析結果が含まれているが、今回、これまで公表されていなかった 134Csおよび 137Cs放射能濃度を含めて、農環研で分析した結果を公開する。

Ⅱ 方 法

野菜類などの試料56点は、2011年3月23日に農林水産省消費・安全局消費・安全政策課が各県に通知した「食品(農産物等)の採取・送付手順(マニュアル)」に従って採取・洗浄を行い、農環研に送付された。ホウレンソウを対象とした「食品(農産物等)の採取・送付手順(マ

ニュアル)ver.1」を付録1に示す。農環研に持ち込まれた試料は、農林水産省消費・安全

局消費・安全政策課が3月23日に通知した「分析機関における試料の前処理について」および「緊急時における食品の放射能測定マニュアル」(厚生労働省、2002)を参考として、農環研が農林水産省農林水産技術会議事務局技術政策課と協議し2011年3月23日に策定した「放射能(放射線)事故が起きた場合の作物体放射能濃度測定手順(暫定版)」に従って前処理を行い、マリネリ容器に充填した。その前処理方法は作物によって異なるが、例としてホウレンソウについて付録2に示す。

なお、洗浄は水道水の流水で行ったが、一時水道水中の 131I濃度が高くなったために、イオン交換水で洗浄を行うことがあった。測定時間は1,500~10,000秒で、作物の放射性物質濃度は 131I、134Csおよび 137Cs放射能濃度を生重1kg当たりのBq(Bq kg-1)で示した。

また、野菜類の採取地の住所などについては農環研には通知されていなかったので、厚生労働省がホームページ上で公表している分析結果と作物名(厚生労働省, 2011)を参照して、市町村名を推定した。また、農環研で分析した結果がすべて公表されてはおらず、分析数値もわずかに分析値と公表値が異なるものがあったが、農環研で分析値としているデータを記載した。地域的・時間的な放射性物質濃度の変化や土壌の放射性物質濃度との比較を可能とするため、放射性物質濃度は2011年4月1日0:00時点の減衰補正を行ったものを表2に示した。

Ⅲ 結果および考察

1) 採取時点の野菜類の放射性物質濃度

表1に、採取地点、採取日時、作物名、131I、134Csおよび 137Csの採取時点での放射能濃度と検出限界、134Csと137Cs放射能濃度の和である放射性セシウム濃度を示す。放射能濃度は有効数字3桁または小数点以下1桁の値で表示する。放射性物質の測定値は検出限界よりも高いものがほとんどであったが、群馬県のトマトの1検体だけ 137Cs放射能濃度が検出限界未満であった。また、放射性物質濃度が高いと予測された場合は、測定時間を短くしたため、放射能濃度が高いと検出限界も高くなる傾

of cucumber to 31.8 of garland chrysanthemum on March 24 in Tochigi Prefecture and from 2.2 of

water melon (Citrullus lanatus) to 10.1 of “Mitsuba” (Cryptotaenia japonica). As stated above, the radioactive substance concentration and component of vegetables had large

range between the area, date, vegetable species or cultivation methods.

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13木方展治ら:福島第一原発事故直後の関東地方における野菜類の放射性物質濃度

表1 福島第一原発事故直後の関東地方の野菜類の放射性物質濃度

No 県名 地点名 採取日 採取時刻 作物名

131I 134Cs 137Cs 放射性 セシウム (Bq kg-1)

測定値 (Bq kg-1)

検出限界 (Bq kg-1)

測定値 (Bq kg-1)

検出限界 (Bq kg-1)

測定値 (Bq kg-1)

検出限界 (Bq kg-1)

1 茨城 日立市 2011/3/18 19:35 ホウレンソウ(露地) 54100 4.4 990 1.6 941  2.1 19302 茨城 日立市 2011/3/18 19:35 ホウレンソウ(露地) 25200 2.0 565 1.0 540  1.1 11103 茨城 日立大宮市 2011/3/18 19:35 ホウレンソウ(露地) 19200 1.9 524 1.2 516  1.1 10404 茨城 日立大宮市 2011/3/18 19:35 ホウレンソウ(露地) 17800 1.7 449 9.4 459 10.4  9085 茨城 那珂市 2011/3/18 17:25 ホウレンソウ(露地) 16100 2.2 467 1.1 444  1.3  9116 茨城 那珂市 2011/3/18 17:25 ホウレンソウ(露地) 13500 1.4 484 8.7 482  8.7  9667 茨城 鉾田市 2011/3/18 17:40 ホウレンソウ(露地) 7710 2.3 206 1.3 201  1.5  4078 茨城 鉾田市 2011/3/18 17:40 ネギ(露地)  356 6.1   4.4 0.3 4.3  0.3    8.79 栃木 真岡市 2011/3/22 10:00 イチゴ(不明)注)   59.5 0.8   3.6 0.5 3.7  0.6    7.310 栃木 栃木市 2011/3/22 10:00 イチゴ(不明)   68.7 0.8   6.7 0.6 6.3  0.7   13.011 栃木 高根沢町 2011/3/22 10:00 イチゴ(不明)   60.0 0.8   3.5 0.6 3.2  0.7    6.712 栃木 那須塩原町 2011/3/22 9:30 トマト(不明)    6.6 0.4   0.6 0.4 0.8  0.4    1.413 栃木 小山市 2011/3/22 10:30 トマト(不明)   16.0 0.6   2.5 0.4 2.5  0.6    5.014 栃木 上三川町 2011/3/22 10:30 トマト(不明)   15.0 0.5   1.8 0.3 1.5  0.5    3.315 栃木 鹿沼市 2011/3/22 11:00 ニラ(不明)  523 2.3  13.4 1.3 12.2  1.7   25.616 栃木 大田原市 2011/3/22 9:30 ニラ(不明)  331 2.3  34.7 1.8 32.8  1.8   67.517 栃木 栃木市 2011/3/22 10:00 ニラ(不明)  511 2.5  26.5 1.7 25.5  1.9   52.018 栃木 小山市 2011/3/24 9:30 キュウリ(不明)   32.7 0.7  11.2 0.6 11.4  0.6   22.619 栃木 下野市 2011/3/24 9:30 キュウリ(不明)   26.9 0.7   6.8 0.5 7.5  0.4   14.320 栃木 真岡市 2011/3/24 10:00 シュンギク(不明) 2080 5.3  73.8 2.9 74.4  2.6  14821 栃木 さくら市 2011/3/24 9:30 シュンギク(不明) 4340 7.5  75.9 3.6 77.3  2.8  15322 栃木 高根沢町 2011/3/24 10:00 アスパラガス(不明)   29.5 0.7   1.0 0.4 0.8  0.6    1.823 栃木 佐野市 2011/3/24 10:00 カキナ(不明) 1970 7.4 123 5.4 129  5.1  25224 栃木 上三川町 2011/3/24 10:30 ホウレンソウ(不明) 5230 13.4 328 7.4 324  8.4  65225 栃木 宇都宮市 2011/3/24 10:15 アスパラガス(不明)   25.2 0.7   1.1 0.6 0.9  0.6    2.026 栃木 小山市 2011/3/24 10:00 レタス(不明)   23.8 1.4   5.5 1.1 5.4  1.3   10.927 群馬 伊勢崎市 2011/3/19 10:30 ホウレンソウ(露地) 2630 9.0 159 5.2 151  6.2  31028 群馬 伊勢崎市 2011/3/19 11:15 ホウレンソウ(露地) 2080 5.5 133 4.1 135  4.0  26829 群馬 前橋市 2011/3/19 13:50 キャベツ(露地)    5.9 0.2   1.3 0.2 1.0  0.2    2.330 群馬 前橋市 2011/3/19 14:30 ネギ(露地)   40.0 0.4   5.5 0.3 5.7  0.4   11.231 群馬 高崎市 2011/3/19 10:05 カキナ(露地) 1910 6.8 278 5.7 277  5.7  55532 群馬 太田市 2011/3/19 10:20 ネギ(露地)   81.1 0.9   5.9 0.7 5.4  0.8   11.333 群馬 昭和町 2011/3/19 9:00 キュウリ(施設)   19.2 0.5   1.5 0.4 1.6  0.5    3.034 群馬 板倉町 2011/3/19 9:00 キュウリ(施設)   57.5 0.8   3.3 0.7 3.8  0.7    7.135 群馬 太田市 2011/3/22 15:30 ホウレンソウ(施設)  973 4.0  57.4 2.7 56.1  2.4  11436 群馬 沼田市 2011/3/22 13:45 ホウレンソウ(施設)  414 2.8  23.1 2.0 21.7  2.0   44.837 群馬 前橋市 2011/3/22 12:40 コマツナ(施設)  170 1.8  28.6 1.5 26.1  1.7   54.738 群馬 館林市 2011/3/22 14:30 シュンギク(施設) 1040 4.2  59.5 2.6 56.4  2.6  11639 群馬 渋川市 2011/3/22 13:15 ニラ(施設)   54.3 1.5   6.0 1.1 7.3  1.1   13.340 群馬 甘楽町 2011/3/22 14:35 ニラ(施設)  150 1.6   9.2 1.0 9.6  1.0   18.841 群馬 伊勢崎市 2011/3/24 9:30 トマト(施設)    6.1 5.9   0.6 0.4 <0.4  0.4  <1.042 群馬 渋川市 2011/3/24 10:00 ミズナ(施設)  201 2.1  35.9 1.9 35.9  2.2   71.843 群馬 榛東村 2011/3/24 10:20 チンゲンサイ(施設)   39.3 1.1   6.4 0.9 6.2  1.1   12.544 群馬 高崎市 2011/3/24 10:00 イチゴ(施設)   28.4 0.4   1.3 0.3 1.3  0.4    2.645 群馬 伊勢崎市 2011/3/24 10:15 ホウレンソウ(露地) 1440 7.3 116 5.3 114  5.3  23046 群馬 高崎市 2011/3/24 10:25 カキナ(露地)  872 5.2  75.1 3.9 73.5  3.4  14947 群馬 みどり市 2011/3/25 10:00 ミニトマト(施設)   10.3 0.2   1.3 0.2 1.3  0.2    2.648 群馬 伊勢崎市 2011/3/25 10:10 ナス(施設)    7.9 0.5   1.8 0.4 1.5  0.6    3.349 群馬 藤岡市 2011/3/25 11:00 イチゴ(施設)    6.0 0.2   0.9 0.3 0.9  0.3    1.850 群馬 太田市 2011/3/25 9:30 スイカ(施設)    2.9 0.2   0.8 0.2 0.8  0.2    1.651 群馬 昭和村 2011/3/25 10:18 ホウレンソウ(施設)  639 2.6  81.4 2.4 80.8  2.6  16252 群馬 昭和村 2011/3/25 10:45 アスパラガス(施設)    5.9 0.2   1.1 0.2 1.2  0.2    2.353 群馬 富岡市 2011/3/25 10:20 タラノメ(施設)    7.5 0.3   1.6 0.2 1.6  0.3    3.254 群馬 甘楽町 2011/3/25 10:04 ノザワナ(施設)  236 1.3  33.6 0.9 31.7  1.3   65.355 群馬 前橋市 2011/3/25 10:40 ミツバ(施設)  404 2.5  24.5 1.6 24.8  1.5   49.356 千葉 野田市 2011/3/20 11:45 ホウレンソウ(露地) 1410 4.5  96.5 3.8 99.2  3.5  196

注:栃木県の栽培形態は不明

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14 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

表2 福島第一原発事故直後の関東地方の野菜類の減衰補正後の放射性物質濃度注1)

No 県名 地点名 作物名 採取日 採取時刻

131I 134Cs 137Cs 放射性

セシウム 131I/137Cs 134Cs/137CsBq kg-1 Bq kg-1 Bq kg-1 Bq kg-1

1 茨城 日立市 ホウレンソウ(露地) 2011/3/18 19:35 19000 989 940 1930 20.2 1.052 茨城 日立市 ホウレンソウ(露地) 2011/3/18 19:35  8830 564 540 1100 16.4 1.053 茨城 日立大宮市 ホウレンソウ(露地) 2011/3/18 19:35  6730 523 516 1040 13.0 1.024 茨城 日立大宮市 ホウレンソウ(露地) 2011/3/18 19:35  6240 448 459  907 13.6 0.985 茨城 那珂市 ホウレンソウ(露地) 2011/3/18 17:25  5580 466 444  910 12.6 1.056 茨城 那珂市 ホウレンソウ(露地) 2011/3/18 17:25  4680 483 482  965  9.7 1.007 茨城 鉾田市 ホウレンソウ(露地) 2011/3/18 17:40  2680 206 201  407 13.4 1.028 茨城 鉾田市 ネギ(露地) 2011/3/18 17:40   124   4.4   4.3    8.7 28.8 1.019 栃木 真岡市 イチゴ(不明)注2) 2011/3/22 10:00    28.4   3.6   3.7    7.3  7.6 0.96

10 栃木 栃木市 イチゴ(不明) 2011/3/22 10:00    32.8   6.7   6.3   13.0  5.2 1.0711 栃木 高根沢町 イチゴ(不明) 2011/3/22 10:00    28.6   3.5   3.2    6.7  8.8 1.0812 栃木 那須塩原町 トマト(不明) 2011/3/22 9:30     3.1   0.6   0.7    1.4  4.2 0.8113 栃木 小山市 トマト(不明) 2011/3/22 10:30     7.7   2.5   2.5    5.0  3.1 1.0114 栃木 上三川町 トマト(不明) 2011/3/22 10:30     7.2   1.8   1.5    3.3  4.7 1.1715 栃木 鹿沼市 ニラ(不明) 2011/3/22 11:00   250  13.4  12.2   25.6 20.5 1.1016 栃木 大田原市 ニラ(不明) 2011/3/22 9:30   158  34.7  32.8   67.4  4.8 1.0617 栃木 栃木市 ニラ(不明) 2011/3/22 10:00   244  26.5  25.5   52.0  9.6 1.0418 栃木 小山市 キュウリ(不明) 2011/3/24 9:30    18.5  11.2  11.4   22.6  1.6 0.9819 栃木 下野市 キュウリ(不明) 2011/3/24 9:30    15.3   6.8   7.5   14.3  2.0 0.9020 栃木 真岡市 シュンギク(不明) 2011/3/24 10:00  1180  73.7  74.4  148 15.9 0.9921 栃木 さくら市 シュンギク(不明) 2011/3/24 9:30  2460  75.8  77.3  153 31.8 0.9822 栃木 高根沢町 アスパラガス(不明) 2011/3/24 10:00    16.7   1.0   0.8    1.8 20.4 1.1723 栃木 佐野市 カキナ(不明) 2011/3/24 10:00  1120 123 129  252  8.7 0.9524 栃木 上三川町 ホウレンソウ(不明) 2011/3/24 10:30  2980 328 324  651  9.2 1.0125 栃木 宇都宮市 アスパラガス(不明) 2011/3/24 10:15    14.3   1.1   0.9    2.0 16.2 1.2526 栃木 小山市 レタス(不明) 2011/3/24 10:00    13.5   5.5   5.4   10.8  2.5 1.0227 群馬 伊勢崎市 ホウレンソウ(露地) 2011/3/19 10:30   973 159 151  310  6.4 1.0528 群馬 伊勢崎市 ホウレンソウ(露地) 2011/3/19 11:15   769 133 135  268  5.7 0.9829 群馬 前橋市 キャベツ(露地) 2011/3/19 13:50     2.2   1.3   1.0    2.3  2.2 1.2730 群馬 前橋市 ネギ(露地) 2011/3/19 14:30    15.0   5.5   5.7   11.1  2.6 0.9631 群馬 高崎市 カキナ(露地) 2011/3/19 10:05   704 278 277  554  2.5 1.0032 群馬 太田市 ネギ(露地) 2011/3/19 10:20    29.9   5.8   5.4   11.2  5.6 1.0933 群馬 昭和町 キュウリ(施設) 2011/3/19 9:00     7.0   1.5   1.6    3.0  4.5 0.9334 群馬 板倉町 キュウリ(施設) 2011/3/19 9:00    21.1   3.3   3.8    7.1  5.5 0.8635 群馬 太田市 ホウレンソウ(施設) 2011/3/22 15:30   474  57.3  56.1  114  8.5 1.0236 群馬 沼田市 ホウレンソウ(施設) 2011/3/22 13:45   200  23.1  21.7   44.8  9.2 1.0637 群馬 前橋市 コマツナ(施設) 2011/3/22 12:40    82.0  28.6  26.1   54.7  3.1 1.1038 群馬 館林市 シュンギク(施設) 2011/3/22 14:30   505  59.4  56.4  116  9.0 1.0539 群馬 渋川市 ニラ(施設) 2011/3/22 13:15    26.2   6.0   7.3   13.3  3.6 0.8240 群馬 甘楽町 ニラ(施設) 2011/3/22 14:35    72.9   9.2   9.6   18.7  7.6 0.9641 群馬 伊勢崎市 トマト(施設) 2011/3/24 9:30     3.4   0.6 <0.4  <1.0 不計算 不計算42 群馬 渋川市 ミズナ(施設) 2011/3/24 10:00   114  35.9  35.9   71.7  3.2 1.0043 群馬 榛東村 チンゲンサイ(施設) 2011/3/24 10:20    22.3   6.3   6.2   12.5  3.6 1.0344 群馬 高崎市 イチゴ(施設) 2011/3/24 10:00    16.1   1.3   1.3    2.6 12.5 1.0445 群馬 伊勢崎市 ホウレンソウ(露地) 2011/3/24 10:15   816 116 114  230  7.2 1.0246 群馬 高崎市 カキナ(露地) 2011/3/24 10:25   494  75.0  73.5  149  6.7 1.0247 群馬 みどり市 ミニトマト(施設) 2011/3/25 10:00     6.4   1.3   1.3    2.6  4.8 0.9548 群馬 伊勢崎市 ナス(施設) 2011/3/25 10:10     4.9   1.8   1.5    3.3  3.2 1.1749 群馬 藤岡市 イチゴ(施設) 2011/3/25 11:00     3.7   0.9   0.9    1.8  4.2 0.9850 群馬 太田市 スイカ(施設) 2011/3/25 9:30     1.8   0.8   0.8    1.6  2.2 0.9951 群馬 昭和村 ホウレンソウ(施設) 2011/3/25 10:18   395 81  81  162  4.9 1.0152 群馬 昭和村 アスパラガス(施設) 2011/3/25 10:45     3.7   1.1   1.1    2.2  3.2 0.9553 群馬 富岡市 タラノメ(施設) 2011/3/25 10:20     4.6   1.6   1.6    3.2  2.9 1.0254 群馬 甘楽町 ノザワナ(施設) 2011/3/25 10:04   146  33.6  31.7   65.2  4.6 1.0655 群馬 前橋市 ミツバ(施設) 2011/3/25 10:40   251  24.5  24.8   49.3 10.1 0.9956 千葉 野田市 ホウレンソウ(露地) 2011/3/20 11:45   570  96.4  99.1  196  5.8 0.97

注1:表1の放射性物質濃度を2011年4月1日0時に減衰補正した値注2:栃木県の栽培形態は不明

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15木方展治ら:福島第一原発事故直後の関東地方における野菜類の放射性物質濃度

向があった。なお、農環研が分析を担当したのは比較的放射能濃度の高い作物であるため、関東地方全体の傾向を示すものではないことに注意する必要がある。

検出された 131I放射能濃度は3月25日に群馬県太田市の施設栽培のスイカの 2.9 Bq kg-1 から 3 月 18 日に茨城県日立市で採取された露地栽培のホウレンソウの54100 Bq kg-1 まで幅広い範囲であった。134Cs放射能濃度は3月22日の栃木県那須塩原市と3月24日の群馬県伊勢崎市の施設トマトの0.6 Bq kg-1 から3月18日の茨城県日立市の露地ホウレンソウの990 Bq kg-1、137Cs放射能濃度は3月24日の群馬県伊勢崎市の施設トマトの0.4 Bq kg-1未満から3月18日の茨城県日立市の露地ホウレンソウの941 Bq kg-1 の範囲にあった。放射性セシウム濃度は3月24日採取の群馬県伊勢崎市の施設トマトの1 Bq kg-1 未満から3月18日の茨城県日立市の露地ホウレンソウの1930 Bq kg-1 まであった。

出 荷 規 制 の 対 象 と な る 131I 濃 度 の 暫 定 規 制 値2000 Bq kg-1 を超えたのは、3月18日採取の茨城県日立市、日立大宮市、那珂市、鉾田市の露地ホウレンソウ、3月24日の栃木県真岡市、さくら市のシュンギクと上三川町のホウレンソウおよび3月19日の群馬県伊勢崎市の露地ホウレンソウであった。放射性セシウムの暫定規制値500 Bq kg-1 を超えたのは、3月18日採取の茨城県日立市、日立大宮市、那珂市の露地ホウレンソウ、3月24日の栃木県上三川町のホウレンソウおよび3月19日の群馬県高崎市の露地カキナであった。このように食品の放射性物質の暫定規制値を超えたものは、茨城県、栃木県および群馬県のホウレンソウ、シュンギクおよびカキナなどの葉菜類であった。

2) 減衰補正した野菜類の放射性物質濃度

これらの放射性物質濃度の野菜の種類、地域間差、時間変化および土壌の放射性物質濃度と比較するため、2011年4月1日現在の放射能濃度に補正した結果を表2

に示す。131I放射能濃度が比較的高い500 Bq kg-1 を、放射性セシウム濃度が100 Bq kg-1 を超えたのは、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県のホウレンソウ、シュンギク、カキナであり、同じ葉菜類でもネギやニラ、レタスやキャベツは低い傾向があった。ネギやニラでは葉が立っていて、平面的な表面積がホウレンソウなどよりも小さく、単位重量当たりの放射性物質濃度が低くなったと考えられる。また、レタスやキャベツさらにはスイカでは放射性物質濃度の高い外葉や外皮を除去していることによると推定される。また、スイカ、トマト、イチゴ、

ナスおよびキュウリなどの果菜類の放射性物質濃度が低いのは、大気から沈着する際に、果実の平面的な面積が小さく単位面積当たりの重量が高いものほど、重量当たりの放射性物質量が少なくなるためと思われる。また、果菜類は放射性物質沈着時に換気を行った場合を除き、放射性物質が内部に侵入する確率が低くなる施設栽培が多いことや果実が葉の陰にあるため放射性物質が付着しにくいことも考えられる。さらに、果実と葉の表面構造が毛やワックスの有無などによって異なるため、放射性物質が付着しにくい、または水洗によって容易に洗脱されるなどの原因も推定される。

3月21日前後での放射性物質濃度の変化を、群馬県の同一市町村における露地のホウレンソウとカキナについて見ると、131I濃度は伊勢崎市の露地ホウレンソウは3月19日が2630 Bq kg-1 と2080 Bq kg-1 に対し、3月24日は1440 Bq kg-1、高崎市の露地カキナでは3月19日が1910 Bq kg-1 に対して、3月24日は872 Bq kg-1 と大幅に低下していた。137Cs濃度では、伊勢崎市の露地ホウレン ソ ウ は 3 月 19 日 が 151 Bq kg-1 と 135 Bq kg-1 に 対し、3月24日は114 Bq kg-1、高崎市の露地カキナでは3

月19日が277 Bq kg-1に対して、3月24日は73.5 Bq kg-1

とこれも低下していた。茨城県つくば市の農環研圃場で栽培されたホウレンソ

ウとコマツナの放射性物質濃度の連続分析結果を4月1日に補正したデータ(木方, 未発表)によれば、洗浄済みのコマツナの 131I放射能濃度は3月19日までは500 Bq kg-1

程度で推移していたが、3月24日には1340 Bq kg-1 まで上昇、その後緩やかに減少し、4月1日には667 Bq kg-1

であった。137Cs放射能濃度は3月19日までは25 Bq kg-1

程度であったが、3月24日には249 Bq kg-1 まで上昇、その後徐々に低下し、4月1日で149 Bq kg-1 であった。このように、つくば市では3月21日の降雨に伴う放射性物質の沈着(木方ら, 未発表)によって作物の放射性物質濃度の上昇が観測された。

野菜の放射性物質濃度は生長による希釈によって時間とともに減少するが、上記事例ほどの低下は考えにくい。また、群馬県の前橋市と高崎市のモニタリングポストの空間線量率は3月21日に上昇した(群馬県, 2011;原研機構, 2011)ことから、放射性物質の沈着が群馬県でもあったと思われる。このため、同じ市内であっても

(同一の圃場かどうかは不明)地域的な偏差があったか、トンネル被覆の有無など栽培法に違いがあったと考えられる。

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16 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

3) 野菜類の131I/137Cs放射能濃度比

放射性物質の発生源や発生日時の指標となる131I/ 137Cs

放射能濃度比をホウレンソウについて見ると(表2)、3

月18日の茨城県では9.7~20.2、3月24日の栃木県では9.2、3月19日の群馬県では5.7~6.4、3月22~25日では4.9~9.2と、茨城県で高い傾向が認められた。さらに、時間的な変化を見ると、群馬県伊勢崎市のホウレンソウは、3月19日が5.7~6.4に対して3月24日は7.2、群馬県高崎市のカキナでは、3月19日が2.5に対し、3月24日は6.7と上昇した。作物種間の差も大きく、栃木県の3月24日ではキュウリの1.6からシュンギクの31.8まで、群馬県の3月25日ではスイカの2.2からミツバの10.1まであった。

茨城県つくば市の農環研のコマツナの4月1日補正の131I/ 137Cs放射能濃度比は3月19日までは25程度であったが、3月22日以降は急速に低下し5程度で推移していた(木方ら, 未発表)。茨城県に3月21日に沈着した放射性物質の 131I/ 137Cs放射能濃度比がそれまでよりも低かったためと考えられる。また、2011年3月25日~4月2日に採取した土壌の4月1日補正の 131I/ 137Cs放射能濃度比の県別平均値は、茨城県が6.10、栃木県が2.94、群馬県が2.11、千葉県が4.03と地域的な違いが認められた

(木方ら, 2015)。以上の結果から、茨城県や千葉県では3月20日以前は

131I/ 137Cs濃度比の高い放射性物質が沈着したが、3月21日は 131I/ 137Cs濃度比の低い放射性物質が降下した。しかし、栃木県や群馬県では3月21日前後とも比較的131I/ 137Cs濃度比の低い放射性物質が沈着し、大きな変化が起こらなかった可能性がある。これについては、他の分析機関が行った福島県の内陸部と海岸部や茨城県の3月21日以降の野菜類の 131I、134Csおよび 137Cs放射能濃度分析値の補正データなどを入手して検証する必要がある。

4) 野菜類の134Cs/137Cs放射能濃度比134Cs/ 137Cs放射能濃度比は0.82~1.25の範囲にあっ

た。地域によって土壌中の 134Cs/ 137Cs放射能濃度比が異なるとの報告もある(小森ら, 2013)が、測定した限りでは関東地方の野菜の 134Cs/ 137Cs濃度比に地域的な傾向は認められなかった。また、原子炉から放出された放射性物質の 134Cs/ 137Cs放射能濃度比は0.89~1.04との報告があり、それからはずれているのは 137Cs放射能濃度が10 Bq kg-1 未満のものであり、低濃度のものでは測定誤差が大きいためと考えられた。このことから、134Cs

および 137Csが低濃度の試料では測定時間を十分にとって、測定精度の向上を図った上で考察を行うことが必要である。

以上の結果、作物の放射性物質濃度または組成は、地域、時期、作物種および栽培法によって大きく異なることが示唆された。

摘 要

(独)農業環境技術研究所(農環研)では農林水産省や県からの要請を受け、茨城県、栃木県、群馬県および千葉県において、福島第一原発事故直後の3月18日から3

月25日にかけて採取された野菜などの試料56点の 131I、134Csおよび 137Cs放射能濃度を測定した。その結果は各機関に報告され、131Iおよび放射性セシウム濃度については各県のホームページ上で公開されるとともに、各県の出荷停止指示の根拠となった。今回、これまで公表されていなかった 134Csと 137Cs放射能濃度を含めて、農環研で分析した結果を報告した。

131I 濃 度 が 出 荷 規 制 の 対 象 と な る 暫 定 規 制 値2000 Bq kg-1 を超えたのは、3月18日採取の茨城県日立市、日立大宮市、那珂市、鉾田市の露地ホウレンソウ、3月24日の栃木県真岡市、さくら市のシュンギクと上三川町のホウレンソウおよび3月19日の群馬県伊勢崎市の露地ホウレンソウなど13点であった。放射性セシウムの暫定規制値500 Bq kg-1 を超えたのは、3月18日採取の茨城県日立市、日立大宮市、那珂市の露地ホウレンソウ、3月24日の栃木県上三川町のホウレンソウおよび3

月19日の群馬県高崎市の露地カキナの8点であった。このように食品の放射性物質の暫定規制値を超えたのは、茨城県、栃木県および群馬県のホウレンソウ、シュンギクおよびカキナなどの葉菜類であった。

また、放射性物質の発生源や発生日時の指標となる131I/ 137Cs濃度比をホウレンソウについて見ると、3月18日の茨城県では9.7~20.2、3月24日の栃木県では9.2、3月19日の群馬県では5.7~6.4、3月22~25日では4.9~9.2と、茨城県で高い傾向が認められた。しかし、作物種間または市町村間の差も大きく、栃木県の3月24

日ではキュウリの1.6からシュンギクの31.8まで、群馬県の3月25日ではスイカの2.2からミツバの10.1まであった。

以上のように、野菜の放射性物質濃度または組成は、地域、時期、作物種および栽培法によって大きく異なる

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17木方展治ら:福島第一原発事故直後の関東地方における野菜類の放射性物質濃度

ことが示唆された。

引用文献

1) 群馬県(2011)http://www.pref.gunma.jp/05/

e0900020.html(2015年1月6日)

2) 木方展治・大瀬健嗣・谷山一郎(2015):つくば市において観測された東京電力福島第一原発事故直後のから1年間の葉菜、土壌および降水中の放射性物質濃度の推移, 農環研報, 34, 1-9

3) 小森昌史・小豆川勝見・野川憲夫・松尾基之(2013):134Cs/ 137Cs放射能比を指標とした福島第一原子力発電所事故に由来する放射性核種の放出原子炉別汚染評価, 分析化学, 62, 475-483

4) 厚生労働省(2011):http://www.maff.go.jp/noutiku_

eikyo/news23_3.html(2015年1月6日)5) 厚生労働省(2014):http://www.maff.go.jp/noutiku_

eikyo/mhlw6.html(2015年1月6日)6) 厚生労働省医薬局食品保健部監視安全課(2002):緊

急時における食品の放射能測定マニュアル, p1-39

7) 日本原子力研究開発機構(2011)http://seisai-kan.cocolog-nifty.com/blog/files/moniter110321.pdf

(2015年1月6日)

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18 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

付録1平成23年3月18日

食品(農産物等)の採取・送付手順 (マニュアル)ver.1

サンプリング地点は別途指示する。

1.持参する用具

① 試料の前処理に必要なもの・試料等を洗浄するための水(ポリタンク1個分

20L)・可食部でない根等を除去するためのハサミ等・試料の重さ測定用の“はかり” (2㎏以上の重量を測定可能なもの。)・“はかり”全体が入る大きさの透明なビニール袋:

必要数(サンプリング1地点につき2袋以上)・ティッシュペーパー

② 試料の密封に必要なもの・採取対象とする農産物が2㎏以上入る大きさの透

明なビニール袋:必要数以上(1試料当たり保存試料用含め4袋使用)

・ガムテープ

③ 記録に必要なもの・野帳関係(市販ノート及び通常の筆記用具)・油性サインペン(黒、赤)・デジタルカメラ

2.農地からの農産物の採取方法

(1) 統一的サンプル番号の付与

① 採取試料には以下の様式1により一連のサンプル番号を設定し、採取時に付与し、包装したサンプルの袋(以下(5)③を参照)に油性サインペン(黒)で大きめの文字で記載する。

<様式1>都道府県名―地点記号(別途指定する)-連番(1か

ら順番。複数日にわたり試料採取する場合は前の日の番号の次から開始)-年月日(西暦年/月/日)-時刻

(24時表記。梱包終了時の時刻-農産物名【例】

○○県-A-1-2011/03/17-12:00-ホウレンソウ

② サンプル番号に加え、農産物の採取地の住所、サンプリングを行った職員の氏名を野帳に記録する。表計算ソフト(エクセル)を用い別添ファイル(様式2)によりデータを入力する。(※データ入力は農産物を分析機関に届けたあと、帰庁後に入力してもよい。)

(2) サンプルの採取周辺環境の記録

① 放射線レベルの予備測定(P)

サンプリングに当たっては、可能であれば放射線検出器を携行し、サンプリングする場所のガンマ線のレベルを記録(例えば、地上1メートル地点の大気のガンマ線のレベル)するとともに、試料のガンマ線レベルを予備測定することが望まれる。※放射線検出器の準備について調整が必要であるた

め、放射線検出器の準備ができるまでは、本手順を抜かしてよい。

万一、農産物の予備測定の結果、放射線検出器の表

示が2500万cps以上であった場合、サンプル採取を

中止し、直ちに現場から避難するとともに本省に報告

する。

<参考>(計算値)1cps=0.0000002マイクロシーベルト/cm3

25,000,000cps=5マイクロシーベルト/秒=18ミリシーベルト/時間X線CTによる撮像1回は7~20ミリシーベルト一般職国家公務員が1日あたり浴びてよい上限250ミリシーベルト/時

② 写真撮影

デジタルカメラを用い、①圃場全景(圃場の周囲の地形や山や林等の環境が分かるよう東西南北4方向)、②農産物の生育状態(農産物が数株並んでいる様子が分かるよう、上から撮影したものと横から撮影したもの合計2点)を撮影する。写真のデータファイルはサンプル番号と関連付けて農政事務所で保存する。

(3) 農産物の採取

① 圃場内での採取地点

ア)圃場内1か所から農産物を採取する。その際、圃場の端から最低2メートル以上内側から採取する。また、一番端の列(うね)からは採取しない。

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19木方展治ら:福島第一原発事故直後の関東地方における野菜類の放射性物質濃度

イ)野帳に手書きで良いので圃場の図を書き、どの地点から採取したか正確な採取ポイントを記録する。

ウ)帰庁後、デジタルカメラで撮影した圃場の写真を印刷し、矢印を手書きで付して場所を記録する。

② 採取量

分析に供する試料は、通常の農産物の出荷時と同程度になるように洗浄し、非可食部を除去するので、分析に供する可食部の生重量が合計4㎏以上になると思われる量を採取する。

注意: この段階では、土壌による“はかり”の汚染を避けるため、“はかり”を使用しない。

(4) 試料の前処理

採取した農産物について、産地から通常出荷される条件と同様の前処理を行う。具体的には以下のとおり。なお、洗浄及び非可食部の除去は、可能であれば圃場内で行う。

① ホウレンソウの場合

圃場から引き抜いた後、市販のホウレンソウと同様に赤色根部分を残し、ひげ根部分は包丁で切断する。変質した葉が存在する場合は除去する。

通常の収穫時と同様に葉の洗浄は行わないが、根先を切断した状態において、通常出荷不可能なほど明らかに赤色根部分に土が付着している場合は、赤色根部分のみ水で洗浄した後、よく水気を切る。

(5) 試料の梱包

① ビニール袋を2袋用意し、このうち1袋に採取後(4)で前処理した農産物のうち2㎏以上を入れる。袋が大きくふくらまないよう空気を除き、袋の口を3回折り曲げた後、ガムテープで密封する。これを2個目のビニール袋に入れ、同様の方法により梱包することにより、2重に密閉する。

注意1: この段階では“はかり”の使用可。“はかり”を丸ごと透明なビニール袋(持ち物として1.①に記載)に入れ、“はかり”が直接農産物や土壌に触れないようにする。1採取地点で使用した後のビニール袋は、別のビニール袋に入れ廃棄する。

注意2: 使用後の“はかり”について、覆ったビ

ニール袋に穴があいていた場合などは、濡らしたティッシュペーパーで上面を3

回以上拭きとる(バネはかりの場合はこの操作は不要)。

② 上記①と同様の手順で、(4)で前処理した農産物2㎏を別に梱包する。※上記①、②の手順により、同一地点で採取された

農産物について、同じ梱包形態の試料が2点作成されることになる。このうち1つを分析試料、1つを保存試料とする。

③ 分析試料及び保存試料のビニール袋に、油性サインペン(黒)を用い(1)に基づき同一の試料番号を記入する。さらに、保存試料には、油性サインペン(赤)で「保存試料」と記入する。

④ 放射線検出器による予備測定結果の取り扱い(P)

(6) 試料の送付

包装された試料(分析用試料及び保存試料の両方)を段ボール箱に入れ、指定された分析機関に責任を持って搬送する。

<注>

ガソリンの供給等の問題があることから、本省が指示

する期間について、地方農政事務所は(独)農業環境技

術研究所に搬送する。

(独)農業環境技術研究所は、シンチレーションサーベ

イメータで予備測定し、ガンマ線レベルが高いもの上位

8検体を分析、残りを分析機関に搬送する。

(7) データファイルの送付

(8) 農産物を採取する者の注意事項

① 交差汚染の防止

別の圃場で採取した農産物を汚染することがないよ

う、以下の点に留意する。

ア)靴底についた圃場の土壌を他の場所に持ち込まないよう、当該圃場で良く土を落とす(必要に応じて靴底を水で洗浄する)。

イ)素手で農産物を取り扱った場合は、石鹸を使い、以下の方法で2度洗いする。

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20 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

・ 石鹸を泡立て、手首から上を優しく(ゴシゴシ強くこすらないで)水で洗い流した後、再び石鹸を泡立て今度は良く水洗する。

② 暴露の防止

土壌・食品に付着した放射性物質の吸引・皮膚への付着を避ける観点から、可能であれば、使い捨てのゴム手袋、マスクを使用することが望ましい。

(10) マニュアルの内容についての問い合わせ

付録2

放射能(放射線)事故が起きた場合の作物体放射能濃度測定手順(暫定版)

1.ホウレンソウ

① アイソトープ別棟玄関で、ゴム製もしくはプラスチック製手袋および作業衣を着用し、ポリエチレン製袋の外からGMサーベイメータでおおよその検査をする。3,000 cpmを越えた試料は、アイソトープ別棟が汚染される恐れがあるので持ち込まない。

② 布製もしくはプラスチック製手袋および実験衣を着用する。試料の変質葉を除去し、ザルに広げ、流水で約10秒間洗浄した後、ザルを振とうして水滴がほとんど落ちなくなるまで水を切る。基部約2cm

を除去し、包丁やはさみ等を用いて、マリネリ容器に入れる場合は10×20mm程度、V型容器の場合は5×10mm程度に裁断を行う。

③ 試料の混合を行なう。

マリネリ容器の場合④ 2Lまたは0.7L容のマリネリ容器に標線まで試料

を密に詰め、重量を測定する。2L容器では生重として500g程度が充てんの目安となる。

⑤ マリネリ容器をゲルマニウム半導体検出器の検出部に搭載する。

⑥ 試料の放射能濃度や機械の検出効率にもよるが、1,500秒以上をかけて放射能測定(I-131、Cs-137、Cs-134等)を行う。

V型容器の場合④ 丸形容器にふたが膨らまない程度に試料を密に詰

め、重量を測定する。生重として30g程度以上が充てんの目安となる。

⑤ シーラーで厚さ0.03mmのポリエチレン製袋に封入し、試料を封入したスチロール製容器の底面中央が、検出器中央に重なるようにして、ゲルマニウム半導体検出器に密着させる。

⑥ 試料の放射能濃度や機械の検出効率にもよるが、5,000秒以上をかけて放射能測定(I-131、Cs-137、Cs-134等)を行う。

⑦ 測定が終了した試料はポリエチレン製袋に入れ、密封して冷蔵庫に保存する。試料が不要の場合は、

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21木方展治ら:福島第一原発事故直後の関東地方における野菜類の放射性物質濃度

廃棄物として処分する。

⑧ 核種の同定および放射能濃度の計算を行い、

Bq/kg (生重)で表示する。

⑨ RI主任者は計算結果の提出を受け、データ整理を行い、拡大アイソトープ部会でデータを確認する。

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23

農環研報 34,23-28(2015)

福島第一原発事故直後の福島県周辺の 農地土壌における放射性物質濃度

Concentration of radioactive materials of agricultural soil in surrounding area of Fukushima prefecture just after the

Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident

木方展治*・大瀬健嗣**・谷山一郎***

(平成26年12月2日受理)

Synopsis:The authors measured concentration of 131I, 134Cs and 137Cs in agricultural soil (0-15 cm) which

were sampled in Miyagi, Ibaraki, Tochigi, Gunma, Saitama, Chiba and Kanagawa Prefecture on the

basis of the request of the Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries (MAFF) and the

prefectural governments just after accident of the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant

(FDNPP) from March 25 to April 2, 2011. Fukushima Prefecture, where the FDNPP is located, and

northern Ibaraki Prefecture were not included. This paper shows the data of 134Cs and 137Cs

including 131I which are unpublished. The ranges of 131I, 134Cs, 137Cs, radioactive Cs (134Cs+137Cs) are from 18.1 to 2600 Bq kg-1 , from

5.8 to 1980 Bq kg-1, from 7.0 to 2060 Bq kg-1, from 12.8 to 4040 Bq kg-1 , respectively. In general

the concentrations are high in southern Miyagi, middle Ibaraki and northern Tochigi Prefecture

where are near to the FDNPP.The range of 131I / 137Cs concentration ratio shows the large difference from 0.76 to 11.9. The

averages of the ratio in each prefectures are 3.71 in Miyagi Prefecture, 6.10 in Ibaraki Prefecture, 2.94 in Tochigi Prefecture, 2.11 in Gunma Prefecture, 3.28 in Saitama Prefecture, 4.03 in Chiba

Prefecture and 3.50 Kanagawa Prefecture. This results shows the 131I / 137Cs ratio at the areas is

deferent with the time of passing of radioactive plume and the weather at deposition.The average 134Cs/ 137Cs ratio as 0.92 in Tochigi Prefecture is lower than the value as 0.96 and

0.97 in Ibaraki and Tochigi Prefecture respectively. However it is dif�cult to conclude that there is

difference 134Cs/ 137Cs ratio between the prefectures in low radioactive Cs concentration.

* 土壌環境研究領域** 元土壌環境研究領域、現福島大学*** 元研究コーディネータ

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24 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

Ⅰ はじめに

2011年3月11日の東日本大震災に伴い東京電力福島第一原子力発電所(以下福島第一原発)において炉心溶融事故が発生し、多量の放射性物質が環境に放出され、福島県を中心とした日本の広範囲の農作物や土壌が汚染された。放出された放射性物質の量は77万TBqとチェルノブイリ原発事故時の約15%に相当し、国際原子力事故評価尺度(INES)でレベル7の深刻な事故であった(原子力安全・保安院, 2011)。事故直後に厚生労働省などが2011年3月に定めた放射性物質の暫定規制値を上回った農作物は、北は岩手県北部の牧草から、西は静岡県の茶葉まで広い範囲に及んだ。2012年4月に定められた新たな食品基準値を上回る農作物が2014年3月時点でも検出され、出荷規制が行われている(厚生労働省, 2014)。

そのような中で、(独)農業環境技術研究所(以下農環研)では福島第一原発事故直後に農林水産省や県からの要請を受け、宮城県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県および神奈川県で採取された農地土壌試料の131I、134Csおよび 137Cs放射能濃度を測定した。134Csおよび 137Cs放射能濃度については各県のホームページ上で公開されるとともに、農林水産省の2011年度の放射性物質に汚染された農地の作付け制限策定に対する土壌放射性セシウム濃度の目安にも利用された。ここでは、これまで公表されていなかった 131I放射能濃度を含めて、農環研で分析した結果について報告する。

Ⅱ 方 法

土壌は、2011年3月25日~4月2日に、各県の担当者が採取した。採取方法は、2011年3月24日に農林水産省消費・安全局農産安全管理課が各都道府県に通知した「農地土壌の採取・送付手順(マニュアル)」に従った。その概要は付録に示す。

上記マニュアルに従って採取され、ビニール袋に充填された生土をよく混合し、生土100 gをV型容器に充填し、測定試料とした。放射性物質濃度を「緊急時におけるガンマ線スペクトル解析法」(文部科学省, 2004)に従い、農環研のゲルマニウム半導体検出器を用いて1,000

~10,000秒間測定した。また、別に分取した生土試料を110℃で24時間乾燥後土壌水分を測定した。土壌の放射性物質濃度は 131I、134Csおよび 137Cs放射能濃度を乾土1kgあたりのBq(Bq kg-1)で示した。

地域的な放射性物質濃度の比較を可能とするため、放

射性物質濃度は2011年4月1日0:00時点の減衰補正した。

これらデータの一部は、既に2011年4月上旬に各県のホームページ上で公開された。データは採取日時に補正したデータである。なお、各県から公開されたデータには農環研以外の分析機関が行った結果も含まれている。

Ⅲ 結果および考察

表1に、採取市町村、131I、134Csおよび 137Cs放射能濃度と検出限界、134Csおよび 137Cs放射能濃度の和である放射性セシウム濃度、131I/ 137Cs放射能濃度比および134Cs/ 137Cs放射能濃度比を示す。放射能濃度は有効数字3桁または小数点以下1桁の値で表示する。対象となる放射性物質の測定値は全て検出限界よりも高かった。また、放射性物質濃度が高い試料は、試料によって測定時間を短くしたため、放射能濃度が高いと検出限界も高い。

土壌中 131I濃度は18.1~2600 Bq kg-1、134Cs濃度は5.8~1980 Bq kg-1、137Cs濃度は7.0~2,060 Bq kg-1 および放射性セシウム濃度は12.8~4040 Bq kg-1 の範囲であった。一般に宮城県南部、栃木県北部、茨城県中央部などが高く、福島第一原発に近い地域ほどそれぞれの放射能濃度が高い。

131I/ 137Cs濃度比は、0.76~11.9の範囲と1桁以上に範囲にあった。採取地点の数や地理的分布に偏りがあるが、宮城県の平均値は3.71、茨城県は6.10、栃木県は2.94、群馬県は2.11、埼玉県は3.28、千葉県は4.03、神奈川県は3.50と地域的な違いが認められる(表2)。文部科学省(2011)によると、福島県の2011年6月14日現在の 131I/ 137Cs濃度比は、福島第一原発の北側の海沿いや内陸部よりも南側の海沿いで高い傾向を示していた。放射性プルームの放出時期や降雨の有無などにより、沈着時の 131I/ 137Cs濃度比が地域によって異なったと考えられるが、詳細については福島県や茨城県北部のデータとの照合が必要である。

134Cs/ 137Cs放射能濃度比は0.57~1.12の範囲にあった。小森ら(2013)によると、2011年3月11日時点に補正した福島第一原発の汚染水の 134Cs/ 137Cs放射能濃度比は、一号機が0.89~0.93、二号機が0.96~1.05、三号機が0.97~1.04であり、一号機からの汚染が主であった宮城県の牡鹿半島沿いの土壌中の 134Cs/ 137Cs放射能濃度比は0.91程度であったが、その他の地域の 134Cs/137Cs放射能濃度比のほとんどは1.0程度であった。本報告では宮城県の平均値0.92は、茨城県や栃木県の平均値

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25木方展治ら:福島第一原発事故直後の福島県周辺の農地土壌における放射性物質濃度

表1 農地土壌の放射性物質濃度(補正日:2011年4月1日)

No 県 市町村 土地利用

131I 134Cs 137Cs 放射性 セシウム (Bq kg-1)

131I/137Cs 比

134Cs/137Cs 比測定値

(Bq kg-1)検出限界 (Bq kg-1)

測定値(Bq kg-1)

検出限界 (Bq kg-1)

測定値(Bq kg-1)

検出限界 (Bq kg-1)

1 宮城 登米市 水田  403 4.9  101 4.0  114 3.7  215 3.54 0.892 宮城 登米市 水田  350 5.4   91.7 4.2  104 4.0  196 3.37 0.883 宮城 栗原市 水田  268 6.3  102 4.2  108 4.7  210 2.49 0.944 宮城 栗原市 水田  466 6.7  257 4.6  254 4.3  511 1.84 1.015 宮城 美里町 水田  300 5.0   73.3 3.4   80.3 3.1  154 3.74 0.916 宮城 大崎市 水田  217 5.3  118 4.5  129 3.9  247 1.68 0.917 宮城 大崎市 水田  273 4.2   88.9 2.8   99.6 2.5  188 2.74 0.898 宮城 色麻町 水田  217 5.5   72.8 3.5   73.1 3.3  146 2.96 1.009 宮城 大和町 水田  671 6.7  121 4.8  138 4.6  259 4.86 0.88

10 宮城 仙台市泉区 水田  374 5.2   44.5 3.2   53.6 3.3   98.1 6.98 0.8311 宮城 川崎町 水田  404 5.0   85.2 3.6   89.4 3.3  175 4.52 0.9512 宮城 柴田町 水田 1720 6.1  336 4.0  357 3.5  693 4.82 0.9413 宮城 白石市 水田 1690 8.0  335 5.3  349 5.1  684 4.84 0.9614 宮城 丸森町 調整田 1020 5.5  270 3.7  287 3.5  557 3.55 0.9415 茨城 茨城町 水田 1190 6.9  177 5.3  185 5.0  362 6.43 0.9616 茨城 潮来市 水田  418 3.5   80.0 2.9   85.2 2.9  165 4.90 0.9417 茨城 行方市 水田  545 4.8  115 3.7  112 3.3  227 4.87 1.0318 茨城 板東市 畑  690 8.2   75.4 4.6   67.3 5.3  143 10.3 1.1219 茨城 水戸市 水田 2310 10.2  180 5.5  194 5.1  374 11.9 0.9320 茨城 龍ヶ崎市 水田 1400 9.9  545 6.5  553 6.0 1100 2.53 0.9921 茨城 稲敷市 水田  738 7.6  178 5.7  200 4.6  378 3.69 0.8922 茨城 大子町 水田  421 6.1   83.1 3.9   87.9 4.9  171 4.79 0.9523 茨城 つくば市 水田  460 4.9   53.6 3.8   60.6 3.5  114 7.58 0.8824 茨城 笠間市 畑  576 7.3  161 5.0  167 5.0  328 3.45 0.9725 茨城 桜川市 水田  710 4.9   77.4 3.7   82.5 3.8  160 8.60 0.9426 茨城 筑西市 水田  567 4.6   75.9 3.5   79.3 3.3  155 7.15 0.9627 茨城 八千代町 水田  502 4.7   94.5 3.4   98.7 3.3  193 5.09 0.9628 茨城 神栖市 畑  416 4.0   92.2 2.6  100 2.6  192 4.16 0.9229 栃木 小山市 水田  578 5.6  108 4.9  110 4.5  218 5.26 0.9830 栃木 栃木市 水田  542 4.7   59.7 3.7   66.3 4.2  126 8.18 0.9031 栃木 上三川町 水田  755 6.3  132 5.1  143 5.0  275 5.28 0.9232 栃木 鹿沼市 水田  642 5.8  123 4.4  123 4.8  246 5.22 1.0033 栃木 日光市 水田 1660 11.2  512 10.5  525 8.6 1040 3.16 0.9834 栃木 矢板市 水田 1180 9.5  549 8.7  579 8.7 1130 2.04 0.9535 栃木 那須烏山市 水田  668 5.9   92.2 4.0   89.9 4.2  182 7.43 1.0336 栃木 高根沢町 水田  230 3.7  144 3.2  148 3.4  292 1.56 0.9737 栃木 大田原市 水田 1820 11.2 1150 9.8 1160 8.9 2310 1.57 0.9938 栃木 大田原市 水田  725 7.2  338 5.0  350 4.8  688 2.07 0.9739 栃木 大田原市 水田 1160 5.0  741 4.8  755 3.4 1500 1.54 0.9840 栃木 大田原市 水田  865 10.7  240 7.2  247 6.1  487 3.50 0.9741 栃木 大田原市 水田  884 12.2  370 8.1  377 7.6  747 2.35 0.9842 栃木 大田原市 水田 1260 11.1  987 7.3 1030 6.9 2020 1.22 0.9643 栃木 那須塩原市 水田  879 11.5  494 7.3  511 7.3 1010 1.72 0.9744 栃木 那須塩原市 水田 1110 11.7  735 7.5  740 6.0 1480 1.50 0.9945 栃木 那須塩原市 水田 1910 15.0 1560 9.5 1580 8.8 3140 1.21 0.9946 栃木 那須塩原市 水田 1470 14.7 1180 9.9 1210 8.6 2390 1.21 0.9847 栃木 那須塩原市 水田 1360 13.9  902 9.0  927 8.6 1830 1.47 0.9748 栃木 那須塩原市 牧草地 2600 14.0 1980 12.5 2060 11.6 4040 1.26 0.9649 群馬 館林市 畑  281 4.2   72.9 4.1   77.1 3.4  150 3.64 0.9550 群馬 沼田市 畑  152 4.2  104 3.7  104 3.9  208 1.46 1.0051 群馬 高崎市 畑  188 4.8  117 4.3  119 4.5  236 1.58 0.9852 群馬 伊勢崎市 畑  155 4.4   53.2 3.7   55.5 3.9  109 2.79 0.9653 群馬 みどり市 畑  285 5.0   99.1 4.2  107 3.3  206 2.66 0.9354 群馬 嬬恋村 畑  187 7.0  240 5.4  245 5.0  485 0.76 0.9855 群馬 前橋市 畑   86.3 2.5   26.7 2.0   31.0 1.8   57.7 2.78 0.8656 群馬 下仁田町 畑  351 4.1  281 3.0  288 2.8  569 1.22 0.9857 埼玉 秩父市 畑  209 2.8   50.3 3.0   58.7 2.7  109 3.56 0.8658 埼玉 鶴ヶ島市 畑   18.1 1.6    5.8 1.4    7.0 1.9   12.8 2.58 0.8359 埼玉 熊谷市 畑   45.0 2.2    9.1 1.9   16.0 1.9   25.1 2.81 0.5760 埼玉 久喜市 畑  184 2.4   37.7 2.3   44.0 2.0   81.7 4.18 0.8661 千葉 香取市 畑  607 5.3  129 5.0  133 4.6  262 4.57 0.9762 千葉 旭市 畑  213 4.2   33.4 3.7   36.5 4.9   69.9 5.84 0.9163 千葉 山武市 水田  209 3.5   53.1 3.2   60.2 3.4  113 3.48 0.8864 千葉 千葉市緑区 水田  234 3.4   39.9 3.4   50.1 3.1   90.0 4.67 0.8065 千葉 長生村 畑   90.7 2.3   20.7 2.0   24.6 3.0   45.3 3.69 0.8466 千葉 館山市 水田   47.9 3.5   17.2 2.5   18.0 2.1   35.2 2.66 0.9567 千葉 館山市 畑   33.5 1.9   11.7 1.7   12.4 1.9   24.1 2.71 0.9468 千葉 香取市 水田  592 2.5  120 2.3  127 2.3  247 4.66 0.9469 神奈川 平塚市 水田  125 4.3   36.2 5.5   35.1 5.9   71.3 3.57 1.0370 神奈川 相模原市緑区 水田  360 1.8   98.6 2.3  103 2.2  202 3.49 0.9671 神奈川 三浦市 水田  196 1.5   32.5 11.1   34.3 1.8   66.8 5.71 0.9572 神奈川 小田原市 水田  504 8.5  341 10.6  335 9.8  676 1.50 1.0273 神奈川 海老名市 水田  237 3.6   65.2 5.0   73.1 4.7  138 3.24 0.8974 神奈川 小田原市 果樹  164 2.0   44.7 2.0   52.4 2.1   97.1 3.12 0.8575 神奈川 小田原市 果樹  152 1.8   28.0 1.8   39.3 1.7   67.3 3.86 0.71

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26 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

表2 農地土壌の放射性物質濃度のとりまとめ(補正日:2011年4月1日)

県 項目 131I(Bqkg-1) 134Cs(Bqkg-1) 137Cs(Bqkg-1) 放射性セシウム (Bqkg-1)

131I/137Cs比 134Cs/137Cs比

宮城最大 1720  336  357  693 6.98 1.01

最小  217   44.5   53.6   98.1 1.68 0.83

平均  598  150  160  310 3.71 0.92

茨城最大 2310  545  553 1100 11.9 1.12

最小  416   53.6   60.6  114 2.53 0.88

平均  782  142  148  290 6.10 0.96

栃木最大 2600 1980 2060 4040 8.18 1.03

最小  230   59.7   66.3  126 1.21 0.90

平均 1120  620  637 1260 2.94 0.97

群馬最大  351  281  288  569 3.64 1.00

最小   86.3   26.7   31.0   57.7 0.76 0.86

平均  211  124  128  253 2.11 0.95

埼玉最大  209   50.3   58.7  109 4.18 0.86

最小   18.1    5.8    7.0   12.8 2.58 0.57

平均  114   25.7   31.4   57.2 3.28 0.78

千葉最大  607  129  133  262 5.84 0.97

最小   33.5   11.7   12.4   24.1 2.66 0.80

平均  254   53.1   57.7  111 4.03 0.91

神奈川最大  504  341  335  676 5.71 1.03

最小  125   28.0   34.3   66.8 1.50 0.71

平均  248   92.3   96.0  188 3.50 0.92

全体最大 2600 1980 2060 4040 11.9 1.12

最小   18.1    5.8    7.0   12.8 0.76 0.57

平均  634  249  258  507 3.77 0.94

134 C

s/13

7 Cs放射能濃度比

137Cs放射能濃度

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1.0

1.1

1.2

0 500 1000 1500 2000 2500

図1

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27木方展治ら:福島第一原発事故直後の福島県周辺の農地土壌における放射性物質濃度

0.96や0.97よりも低いが、その他の県では埼玉県の0.78

や千葉県の0.91といった値もある。このため、137Cs濃度と 134Cs/ 137Cs放射能濃度比の関係を見ると 137Cs濃度が100 Bq kg-1 以下に低下すると 134Cs/ 137Cs放射能濃度比のばらつきが大きくなる(図1)。134Csおよび 137Csが低濃度の試料では測定時間を十分にとって、測定精度の向上を図った上で考察する必要がある。

摘 要

著者らは農林水産省や県からの要請を受け、宮城県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県および神奈川県において、福島第一原発事故直後の3月25日から4月2日にかけて採取された農地土壌試料の 131I、134Csおよび137Cs放射能濃度を測定した。今回、これまで公表されていなかった 131I放射能濃度を含めて、農環研で分析した結果を公開する。

福島県周辺7県における131I濃度は18.1~2600 Bq kg-1、134Cs 濃 度 は 5.8 ~ 1980 Bq kg-1、137Cs 濃 度 は 7.0 ~2060 Bq kg-1、放射性セシウム濃度は12.8~4040 Bq kg-1 である。各県内の分布を比較すると宮城県南部、栃木県北部および茨城県中央部などが高く、福島第一原発に近い地域ほどそれぞれの放射能濃度が高い。

131I/ 137Cs濃度比は、宮城県が3.71、茨城県が6.10、栃木県が2.94、群馬県が2.11、埼玉県が3.28、千葉県が4.03、神奈川県が3.50と地域的な違いが認めらる。放射性プルームの放出時期や降雨の有無などにより、沈着時の 131I/ 137Cs濃度比が地域によって異なったためと考えられる

134Cs/ 137Cs放射能濃度比は0.57~1.12であり、宮城県の平均値0.92は、茨城県や栃木県の平均値0.96や0.97

よりも低い。その他の県では埼玉県の0.78や千葉県の0.91といった値もあるが、137Cs濃度が100 Bq kg-1 以下になると、濃度が低下するとともに 134Cs/ 137Cs放射能濃度比のばらつきが大きくなることから、低濃度の試料では、測定精度を向上させた上で考察する必要がある。

引用文献

1) 原子力安全・保安院(2011):http://www.meti.go.jp/

press/2011/06/20110606008/20110606008-2.pdf

(2015年1月17日)2) 小森昌史・小豆川勝見・野川憲夫・松尾基之(2013):

134Cs/ 137Cs放射能比を指標とした福島第一原子力

発電所事故に由来する放射性核種の放出原子炉別汚染評価, 分析化学, 62, 475-483

3) 厚生労働省(2014):http://www.maff.go.jp/noutiku_

eikyo/mhlw6.html(2015年1月17日)4) 文部科学省(2004):緊急時におけるガンマ線スペ

クトル解析法, p1-174

5) 文部科学省(2011):http://radioactivity.mext.go.jp/

ja/contents/6000/5047/24/5600_0921.pdf(2015年1月17日)

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28 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

付録

農地土壌の採取・送付手順(マニュアル)

土壌の採取

(1) ほ場内採取地点の決定

① ほ場に対角線を引き、その交点1点と頂点を結んだ線の中点4カ所の計5カ所を採取地点とする。ほ場が広い場合は中心付近の10aを対象とする。

② 農作物が作付されている場合は株間、畝立てされている場合は畝間、樹園地の場合は樹間とする。

(2) 試料採取

採土器がある場合、(1)で定めたほ場内採取地点(5

カ所)において鉛直に耕盤層または耕盤層が15 cmよりも深い場合は15cmの深さまでの土壌を採取する。表面に稲わらなどがある場合も取り除かないでそのまま採取し、ビニール袋に入れる。試料採取後、採土器内をよく清掃する。

採土器がない場合、30×30×20cm程度の穴をあけ、1断面を垂直にし、そこから上面と底面が同じ面積になるように耕盤層または15 cmまでブロック状に土壌試料を採取し、袋に入れる。

5ヶ所の土壌試料を袋に入れた後、土壌試料をよくほぐし、混合する。

土壌試料の量は1 kg程度とし、多少の増減は差し支えない。

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29

農環研報 34,29-32(2015)

放射性物質沈着初期の農地土壌からの 放射性セシウムの抽出

Radiocesium extraction from arable soils at the initial stage after deposition of radionuclides

山口紀子*・江口定夫**・池羽正晴***・藤原英司*・牧野知之*・谷山一郎****

(平成26年12月2日受理)

Synopsis:Ion exchangeable fractions of radiocesium in the arable soils, which were collected within the

initial stage after deposition of radionuclides, were analyzed. The percentage of extracted 137Cs by 1

mol L-1 ammonium acetate solution was 36% in average for the soils taken from Ibaraki prefecture.

* 土壌環境研究領域** 物質循環研究領域*** 茨城県農業総合センター**** 元研究コーディネータ

Ⅰ はじめに

つくば市では、土壌中の東京電力福島第一原子力発電所事故由来放射性核種の大部分は、2011年3月21日から23日および26日の降雨に伴って負荷された (佐波ら, 2011)。土壌中の放射性セシウムが溶脱や植物吸収によって土壌から失われていくのか、あるいは長期にわたり土壌中に存在し続けるのかは、抽出性の違いにより評価できる。水で溶出される画分(水溶性画分)、酢酸カリウムや酢酸アンモニウムなど中性の塩類水溶液によるイオン交換反応で抽出される画分(交換態画分)、中性の塩類水溶液によっても容易に交換・溶出されない画分(固定態画分)に便宜的に大別すると、水溶性→交換態→固定態の順に土壌中で動きにくい画分となる。一般に、交換性陽イオンを抽出するための溶液としては、十分に高濃度の中性塩類溶液を用いれば、交換抽出量に大きな差

はない。ところが土壌中のセシウムイオン(Cs+)は、カルシウム塩やナトリウム塩などではほとんど抽出されず、抽出するためにはカリウム塩あるいはアンモニウム塩が必要である。アンモニウム塩による抽出効率が格段に高いのは、Cs+の特徴である(Takeda et al., 2006)。これは、土壌中にフレイド・エッジ・サイトとよばれるCs+

を保持する能力がきわめて高い負電荷が存在するためである。過剰のカルシウムイオンやナトリウムイオンによるイオン交換反応で抽出されたCs +は、抽出操作の過程でフレイド・エッジ・サイトに再吸着されてしまう。アンモニウムイオンおよびカリウムイオンは、フレイド・エッジ・サイトへのCs +の吸着を阻害することができるため、中性塩のなかでもCs+の抽出効率が高いものと考えられる(山口ら, 2012)。土壌に沈着した放射性セシウムは、時間とともに水溶性→交換態→固定態の順に推移していく(Roig et al., 2007; Takeda et al., 2013)。このよ

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30 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

うな推移はトレーサー実験では確認されているものの、放射性セシウムが沈着した現場土壌でのデータは少ない。

本調査は、放射性物質の沈着初期段階の土壌で、どの程度の放射性セシウムがイオン交換反応による抽出が可能な画分として存在するかを把握することを目的としておこなった。

Ⅱ 試料および方法

農業環境技術研究所(農環研)内畑圃場(D1、D2圃場)、農環研内および茨城県農業総合センター内水田圃場の土壌を、最表層0~0.5 cmは、プラスチック製スクレーパーで、0~5 cmは、ステンレス製の100 cm3 コアサンプラーで圃場内5地点より採取し、混合した。これらの圃場では、放射性物質の沈着以後、耕起などの土壌攪乱はされていなかった。各圃場の土壌分類は、表1に示した。D1圃場では、事故以前より毎年トウモロコシおよび緑肥用の冬小麦が栽培されていた。つくば市の土壌に原発事故由来の放射性物質が降雨により沈着した2011年3月21時点では、冬小麦が栽培されており、小麦の地上部高さは約15 cm、被覆率は60~70%であった。D2圃場はD1圃場の南に隣接した3要素連用試験圃場である。カリウム肥料を15年以上施用していなかった

無カリ区および慣行区より土壌を採取した。D2圃場では2001年以降は作物を栽培せず、雑草管理のみがおこなわれていた。放射性物質の沈着時は裸地であった。D1圃場では耕起前後にサンプルを採取した。土壌は乾燥せず、2 mm篩を通過させ、混合した。乾土12 g相当の未風乾土にpH 7に調整したイオン交換水、pH 7に調整した1 mol/Lの酢酸アンモニウム溶液、酢酸カリウム溶液および酢酸カルシウム溶液120 mLを添加し、1時間往復振とうした。遠心分離後、ポアサイズ0.2μmのボトルトップフィルター(Thermo Scienti�c Nalgene)で濾過した。ろ液をプラスチック製円筒容器(V3型、直径7.5 cm、高さ4 cm)に2 cmの高さになるように満たし

(約90 mL)、137Cs濃度をゲルマニウム半導体検出器(GCW2523S、キャンベラ)で10,000~80,000秒測定した。土壌は2 mm篩を通過後、乾燥させずにプラスチック製円筒容器(V2型、直径7.5 cm、高さ2 cm)に充填し、ゲルマニウム半導体検出器で1,000~5,000秒測定した。各種抽出液による抽出された 137Cs量を抽出前の土壌中 137Cs量で除し、抽出率を計算した。また、保存による抽出率変化について検討するため、2 mm篩を通過後に風乾状態で保管してあった一部試料(農環研D2圃場慣行区および農環研黒ボク土水田)については、2年度の2013年10月18日に酢酸アンモニウム抽出率を再測定した。

表1 土壌と抽出液中の放射性セシウム濃度および抽出率

採取地 土壌分類 土地利用・3月下旬の 土地被覆状況 採取深度 採取日

137Cs濃度 (Bq/kg) 抽出率(%)

土壌1 mol/L酢酸 アンモニウム 抽出態

1 mol/L酢酸 カリウム 抽出態

1 mol/L酢酸 アンモニウム 抽出態

1 mol/L酢酸 カリウム 抽出態

茨城県つくば市農環研内D1

黒ボク土

畑・小麦被覆・耕起前0~0.5 cm

2011.4.74,050 1,520 38

0~5 cm 368 178 48

畑・小麦被覆・耕起後0~0.5 cm

2011.4.20410 136 33

0~5 cm 307 74.6 24

茨城県つくば市農環研内D2

黒ボク土

畑・無カリ・植被なし0~0.5 cm

2011.5.6

5,280 1,670 1,390 32 26

0~5 cm 797 360 257 45 32

畑・慣行・植被なし

0~0.5 cm 5,400 1,910 1,600 35 30

0~0.5 cm 5,320* 1,700* 32

0~5 cm 1,170 282 327 24 28

茨城県つくば市農環研内

黒ボク土 水田・慣行・植被なし 0~0.5 cm2011.4.14

4,453 1,657 37

4,790* 2,140* 45

低地土 水田・慣行・植被なし 0~0.5 cm 2,810 1,030 37

茨城県水戸市 農総センター内 黒ボク土

水田・無カリ・植被なし0~0.5 cm

2011.4.26

1,260 407 32

0~5 cm 451 103 23

水田・慣行・植被なし0~0.5 cm 1,370 427 31

0~5 cm 360 138 38* 風乾状態で保管してあった試料を2013年10月18日に再測定

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31山口紀子ら:放射性物質沈着初期の農地土壌からの放射性セシウムの抽出

Ⅲ 結果と考察

1 mol/L酢酸カルシウム溶液およびイオン交換水によって抽出された 137Cs濃度は、いずれの土壌においても検出限界(10 Bq/kg乾土)以下だった。137Csの酢酸アンモニウム、酢酸カリウム溶液による抽出実験結果を表1

に示す。耕起前の土壌では、最表層0~0.5 cmの方が表層0~5 cmよりも 137Cs濃度が高かった。放射性物質の沈着後、攪乱されていなかった土壌では、137Csが表層ほど高濃度で蓄積されていたためである。(山口ら, 2015)。土壌表面から0~0.5 cmと0~5 cmで、酢酸アンモニウム溶液および酢酸カリウム溶液による 137Cs抽出率に顕著な差がなかった。黒ボク土では、単に土壌と混合するだけでは、固定化が進行しない可能性がある。青森県の黒ボク土では、大気圏内核実験由来の 137Csは、交換態10%、有機物結合態が20%、固定態が70%の割合で分配していたとの報告がある(Tsukada et al., 2008)。D2圃場0~5 cmより採取した土壌酢酸アンモニウム抽出率は、陸稲を1作栽培した後、35%から10%まで減少した(山口ら, 2013)。また、2012年に福島県近隣から採取した土壌の調査でも酢酸アンモニウムによる抽出率が30%を超える地点は数点しかなかった(農林水産省, 2013)。セシウムは沈着から時間が経過するにつれ、抽出率が減少する(Roig et al., 2007;Takeda et al., 2013))。しかし、農環研内D2圃場の慣行区および黒ボク土水田土壌を風乾状態で2年半保存しても、酢酸アンモニウム抽出率に変化がなかった(表1)。

酢酸カリウム溶液による抽出率は、酢酸アンモニウムによる抽出率よりも低い傾向があった。放射性セシウムを固定するフレイド・エッジ・サイトへのアンモニウムイオン親和性は、カリウムイオンの5倍であると見積もられている(Wauters et al., 1994)。しかし、酢酸アンモニウム、酢酸カリウム溶液による抽出率の差は小さく、抽出された 137Csの大部分は、フレイド・エッジ・サイト以外の負電荷に保持されている画分であったと考えられた。

Ⅳ 結 論

茨城県内の黒ボク土では、平均36%の放射性セシウムが1 mol/L酢酸アンモニウム溶液により抽出された。茨城県内の土壌では、沈着初期は、放射性セシウムの抽出率が比較的高かったことが示された。

謝 辞

サンプリングに協力いただいた研究技術支援室の山口弘氏、荒貴裕氏に感謝の意を表します。

引用文献

1) 農林水産省(2013):ほ場環境に応じた農作物への放射性物質移行低減対策確立のための緊急調査研究の成果について. 報道発表資料. http://www.s.affrc.go.jp/docs/press/130709.htm. (accessed 2015-03-04)

2) Roig, M., M. Vidal, G. Rauret and A. Rigol. (2007):

Prediction of radionuclide aging in soils from the

Chernobyl and Mediterranean areas. Journal of

Environmental Quality, 36, 943-952

3) 佐波俊哉・佐々木慎一・飯島和彦・岸本祐二・齋藤究 (2011):茨城県つくば市における福島第一原子力発電所の事故由来の線量率とガンマ線スペクトルの経時変化. 日本原子力学会和文論文誌, 10, 163-169

4) Takeda, A., H. Tsukada, Y. Takaku, S. Hisamatsu, J. Inaba and M. Nanzyo. (2006): Extractability of major

and trace elements from agricultural soils using

chemical extraction methods:Application for

phytoavailability assessment. Soil Science and Plant

Nutrition, 52, 406-417

5) Takeda A , Tsukada H , Nakao A , Takaku Y &

Hisamatsu S (2013):Time-dependent changes of

phytoavailability of Cs added to allophanic Andosols

in laboratory cultivations and extraction tests. Journal

of Environmental Radioactivity, 122, 29-36

6) Tsukada, H., A. Takeda, S. Hisamatsu and J. Inaba. (2008):Concentration and speci�c activity of fallout

Cs-137 in extracted and particle-size fractions of

cultivated soils. Journal of Environmental Radioactivity, 99, 875-881

7) Wauters, J., L. Sweeck, E. Valcke, A. Elsen and A. Cremers (1994):Availability of radiocesium in soils -

A new methodology. Science of the Total Environment, 157, 239-248

8) 山口紀子・高田裕介・林健太郎・石川 覚・倉俣正人・江口定夫・吉川省子・坂口 敦・朝田景・和穎朗太・牧野知之・赤羽幾子・平舘俊太郎(2012):土壌-植物系における放射性セシウムの挙動とその変

Page 33: Changes in radionuclides concentration in leafy …...Changes in radionuclides concentration in leafy vegetables, soil and precipitation for a year after the Fukushima Daiichi Nuclear

32 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

動要因. 農業環境技術研究所報告, 31, 75-129

9) 山口紀子・Shahriari Fereshteh・江口定夫・林健太郎・(2013):イネへの放射性セシウム移行におよぼす窒素施肥の影響. 第50回アイソトープ・放射線研究発表会要旨集, 165

10) 山口紀子・江口定夫・林健太郎・藤原英司・塚田祥文(2015):農業環境技術研究所畑圃場における農作業に伴い巻き上がる土壌粒子に含まれる放射性物質 農業環境技術研究所報告, 34, 33-41

摘 要

放射性物質の沈着初期段階の土壌において、放射性セシウムがイオン交換反応による抽出可能な画分としてどの程度存在するかを調査した。茨城県内の黒ボク土では、平均36%が1 mol/L酢酸アンモニウム溶液により抽出された。

Page 34: Changes in radionuclides concentration in leafy …...Changes in radionuclides concentration in leafy vegetables, soil and precipitation for a year after the Fukushima Daiichi Nuclear

33

農環研報 34,33-41(2015)

農業環境技術研究所畑圃場における農作業に 伴い巻き上がる土壌粒子に含まれる放射性物質

Agitation of radioactive substances in soil particles by agricultural practices

山口紀子*・江口定夫**・林健太郎**・藤原英司*・塚田祥文***

(平成26年12月2日受理)

Synopsis:Three weeks after the accident at the Tokyo Electric Power Company's Fukushima Daiichi

Nuclear Power Plant, we determined the activity concentrations of 131I, 134Cs and 137Cs in

atmospheric dust fugitively resuspended from soil particles due to soil surface perturbation by

agricultural practices. The atmospheric concentrations of 131I, 134Cs and 137Cs increased because of

the agitation of soil particles by a hammer-knife mower and a rotary tiller. Coarse soil particles were

primarily agitated by the perturbation of the soil surface of Andosols. For dust particles smaller than

10 μm, the resuspension factors of radiocesium during the operation of agricultural equipment were

16-times higher than those under background condition.

* 土壌環境研究領域** 物質循環研究領域*** 福島大学

Ⅰ はじめに

土壌の表面を攪乱する農作業は、土壌粒子を巻き上げ、大気中ダスト濃度を上昇させる。大気中ダストのうち、粒径10μm以下のものは、呼吸器に吸入されて、人の健康に影響を及ぼす可能性があり、浮遊粒子状物質

(SPM, Suspended particulate matter)と定義して環境基準が定められている(環境省, 2015)。PM2.5のような粒径10μmよりもさらに微小な粒子は、気管を通過し肺胞に到達するため、より健康影響が大きい。ダストの吸入そのものが健康被害の要因となるが、ダストが放射性物

質に汚染されていた場合、内部被ばくもひきおこす。放射性セシウムは土壌の持つ負電荷に強く捕捉される

性質をもつため、大部分が土壌の表層部分にとどまる(山口ら, 2012)。放射性ヨウ素も、畑条件では土壌に収着されやすい(Yamaguchi et al., 2010)。表層に放射性物質が多く存在する条件で土壌を攪乱すると、土壌粒子の巻き上がりにより大気中ダスト濃度が上昇し、それに伴い大気中放射性物質濃度が上昇する。このため放射性物質を含む土壌粒子を吸入することによる農作業者の内部被ばくが懸念される。

地表面の単位面積(m2)あたりに存在する放射性物質

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34 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

が、大気1 m3 にどの程度再浮遊するかを示す指標として次式であらわす再浮遊係数(resuspension factor, RF)が用いられる (IAEA 2010)。

RF(m-1)=大気中放射能濃度(Bq m-3)

土壌表層単位面積あたり放射能濃度(Bq m-2)

再浮遊係数は、土壌水分量(Wagenpfeil et al., 1999)、風速(Holländer 1994)、放射性物質沈着からの経過時間

(Rosner and Winker, 2001)といった環境因子により変動する。また、人為的攪乱によっても再浮遊係数は増加する傾向にある (Nicholeson, 1988)。たとえばWagenpfeil

et al (1999)は、農作業に由来する土壌の再浮遊係数は風由来の1000倍であると報告している。

関東地方では、春先の強風により畑から土埃が巻きあがる光景を目にする。Igarashi et al.(2003)は、春先の強風により大気中ダスト濃度および 137Cs濃度が上昇することを示した。原発事故以前の土壌中 137Csは、大気圏内核実験によるグローバルフォールアウト由来のものが主体であり、農業環境技術研究所(農環研)内畑土壌の作土層 137Cs濃度は、2008年~2010年採取土壌平均値で6.7±1.3 Bq/kgであった(農業環境技術研究所, 2012)。土壌中濃度が低かった2005~2007年の観測では、大気中ダスト中の 137Csの起源は、巻き上げられた土壌よりも、モンゴルや中国北東部から飛来した風成塵が主体であった(Fukuyama and Fujiwara, 2008)。

つくば市では、土壌中の原発事故由来放射性核種の大部分は、2011年3月21日から23日および26日の降雨に伴って負荷された (佐波ら, 2011)。放射性物質の沈着から間もない畑土壌で、農作業により再浮遊係数がどの程度変化するかに関する実測データは貴重である。本研究は、土壌粒子の巻き上がりに伴う大気中ダスト濃度、ダスト中 131I、134Cs、137Cs濃度に農作業がおよぼす影響を明らかにすることを目的とした。

Ⅱ 試料および方法

1 サンプリング地点

サンプリングは、農環研内畑圃場(D1)でおこなった。圃場面積は944 m2(24.5×38.5 m)、土壌はアロフェン質黒ボク土(小原ら、2011)である。2010年11月6

日に、緑肥として冬小麦(Triticum aestivum L.)を条間20 cm、播種密度120 kg ha-1 で播種した。つくば市の土壌に原発事故由来の放射性物質が降雨により沈着した2011年3月21日時点での小麦の地上部高さは約15 cm、

被覆率は60~70%であった。風速は、サンプリング地点より北西250 mにおいて観測された「農業環境技術研究所総合気象観測データ」より得た(農業環境技術研究所, 2013)。

2 土壌の巻き上げをともなう農作業

(1) 小麦の刈取り

2011年4月7日、 草 刈 機( ハ ン マ ー ナ イ フ モ ア、HMB1100、共栄)を用いて緑肥用に栽培していた冬小麦の地上部を刈り取った。刈取り幅は110 cm、刈取り高さは地上部より2~3 cmに設定した。作業の様子を図1a

に示す。刈取り前に圃場内から均等に9スポットを選定し、1 m×1 mのプロットで小麦の収量調査をおこなうとともに、1スポットにつき5~6株を採取・混合し、放射性物質分析用試料とした。土壌の混入を避けるため、地際5 cmの茎葉は破棄した。

(2) 鋤込み

2011年4月8日、ロータリ耕うん部(コバシローター、KJM180T, 小橋工業)をトラクタに装着し、前日に刈り取った小麦地上部を根株と共に土壌に鋤きこんだ。耕幅は180 cm、耕うん爪の回転半径は25 cm、耕起深度は約15 cmであった。作業の様子を図1bに示す。

a)

b)

図1 刈取り作業(a)および鋤込み作業(b)の様子

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35山口紀子ら:農業環境技術研究所畑圃場における農作業に伴い巻き上がる土壌粒子に含まれる放射性物質

3 大気中ダスト

(1) ダストのサンプリング

ベースラインの測定として、2011年4月7日の小麦の刈取り作業の前に以下の(2)、(3)の手法により圃場の中心の地上0.85 mにおいて4時間の大気中ダストのサンプリングを行った。その後の小麦の刈取り作業の際には圃場の中心の地上1.6 mにおいて刈取り作業に要した時間である51分のサンプリングを行った。翌日の鋤込み作業の際には圃場の中心の地上0.85 mにおいて鋤込み作業に要した時間である31分のサンプリングを行った。

(2) 10μm以下の大気中ダスト(Dust-10)

吸引流量を毎分500 Lに設定したハイボリュームエアサンプラー(HV-500F、柴田科学)を用いて10μm以下の大気中粒子をガラス繊維ろ紙(GB-100R-100A、柴田科学、0.3μm以下の粒子捕集効率99.99%)に収集した。サンプラーの吸引部に装着した分粒装置により、10 μm

以上の粒子を100%除去した。以上の方法により採取した粒子は、PM10とは異なり、環境基本法に基づく環境省告示の浮遊粒子状物質(SPM)に相当する。以下、Dust-10と表記する。

(3) PM2.5

フィルターパック法(EMEP, 2001)に基づき、フィルターホルダー(NL-O、NILU)を用いてPM2.5を捕集した。フィルターパックは2段とした。大気の吸引口には流量毎分20 Lの条件で粗大粒子とPM2.5を分離するインパクターを取り付け、粗大粒子は上流の1段目に収めたドーナツ型テフロン補強ガラス繊維ろ紙(T60A20-H20、東京ダイレック)に捕集し、PM2.5は下流の2段目に収めたテフロン補強ガラス繊維ろ紙(T60A20、東京ダイレック、0.3μm以下の粒子捕集効率96.4%)に捕集した。

(4) 大気中ダスト濃度

パーティクルマスモニター(GT-331、柴田科学)を用いて粒径10および2.5μm以下の粒子(PM10、PM2.5)、全粒子状物質の重量濃度を測定した。1回4分の測定を3

回繰り返して平均値を求めた。なお、パーティクルマスモニターにより得られるPM10およびPM2.5は、粒径10

あるいは2.5 μm以下の粒子の捕集効率が50%となるように、より大きな粒子を除去したものに相当する。

4 土壌

(1) 土壌のサンプリング

刈取り前の4月7日、および鋤込みから12日後の4月20日に土壌を採取した。最表層0~0.5 cmをプラスチック製スクレーパーで、0~5 cmをステンレス製100 cm3

円筒コアサンプラーで採取した。刈取り前の土壌サンプルは、対角線上に5地点から採取し、それぞれγ線分析に供した。鋤込み後のサンプルは、同様に5地点から採取したサンプルを混合して分析に供した。

刈取り前、鋤込み後の作土中の放射性物質濃度の深度分布を調べるために直径8 cm、深さ15 cmのコアサンプルを、アクリル製ライナーつきのハンドサンプラー(HS-

30、藤原製作所)を用いて3地点より採取した。放射性物質は土壌の表層に高濃度に存在していることが予想されたため、最表層1 cmをプラスチック製スクレーパーで採取した後、コアサンプルを採取した。深さ15 cm分の土壌コアは、5 cmの深さまでは1 cm間隔、5~10 cmの深さは2.5 cm間隔、10~15 cmは5 cm間隔で分析に供した。なお、プラスチックライナーとの接触面から内側に5 mm分のサンプルは、上層から崩れた土壌粒子を含む可能性があるため、取り除いた。

(2) 粒径分画

採取したダストの粒子径に相当する土壌粒子をバルク土壌から分離した。刈取り前に0~0.5 cmの深さより採取した土壌を5地点分混合し、500 μmのふるいを通過させた。ふるいを通過した土壌粒子を蒸留水に懸濁させ、超音波分散をおこなった。土壌粒子濃度が10 g L-1 になるよう調整し、ストークス式に基づく沈降法(土壌環境分析法編集委員会、1997)により10 μm以下、2.5 μm以下の粒子を回収した。80~100℃のホットプレート上で懸濁液中の水を蒸発させ、土壌粒子を回収した。この方法では、131Iは水への溶解および揮発により損失するため、評価しなかった。

(3) γ線測定

土壌は2 mm篩を通過後、乾燥させずにプラスチック製円筒容器(V2型、直径7.5 cm、高さ2 cm)に充填し、ゲルマニウム半導体検出器(BE5025およびBE5065、キャンベラ)により5000秒計測した。単位面積あたりの各層の乾燥重量をもとに重量濃度からインベントリーの換算をおこなった。

小麦地上部は1 cmの長さに切断し、700 mLマリネリ容器に充填した。その後、ゲルマニウム半導体検出器

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36 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

(GCW2523S、キャンベラ)により10000秒計測した。ダストを捕集したろ紙は、捕集面を内側として注意深

く折り曲げ、直径15 mm、高さ40 mmの円筒容器に充填し試料とした。また10 μm以下、2.5 μm以下の土壌粒子も同種の容器に充填した。これらをウェル型ゲルマニウム半導体検出器(GCW2523S、キャンベラ)により50000

秒計測した。試料の放射能濃度を求めるため、計測により得られた

γ線スペクトルから 131I、134Csおよび 137Csが放出する364、605、662 keVのγ線ピークを判別し、ピーク面積を集計した。ピーク面積を放射能に換算するには、ピーク検出効率を参照しなければならないが、効率値は使用する検出器や試料条件に応じて変動する。土壌試料については、放射能標準溶液MX005(日本アイソトープ協会製)を用い 131Iの検出効率を求めた。また放射能標準体積線源MX035SPS(日本アイソトープ協会製)を用い、134Cs

および 137Csの検出効率を求めた。一方、小麦、ダスト捕集ろ紙試料および土壌粒子試料については、放射能標準溶液MX005を用い 131Iおよび 137Csの検出効率を求め、放

射能標準溶液CZ010(日本アイソトープ協会製)を用い134Csの検出効率を求めた。なおウェル型ゲルマニウム半導体検出器による測定に際しては、試料の充填高さを考慮した効率値を使用した。試料採取日を基準日として減衰補正し、以上による計測値から試料の放射能濃度を求めた。

Ⅲ 結果と考察

1 小麦地上部および農作業前の土壌中放射性物質濃度

鋤込み前の作土中放射性物質の深度分布を図2aに示す。鋤込み前は、放射性物質の90%以上が表層3 cm以内に存在していた。単位面積あたりの放射性物質量(インベントリー)は、131Iで29.0 kBq m-2、134Csで15.0 kBq m-2、137Csで15.1 kBq m-2だった。一方、小麦地上部への沈着量は 131Iで2.27 kBq m-2、Cs-134で0.484 kBq m-2、137Csで0.446 kBq m-2 だった。すなわち、単位面積に沈着した131Iの8%、および 134Cs、 137Csの3%が小麦地上部に沈着していたことになる(表1)。

(a) 鋤込み前

15

10

5

0

0

0 100 200 300 0 100 200 300 0 100 200 300

1500 3000 0 1000 2000 0 1000 2000

11 kBq m-2 16 kBq m-2 17 kBq m-2

29 kBq m-2 15 kBq m-215 kBq m-2

131I 134Cs 137Cs

131I

深度

(cm

)

放射能(Bq kg-1)

深度

(cm

)

15

10

5

0

134Cs 137Cs

(b) 鋤込み後

15

10

5

0

0

0 100 200 300 0 100 200 300 0 100 200 300

1500 3000 0 1000 2000 0 1000 2000

11 kBq m-2 16 kBq m-2 17 kBq m-2

29 kBq m-2 15 kBq m-215 kBq m-2

131I 134Cs 137Cs

131I

深度

(cm

)

放射能(Bq kg-1)

深度

(cm

)

15

10

5

0

134Cs 137Cs

図2 鋤込み作業前後の作土中放射能濃度の深度分布とインベントリー基準日は試料採取日(鋤込み前2011年4月7日、鋤込み後2011年4月20日)。

Page 38: Changes in radionuclides concentration in leafy …...Changes in radionuclides concentration in leafy vegetables, soil and precipitation for a year after the Fukushima Daiichi Nuclear

37山口紀子ら:農業環境技術研究所畑圃場における農作業に伴い巻き上がる土壌粒子に含まれる放射性物質

鋤込み前の圃場5地点の0~0.5および0~5 cmの深度から採取した土壌中放射性物質濃度の平均値と標準偏差を表2に示す。5地点における放射性物質濃度の変動係数は、131Iで4.3%、134Csで9.6%、137Csで9.3%であり、圃場内での沈着量のばらつきはそれほど大きくなかったことが示された。131Iは15 cmまでの存在量のうち61%が0~0.5 cmに、85%が0~5 cmに存在していた。一方、134Csでは80%が0~0.5 cm、82%が0~5 cmに 137Csでは79%が0~0.5 cm、76%が0~5 cmに存在していた。放射性Csに比べ 131Iのほうが下層に移行しやすい傾向がみられたものの、いずれも大部分が表層に蓄積していたことが明らかになった。

2 刈取り作業中のダスト濃度

4月1日以降、刈取りをおこなった4月7日までの6日間は降雨がなかった。よって、刈取り作業直前の土壌表面は乾燥しており(水分含量、23%)、土壌表面の攪乱による土壌粒子の巻き上げが起こりやすい条件であった。表3に、バックグラウンド、および小麦地上部の刈取り作業時の風速およびダスト濃度を示す。刈取り時の平均風速は、バックグラウンド時より高かったが、最大瞬間風速には差がなかった。図1aに示すように、刈取り

作業により、目視でも土埃が舞い上がっていることが明らかであった。刈取り作業中の全粒子状物質の重量濃度はバックグラウンドの40倍に上昇した。このうちPM10

は42倍、PM2.5は2.5倍であった。ハイボリュームサンプラーでフィルター上に回収された10 μm以下の粒子であるDust-10の流量1m3 あたりの重量も、刈取り時はバックグラウンドの43倍であり、全粒子状物質およびPM10の増加割合と一致していた。フィルターパック法で捕捉したPM2.5については、捕捉された粒子量が少なく、ダスト回収前後のフィルターの重量の変化からダストの回収重量を求めることができなかった。このように巻き上がった土壌粒子は粒径2.5 μm以上の比較的粗大な粒子が主体であった。

Dust-10に含まれる放射性物質の大気濃度は、刈取り作業中においてバックグラウンドと比較して 131Iで5倍、134Csで14倍、137Csで16倍に上昇した(図3)。同様に、PM2.5では、134Csで6倍、137Csで8倍に上昇した。PM2.5中の 131I濃度は定量限界値以下だった。一方、フィルターに捕集されたDust-10の重量あたりの放射性物質の濃度はバックグラウンド測定時に捕捉されたダストより刈取り作業時で低く、131Iでバックラウンドの10分の1、134Cs

および 137Csは3分の1だった(表4)。これは、刈取り作

表1 緑肥用小麦の地上部収量および放射能濃度

収量 (乾重)a t ha-1 1.85 ±0.5

放射能濃度 b (乾重あたり)

131I 134Cs 137CsBq kg-1 12200 2620 2410 kBq m-2 2.27 0.484 0.446

a 平均±標準偏差,n=9. 70℃で乾燥した。b  圃場内5プロットから採取し、コンポジットサンプルとして分析

した。

表2 鋤込み作業前後の土壌中放射能濃度

鋤込み前 a 鋤込み後b 鋤込み前 a 鋤込み後b

Bq kg-1 MBq km-2

0~0.5 cm131I 6320 ± 227 206 17800 ±  760 553

134Cs 4300 ± 409 358 12000 ± 1150 963137Cs 4270 ± 395 377 12000 ± 1110 1020

0~5 cm131I 866  ±  88 163 24600 ± 2470 4390

134Cs 438  ± 103 227 12400 ± 2830 6110137Cs 405  ± 100 231 11500 ± 2720 6210

a 平均 ± 標準偏差,n=5.b 圃場5地点から採取したサンプルを混合したサンプルの分析値

表3 風速および大気中粒子重量濃度

バックグラウンド 刈取り作業中 鋤込み作業直前b 鋤込み作業中サンプリング時間 min. 238 51 31平均風速 m s-1 2.0 2.5 4.4最大瞬間風速 m s-1 5.3 5.4 9.1Dust-10 μg m-3 167 7190 6130

1回目 2回目全粒子状物質 a μg m-3 43 ± 12 1710 ± 2310 1480 1490 1650 ± 877PM10a μg m-3 37 ± 9.4 1530 ± 2120 863 797 1070 ± 694PM2.5a μg m-3 9.3 ± 5.4 23.4 ±   31 15 27   38  ±  26a 平均 ± 標準偏差,n=3. b 鋤込み作業直前はパーティクルマスモニター計測のみおこなった。測定は2連のため、2回分の測定値を表示

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38 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

業中の大気中ダストの組成が 131I、134Cs、137Csともに、バックグラウンド測定時と異なったことを反映していると考えられる。土壌中 134Csおよび 137Cs濃度は粒径の小さい画分ほど大きかった(表4)。Tsukada et al. (2008)

青森県内の黒ボク土で、大気圏内核実験由来の 137Cs濃度が粒径の小さい粘土画分ほど高いことを示しており、放射性Csは、土壌中の粒径の小さい画分に濃集している。すなわち大気中ダストを構成する土壌粒子に粒径の小さい画分が占める割合が低ければ、放射性Cs濃度が低くなる。パーティクルマスモニターによる観測より、大気中ダストに占めるPM2.5の割合は、バックグラウンド測定時は21.5%だったのに対し、刈取り作業時は1.4%と低かった(表3)。巻き上がった土壌粒子は比較的粗大な粒子が主体であった結果とも整合する。また、農作業などの人為的な攪乱によって増加した大気中の放射性Csは、粒径の比較的大きい粒子に由来する画分が主体であることを示したチェルノブイリ事故後の観測結果(Garger et

al., 1998, Wagenpfeil et al., 1999)とも一致した。

3 鋤込み作業のダスト濃度

鋤込み作業をおこなった4月8日は、作業前から強風が吹いていた。瞬間最大風速は9.1 m s-1、平均風速は

4.4 m s-1 だった(表3)。4月8日の作業前のバックグラウンドとして、パーティクルマスモニターによるPM10、PM2.5および全粒子状物質の重量濃度を測定したが、フィルターへの粒子の捕集はできなかった。パーティクルマスモニターによる大気中粒子の重量濃度はばらつきが大きく、鋤込み作業前後で有意な差がなかった。鋤込み作業中の大気1 m3 あたりのDust-10に含まれる放射性物質濃度は、4月7日のバックグラウンド値と比較し、131Iで2.6倍、134Csで13倍、137Csで14倍に上昇した(図3)。PM2.5では、131Iで1.5倍、134Csで5.5倍、137Csで5.7倍であった(図3)。フィルターに捕捉されたDust-10の重量あたりの濃度は刈取り作業時と差がなかった(表4)。

鋤込みにより、乾燥した表層土(水分含量、23%)が、水分含量の高い下層土(46%)と混合されたことにより、作土(0~15 cm)の水分含量は36%になった。また、表層0~0.5 cmの放射性物質濃度も、鋤込みによる下層土との混合で希釈されることにより低下した(表2、図2)。表層土の水分含量が低いほど土壌粒子が巻き上がる量は増加する(Wagenpfeli et al., 1999)。Dust-10由来の放射性物質濃度に刈取り作業時と鋤込み作業時で顕著な差が認められなかったのは、鋤込み作業時に巻き上がる

バックグラウンド

刈取り作業

鋤込み作業

バックグラウンド

刈取り作業

鋤込み作業

0 0.05 0.10 0.15

PM 2.5

Dust-10

放射能(Bq m-3)

バックグラウンド

刈取り作業

鋤込み作業

a)131I

b)134Cs

c)137Cs

エラーバーは計数誤差

図3 大気中ダストの放射能濃度

Page 40: Changes in radionuclides concentration in leafy …...Changes in radionuclides concentration in leafy vegetables, soil and precipitation for a year after the Fukushima Daiichi Nuclear

39山口紀子ら:農業環境技術研究所畑圃場における農作業に伴い巻き上がる土壌粒子に含まれる放射性物質

土壌は、下層土と混合する前の乾燥した表層土由来であるためである可能性がある。しかし、巻き上げられる土壌の量は、風速にも依存するため(Holländer, 1994)、強風条件下での観測結果からの解釈は困難である。

4 鋤込み後の土壌中放射性物質濃度

鋤込み作業による表層土壌の混合により、表層5 cm以内の土壌中放射性物質濃度は著しく減少し(表2)、作土15 cm以内における深度別濃度分布は、ほぼ均一になった(図2)。鋤込み後の土壌のインベントリーは 131Iで11.0、134Csで16.4、137Csで16.9 kBq m-2 であった。半減期が8日の 131Iのインベントリーは、鋤込み前土壌の採取日である4月7日の濃度に換算すると、34 kBq m-2 であった。放射性ヨウ素、放射性セシウムともに鋤込み前後のインベントリーの差は、鋤込み前土壌の圃場内濃度のばらつきの範囲内であった。

5 再浮遊係数

式(1)より算出した再浮遊係数を表5に示す。本研究では、再浮遊可能な土壌粒子は表層0~0.5 cmに存在する土壌粒子であると仮定して、再浮遊係数を見積もった。ただし、鋤込み作業時は、耕うん機で攪乱する表層15 cmの土壌が再浮遊するとも考えられるため、0~15 cm

の放射性物質存在量をもとに算出した再浮遊係数も表5

に括弧書きで示した。農作業を行っていないバックグラウンド時のDust-10の再浮遊係数は、放射性ヨウ素で10-6 m-1、放射性セシウムで10-7 m-1 であった。チェルノブイリ事故から5~36日後のドイツで観測された放射 性 Cs の 再 浮 遊 係 数 は、10-5 ~ 10-6 m-1 で あ っ た

(Holländer, 1994)。 一 方、Rosner and Winkler(2001)は、同じくドイツにおけるチェルノブイリ事故の年の放射性Csの再浮遊係数は、月平均10-9 m-1 であったと報

告している。本研究で実測した放射性Csの再浮遊係数は、チェルノブイリ事故の影響を受けた都市において観測された再浮遊係数の範囲にあった。

本研究で実測した農作業中のDust-10の再浮遊係数は、7~8×10-6 m-1 であり、チェルノブイリ事故から数年後の実測値と同等かわずかに高かった(2 ×10-6 m-1、高さ1 m、Tersaakov et al., 1994; 2×10-9 ~5・10-7、高さ1.5 m、Wagenpfeil et al., 1999)。また、Wagenpfeil et al.

(1999)は、チェルノブイリ事故から5~8年後における実測値をもとに、人為的攪乱による再浮遊係数は、風由来の再浮遊係数より1000倍高いことを示した。本研究における実測値では、刈取りおよび鋤込み作業時のDust-

10中の放射性Csの再浮遊係数はバックグラウンド値の16倍、PM2.5では8倍であった。風由来の再浮遊係数は、沈着からの時間経過とともに減少する傾向にある

(Rosner and Winkler, 2001)。Wagenpfeil et al.(1999)の実測結果と比較して本研究で実測された再浮遊係数におよぼす農作業の影響が小さかったのは、事故直後のデータであるために風による再浮遊係数への寄与が比較的大きかったことが関係している可能性がある。再浮遊係数は、浮遊する放射性物質の起源となる表面が均一であり、放射性物質の再浮遊と沈着が平衡に達していると仮定して求める。このような条件は、農作業のような人為的な土壌表面の攪乱には当てはまらない。さらに再浮遊係数は、風速、水分含量などさまざまな環境因子によって大きく変動することが知られている(Holländer, 1994;Nicholson , 1988; Rosner and Winkler , 2001;

Wagenpfeil et al., 1999)。表5に示した再浮遊係数は、水分含量などの環境因子

が異なれば、異なる値となるだろう。本研究で実測対象とした黒ボク土は、団粒構造が発達している一方、腐植物質が多いため仮比重が小さく、風食をうけやすい土壌

表4  粒子サイズ10μm以下の大気中ダスト(Dust-10)およびストークス径10μm、2.5μm以下の土壌粒子中の放射能濃度

131I 134Cs 137CsBq g-1

バックグラウンド測定時のDust-10 178 43.7 36.9刈取り作業中のDust-10 20.1 14.6 13.4鋤込み作業中のDust-10 12.6 15.1 13.8土壌粒子<10 μm 7.29 6.70土壌粒子<2.5 μm 9.65 8.91

表5 農作業中の再浮遊係数再浮遊係数 a×10-7 (m-1)

Dust-10 PM 2.5131I 134Cs 137Cs 131I 134Cs 137Cs

バックグラウンド 17 6.1 5.2 12 6.2 4.5 刈取り作業中 81 87 81 - 39 36 鋤込み作業中 43 77 71 18 34 26

(28)b (66) (60) (12) (29) (22)a  再浮遊係数 (m-1)=大気中放射能濃度 (Bq m-3)/ 表面汚染密度、

(Bq m-2). 表面汚染密度は、表層0~0.5 cmの土壌が再浮遊する土壌粒子として寄与すると仮定して計算した。

b  括弧内の数値は、作土0~15 cmの土壌が再浮遊する土壌粒子として寄与すると仮定して計算した再浮遊係数

Page 41: Changes in radionuclides concentration in leafy …...Changes in radionuclides concentration in leafy vegetables, soil and precipitation for a year after the Fukushima Daiichi Nuclear

40 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

である。表5に示した再浮遊係数は、土壌表層に放射性物質が蓄積していた事故直後、土壌が乾燥した条件下、風食をうけやすい土壌、という土壌粒子が再浮遊しやすい条件下での実測値である。今後、土壌分類、土地利用、水分等異なる条件下において、気象条件と併せた実測値の蓄積が必要である。

本研究では、圃場の中央にサンプラーを固定して観測をおこなった。しかし、農作業者が吸引しうるダスト由来放射性物質量を評価するためには、農業機械および農作業者とともに圃場内を移動して大気中ダストを収集する必要がある。

Ⅳ 結 論

小麦の刈り取りや鋤込み作業によって増加した大気中ダストの放射性Csは、粒径の比較的大きい粒子に由来する画分が主体であることが明らかになった。すなわちこれらの農作業中には、粒径の大きい土壌微粒子を捕捉可能なマスクを着用することにより、放射性物質の吸入を大幅に軽減できる。また、農作業中の再浮遊係数は、131I

で4×10-6 m-1、放射性Csで7~8 ×10-6 m-1であった。

本原稿は、Science of the Total Environment (2012)425

巻 128-134 ペ ー ジ 掲 載 論 文、Radiocesium and

radioiodine in soil par ticles agitated by agricultural

practices: Field observation after the Fukushima nuclear

accident の内容を日本語で解説したものである。

謝 辞

農作業、観測に協力いただいた研究支援室の皆様、気象データをご提供いただいた大気環境研究領域、石郷岡康史氏、一部の土壌サンプルの放射性物質濃度を測定いただいた土壌環境研究領域 木方展治氏に感謝の意を表します。

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摘 要

東京電力福島第一原子力発電所の事故から3週間後、農環研内の圃場において、農作業による土壌攪乱によって巻き上げられた土壌粒子をフィルターに捕捉し、放射性セシウム、放射性ヨウ素濃度を測定した。ハンマーナイフモアによる幼麦の地上部刈取り及びロータリー耕耘機による鋤込み作業中、粒子径10μm以下の土壌粒子の再浮遊係数は、バックグラウンド値と比較して放射性セシウムで16倍、放射性ヨウ素で5倍に増加した。農作業による土壌粒子の巻き上げにより増加する大気中放射性セシウム、放射性ヨウ素の大部分は、2.5 μmよりも大きい粒径画分に由来するものが主体であった。すなわちこれらの農作業中には、粒径の大きい土壌粒子を捕捉可能なマスクを着用することにより、放射性物質の吸入を大幅に軽減できる。

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43

農環研報 34,43-51(2015)

農地表層土壌中の放射性セシウム濃度分布図作成 のための緊急調査

Emergency Survey for Spatial Mapping of Radioactive Cesium Concentration in Agricultural Soil

高田裕介*・神山和則*・小原 洋*・前島勇治**

平舘俊太郎***・木方展治**・齋藤 隆****・谷山一郎*****

(平成26年12月2日受理)

シノプスContamination with radioactive substances occurred over a wide area centered around

Fukushima Prefecture after the accident at Tokyo Electric Power Company's Fukushima No. 1

nuclear power plant that occurred on March 11, 2011. The contamination status was clari�ed by

measuring the concentration of radioactive substances in soil collected from farmland in Miyagi, Fukushima, Ibaraki, Tochigi, Gunma and Chiba Prefectures, where it is considered that radioactive

contamination has occurred; the spatial distribution of such substances was then determined. The

concentration of radioactive cesium in Agricultural soil was relatively high in Hama-dori and Naka-

dori areas in Fukushima Prefecture. There was a positive correlation between the cesium

radioactivity in the soil and the air dose rate. The area of agricultural land where the level of cesium

radioactivity in soil was estimated to exceed 5,000 Bq/kg oven-dried soil was 8.3 km2, it mainly

(more than 95 %) distributed in evacuation directive zone.

* 農業環境インベントリーセンター** 土壌環境研究領域*** 生物多様性研究領域**** 福島県農業総合センター生産環境部***** 元研究コーディネータ

Ⅰ はじめに

2011年3月11日に発生した東京電力福島第一原子力発電所(福島第一原発)の事故に伴い、放射性物質による汚染が福島県を中心に広範囲に発生した。

農地は食料を生産する場であり、放射性物質による汚染状況を把握することは、安全な農産物の供給に不可欠であるとともに、農地の除染など今後の営農に向けた取組を進めるために不可欠である。

このため、放射性物質による高度の汚染が発生したと

Page 45: Changes in radionuclides concentration in leafy …...Changes in radionuclides concentration in leafy vegetables, soil and precipitation for a year after the Fukushima Daiichi Nuclear

44 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

考えられる宮城県、福島県、栃木県、群馬県、茨城県および千葉県の農地において、土壌を採取し放射性物質の濃度を測定することにより、汚染状況を明らかにし、放射性セシウム濃度の面的な分布把握を行った。本研究では、福島第一原発の事故で飛散し、土壌の主要な放射性汚染物質となっている 134Csおよび 137Csを測定した。本報告では 134Csと 137Csを合わせて放射性セシウムと記す。

Ⅱ 調査・研究方法

1.現地調査および土壌試料の採取

調査対象圃場は水田、普通畑および樹園地とし、これらの圃場について、圃場の対角線の交点となる中心1点および中心と圃場の4隅を結ぶ線上の中間点4点の計5

箇所を、土壌採取地点とした(図1)(土壌環境分析法編集委員会, 1997)。

宮城県においては2011年7月15日~22日に51地点で、福島県においては2011年5月23日~8月5日に199

地点、茨城県においては2011年7月1日~15日に44地点、栃木県においては2011年6月20日~24日に35地点、群馬県においては2011年7月29日に5地点、千葉県においては2011年7月1日~13日に20地点で調査を行った。圃場の位置の緯度経度情報はGPSを用いて決定した。なお、GPSが使えない場合は、地形図、インターネット上の地図サービス(国土地理院など)などで緯度経度を推定した。また、これらの地点に加えて、2011年4月に各県(宮城県;14地点、福島県;165地点、茨城県18地点、栃木県13地点、群馬県8地点、千葉県10地点)で行った県調査の結果についても本報告でまとめる。なお、これらの県調査では緯度経度情報を取得しなかったことから、調査地点の住所に基づいて緯度経度を推定した。

現地調査ではNaIシンチレーションサーベイメータあ

るいはCsIシンチレーションカウンターなどを用いて、調査地点の1 mおよび1 cm高さにおける空間線量率を測定した。この他、地目、作付け作物(試料採取時点およびその前作作物)、周辺の遮蔽物の有無、耕起の有無とその時期、マルチの状況、雑草の状況や土壌分類などについて、現地観察および聞き取りにより記載した。

土壌試料はライナー付き土壌試料採取器(5 cm径)を用いて30 cm深まで採取した。レキ層、盤層などにより30 cmまで採取器を挿入できない場合は、採取した深度までとした。

採取した土壌試料を深さ別(0~15 cm、15~20 cm、20~25 cm、25~30 cm)の4層に区分した。ただし、樹園地などで作土層がない場合は、0~5 cm、5~10 cm、10~15 cm、それ以下の4層に区分した。1地点5箇所の試料を、水田、畑では0~15 cm、樹園地では0~5 cm、5~10 cm、10~15 cmまたは0~15 cmの層ごとにそれぞれ混合し重量を測定した後、篩(8 mm)などを用いて砂礫や粗大有機物などを取り除いて試料を均一にして放射能濃度測定に供した。また、一部を水分測定に用いた。ただし、樹園地で0~5 cm、5~10 cm、10~15 cm

に分割した試料については、それぞれを合計して0~15

cm当たりの放射能濃度として示した。土壌中の放射性セシウム濃度は「緊急時における食品

の放射能測定マニュアル」(厚生労働省医薬局食品保健部監視安全課、2002)に従い、農環研、日立協和エンジニアリング(株)および(財)九州環境管理協会においてゲルマニウム半導体検出器を用いて測定した。測定時間は1,000~10,000秒(バックグランド計数値の分散の10

倍以上)とし、乾土1 kgあたりのBqで表示した。濃度は試料採取日の濃度に補正するとともに、土壌試料の採取時期はそれぞれ異なることから、2011年6月14日を基準日として補正した値も同時に示した。

2.農地表層土壌中の放射性セシウム濃度推定図の作成

実測したデータにより対象地域全域の分布をカバーすることは困難なため、図2に示した手順により放射性セシウム濃度推定図を作成した。具体的には以下の通りである。

5月以降の調査結果に基づいて、土壌の放射性セシウム濃度と空間線量率との回帰直線を作成した。この際に、耕起の有無、地目(水田、畑、樹園地)、土壌の種類について考慮した。

空間的分布に関するデータのうち、土壌の種類、地目については農環研が2009年に作成した農耕地のデジタ

図1  試料採取位置の見取り図 ○:採取位置

Page 46: Changes in radionuclides concentration in leafy …...Changes in radionuclides concentration in leafy vegetables, soil and precipitation for a year after the Fukushima Daiichi Nuclear

45高田裕介ら:農地表層土壌中の放射性セシウム濃度分布図作成のための緊急調査

ル土壌図を利用した(図3a)。また、空間線量率の分布は文部科学省原子力災害対策支援本部より提供を受けた航空機モニタリングデータ(図3b;基準日2011年9月18日)を用いた。耕起の有無に関する分布情報がなかったため、旧警戒区域、旧計画的避難区域、旧緊急時避難準備区域を「耕起なし」、それ以外の地域を「耕起あり」とした。なお、旧警戒区域、旧計画的避難区域および旧緊急時避難準備区域を一括して旧規制区域とする。

空間線量率図(図3b)と表2で示した回帰式を用いて、農地グループ別の土壌中の放射性セシウム濃度図を作成した。次いで、農耕地土壌図を用いて農地ポリゴン(同じ属性を区画した多角形の領域)ごとに農地グループ分けを行い、対応する農地グループの土壌中の放射性セシウム濃度図からポリゴンを抽出した。最後に、これらのポリゴンを重ね合わせることにより、農地表層土壌中の放射性セシウム濃度図を作成した。

空間分布の解析などにはGISソフトウェアArcView Ver

10(Esri社)および拡張機能であるSpatial Analyst (ESRI

社)を使用した。

Ⅲ 結果および考察

1.調査地域の土壌の分布状況

図3aに調査地全域の農耕地土壌図を示した。農環研が作成したデジタル土壌図にはポリゴンごとに土壌分類、地目といった属性情報が付与されている。平成22年度の耕地面積の統計値から、調査地の田および畑(普通畑および樹園地)の面積はそれぞれ518,000ヘクタールおよび233,000ヘクタールである。田に最も広く分布する土壌群はグライ土(35%)であり、次いで灰色低地土

(31%)、多湿黒ボク土(17%)、黒泥土(4%)、褐色低地土(4%)の順である。他方、畑に最も広く分布する土壌群は黒ボク土(57%)であり、次いで褐色低地土

(10%)、褐色森林土(10%)、灰色低地土(7%)、グライ土(6%)の順である。

2.農地表層土壌中の放射性セシウム濃度の分布状況

宮城県(65地点)、福島県(364地点)、茨城県(62地点)、栃木県(48地点)、群馬県(13地点)および千葉県

(30地点)の農地表層土壌中の放射性セシウム濃度の最小値と最大値を表1に示した。

土壌調査 ・位置情報 ・空間線量率 ・放射性セシウム濃度

空間線量率分布図(航空機モニタリングデータ) 農耕地土壌図

空間線量率と放射性セシウム濃度との関係(回帰式) ・耕起の有無 ・土地利用 ・土壌の種類

土壌種類・土地利用別ポリゴンの作成 ・土地利用(水田・畑、樹園地) ・耕起の有無 ・土壌の種類  (黒ボク土壌群、非黒ボク土壌群)

土壌中の放射性セシウム濃度図(農地グループ毎の回帰式の適用)

農地グループ別ポリゴン抽出

農地における放射性セシウム濃度推定図

重ね合わた

図2  農地における放射性セシウム濃度推定図作成手順 耕起の有無:警戒区域、計画的避難区域を耕起なし、その他の地域を耕起ありとした。

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46 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

表1 県別の調査地点数と放射性セシウム濃度の最小値、最大値県名 地点数 放射性セシウム濃度(Bq/kg)

水田 水田以外合計 水田 普通畑 樹園地 最小値 最大値 最小値 最大値

宮城県 65 14 49 2 96 670 24 2,200福島県 364 183 157 24 ND 30,200 ND 24,900茨城県 62 15 42 5 89 480 ND 650栃木県 48 26 22 0 47 4,090 ND 1,860群馬県 13 1 11 1 140 55 690千葉県 30 4 26 0 34 240 19 800合計 582 234 307 32

表2 1 m高さの空間線量率と土壌中の放射性セシウムの濃度との間の回帰式

サンプル数 回帰式 R2

全サンプル 325 Y=(3.86x10-4)X 0.84未耕起_黒ボク土グループ 25 Y=(3.25x10-4)X 0.97耕起_黒ボク土グループ 69 Y=(2.92x10-4)X 0.89未耕起_非黒ボク土グループ 79 Y=(5.87x10-4)X 0.91耕起_非黒ボク土グループ 112 Y=(3.08x10-4)X 0.92樹園地 26 Y=(6.84x10-4)X 0.92

砂丘未熟土

黒ボク土

多湿黒ボク土

黒ボクグライ土

褐色森林土

灰色台地土

グライ台地土

赤色土

2.5 <

2.0 - 2.5

1.5 - 2.0

1.0 - 1.5

0.75 - 1.0

0.5 - 0.75

0.25 - 0.5

0 - 0.25

黄色土

暗赤色土

褐色低地土

灰色低地土

グライ土

黒泥土

泥炭土

1m高さの空間線量率(μSv/h)

a) b)

図3  農地土壌図(a)および文部科学省が行った航空機サーベイによる1 m高さでの空間線量図 (b;基準日2011年9月18日)

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47高田裕介ら:農地表層土壌中の放射性セシウム濃度分布図作成のための緊急調査

宮城県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県および千葉県の農地表層土壌中の放射性セシウム濃度はそれぞれ24~2,210 Bq/kg、検出限界以下の値から30,200 Bq/

kg、検出限界以下の値から650 Bq/kg、検出限界以下の値から4,090 Bq/kg、55~690 Bq/kg、19~800 Bq/kg

の範囲であった。また、検出限界値以上であったサンプルの平均値はそれぞれ312 Bq/kg、2,710 Bq/kg、238

Bq/kg、516 Bq/kg、217 Bq/kgであった。なお、農業環

境技術研究所が公開している主要穀類および農耕地土壌の90Srと137Cs分析データ一般公開システム(https://

vgai.dc.affrc.go.jp/vgai-agrip)によると、事故以前(2010

年)の全国の水田作土および畑作土の 137Csの平均値はそれぞれ5.9Bq/kgおよび6.4Bq/kgである。

調査対象全域の農地表層土壌中の放射性セシウム濃度の実測値の空間的な分布状況を図5に示した。

農地表層土壌中の放射性セシウム濃度の実測値は福島

25000 <

10000 - 25000

5000 - 10000

1000 - 5000

0 - 1000

農地

調査地点における農地土壌中の放射性セシウムの濃度(Bq/kg)

図5 農地土壌中の放射性セシウム濃度(基準日2011年6月14日)分布図

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48 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

県浜通り地方や中通り地方で高く、その空間的な分布状況は文部科学省が農地および非農地で行っている空間線量率の地上モニタリングの結果や航空機サーベイの結果と類似の傾向が認められた。

福島第一原発から北西方向の旧警戒区域、旧計画的避難区域に10,000Bq/kgを超える高い放射性セシウム濃度を示す場所が認められる。特に福島第一原発から飯舘村に至るラインで顕著である。旧警戒区域、旧計画的避難区域およびこれ以外の地域については以下のように要約できる。福島県中通り地方北部ではこのラインの延長方向で高い値が認められた。また、このライン西側でも1,000~5,000Bq/kgの地点が多く分布している。地点数は減少するものの中通り地方南部から栃木県北部にかけても1,000~5,000Bq/kgの地点が分布している。一方、福 島 県 境 に 近 い 宮 城 県 南 部 で は 数 地 点 で1,000~5,000Bq/kgの地点が認められた。福島県西部の会津地域で は 全 般 的 に1,000Bq/kg 以 下 で あ っ た が、1,000~5,000Bq/kgの地点が数地点で認められた。宮城県中部~北部、茨城県、栃木県南部、群馬県および千葉県においては大部分が1,000Bq/kg以下であった。

3.農地表層土壌中の放射性セシウム濃度と空間線量率

との関係

土壌中の放射性セシウム濃度と農地表層土壌調査の際に測定した1m高さでの空間線量率との関係を図4に示した。

土壌中の放射性セシウム濃度(検出限界値以上)と空間線量率は正の相関関係(R2 =0.84、サンプル数325)が認められ、土壌中の放射性セシウム濃度が増加すると空間線量率が増加することが明らかとなった。この関係性を詳細に検討した結果、福島第一原発事故以降に農地を耕起した地点と未耕起であった地点とを比較した際に、同等の土壌中の放射性セシウム濃度であっても、空間線量率は耕起した地点の方が未耕起であった地点よりも低くなった。本結果は、未耕起土壌の方が耕起土壌と比較して最表層部に放射性セシウムが多く分布している(放射性セシウムの深度分布の違い)ことにより、空間線量率と土壌中濃度との関係性が異なったためと考えられる

(Alexakhin, 1993, Vovk et al., 1993, EURANOS, 2010)。また、火山灰が母材である黒ボク土壌群グループ(黒ボク土、多湿黒ボク土、黒ボクグライ土)の仮比重(容積重)は他の土壌群グループ(岩屑土、砂丘未熟土、褐色森林土、灰色台地土、グライ台地土、赤色土、黄色土、暗赤色土、褐色低地土、灰色低地土、グライ土、黒泥土、泥

炭土)に比べて小さいことが一般的に知られている(Nanzyo, 1993)。その仮比重の違いによる影響などを受けて、同等の土壌中の放射性セシウム濃度であっても空間線量率は黒ボク土壌群グループの方が非黒ボク土壌群グループに比べて高かったと考えられる。さらに、樹園地では他の地目に比べて同等の土壌中のセシウム濃度であっても空間線量率は高い傾向である。樹園地では樹木の樹冠などに付着している放射性セシウムの影響が無視できないことが示唆された。

耕起・未耕起、土壌の種類および地目をもとに、サンプルを次の5つの農地グループに分類した。(1)未耕起_

黒ボク土壌群グループ、(2)耕起_黒ボク土壌群グループ、(3)未耕起_非黒ボク土壌群グループ、(4)耕起_非黒ボク土壌群グループ、(5)樹園地。5つの農地グループ毎に土壌中の放射性セシウム濃度を独立変数として、空間線量率を従属変数として回帰分析を行った結果を表2に示した。回帰直線の傾きは、樹園地>未耕起_非黒ボク土壌群グループ>耕起_非黒ボク土壌群グループ>未耕起_黒ボク土壌群グループ>耕起_黒ボク土壌群グループの順であった。なお、各回帰式の決定係数(R2)は0.89

~0.97の範囲であり、グループ分けを行うことで土壌中の放射性セシウム濃度と空間線量率との関係性をより明確に表すことが可能となった。

4.農地表層土壌中の放射性セシウム濃度推定図

農地表層土壌中の放射性セシウム濃度推定図の作成において、対象地域の農地を耕起している農地と未耕起である農地に分ける必要がある。旧警戒区域、旧計画的避難区域および旧緊急時避難準備区域に位置する農地については、福島第一原発事故以降の作付けが制限されていたため未耕起であると判断した。その他の地域に分布する水田および普通畑については全て耕起をしているものと仮定した。

調査地全域の農地表層土壌中の放射性セシウム濃度推定図を図6に示した。

図6から、福島県では福島第一原発が立地する浜通りで農地表層土壌中の放射性セシウム濃度は最も高く、次いで中通りおよび会津地方の順であった。とくに旧警戒区域および旧計画的避難区域において農地表層土壌中の放射性セシウム濃度は高かった。なお、コメの作付け基準(平成23年度)である土壌中の放射性セシウム濃度が5,000 Bq/kgを超えると推定される農地は83 km2 となり

(表3)、その95%以上は警戒区域および計画的避難区域の両区域に集中していた。中通り地方では、土壌中の放

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49高田裕介ら:農地表層土壌中の放射性セシウム濃度分布図作成のための緊急調査

0

0

2

4

6

8

10

12

14

10000 00.00

0.20

0.40

0.60

0.80

1.00

1.20

1.40

2000 4000 600020000 30000 40000

土壌中の放射性セシウム濃度(Bq/kg)

1m高さの空間線量率(μ

Sv/

h)

土壌中の放射性セシウム濃度(Bq/kg)

1m高さの空間線量率(μ

Sv/

h)

0 5000 100000.00

0.50

1.00

1.50

2.00

2.50

3.00

3.50

0 10000 20000 30000 400000.00

2.00

4.00

6.00

8.00

10.00

12.00

土壌中の放射性セシウム濃度(Bq/kg)

土壌中の放射性セシウム濃度(Bq/kg)

1m高さの空間線量率(μ

Sv/

h)

土壌中の放射性セシウム濃度(Bq/kg)

1m高さの空間線量率(μ

Sv/

h)

(a) (b)

(c)

(c)

(d)

0 2000 4000 60000.00

0.20

0.40

0.60

0.80

1.00

1.20

1.40

0 1000 2000 3000 40000.00

0.50

1.00

1.50

2.00

2.50

1m高さの空間線量率(μ

Sv/

h)

土壌中の放射性セシウム濃度(Bq/kg)

1m高さの空間線量率(μ

Sv/

h)

(e) (f)

図4  農地土壌中の放射性セシウム濃度と1 m高さの空間線量率との関係; (a)全サンプル(b)耕起_黒ボク土壌群、(c)耕起_非黒ボク土壌群、(d)未耕起_黒ボク土壌群、(e)未耕起_非黒ボク土壌、(f)樹園地用

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50 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

表3 農地土壌中の放射性セシウム濃度レンジ別の分布面積放射性セシウム濃度

(Bq/kg)水田

[km2]畑

[km2]0-1,000 599.4 220.2

1,000-5,000 391.6 146.65,000-10,000 19.58 7.9610,000-25,000 25.75 7.51

>25,000 16.46 5.81

25000 <

10000 - 25000

5000 - 10000

1000 - 50000

0 - 1000

農地土壌中の放射性セシウムの濃度(Bq/kg)推定値 実測値

図6 農地土壌中の放射性セシウム濃度(基準日:2011年6月14日)

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51高田裕介ら:農地表層土壌中の放射性セシウム濃度分布図作成のための緊急調査

射性セシウム濃度が北東から南西方向に帯状に高い傾向が認められ、その濃度範囲が1,000~5,000 Bq/kgであると推定される農地が多かった。福島県中通り地方で認められた帯状の汚染域は宮城県南東部から栃木県の中部にまで達していた。また、群馬県の中山間地域および茨城県霞ケ浦周辺で農地表層土壌中の放射性セシウム濃度は高い傾向を示した。福島県会津地方に分布する農地の大部分については、放射性セシウム濃度は1,000 Bq/kg以下であると推定された。

5.残された問題点

作成した放射性セシウム濃度推定図は概ね妥当と考えられるが、推定値の空間的解像度は航空機モニタリング調査の空間解像度(300~600 m)により制限される。このため、小面積で分布する地域(ホットスポットなど)を表現することは困難である。このような地域においては詳細な空間線量率調査を実施するなど、空間解像度の向上を図る必要がある。

6.摘要

2011年3月11日に発生した東京電力福島第一原子力発電所(福島第一原発)の事故に伴い、放射性物質による高度の汚染が発生したと考えられる宮城県、福島県、栃木県、群馬県、茨城県および千葉県の農地において、土壌を採取し放射性物質の濃度を測定することにより、汚染状況を明らかにした。土壌中の放射性セシウム濃度と1 m高さの空間線量率には正の相関関係(R2 =0.84、サンプル数325)が認められ、土壌中の放射性セシウム濃度が増加すると空間線量率が増加することが明らかとなった。この関係性は、福島第一原発事故以降の耕起の有無、土壌の種類、地目の違いにより影響を受けることが明らかとなり、5つにグループ分けを行ったうえで、土壌中の放射性セシウム濃度を独立変数として、空間線量率を従属変数として回帰分析を行った。これら5つの回帰式および文部科学省が行った航空機サーベイによる空間線量率マップを用いて農地表層土壌中の放射性セシウム濃度推定図を作成した。コメの作付け基準である土壌中の放射性セシウム濃度が5,000 Bq/kgを超えると推定される農地は83 km2 となり、その95%以上は警戒区域および計画的避難区域の両区域に集中していた。

引用文献

1) Alexakhin , R .M . (1993):Countermeasures in

agricultural production as an ef fective means of

mitigating the radiological consequences of the

Chernobyl accident, Sci. Total Environ., 137, 9-20

2) 土壌環境分析法編集委員会(1997):土壌環境分析法、日本土壌肥料学会監修, p.427, 博友社, 東京

3) European approach to nuclear and radiological

emergency management and rehabilitation strategies

(EURANOS) (2010):Generic handbook for assisting

in the management of contaminated food production

systems in Europe fo l lowing a radiological

emergency, pp407, Health Protection Agency, UK

4) 厚生労働省医薬局食品保健部監視安全課(2002):緊急時における食品の放射能測定マニュアルhttp://

www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e-img/2r98520000015cfn.pdf, (accessed 2013-11-5)

5) Nanzyo M, Dahlgren R, Shoji S (1993):Chemical

characteristics of volcanic ash soils, In Volcanic Ash

Soils, S Shoji, M Nanzyo, RA Dahlgren (eds), p145-207, Elsevier, Amsterdam

6) Vovk I.F., V.V. Blagoyev, A.N. Lyashenko and I.S. Kovalev

(1993):Technical approaches to decontamination of

terrestrial environments in the CIS (former USSR). Sci. Total Environ., 137, 49-63

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53

農環研報 34,53-61(2015)

東日本の農地表層土壌中の 放射性セシウム濃度分布図の作成

Spatial prediction of radioactive Cs concentration in agricultural soil in East Japan

高田裕介*・神山和則*・小原 洋*・前島勇治**・石塚直樹***

齋藤 隆****・谷山一郎*****

(平成26年12月2日受理)

シノプスDue to the accident at the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Station by Tokyo Electric Power

Company (FDNPS), the radioactive cesium (Cs) released into the environment. To determine the

distribution pattern of the Cs contamination level in agricultural land, we carried out soil survey at

3461 points in East Japan. We measured radioactive Cs concentration in soil using a germanium

semiconductor detector, and it was calculated in Bq of dry soil per 1kg (reference date: 5 November

2011). Soil Cs concentration was ranged from the detection limitation to 203,095 Bq/kg, and there

was high contamination level in evacuation directive zone. And, soil Cs concentration had a positive

correlation with the radiation dose (R2=0.89, sample number 2199). This linear correlation was

af fected to some extent by soil surface condition, soil groups and land use type. The linear

regression analysis was conducted by each land surface condition, soil type and land use type. We

delineated soil Cs concentration map using regression-kriging method that combines regression

equations with the ordinar y kriging of the regression residuals. The total radioactive Cs

concentration in soil was highest in the 20-km evacuation zone surrounding FDNPS, and it tended

to be higher in north-west direction from FDNPS than in other direction. Above the contamination

level 2 (more than 5,000 Bq/kg) covered about 8,900 ha in Fukushima prefecture, and it mainly

distributed in evacuation directive zone.

* 農業環境インベントリーセンター** 土壌環境研究領域*** 生態系計測研究領域**** 福島県農業総合センター生産環境部***** 元研究コーディネータ

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54 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

Ⅰ はじめに

2011年3月11日に発生した東京電力福島第一原子力発電所(福島第一原発)の事故に伴い、放射性物質による汚染が福島県を中心に広範囲に発生した。農地は食料を生産する場であり、放射性物質による汚染状況を把握することは、安全な農産物の供給に不可欠であるとともに、農地の除染など今後の営農に向けた取組を進めるために不可欠である。農地の放射性物質の汚染状況(土壌の放射性セシウム濃度)については、前章において宮城県、福島県、栃木県、群馬県、茨城県および千葉県の範囲で汚染状況の概略について述べた。しかし、短期間での緊急調査であったため調査点数は約580地点であった。集中的に調査が行われた福島県においても361地点で、農地面積あたりに換算すると412 haに1点という密度であった。このため、調査の空白地域も少なからず生じている。また、広域的な航空機モニタリングの結果から、調査を行った県以外の都県についても放射性セシウム沈着量が10,000 Bq/m2 以上の地域が認められたことから、分布調査を行うことが望ましいことが明らかになった。

このため、前回調査を行った県に、新たな調査対象都県として岩手県、山形県、埼玉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県、静岡県を加えるとともに、調査対象地点を約6倍に増やして、農地における放射性セシウムの濃度を測定し、詳細な汚染状況の分布の把握を行った。

Ⅱ 調査・研究方法

1.農地土壌の放射性セシウム濃度測定用試料の採取

放射性セシウム濃度測定用農地土壌試料の採取は、前章とほぼ同様の方法で行った。前章の結果から火山灰が母材である黒ボク土壌群グループ(黒ボク土、多湿黒ボク土、黒ボクグライ土)と他の土壌群グループ(岩屑土、砂丘未熟土、褐色森林土、灰色台地土、グライ台地土、赤色土、黄色土、暗赤色土、褐色低地土、灰色低地土、グライ土、黒泥土、泥炭土)では、表層土壌中の放射性セシウム濃度と1 m高さの空間線量率との関係性が異なることが明らかになったため、両者を的確に区別する方法として活性アルミニウムテスト(アロフェンテスト)を調査項目に加え、呈色程度を-、+、++および+++の4段階に分けて記載し、++以上の呈色で黒ボク土壌群グループと判定した。なお、調査地点数は3461地点

であり、調査は2011年10月から2012年1月までの間に行った。

調査対象圃場の対角線の交点となる中心1点および中心と圃場の4隅を結ぶ線上の中間点4点の計5箇所を土壌採取地点とした。土壌はライナー付き土壌試料採取器

(5 cm径)を用いて30 cm深まで採取した。レキ層、盤層などにより30 cmまで採取器を挿入できない場合は、その深度までとした。また、NaIシンチレーションサーベイメータあるいはCsIシンチレーションカウンターなどを用いて、圃場内の土壌採取地点の1 mおよび1 cm高さにおける空間線量率を測定した。

採取した土壌試料を0~15 cmと15~30 cmの2層に区分し、分析のための試料とした。作土層の厚さにかかわらず深さを固定したのは、作土層の厚さが判然としない場合に放射性物質の下層への混入を避けるためである。1地点5箇所で採取した0~15 cmの試料を混合し、重量を測定した後、篩などを用いて均一にして放射能濃度測定に供した。また、一部を水分測定に用いた。

土壌中の放射性セシウム濃度は「緊急時における食品の放射能測定マニュアル」(厚生労働省医薬局食品保険部監視安全課 2002)に従い、(財)九州環境管理協会、農環研、福島県農業総合センターにおいてゲルマニウム半導体検出器を用いて測定した。測定時間は1,000~10,000秒とし、乾土1 kgあたりのBq(2011年11月5日を基準日)で表示した。なお、基準日は文部科学省による第4次航空機モニタリングの測定結果(文部科学省、2011)と比較できるように設定した。

2.2011年度における湛水田圃場の分布図の作成

地目水田の内、全国で約1/3の圃場で水稲を作付していないことが知られており(農林水産省、2010)、年々それら圃場の分布状況は変化している。そのため、2011

年度において湛水した水田圃場(湛水田圃場)の分布状況を把握するため衛星画像を用いた。解析は図2に示すフローチャートで以下のように行った。本報告では、RARDARSAT-2画像の4シーンを用いた。これらの衛星画像は2011年6月7日、9日、19日および26日に撮影された(空間分解能は10.2-8.2 m×7.7 m、入射角は31.27度)。

まず、圃場図(水土里ネット, 2006)を用いて農地の抽出を行った。この圃場図には地目情報が入っていないため、農耕地土壌図(高田ら, 2011)の地目情報を用いて抽出した圃場の地目を判定した。幾何補正を行った衛星画像を用いて、調査地域内の全圃場の平均後方散乱係数を算出した。後方散乱係数の閾値を現地調査の結果を

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55高田裕介ら:東日本の農地表層土壌中の放射性セシウム濃度分布図の作成

基に設定して2011年度における湛水田圃場と湛水をしていない地目水田圃場を区分した。また、現地踏査を2,597圃場で行った結果、本操作によって作成した湛水田圃場分布図の正答率は77.1%であった。湛水田圃場分布図の作成は福島県、宮城県および栃木県において行った。他の都県については農耕地土壌図(高田ら, 2011)の地目情報を用いて、地目水田圃場を抽出し、抽出した全ての圃場で2011年は水田利用されているものと仮定した。

3.放射性セシウム濃度分布図の作成

放射性セシウム濃度分布図をより精度高く作成するため、本報告では回帰クリギング法を用いた。回帰クリギング法とは、先ず、土壌中の放射性セシウム濃度を独立変数とし、空間線量率を従属変数とした回帰分析を行う。得られた回帰式と文部科学省が作成した航空機サーベイによる1 m高さの空間線量率図を用いて放射性セシウム濃度回帰図を作成し、各調査地点の実測値と回帰による予測値との誤差を算出する。この回帰誤差をクリギ

ング法で図化したものを用いて各回帰図を補正する。本手法により、高精度で土壌特性値の地図化が可能であることをLopez-Granados et al. (2002)およびTakata et al. (2007)は報告している.

農林水産省は農地の汚染状況に応じた除染技術の開発に取り組んでおり、放射性セシウム濃度を5,000 Bq/kg

以下(汚染度1)、5,000~10,000 Bq/kg(汚染度2)、10,000 ~25,000 Bq/kg(汚染度3)および25,000 Bq/kg

以上(汚染度4)の4段階に分けて除染技術の適用の考え方を示している(農林水産省, 2011)。そのため、農地表層土壌中の放射性セシウム濃度分布図についても、上記汚染度レベル別に農地を区分し、農耕地土壌図(高田ら, 2011)の地目情報を用いて、水田および畑ごとに汚染度レベル別の分布面積を算出した。

なお、一連の空間分布の解析などにはGISソフトウェアであるArcView Ver 10(ESRI社)およびその拡張機能であるSpatial Analyst(ESRI社)ならびに Geostatistical

Analyst(ESRI社)を使用した。

幾何補正

閾値の決定 田圃場の抽出

閾値以下 閾値以上区分

平均後方散乱係数の算出

衛星画像(RADARSAT-2)

幾何補正済み衛星画像

圃場図ポリゴンデータ

農地土壌図地目情報付

湛水田圃場 非湛水田圃場

閾値の分布図

圃場図による後方散乱係数図のマスキング

田圃場図による後方散乱係数図のマスキング

図2 2011年度の湛水田圃場の抽出方法

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56 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

4.地図化精度評価

前章で採取した土壌試料のうち、134Csおよび 137Csがいずれも検出限界値以上であった214地点(図1c)については、本章において、地図化精度を評価するための試料として用いた。これら試料の表層土壌中の放射性セシウム濃度についても基準日を2011年11月5日とした。

精度評価用試料を用いて2乗平均平方根誤差および平均誤差を地図化精度評価の指標として算出した。

Ⅲ 結果および考察

1.都県別の農地表層土壌中の放射性セシウム濃度

研究対象地域である東日本各地の農地表層土壌中(深さ0-15 cm)で放射性セシウムが検出された(表1)。なお、農地表層土壌中の放射性セシウム濃度が検出限界値以下の場合は検出限界値の1/2の値を採用して、各都県の最小値および平均値を算出した。最も放射性セシウム濃度が高かったのは旧規制区域内(図1;旧警戒区域、旧計画的避難区域、旧緊急時避難準備区域)であり、次いで福島県(旧規制区域外)、栃木県、宮城県の順であった。最も高い放射性セシウム濃度(203,000 Bq/kg)を示した地点は大熊町にあり、福島第一原発から約3 km南西 に 位 置 し た。134Cs と 137Cs の 都 県 別 の 平 均 の 比

(134Cs/137Cs)の範囲は0.62~0.80であり、概して、調査対象地域の西側で低い傾向であった。

2.放射性セシウム濃度と空間線量率との関係

農地表層土壌中の放射性セシウム濃度と1 m高さの空間線量率との関係性を図3に示した。なお、土壌表面から放出されるγ線は雪や圃場に溜まった水の影響を強く受けるため(長岡ら1992, 藤村2012)、そのような調査地点は本解析から除外した。また、134Csが検出限界値以下の地点についても本解析から除外した。さらに、現地調査の際に空間線量率の測定がされていない地点などを合わせると、本解析から除外した地点数は1,262地点であった。

前章でも述べたように、土壌中の放射性セシウム濃度と空間線量率との関係は直線的な関係性(図3a, R2=0.89, N=2,199)をもつが、土壌表層の状態、土壌タイプおよび土地利用タイプなどの違いによってある程度の影響を受けた。前章と同様に、原発事故後に起耕した圃場と耕起していない圃場を比較すると、同一の放射性セシウム濃度であっても耕起した圃場(N=1443, Y=3.9 x 10-4X)の方が未耕起であった圃場(N=534, Y=4.8 x 10-4X)に

比べて回帰直線(独立変数は表層土壌中の放射性セシウム濃度で従属変数は1 m高さの空間線量率)の傾きは緩やかであった(図3b)。また、仮比重が小さいことで知られる黒ボク土グループ(N=582, Y=3.7 x 10-4X)の方が非黒ボク土グループ(N=1395, Y=3.9 x 10-4X)と比較して回帰直線の傾きの値は小さかった。これらの結果は前章と一致する結果であった。本報告では更に、水田と普通畑の回帰直線の傾きの違いにも着目した。回帰直線の傾きは水田(N=894, Y=3.6 x 10-4X)の方が普通畑

(N=549, Y=3.9 x 10-4X)と比較して緩やかであった。土壌の水分含量は水田で高いことが考えられ、水による遮蔽効果の違いが回帰直線の傾きに影響を及ぼしていると示唆された。そこで本報告では、これらの傾向を考慮して回帰分析を土壌表層の状態毎(耕起と未耕起)、土壌グループ毎(黒ボク土グループと非黒ボク土グループ)および土地利用毎(水田、普通畑、牧草地、樹園地)に分けて行った。なお、旧規制区域内の水田および普通畑は全て未耕起圃場であると判断した。

回帰分析の決定係数(R2)は0.40~0.99の範囲であり、旧規制区域内で高く、旧規制区域外で低い傾向であった

(表2)。旧規制区域内の圃場は事故後に耕起されておらず、土壌表層が耕起によるかく乱を受けていないため、土壌中の放射性セシウム濃度と空間線量率との関係性をより強く示したものと考える。他方、旧規制区域外の樹園地や牧草地において、土壌中の放射性セシウム濃度と空間線量率との関係性は比較的弱い傾向であった。樹園地や牧草地では、水田や普通畑と比較して、植物による被覆状況の不均一性が大きく、土壌中の放射性セシウム濃度と空間線量率との関係性が弱かったと推察された。

3.土壌中の放射性セシウム濃度の空間分布予測

表2で示した10の回帰式(図4a)と文科省が作成した空間線量率図(図4b:2011年11月5日を基準日として補正)を用いて、10通りの放射性セシウム濃度分布図を作成した。その後、地目情報付きの農耕地土壌図(図4c:高田ら, 2011)および衛星画像から作成した湛水田圃場の分布図を用いて、10通りの放射性セシウム濃度分布図から条件分け(“黒ボク土”かつ“普通畑”かつ“旧規制区域外(耕起圃場)”など)による空間結合を行い、回帰式のみから土壌中の放射性セシウム濃度分布図(図4d:回帰モデル)を作成した。

回帰モデルによる放射性セシウム濃度分布図(図4d)から、表層土壌中の放射性セシウム濃度は旧警戒区域で最も高く、福島第一原発から北西方向にかけて高い値を

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57高田裕介ら:東日本の農地表層土壌中の放射性セシウム濃度分布図の作成

表1 都県別の農地表層土壌中の放射性セシウム濃度

都県名 地点数134Cs 137Cs 134Cs+137Cs 134Cs/137Cs

最小値 最大値 平均値 最小値 最大値 平均値 最小値 最大値 平均値 平均±標準偏差(Bq/kg)

岩手県 160 5 350 69 5 410 92 10 760 160 0.72±0.12宮崎県 122 8 1,200 141 6 1,540 190 13 2,740 330 0.74±0.09山形県 63 5 110 31 6 170 47 14 267 79 0.68±0.09福島県 旧規制区域内 579 11 91,200 4,475 14 112,000 5,570 25 203,000 10,000 0.80±0.05

旧規制区域外 1,706 4 3,370 456 4 4,230 580 8 7,610 1,040 0.77±0.08茨城県 132 8 350 98 9 430 130 19 760 230 0.76±0.12栃木県 207 29 1,290 395 45 1,550 500 79 2,850 900 0.78±0.07群馬県 99 7 410 87 9 560 120 17 970 200 0.75±0.11埼玉県 70 6 380 40 7 460 56 14 840 95 0.71±0.14千葉県 103 4 340 96 4 470 120 9 800 220 0.77±0.11東京都 43 3 140 25 6 190 36 11 320 61 0.77±0.14神奈川県 20 6 220 31 7 240 42 13 460 73 0.74±0.14新潟県 62 5 66 8 5 84 18 10 150 26 0.66±0.10山梨県 5 7 10 9 7 16 10 14 25 18 -長野県 60 5 58 13 5 79 19 11 140 32 0.62±0.10静岡県 30 4 11 7 5 31 10 10 39 18 -精度評価用データセット 214 13 11,500 490 26 14,700 630 39 26,200 1,120 0.74±0.10放射性セシウム濃度が検出限界値以下の場合は検出限界値の1/2の値を採用して、各都府県の最小値および平均値を算出した。平均 134Cs/137Csの算出時には 134Csまたは 137Csが検出限界となる地点を除いた。

予測図作成のための試料採取地点(N=3461)地図化精度評価のための試料採取地点(N=214)農地分布図

a:調査対象地域図 b:福島県拡大図

図1 土壌調査・試料採取地点

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58 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

表2 土壌中の放射性セシウム濃度を独立変数として、空間線量率を従属変数とした回帰分析の結果

地域 回帰式番号 土地利用 土壌グループ 回帰式 R2 N

旧規制区域内(未耕起)

1 水田および普通畑 黒ボク土 Y=(2.88 x 10-4)X 0.89  99

2 水田および普通畑 非黒ボク土 Y=(4.33 x 10-4)X 0.90 435

3 樹園地   - Y=(3.56 x 10-4)X 0.99  14

4 牧草地   - Y=(5.69 x 10-4)X 0.90  27

旧規制区域外(耕起)

5 水田 黒ボク土 Y=(3.30x 10-4)X+0.050 0.83 264

6 水田 非黒ボク土 Y=(3.79 x 10-4)X+0.027 0.78 630

7 普通畑 黒ボク土 Y=(3.88 x 10-4)X+0.015 0.78 219

8 普通畑 非黒ボク土 Y=(4.04 x 10-4)X+0.023 0.79 330

9 樹園地   - Y=(6.19 x 10-4)X 0.54 161

10 牧草地   - Y=(9.46 x 10-4)X 0.40  24

Y;1 m高さの空間線量率(μSv/h)、X;土壌中の放射性セシウム濃度(Bq/kg)

0

30

60

90

500000

0.00

1.00

2.00

2500

未耕起圃場(規制区域内)

耕起圃場(規制区域外)

50000

100000 150000 200000 250000

土壌中の放射性セシウム濃度(Bq/kg)

土壌中の放射性セシウム濃度(Bq/kg)

1m高さの空間線量率(μ

Sv/

h)

1m高さの空間線量率(μ

Sv/

h)

a)

0.00

1.00

2.00

0 2500 5000

1m高さの空間線量率(μ

Sv/

h)

c)

b)

非黒ボク土

黒ボク土

土壌中の放射性セシウム濃度(Bq/kg)

土壌中の放射性セシウム濃度(Bq/kg)

0.00

1.00

2.00

0 2500 5000

1m高さの空間線量率(μ

Sv/

h)d)

普通畑

水田

図3  農地表層土壌中(0~15 cm)の放射性セシウム濃度と1 m高さの空間線量率との関係、a)全サンプルの関係性、 b)未耕起圃場と耕起圃場との比較、c)黒ボク土壌群グループと非黒ボク土壌群グループとの比較、d)水田と普通畑との比較

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59高田裕介ら:東日本の農地表層土壌中の放射性セシウム濃度分布図の作成

a)

d)

f)

e)

b) c)

2.5<(μSv/h)

1.0

0.0 黒ボク土非黒ボク土

(Bq/kg) 回帰残渣(Bq/kg)0 - 500

500 - 10001000 - 50005000 - 1000010000 - 2500025000 - 5000050000<

-5000>-5000 - -5000 - -500500 - 0500 - 50005000<

0 - 500500 - 10001000 - 50005000 - 1000010000 - 2500025000 - 5000050000<

(Bq/kg)

図4  回帰クリギングモデルによる農地表層土壌中の放射性セシウム濃度分布図の作成、a)土壌グループ、土地利用などで10に分類した1m高さの空間線量率と農地表層土壌中の放射性セシウム濃度の回帰式、b)1m高さの空間線量率(文部科学省, 2011)、c)土壌タイプ、d)回帰モデルによる農地表層土壌中の放射性セシウム濃度分布図、 e)回帰残差、f)回帰クリギングモデルにより補正した農地表層土壌中の放射性セシウム濃度分布。

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60 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

示した。本傾向は文科省が作成した空間線量率分布図と一致した。次に試料採取地点ごとに、回帰モデルの予測残差を実測値と予測値から算出した(図4e)。なお、回帰予測残差の算出は 134Csおよび 137Csの両方ともが検出限界値以上の値を示した地点のみで行った。

回帰予測残差は福島第一原発から半径80 km圏内において低い値を示した。また、回帰予測残差は調査地域北部で高く、南部で低い傾向を示したが、栃木県北部では回帰予測残差は高い値を示した。回帰予測残差の空間依存性を評価するために十分なサンプル数がある回帰式1、2、5、6、7および8について、指数タイプか球形タイプのモデル式を当てはめ、セミ・バリオグラムのパラメータを算出した(表3)。なお、回帰式3、4、9および10についてはサンプル数が限られていたため、回帰予測残差の空間依存性の評価は行っていない。

回帰予測残差のナゲットおよびシルは、放射性セシウム濃度の高い旧規制区域内の方が旧規制区域外(耕起圃場)よりも高かった。また、空間依存度を示すQ値は旧規制区域内の方が旧規制区域外に比べて高かった(回帰式5を除く)ことから、回帰予測残差は旧規制区域内において高い空間依存性を示した。予測残差の空間依存性は現地調査の際に用いたシンチレーション・サーベイメータの機種間の違い、航空機モニタリングの実施期間の違い、地形要因などによって影響を受けていることが示唆された。

算出したセミ・バリオグラムのパラメータを用いたクリギング法により、回帰式毎に回帰予測残差の地図化を行った。そして、回帰モデルによる放射性セシウム濃度分布図(回帰式1,2,5,6,7および8)と回帰予測残

差の地図をそれぞれ足し合わせることで、新たな放射性セシウム濃度分布図を作成した。回帰クリギング法で作成した分布図(回帰式1,2,5,6,7および8)、回帰モデルで作成した分布図(回帰式3,4,9および10)、地目情報付きの農耕地土壌図および湛水田圃場の分布図を用いて条件分けによる空間結合を行い、土壌中の放射性セシウム濃度分布図(回帰クリギング法)を作成した。

回帰モデルおよび回帰クリギングモデルの予測精度の評価結果を表4に示した。二乗平均平方根誤差(RMSE)および平均誤差(ME)は回帰クリギングモデルの方が回帰モデルよりも絶対値が小さくなった。本結果は回帰クリギングモデルの方が回帰モデルと比較して精度良く地図化を行えたことを示している。

4.農地土壌除染技術適用の考え方に基づく除染対象農

地の分布面積

農地表層土壌中の放射性セシウム濃度区分ごとの分布面積を表5に示した。

土壌中の放射性セシウム濃度が5,000 Bq/kgを超えると推定される農地の分布面積は8,900 haであり、その全てが福島県内に分布していた。これは福島県の田畑の総面積の約6%を占める結果となった。また、5,000 Bq/kg

を超過する農地の92%は旧規制区域内に分布していた。農林水産省は農地の汚染状況に応じた除染技術の開発

に取り組んでおり、放射性セシウム濃度を5,000 Bq/kg

以下(汚染度1)、5,000~10,000 Bq/kg(汚染度2)、10,000 ~25,000 Bq/kg(汚染度3)および25,000 Bq/kg

以上(汚染度4)の4段階に分けて除染技術の適用の考え方を示している(農林水産省, 2011)。水による土壌撹

表3 回帰モデル予測残差の空間依存性解析結果

回帰式番号 モデル ナゲット シル Q値 レンジ(km) R2 ラグ

1 指数型 3.24 x 107 1.32 x 108 0.76 54.6 0.36 有効ラグ;20km、ラグ間隔;2km

2 指数型 6.00 x 106 5.58 x 107 0.89 15.2 0.85 有効ラグ;20km、ラグ間隔;2km

5 球型  4.30 x 104 6.97 x 105 0.94 108 0.98 有効ラグ;70km、ラグ間隔;7km

6 指数型 2.25 x 105 4.50 x 105 0.50 26.4 0.71 有効ラグ;70km、ラグ間隔;7km

7 指数型 1.94 x 105 4.15 x 105 0.53 24.7 0.48 有効ラグ;70km、ラグ間隔;7km

8 指数型 1.91 x 105 3.81 x 105 0.50 272 0.78 有効ラグ;70km、ラグ間隔;7km

表4 回帰モデルおよび回帰クリギングモデルの地図化精度評価

N 回帰モデル 回帰クリギングモデル

二乗平均方眼誤差 214 790 760

平均誤差 214 -220 -100

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61高田裕介ら:東日本の農地表層土壌中の放射性セシウム濃度分布図の作成

拌・除去、表土削り取り、反転耕による除染が推奨される汚染度2の田および畑地の面積は、それぞれ約2,100 ha

および約1,200 haである。表土の削り取りが必要とされる汚染度3の田および畑地面積はそれぞれ約2,000 haおよび1,000 haあり、固化剤などを用いて土壌飛散防止措置を講じたうえで5 cm以上の厚さで表土を削り取ることが推奨される汚染度4の水田および畑地はそれぞれ約1,800 haおよび約800 haであると推定される。

5.摘要

東京電力福島第一原子力発電所(福島第1原発)の事故により、放射性セシウムが周辺環境中に放出された。このため、セシウムによる農地土壌の汚染状況を明らかにし、農地除染計画の作成に資するため、3,461点において調査を実施することで東日本における農地表層土壌中のセシウム濃度分布図の作成を行った。土壌中のセシウム濃度は調査地点で測定した空間線量率と正の相関関係が認められた(R2=0.89, n=2,199)。この関係は事故後の耕転状況、土壌の種類、地目によって影響を受けることが明らかとなったことから、空間線量率から農地表層土壌中のセシウム濃度を推計するための回帰式を10に類型化した。これら回帰式と文部科学省が作成した航空機サーベイによる1 m高さの空間線量率図を用いて、回帰クリギング法により農地表層土壌中のセシウム濃度分布図を作成した。土壌中のセシウム濃度は福島第1原発の20km圏内において高く、また、福島第1原発の北西方向にかけて高セシウム濃度地帯が認められた。表層土壌中のセシウム濃度が5,000 Bq/kgを超過する汚染度2以上の農地の分布面積は8,900 haであると推定され、そのほとんどが旧規制区域内に分布していた。

参考文献

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parameters in southern Spain. Plant Soil, 246, 97-105.3) 文部科学省(2011):文部科学省による第4次航空機

モニタリングの測定結果について、http://radioactivity.nsr.go.jp/ja/contents/5000/4901/24/1910_1216.pdf、

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matter in northern Kazakhstan based on topographic

and vegetation information. Soil Sci. Plant Nutr., 53, 289-299

8) 高田裕介・小原 洋・中井 信・神山和則(2011):1973年から2001年までの地目改変に伴う土壌群分布面積の変動特性の解析,日本土壌肥料学雑誌, 82, 15-24

表5 放射性セシウム濃度別の農地分布面積と推奨される除染技術(農林水産省, 2011)

汚染度 放射性セシウム濃度範囲 水田(ha) 普通地、牧草地、樹園地(ha) 推奨される除染技術

1 5,000 Bq/kg以下 99,400 528,000表土はぎ取り、反転耕、作物吸収抑制技術、水を用いた表層細土画分の除去

2 5,000 - 10,000 Bq/kg 2,100 1,200

畑 水田

地下水位が高い場合    表土はぎ取り地下水位が低い場合    表土はぎ取り、反転耕

表土をはぎ取り水を用いた表層細土画分の除去;黒ボク土での適用は困難反転耕;地下水位が低い場合のみ

3 10,000 - 25,000 Bq/kg 2,000 1,000 表土はぎ取り 表土はぎ取り

4 25,000 Bq/kg以上 1,800 800表土はぎ取り表土の飛散防止が必要

表土はぎ取り表土の飛散防止が必要

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63

農環研報 34,63-73(2015)

2011年高濃度放射性セシウム汚染玄米発生の土壌要因

Soil properties for analyzing cause of high radiocesium concentration in brown rice produced

in 2011 in Fukushima prefecture

神山和則*・小原 洋*・高田裕介*・齋藤 隆***

佐藤睦人***・吉岡邦雄***・谷山一郎**

(平成26年12月2日受理)

2011年3月11に発生した東京電力福島第一原子力発電所(福島第一原発)の事故に伴い、放射性物質が大気中に放出された。農地の汚染も広範囲で起こり、水稲栽培に関しては土壌中の放射性セシウム濃度が5,000Bq/kgを超える水田で作付けが制限された。しかしながら2011年産で玄米中の放射性セシウム濃度が暫定規制値(500Bq/kg)を超えるものが一部の水田で生産された。このためこれらの福島県、農水省は水田における要因解析を実施した。本論文ではこれらの要因解析に用いられた土壌特性のデータをとりまとめ、土壌特性からみた要因について考察を行った。

二本松市旧小浜町の5水田と暫定規制値を超過した放射性セシウムの玄米が検出された水田(22カ所)およびその周辺水田(9カ所)の31地点(要因解析調査地点)の合計36地点で作土の土壌試料を採取し分析に供した。作土の放射性セシウム濃度は2,320~11,700Bq/kg、玄米中の放射性セシウム濃度はND~1,240Bq/kgで、移行係数は0.02~0.34の範囲であった。

小浜町の玄米の放射性セシウム濃度と交換性カリ含量はそれぞれ92~453Bq/kg、1.8~10.1mg/100gの範囲であった。また、要因解析調査地点における交換性カリ含量の平均値は

9.7mg/100gで2.5~32.3mg/100gの範囲であった。特に規制値を超えた地点においては交換性カリの平均値は6.8mg/100gと低く、10mg/100gを超えた地点は3地点にすぎない。以上のように、土壌の交換性カリ含量が重要な要因の一つであることが明らかになった。一方で、玄米の放射性セシウム濃度と土壌特性との関係性を明確に特徴づけることはできなかった。また、土壌特性以外の要因、栽培管理・用水・周辺環境などの影響もあると思われるため、要因解明には多くの課題が残されている。

* 農業環境インベントリーセンター** 元研究コーディネータ*** 福島県農業総合センター

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64 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

Ⅰ はじめに

2011年3月11日に発生した東京電力福島第一原子力発電所(福島第一原発)の事故に伴い、放射性物質が大気中に放出された。農地の汚染も広範囲に及んだことから安全な農産物の生産に対する対策が検討された。その経緯は以下のとおりである。

水稲栽培に関しては原子力災害対策本部が2011年4

月8日に「稲の作付けに関する考え方」(原子力災害対策本部 2011)を示し、水田の土壌から玄米への移行係数を0.1とし、玄米の放射性セシウム濃度(134Csと 137Csの合計値、以後「放射性セシウム」を「放射性Cs」と記す)が暫定規制値(500 Bq/kg)以下となる土壌中の放射性Cs濃度の上限値を5000 Bq/kgとした。2011年3月下旬から4月上旬にかけて行われた土壌中の放射性Cs濃度の調査結果で規制区域(当時の警戒区域、計画的避難区域、緊急時避難準備区域)外は5000 Bq/kg未満であったため、規制区域外では水稲の作付けが認められた(農林水産省, 2011)。

同年8月以降に、安全な米の供給という観点から玄米の放射性Cs濃度の調査が収穫前の予備調査、収穫後の本調査の2段階で実施された。予備調査では二本松市旧小浜町の玄米で500 Bq/kgの放射性Csが検出された。さら

に、本調査終了後、福島市旧小国村大波地区で暫定規制値を超える放射性Csが検出された。このため、米の放射性物質緊急調査(緊急調査)が実施され、23,247戸の農家を対象に生産した米の放射性Cs濃度が測定された。

これらの結果を受け、二本松市旧小浜町および緊急調査により暫定規制値を超過した水田圃場についてその要因解析が行われた(福島県 2011, 福島県, 農林水産省

2011)。本報告ではこれらの要因解析に用いられた土壌特性のデータをとりまとめ、土壌特性からみた要因について考察を行った。

Ⅱ 方法

(1) 対象地域

1) 二本松市旧小浜町

調査対象とした水田圃場は二本松市旧小浜町に位置し(図1)、2011年の予備調査において玄米から500 Bq/kg

の放射性Csが検出された圃場を含む5圃場である。これらの圃場は周囲を花崗岩質の丘陵に囲まれた狭隘な谷底平野の最上流部で、用水は沢水などの天水を利用している。5圃場(①~⑤)は上流から順に連続し、①から③は同じ沢水を利用しているが、④、⑤は別の沢水も利用している。

FD

NNo

F:福島市、 D: 伊達市、N:二本松市、No:二本松市旧小浜町

調査地点がある旧市町村

図1 対象地域

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65神山和則ら:2011年高濃度放射性セシウム汚染玄米発生の土壌要因

2)要因解析調査地点

緊急調査において38戸の農家で玄米の放射性Cs濃度が暫定規制値を超過していた。これらの農家の水田のうち、暫定規制値を超過した放射性Csの玄米が検出された水田(22カ所)およびその周辺水田(9カ所)の31地点を要因解析のための調査対象とした(以後、要因解析調査地点という)。前者は福島市(旧福島市3地点、旧小国村13地点)、伊達市(旧月舘町1地点、旧小国村2地点、旧桂沢村1地点、旧富成村1地点)、二本松市(旧渋川村1地点)、後者は福島市(旧小国村9地点)に位置する(図1)。

(2) 試料の採取

1) 二本松市旧小浜町

土壌及び稲を2011年10月2日に、隣接する5つの圃場(①~⑤)において水口から水尻にかけてそれぞれ5

カ所(②については水口が3カ所あるため6カ所)で採取した。土壌はそれぞれの地点で深さごとに(0-5、5-10、10-15 cm)分けて分析に供した。なお、分析値は各圃場の5または6カ所における平均値で示した。また、稲は玄米、ワラ、籾殻の3つの部位に分けて試料を調製し、分析に供した。

2)要因解析調査地点

要因解析調査地点31圃場においてそれぞれ5カ所で土壌採取器を用いて作土(表層15 cm)の土壌を採取し、これらを混合し試料とした。これとは別に福島市旧小国村の3圃場では作土(0-15 cm)に加えて、深さ別(0-5、5-10、10-15 cm)に試料を採取した。一方、稲については調査時に収穫が終了していたため、圃場における試料採取はできなかった。このため、それぞれの地点における玄米の放射性Cs濃度は相当すると考えられる袋の玄米の放射性Cs濃度とした。

(3) 分析方法

土壌試料については、放射性セシウム濃度、交換性放射性Cs濃度(要因解析調査地点のみ)、一般理化学性、粘土鉱物組成の分析を行った。

1) 放射性Cs濃度(土壌、稲)

土壌中の放射性Cs濃度は「緊急時における食品の放射能測定マニュアル」(厚生労働省, 2002)に従い、ゲルマニウム半導体検出器を用いて測定した。測定時間は1,000~10,000秒とした。土壌の放射性Cs濃度は 134Csと137Csの合計値を乾土1 kgあたりのBq(Bq/kg)で示した。

交換性放射性Cs濃度は1M酢酸アンモニウム溶液(pH7.0)を用いて抽出し(固液比1:10で1時間振とう)、

測定した。交換性放射性Cs濃度は 134Csと 137Csの合計値を乾土1 kgあたりのBq(Bq/kg)で示した。

稲は3つの部位別に測定した。各部位の放射性濃度は水分15%換算の濃度(Bq/kg)で示した。

2) 土壌の理化学性

土壌を風乾後2 mmの篩で篩別し、交換性陽イオン(バッチ法)、塩基交換容量(CEC)、全炭素含量(二本松市旧小浜町を除く)、pH、粒径組成を常法(土壌環境分析法編集委員会編, 1997)により測定した。 交換性陽イオンは酸化物ベースのmg/100 gで,全炭素含量は腐植含量に換算し重量%で示した。

3) 粘土鉱物

二本松市旧小浜町については5圃場すべてで分析を行った。要因解析調査地点については採取地点や地質等を考慮し福島市旧小国村2地点、福島市旧福島市2地点、伊達市旧月舘町、伊達市旧小国村、伊達市旧桂沢村、伊達市旧富成村それぞれ1地点、二本松市旧渋川村1地点の分析を行った。

有機物分解、DCB脱鉄処理を行った土壌試料から沈降法により粘土画分を採取し、カリウム(K)およびマグネシウム(Mg)飽和処理を行い、X線回折用試料を作成した。粘土鉱物種は、常温のKおよびMg粘土、Mg粘土のグリセロール処理、2段階の加熱処理(約350℃、550℃)後のX線回折ピークのパターンおよび相対的強度に基づいて、-、±、+、++、+++の5段階で評価した。

4) 重回帰分析

要因解析調査地点31圃場のデータから玄米の放射性Cs濃度と関係があると考えられる項目を選択し重回帰分析を行った。重回帰分析にはMicrosoft Excelの分析ツールを用いた。

Ⅲ 結 果

(1) 二本松市旧小浜町

1) 土壌、稲の放射性Cs濃度

表1に作土および稲の部位別の放射性Cs濃度と移行係数を示した。作土の放射性Cs濃度は3,030~4,190 Bq/kg

で、いずれの圃場も「稲の作付けに関する考え方」(原子力災害対策本部 2011)で示された作付けが制限される値

(5,000 Bq/kg)未満であった。圃場別には上流の3圃場(①~③)は下流の2圃場(④、⑤)に比べやや低かった。深さ別には(表2)、最表層(0-5 cm)で濃度は最も高く、圃場②を除き5,000 Bq/kgを超えていた。濃度は

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66 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

深さとともに減少していたが、10-15 cmにおいても1,350~2,430 Bq/kgあり耕耘等により土壌が混和されていたと考えられる。

一方、稲の部位別濃度は玄米が92~453 Bq/kg、ワラが236~1,260 Bq/kg、籾殻が136~605 Bq/kgの範囲でワラ>籾殻>玄米の順であった(表1)。圃場別には土壌とは逆に、上流の3圃場で下流の2圃場より高かった。玄米とワラの濃度比(玄米/ワラ)は0.36~0.42とほぼ同じ値であった。

移行係数は0.02~0.15の範囲で、圃場②において「稲の作付けに関する考え方」で示された0.1を超えた。圃場①、③においても0.09、0.06と高い値を示した。一方、圃場④、⑤は0.02、0.03と低かった。

2) 土壌の一般理化学性

深 さ 別 CEC、 交 換 性 カ リ 含 量 は そ れ ぞ れ 9.3 ~

14.7 cmolc/kg、1.8~10.1 mgK2O/100gと低く、特に交換性カリ含量が低いことが特徴的であった(表2)。最表層(0-5 cm)の土性はSLまたはSCLであった(表3)。圃場別には①、④、⑤は粒径がやや細かく粘土含量が15%を超えていた。これらの圃場は、花崗岩質の丘陵に囲まれた狭隘な谷底平野の最上流部に位置することから、周辺の丘陵から砂質な土壌粒子の供給を受けている可能性がある。

3) 粘土鉱物組成

粘土鉱物組成はほぼ同じであった(表4)。この地区は花崗岩および花崗閃緑岩地帯に位置し、カオリナイトが優勢で雲母鉱物、バーミキュライト-クロライト中間種鉱物がこれに続く。

表2 二本松市旧小浜町における土壌の理化学性

圃場番号深さ pH CEC

交換性カリ含量

放射性Cs濃度

cm cmolc/kg mgK2O/100g Bq/kg

0-5 5.4 12.5 3.3 6,050① 5-10 5.4 11.1 2.1 3,140

10-15 5.5 11.0 2.1 1,5600-5 5.5 9.4 3.1 4,860

② 5-10 5.4 9.4 1.8 2,86010-15 5.5 9.3 2.2 1,350

0-5 5.4 12.0 3.9 5,450③ 5-10 5.4 11.6 2.6 3,100

10-15 5.3 11.3 2.6 1,8500-5 5.4 13.5 6.4 6,750

④ 5-10 5.4 13.0 4.6 3,40010-15 5.4 12.6 5.4 2,430

0-5 5.5 14.7 10.1 6,490⑤ 5-10 5.6 13.9 6.6 3,690

10-15 5.6 13.7 9.0 2,090数値は採取箇所数(5または6カ所)の平均値

表1  二本松市旧小浜町における作土(0~15cm) および作物中の放射性Cs濃度

圃場番号

放射性Cs濃度(Bq/kg)

移行係数*

土壌作物

玄米 ワラ 籾殻

① 3,580 322 889 491 0.09

② 3,030 453 1,260 605 0.15

③ 3,460 208 495 287 0.06

④ 4,190 92 236 136 0.02

⑤ 3,910 116 325 185 0.03

移行係数*=玄米の放射性Cs濃度/土壌の放射性Cs濃度

表3 二本松市旧小浜町における粒径組成(0-5 cm)

圃場番号 粗砂(%)

細砂(%)

シルト(%)

粘土(%)

シルト+粘土

(%)土性

① 43.3 26.5 15.2 15.1 30.3 SCL

② 48.5 26.4 12.3 12.7 25.0 SL

③ 44.1 27.0 14.4 14.4 28.8 SL

④ 30.5 30.9 19.3 19.3 38.6 SCL

⑤ 41.9 23.7 15.8 18.6 34.4 SCL

表4 二本松市旧小浜町における粘土鉱物組成(0-5 cm)

圃場番号 Sm Vt Ch Vt-Ch It Kt

① - + + + + + + + + + + +

② - + ± + + + + + + + + +

③ - + + + + + + + + + + +

④ - + + ± + + + + + + + + +

⑤ - + ± + + + + + + + +

Sm:スメクタイト、Vt:バーミキュライト、Ch:クロライト、Vt-Ch:バーミキュライトークロライト中間種鉱物、It:雲母鉱物、Kt:カオリナイト

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67神山和則ら:2011年高濃度放射性セシウム汚染玄米発生の土壌要因

(2) 要因解析調査地点

1)土壌の放射性Cs濃度

表5に作土の放射性Cs濃度を示した。作土の放射性Cs

濃度の平均値は6,090 Bq/kg、範囲は2,320~11,700 Bq/kg

であった。作付けが制限される値(5,000 Bq/kg)を超える地点が31地点中23地点あった。ただし、玄米の放射性Cs濃度が規制値を超えなかった調査地点(表5のNo23

~31)における作土の放射性Cs濃度の平均値は5,350

Bq/kg、範囲は3,840~7,170 Bq/kgであったので、土壌の高い放射性Cs濃度が玄米の放射性Cs濃度が規制値を超えた主要因とはいえない。

福島市旧小国村で採取した深さ別の放射性Cs濃度はいずれの地点においても最表層(0-5 cm)で濃度は最も高く、2地点(A、B)で10,000 Bq/kgを超えていた(図2)。濃度は深さとともに低下していた。A、B地点では、10-

15 cmの濃度が38 Bq/kg、32 Bq/kg(134Csは検出下限値未満)となり、耕耘などによる混和が主に0-10 cmの深さまでであったと思われる。なお、どの地点においても作土(0-15 cm)の濃度と深さ別の濃度の平均値はほぼ一致した。

比較的作物に吸収されやすい形態である交換性放射性濃度の平均値は570 Bq/kg、81~1,900 Bq/kgの範囲であった(表5)。土壌の放射性濃度に対する割合(抽出率)は1.4~19.6%の範囲であった。抽出率は福島市旧小国村で高い傾向にあること以外に、地域的な特徴は判然としない。

2) 土壌の一般理化学性

表6に土壌の一般理化学性を示した。腐植含量は伊達市旧月舘町の試料が突出して高く(7.9%)、これを除くと2.4~4.7%であった。CECおよび交換性カリ含量はそ

表5 要因解析調査地点における放射性Cs濃度

No採取地 玄米* 代表値* 土壌 土壌の交換性 交換性/土壌

移行係数市町村 旧市町村 Bq/kg Bq/kg Bq/kg Bq/kg %

1 福島市 旧小国村 970~1,060 1,020 4,100 515 12.5 0.252 福島市 旧小国村 1,030~1,270 1,120 5,820 523 9.0 0.193 福島市 旧小国村 700~710 705 8,250 1,140 13.8 0.094 福島市 旧小国村 550~750 436 5,380 973 18.1 0.085 福島市 旧小国村 550~980 765 7,830 1,420 18.1 0.106 福島市 旧小国村 710~820 755 9,670 1,900 19.6 0.087 福島市 旧小国村 460~1,110 780 6,720 1,130 16.7 0.128 福島市 旧小国村 580~1,100 840 3,680 537 14.6 0.239 福島市 旧小国村 970~1,270 1,120 5,120 548 10.7 0.2210 福島市 旧小国村 590~670 630 6,250 - - 0.1011 福島市 旧小国村 530 530 4,270 164 3.8 0.1212 福島市 旧小国村 710~1,170 940 5,090 601 11.8 0.1813 福島市 旧小国村 760 760 3,850 653 17.0 0.2014 福島市 旧福島市 590 590 6,930 412 5.9 0.0915 福島市 旧福島市 550 550 6,890 317 4.6 0.0816 福島市 旧福島市 510 510 7,130 247 3.5 0.0717 伊達市 旧月舘町 1,050 1,050 11,700 1,020 8.7 0.0918 伊達市 旧小国村 580 580 6,460 92 1.4 0.0919 伊達市 旧小国村 780 780 8,970 123 1.4 0.0920 伊達市 旧桂沢村 580 580 7,030 220 3.1 0.0821 伊達市 旧富成村 1,240 1,240 7,310 252 3.5 0.1722 二本松市 旧渋川村 750~850 800 2,320 81 3.5 0.3423 福島市 旧小国村 ND~240 130 7,170 1,060 14.8 0.0224 福島市 旧小国村 143~220 130 3,840 143 3.7 0.0325 福島市 旧小国村 143~220 130 5,890 - - 0.0226 福島市 旧小国村 35~85 62 6,320 916 14.5 0.0127 福島市 旧小国村 ND~46 33 5,240 290 5.5 0.0128 福島市 旧小国村 ND~48 34 5,100 841 16.5 0.0129 福島市 旧小国村 ND~25 23 4,170 425 10.2 0.0130 福島市 旧小国村 ND 20 4,870 455 9.3 0.0031 福島市 旧小国村 ND~36 28 5,540 347 6.3 0.01

*  玄米濃度と代表値:要因解析調査の対象圃場は収穫・袋詰めが終了していたため、放射性セシウム濃度の測定には対象圃場で収穫された可能性のある袋(場合により複数)から試料を採取した。このため、玄米の放射性セシウム濃度を範囲で示し、各種解析には代表値(一つの袋の場合は分析した値、複数の袋の場合は平均値)を用いた。

-:分析値なし

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68 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

表6 要因解析調査地点における土壌の理化学性

No採取地

pH 腐植 CEC交換性陽イオン含量

市町村 旧市町村 K2O CaO MgO% cmolc/kg mg/100g mg/100g mg/100g

1 福島市 旧小国村 6.3 4.2 43.6 14.7 697 2942 福島市 旧小国村 6.1 4.5 41.6 11.6 647 2763 福島市 旧小国村 5.8 4.3 34.7 5.1 618 1284 福島市 旧小国村 6.1 4.0 40.7 7.6 689 2165 福島市 旧小国村 5.3 3.4 31.3 5.3 489 866 福島市 旧小国村 5.0 3.4 32.3 6.1 443 897 福島市 旧小国村 5.6 3.1 37.7 5.7 629 1368 福島市 旧小国村 6.6 3.8 38.9 5.1 649 2739 福島市 旧小国村 6.5 3.3 32.1 6.8 573 19210 福島市 旧小国村 5.8 4.7 32.8 6.0 453 15711 福島市 旧小国村 6.5 2.5 38.6 8.2 456 31112 福島市 旧小国村 5.3 3.7 24.3 5.6 163 5013 福島市 旧小国村 5.1 2.7 20.3 6.4 98 4314 福島市 旧福島市 5.2 3.0 31.7 6.6 390 8615 福島市 旧福島市 5.9 2.8 30.1 7.0 422 10216 福島市 旧福島市 5.4 2.5 32.9 5.6 439 12417 伊達市 旧月舘町 5.6 7.9 15.2 2.5 122 1718 伊達市 旧小国村 5.7 4.3 34.2 8.1 546 13919 伊達市 旧小国村 5.4 2.6 9.3 3.5 101 2120 伊達市 旧桂沢村 6.2 4.1 55.5 10.1 967 32121 伊達市 旧富成村 5.4 4.6 34.8 7.6 765 10622 二本松市 旧渋川村 5.2 2.4 16.3 4.0 133 3423 福島市 旧小国村 6.4 3.1 36.9 18.5 555 23224 福島市 旧小国村 6.0 3.8 39.4 10.3 589 23625 福島市 旧小国村 6.0 4.1 43.6 13.1 676 27326 福島市 旧小国村 6.3 3.8 42.3 11.7 674 29227 福島市 旧小国村 6.8 3.5 40.5 17.2 761 24728 福島市 旧小国村 6.0 3.2 33.0 14.7 551 17429 福島市 旧小国村 6.4 3.0 37.1 23.0 659 20730 福島市 旧小国村 6.5 3.0 37.4 32.3 616 22931 福島市 旧小国村 6.6 2.4 33.0 10.6 560 200

0 4000 8000 12000 0 4000 8000 12000

0 4000 8000 12000

10-15cm

5-10cm

0-5cm

10-15cm

5-10cm

0-5cm

10-15cm

5-10cm

0-5cm

A B

C

放射性 Cs濃度(Bq/kg) 放射性 Cs濃度(Bq/kg)

放射性 Cs濃度(Bq/kg)

深さ

深さ

深さ

図2 深さ別の放射性Cs濃度(福島市旧小国村)

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69神山和則ら:2011年高濃度放射性セシウム汚染玄米発生の土壌要因

れぞれ平均値が33.8 cmolc/kgと 9.7 mgK2O/100g、9.3~55.5 cmolc/kg と2.5~32.3 mgK2O/100g の 範 囲 で あ った。玄米の放射性Cs濃度が規制値を超えた22地点においては交換性カリの平均値は6.8 mgK2O/100gと低く、10 mgK2O/100gを超えた地点は3地点にすぎない。

粒径組成(表7)をみると、粘土含量が高く土性がLiC、SiC、HCといった細粒質の土壌がほとんどであった(分析値のある29地点中26地点)。一方、伊達市旧月舘町の試料は粘土含量が9.0%と低く土性はSLであった。

3) 粘土鉱物組成

表8に粘土鉱物組成を示した。福島市旧小国村、福島市旧福島市2地点、伊達市旧桂沢村、伊達市旧富成村の試料はスメクタイトが優勢な粘土鉱物で、カオリナイトも認められた。イライト(雲母鉱物)は認められなかっ

た。一方、伊達市旧月舘町と伊達市旧小国村の試料はカオリナイトが優勢で、バーミキュライト-クロライト中間種鉱物も認められた。イライト(雲母鉱物)はピークが小さく痕跡程度と考えられた。二本松市旧渋川村の試料はカオリナイトが優勢で、バーミキュライトも認められた。

表層地質との関係を見ると、スメクタイトが優勢な地点は凝灰岩・凝灰角礫岩地域(凝灰岩、凝灰角礫岩、安山岩質岩石(集塊岩)が分布)に位置していた(福島県, 1988)。一方、カオリナイトとバーミキュライト-クロライト中間鉱物が優勢な地点は花崗岩及び花崗閃緑岩地帯に位置していた。二本松市旧渋川村は沖積地に位置し、上流地質(花崗岩及び花崗閃緑岩地帯)の影響を受けていると思われる。

表7 要因解析調査地点における土壌の粒径組成

No 採取地 粗砂 細砂 シルト 粘土 シルト+粘土土性

市町村 旧市町村 % % % % %1 福島市 旧小国村 6.1 18.0 34.4 41.6 75.9 LiC2 福島市 旧小国村 7.8 12.8 32.2 47.2 79.3 HC3 福島市 旧小国村 10.9 19.5 41.5 28.0 69.5 LiC4 福島市 旧小国村 9.4 22.3 40.4 27.9 68.2 LiC5 福島市 旧小国村 16.2 18.3 36.8 28.7 65.5 LiC6 福島市 旧小国村 13.3 11.2 45.6 29.8 75.5 SiC7 福島市 旧小国村 10.1 18.4 36.6 34.9 71.5 LiC8 福島市 旧小国村 8.7 16.7 31.9 42.7 74.6 LiC9 福島市 旧小国村 21.0 25.8 24.7 28.5 53.2 LiC10 福島市 旧小国村 -  -  -  -  - -11 福島市 旧小国村 22.1 17.4 30.4 30.0 60.5 LiC12 福島市 旧小国村 32.4 13.2 25.6 28.8 54.5 LiC13 福島市 旧小国村 34.2 12.2 26.9 26.7 53.6 LiC14 福島市 旧福島市 15.5 17.9 39.3 27.3 66.6 LiC15 福島市 旧福島市 16.1 16.5 37.9 29.5 67.4 LiC16 福島市 旧福島市 13.6 11.5 42.2 32.7 74.9 LiC17 伊達市 旧月舘町 57.6 22.4 10.9 9.0 19.9 SL18 伊達市 旧小国村 6.1 18.3 37.7 37.8 75.5 LiC19 伊達市 旧小国村 45.1 23.6 16.0 15.4 31.4 CL20 伊達市 旧桂沢村 4.7 13.7 35.6 46.1 81.7 HC21 伊達市 旧富成村 20.4 14.9 37.5 27.2 64.7 LiC22 二本松市 旧渋川村 31.0 21.6 23.0 24.4 47.4 CL23 福島市 旧小国村 6.8 15.1 33.4 44.6 78.1 LiC24 福島市 旧小国村 7.1 13.5 29.9 49.5 79.4 HC25 福島市 旧小国村 8.2 15.9 31.6 44.3 75.9 LiC26 福島市 旧小国村 8.2 14.4 41.0 36.4 77.4 LiC27 福島市 旧小国村 16.6 15.6 30.3 37.5 67.9 LiC28 福島市 旧小国村 18.2 28.9 12.8 40.1 52.9 LiC29 福島市 旧小国村 11.7 23.5 30.0 34.8 64.8 LiC30 福島市 旧小国村 20.3 20.1 30.5 29.1 59.7 LiC31 福島市 旧小国村 11.9 18.4 32.7 37.1 69.8 LiC

-:分析値なし

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70 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

表8 要因解析調査地点における土壌の粘土鉱物組成と地質区分

No採取地

Sm Vt Vt-Ch It Kt 地質区分*

市町村 旧市町村1 福島市 旧小国村 × × × × × 12 福島市 旧小国村 × × × × × 13 福島市 旧小国村 × × × × × 14 福島市 旧小国村 × × × × × 15 福島市 旧小国村 × × × × × 16 福島市 旧小国村 × × × × × 17 福島市 旧小国村 × × × × × 18 福島市 旧小国村 × × × × × 19 福島市 旧小国村 × × × × × 1

10 福島市 旧小国村 × × × × × 111 福島市 旧小国村 × × × × × 112 福島市 旧小国村 × × × × × 113 福島市 旧小国村 × × × × × 114 福島市 旧福島市 + + + - - - + + 115 福島市 旧福島市 × × × × × 116 福島市 旧福島市 + + + - - - + + 117 伊達市 旧月舘町 - - + + +- + + 218 伊達市 旧小国村 × × × × × 219 伊達市 旧小国村 - - + + +- + + + 220 伊達市 旧桂沢村 + + + - - - + 121 伊達市 旧富成村 + + + - - - + 122 二本松市 旧渋川村 - + + +- +- + + + 323 福島市 旧小国村 × × × × × 124 福島市 旧小国村 × × × × × 125 福島市 旧小国村 × × × × × 126 福島市 旧小国村 × × × × × 127 福島市 旧小国村 + + + - - - + 128 福島市 旧小国村 × × × × × 129 福島市 旧小国村 × × × × × 130 福島市 旧小国村 × × × × × 131 福島市 旧小国村 × × × × × 1

Sm:スメクタイト、Vt:バーミキュライト、Vt-Ch:バーミキュライトークロライト中間種鉱物、It:雲母鉱物、Kt:カオリナイト* 地質区分:1;凝灰岩・凝灰角礫岩地域、2;花崗岩および花崗閃緑岩地帯、3;沖積地×:未分析

Ⅳ 考察

(1)  二本松市旧小浜町において玄米の放射性Cs濃度が

高かった土壌要因

圃場①~③は圃場④、⑤に比べ土壌の放射性Cs濃度が低い一方、玄米の放射性Cs濃度は高い関係にあった(表1)。一方、シルト+粘土割合と土壌の放射性Cs濃度あるいは玄米の放射性Cs濃度の関係をみると、シルト+粘土割合が大きい圃場④、⑤で土壌の放射性Cs濃度が高く、玄米の放射性Cs濃度が低かった(表3)。また、作物へ吸収されやすい形態である交換性放射性Cs濃度は圃場①~③で高かった(表1)。以上のことから、本地区ではより砂質な圃場①~③において放射性Csの固定が少なく稲に吸収されやすい状態にあったと考えられる。

図3に交換性カリ含量と移行係数の関係を示した。交換性カリ含量が高いと移行係数が小さくなることが報告されている(Tsukada et al., 2002)が、本地域においても同様の関係がみられた。このように交換性カリ含量が低いことが玄米の放射性Cs濃度が高くなった原因の一つと考えられる。

既往の研究において交換性カリ濃度が25 mgK2O/100g

程度になると玄米中の放射性Cs濃度の低減に有効とされている(農業・食品産業技術総合研究機構 2012)が、旧小浜町では交換性カリ含量が4 mgK2O/100g未満で移行係数が急激に増加している。この違いについては、土性などの要因も考えられるが、詳細な検討が必要である。

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71神山和則ら:2011年高濃度放射性セシウム汚染玄米発生の土壌要因

(2)  要因解析調査地点において玄米の放射性Cs濃度が

高かった土壌要因

対象地域は土壌の放射性Cs濃度も高いことから、このことが玄米の放射性Cs濃度が高かった一つの要因と考えられるが、土壌と玄米の放射性Cs濃度との間に明確な関係は認められなかった(r=0.238)(図4)。同様に交換性放射性Cs濃度と玄米の放射性Cs濃度との間にも明確な関係は認められなかった(r=0.081)。

玄米の放射性Cs濃度と交換性カリ含量との間にある程度の関係が見られた(Y=14840x-1.79;R2=0.574)(図5)。交換性カリ含量10 mgK2O/100g未満の地点では玄米の放射性Cs濃度は400 Bq/kg以上であり、そのほとんどが暫定規制値を超過していた。3地点(表5のNo. 9、17、

21)では玄米の放射性Cs濃度は1,000 Bq/kgを超えており、移行係数も0.09~0.22と高い値を示した。一方、交換性カリ含量10 mg/100g以上の地点では3地点を除き玄米の放射性Cs濃度は130 Bq/kg以下であった。なお、玄米の放射性Cs濃度を測定した試料はその圃場で収穫された玄米ではない可能性がある。交換性カリ含量が高いにもかかわらず玄米の放射性Cs濃度が高い、あるいは移行係数が高い3地点(表5のNo. 1、2、20)については、要因の解析が必要である。

図6に地質区分別にみた交換性カリ含量と移行係数の関係を示した。調査地点の大部分はスメクタイトが優勢な地質区分1であった。バーミキュライト-クロライト中間種鉱物が優勢な地質区分2は3地点のみであるが、

0.00

0.05

0.10

0.15

0.20

0 2 4 6 8 10 12

移行係数

Y=0.463x-1.35

R2=0.743

交換性カリ含量(mgK2O/100g)

図3  交換性カリ含量と移行係数との関係 (二本松市旧小浜町)

0

500

1000

1500

0 10 20 30 40

玄米の放射性

Cs濃度(

Bq

/kg)

暫定規制値

交換性カリ含量10mgK2O/100g

交換性カリ含量(mgK2O/100g)

Y=14840x-1.79

R2=0.574

図5  交換性カリ含量と玄米の放射性Cs濃度との関係(要因解析調査地点) (二本松市旧小浜町のデータを△で示した。)

交換性カリ含量(mgK2O/100g)

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0 10 20 30 40

地質区分1地質区分2地質区分3

移行係数

地質区分:1;凝灰岩・凝灰角礫岩地域、     2;花崗岩および花崗閃緑岩地帯、3;沖積地

交換性カリ含量10mgK2O/100g

Y=1.787x-1.619

R2=0.489

図6  地質区分別にみた交換性カリ含量と移行係数との関係(要因解析調査地点)

(二本松市旧小浜町のデータを△で示した。旧小浜町は地質区分2に区分される。)

0

500

1000

1500

0 5000 10000 15000

玄米の放射性

Cs濃度(

Bq

/kg)

暫定規制値

土壌の放射性Cs濃度(Bq/kg)

図4  土壌と玄米の放射性Cs濃度との関係 (要因解析調査地点) (△は二本松市旧小浜町のデータ)

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72 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

移行係数はいずれも0.1程度であった。一方、二本松市旧渋川村の試料は、カオリナイト、バーミキュライトが優勢な地質区分3であるが、他の地点に比べ移行係数が著しく高い。これら地質区分2および3のグループは試料数が少ないので、試料数を増やすことで関係性がより明確になる可能性がある。

土壌の理化学性から玄米の放射性Cs濃度(RiceCs)を推定するために重回帰分析を実施した。その結果、土壌の放射性Cs濃度は有意な説明変数ではなく、交換性カリ含量(ExK2O)と交換性放射性Cs濃度(ExCs)が説明変数となった。特にこれらの変数の対数値を用いることで高い寄与率(R2=0.563)を得た(図7)。ただし、標準化偏回帰係数を見るとLog(ExK2O)の係数に比べLog(ExCs)の係数が著しく小さく(表9)、交換性放射性Cs濃度の影響は小さいと考えられた。

Ⅴ おわりに

2011年産玄米の放射性Cs濃度が暫定規制値を超えた水田における土壌の理化学性を調査した結果、土壌の交換性カリ含量が重要な要因の一つであることが明らかになった。一方で、玄米の放射性Cs濃度と土壌特性との関係性を明確に特徴づけることはできなかった。また、土壌特性以外の要因、栽培管理・用水・周辺環境などの影響もあると思われるため、要因解明には多くの課題が残されている。2012年には玄米を含む一般食品の規制値が100 Bq/kgに設定されたことから、放射性濃度のより低い玄米の生産が求められている。今後も調査を行い、より体系的に要因を検討することが必要である。

Ⅵ 引用文献

1) 土壌環境分析法編集委員会編(1997):土壌環境分析法.日本土壌肥料学会監修. 427pp 博友社, 東京

2) 福島県(1988):土地分類基本調査 保原, 47pp

3) 福島県(2011):二本松市旧小浜町の水田における調査結果(中間報告), http://www.pref.fukushima.jp/

keieishien/kenkyuukaihatu/gijyutsufukyuu/05gensi

ryoku/231017_obama.pdf(accessed 2013-10-21)4) 福島県, 農林水産省(2011):暫定規制値を超過した

放射性セシウムを含む米が生産された要因の解析(中間 報 告 ), http://www.pref.fukushima.jp/keieishien/

kenkyuukaihatu/gijyutsufukyuu/05gensir yo

ku/240112_tyukan.pdf(accessed 2013-10-21)

5) 原子力災害対策本部(2011):稲の作付に関する考え方. http://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/ine_

sakutuke.html(accessed 2013-10-21)6) 厚生労働省(2002):緊急時における食品の放射能

測定マニュアル, 1-39

7) 農業・食品産業技術総合研究機構(2012):プレスリリース 玄米の放射性セシウム低減のためのカリ施 用 , http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/

press/laboratory/narc/027913.html(accessed 2013-10-21)

8) 農林水産省 (2011) :東日本大震災について~東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う稲の作付制限地域の設定について. http://www.maff.go.jp/j/

press/seisan/sien/110422.html(accessed 2013-10-21)

9) Tsukada , H . , H . Hasegawa , S . Hisamatsu and S . Yamasaki (2002):Transfer of 137Cs and stable Cs

from paddy soil to polished rice in Aomori, Japan. J. Environ. Radioactiv., 59, 351-363

表9 重回帰分析結果

変数 偏回帰係数 標準化偏回帰係数

(定数) A1 4.125

Log(ExK2O) A2 -1.782 -0.751

Log(ExCs) A3 0.015 0.009

Log(RiceCs)=A1+A2×Log(ExK2O)+A3×Log(ExCs)RiceCs:玄米の放射性Cs濃度、ExK2O:交換性カリ含量:ExCs:交換性放射性Cs濃度

地質区分:1;凝灰岩・凝灰角礫岩地域、     2;花崗岩および花崗閃緑岩地帯、3;沖積地

地質区分1地質区分2地質区分3旧小浜町

玄米の放射性Cs濃度の推定値(Bq/kg)

玄米の放射性

Cs濃度の実測値(

Bq

/kg)

10000

1000

100

10

1 1 10 100 1000 10000

図7  重回帰モデルによる玄米の放射性Cs濃度の推定値と実測値の関係(要因解析調査地点)

(二本松市旧小浜町のデータを△で示した。旧小浜町は地質区分2に区分される。)

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73神山和則ら:2011年高濃度放射性セシウム汚染玄米発生の土壌要因

The radioactive contamination in farmland occurred by the accident of Tokyo Electric Power Company's Fukushima Dai-

ichi Nuclear Power Plant in March, 2011. Cultivation of paddy rice was restrained where radiocesium concentration

(CsConc) of soil exceeded 5,000 Bq/kg. However, brown rice whose CsConc exceeded provisional regulation value for

CsConc in brown rice (500 Bq/kg) was produced in several non-restrained paddy �elds. In this paper, we compiled soil

properties for analyzing cause of high CsConc in brown rice and deliberated on cause in terms of soil properties.The 36 topsoil samples were collected from 5 paddy fields in Obama, Nihonmatsu city where CsConc in brown rice

exceeded 500 Bq/kg were detected, and from 31 paddy �elds in Fukushima, Date and Nihonmatsu city to examine factors

for high CsConc in brown rice.The CsConc of brown rice and ExK2O in topsoil in Obama (5 sites) ranged from 92 to 453 Bq/kg and from 1.8 to

10.1 mg/100g, respectively. The CsConc of topsoil and brown rice in the other sites (31 sites) was 6,090 Bq/kg in average

and ranged from 2,320 to 11,700 Bq/kg and 570 Bq/kg in average and ranged from ND to 1,240 Bq/kg, respectively. As

the average of CsConc in topsoil ranged from 3,840 to 7,170 in the sites that CsConc in brown rice showed less than

provisional regulation value, the high CsConc in topsoil was not necessarily a cause of high CsConc in brown rice. ExK2O

in topsoil was 9.7 mg/100g in average and ranged from 2.5 to 32.2 mg/100g. The average ExK2O in the sites that CsConc

in brown rice exceeded provisional regulation value was as low as 6.8 mg/100g. In these cases, low ExK2O was one of the

main causes of high CsConc in brown rice.

Soil properties for analyzing cause of high radiocesium concentration in brown rice produced in 2011 in Fukushima prefecture

Kazunori KOHYAMA, Hiroshi OBARA, Yusuke TAKATA, Takashi SAITO, Mutsuto SATO, Kunio YOSHIOKA and Ichiro TANIYAMA

Summary

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Page 76: Changes in radionuclides concentration in leafy …...Changes in radionuclides concentration in leafy vegetables, soil and precipitation for a year after the Fukushima Daiichi Nuclear

75

農環研報 34,75-80(2015)

水を用いた土壌撹拌-吸引排水法による水田からの 放射性セシウム除去技術の開発

Development of stirring cleaning method to remediate radioactive cesium-contaminated paddy fields.

牧野知之*・赤羽幾子*・山口紀子*・荒 貴裕**・山口 弘**・木方展治*・藤原英司*・太田 健***

石川哲也***・村上敏文***・江口哲也***・神谷 隆****・青野克己****・齋藤 隆*****

(平成26年12月2日受理)

Synopsis:We have developed a stirring cleaning method to remediate radioactive cesium (Cs)-

contaminated paddy �elds. It was comprised of 1) adding water and a dispersive material to the �eld

and stirring water and soil; 2) Drinage of soil suspension in, which containing much amount of

radioactive Cs rich soil micro particles; and 3) on-site treatment of wastewater using a portable

treatment system. After the decontamination, the decrease rates of 137Cs in soil and brown rice were

62% and 58 %, respectively.

* 土壌環境研究領域** 研究技術支援室*** (独)農業・食品産業技術総合研究機構,東北農業研究センター**** 太平洋セメント株式会社***** 福島県農業総合センター

Ⅰ はじめに

東京電力福島第1原子力発電所の放射能漏れ事故に伴い、放射性セシウム(Cs)で汚染された農用地が広範囲に発生し、汚染地における除染が大きな社会的課題となっている。放射性Csは土壌コロイドのフレイドエッジサイトやケイ素六員環に強く吸着する性質を持つため

(山口ら, 2012),農耕地に降下した放射性Csは、土壌の極表層に留まり、梅雨を経てもほとんど下層に移行しない(Matsunaga et al., 2013)。このため、放射能漏れ事故以後、未耕起の圃場では、土壌の最表層(0~2 cm程度)

に放射性Csが集積しているため表土のはぎ取りが有効と考えられる。1986年に起きたチェルノブイリ原子力発電所事故後には表層はぎ取りが行われ(Vovk et al., 2004)、環境省による除染ガイドラインでも未耕起圃場における主要な除染法の一つとして記載されている(環境省, 2013)。しかし、表層はぎ取りは既耕作の圃場には適用困難であり、既耕作圃場では、反転耕や深耕による除染が環境省の除染対策事業の助成対象とされる。しかし、作土層の厚さが不十分、作土直下に礫がある場合など、反転耕や深耕の適用困難な事例もある。既耕作ほ場に適用できる新たな除染対策が求められている。

Page 77: Changes in radionuclides concentration in leafy …...Changes in radionuclides concentration in leafy vegetables, soil and precipitation for a year after the Fukushima Daiichi Nuclear

76 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

我が国では農地の多くが圃場に水を貯める事のできる水田であり、日本全体では54.3%、福島県では69.8%を占める(農林水産省, 2014)。このため、水田に水を貯めて直接圃場で土壌洗浄を行うことが可能である。土壌に水と薬剤を加えて有害化学物質を除去する土壌洗浄プロセスは、粒径別分級と汚染物質の抽出処理の2つに大きく分けられる。第一は、水を使って土壌を分散させ、沈降速度の違いや孔径の異なるフィルターなどを用いて土壌粒子をサイズ毎に分級し、浄化土壌と汚染土壌に分別して、減容する方法である (Anderson, 1999)。通常、サイズの小さな土壌粒子ほど、汚染物質の濃度が相対的に高く、微細な土壌粒子を分離することで汚染除去が可能となる。スクリュー分離機、液体サイクロンなどの機器が使われる(Anderson, 1993)。第二は、汚染土壌に洗浄薬剤と水を加え、懸濁状態となるように混合して土壌から液相に有害化学物質を浸出除去して排水し、汚染物質を含む排液を浄化システムで処理する修復技術であり、カドミウム汚染水田の浄化などに適用されている

(Makino, 2007 and 2008)。奥島ら(2012)は、放射能汚染された未耕起の水田圃

場を湛水した後に、表層土壌を撹拌して微粒子を水中に浮遊させた濁水を強制排水(浅代かき強制排水)し、放射性Cs濃度が高い微粒子を選択的に排出することにより、水田圃場における効率的な除染に寄与できる可能性があるとの仮定をたて、コンテナ試験で検証した。コンテナ内に土壌を5 cmの厚さで充填して、土壌表面から水深10 cmとして土壌を撹拌し、濁水を排水した。その結果、土壌の放射性Cs濃度(134Cs+137Cs)は処理前の25,900 Bq kg-1 から処理後には15,700 Bq kg-1 と低減率39%に達した。本法は圃場でも検証され、農林水産省

(2013)の農地除染対策の技術書概要に引用されている。技術書における現地での具体的な工程は、①表層土壌の撹拌段階(浅代かき)、②オイルフェンスを利用した速やかな濁水の排出、③濁水処理からなる。トラクター走行による放射性Csの深部への拡散を防止するために、土壌撹拌は1 回としている。オイルフェンスは、本来水面に浮いた油の拡散防止に用いるものであるが、濁水の排出に利用している。濁水処理は凝集沈殿法や沈砂池などにより行っている。

一方、溝口(2013)は、「水による土壌撹拌+強制排水」と「天地返し」を組み合わせた工法を提示している。圃場の一部に穴を掘り、代かき後に上記のオイルフェンスと似た器具を用いて泥水を穴に流し込むことで、水田土壌の浄化と排出土の処理を原位置で行うという手法で

ある。しかし、以上の方法では土壌の分散性を高めていない

ため、土壌微粒子の排出効率ならびに除染効率が低いという問題点がある。本研究では水田土壌の主要粘土鉱物が層状ケイ酸塩であることを鑑み、アルカリ資材を分散材として添加して排出効率を高めた除染技術の開発を目的とした。

Ⅱ 試料および方法

室内試験:現地試験実施予定の福島県内の細粒質普通灰色低地土(作土の土性はLiC)の農家水田から作土を採取し、風乾後、2 mmの篩を通し、供試土壌とした。現地土壌の粘土鉱物組成を明らかにするため、粘土画分をピペット法で採取し、交換性塩基をマグネシウムおよびカリウム型に置換した後、x線回折で粘土鉱物を同定した。

供試土壌を用いてpHと土壌分散率の関係を明らかにするために、以下の実験を行った。土壌5 gを50 mL遠沈管に秤取し、純水20ml添加する。1M水酸化ナトリウムを0、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45または0.5 ml加えて1時間撹拌後、pHを測定する。純水30 ml

を追加添加する。30秒間手で振とうして、静置する。30

分後、水面から深さ6 cmのところから、懸濁液を29.8 ml

採取する。計量済みの秤量ビンにいれて、105℃で乾燥前後の重量を測定する。別途、遠枕管に残った懸濁土壌を遠心分離し、上澄みをろ過する。ろ過液を10 ml秤量ビンにとり、105℃で乾燥前後の重量を測定する。懸濁液の絶乾重量 -上澄みの絶乾重量から懸濁液に含まれる懸濁物質量を算出する。分析は2連で行った。また、pH

と土壌粒子の電気的な反発力の関係を明らかにするために、pHの異なる懸濁液中に含まれる土壌粒子のゼータポテンシャルをゼータ電位測定装置(Zeta Sizer Nano ZS, Malvern)でpH6~11の範囲で測定した。

現地試験:福島県内の農家水田において以下の工程を実施した。①水田内に約100m2 の試験区を設定し、赤外線レベルセンサー付きのトラクターで土壌深さ0-7 cmを耕起した。②用水を導水、耕盤からの水深を25cmとして水酸化ナトリウム粒剤を加え、代掻き車輪(通称:籠車輪)で撹拌、pH8-9とした。③撹拌後、直ちにポンプで水田表面の土壌懸濁水の排水を開始し、凝集沈殿漕に懸濁水を貯留した。④凝集沈殿漕にポリ塩化アルミニウムおよび高分子凝集剤を添加し撹拌、土壌微粒子が主体の懸濁物質(SS)を凝集沈降させた。⑤凝集沈降したSS

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77牧野知之ら:水を用いた土壌撹拌-吸引排水法による水田からの放射性セシウム除去技術の開発

の沈殿物をタンク等に一時貯留後、フィルタープレスで固液分離して汚泥として回収した。⑥排水後、再度用水を導水し、撹拌-排水の工程を合計4回実施した。⑦撹拌-排水処理終了後の圃場に塩化第二鉄溶液を施用して撹拌し、pHを約6に復した(図4)。現地試験の試料および分析:①排水ポンプから懸濁水を採水し、SS量および 137Cs濃度測定用に供試した。②土壌カラムサンプラーを用いて、除染前後に圃場の5か所から土壌深30 cmの土壌カラムサンプルを採取した。カラムを切断(土壌表面から0-2、2-5、5-10、10-15、15 cm

以下)、深さ別の土壌試料として用いた。③除染前後の空間線量率をシンチレーションサーベイメーターで、土壌およびSSの放射性CsをそれぞれNaIシンチレーション検出器、ゲルマニウム半導体検出器を用いて測定した。水稲栽培:水による撹拌・除去による除染後、塩化第二鉄で作土のpHを6に戻した後、水稲栽培を行った。除染を行わない対照区を除染区の両脇に設定した。基肥施肥量は窒素・リン酸・カリすべて10 kg/10aとした(2反復、ただし除染区内は反復なし)。「まいひめ」を2012年7月2日に移植し、定期的に生育調査を実施した。成熟期に定法により収量調査を実施し、玄米の放射性Cs濃度

(134Cs+137Cs)を測定した。

Ⅲ 結果と考察

現地試験圃場の主要粘土鉱物は層状ケイ酸塩鉱物であるバーミキュライト、スメクタイト、カオリン鉱物であり、Csに対する吸着能が高く、アルカリで分散しやすくなると推定される(図1)。土壌懸濁液pHとゼータポテンシャルの関係では原土のpH約6からpH8~9程度まで、ゼータポテンシャル(=粒子の流動電位)がpH上昇に伴いマイナス方向に増加しており、表面負電荷の上昇が認められる(図2)。この表面電位の上昇と土壌粒子の分散性の挙動はほぼ一致した傾向を示し、pH6の土壌懸濁物質量を100としたときの相対値でpH7は172.4、pH8

は180.0、pH9は191.3、pH10は192.7となり、アルカリ処理(水酸化ナトリウム添加)に伴う土壌粒子分散性の向上が認められた(表1)。以上の結果より、pH8~9以上における分散率上昇の頭打ち、圃場における設定pH

と実pHの相違・変動および粘土への影響等を考慮して現地試験における目標pHを8~9とした。

一方、ストークス式から算出した土壌粒子の沈降時間と分級粒子径の関係は図3のようになる。約8μm以下

① レーザーレベルセンサー付き  トラクターによる土壌解砕

② 水の導入、土壌撹拌 ③ ポンプによる濁水の排水

④ 濁水の貯留、凝集剤添加に  よる粘土の沈殿

⑤ 加圧ろ過装置(写真矢印の装置)  による水と粘土の分離

⑥ 排出された粘土

図4 現地試験の工程

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78 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

(シルトの一部と粘土画分)の粒子を分別して排出するため、現地試験では土壌撹拌終了後5分を目安に懸濁液の排出を開始し、30分以内に排出完了することを目標とした。

現地試験の状況を図4に示す。現地試験の結果、試験圃 場 に お け る 地 上1 m の 空 間 線 量 率 は、 除 染 前 の1.77 μSv h-1 から除染後の1.24 μSv h-1 に減少、低減率は30.1%となった。土壌中の 137Cs放射能濃度(土壌深0

~15 cmの総計)は3.06 kBq kg-1 から1.17 kBq kg-1 に減少、低減率は61.7%に達した。放射性Cs由来の放射能が検出されなくなる深さ30 cmまでの土壌を対象に算出した 137Cs低減量は、試験区(約100 m2)全体で31.3 MBq

である。撹拌排水処理4回で試験区から3.05 tのSSが排出された。これは容積重を1とした場合、約3 cmの土厚に相当する。排出SS量とSSの 137Cs放射能濃度から算出した試験区当たりの 137Cs排出量は34.9 MBqで、上記の

深さ30 cmまでの土壌を対象に算出した 137Cs低減量31.3 MBqとほぼ一致し、圃場における 137Cs収支の整合性を確認した。粘土を凝集処理した上澄み排水および、凝集粘土をフィルタープレスで脱水した排水中の放射性セシウム濃度は、検出下限以下(1 Bq L-1 以下)となった。

一般的に農耕地は工場跡地などと比べ細粒の粘土(2 μm未満)、シルト画分(2~20 μm)を多く含むため、微粒子の分離が難しい場合が多い。黒ボク土以外の土壌では、強熱減量で推定される有機物含量と粘土分散率に相関が認められ、土壌の腐植物質による分散抑制が示唆される(赤江ら, 2002)。黒ボク土では粒子間架橋による強い凝集体の形成が示され(久保田, 1976)、強固で安定な団粒構造の階層性が明らかとなっている(Asano

and Wagai, 2014)。従って、黒ボク土などの腐植を多く含む土壌では粒子を完全分散させることが困難と推察さ

表1  土壌懸濁液pHと土壌分散率 の関係

pH 分散率 標準偏差

6 100.0 1.05

7 172.4 0.00

8 180.0 0.10

9 191.3 0.18

10 192.7 0.21pH:土壌懸濁液のpH分散率: pH6の土壌懸濁物質量を100とした

時の相対値

2 4 6 8 10 12 14 16

2θ Cu Kα

K-550

K-300

K-Air

Mg-Gly

Mg-Air

1.80nm

1.43nm

1.02nm 0.72nm

図1 X線回折による土壌中の粘土鉱物の同定

18η hg(ρs-ρ1)

d=

d :粒子径(m)

ρs:粒子の密度(kg m-3)

ρl:水の密度(kg m-3)

η :水の粘度係数(Pa s)0

20

40

60

80

100

120

140

0 5 10 15 20 25 30 35

土壌粒子径(μ

m)

沈降時間(min)

図3 土壌粒子の沈降時間と分級粒子径の関係(ストークス式から算出:理論値)

-50

-40

-30

-20

-10

0

5 6 7 8 9 10 11

Zet

a p

oten

tial(

mV)

pH

図2 土壌懸濁液pHとゼータポテンシャルの関係

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79牧野知之ら:水を用いた土壌撹拌-吸引排水法による水田からの放射性セシウム除去技術の開発

れ、水による土壌撹拌・除去を適用するには凝集体の凝集構造を壊し、分散させることが重要となる。

水稲栽培では茎数・穂数や草丈・稈長は除染区がやや劣り、穂長は除染区が有意に短くなった。玄米収量は対照区6.35 t ha-1 に対し、除染区では15%減収し5.39 t

ha-1 となった。玄米中の放射性Cs濃度は対照区40 Bq kg-1 に比べ、除染区で17 Bq kg-1 と58%低減し、土壌から水稲への放射性Csの移行低減に効果が認められた。(太田ら、 2013)。

なお、本法は、撹拌深度を調整することで耕起済みの水田に適用可能である。

Ⅳ 結論

表土の削り取りや反転耕では除染が困難な農地のうち、水田において「水による土壌撹拌・除去技術」により除染したときの放射性Cs濃度等の低減効果について、実証試験を行った。この実証試験では、①土壌中の放射性Cs濃度は除染前の38%に低減した。②生産された玄米中の放射性Cs濃度も、除染を行っていない水田で生産された玄米の42%に低減した。

水による土壌撹拌・除去は、除染関係ガイドライン(環境省, 2013)や農地除染対策の技術書概要(農林水産省, 2013)に除染法の一つとして記載されている。

謝 辞

本研究は農林水産省委託プロジェクト・農地・森林等の放射性物質の除去・低減技術の開発・高濃度汚染地域における農地土壌除染技術体系の確立(農地の物理的除染技術体系の確立)の研究助成を受けた。記して感謝する。

引用文献

文 献1) 赤江剛夫・後藤光喜・石黒宗秀(2002):農地土壌

の分散凝集特性とその影響要因について. 219, 357-364

2) Anderson, R., Rasor, E., and Ryn, F. V. (1999):Particle

size separation via soil washing to obtain volume

reduction. Journal of Hazardous Materials, 66, 89-98.

3) Anderson, W. C. (1993):Innovative site remediation

technology, Soil washing / soilflushing, American

academy of environmental engineers

4) 伊藤健一・宮原秀隆・氏家 享・武島俊達・横山信吾・中田弘太郎・永野哲志・佐藤 努・八田珠郎・山田裕久(2012):湿式分級洗浄および天然鉱物等による農地土壌等に含まれる放射性セシウム除去方法の実践的検討. 日本原子力学会和文論文誌, 11, 255-271

5) 日本原子力技術協会(2012):福島環境修復有識者検討委員会による除染技術等の調査検討, Ⅱ土壌修復技術, p. 11-14

6) 環境省 2013. 除染関係ガイドライン. http://josen.env.go.jp/material/

7)久保田徹(1976):火山灰土壌の界面化学的研究, 農技研報告 B-28, 1-74

8) 農林水産省(2014):農林水産統計平成26年耕地面積

http://www.maf f.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/

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9) 環境省(2014):除染技術探索サイト. https://www2.env.go.jp/

10) Maki, A. and Wagai R.(2014):Evidence of aggregate

hierarchy at micro- to submicron scales in an

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12)Makino, T., H. Takano, T. Kamiya, T. Ito, N. Sekiya, M. Inahara and Y. Sakurai(2008):Restoration of

cadmium-contaminated paddy soils by washing with

ferric chloride: Cd extraction mechanism and bench-scale veri�cation. Chemosphere 70, 1035-43

13) Matsunaga, T., J. Koarashi, M. Atarashi-Andoh , S. Nagao, T. Sato, and H. Nagai(2013):Comparison

of the vertical distributions of Fukushima nuclear

accident radiocesium in soil before and after the �rst

rainy season with physicochemical and mineralogical

interpretations, Science of the Total Environment, 447, 301-314

14) 溝口 勝(2013):農家自身でできる農地除染法の開発.三輪睿太郎,宮崎毅,金子真司,坪山良夫,大谷義一,佐藤睦人,根本圭介,塩沢昌,森敏,中

Page 81: Changes in radionuclides concentration in leafy …...Changes in radionuclides concentration in leafy vegetables, soil and precipitation for a year after the Fukushima Daiichi Nuclear

80 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

尾淳,宮下清貴,溝口 勝,松本 聰,大西 隆.放射能除染の土壌科学 -森・田・畑から家庭菜園まで-, (学術会議叢書(20)), p. 135-151(財)日本学術協力財団,東京

15) 農林水産省(2013):農地除染対策の技術書概要. http://www.maff.go.jp/j/nousin/seko/josen/pdf/

gaiyou.pdf

16) 奥島修二・塩野隆弘・石田 聡・吉本周平・白谷栄作・濵田康治・人見忠良・樽屋啓之・今泉眞之・中 達雄(2012):浅代かき強制排水による水田土壌中の放射性物質除染法の有効性に関する事前検討. 土壌の物理性, 121, 43-48

17) 椿淳一郎(2013):放射能汚染土壌減容化のキーテクノロジーは固液分離技術. 粉体技術, 5, 789-793

18) Vovk, I. F., Blagoyev, V. V., Lyashenko, A. N., and Kovalev, I. S(1993): Technical Approaches to Decontamination of

Terrestrial Environments in the CIS (former USSR). Science of the Total Environment, 137, 49-63

19) 山口紀子・高田裕介・林健太郎・石川 覚・江口定夫・吉川省子・坂口 敦・朝田 景・牧野知之・赤羽幾子・平舘俊太郎(2012):土壌-植物系における放射性セシウムの挙動とその変動要因. 農環研報, 31, 75-129

摘  要

土壌撹拌法による放射性セシウム汚染水田の浄化方法を開発した。本法は、1)水田に水と分散剤を加えて撹拌、2)土壌懸濁液中に分散した放射性セシウムを多く含む細かい土壌粒子を排水、3)可搬型の処理装置による排水処理で構成される。除染により、土壌と玄米中の放射性セシウム低減率はそれぞれ62%と58%となった.

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81

農環研報 34,81-100(2015)

衛星データを使用した2011年の福島県における 農地の土地被覆状況把握

The understanding of land cover situation on the farmland in 2011 using satellite data at Fukushima

石塚直樹*

(平成26年12月2日受理)

Synopsis:In this study, I tried the understanding of the environment state of the farmland in Fukushima and

neighbor prefectures in 2011 to contribute to an evaluation of the radioactive substance pollution of

the farmland by the accident of Fukushima daiichi nuclear power plant which occurred with East

Japan great earthquake disaster of March 11, 2011 with a satellite remote sensing technology. At

�rst I was done interpretation of the paddy �elds approximately one month after the accident by

using an optical high resolution satellite image. I could interpret the state of rice straw, tilling and

difference of water condition, Using large scale satellite image of 50cm high spatial resolution used. In addition, I estimated timings of the tilling and rice strawusing ALOS images just after the

accident and SPOT-5 image in the summer. Next, I carried out GIS analysis using DEM data. Paddy

�elds where �t condition, for example distance from forest and the slope, were distinguished. On the

other hand, I detected the water logging paddy �elds from satellite images in 2011 to use the �elds

for a soil pollution evaluation with the radioactive substances in NIAES. Water logging paddy �elds

distinguished and mapped approximately 3,200,000 over agricultural parcels at Fukushima, Ibaraki, Tochigi and Gunma prefecture. Overall accuracy of detection is 77.0% (n=2,597), Producer's

accuracy is 89.6%. It is consider that the accuracy reduced by in�uence of East Japan earthquake

disaster, the accident at Fukushima daiichi nuclear power plant. Result and accuracy is good and

enough for purpose. This result was used as one of the input data for the making of the radioactive

substance pollution density distribution map in the farmland soil.

* 生態系計測研究領域

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82 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

Ⅰ まえがき

2011年3月11日の東日本大震災にともない発生した福島第一原発の事故により、放射性物質による汚染が福島県を中心に広範囲に発生した。国は2011年産の水稲の作付けについて、収穫される玄米が当時の食品の暫定規制値500 Bq/kgを超えないよう、土壌の放射性セシウム濃度5,000 Bq/kgを基準とした作付制限を実施した。さらに福島県は、収穫後のコメのサンプル調査結果にもとづき、2011年10月12日に安全宣言を行った。しかし、2011年11月16日、福島市の大波地区で収穫されたコメから、国の暫定規制値を上回る濃度の放射性セシウムが検出されたとの発表が行われ、その後、暫定規制値超の玄米が次々と発見された。そこで、本研究では暫定規制値超のコメが生産された圃場を中心に、2011年の福島県における農地の土地被覆状況の把握を、衛星リモートセンシングを使用して試みた。

放射性物質による土壌汚染を広域で評価する作業が(独)農業環境技術研究所で行われ、航空機観測による空間線量マップをもとに土壌汚染を推定する方法がとられた。その際、田と畑では土地被覆状態・農地環境が大きく異なるため、区分分けを行う必要がある。しかし、現在、日本の田の約1/3は転作・耕作放棄などにより水稲が作付けされていない。さらに、個々の農家が自分の圃場内でコムギ・ダイズ等の転作作物を作付けしている場合や、集落単位でブロックローテーションが行われる地域もあるため、水稲作付地の分布は毎年変化している。そこで、広域の農地土壌の放射性物質汚染評価(高田, 2011)に利用するため、福島県および隣接県における2011年度産の水稲作付が行われたと考えられる湛水圃場を衛星画像から検出し、分布状態の把握を行った。

Ⅱ 調査・研究方法

1 対象地域

対象地域は、圃場の土地被覆状態の把握については、暫定規制値を超えた放射性セシウム濃度の玄米が発見された福島市を中心とした地域である。放射性セシウム濃度が暫定規制値を超えた対象圃場は、農林水産省生産局より情報提供されたものである。ただし、収穫されたコメは農家によっては混合された状態であるため、生産圃場1筆と玄米中の放射性セシウム濃度との対応はついていない。

一方、広域の放射性物質による土壌汚染把握の資料と

するための湛水圃場把握は、福島県および隣接する宮城、栃木、茨城、群馬県のほぼ全域を対象とした。今回マップ化したのは湛水圃場であるため、厳密には2011

年産の水稲作付圃場とは同じではない。しかし、田と畑における地表面状態の最大の違いは湛水であり、空間線量計測値に最も影響を与えると考えられる。さらに、田における水稲以外の湛水作物(ハス、マコモなど)や調整水田の面積は全体からすればわずかなものであるため、無視できるものと考えた。

2 使用したデータ

暫定規制値超えの圃場の環境把握に関しては、圃場1

筆単位での評価が必要なこと、さらに中山間地域の狭小な水田が多いことから、空間分解能に優れた光学高分解能衛星画像を利用することとした。しかし、東日本大震災の発生以来、津波による沿岸被害および福島第一原発に注目が集まり、多くの衛星が太平洋沿岸域の観測を行ったため、今回対象とする内陸域の観測が非常に少なくなっていた。そのような状況の中、米国GeoEye社のGeoEye-1衛星が2011年4月10日に対象地域の観測を行っており、データを購入し利用した。(図1)。

また、空間分解能は不十分であるが、地震発生直後の状況を知るために、2011年3月12日に観測した日本のALOS衛星(Advanced Land Observing Satellite(陸域観測技術衛星「だいち」))のAVNIR-2(the Advanced Visible

and Near Infrared Radiometer type 2(高性能可視近赤外放射計2型))およびPRISM(the Panchromatic Remote-

sensing Instrument for Stereo Mapping(パンクロマチック立体視センサ))データを利用した(図2)。その後、ALOSが運用停止したため、夏季の状況を把握するための画像としてALOS同様の空間分解能を持つフランスの衛星SPOT-5の画像を利用した(図3)。利用した光学衛星の諸元を表1に示す。

一方、広域の湛水圃場の把握には、農林水産省の事業において水稲作付地判別で実績のある(農林水産省2010)、 全 天 候 型 の 合 成 開 口 レ ー ダ ー(Synthetic

Aperture Radar:SAR)を利用した。利用したSAR衛星の諸元を表2に示す。

衛星データの前処理および地形解析において、国土地理院の提供している数値標高モデル(Digital Elevation

Model:DEM)である「10 mメッシュ(標高)」を利用した。また、衛星データと組み合わせて解析を行うため、DEM以外にも様々な地理情報システム(GIS)データを利用した。一覧を表3に示す。圃場耕区ポリゴンは、一

Page 84: Changes in radionuclides concentration in leafy …...Changes in radionuclides concentration in leafy vegetables, soil and precipitation for a year after the Fukushima Daiichi Nuclear

83石塚直樹:衛星データを使用した2011年の福島県における農地の土地被覆状況把握

表1 使用した光学衛星データの諸元

衛星/センサ バンド 空間分解能 撮影日

GeoEye-1モノクロ

カラー(近赤外、赤、緑、青)0.5 m2 m

2011/4/10

ALOS/PRISMALOS/AVNIR-2

モノクロカラー(近赤外、赤、緑、青)

2.5 m10 m

2011/3/12

SPOT-5モノクロ

カラー(中間赤外、近赤外、緑、青)2.5 m10 m

2011/7/16

表2 使用したSAR衛星データの諸元

衛星 バンド 空間分解能 観測日 対象地

RADARSAT-2 Cバンド 15.2~8.2 m×7.7 m(Wide Fine Mode)

2011年6月7日2011年6月9日2011年6月19日2011年6月26日

宮城茨城・栃木

福島群馬・栃木

©GeoEye distribution JSI

図1  GeoEye-1画像(パンシャープン済み) 2011年4月10日観測 (R:G:B=赤:緑:青) 対象地の一部(福島市東部)。

includes material ©CNES (2011),Distribution Spot Image S.A., France, all rights reserved

図3  SPOT-5画像(パンシャープン済み) 2011年7月16日観測

(R:G:B=近赤外:赤:緑) 福島県中通り地域北部。中央の白っぽい所が福島市の市街地。

©JAXA distribution RESTEC

図2  ALOS/AVNIR-2+PRISMパンシャープン画像 2011年3月12日観測 (R:G:B=赤:緑:青) 福島県中通り地域。画像中程にある暗い丸は猪苗代湖。

Page 85: Changes in radionuclides concentration in leafy …...Changes in radionuclides concentration in leafy vegetables, soil and precipitation for a year after the Fukushima Daiichi Nuclear

84 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

筆ごとのすべての農地圃場を地理座標付きのポリゴン(多角形)としてGISデータ化しているものであり、各県土地改良事業団体連合会(県土連)から貸与を受けた。また、SAR画像を用いた湛水圃場抽出には、農林水産省大臣官房統計部が2009年度~2010年度に行った「水稲作付面積調査における衛星画像活用事業」において開発した「水稲作付地判別・面積求積システム」の貸与を受け、利用した。

3 方法

(1) 全体の流れ

放射性物質による農地土壌汚染の評価に資する情報を広域にわたって把握することを目的として本研究を実施したが、コメの放射性物質汚染対策に対応した研究のため、一貫した研究方針で実施したのではなく、放射性物質汚染の実態把握の進展と共に研究内容が変化した。

暫定規制値超えの圃場の環境要因として、暫定規制値超の玄米が発見された当初には、この事象は谷津田のような水の集まるところで、かつ林地に接しているような圃場で発生すると想定した。そこで、谷津にある圃場(以下、谷津圃場と称する)および山からの水が流入する可能性のある圃場をDEMから抽出した後、土地利用データを重ねることでその中から水田を抽出した。さらに、衛星データから森林域を抽出し、森林域から一定の距離にある圃場を抽出することで、全ての条件の当てはまる圃場を抽出した。

その後、暫定規制値超えの玄米が次々と発見され、様々な調査が進行するにつれ、前述の条件のみで説明できないことが明らかとなった。またこの時点で提示された暫定規制値超え玄米が収穫された圃場情報と衛星画像を比較した際、一定数の圃場で収穫後に耕起されず稲藁がそのまま残されている圃場と高い関係性が確認されたことから、衛星データを用いて事故発生時の圃場の地表

面状態について画像判読を行った。この判読作業を実施した後、暫定規制値超え玄米の発

生についてさらに多くの要因からなることが判明し、稲藁と玄米濃度との関係のみから読み解くことは困難となった。そこで、衛星画像から判読可能なその他の要素について検討を行った。

一方、広域の湛水圃場の把握は、農林水産省大臣官房統計部によって開発された「水稲作付地判別・面積求積システム」を用いて湛水圃場を抽出した。

なお、一連の処理に以下のソフトウェアを使用した。汎用リモートセンシング画像処理として、TNTmips

(Microimages社)とERDAS IMAGINE(ERDAS社)を、SAR画像データ処理として、The Next Generation SAR

Toolbox(NEST(ヨーロッパ宇宙機関(ESA))を使用し、またGIS関連についてはArcGIS(ESRI社)を使用した。

(2) 谷津圃場の抽出

国土地理院の1ピクセルサイズが10 mのDEMを用いて、簡易的な谷津圃場の抽出を試みた。具体的には、DEMデータの各ピクセルに対して8近傍ピクセルを参照することにより、傾斜度、傾斜方向などを求め、傾斜10度以下の地域を抽出した。続いて抽出した地域に3×3のウィンドウサイズでクランプと呼ばれるモロホロジカル処理を行い、DEMの3×3ピクセルの塊以下、つまり約45 m幅以下の谷地形を抽出した。また、傾斜度が10度以上から10度以下に変化する地形屈曲地点(点が列状に集合しているため、その多くは線状となっている)の抽出を行った。続いて圃場耕区ポリゴンデータを用い、前述の地形データより抽出された谷地形領域および地形屈曲地点を含む圃場を谷津圃場として抽出を行った。

表3 利用したGISデータの諸元

データ データ提供元 備考10mメッシュ(標高)

道路縁市町村境界

農業的土地利用土壌Cs濃度マップ圃場耕区ポリゴン圃場耕区ポリゴン圃場耕区ポリゴン圃場耕区ポリゴン圃場耕区ポリゴン

国土地理院国土地理院国土地理院

農業環境技術研究所農業環境技術研究所

福島県土連茨城県土連栃木県土連群馬県土連千葉県土連

縮尺レベル25000縮尺レベル25000

デジタル土壌図で公開のもの

整備済み市町村のみ(1,753,658ポリゴン)整備済み市町村のみ(1,210,460ポリゴン)

田のみ(478,380ポリゴン)整備済み市町村のみ(741,655ポリゴン)整備済み市町村のみ(749,999ポリゴン)

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85石塚直樹:衛星データを使用した2011年の福島県における農地の土地被覆状況把握

(3) 森林域の抽出と隣接水田の抽出

森林域の抽出には表1で示した衛星画像を用いた。まず前処理として、GeoEye-1画像はDEMデータとRPC

(Rational Polynomial Coef�cients)モデルデータを用いて幾何補正を行った。それ以外のALOSおよびSPOT-5データは圃場耕区ポリゴンに合わせ込む精密幾何補正を行った。続いてそれぞれの衛星データの4バンドづつをK-means法(Hartigan, 1979)で20項目に教師無し分類を行い、画像判読をもとに森林域を抽出した。先に抽出した谷津圃場および地形屈曲地点の圃場に対して土地利用データを重ねて水田のみを対象とし、抽出した森林域より10 mのバッファーを発生させ、谷津および地形屈曲点の水田が森林域から10 m以内か以上かを判定した。

(4) 稲藁などの地表面状態の判読

GeoEye-1衛星画像は50 cmという高い空間分解能を有し、航空写真に近いレベルで画像判読が可能である。そこで撮影時における稲藁などの農地地表面の状態の判読を行った。判読に用いるため、それぞれの衛星データにおいて解像度の高いモノクロ画像と解像度の低いカラー画像を組み合わせ、モノクロ画像の高い解像度に合わせ込むパンシャープン画像を作成した。パンシャープン処理の手法としてParisを用いた。その後、農林水産省生産局より提供された放射性セシウム調査圃場の周辺画像を作成し、情報提供した。

(5) 玄米中の放射性セシウム濃度と衛星画像との関係

解析

放射性セシウム濃度が暫定規制値を越えた玄米が収穫された圃場における衛星画像のピクセル値と、玄米中の放射性セシウム濃度との間に何らかの関係があるか、解析を行った。

(6) 広域の湛水圃場の抽出

前 処 理 と し てRADARSAT-2デ ー タ をNEST に よ りDEMを用いて地図座標と合わせるオルソ補正を行った後、ピクセル値を後方散乱係数(γ0)に変換した。そのデータと圃場耕区ポリゴンデータを組み合わせ、「水稲作付地判別・面積求積システム」を用いて湛水か否かを判定した後、当時の避難区域(避難指示区域、計画的避難区域等)にマスク処理を行うことで2011年度の湛水圃場分布図を作成した。対象領域における宮城県を除く4

県の合計で320万筆以上の農地を対象に湛水判別を行った。なお、湛水圃場の抽出方法は、SARのマイクロ波が

水面で鏡面散乱することを利用しており、基礎的な部分は、石塚(2006)で報告されている。また、貸与を受けたシステム開発には筆者も携わった。2011年度の湛水圃場分布図は、広域の放射性セシウムによる農地土壌汚染マップ作成に利用され、このマップは農林水産省より公表されている(農林水産省,2012)。

Ⅳ 結果および考察

1 谷津圃場の抽出

福島市付近の結果を例として示す。国土地理院の10 mDEMから傾斜度を計算し(図4)、傾斜10度未満の地域を抽出した(図5)。続いて約45 m幅以下の谷、および傾斜度が10度以上から10度未満に変化する地形屈曲地点の抽出結果を図6に示した。続いてこの結果に圃場耕区ポリゴンデータを重ね合わせ、前述の地形データより抽出された領域を含む圃場の抽出を行った(図7)。結果としては、平地部の圃場が抽出されることはなく、概ね良好な結果といえる。大局的には、ここで抽出された谷津圃場や地形屈曲地点の圃場は周辺の水が流入しやすい圃場といえる。ただし、DEMのピクセルサイズが10 mであるため、圃場レベルでの評価が十分にできているとまでは言えない。また、今回抽出した地形屈曲地点

(線状)は隣接する傾斜度の差までは考慮していないため、例えば傾斜10度付近の長い斜面なども抽出される可能性があり、急激な変化のある地点でない場合もあることにも注意が必要である。また、抽出した圃場と後背地との間に道路や河川がある場合、それらが分水界となって水が流入する可能性は低くなるが、今回は道路や河川データを組み込んでいないため、評価されていない。

前述のように、今回解析に利用したDEMのピクセルサイズは10 mであり、発生している事象に対して十分な解像度を有しているとは言えない。対象地域の一部において、2012年3月28日に5 mのDEMが国土地理院より公開されたため、今後、このDEMを利用することにより精度向上が図れると考えられる。今回の条件で抽出された圃場数は、福島県全体で全圃場数の約1/3となる約55万筆となった。数値のみを見ると過大抽出かと思われるが、この結果には中山間地域の圃場は一筆が小さいため数が多くなることが影響している。

2 森林域と隣接水田の抽出

ここでは森林域の抽出が目的であるため、それ以外のカテゴリー分けを考慮せずに処理を行った。GeoEye-1画

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86 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

傾斜度(度)

0

50

図4 DEMデータより計算された傾斜度 (福島市東部)

図5  傾斜度10度未満の地域 (10度未満:白、10度以上:黒)

森林タイプ A

森林タイプ B

森林タイプ C

森林タイプ Dor水稲

圃場タイプ A

裸地 or雲

圃場タイプ B

図9  SPOT-5画像による森林域抽出のための分類結果 (2011年7月16日観測)

圃 場

谷津圃場 および

地形屈曲地点 周辺の圃場

非圃場

図7  抽出された谷津圃場および傾斜の地形屈曲地点周辺の圃場(オレンジ色)

図6  抽出された幅約45 m以下の谷および 傾斜10度の屈曲地点(白)

森林タイプ 1

森林タイプ 2

森林タイプ 3

森林タイプ 4

圃場タイプ 1

圃場 タイプ 2

圃場タイプ 3

図8  GeoEye-1画像による森林域抽出のための分類結果(2011年4月10日観測)

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87石塚直樹:衛星データを使用した2011年の福島県における農地の土地被覆状況把握

像の土地被覆分類結果を図8に示した。GeoEye-1画像はパンシャープン画像で50 cmと解像度が高いため、森林域のテクスチャを判読することが可能であり、専門家であれば森林の樹種判定がある程度可能である。今回、初期の計算結果において森林域を針葉樹、広葉樹などいくつかのカテゴリーに分類することが可能であったため、森林を一つのカテゴリーとはせず、分けたままにした。ただし、現地調査を行っていないため、カテゴリーが違うことは衛星から判読できるが、個々のカテゴリーが何であるかは同定できなかった。図8において、緑系統の色となっている所は森林である。森林以外も3つのカテゴリーに区分して茶系統で示した。

一方、ALOSとSPOTの画像の場合、解像度がパンシャープン処理後で2.5 mのため、個々の樹木まで判読することは不可能である。しかし、SPOT-5画像の分類結果(図9)においても森林域が3~4カテゴリーに分類可能であると判断したため、統合せずにそのままとした。

ALOS画像の分類結果を図10に示す。ALOS画像の空間分解能はSPOT-5画像と同等であるため、SPOT-5画像の結果のように分類が可能と思われるが、森林域のカテゴリーを分けることができなかった。これは、①ALOS

画像の撮影が3月とまだ植生が活性化する前であること、②ALOS特有のバンド間のズレ(JAXA, 2009)の影響、③画像の半分以上を雪が覆っている(図2)などが理由と考えらえる。ただし、今回の森林域抽出という意味では十分な結果であり、さらに撮影時期から考えると、広葉樹は落葉しており針葉樹林を中心に抽出してい

ると推定される。今後、広葉樹の落葉期と緑葉期の衛星の結果を組み合

わせ、現地調査を行うことによって、森林域を針葉樹と広葉樹に分類することは可能である。福島第一原発事故により放射性セシウムが沈着した際、針葉樹は葉があったのに対し、冬期落葉広葉樹はまだ葉が無かったと考えられる。また、両者は秋のリター量も違うため、放射性セシウムの動態が異なっていると考えられる。このことから、今後、森林域の分類についても進める必要がある。

先に抽出した谷津圃場および地形屈曲地点の圃場に「農業的土地利用データ」を重ねて、水田のみを対象とし、今回求められた森林域より10 mのバッファーを発生させ、対象水田が森林域から10 m以上離れているかどうかを判定した結果を図11に示した。図中の灰色部分は、非圃場であり、森林域などが含まれる。その結果を図4の傾斜角と合わせてみると、傾斜の大きい地域の谷津圃場のほとんどは森林域から10 m以内に存在している(図11では赤い圃場)ことがわかった。谷津田は、両側を森林域に挟まれた狭幅な谷間の水田であることから、ほとんどは森林域から10 m以内に存在していると判定されたが、解析により地域による差が現れている場所も抽出された。例えば、図11中の破線部分は、森林から10 m以内でない青色の圃場が多く分布しているのに対し、実線部分は森林から10 m以内赤色の圃場が占めており、地域性があるといえる。

今回、森林域から10 mという距離は衛星のマルチバンドの分解能などから決めた数値である。今後、リターによる影響が及ぶ距離や流入水の影響など放射性セシウ

圃場

谷津圃場および

地形屈曲地点周辺の圃場

森林から 10m以内にある谷津田および

地形屈曲地点周辺の水田

森林から 10m以上離れた谷津田および

地形屈曲地点周辺の水田

非圃場

図11  谷津田および傾斜の地形屈曲地点周辺の水田の森林隣接判定結果

森林

非森林

図10  ALOS画像による森林域抽出結果 (2011年3月12日観測)

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88 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

ムの動態について研究が進めば、それらの成果を基にした数値で評価を行うことが可能である。

3 稲藁などの地表面の状況把握

今回、農林水産省生産局より提供された放射性セシウム調査圃場について、対象圃場の地表面状況を知るため、周辺を含めて衛星画像を切り出し、資料として提供した。各衛星データを用いて、稲藁などの状態がどのようになっていたか等の地表面の状況について推察したので、いくつか代表的な例を説明する。

なお、全ての衛星画像でパンシャープン処理を行っている。GeoEye-1とALOSの画像については、R:G:Bにそれぞれ赤:緑:青のバンドを割り当て、人間が目で見る場合と同じ色合いになるカラー合成を行っている。一方、SPOT-5の画像については、衛星に青のバンドがないため、R:G:Bに近赤外:赤:緑のバンドをそれぞれ割り当てている。この組み合わせはフォールスカラーと呼ばれ、近赤外の反射が高い植生は赤く表示される特徴がある。なお、いずれのカラー合成においても水域は光を吸収するため黒く見える。

図12に示した圃場Aは、GeoEye-1画像において稲藁で明るいコンバインの刈り跡が筋上に確認できることと、稲藁残渣で圃場が乳白色に見えることから、4月10

日時点で昨年の水稲収穫後何もしていない状態と判断できる。3月12日のALOS画像より、テクスチャは不明だが、圃場内が乳白色に明るく表示され、稲藁が地表面に残っていると判読できることから、3月12日も4月10日と同じ状況であり、この1ケ月の間に目立った作業は行われていないと考えられる。7月16日のSPOT-5の画像を見ると、圃場内が暗くなっており湛水していることが確認できることから、2011年度産の水稲作付圃場と判読できる。

図13に示した圃場Bは、GeoEye-1の画像から、圃場Aとは異なり、全体的に暗く表示され、収穫後に耕起が行われていることがわかる。また、筋状のテクスチャも見られることから、プラウで粗く起こされていると考えられる。ALOS画像では空間分解能の限界から3月12日時点で耕起されていたかどうか判断が難しいが、暗い色になっていることから、圃場Aほど稲藁が残っていないと考えられる。SPOT-5画像において湛水していることから、2011年度産の水稲作付けは行われたと判読できる。

圃場C(図14)は、GeoEye-1画像から収穫後に耕起されている状態であることがわかる。また、筋状のテクス

チャが圃場Bより薄いことからディスク等で圃場Bよりは細かく耕起されていることがわかる。ALOS画像より、稲藁が地表面にある色に見えないことから、3月12日時点で耕起されていることがわかる。また、SPOT-5画像より2011年度産水稲作付けが行われたと判読できる。

圃場D(図15)は、GeoEye-1画像より、収穫後に耕起されていることがわかる一方、ロータリー式砕土機跡またはコンバイン跡と思われる幅広い帯状の筋が認められ、稲藁残渣が圃場内にかなりムラのある状態で確認できる。このことから、軽い耕起作業が行われたと考えられる。ALOS画像からはテクスチャも稲藁も明確に確認できないことから、細かい状況は不明であるが、周辺圃場との比較から類推すると、3月12日から4月10日までの間に何らかの農作業はなかったと思われる。SPOT-5

の画像において、圃場が乳白色となっており地表面が湛水していないことから、2011年度は水稲の作付けが行われなかったと判読できる。

図16の圃場Eは、GeoEye-1画像が撮影された時に、北東部分に明るい部分があるが、その内側に暗い帯がみられ、さらに南西側は少し明るくなっている。人為的な作用でこのような模様が作られるとは考えにくく、おそらく圃場内にある傾斜によって、このような模様となっているものと考えられる。単に乾燥具合の差とも考えられるが、たとえば、雨などにより、稲藁が北東に吹き寄せられているなどという状況も考えられ、この画像のみから判断するのは困難である。ALOS画像では、解像度の関係もあるが、同様の模様は確認できないためこの1ヶ月に何らかの農作業が行われたかを判読することは困難である。SPOT-5の画像からは、2011年度産の水稲作付けが行われたと思われるものの、圃場の北と南で色が違うため、一部分のみ作付けされた(部分的に作付けがされなかった)可能性もある。

図17に示した圃場Fは、GeoEye-1画像から圃場中央付近になんらかのものが集められていることがわかる。色情報的には稲藁と思われるが、このように見えるにはどのような状態で地表面に存在したかまでの判読は難しい。一方、それ以外の部分は暗くなっていることから、収穫後に一度耕起されたことがわかる。中央部を避けて耕起作業としたとは考えにくいことから、収穫後、一度耕起作業を行った後に圃場中央部に稲藁らしきものが置かれたと考えられる。また、ALOS画像においても、同様に中央付近に明るい部分がみられることから3月12

日時点において4月10日撮影のGeoEye-1で確認された状況と同様の状態になっていたと考えられる。SPOT-5

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89石塚直樹:衛星データを使用した2011年の福島県における農地の土地被覆状況把握

©GeoEye distribution JSI ©JAXA distribution RESTEC includes material ©CNES (2011), Distribution Spot Image S.A.,

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50m

GeoEye-12011年 4月 10日

(R:G:B=赤:緑:青)

ALOS/AVNIR-2+PRISM 2011年 3月 12日

(R:G:B=赤:緑:青)

SPOT-52011年 7月 16日

(R:G:B=近赤外:赤:緑)

図12  圃場Aの衛星画像(パンシャープン済み)

©Geo Eyedistribution JSI

GeoEye-12011年 4月 10日

(R:G:B=赤 :緑 :青)

ALOS/AVNIR-2+PRISM2011年 3月 12日

(R:G:B=赤:緑:青)

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SPOT-52011年 7月 16日

(R:G:B=近赤外:赤:緑)

50m

図13  圃場Bの衛星画像(パンシャープン済み)

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90 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

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GeoEye-12011年 4月 10日

(R:G:B=赤:緑:青)

50m

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ALOS/AVNIR-2+PRISM2011年 3月 12日

(R:G:B=赤:緑:青)

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SPOT-52011年 7月 16日

(R:G:B=近赤外:赤:緑)

図14  圃場Cの衛星画像(パンシャープン済み)

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GeoEye-12011年 4月 10日(R:G:B=赤 :緑 :青)

ALOS/AVNIR-2+PRISM2011年 3月 12日

(R:G:B=赤 :緑 :青)

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SPOT-52011年 7月 16日

(R:G:B=近赤外 :赤 :緑)

50m

図15  圃場Dの衛星画像(パンシャープン済み)

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91石塚直樹:衛星データを使用した2011年の福島県における農地の土地被覆状況把握

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GeoEye-12011年 4月 10日

(R:G:B=赤:緑:青)

ALOS/AVNIR-2+PRISM2011年 3月 12日

(R:G:B=赤:緑:青)

SPOT-52011年 7月 16日

(R:G:B=近赤外:赤:緑)

50m

図16 圃場Eの衛星画像(パンシャープン済み)

ALOS/AVNIR-2+PRISM2011年 3月 12日

(R:G:B=赤:緑:青)

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GeoEye-12011年 4月 10日

(R:G:B=赤:緑:青)

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SPOT-52011年 7月 16日

(R:G:B=近赤外:赤:緑)

50m

図17 圃場Fの衛星画像(パンシャープン済み)

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92 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

の画像からは、2011年度産の水稲作付けが行われたと考えられる。

図18に示した圃場Gは、GeoEye-1画像の取得時には耕起されていることがわかる。圃場北西部分が暗めに見えるのは、その部分の稲藁残渣が少ないか、水分が多いと考えられる。また、集めた稲藁を燃やして黒くなっていること等も否定できない。3月12日のALOS画像では圃場全体に稲藁が残されているように見える。ALOSの分解能では刈跡などを確認できないため、収穫後そのままの状態であるのか、耕起しているが稲藁が全面に多く残されている状態であるのが、判読不能である。SPOT-5

の画像において湛水状態の特徴を示していないことから、この圃場では2011年産の水稲は生産されていないことがわかる。

圃場H(図19)は、GeoEye-1画像より耕起作業が行われていることがわかる。筋状のテクスチャが確認できることからプラウ等で粗めに耕起されていると思われる。また、圃場左端部分に稲藁と思われるものが確認できる。ALOS画像においても圃場Hは周囲の圃場より暗く見え、且つ、圃場左端部分の稲藁も確認できることから、3月12日時点で耕起作業は完了しており、4月10日までの間に何の作業も行われなかったと思われる。SPOT-5画像より、2011年度産の水稲作付けが行われたと考えられる。

圃場 I(図19)は、GeoEye-1画像より耕起作業が行われたと判読できる。圃場の長手方向北側に沿って筋状に稲藁の集合が認められる。これは、稲藁の畜産利用のために人為的に集められていると考えられる。圃場G同様に、3月12日のALOS画像では圃場全体に稲藁が残されているように見える。ALOSの分解能では刈跡などを確認できないため、収穫後そのままの状態であるのか、耕起した後に、全面に稲藁残渣が多く残されている状態なのかは不明である。しかしながら耕起後全面に稲藁が残っている可能性は低く、3月12日の時点では収穫後そのままであった可能性が高い。

圃場G,H,Iを比較すると、圃場HではGeoEye-1の画像とALOS画像で色の変化があまりないのに対し、圃場G

および圃場 IではGeoEye-1の画像とALOSの画像で大きく変化していることから、3月12日から4月10日の間に何らかの作業が行われたと考えられる。さらに、圃場Iについては、その作業後に畜産利用のため稲藁が並べられた可能性が高い。SPOT-5画像より、2011年度産の水稲作付けが行われたと考えられる。

図20に示した圃場 J、Kは、GeoEye-1画像において火

入れが行われた跡と判読できる。これは、圃場が暗く見えることと、それぞれの圃場の南西部分に、乳白色の稲藁が残っていることから、湛水によるものでなく、刈り株を焼いたものおよび焼け残りと判断できるためである。3月12日のALOS画像では火が入れられた様子がないことから、3月12日から4月10日の間に行われたと考えられる。またこのことは、収穫後から3月12日までに耕起が行われていないということも示唆している。圃場J、Kともに、SPOT-5画像から2011年度産の水稲作付けが行われたと考えられる。

続いて、図11において赤で示された、地形屈曲点周辺や森林から10 m以内にある狭い谷の谷津圃場がほとんどとなるような中山間地域の例として、図21を示した。中山間地域になると、ALOS画像やSPOT-5画像の解像度では判読が困難となる。圃場群Aは、GeoEye-1の画像より、4月10日時点で、南端の一部の圃場を除き、耕起されていることがわかる。ALOS画像においても暗く見えることから稲藁はほとんどなく、SPOT-5画像より、2011年度産の作付けも行われたと考えられる。圃場群Bもほぼ圃場群Aと同じ状態であると思われる。

圃場群Cは、GeoEye-1画像のテクスチャや、ALOS、SPOT-5画像での変化を加味すると、耕作放棄地と考えられる。耕作圃場に隣接する不攪乱の耕作放棄地も、森林域同様に放射性セシウムの負荷源となる可能性があることから、福島第一原発事故の時点で耕作放棄されていたか否かといった情報について、今後マッピングやモニタリングが必要になる可能性がある。

圃場群Dは畑地であると思われるが、3月12日、4月10日に確認できなかった施設が、7月16日のSPOT-5画像では確認できる。農業施設と考えられるが、原発事故当時、地表面は曝露されていたと言える。

さらにここでは、圃場以外の部分、森林にも注目してみ る。 森 林 域 の 抽 出 の 項 で も 触 れ た が、 図 21 のGeoEye-1画像では林相を判読することが可能である。ABC圃場群の西側は樹冠が確認できることから針葉樹であることがわかる。一方、東側は樹冠がそれほど多く確認できず、4月10日では緑葉の展開前のように見えることから広葉樹が主体であることがわかる。また、北東部には針葉樹があり、東南部には四角に伐採された跡が認められる。ALOS画像では、林班は確認できるものの、ABC圃場群の東西での違いはほとんど確認できない。SPOT-5画像は季節が夏であり、針葉樹も広葉樹も葉があるため、いずれも近赤外が強く(赤く)なっている。しかし、GeoEye-1画像と見比べてみると、針葉樹と広葉

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93石塚直樹:衛星データを使用した2011年の福島県における農地の土地被覆状況把握

樹の違いがあると思われる部分で色が若干違っている。ただし、森林の場合、樹種の違いのみでなく、斜面方位の違いなども色調の違いに影響するため1対1で対応するわけではない。また、草が繁茂するため、作業跡の林班との差が小さくなっていることも判読できる。今後、水やリターを介した森林から農地への放射性セシウムの移入について明らかになった場合、谷の東側の圃場と西側の圃場では影響の受け方が変わる可能性があることから、このようなデータを取得・整備しておくことも重要である。

4 玄米中の放射性セシウム濃度と衛星画像との関係解

玄米への放射性セシウムの移行メカニズムは当初考えられていたものよりかなり複雑であり、現時点ではまだ明らかになっていない。当初想定されていた隣接する森林からの移入なども、玄米への移行が高まる要因の一つとして考えられるが、これだけで今回の事象を説明できないことも明らかになってきている。現在検討が進められている要因としては、土壌中のカリウム含量、根張りおよび作土深など衛星データから直接読み取れない要因へ移ってきている。玄米中の放射性セシウム濃度の最高値と、圃場のGeoEye-1衛星データ観測値について近赤外波長や植生指数などとの比較を行ったが、明確な関係

ALOS/AVNIR-2+PRISM2011年 3月 12日

(R:G:B=赤:緑:青)

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©GeoEye distribution JSI

GeoEye-12011年 4月 10日

(R:G:B=赤:緑:青)

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SPOT-52011年 7月 16日

(R:G:B=近赤外:赤:緑)

50m

図18  圃場Gの衛星画像(パンシャープン済み)

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94 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

H

I

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©JAXA distribution RESTEC

50m

ALOS/AVNIR-2+PRISM2011年 3月 12日

(R:G:B=赤:緑:青)

SPOT-52011年 7月 16日

(R:G:B=近赤外:赤:緑)

GeoEye-12011年 4月 10日

(R:G:B=赤:緑:青)

図19 圃場H、圃場 Iの衛星画像(パンシャープン済み)

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95石塚直樹:衛星データを使用した2011年の福島県における農地の土地被覆状況把握

J

K

ALOS/AVNIR-2+PRISM2011年 3月 12日

(R:G:B=赤:緑:青)

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©GeoEye distribution JSI

GeoEye-12011年 4月 10日

(R:G:B=赤:緑:青)

©JAXA distribution RESTEC

SPOT-52011年 7月 16日

(R:G:B=近赤外:赤:緑)

50m

図20 圃場 J、圃場Kの衛星画像(パンシャープン済み)

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96 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

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SPOT-52011 年 7 月 16 日

(R:G:B=近赤外:赤:緑)

図21 地域(3)の衛星画像(パンシャープン済み)

A

B

C

D

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GeoEye-12011年 4月 10日

(R:G:B=赤:緑:青)

©JAXA distribution RESTEC

ALOS/AVNIR-2+PRISM2011年 3月 12日

(R:G:B=赤:緑:青)

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97石塚直樹:衛星データを使用した2011年の福島県における農地の土地被覆状況把握

が見られたものはほとんど無かった。例として、近赤外波長のDN(Digital Number)と玄米中の放射性セシウム濃度の最高値との散布図を図22に示す。

様々な波長について関係性を検討した結果、統計的に有意な数値は得られなかったものの、現在考えられている要因を説明する結果が一つだけ見られた。図23は、土地被覆分類の結果、稲藁が集められたりした形跡が見られなかった裸地および収穫後不耕起のままの水田とされた圃場について、赤の波長のDNと玄米中の放射性セシウム濃度の最高値をプロットした図である。この図において、暫定規制値を超える玄米が収穫されたような圃場は、2011年4月10日に撮影されたGeoEye-1画像において赤の波長の反射が低くなっていた。圃場の土壌自体の反射に差がないとした場合、反射が小さいほど水分が多いことになるため、暫定規制値超えの玄米が収穫されたような圃場は水分が多かったことになる。アメダスデータによると、前日の2011年4月9日に福島市で5.5 mm、飯舘で7.5 mmの降水を観測している。この降水によって圃場がどの程度水分を含んだかが、赤の波長の反射の差となって見えていると考えられる。これは圃場内のムラとして見られる場合もあり、その一例は図16の圃場Eにおいて見られる。ただし、実際には降雨は均一でなく、土壌の違いも存在しているはずであり、この現象は水分の違いのみではなく、土壌の違いも加味されていると考えられる。土壌の有機物が多い場合、黒ボク土にみられるように暗い色になり、酸化鉄が多ければ赤が強くなる。したがって、水分条件が一定と仮定するならば、暫定基制値を超えたような水田の土壌は、衛星から見て赤の波長の反射の小さい土壌ということになる。このことは、先に示した図22において近赤外波長との間に明らかな関係が見られなかったことも、水分のみの影響でないことを裏付けている。したがって、実際にはこれらの

要因が複合的に作用していると考えられ、水分条件または土壌のいずれかの条件を整えなければ統計的に有意な相関までは見られないと思われる。要因を分離するだけのデータがないためこれ以上の解析はできないが、圃場における観測時の水分状態や土壌特性の違い、耕起具合など様々な要因によって圃場間の差が発生し、赤の波長において最も差が現れたのではないかと考えられる。

5 広域の湛水圃場把握

図24Bに示したのは、福島県の須賀川市、天栄村付近の分類結果の拡大図である。赤色が主に水稲の作付けによって湛水した圃場、黄色が畑地・樹園地・草地そして生産調整によって湛水されなかった圃場を示す。AのSAR画像と比較すると、SAR画像の暗い部分が赤い部分にほぼ対応しており、精度良く湛水地と非湛水地を判別できている。また、中央部には黄色い非湛水地の塊(破線部分)が確認できるが、圃場耕区ポリゴンが存在していることから何らかの農地である一方、湛水はしていない農地と判別できている。広域で把握した湛水圃場全体を図25に示した。ここでは見やすさを考慮し湛水圃場のみを赤で示した。

茨城、栃木や群馬で行った現地調査のデータおよび土壌サンプリング時に記録された福島県の作付情報を用いて精度検証を行ったところ、サンプル数2,597圃場でSARデータにより正しく湛水および非湛水と分類された割合のOverall accuracy(総合分類精度)は77.0%、SARにより正しく湛水地と分類されたサンプルと実際の湛水地サンプルの割合であるProducer's accuracy(作成者精度)のみを見ると89.6%という数字が得られた。県別にみると、福島県の精度が最も低く、Overall accuracyは68.1%となった。福島県の精度が最も低くなったのは、福島第一原発事故の影響により、各農家が当該年度に作付けを

y=-0.091 x+639.547R²=0.014

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

0

近赤外波長の

DN

玄米中の放射性セシウム濃度(Bq/kg)200 400 600 800 1000 1200 1400

図22  GeoEye-1画像の近赤外波長のDNと玄米中の放射性セシウム濃度の最高値

玄米中の放射性セシウム濃度(Bq/kg)

y=-0.242 x+972.333 R2=0.267

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

0 200 400 600 800 1000 1200 1400

赤波長の

DN

図23  GeoEye-1画像の赤波長のDNと玄米中の放射性セシウム濃度の最高値

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98 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

A) RADARSAT-2画像(2011年 6月 19日観測)

RADARSAT-2 Data and Products (c)MacDONALD, DETTWILER AND ASSOCIATES LTD. 2011- All Rights Reserved

B)湛水地・非湛水地の分類結果

湛水地

非湛水地

図24 福島県須賀川市、天栄村付近における湛水地・非湛水地の分類結果例

湛水地

RADARSAT-2 Data and Products (c) MacDONALD, DETTWILER AND ASSOCIATES LTD. 2011- All Rights Reserved

図25 広域の湛水地検出結果

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99石塚直樹:衛星データを使用した2011年の福島県における農地の土地被覆状況把握

してよいかどうかの判断に迷い、例年どおりに作業を行う農家と、育苗~移植までの作業が遅くなる農家があり、作付時期が大きく分散したためと考えられる。全体的には、2011年度は東日本震災・福島第一原発事故の影響などがあったことも加味して判断すると、満足できる高い制度であると言える。

Ⅳ むすび

本研究では、衛星リモートセンシング技術を用い、2011年3月11日の東日本大震災にともない発生した福島第一原発の事故による農地の放射性物質汚染の評価に資するため、2011年の福島県および隣接県における農地の環境状態の把握を試みた。

まず、光学高分解能衛星画像を用いることで、事故後約1ヶ月を経た農地の地表面状態を判読した。解像度が50cmと高い衛星画像を用いたため、耕起の状態や稲藁の存在、水分ムラなどを判読できた。また、事故直後に撮影されたALOS画像や夏季に取得されたSPOT-5衛星画像を組み合わせて判読を行うことで、耕起や稲藁の処理のタイミングなどを推定した。合わせてDEMを用いたGIS解析を組み合わせ、圃場の周囲の森林域からの距離や、傾斜度などの条件が重なる圃場の抽出などを行った。

さらに、(独)農業環境技術研究所で取り組まれた、広域の放射性物質による土壌汚染評価に用いるため、2011年度の湛水圃場を衛星画像から検出し、分布状態を把握した。ここでは、天候に左右されずに確実に観測可能なSARを用いて湛水期に観測を行うことで、福島、茨城、栃木、群馬、宮城という広域の約320万筆以上の農地に対し湛水判別を行い、湛水地分布図を作成した。茨城、栃木、群馬で行った現地調査のデータおよび土壌サンプリング時に記録された福島県の作付情報を用いて精度検証を行ったところ、サンプル数2,597圃場で総合分類精度は77.0%、湛水地のProducer' s accuracyのみを見ると89.6%という数字が得られた。全体的には、2011

年度は東日本震災・福島第一原発事故の影響などがあったことも加味して判断すると十分に良い制度であると考えられる。この結果は、農地土壌における放射性物質濃度分布図の作成にインプットデータの1つとして利用された。

謝 辞

農林水産省大臣官房統計部が「水稲作付面積調査における衛星画像活用事業」で開発した「水稲作付地判別・面積求積システム」によって、膨大な量の作業を効率良く処理することができた。また、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県の各土地改良事業団体連合会には、水土里情報の提供を受けた。ここに謝意を表す。

引用・参考文献

1) 石塚直樹(2006):水稲作付面積計測への合成開口レーダ(SAR)の利用. 農業環境技術研究所報告, 24, 95-151

2) Hartigan, J. A. and Wong, M. A. (1979). “Algorithm AS

136:A K-Means Clustering Algorithm". Journal of the

Royal Statistical Society, Series C 28 (1). pp.100-108

3) JAXA(2009):リサンプリング法に依存するバンド間の位置ずれについて.センサの特性等に起因する事象について, http://www.eorc.jaxa.jp/hatoyama/

satellite/data_tekyo_setsumei/alos_tyui/gazourenraku

_13_j.html(accessed 2013-10-10)4) 農林水産省(2012):「農地土壌の放射性物質濃度分

布図」の作成について,平成24年3月23日報道発表,http://www.s.affrc.go.jp/docs/press/120323.htm

(accessed 2013-10-10)5) 農林水産省(2010):「水稲作付面積調査における衛

星活用事業務実績業報告書」6) 高田裕介(2011):農地土壌の放射性物質濃度分布の

把握.農業環境技術研究所 平成23年度 研究成果情 報,http://www.niaes.affrc.go.jp/sinfo/result/

result28/result28_02.html (accessed 2013-10-10)

摘 要

本研究では、衛星リモートセンシング技術を用い、2011年3月11日の東日本大震災にともない発生した福島第一原発の事故による農地の放射性物質汚染の評価に資するため、2011年の福島県および隣接県における農地の環境状態の把握を試みた。光学高分解能衛星画像を用いることで、事故後約1ヶ月を経た農地の地表面状態を判読した。

また、2011年度産の湛水圃場を衛星画像から検出し、分布状態を把握した。ここでは、天候に左右されずに確

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100 農業環境技術研究所報告 第34号(2015)

実に観測可能なSARを用いて湛水期に観測を行うことで、福島、茨城、栃木、群馬、宮城という広域の約320

万筆以上の農地に対し湛水判別を行い、湛水分布図を作成した。この結果は、農地土壌における放射性物質濃度分布図を作成する上で利用された。