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3 回アジア地域上水道事業幹部フォーラム詳細報告 アジア各国では急激な人口増加と都市化が進んでおり、これに対し水道事業体が、水道サー ビスを拡大し、適切かつ持続的に提供していくことが必要です。しかし、施設の運用・保守 および更新に加え、組織体制及び経営基盤の安定が課題であり、そのための水道事業体の強 化と人材育成、関連機関等との連携や資金調達が必要となっています。 このような背景をふまえ、JICA は、近代水道発祥の地である横浜市と連携し、アジア地域 における持続性ある水道事業の経営に貢献することを目的として、7 1 日(火)から 7 4 日(金)にかけて、「アジアにおける水道事業体の持続可能な経営」をテーマに、「第 3 回アジア地域上水道事業幹部フォーラム()」を横浜シンポジア等で開催しました。 3 回目となった本フォーラムには、アジア 12 カ国(バングラデシュ、カンボジア、イン ド、インドネシア、ラオス、ミャンマー、ネパール、パキスタン、フィリピン、スリランカ、 タイ及びベトナム)から招いた水道事業体や水道行政機関の幹部 31 名の他、日頃、JICA 事業にご協力いただいている国内の自治体、関連機関、大学や企業の関係者総勢約 330 の方々が参加しました。 フォーラムの成果と概要を簡単にご紹介します。 全体記念写真

3回アジア地域上水道事業幹部フォーラム詳細報告...MCWD )、横浜市水道局及びベトナムのフエ水道公社 (HueWACO)から事例発表がありました。

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Page 1: 3回アジア地域上水道事業幹部フォーラム詳細報告...MCWD )、横浜市水道局及びベトナムのフエ水道公社 (HueWACO)から事例発表がありました。

第 3回アジア地域上水道事業幹部フォーラム詳細報告 アジア各国では急激な人口増加と都市化が進んでおり、これに対し水道事業体が、水道サービスを拡大し、適切かつ持続的に提供していくことが必要です。しかし、施設の運用・保守および更新に加え、組織体制及び経営基盤の安定が課題であり、そのための水道事業体の強化と人材育成、関連機関等との連携や資金調達が必要となっています。 このような背景をふまえ、JICA は、近代水道発祥の地である横浜市と連携し、アジア地域における持続性ある水道事業の経営に貢献することを目的として、7 月 1 日(火)から 7月 4日(金)にかけて、「アジアにおける水道事業体の持続可能な経営」をテーマに、「第 3回アジア地域上水道事業幹部フォーラム(注)」を横浜シンポジア等で開催しました。 第 3回目となった本フォーラムには、アジア 12カ国(バングラデシュ、カンボジア、インド、インドネシア、ラオス、ミャンマー、ネパール、パキスタン、フィリピン、スリランカ、タイ及びベトナム)から招いた水道事業体や水道行政機関の幹部 31 名の他、日頃、JICA事業にご協力いただいている国内の自治体、関連機関、大学や企業の関係者総勢約 330 名の方々が参加しました。 フォーラムの成果と概要を簡単にご紹介します。

全体記念写真

Page 2: 3回アジア地域上水道事業幹部フォーラム詳細報告...MCWD )、横浜市水道局及びベトナムのフエ水道公社 (HueWACO)から事例発表がありました。

1. フォーラムの成果

(1) アジア地域における成功事例や知見の共有や「場」の提供 国内外の水道事業体の幹部、有識者が横浜に集い、アジア地域における水道事業の共通点や違いをふまえた上で次のような成功事例や知見を共有しました。 カンボジアのプノンペン水道公社(PPWSA)の無収水対策の事例を受け、経営改善

には無収水対策、料金改定だけでなく経営の効率化の視点が重要という点が新たな発見であったというコメントがありました。

フィリピンのメトロセブ水道区(MCWD)の精度の高いメーターの調達の事例に対して、公的機関である水道公社が如何に入札条件を示せるかという点で知見を共有しました。

人材育成に関し、研修を受けた職員が離職するという問題提起に対して、モラル向上や態度の改善が重要であり、インセンティブの付与や長期的取組が必要といった意見に賛同の声がありました。

タイとフィリピンの民間連携の事例に対して、直営時と民間活用の際の水道料金比較の検討に関する意見交換が行われました。

(2) 我が国の協力後のインパクトのモニタリング 我が国の協力後に実施されたアジア各国における水道事業体の独自の取り組みを共有しました。2013年 1月の第 3回アジア地域上水道事業運営・人材育成セミナーに出席したフィリピンのカガヤン・デ・オロ水道区(COWD)からは、帰国後アクションプランをもとに独自の予算で無収水対策について学ぶためプノンペン水道公社(PPWSA)へのスタディーツアーを実施した事例が紹介されました。 また、参加水道事業体の基礎情報を整理し、今後のモニタリングに活用する環境を整備しました。

(3) 水道事業体トップの意識向上への貢献 海外招聘者から「資機材調達の品質管理を民間に任せるのではなく事業体として取り組みたい(スリランカ、国家上下水道公社)」、「アジア各国の知見や日本の規律を学んだ。帰国後、自身の組織に取り入れることを検討したい(パキスタン、パンジャブ州住宅都市開発局)」といったコメントが寄せられ、フォーラムを通じ、トップ層の意識向上に貢献しました。 (4) 新たなグッドプラクティス・次世代リーダーの育成 2010年の第1回フォーラムから参加いただいているカンボジア工業手工芸省のエクソンチャン長官(元 PPWSA総裁)の強いリーダーシップを改めて確認し、また、この他にも成果を上げているアジアの水道事業体(フィリピンのメトロセブ水道区(MCWD)、カガヤン・デ・オロ水道区(COWD)、ベトナムのフエ水道公社等(HueWACO))における取り組みや成功事例が発表され、成長著しいアジアの水道事業体において次世代を担うリーダーが育成されていることを確認しました。

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2. フォーラムの概要 フォーラムは、木山繁 JICA理事、土井一成横浜市水道局長による主催代表挨拶で始まりました。木山 JICA理事は「水道事業体の持続可能な経営の実現には、水道事業体のトップや幹部の意識が重要。過去のフォーラムに参加され、得られた知見を基に独自に組織、経営改善を促進いただいてきた。今回も有益な経験や知見が得られるはずであり、それぞれの組織に持ち帰り、リーダーシップを発揮いただき、実践に移してほしい」と述べました。 土井横浜市水道局長からは「世界の水道事業体は、安全で安心できる水源や水質の確保、地震や台風などの大災害への対策、安定した事業経営の方策、次世代を担う人材育成等といった多くの共通した課題を抱えている。これらの課題解決に向けては、国際的なレベルで事業体相互が強く連携し、経験や技術の共有を図り、ともに協力して立ち向かっていきたい」と発言がありました。 (1) パネルディスカッション:変化する世界における持続的水道サービス 北海道大学の眞柄泰基特任教授による基調講演の後、東京大学教授の滝沢智モデレーターの下、各パネリストから、人口増加や経済成長に対して、水資源や人材の確保などの需要の増加等が変化として挙げられ、持続的な水道サービスの実現の鍵として、水質確保、給水の持続性、料金設定、事業の効率化、顧客満足度等の視点から意見が述べられました。 その後、「日本とアジアの水道事業体の発展における共通点と違いは何か」、「アジア各国や都市において、持続可能な水道事業を促進/継続している上での課題や秘訣は何か」、「変化する世界における水道事業体にとっての挑戦や機会は何か」、「企業や ODA の役割は何か」というテーマに関し、議論が行われました。

パネルディスカッション風景①

パネルディスカッション風景②

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パネルディスカッションに続き、「収入の確保」、「メンテナンスと機材調達」、「人材育成」、「連携・協力」及び「災害対策と水道事業の継続性」の各セッションにおいて、日本とアジア双方の事例を発表した上で討議を行い、互いの成功事例、教訓や知見を学び合いました。 また、初日の夜、JICA 横浜でレセプションを開催しました。参加者は相互に和やかに懇談し、旧交を温めあうと共に新たなネットワークを育みました。

(2) セッション 1:収入の確保 バングラデシュのチッタゴン上下水道公社(CWASA)、フィリピンのカガヤン・デ・オロ水道区(COWD)及びプノンペン水道公社(PPWSA)から事例発表がありました。 本セッションの議論において、①料金回収を改善するには、顧客満足が鍵となり、事業運営の効率化は顧客満足につながること、②この循環を好転させることが重要であること、③水道料金の改定以前に事業の効率化に取り組む必要があること、等が確認されました。

セッション 1バングラデシュ発表 セッション 2ベトナム発表

討論風景② 討論風景①

レセプション風景

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(3) セッション 2:メンテナンスと機材調達 フィリピンのメトロセブ水道区(MCWD)、横浜市水道局及びベトナムのフエ水道公社(HueWACO)から事例発表がありました。 本セッションの議論において、①事業体のコスト縮減には予防的メンテナンスが重要な役割を果たすこと、②信頼性と耐久性の高い資材の調達、そのためのガイドラインや検査制度などの整備がライフ・サイクル・コスト(Life Cycle Cost (LCC))の低減に寄与すること、③水道の安全性を確保するため、水処理の各段階における水質監視や標準手順書(Standard Operation Procedures (SOP))での手順の規定を含む水安全計画(Water Safety Plan(WSP))の実施が必要であること、等が確認されました。

(4) セッション 3:人材育成 タイ首都圏水道公社(MWA)、名古屋市上下水道局及びインドネシア公共事業省から事例発表がありました。 本セッションの議論において、①人材育成は研修だけではなく、採用計画やバックアップ・プログラム等も含む長期的な視点が必要なこと、②スキルだけでなくモラルの改善も含める必要があること、③インセンティブ制度の活用や研修成果の活用のモニタリングなども推奨されること、等が確認されました。

会場風景① 会場風景②

セッション 3名古屋市発表 特別セッション仙台市発表

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(5) 特別セッション 仙台市水道局、タイ首都圏水道公社(MWA)及びカガヤン・デ・オロ水道区(COWD)から事例発表がありました。 本セッションの議論において、①被災時も安全な水の供給が水道の使命であること、②このために水道事業体トップのリーダーシップや災害への備え、情報収集・共有、多様な関係者との協力が必須となること、等が確認されました。

(6) セッション 4:連携・協力 ラオスの首都ビエンチャン水道公社(NPNL)-さいたま市水道局、インドのバンガロール上下水道委員会(BWSSB)及びインドネシアの都市・自治体連合 アジア太平洋支部(United Cities and Local Governments Asia Pacific)から事例発表がありました。 本セッションの議論において、①連携・協力のパートナーは多様化していること、②連携・協力を通じ、相互に良い事例を学ぶ機会となること、③連携・協力には相互の信頼関係が肝となること、等が確認されました。

討論風景④ 討論風景③

セッション 4ラオスーさいたま市発表 セッション 4インド代表

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(7) ラップアップと「横浜宣言 2014」の採択 海外招聘者全員からフォーラム全体へのコメントを受けました。 パネルディスカッションを除く、上記セッションの要点をまとめると共に、①水需要、水源、気候、経済や政治等における将来の変化をふまえながら、水道事業の悪循環を好循環に切り替えることは持続的な水道事業経営に不可欠であること、②そのために、水道事業体のトップは、持続的な水道事業をアジア各都市で推進していくため、収入の確保、メンテナンスと機材調達、人材育成、防災及び連携・協力等の分野で、将来を見通した予防的な行動(pro-active and preventive actions)を実践していくこと必要があること、③水道事業の持続的な経営に向けて、ベンチマークやモニタリングの枠組みを整備が望ましいこと、④アジア各国間の相互の連携を強化していくこと、が提言され、参加者は同じ水道のミッションと共通した価値観を持つ「Water Family」として、共働して事業を改善し、連携を強化していくことを確認し、参加者全員で「Yokohama Forum Statement 2014(横浜フォーラム宣言 2014)」を採択しました。

ラップアップ② ラップアップ①

最終とりまとめ② 最終とりまとめ①

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最後に、渡辺巧教横浜市副市長から「横浜市は JICAと連携しながら、優れた企業や大学等と連携し、水道事業はもちろん、様々な都市の課題について、解決策を提案していきます。皆様とも、さらにつながりを深めながら、アジアの平和と発展のために、ともに努力していきましょう」とお言葉をいただきました。 続けて、海外招聘者は、横浜市水ビジネス協議会企業によるビジネスセミナー(8企業によるプレゼンテーション、11企業によるブースでの説明会)に参加しました。 フォーラム最終日には、セラミック製の膜モジュールを使用した日本最大級の膜ろ過施設である横浜市水道局の川井浄水場を視察しました。セラミック膜による水処理技術だけでなく、PFI(Private Finance Initiative)による事業、太陽光発電を活用した省エネ技術等の事例について見識を深めました。 フォーラム全体を通じ、海外招聘者からは、「過去のフォーラムやセミナーにも参加したが、例年以上に素晴らしい内容だった。日本のアジア各国の事例から新たに多くのことを学んだ。横浜市と JICAに感謝したい」、「帰国後、フォーラムで学んだことを実践したい」、「空港到着以来、どこに行ってもしっかりとした対応をしてもらい感激した」といったコメントが寄せられ、それぞれ、帰国の途につきました。

以上

渡辺横浜市副市長閉会挨拶

川井浄水場視察①、② 川井浄水場視察③、④

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注:アジア地域上水道事業幹部フォーラム:JICA は資金協力による施設建設や技術協力による水道事業体の能力開発等、これまでに水道分野で数多くの協力を実施してきました。一方、完工後にこれらの施設に十分な能力を発揮させ、適切な給水サービスを持続的に行っていくためには、施設の運用・保守および更新に加え、組織体制及び経営基盤の安定が重要であり、そのための水道事業体の強化と人材育成、関連機関等との連携や資金調達が課題となっています。このような問題意識に基づき、横浜市との共催により、多くの自治体水道局、民間団体・企業などの協力を得て 2010年 1月に「第 1回アジア地域上水道事業幹部フォーラム」を開催し、「悪循環から好循環」をテーマにアジア各国より水道事業体の経営者、及び政府における水道政策主管部門の責任者を招聘しました。フォーラムの成果として、横浜フォーラム宣言を採択し、6つの共通課題(①都市水道に対する政策(水道事業体のみならず中央政府及び地方政府の強力な関与)、②財政と運営(悪循環から好循環への変換)、③無収水対策(新規水源開発よりも経済的)、④都市部貧困層への対策、⑤安全な水と品質管理、⑥人材育成)の解決が必要であることを確認しました。これに続き、2011年 10月に東京にて「第 2回アジア地域上水道事業幹部フォーラム」が開催され、「対話と連携」をテーマに第 1回フォーラムで採択された横浜フォーラム宣言の 6つの共通課題の解決の必要性を再確認するとともに、ODA、水道事業体間連携(WOPs)及び官民連携(PPP)活用の重要性、フォーラム参加者の各国における活動立ち上げや実行のモニタリングの重要性が確認されました。また、第 1回フォーラムのフォローアップとして、同フォーラムに参加した国々の水道事業体幹部を対象として、水道事業の経営改善に焦点を当てた「アジア地域上水道事業運営・人材育成セミナー」を 2011年-2013年に亘り横浜で 3回開催し、2011年には東南アジア諸国、2012年には南アジア諸国、2013年には両地域の水道事業体を対象に経営人材の育成を図ってきました。