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Bringing Life to an X5 Hybrid 10 HYBRID DRIVE Prof. Dr. Dieter Nazareth ランドシュット応用科学大学 ETASツールチェーン、新しいハイブリッド機能の開発をサポート 近年、自動車産業が低迷状態に陥る以前から、ハイブリッド車は大きな話題となっていました。自動車メーカーはもとより、サプライヤの 間でも、ハイブリッド関連のコンセプトやコンポーネントの開発にしのぎを削る状況となっています。機械工学部の教授を務めるDr. Prexler は、学生達がこの分野で実際的な経験を積めるように、一般での使用が可能なハイブリッドのプロトタイプ車を開発するプログラムを3期分の授業に展開する考えを思いつきました。 ランドシュット応用科学大学の機械工学、 電気工学、コンピュータサイエンス各学科 が連携し、18ヶ月という短期間で、実使用 可能なシリアルプラグインハイブリッド車 MBL ex-drive”の開発プロジェクトに成 功しました。 車両のプラットフォーム 基盤となる車両は、BMW AG社から BMW X5 SUVが無償提供され、パワート レイン部分が取り外されました。駆動力は 2つの電気モータによって供給され、うち1 つがアクスル2本にそれぞれ統合される構 造です。その結果、このハイブリッド車は 4輪駆動になります(従来車も同様)。X5 3列目の座席に、100V出力併用のリチ ウムイオン電池を積む必要がありました。 電池は一般的な家庭用230V電源で充電さ れます(プラグイン・ハイブリッド)。X5 ハイブリッドでは、従来の推進システムで は一般に失われる制動エネルギーを、回生 プロセスにより再生させて電池を充電しま す。このような電池併用の駆動により、航 続距離62マイル(100km)のレンジが実 現されます。 ただし、レンジ・エクステンダの装備によ り、レンジの増大を図ることが可能です。 すなわち発電用のディーゼルエンジンを積 み、走行中に蓄電池を補充電して一充電あ たりの走行距離を伸ばす手法です。ディー ゼルエンジンは非常用発電機から取られ、 燃料消費の最適な動作ポイントで定常モー ドで動作します。この手法は、シリアル・ ハイブリッド方式として知られています。 シリアル方式は、エンジンとモーターの両 方の出力を駆動源とするパラレル・ハイブ リッド方式に比べて、構造が格段にシンプ ルになります。 車両のシステムアーキテクチャ X5はパワートレインの改造にとどまらず、 電装システムにも手を加える必要がありま した。現状の装備を極力活かすように、ハ イブリッド新機能の送信用にハイブリッド CANという新しいハイブリッドバスが導入 されました。この新しいバスは、電気駆動 モータにAC電源を供給する2つのインバー タに接続されています。 元のエンジンマネジメントECUは車内に残 されていますが、今ではアクセル位置の読 取りのみに使われています。新しいハイブ リッド機能に対処するために、ETAS製の プロトタイピング/インターフェース・モ ジュールES910が制御ユニットとして搭載 されました。このモジュールは同時に、元 のパワートレインCANと新しいハイブリッ CANの間のゲートウェイの機能を担って います。さらに、取り外されたトランス ミッションECUのバス通信も処理していま す。このコンパクトなモジュールは車内の 足元スペースに設置され、関連するすべて の機能のリアルタイムな実行を円滑にして います。 制御機能開発にASCETを活用 新しいハイブリッド制御機能の開発には ETASの開発支援ツールを使用しました。目 的は、最短期間で具体的な経験値を収集す るためのプロトタイプを開発することです。 制御機能開発は、ASCETツールを活用し て行いました。ドライバーの動きを2つの インバータの制御信号に変換する実際の駆 動制御に加え、温度や電圧、短絡モニタリ ングに関する多数の機能が実装されました。 また、2つのCANバス間のゲートウェイ機 能とともに、不足しているトランスミッ ションECUの通信をシミュレーションする 必要があります。 ASCETが提供する多様なモデリング手法 は、駆動制御といった連続的プロセスの記 BMW X5ハイブリッド車の開発を支援

Bringing Life to an X5 Hybrid - etas.com · Life to an X5 Hybrid 10 HYBRID DRIVE Prof. Dr. Dieter Nazareth ... 12 HYBRID DRIVE 課題 BMW X5

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Bringing Life to an X5 Hybrid

10 H Y B R I D D R I V E

Prof. Dr. Dieter Nazareth

ランドシュット応用科学大学

ETASツールチェーン、新しいハイブリッド機能の開発をサポート近年、自動車産業が低迷状態に陥る以前から、ハイブリッド車は大きな話題となっていました。自動車メーカーはもとより、サプライヤの

間でも、ハイブリッド関連のコンセプトやコンポーネントの開発にしのぎを削る状況となっています。機械工学部の教授を務めるDr. Prexler

は、学生達がこの分野で実際的な経験を積めるように、一般での使用が可能なハイブリッドのプロトタイプ車を開発するプログラムを3学

期分の授業に展開する考えを思いつきました。

ランドシュット応用科学大学の機械工学、

電気工学、コンピュータサイエンス各学科

が連携し、18ヶ月という短期間で、実使用

可能なシリアルプラグインハイブリッド車

“MBL ex-drive”の開発プロジェクトに成

功しました。

車両のプラットフォーム

基盤となる車両は、BMW AG社から

BMW X5 SUVが無償提供され、パワート

レイン部分が取り外されました。駆動力は

2つの電気モータによって供給され、うち1つがアクスル2本にそれぞれ統合される構

造です。その結果、このハイブリッド車は

4輪駆動になります(従来車も同様)。X5の3列目の座席に、100V出力併用のリチ

ウムイオン電池を積む必要がありました。

電池は一般的な家庭用230V電源で充電さ

れます(プラグイン・ハイブリッド)。X5ハイブリッドでは、従来の推進システムで

は一般に失われる制動エネルギーを、回生

プロセスにより再生させて電池を充電しま

す。このような電池併用の駆動により、航

続距離62マイル(100km)のレンジが実

現されます。

ただし、レンジ・エクステンダの装備によ

り、レンジの増大を図ることが可能です。

すなわち発電用のディーゼルエンジンを積

み、走行中に蓄電池を補充電して一充電あ

たりの走行距離を伸ばす手法です。ディー

ゼルエンジンは非常用発電機から取られ、

燃料消費の最適な動作ポイントで定常モー

ドで動作します。この手法は、シリアル・

ハイブリッド方式として知られています。

シリアル方式は、エンジンとモーターの両

方の出力を駆動源とするパラレル・ハイブ

リッド方式に比べて、構造が格段にシンプ

ルになります。

車両のシステムアーキテクチャ

X5はパワートレインの改造にとどまらず、

電装システムにも手を加える必要がありま

した。現状の装備を極力活かすように、ハ

イブリッド新機能の送信用にハイブリッド

CANという新しいハイブリッドバスが導入

されました。この新しいバスは、電気駆動

モータにAC電源を供給する2つのインバー

タに接続されています。

元のエンジンマネジメントECUは車内に残

されていますが、今ではアクセル位置の読

取りのみに使われています。新しいハイブ

リッド機能に対処するために、ETAS製の

プロトタイピング/インターフェース・モ

ジュールES910が制御ユニットとして搭載

されました。このモジュールは同時に、元

のパワートレインCANと新しいハイブリッ

ドCANの間のゲートウェイの機能を担って

います。さらに、取り外されたトランス

ミッションECUのバス通信も処理していま

す。このコンパクトなモジュールは車内の

足元スペースに設置され、関連するすべて

の機能のリアルタイムな実行を円滑にして

います。

制御機能開発にASCETを活用

新しいハイブリッド制御機能の開発には

ETASの開発支援ツールを使用しました。目

的は、最短期間で具体的な経験値を収集す

るためのプロトタイプを開発することです。

制御機能開発は、ASCETツールを活用し

て行いました。ドライバーの動きを2つの

インバータの制御信号に変換する実際の駆

動制御に加え、温度や電圧、短絡モニタリ

ングに関する多数の機能が実装されました。

また、2つのCANバス間のゲートウェイ機

能とともに、不足しているトランスミッ

ションECUの通信をシミュレーションする

必要があります。

ASCETが提供する多様なモデリング手法

は、駆動制御といった連続的プロセスの記

BMW X5ハイブリッド車の開発を支援

11R E A LT I M E S J 1/2 0 1 0

述だけでなく、適度のレベルで電圧モニタ

リング時に生じる、ステートベースのプロ

セスの記述も可能にするため、コンピュー

タサイエンス専攻の学生には大きなメリッ

トとなります。環境モデルを使ったオフラ

インシミュレーションにより、モデルの品

質が保証されます。次のステップは、IN-

TECRIOを使用して、制御モデルをプロト

タイピング/インターフェース・モジュー

ルES910へ転送する作業です。未接続のバ

スシミュレーションと比べてさらなる品質

保証のステップを経て、物理値でモデルを

テストします。

テスティング

新しい駆動システムは現在、ローラーダイ

ナモメータと実車の両方でテストされてい

ます。テストの目的は、多数のパラメータ

セットを変更して車両の応答性を最適化す

ることです。ここでの主要な課題は、エネ

ルギーや全コンポーネントの温度、車速に

配慮しながら、車の両方のアクスルにトル

クを分散することです。さらに、さまざま

なアクセル特性の実験が行われます。安全

性への配慮から、従来のブレーキの改造は

避け、アクセルペダルを使って電気回生ブ

レーキを開始します。これは、ペダルの運

動を個々の機能レンジに分割することで実

現します。初回テストを通じて、ドライ

バーはこのアクセル/ブレーキ併用ペダル

の操作に難なく慣れました。

この記事を書いている時点でも、INTE-

CRIOツールを使用して、コンピュータサ

イエンスと機械工学の学生達の密接な連携

の下にテストが行われています。次のス

テップでは、機械工学の学生が自分達で駆

動制御の適合作業を行えるように、INCAユーザーインターフェースを開発します。

高度な駆動制御

現在5名の学生が、従来の基本的な機能に

基づいた高度な駆動制御の開発に携わって

います。その内容は、クルーズコントロー

ルや坂道停止といった快適性の機能にとど

まらず、電気駆動システムのトラクション

制御といったセーフティ機能の開発にも取

り組んでいます。これらの制御機能も、

ASCETを使用して仕様作成されます。そ

の目標は、カプセル化された個々のAU-

TOSARソフトウェアコンポーネントを開発

することです。X5ハイブリッドプロジェク

ト全体の主要な目標は、現代的なトレーニ

ング手法を用いて最新の開発手法を学生達

に体験させることです。この車両は開発・

トレーニング用のプラットフォームとして

来学期も使用する計画です。その他、ク

ワッドルプル・モーター駆動、高電圧

ヒューズ、バッテリマネジメント、ディス

プレイ、操作のコンセプトに至るまで局所

内部運転状態のモニタリング:

INTECRIOを使用

4輪駆動車向けハイブリッドシステム構成

的な範囲で扱う予定です。

まとめ

ランドシュット応用科学大学では、X5ハイ

ブリッドプロジェクトを通じて、従来車の

快適性を放棄することなく、量産後のハイ

ブリッド車を組み立てることが可能である

ことを実証しました。新しいハイブリッド

制御機能の開発は、V字の開発プロセスに

沿って導入したETAS製のツールおよびハー

ドウェア(ASCET、INTECRIO、ES910、

INCA)に依存する部分が大きかったと言

えます。これらの製品が相互に作用し、制

御機能の仕様策定および品質保証、さらに

ラピッドプロトタイピングによる実車テス

ト等が円滑に行われました。これらの支援

を得て、コンピュータサイエンスの学生は、

短期間のうちに機械工学の学生が準備した

車両の開発に成功しました。

当プロジェクトの詳細については、

www.ex-drive.deをご覧ください。

12 H Y B R I D D R I V E

課題

BMW X5プラットフォームで実使用可能なシリアル方式のプラグイン・ハイブリッド車を開発する。

ソリューション

新しいハイブリッド制御用ECUとして、プロトタイピング/インターフェース・モジュールES910を使用。

これにより、関連する機能すべてをリアルタイムに実行可能。制御機能開発にはASCETツールを使用。

制御モデルは、プロトタイピング環境構築ツールINTECRIOにより、プロトタイピング/インターフェース・

モジュールES910上で実行。計測・適合ツールINCAのユーザーインターフェースを介して、駆動制御の

適合を円滑に実行。

メリット

新しいハイブリッド制御機能の開発には、ETASツールASCET、INTECRIO、ES910、INCAを使用。これ

らの製品が相互に作用し、制御機能の仕様策定および品質保証、さらにラピッドプロトタイピングによる

実車テスト等が推進されました。当プロジェクトは、今日的な開発手法の実践を通じて、実際的な教育プ

ログラムの提供に成功しました。

18ヶ月という短期間で、実使用可能なシリアル式・プラグイン・ハイブリッド車MBL ex-driveの開発に成功