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第8章 障害者の地域移行・地域定着支援 体制の5つの要素

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第8章 障害者の地域移行・地域定着支援

体制の5つの要素

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|第8章 障害者の地域移行・地域定着支援体制の5つの要素 67

第 8章では、第 3章から第 7章までの調査結果を基に、①5都市おける地域移行・地域定着支援

の流れ(具体的な支援の実際)、②事例でみる具体的な地域移行・地域定着支援の流れ(利用者

の視点からの個別支援の展開)、③地域移行・地域定着支援における 5 つの要素(事業展開にお

けるポイント)という形で整理を行っている。

また、この整理は、今後の地域移行・地域定着支援を実際に運用していくための手引きとして

活用していただけるよう、できる限り具体的な内容をわかりやすく紹介することに務め、解説を

行っている。

1 5都市における地域移行・地域定着支援の流れ

第 1節では、5都市における地域移行・地域定着支援の流れを図としてまとめて以下に提示する。

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68 第8章 障害者の地域移行・地域定着支援体制の5つの要素|

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|第8章 障害者の地域移行・地域定着支援体制の5つの要素 69

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70 第8章 障害者の地域移行・地域定着支援体制の5つの要素|

私も退院できるでしょうか?

私は、あみ一郎といいます。57 歳です。もう18 年入院しています。入院前はA市に住んでいましたが、今はZ市にあるN病院にいます。

最初はすぐに退院するつもりでしたが、入院中に両親が亡くなり、家も取り壊されてしまったので、帰るところがなくなってしまいました。

退院することは、もう随分前に諦めていました。今さらA市に戻っても、誰も身寄りはいませんし、N病院の人たちは親切なので、このまま

一生ここにいればいいかなと考えていました。

2 事例でみる具体的な地域移行支援・地域定着支援の流れ

本節では、地域移行・地域定着支援において具体的に個別支援がどのように展開していくかを

架空のモデル事例の紹介を通して確認していく。モデル事例の設定にあたっては、第 3章から第 7

章で分析したヒアリング調査対象の 5 都市における特徴的な活動内容を反映させることを心がけ

た。また、本ガイドラインの性質上、モデル事例の支援の流れは、平成 24年度より始まる地域相

談支援における地域移行支援・地域定着支援の個別給付化を踏まえたものとした。事例は個別支

援の要点となる 12の場面から構成されており、各場面に対応する説明文を補足した。

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|第8章 障害者の地域移行・地域定着支援体制の5つの要素 71

市役所の方が会いに来ましたが・・・

ある日、A市役所の職員の北上さんという方が

私に会いにN病院までやってきました。障害福祉課のケースワーカーだと名乗りました。

北上さんは、病院での生活の様子や、最近の体

調などを聞きました。最後に、退院したいかどうか聞かれたので、私は「昔は退院したかったけれど、今はもう諦めました」と答えました。

後でN病院の精神保健福祉士の方から、北上さんはA市の長期入院患者調査で来たのだと教えられました。私は、退院したいといわなかった

ので、自分には関係のない話だと思っていました。

【 長期入院者・入所施設利用者実態調査 】

各市区町村が障害福祉計画の地域移行目標数値を立てるにあたって、長期入院・

入所施設利用をされている市民の方たちに面接等による調査を実施し、行政職員が

目にみえる形で対象者の把握を行うことは、地域移行支援施策の方針を決める上で

重要な根拠となります。A市の北上ケースワーカーは、あみさんと直接面会するこ

とで、顔のみえる相手として地域移行の対象者を把握することを試みています。

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72 第8章 障害者の地域移行・地域定着支援体制の5つの要素|

【 病院・施設内での交流機会の活用 】

地域移行支援を行うにあたって、地域の相談支援事業所等が病院や入所施設と

日常的な接点を持ち、さまざまな機会を活用して入院・入所している方たちと直

接交流できるような活動をすることが重要です。A市の相談支援事業所のよう

に、病院内の行事に参加することで接点をつくることも可能ですが、より意図的

な活動として、事業所側から病院に交流を目的とした院内茶話会・学習会等の開

催をはたらきかけることができるかもしれません。こうした取り組みは、個別の

地域移行支援を申請する前の段階で、将来支援の対象者となる方と会う機会にも

なります。また、ピアサポーターを活用することで、地域生活への意欲を新たに

喚起することにもつながります。こうした取り組みは、これまで都道府県が実施

する精神保健費等国庫補助金事業「精神障害者地域移行・地域定着支援事業」に

基づいて地域体制整備コーディネーターを配置するなどして行われています。今

後も同様に継続的な活動としていくことが大切です。

地域の人たちと交流しました

しばらくして、N病院の行事で盆踊りが行われました。そこに、A市にある相談支援事業所か

ら鳥取さんと堺さんの二人が来ていました。私は、堺さんと話す機会がありました。堺さんは3 年前までN病院に入院していて、今はA市で

アパートを借りて単身生活をしているといっていました。私よりも年上で、25 年も入院していたそうです。

私は、自分も堺さんと同じように退院できるものだろうかと、こっそり考えてみました。

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|第8章 障害者の地域移行・地域定着支援体制の5つの要素 73

【 関係機関などによるスタッフのはたらきかけ 】

地域の支援者・当事者と接する機会は、今まで積極的に退院や退所の希望を表

明しなかった方の本当の気持ちを改めて確認するチャンスでもあります。あみさ

んのような方の本当の気持ちを最初にキャッチするのは、入院中一番身近にいる

病院スタッフであることが多いといえます。その時、地域の事業所が病院と頻繁

に連絡を取り合っていれば、あみさんが退院の希望を少しでも話した時に、すぐ

に会いに行くことができるでしょう。きっかけを逃さず、タイミングよくはたら

きかけることが、具体的な個別支援へとつながるポイントです。

地域移行支援のことを聞きました

翌週精神保健福祉士から堺さんと話した感想を

聞かれました。私が「堺さんは、どうやって退院したんですか?」とたずねると、地域移行支援のことを教えてくれました。A市役所に退院

したい希望を申請すると、相談支援専門員の人が来てくれて相談に乗ってくれるそうです。

「あみさんも相談支援専門員の方に会ってみま

せんか?」と勧められて、不安はありましたが思い切って「はい」と答えました。

本当は私も、できれば退院して住みなれたA市

に帰りたいと思っていたのです。

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74 第8章 障害者の地域移行・地域定着支援体制の5つの要素|

【 相談支援専門員の役割 】

この段階で、あみさんはまだ地域移行支援の申請を行っていません。申請につ

ながるようなご本人へのはたらきかけや、申請に関わる手続きの支援は、支給決

定以前のものであるため個別給付の対象とはなりませんが、地域移行のニーズを

持った方を適切にサービスへとつなげるために必要な活動となります。地域移行

支援を行う相談支援事業所において、相談支援専門員がこうした活動を担うこと

ができます。また、前述の地域体制整備コーディネーターが病院との連携体制を

築きながら、地域移行支援の対象者掘り起こしの一環として、申請前の個別支援

に関わることも可能です。

相談支援専門員の方と会いました

A市の相談支援事業所の方が会いに来ました。それ

は、盆踊りで会った鳥取さんでした。

鳥取さんは、「あみさん、また会えて光栄です。これ

から退院のお手伝いをさせてもらいたいと思います

が、それにはまずA市役所へ行って地域移行支援の申

請手続きをすることになります。私も同行しますの

で、やってみませんか?」といいました。A市には、

入院してから一度も行ってませんし、手続きも難しそ

うなので止めようかと思いましたが、鳥取さんが一緒

ならばと決心して、市役所へ行くことにしました。

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|第8章 障害者の地域移行・地域定着支援体制の5つの要素 75

A市役所で申請しました

鳥取さんと一緒にA市役所へ申請に行きました。障害

福祉課へ行ってみると、そこにいたのは以前調査のた

めに私に会いにきた北上さんでした。

北上さんは、「あみさん、お待ちしてました。あみさ

んが退院して新しい生活を始められるように、私たち

も応援します」といってくれました。市役所の方から

いわれると、なんだか頼もしかったです。

その日は、地域移行支援の利用申請を行い、北上さん

から認定調査を受けました。また、後日鳥取さんにN

病院まで来てもらい、サービス等利用計画案をつくっ

てもらいました。

【 地域移行支援の申請 】

あみさんの申請を受け、A市役所ではまず障害程度区分認定調査項目に基づく

調査を行います。次に、相談支援専門員である鳥取さんが、あみさんの希望を聞

いて、地域移行支援を利用したあみさんのサービス等利用計画案を立てます。A

市の審査会でこの計画案が承認されれば、あみさんに地域移行支援が支給決定さ

れます。ここから、地域相談支援の個別給付による本格的な地域移行支援のサー

ビスが始まります。なお、サービス等利用計画の作成に対しては、新規計画作成

の場合に 1,600 単位/月(サービス利用支援)、モニタリングを行った場合に

1,300 単位/月(継続サービス利用支援)の報酬単価が設定されています。

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76 第8章 障害者の地域移行・地域定着支援体制の5つの要素|

地域移行計画をつくりました

A市の審査会でサービス等利用計画案が承認され、私の地域移行支援が始まりました。鳥取さ

んの相談支援事業所の那覇さんという地域移行推進員の方が、N病院まで毎週私を訪ねてきてくれるようになりました。

私と那覇さんは、退院までにどんなことを準備すればいいか、退院したらどこに住むか、毎週何をしてすごすかなど、私の希望することが書

かれた「地域移行計画」を立てました。計画には、6 か月後にA市でアパートを見つけて単身生活をめざすと書き込みました。

【 地域移行の個別支援計画 】

あみさんは、地域移行支援を利用するためにサービス等利用計画を作成しまし

たが、支給決定後に今度は個別給付である地域移行支援の詳しい個別支援計画

(地域移行計画)を立てることになります。ご本人の希望に基づいて、地域移行

推進員が 6 か月を目途とした地域移行のための計画を立てます。6 か月で地域

移行をはたせなかった時には、相談支援専門員がモニタリングを行い、地域移行

支援を継続して支給決定するかどうか、市区町村で判断します。地域移行推進員

の那覇さんは、あみさんと会うために毎週病院を訪問していますが、地域移行支

援の報酬は、利用者への訪問による支援(入院・入所先へ訪問しての相談や同行

支援)を週 1 回程度行うことを基本として算定されます。実際には、ケア会議

の開催や関係機関との連絡調整等の支援も行われることから、少なくとも利用者

への訪問による支援を月 2 回以上行うことが報酬評価の対象となるサービス提

供の基準として定められています。それにより、利用者一人あたりの支援に対し

て 2,300 単位/月の報酬単価が設定されています。

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|第8章 障害者の地域移行・地域定着支援体制の5つの要素 77

サービス担当者会議をやりました

那覇さんとつくった計画にそって退院の準備を進めていくために、サービス担当者会議を開いてもらいました。私自身も

参加しました。私の希望が変わった時は、計画内容を変更してもらい、私が不安をもったりくじけそうになった時は、皆が話しを聞いてくれて、励ましてくれました。

【 サービス担当者会議・個別支援会議 】

個別支援を進めていく上で、ご本人の希望にそった支援のチームをつくるため

に、相談支援事業所は必要な会議を適宜行います。制度上の用語では、相談支援

専門員が作成したサービス等利用計画の内容に基づいて関係者が支援方針等を検

討する場をサービス担当者会議と呼び、サービス提供事業所が作成した個別支援

計画に基づいて同様のことを行う場を個別支援会議と呼びます。どちらの会議に

おいても、サービス利用者本人が参加していると希望や課題が関係者と共有しや

すくなります。また、サービス担当者会議や個別支援会議であがった課題を自立

支援協議会等へ提起することで、地域移行に必要な新しい資源や施策の開発につ

なげることも大切です。

A市役所

N病院 精神保健福祉士

地域移行推進員 相談支援専門員

N病院主治医

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78 第8章 障害者の地域移行・地域定着支援体制の5つの要素|

ピアサポーターと外出をしました

退院までに、N病院からA市まで何度も外出しました。最初は電車に 1 時間近く乗っていくので、遠いなあと思っていました。

外出の時は、那覇さんとあの堺さんが一緒に付き添ってくれました。堺さんは、ピアサポーターの活動をしているのだそうです。

「私も最初は遠いと思ってたけど、慣れるとそうでもないよ。今では 2 週に 1 回外来で通って来るのがいい気晴らしなんです」と堺さんは話しました。私は、自分もそんなふ

うに慣れる日がくるといいなと思いました。

【 ピアサポーターの活動 】

堺さんのようなピアサポーターは、サービスを利用する方にとってこれからの退

院・退所にむけた活動や後の地域での生活のお手本となる心強い存在です。交流会

だけでなく、外出同行や外泊時の訪問といった個別支援にも活躍します。なお、前

述した都道府県が実施する精神保健費等国庫補助金事業「精神障害者地域移行・地

域定着支援事業」には、ピアサポーターの育成や活動費用に対する援助も含まれて

います。

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|第8章 障害者の地域移行・地域定着支援体制の5つの要素 79

体験利用・体験外泊をしました

A市までの外泊・外出に慣れた頃、私は堺さんが普段日中通ってい

る就労継続支援B型事業所の体験利用をしました。作業体験の時

は、堺さんが隣に座って教えてくれました。退院したら、こういう

ところで仕事にも就けるんだと思いました。

それから、A市にあるグループホームで 18 年ぶりに外泊をしまし

た。那覇さんの同僚の中野さんが、様子を見に来てくれました。私

は最初は緊張して部屋でテレビもつけずじっとしていました。

夕食の後、堺さんも訪ねてくれて、二人で歌謡コンサートを見まし

た。こうして友人を呼べるような自分の部屋に住めたらいいなと、

退院したい気持ちがより強くなりました。

【 体験利用・体験宿泊 】

地域移行支援の対象者が日中活動系の事業所を体験利用したり、居住系事業所

等で体験宿泊をした場合、体験受け入れ先の事業所は、地域移行支援を実施する

相談支援事業所から委託を受けてサービスを提供したことになり、報酬上評価さ

れます。あみさんが体験利用や体験宿泊を通して、地域生活の具体的なイメージ

を持ったように、これらの活動はご本人の意欲をより高めることにもつながり、

体験によって自信を育むことにもなります。地域移行支援を実施する相談支援事

業所は、地域の中に体験利用・体験宿泊を受け入れるサービス事業所を開拓する

ことも必要です。日中活動の体験利用には 300 単位/日が算定されます。体験

宿泊は 300 単位/日ですが、夜間支援を行う者を配置して行った場合は 700

単位/日の算定となります。なお、体験利用と体験宿泊はどちらも開始日から 3

か月以内で利用日が 15 日以内に限って算定されるため、支援過程の適切な時期

に実施する計画性が必要とされます。

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80 第8章 障害者の地域移行・地域定着支援体制の5つの要素|

アパートが見つかり退院が決まりました

外泊で自信のついた私は、いよいよアパート探しを始めました。那覇さんや中野さんが不動産屋に同行してくれて、相談支援事業所の近くにいいアパートが見つかりました。

那覇さんとは、退院する月は今まで以上によく会って、部屋に置く家具の買物や公共料金の手続きなどいろいろなことをや

りました。

A市役所で地域移行支援の申請をしてから 6 か月、私はとうと

う 18 年ぶりに退院して、アパートで一人暮らしを始めました。退院の日には、中野さんと堺さんも来てくれました。

「あみさん、おめでとう。これからは同じA市に暮らす仲間で

すね」といわれて、うれしいやら恥ずかしいやら。

【 集中支援加算と退院加算 】

地域移行支援の個別給付には、1 か月に 6 日以上の個別支援を行うことで 500

単位/月を算定できる集中支援加算があります(ただし、退院・退所月は除きます)。

また、退院・退所の当月はその後の生活の用意が何かと必要になり、支援の機会も

多くなりがちです。退院・退所の月は、2,700 単位/月の退院・退所加算を算定

することができます。

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|第8章 障害者の地域移行・地域定着支援体制の5つの要素 81

これから新しい生活が始まります

退院した後、私はしばらくアパートで夜一人で寝ることに慣れ

ませんでした。外泊の時とは勝手が違います。そんな時、夜間でも連絡できる先を中野さんが教えてくれました。眠れない時、電話をかけると中野さんが出てくれます。少し話すと落ち

着いて、うとうとできるようになりました。

A市でのアパート生活にも段々慣れて、今はN病院の外来に通

うのも苦じゃなくなってきました。就労支援B型事業所にも本格的に通うことになりそうです。

今度、これからの新しい生活にむけてサービス等利用計画を見

直すことになりました。北上さんのところへ申請に行き、また鳥取さんと一緒につくることにしようと思います。

【 地域定着支援 】

退院・退所後の安定した地域生活のために、地域定着支援の個別給付を受けるこ

とも大切です。地域定着支援による緊急一時的な滞在支援(レスパイト)、短期入

所(ショートステイ)や緊急時訪問、いつでも相談できる体制などがあることは、

地域での生活に対して安心を得る鍵となります。

地域定着支援は、常時(24 時間)の連絡体制の確保に対して 300 単位/月を

算定します。また、緊急時に本人宅への訪問や相談支援事業所等での一時滞在とい

った直接支援を行った場合は、700 単位/日が算定されます。なお、地域定着支

援はグループホーム・ケアホーム等の入居者については対象外となります。

地域移行支援の取り組みが終わっても、あみさんの生活はこれからです。退院に

よって地域移行支援のサービスは終了し、地域で暮らしていくために地域定着支援

やほかの新たなサービスを利用することになります。そこで、新しいサービス等利

用計画を立て、あみさんらしい地域生活を引き続き応援していく支援のチームが再

編成されます。地域移行・地域定着支援が切れ目なくスムーズに実施されるために、

相談支援専門員によるサービス等利用計画の作成が必要とされます。

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82 第8章 障害者の地域移行・地域定着支援体制の5つの要素|

3 地域移行・地域定着支援における5つの要素

本節では、第 3章~第 7章で取り上げた 5都市(岩手県北上市、東京都中野区、大阪府堺市、

鳥取県東部圏域、沖縄県那覇市・浦添市)での調査結果から重要なキーワードを抽出し、今後、

地域移行・地域定着支援を進める上で必要となる要素に関し分析を行う。

具体的には、以下の 5要素を抽出した。それぞれについては、以下に説明を加える。

(1)第1要素:行政による実態調査の必要性

本要素は、地域移行・地域定着支援を展開する際、まずはそのニーズや動向を把握する必要性

があることを意味する。

換言すると、各自治体の障害福祉計画における目標数値設定には、実態調査で把握された具体

的数値が反映されるべきであり、それを行わない限りニーズに即した支援を行うことは困難であ

る。

実態調査に関し、ヒアリング調査地域での動向をみると、大阪府堺市において詳細な実態調査

が実施されている。堺市では、障害福祉計画の策定にあたり、まず現状把握を行うことが行政の

役割であるということが官民協働の地域ネットワークの中で明確に共有されている。

平成 22年度に実施された堺市の「精神科在院患者及び地域移行調査報告書」は、現時点での「在

院患者調査」に加え、平成 20年度報告書から開始された「地域移行調査」の経年変化をフォロー

しており、以前の調査で対象となった在院患者の地域移行の状況を継続的に追跡できる内容にな

っている。具体的な調査項目は、対象となる在院患者の①年齢区分、②入院形態、③疾患名称、

④在院期間、⑤入院時の住所区分、⑥開放処遇区分、⑦病状区分、⑧退院促進事業の利用経験の

有無、⑨退院阻害要因、⑩退院促進事業の必要性の有無、など詳細なものである。このうち、「⑨

退院阻害要因」では選択肢として本人要因に「病状の不安定さ、退院意欲の乏しさ、退院による

環境変化への不安の強さ」をあげ、さらに家族要因に「家族がいない、家族にサポート機能がな

< 5 要 素 >

・行政による実態調査の必要性

・施設(病院)職員と地域機関の職員との協働

・個別支援会議

・市民資源の活用

・市区町村自立支援協議会の役割

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|第8章 障害者の地域移行・地域定着支援体制の5つの要素 83

い、家族が退院に反対している」をあげている。この点は、退院を阻害すると思しき選択項目が

本人・家族側の要因に限られており、環境要因(活用できる社会資源の有無等)を含めた選択項

目を検討するといった改善の余地が今後に向けて残されているとも考えられる。

いずれにしても、地域移行支援・地域定着支援を進めるにあたっては、対象者の意思を尊重し

プライバシーに十分な配慮をした上で、長期入院者(施設入所者)がなぜその状況に置かれてい

るのかという個別の要因を知ることが必要となる。したがって、他の地域においても、堺市で実

践されているような実態把握をまずは行う必要があるものと考えられる。

【今後、さらなる発展を見据えた行政の視点】

実態調査で把握した者と地域移行支援を実際申請した者が異なることは十分想定される。従来

の地域移行・地域定着支援は退院意欲が低い者に対しても、事業対象者として地域生活へのイメ

ージづくりから支援を行ってきた。

平成 24年度からは、原則本人の申請方式となるため、従来対象としてきた退院意欲が低い者か

らの申請は考えにくい。そのため自ら申請を行わない、退院意欲の低い者へのアプローチは何ら

かの形で今後も継続することが重要である。

その退院意欲が低い層への支援方法として、都道府県、政令都市が実施主体となる「精神障害

者地域移行・地域定着支援事業」(精神保健費等国庫補助金事業、以下、「補助金事業」という。)

を活用し、地域体制整備コーディネーターの役割として申請までの支援を行うことも方策の 1 つ

である。また行政機関、とりわけ施設は市区町村、病院は保健所など日頃から連携を図っている

機関の役割として位置づけ、支援を継続することが必要であると考えられる。

また、各自治体において障害福祉計画を策定する際、地域移行支援に係る対象者の把握に向け

た調査方法として、北上市や堺市の例のほか、北海道においては施設入所者について入所者全員

への意向調査を実施し、その積み上げにより数値目標を設定している例もある。一方では、精神

障害に関しては、多くの自治体においては患者調査による統計値を人口按分等により数値目標を

設定してきた例が多く、必ずしも地域移行支援の対象者の把握にはつながっていない。平成 24年

度からの第 3 期障害福祉計画の策定にあたっては、市区町村計画に退院可能精神障害者数の記述

を要せず、個別給付のメニューとなる地域移行・地域定着支援に係る給付に関して年次目標を掲

げることとされたところである。

そこで、精神障害者に係る地域移行支援においては、対象者の実態をより多面的に把握するた

めに、精神保健福祉資料(いわゆる「630調査」)による在院期間別在院患者数や 6月の新入院患

者、退院患者の動態(1年後残存率、1年以内社会復帰率、平均残存率、退院率など)などの活用

も有効であり、これらから収集された情報を関係市区町村に提供することも検討すべきである。

その他、精神保健福祉法に基づく実地指導や障害者自立支援法に基づく施設監査、生活保護部

局と連携して生活保護受給者の長期入院患者の情報の共有化を図り、総合的な支援を行う方策を

検討することも重要と考える。

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84 第8章 障害者の地域移行・地域定着支援体制の5つの要素|

(2)第2要素:施設(病院)職員と地域機関の職員との協働

地域移行・地域定着支援を実践していく上で、施設・病院職員と地域の職員、行政職員との連

携は必要不可欠な要素である。地域移行・地域定着支援は、1つの機関、施設内(病院内)での連

携が、施設(病院)職員と地域へ生活の場を移した際に支援を行う地域機関の職員との間の多機

関連携へと広がっていくことで、有効に機能し始めるのだといえる。

今回のヒアリング調査地域では、沖縄県那覇市・浦添市の退院支援会議、岩手県北上市の取り

組みに院外(施設外)協働の実践をみることができる。

那覇市・浦添市の取り組みでは、まずは病院内の職員が地域移行・地域定着支援事業を理解で

きるよう、院内において事業の周知徹底を図っている。そして、そのことが病院職員の意識改革

へとつながり、事業の対象者を病院から推薦する仕組みをつくり上げている。また、その際には

必ず院外から地域移行推進員や委託事業所がサポートに入ることになっており、病院及び病院職

員と地域機関及び地域機関の職員との「つながり」が明確にみえる体制となっている。

さらに、施設(病院)職員と地域機関の職員との連携・事業啓発に加え、行政も含めた検討の

場を確保することにより、事業の対象者または今後事業の対象となりうる人に対し、対象者が中

心となる支援の実践を展開することが可能となっている。また、那覇市・浦添市では、地域移行

推進員、委託事業所の職員に対するスーパービジョンの場(会議、研修等)が確保されており、

それぞれの実践スキルを高めていくための支援も行われている。

北上市では、取り組みの特徴の 1 つとして、地域への移行から地域生活の支援に至るまで支援

の境目がないことがあげられる。そのため、居住サポート事業の中に「暮らしの支援」も包含す

ることが可能となっている。さらに、必要に応じて制度を拡大しての対応や社会福祉協議会等と

の協働、連携も実施されている。

しかし、各医療機関の抱える個別の事情による地域移行・地域定着支援事業に対する温度差が

あることは否定できない状況であり、今後、それらをどのように解決していくかが課題となって

おり、このような課題は他の地域にも存在するものと推察される。

【今後、さらなる発展を見据えた行政の視点】

平成 24年度からは、従来の協力病院と委託事業者という関係から全精神科病院と一般相談支援

事業者(地域移行・地域定着支援担当)や全入所施設と一般相談支援事業者(地域移行・地域定

着支援担当)いう関係に変化する。この事業の大きなポイントは保健・医療・福祉の協働であり、

施設(病院)からの押し出す力と地域で受け入れ、生活を支える力の連動である。

そこで行政機関は、保健・医療・福祉の関係機関が「地域移行・地域定着支援」という共通の

テーブルにつくための機会を設けることが重要である。またそのような場面において各機関の相

互理解を深めことが大切である。具体的には、各保健所における協議会(既存の協議会の活用も

含む)を活用して、施設職員や病院職員と地域機関職員向けに制度内容の理解促進のための説明

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|第8章 障害者の地域移行・地域定着支援体制の5つの要素 85

会や研修会を開催し、きっかけを提供することが可能である。また説明会等には是非事業に係る

パンフレットやDVDなどを作成し、視聴覚教材として活用することも有効であると考えられる。

(3)第3要素:個別支援会議

地域移行・地域定着支援を推進していく上で大きな役割を担うのが個別支援会議である。(※註)

地域で生活をしていく上で各々の障害者が感じている生きづらさはさまざまである。とりわけ

入所施設・精神科病院での社会的入院から地域生活への移行を支援するためには、本人の地域生

活への動機づけから始まり、本人の意向を踏まえた個別支援計画を作成し、PDCAサイクルに

よる長い支援を行っていく必要がある。とりわけ、精神障害者については、入院期間から支援を

開始し、地域移行推進員やピアサポーターによる相談、地域生活の体験などを経て退院への動機

づけ、退院後の住まいの場の確保(家庭復帰、公営住宅、民間住宅、共同生活住居など)や生活

用品の調達、通院の継続支援、地域情報の提供など、本人の意識の変化や病状・体調の変化にも

応じて、随時支援内容の見直しを行う必要がある。このため、一人の対象者を中心にして支援に

携わる関係者も多岐にわたり、支援の期間もさまざまである。中には、退院に向けた支援が断続

的となったり、支援に必要な期間が数年に及ぶ場合もあり得る。

個別支援会議は、障害者本人を中心に置き、本人に寄り添いながら、本人が抱えている不安や

希望など課題を解決するため、行政関係職員、相談支援事業者を中心に、施設(病院)関係者、

その他地域のさまざまな関係者も交えたチームアプローチの場であり、それにより横の連携によ

る取り組みを進められることが期待される。

また、個別支援会議を通じて、個々のニーズに対応できない課題を集約していくことにより、

これらが地域課題として意識され、新たなサービスの開発への取り組み(公的制度とは限らず、

民間事業者や地域コミュニティによる取り組みもあり得る)や、ひいては市区町村障害者計画の

中に新たな施策として反映させていくなどの流れに展開していくことにながっていく。

(※註)ここでは「個別支援会議」という語を、「地域移行・地域定着支援の対象となる本人の希望を実現するために、

関係者が集まって本人の思いやニーズにそった支援の手立てを考え、役割分担等を話し合う場」の総称として用い

ている。したがって、各地で「ケア会議」「サービス調整会議」「ケースカンファレンス」等と呼ばれる同様の目

的の会議もこれに含むものとする。また、相談支援事業所がサービス利用計画作成の過程で開催する「サービス担

当者会議」も、ここでは便宜上「個別支援会議」に含めて考察している。

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86 第8章 障害者の地域移行・地域定着支援体制の5つの要素|

【今後、さらなる発展を見据えた行政の視点】

個別支援会議のキーパーソン(主宰者)は、多くの市区町村においては市区町村職員となって

いる例が多いが、関係者の横の連携が進んでくると、相談支援事業者などがキーパーソンとなっ

て会議が運営される方法もあり得ると考えられる。

しかし、全国的には、個別支援会議の必要性は理解されていても、実態としては、多くの市区

町村において個別支援会議が開催され、かつ、有効に機能しているとは言い難い状況にあると思

われる。

このため、今後とも、それぞれの地域の特性に応じた取り組みが行われるよう、国において多

くの実践例を自治体に情報提供を行うとともに、都道府県においても、市区町村への技術的な助

言や市区町村の区域をこえた圏域の調整の機能を果たしていく必要がある。

地域移行支援 ~豊かにつながるために~

支援センターなんくる

地域移行推進員 金 城 多美子

事業の対象者や病院・行政とのつながりをつくっていく際に、大切にしている

ことがあります。それは「信頼関係」を築いていくこと。しかし、ただ関係を築

いていくだけではなく、信頼を築いていくことは、言葉でいうほど簡単ではなく、

うまく進まないと自分の力のなさに落ち込み、問題を相手のせいにしてしまうこ

ともしばしばです。

それでも、私なりに懸命にもがいてきた結果、少しずつみえてきたものもあり

ました。それは、相手に求めるだけでなく、自分自身が相手のことを知りたい!

と感じること、関心をもって対応すること。そうすることで、不思議なことに、

相手も自分の想いを語り始めるようになり、それをきっかけに、お互いに相手の

素敵なところを捉えることができるようになりました。さらに、視点や考え方の

違いをあたりまえのものとし、対等な立場としてお互いを受け入れるようになり、

退院準備を一緒にやっていきたいという気持ちも高まっていきました。その後は、

地域の支援者として誠意を持って支援に取り組むことによって、個人から組織へ

と、より豊かに深くつながっていきました。

知らない人や機関に飛び込んでいくのはとても不安で勇気もいりますが、それ

は相手も同じこと。私たちは対象者の方の想いをとらえた支援のために、自分自

身のために、たくさんのつながりをつくって生きていくことが必要なのだと感じ

ます。

コラム ①

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|第8章 障害者の地域移行・地域定着支援体制の5つの要素 87

岩手県北上市については、県による市区町村支援の取り組みとして、「私の希望する暮らし」

を作成し、個別支援計画書・地域生活移行支援のための支援ツールとして活用されている。また、

県事業に係る対象者数の全県調査の実施、また、相談支援員(地域移行推進員)の育成を 2007(平

成 19)年度は県が実施している。このような県による市区町村支援の取り組みが、北上市をはじめ

として県内各地域の育成につながってきた背景となっている。

また、これまでに開催された国の会議や研修会等において、「個別支援会議が自立支援協議会

の命綱」として説明され、自立支援協議会の実践例として個別支援会議・運営会議を再現するな

どの取り組みや、厚生労働省補助事業(障害者保健福祉推進事業、障害者総合福祉推進事業)に

おいて実践的・効果的な実施方法等の調査研究報告がなされてきており、これらについても参考

文献としてご参照いただきたい。

(4)第4要素:市民資源の活用(ピアサポーター・市民・不動産業者等)

障害者が地域で生活する上で必要な要素の 1 つに、福祉関係者等の関係者や地域の民生委員、

ボランティア、職場の上司や同僚等のいわゆるインフォーマルな人々から形成される「連携」が

ある。この連携とは、障害者に関係している点がつながり、最終的には大きな輪に広がっていく

ことを意味する。

ヒアリング調査地域では、中野区の居住サポート事業の実践の中に不動産業者とのつながりな

ど、福祉関係者、機関や行政にとどまらず、インフォーマルな市民資源の活用と日頃からの関係

性構築の実例をみることができる。中野区では、「住宅安定支援事業」として、中野区内にある

156か所の不動産業者の物件情報を集約しており、物件の紹介を中心とした対応を行っている。そ

れらは、不動産業者との常日頃のインフォーマルな付き合いにより展開されており、このような

地域レベルでの取り組みは、障害者が地域移行及び地域に定着していく上で極めて有効なもので

ある。

大阪府堺市では、地域移行推進員として非専門職である市民ボランティアを活用することによ

り、地域で生活する生の生活者の視点を支援に導入することが可能となっている。また、ピアサ

ポーターを育成し自立支援員として雇用及び派遣し、ピアサポーター対象の研修も実施している。

沖縄県那覇市・浦添市においてもピアサポーターの活用がみられる。ピアサポーターの具体的

な活動は、医療機関訪問や事業対象者の退院準備における外出支援等である。

上記のような堺市や那覇市・浦添市でのピアサポーターの活用は、本事業において一定の効果

を及ぼしている。

鳥取県東部圏域では、市町村保健師の推薦を受けた者が対象となって地域移行推進員として養

成され、この地域移行推進員自らが中心となりレインボー事業を創設し、制度の対象とならない

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88 第8章 障害者の地域移行・地域定着支援体制の5つの要素|

人々に対し推進員独自の活動を実施している。さらに、自主的な精神保健ボランティア団体であ

るベストフレンズの立ち上げも行っている。

このようなインフォーマルな市民資源による自主的な動きは、特に地域資源が少ない地域にお

いて有効な資源の 1 つとなり、障害者への地域移行・地域定着支援を活発化させることが可能と

なる。さらには、自然に障害者及び障害者の置かれている現状についての啓発にもつながるもの

である。

【今後、さらなる発展を見据えた行政の視点】

ピアサポーターの活用は一定の効果が現れている。そこで、行政機関は補助金事業を活用し、

ピアサポーターが活動しやすい環境を整えることが重要であり、また必要な時に必要な機関がピ

アサポーターを活用できるシステムを構築することが大きな役割の 1 つである。そのため、現在

統一されていないピアサポーターの養成プログラムの統一やピアサポーターを雇用し、安定した

賃金の支払い、ピアサポーターのフォローなどの役割も同時に持つものと考える。

また精神保健ボランティアの育成及び活用も行政の役割である。多くの行政機関では精神保健

ボランティアの養成講座を行っているが、講座修了後の積極的な活用までは至っていないのが実

情である。ピアサポーターのシステム同様精神保健ボランティアもシステム化し、市民資源の積

極的な活用が必要である。

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|第8章 障害者の地域移行・地域定着支援体制の5つの要素 89

ある不動産会社社員との出会いから始まった関係性の広がり

中野区地域生活支援センターせせらぎ

志 村 敬 親

Aさんとの出会いは、中野区の居住サポート事業にとって大きな転機となった。

当時Aさんは中野を中心に不動産業を営んでいる不動産会社に勤務する、血気盛

んな若手営業マンであった。私は精神障がいに理解のある協力不動産会社を開拓

しようと営業活動を行っていたが、行く先々で厳しい拒否的感情を目のあたりに

して、悩んでいた。そして、次もダメかと思いながら不動産会社の門をくぐった。

その時応対してくれたのがAさんであった。

Aさんは「飛びこみの営業で福祉の相談をされたのは初めてだ!」と驚き、「精

神障がいってなんですか?」と興味を持ち、「物を売りつけられるわけではなさ

そうだ」と話を聞いてくれた。

そして、当時長期入院されている方の部屋探しに協力してもらうことを皮切り

に、私とAさんの関係が始まった。数名の入居支援を通して私は福祉サービスと

しての居住サポート事業に、Aさんはビジネスとしての精神障がい者の入居支援

に手ごたえを感じていった。一方で私は、理解のある不動産会社をさらに増やす

必要があり、Aさんも、精神障がい者へ紹介する物件の選択肢を広げるために、

所属する職場の上司や、同業他社の協力を得る必要があった。そして私とAさん

の個人的関係をさらに広げることに対する利害が一致し、協力して以下の取り組

みを行っていった。

(1)支援センターと不動産会社の関係強化

私が所属する地域生活支援センター(以下、「支援センター」という。)とAさん

が勤務する不動産会社で懇親会を行った。スタッフ同士が顔見知りになることによ

り、お互いの行き来が増え、個人的関係は組織対組織の関係に変化していった。

(2)支援センターと他の不動産会社の関係拡大

「不動産屋巡りツアー」を行った。Aさんが懇意にしている不動産会社を、Aさ

んと一緒に訪問した。私一人だと「怪しい福祉の人」だが、Aさんが隣にいるだけ

で「Aさんの知り合い」に格上げされ、結果的に先方も私の話を聞いてくれた。ま

た、Aさんに誘われる形で地元の不動産会社の懇親会に参加して、ざっくばらんな

話をしながら関係を広めていった。

コラム ②

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90 第8章 障害者の地域移行・地域定着支援体制の5つの要素|

(5)第5要素:市区町村自立支援協議会の役割

自立支援協議会は、さまざまな事業等のシステムづくりを行う際に中核的役割を果たす協議の

場として設置されるものであり、地域の実情に応じた多様な形で実施されるものである。したが

って、今回のヒアリング調査地域においても、それぞれ異なる形での運営が確認された。

その中でも岩手県北上市では、サービス調整会議(個別支援会議)を自立支援協議会の中に位

置づけており、今後、三障害のモデル化を行う際、最も参考にする要素を多く内包した事例であ

ると考えられる。

このサービス調整会議は、相談支援事業者が関係者を招集する形で実施されており、そこで支

援体制の協議や調整、困難事例に対する支援方策の協議等が行われる。自立支援協議会の中にサ

ービス調整会議を位置づけるメリットは、地域での生活をより具体化することが可能となり、さ

らには、対象者の希望に即した細やかな連絡調整を行うことが可能となる点にある。

中野区や那覇市・浦添市では、北上市とは異なり、地域移行・地域定着支援事業に関する協議

会は自立支援協議会とは別に設定されている。そのため、両者の関係は報告、助言の関係である。

また、自立支援協議会に地域移行部会がない場合には、二者が別々の動きをするため、それぞ

れから提案されたものを施策化することが難しいといった問題点がある。

(3)不動産会社と支援センター利用者の関係拡大

不動産会社と支援センターの距離が近いため、Aさんに支援センターに頻繁に足を

運んでもらった。必要に応じてケース会議にも参加してもらった。また、支援センタ

ー利用者向けの講座に講師として参加してもらうことにより、いつのまにかAさんは

支援センター利用者にとっても見慣れた存在となっていった。

Aさんから教えられたことは「大家や不動産会社もニーズを持っている」とい

うことであった。精神障がいに対する拒否的感情は、過去の体験や知識不足、メ

ディアを通じた風評などが絡み合い醸成されていることがわかった。そして、そ

の感情を否定するのではなく、彼らの思いに耳を傾け、正しい情報を提供し、相

談に乗っていく姿勢が求められていた。たまに当事者の方が「不動産会社から情

報を聞きました」と、支援センターにやってくることがある。これは不動産会社

が支援センターを社会資源として認識したためだと考えている。

先日、中野区の自立支援協議会が主催した家主や不動産会社向けの学習会で、

Aさんに講師をお願いした。いつも無理難題を押し付けてしまっているが、その

度に快く引き受けていただいている。Aさんいわく「今まで自分が知らなかった

世界、楽しませてもらっている」とのことであった。地域の片隅で働くソーシャ

ルワーカーの一人として、「人と人がつながること」の大切さをつくづく感じる

今日この頃である。

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|第8章 障害者の地域移行・地域定着支援体制の5つの要素 91

2011(平成 23)年度まで障害者の地域移行・地域定着支援に関わる事業は、都道府県・政令都市

が実施主体となる補助金事業として位置づけられていたが、平成 24年度からは相談支援事業にお

ける地域移行支援・地域定着支援として個別給付化され、市区町村が申請受理及び支給決定を行

うことになる。今後、各市区町村の施策レベルでの取り組みの中に本事業を位置づけていくため

には、北上市のように自立支援協議会の中に地域移行・地域定着支援事業に関する協議会を位置

づけることが有効であると思われる。

【今後、さらなる発展を見据えた行政の視点】

自立支援協議会は、都道府県及び市区町村の障害者施策を考える中核的な役割をもつ重要な機

関になる。特に市区町村における自立支援協議会は大きく分けて 6 つの機能(①情報機能、②調

整機能、③開発機能、④教育機能、⑤権利擁護機能、⑥評価機能)が求められている。この自立

支援協議会を活性化させ、機能させることが行政の大きな役割である。

地域移行・地域定着支援においては、現在、実施主体が都道府県・政令都市であるため、自立

支援協議会の中で検討などを行う場がない市区町村が多いのが現状である。

2012(平成 24)年度以降は、制度改正により実施主体が市区町村に変更される。そのため地域移

行支援をテーマとする部会の設置が求められる。その部会において、先述した個別支援会議など

からみえてきた課題を提起し、市区町村の課題として普遍化した上で、必要な課題解決に向け施

策化していくことが重要である。

また同時に、都道府県自立支援協議会においても、市区町村の自立支援協議会と連動し、市区

町村から課題を吸い上げ、都道府県の課題解決に向け施策化していく仕組みづくりが重要である。

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第9章 ま と め ~地域移行・地域定着支援のさらなる発展と普及に向けて~

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|第9章 まとめ 95

1 自治体における地域移行・地域定着支援に対する視点

自治体における施設の入所者及び精神科病院の長期入院者の地域移行・地域定着支援は、

2003(平成 15)年の支援費制度の導入による措置から利用契約制度への移行やいわゆる“7 万 2千

人問題”(平成 14年度患者調査)を契機として、さらに、2006(平成 18)年の障害者自立支援法の

施行に伴い障害福祉計画に地域移行に関する数値目標を掲げることとされたことにより、全国的

な取り組みが加速してきている。

障害のある人が地域で生活していく上で、①住まいの場、②日中活動の場、③いつでも安心し

て相談ができる場の 3 つの確保が欠かせない。また、施設からの退所・病院からの退院のために

は、①施設・病院からの押し出す力、②地域での受け入れる力、③地域での生活を支える力の 3

つの要素が必要である。

(1)これまでの取り組みの経過

これまでの取り組みを振り返ると、施設入所者については、第 1期(平成 18~平成 20)・第 2

期(平成 21~平成 23)障害福祉計画において入所施設からの地域生活への移行者数を入所者の 1

割以上、施設入所者数の削減を 7%以上とする数値目標を掲げてきている。これらの目標を実現す

るため、各都道府県では、各施設を通じて入所施設からの地域生活への移行可能者を調査し、市

区町村に情報提供を行ってきている。

一方、精神障害者の地域移行に関しては、厚生労働省が定期的に実施される在院患者調査に基

づき、都道府県が各精神科病院を通じて退院可能精神障害者数を把握し、関係市区町村に統計値

として情報提供される。障害福祉計画の策定にあたっては、この患者調査による退院可能精神障

害者数をもとに「入院中の精神障害者の地域生活への移行数」として障害福祉計画に数値目標を

掲げてきている。

なお、精神障害者の地域移行支援の取り組みは、大阪府において、府内の精神科病院で発生し

た不祥事(大和川事件)をきっかけとしていわゆる「社会的入院」の問題がクローズアップされ、

その対応策として退院促進事業が開始され、これが全国的な取り組みの先駆けとなったものであ

る。今回の事例調査を行った 5 市のうち、大阪府堺市では、大阪府の委託により退院促進事業を

先駆的に取り組んできた経過の中で、退院可能な患者の把握を継続的に行ってきている。これを

実施するためには、行政・病院・支援者(地域移行推進員・ピアサポーター)の官民相互の協力

関係(協働)と目標の共有が必要であり、これまでの継続的な取り組みはその上に成り立ってい

るものと考えられる。また、岩手県においては、県の調査として 2 年に一度社会的入院と福祉施

設入所の全数把握のための調査を実施し、その情報は市町村へ提供されており、北上市において

は県の調査が行われない年度については市独自に調査を実施している。以上のような実態調査(地

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96 第9章 まとめ|

域移行調査)による対象者の実数把握など、退院可能な患者を特定した詳細な調査を実施してい

る都道府県・市区町村は必ずしも多くはない状況である。

また、地域生活への受け皿づくりの取り組みとして、「住まいの場の確保」については、グル

ープホーム・ケアホームの設置のための支援、居住サポートなどの取り組みが行われている。「日

中活動の場の確保」については、NPO法人等民間団体の事業参入により事業所の受け皿は格段

に増加している。これらについて個々の障害者のニーズに適切につなげていくため、「相談支援

事業所」の計画的な増設や地域生活の体験事業などのソフト面での充実にも取り組まれてきてい

る。なお、これらは、2006(平成 18)年度に創設された基金事業(障害者自立支援対策臨時特例基

金)に支えられてきた側面が大きいと思われる。

施設入所者の地域生活への移行に向けた支援は、個々の施設において個別に支援が行われるか、

あるいは、市区町村からの委託により相談支援事業所が地域の関係者を交えた横の連携等(個別

支援会議等)を通じて支援が行われてきているが、現行の個別給付のメニューであるサービス利

用計画作成費の対象者は極めて少ない状況にとどまっている。一方、精神科病院の入院患者の地

域生活への移行に向けた支援は、精神保健費等国庫補助事業である「精神障害者地域移行・地域

定着支援事業」において、都道府県等を実施主体として取り組みが進められてきている。この事

業では、地域体制整備コーディネーターが中心となり、市区町村・病院との調整による対象者の

把握や地域の関係者の連携会議(個別処遇のケア会議等)等を進め、個別の支援は地域移行推進

員やピアサポーターが退院前から退院後一定期間行っている。

このように、現状においては、施設入所者と精神科病院入院患者の地域移行・地域定着への支

援は、実施主体、実施方法、財源がそれぞれ異なって実施されている。また、実際に支援が行わ

れている実績は、潜在的な対象者のうち一部にとどまっている状況であり、支援の態様も自治体

によってかなりの温度差があるものと推定され、支援の実際は試行錯誤の状態にあるともいえる。

(2)今後における市区町村からの視点

2012(平成 24)年 4月の改正障害者自立支援法の施行に伴い、自立支援協議会が法律上位置づけ

られるとともに、サービス利用計画の対象者が大幅に拡大され、原則としてすべての障害福祉サ

ービス利用者にサービス利用計画(計画相談支援)が適用される。また、地域移行支援・地域定

着支援が個別給付化(地域相談支援)されることになる。

このため、各市区町村においては、相談支援事業所の質・量の両面での体制の充実が求められ

る。また、今後においては、市区町村がベースとなって支援体制を構築していくこととなり、精

神障害者に係る地域移行・地域定着について取り組みを行ってきていない市区町村においては、

新制度に対する理解や実施体制の強化が急務となっている。

このような一連の法律改正は、障害者が地域で安心して自立した地域生活を送っていくために

は、障害者が日々の暮らしの中で抱えているニーズや課題にきめ細かく対応し、必要に応じて適

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|第9章 まとめ 97

切な福祉サービスの利用に結び付けていくための相談支援の充実、地域移行を支えるコーディネ

ート機能の充実を行っていくためのものとなるが、多くの自治体では、法の理念と実際とのギャ

ップに苦慮している状況にある。こうした現状を踏まえ、今回の事例調査を行った 5 都市につい

ては、人口規模や地域としての取り組みの経過などはさまざまであるが、それぞれの地域特性を

踏まえた取り組みが進められてきているものである。多くの市区町村においては、一定程度の地

域資源・人材が確保されているか、または資源・人材が限られていると思われるが、東京都中野

区及び大阪府堺市における大都市圏の取り組みの例として、沖縄県那覇市を中心とする複数の市

町村による圏域共同の取り組みの例として、岩手県北上市における人口規模は大きくはないもの

の自立支援協議会の活力ある取り組みの例として、鳥取県東部圏域については発展途上にある地

方都市の身近な取り組みの例として、それぞれ参考としていただけるものと考える。

(3)都道府県からの視点

現行の制度においては、施設入所者と精神科病院入院患者の地域移行・地域定着支援の仕組み

が異なっており、各市共通の課題として、個別支援会議の開催方法や関係者の連携体制の整理・

統合が今後必要となってくるものと思われる。また、サービス利用計画の対象者の大幅拡大(原

則としてすべての障害福祉サービス利用者にサービス利用計画(計画相談支援)が適用)にどの

ように対応していったら良いのか、必要なマンパワー及び財源の確保などは全国の自治体共通の

苦悩であるともいえる。

これらに対応するためには、各市区町村がそれぞれの地域の特性に応じた取り組みが行われる

よう、国において、多くの実践例を自治体に情報提供を行うとともに、都道府県においても、市

区町村への技術的な助言や市区町村の区域をこえた圏域の調整の機能を果たしていくことが強く

求められる。

これらに加えて、障害者の地域生活を支える関係者として、地域の民生委員、ボランティア、

職場関係者を含めた市民の理解と参加による「連携」がより一層重要になってくるものと考えて

いる。

とりわけ、精神障害者の地域生活への移行に向けた支援の取り組みは、これまで都道府県の 2

次医療圏を単位に実施され、すべての市区町村を満編なく守備範囲としてきたというよりも、国

庫補助等の関係もあり、特定の地域を対象としたモデル事業的な取り組みであったと考えられる。

今後はすべての市区町村を対象として取り組みが進められるよう、都道府県が市区町村に対して

積極的に技術的助言を行っていく必要がある。

これらの取り組みを進めるため、相談支援事業所に配置される相談支援専門員の増員など、人

材育成については引き続き都道府県の役割であり、今後の相談支援体制の充実強化を支えていく

ためには、相談支援専門員の養成研修や市区町村の新任職員を加えた実務研修(質の向上に向け

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98 第9章 まとめ|

たワークショップの開催や、先進的な取り組み事例の紹介など)の充実などが一層必要となって

くるものと考える。

2 結論と今後の課題

地域移行・地域定着支援の充実強化に向けた活動では、施設入所(病院入院)者は本来、市区

町村の住民である。したがって、施設入所(病院入院)者は住民として住み慣れた地域で、住み

慣れた生活を送ることが我が国のノーマライゼーション理念推進の具現化の 1 つの活動である。

施設入所(病院入院)者は、地域から隔離された生活から、より地域に密着した住民としての生

活が求められている。その推進にあたっては、行政や専門職の社会的な役割と責務がある。そこ

での社会的役割は、施設入所(病院入院)者を住民、真の顧客とし、自立した住民生活へ向けた

支援、さらには就労自立へ向けた支援でもある。行政や専門職の役割は、より幸せな福祉社会の

実現をめざすことである。そこで、行政や専門職は主体的に個別住民の①生活課題を発見し、②

改善目標を設定し(評価を含む)、③目標達成へのプランと見立てを立て、④プランに基づいた

実行や行動、⑤実施効果の評価・測定、⑥評価によるより良い活動と目標への修正で、最終目標

の達成をめざすことである。即ち、既存の活動や業務を既存の範囲で行うだけではなく、主体的

に改善点を発見し、主体的に行動する社会的役割が求められる。これは、指揮者やリーダーの下

で一糸乱れぬチームプレーよりも、関係者が目的を共有しながらも主体的に考え、判断し、行動

することが求められる活動である。即ち、①一定の目的や方向性を会議や連絡会等で情報交換し、

共通認識化するとともに、②実践では関係者の行動を予測し、本人の日常生活の変化に対して主

体的で柔軟な支援が求められる。即ち、一定目標を固定して指揮命令が明確な組織的、分担作業

ではなく、関係する支援者は目標を共有しながらも、自立した民主主義とバランス感覚によるネ

ットワーク型の活動が求められている。例えば、ポジションの明確な野球等の組織的活動よりも、

司令塔がいても絶えず変化する全体状況を把握し、発見し、使えるものは最大限に活用し、柔軟

なパスを生かし、ゴールをめざすサッカーに似ているともいえる。

ここでは質的調査であるヒアリング調査における事例をモデルにいくつかの側面から整理し、

これからの実践の手がかりを提供できれば幸いである。また、対象者の把握と地域診断、研修や

人材育成によって地域を耕し、関係者との相互コミュニケーションの充実による柔軟な活動と、

キーパーソン・拠点づくり、中長期的地域づくりへの計画、住民参加型社会への手がかりにして

いただけると幸いである。

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|第9章 まとめ 99

(1)都市と地域の規模による特性(現状)

調査からは地域の現状と課題を 5 つの柱で分析し、活動の円滑な推進への重要な示唆の柱と考

える。

①実態調査の必要性

入所施設(入院)者で地域生活移行を実際にされる方々は具体的にどこに誰がいるか、顧客情

報を明確にすることが地域診断で肝要である。あるいは、地域住民が関係する入所施設(入院)

の地域住民を把握する(生活保護等)。そして、個別の地域移行・地域定着ニーズとマーケット

での活動を具体的に明確化し、計画・見立て・見通しを立てることが必要である。

地域体制整備コーディネーターは、さまざまな地域ネットワークの把握と人材活用がある。人

材育成では研修会等の実施で、研修参加者のつながりづくり、組織化して地域活動への参加促進

がある。

例えば、障害者計画・障害福祉計画づくりの人材、行政内部の関係部局、県や近隣市区町村の

関係者、入所施設(入院)と状況、地域の事業所とキーパーソン(地域移行推進員、相談等事業

所、ヘルパー、訪問看護師の社会福祉や医療・保健・福祉・栄養職等)、住まいの確保と生活支

援の住民資源の把握と多様な関係者の把握、研修とつながりづくり等がある。

②施設(病院)職員と地域機関の職員との連携と協働

施設(病院)は地域の 1 つの社会資源である。施設(病院)内だけで完結する活動ではなく、

地域住民が利用する地域資源として、職員(医療職、ケアワーカー、ケアマネジャー等)及び地

域の人々が意識する必要がある。

例えば、研修会、事例検討会、多様な勉強会、会議参加、当事者の交流会や交流の場づくり等

の必要性への意識改革の推進がある。そこでは、地域移行推進員が施設(病院)内と地域のパイ

プ役として積極的に施設(病院)職員との交流を促進(事例検討会参加、ピア講演会、地域移行

推進員連絡会)。また、当事者との交流を図り、地域移行希望者と関係者の不安・緊張・混乱・

思考停止をサポートし、地域生活を具体化する(茶話会、ピアサポーター、宿泊体験、グループ

活動)。

③個別支援会議

地域移行支援員は個別の支援会議で一人ひとりのケアについて医療機関、居住サポート事業(会

議)、相談支援事業所、生活保護部局との検討を深め、具体的な情報を共有し、実行する。同時

に関係者が顔見知りになり、お互いの業務を理解し波長合わせを実施する場である。自立支援協

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100 第9章 まとめ|

議会の下の会議と別の会議とがある。例えば、地域生活移行支援部会、地域移行支援連絡会(個

別ケア会議、地域ケア会議、地域支援部会)、退院促進支援会議、地域移行定着支援事業協議会

(知的・精神)や推進会議・精神保健福祉連絡会、地域定着事例検討会、地域移行・定着事業協

議会などがあるが、顔見知りになれば決まった会議だけではなく、多様な場面が個別支援の情報

交換、コンセンサスづくりの場になる。

④市民資源の活用

患者会での活動の充実とピアサポーターの育成による地域移行支援事業への参加がある。また、

地域づくりへ住民参加型での地域移行・地域定着事業への幅広い人材による住まいの場確保(不

動産業者)と生活支援・生活維持、予防・健康増進・緊急連絡等がある。雑談や傾聴、外出支援

で孤立させない生活づくりがある。例えば、ボランティアやホームヘルパー、地域移行推進員の

育成と活動やフォロー体制での組織化、新たな活動(レインボー事業、ベストフレンド組織)。

⑤自立支援協議会の役割

事業者や関係者の勉強会、高齢者の地域移行支援活動、不動産業者への働きかけ、1~3か月に

1回など地域と施設(病院)での共有化、個別支援課題の施策への検討。障害者計画との関係性が

あげられる。

(2)地域の規模による特性

活動の推進では地域の準備状況を把握する必要性がある。地域の準備状況は、関係者の準備状

況であり、活動への意識状況ともいえる。活動の推進では他の地域(視察等)と自分の地域を比

較(エビデンス)する知識・技術、コストや法文理解が必要である。また、住民の生活づくりで

はノーマライゼーション理念・権利擁護活動、障害者も住民としての主権を保障する視点や価値

姿勢がある。即ち、知識・技術と価値姿勢の両輪がある。また、地域移行支援では施設(病院)

内活動と地域活動の両輪の人材育成と資質向上と協働への働きかけ、歴史経過が必要である。こ

れらは、その後の活動の広がりと深まりに大きく影響すると思われる。活動内容の詳細は前章に

譲り、ここでは地域規模等で考える参考資料を例としてまとめてみる。5つの事例は、多様な側面

を持っているモデル事例である。したがって、ここでは特徴的な視点からみた例である。

地域規模からは、圏域及び地方都市(県庁を含む)としての例がある。これには、岩手県北上

市、鳥取県東部圏域(鳥取市など)、沖縄県南部圏域(那覇市・浦添市)がある。モデルは人口

規模もあるが圏域活動、あるいは県と市による活動であり、ご自分の地域状況に合わせて活用し

ていただきたい。例えば、鳥取県東部圏域(1市 4町 24万人)は県保健所による市町村支援で、

住民への地域移行支援員養成講座、その研修活動を発展させた人材育成とそのネットワークづく

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|第9章 まとめ 101

りである。北上市は人口 9 万人の都市で、施設入所(病院入院)者である障害者も住民として、

自らが住み慣れた地域でより良い地域生活を送れるよう、身体障害・知的障害・精神障害のある

方への活動として、障害種別をこえた支援、障害者計画づくりの実践である。また、長期的視点

からの支援人材と育成で、途切れない支援体制づくり、民間ネットワーク活動、地域住民参加型

活動で、地域を耕す広報普及(DVD)・研修、具体的対象を明確にする調査活動を基盤にした

実践である。

大都市活動は東京都中野区、大阪府堺市がある。例えば、堺市は市内 7区、3つの圏域があり人

口 84万人で、入所施設(病院)や地域事業所も複数ある。また、今までの地道な実践で養われた

人と人のつながり、改革意識による地域活動、精神障害者社会復帰促進協会(復帰協)、患者会活

動(ピアサポート活動)等、市民・当事者・専門職による三層活動である。また行政による障害

者計画など障害者全体の計画の中で、障害者基幹相談支援センターを中核とするエリアを明確に

したネットワークとそのシステム化がある。

(3)活動内容の特性

地域づくりは人材育成と正確な情報の提供、広報活動が必要である。広報活動と研修活動は人々

に新たな知識・技術を付与するとともに、未経験の事項への不安解消と前向きな活動実践への知

恵と工夫へ向けた支援である。即ち、経験していない人の未経験の認識を変え、主体的な行動変

容は、研修や体験、先駆的事例との比較と理解が必要である。各地の活動は複数の活動を実践し

ているので、いくつかの視点がある。ここでは、活動内容を人材育成、対象者把握の調査、活動

実践への人のつながり・ネットワークの側面から整理する。

人材育成は、鳥取県東部圏域、あるいは岩手県北上市が例としてあげられる。鳥取県東部圏域

では、県主導で地域移行推進員養成講座を実施し、この講座に参加した人々が活躍できる場を新

たな活動として展開し、住民の組織化を行っている。個別支援として主治医の推薦がなくても訪

問等の緩やかな交流(レインボー事業)、フォローアップ講座で連絡会による精神保健ボランテ

ィア組織ベストフレンドの結成がある。精神保健ボランティア養成も行って、住民参加型の住民

ネットワーク活動がある。北上市では啓発用のDVDを作成し、精神科病院での地域移行、講演

会開催での普及を行っている。

調査と計画づくりは、調査を基本に計画づくりを実施する。即ち、岩手県北上市、大阪府堺市

では、施設入所(病院入院)者がどこに、誰がいるかを全数調査を実施し把握している。多くの

自治体が退院可能な精神障害者数を人口割で行っている。しかし、ここでは具体的に把握し、退

院の促進の対象者としての顧客住民を明確にして、具体的な地域移行に結び付けている。その他

には、東京都中野区の生活保護者を把握しての退院支援がある。

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102 第9章 まとめ|

(4)今後の指針 ~ネットワークの視点による4類型

地域移行・地域定着支援では、当事者の退院への意欲と複数の支援者の支援の構築がある。そ

こでは支援者側のコミュニケーションとネットワーク、協働活動が重要になる。そこで、このネ

ットワーク(インフォーマルを含む)の視点から、類型化を行ったところ、①地域ネットワーク

型、②地域拠点ネットワーク型Ⅰ、③ネットワーク型Ⅱピア活用とのコラボレーション、④ネッ

トワーク型Ⅲ民間活用のコラボレーション、以上の 4 つのモデルがあることが明らかとなった。

さらにこれに基づき、5都市の活動実践を以下に整理した。

①地域ネットワーク型

地域ネットワーク型としては、岩手県北上市の活動実践があげられる。ここでは、施設入所(入

院)者を具体的に把握し、その退院に向けて地域関係者会議に医療職(病棟看護師長)が参加し、

本人のニーズ把握を行い、退院へ向けて不動産業者との連携(居住サポート事業)、高齢者の介

護保険課やヘルパーとの連携、モデル事例の勉強会や運営会議等での情報の共有活動がある。

②地域拠点ネットワーク型Ⅰ

地域拠点ネットワーク型Ⅰは、行政と地域活動支援センターなどの拠点事業所が協働する活動

である。地域活動支援センターなど民間事業所が拠点になっての活動である。行政の委託事業者

が明確でその事業者・キーパーソンと保健・医療・社会福祉・地域資源(不動産業者)の協働に

よる活動である。鳥取県東部圏域や東京都中野区の活動実践をあげることができる。

③ネットワーク型Ⅱピア活用とのコラボレーション

ネットワーク型Ⅱピア活用とのコラボレーションとは、ピアサポーター(当事者)の活動を地

域移行・地域定着支援に活用した当事者参加型援助論の実践活動を指す。沖縄県那覇市、大阪府

堺市の活動で先駆的な活動展開を行っている。今までの地域精神保健福祉活動の長い歴史があり、

地域活動、精神保健福祉士の活動などがあり、精神障害者のピアサポート活動が充実し、発展し

ている地域である。そこでは医療職、社会福祉や事業者、保健機関、行政などの多様なネットワ

ーク活動がすでに展開され、主体的でアクティブな活動実践を行っている。医療専門職は、保健

師、地域の事業者、社会福祉等の行政スタッフと多様なつながりと活動実践を柔軟に行っている。

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|第9章 まとめ 103

④ネットワーク型Ⅲ民間活用のコラボレーション

ネットワーク型Ⅲ民間活用のコラボレーションとは、医療・保健・社会福祉事業者・行政スタ

ッフの協働とつながりを踏まえたものである。本調査でも、地域住民である不動産業者との協働

による居住サポートの推進などがみられた岩手県北上市、東京都中野区、鳥取県東部圏域の活動

実践がある。また、住民に地域移行推進員養成講座を実施し、それが発展して住民参加型援助論

の支援体制で、新たな活動展開がみられる。

(5)提言 ~人の意欲と創造性・価値と認識

地域移行と地域定着支援事業では多様な人々が参加し、協働し、施設と地域の自立生活支援を

行っている。多様な施設の専門職(医療・保健職、ケアワーカー・ケアマネジャー)、行政、事

業者、精神障害者ピアサポート活動、住民、当事者のそれぞれが、目的を共有し、それぞれの活

動と役割を相互に明確に意識することも必要である。また、曖昧な知識ではなく時には法文等の

理解も関係者間で必要である。例えば、都道府県は市区町村をサポート、市区町村行政は、住民

に最も身近なサービスの提供で住民の健康・福祉の増進の役割がある。行政は長期計画と長期目

標へ向けた活動、予算と法文に基づいての活動である。地域の多様な関係者のコーディネーター

役でもある。そこでは、住民や関係者への新たな事業の普及啓発、研修等による人材育成等の効

果的活動の推進がある。地域の障害福祉サービス事業者は利用者の地域生活の維持・向上、自立

生活や就労支援など生活に関する多様な相談と自立支援サービスの提供がある。保健や医療職は

それぞれの法文に基づいた顧客である住民や患者への健康の保持増進・予防、疾患治療や悪化防

止、救急や機能回復への支援などがある。当事者ニーズを中心に医療からの退院の準備期・チャ

レンジ期を踏まえ(生物・心理面)、当面の 3 か月で医療(服薬)や健康・ADLの生活づくり

への移行(生物・心理・日常)、次の 3 か月でADLの安定と生活維持の習慣の定着化(生活体

験学習と効果)、次の 6か月で生活維持と生活向上への習慣の定着など、目標を明確にした時間・

コストを意識した支援が求められる(自立への学習・発達支援)。これらの期間では孤立させな

い伴走者が必要であり、住む場とともに昼間の通う場の確保も重要である。効果的・効率的に事

業を推進するには、関係者の意思疎通・情報交換・面識・協働活動、キーパーソン(地域移行推

進員)と活動を長期的視点でシステム化する環境改善(研修・啓発)を担う地域体制整備コーデ

ィネーターの活動がある。以上のことから、支援者に求められる 3 つの機能として整理すること

ができる。それは、①全体を見通し、予測し、予防と維持・増進、介入や緊急性も含め関係者の

支援を視野に入れながら活動する「マネージャー機能」、②自立は支援しないことでもあるとと

らえ、適度な介入と、一緒に考え、少し後ろから環境も含め適度に支援する「サポーター機能」、

③自立や機能維持を目的に本人の活動を共有しながら必要な時、行動をともにする身近さと見守

り支援を行う「伴走機能」、以上である。

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104 第9章 まとめ|

地域移行は一定のパターンでのサービスプランの作成での活動であるが、サービスプランが固

定的で均質ではなく、時に生活の変化、流動性があるので、緊急性や多層的・多面的要素を含ん

だ支援である。専門職の社会的役割責務と業務の推進面では、自ら発見し、行動する力をそれぞ

れが持ち、やりとりを柔軟にする協働力が求められる。そこで問題を発見する力と発見した事柄

に対して、私は、今は、なぜ、どうして、何のため、誰のため、例えば 、何時まで、そのプロセ

スと時間経過を具体的に明示 、順番をつけ、誰と協働するかなどの意識化が求められる。時には

図式化(創造性・明確化・伝える力)が必要である。その上で、反対の事柄も考え、多面的・時

間的に精査し、1人での支援ではなく、関係者との協働を意識して活動することが肝要である。

おわりに地域移行・地域定着支援事業は分掌事務の範囲を狭く限定した活動ではなく、1人の丸

ごとの顧客、住民として、皆が 1人のために、1人が皆のために、隙間のない活動を意識し、目の

前の変化に合わせ、気がついた人が柔軟な思考と行動で自立した協働活動が求められる。予算が

限られた中では、人の本来持っている知恵と工夫による創造的活動、認識変化も必要な時代であ

る。今回の調査では地域移行の推進ではまだまだ不十分な点、新たに浮き上がってきた検討課題

などがあり、引き続き詳細な調査と検討が必要ともいえる。また、地域定着支援事業の推進は調

査や検討を行ってはいない状況がある。

最後に、限られた時間の中で関係者の皆様の多大なご尽力で、5都市におけるヒアリング調査を

実施することができました。関係各位の皆様にここに厚く御礼申し上げます。