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幌延深地層研究所の250m調査坑道における 掘削損傷領域の経時変化に関する検討 青柳 和平 1 ・津坂 仁和 2 ・窪田 健二 3 ・常盤 哲也 4 ・近藤 桂二 5 ・稲垣 大介 6 1 正会員 (独)日本原子力研究開発機構 幌延深地層研究センター (〒098-3224 北海道天塩郡幌延町北進432 番地2E-mail: [email protected] 2 正会員 (独)日本原子力研究開発機構 幌延深地層研究センター(同上) (現 国際石油開発帝石株式会社) E-mail: [email protected] 3 非会員 (一財)電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域 (〒270-1194 千葉県我孫子市我孫子1646E-mail: [email protected] 4 非会員 信州大学助教 理学部 地質科学科(旧 日本原子力研究開発機構) (〒390-8621 長野県松本市旭3-1-1E-mail: [email protected] 5 正会員 日本原子力研究開発機構 幌延深地層研究センター(現 株式会社ダイヤコンサルタント) (〒098-3224 北海道天塩郡幌延町北進432 番地2E-mail: [email protected] 6 非会員 日本原子力研究開発機構 幌延深地層研究センター(同上)(現 東京電力株式会社) E-mail: [email protected] 著者らは,幌延深地層研究所の250m調査坑道において弾性波および比抵抗トモグラフィにより,掘削 損傷領域の弾性波速度や見掛比抵抗値の経時変化を計測している.弾性波トモグラフィ調査では,坑道掘 削に伴い,壁面から約1mの範囲で弾性波速度が低下した.一方,比抵抗トモグラフィ調査では,掘削に 伴う顕著な比抵抗変化は見られなかった.さらに,坑道壁面の割れ目の観察結果に基づいて,調査領域の 三次元割れ目モデルを作成して,坑道掘削後の弾性波トモグラフィ調査で得られる各測線の弾性波速度と 割れ目密度の関係を分析したところ,割れ目密度の増大とともに弾性波速度が低下することが明らかとな った.このことから,弾性波トモグラフィ調査と割れ目密度の検討により,掘削損傷領域を適切に評価で きることが示された. Key Words : excavation damaged zone, soft sedimentary rock, seismic tomography, resistivity tomog- raphy, fracture 1. 諸言 高レベル放射性廃棄物の地層処分場,地下発電所の大 規模地下空洞,鉄道や道路トンネルのような地下空間建 設時には,坑道掘削による坑道壁面周辺の応力再配分に 起因して,坑道周辺の力学的・水理学的・化学的な岩盤 物性が変化する領域が発生する.この領域のうち,掘削 に伴い,坑道周辺の岩盤に割れ目が発生し,それらが天 然の割れ目とともに互いにネットワークを形成すること により,透水性が上昇し,物質移行特性に顕著な影響を 与えると予想される領域は,掘削損傷領域(Excavation Damaged Zone, EDZ )と称される 1) .一方,坑道掘削の影 響で,坑道周辺岩盤中に物質移行特性や透水性に顕著な 影響は発生していないが,水理学的・化学的な変化が生 じた領域は掘削影響領域と称される(Excavation disturbed Zone, EdZ1) .高レベル放射性廃棄物の地層処分におけ る処分場建設時に立坑や処分坑道を含む坑道の周辺岩盤 EDZ が生じると,岩盤の崩落や著しい変状といった力 学的な不安定現象が生じ,地層処分場の建設や操業の安 全性に影響を与えると考えられる 2) .また,掘削に伴い 土木学会論文集C(地圏工学), Vol. 70, No. 4, 412-423, 2014. 412

幌延深地層研究所の250m調査坑道における 掘削損傷領域の経時 …

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Page 1: 幌延深地層研究所の250m調査坑道における 掘削損傷領域の経時 …

幌延深地層研究所の250m調査坑道における 掘削損傷領域の経時変化に関する検討

青柳 和平1・津坂 仁和2・窪田 健二3・常盤 哲也4・近藤 桂二5・稲垣 大介6

1正会員 (独)日本原子力研究開発機構 幌延深地層研究センター (〒098-3224 北海道天塩郡幌延町北進432 番地2)

E-mail: [email protected]

2正会員 (独)日本原子力研究開発機構 幌延深地層研究センター(同上) (現 国際石油開発帝石株式会社)

E-mail: [email protected]

3非会員 (一財)電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域 (〒270-1194 千葉県我孫子市我孫子1646)

E-mail: [email protected]

4非会員 信州大学助教 理学部 地質科学科(旧 日本原子力研究開発機構) (〒390-8621 長野県松本市旭3-1-1)

E-mail: [email protected]

5正会員 日本原子力研究開発機構 幌延深地層研究センター(現 株式会社ダイヤコンサルタント) (〒098-3224 北海道天塩郡幌延町北進432 番地2)

E-mail: [email protected]

6非会員 日本原子力研究開発機構 幌延深地層研究センター(同上)(現 東京電力株式会社)

E-mail: [email protected]

著者らは,幌延深地層研究所の250m調査坑道において弾性波および比抵抗トモグラフィにより,掘削

損傷領域の弾性波速度や見掛比抵抗値の経時変化を計測している.弾性波トモグラフィ調査では,坑道掘

削に伴い,壁面から約1mの範囲で弾性波速度が低下した.一方,比抵抗トモグラフィ調査では,掘削に

伴う顕著な比抵抗変化は見られなかった.さらに,坑道壁面の割れ目の観察結果に基づいて,調査領域の

三次元割れ目モデルを作成して,坑道掘削後の弾性波トモグラフィ調査で得られる各測線の弾性波速度と

割れ目密度の関係を分析したところ,割れ目密度の増大とともに弾性波速度が低下することが明らかとな

った.このことから,弾性波トモグラフィ調査と割れ目密度の検討により,掘削損傷領域を適切に評価で

きることが示された.

Key Words : excavation damaged zone, soft sedimentary rock, seismic tomography, resistivity tomog-raphy, fracture

1. 諸言

高レベル放射性廃棄物の地層処分場,地下発電所の大

規模地下空洞,鉄道や道路トンネルのような地下空間建

設時には,坑道掘削による坑道壁面周辺の応力再配分に

起因して,坑道周辺の力学的・水理学的・化学的な岩盤

物性が変化する領域が発生する.この領域のうち,掘削

に伴い,坑道周辺の岩盤に割れ目が発生し,それらが天

然の割れ目とともに互いにネットワークを形成すること

により,透水性が上昇し,物質移行特性に顕著な影響を

与えると予想される領域は,掘削損傷領域(Excavation

Damaged Zone, EDZ)と称される1).一方,坑道掘削の影

響で,坑道周辺岩盤中に物質移行特性や透水性に顕著な

影響は発生していないが,水理学的・化学的な変化が生

じた領域は掘削影響領域と称される(Excavation disturbed

Zone, EdZ)1).高レベル放射性廃棄物の地層処分におけ

る処分場建設時に立坑や処分坑道を含む坑道の周辺岩盤

にEDZが生じると,岩盤の崩落や著しい変状といった力

学的な不安定現象が生じ,地層処分場の建設や操業の安

全性に影響を与えると考えられる2).また,掘削に伴い

土木学会論文集C(地圏工学), Vol. 70, No. 4, 412-423, 2014.

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Page 2: 幌延深地層研究所の250m調査坑道における 掘削損傷領域の経時 …

透水性が増大した領域は,廃棄体埋設後に核種の主要な

移行経路となる可能性がある3).このような問題に対応

するため,掘削時に生じるEDZの力学的・水理学的な評

価が重要となる.また,透水性の増大に寄与する割れ目

は,廃棄体定置後に,坑道を埋め戻した際に使用する埋

め戻し材料の膨潤に伴う坑道壁面に作用する圧力の増大,

坑道埋め戻し後の再冠水過程における岩盤中の粘土鉱物

の膨潤等の現象により閉口していき,透水性が徐々に低

下していく“Self-sealing”挙動を示すことが報告されて

いる4).よって,EDZの変化を経時的にとらえてSelf-

sealing挙動について検討することも,地層処分において,

廃棄体埋設後の長期的な安全性の評価のために重要とな

る.

これまで,トンネルの掘削現場や地下研究所の坑道に

おいて,EDZおよびEdZの力学的・水理学的・化学的性

質の変化を把握するために,さまざまな原位置試験や解

析が行われてきた.それらの試験の中で,岩盤の物性の

変化を空間的に把握するための最も汎用的な方法として,

物理探査が挙げられる.たとえば地下研究所では,結晶

質岩を対象とするカナダのWhiteshell研究所5),日本の釜

石鉱山原位置試験6),粘土質堆積岩を対象とするスイス

のMont Terri岩盤研究所7), 8), 9),フランスのMeuse/Haute

Marne地下研究所10)や,堆積岩を対象とする日本の東濃

鉱山における試験研究11), 12),幌延深地層研究所13), 14), 15)で

実施された事例が報告されている.物理探査に加えて,

水理試験や壁面周辺の割れ目の観察など,様々な調査・

計測を別途行ったものもある.たとえば,Bossartら16)は,

Mont Terri岩盤研究所で行われた壁面の地質観察,樹脂注

入による割れ目の可視化実験,透水試験,透気試験の結

果に基づきEDZの概念モデルを作成した.そのモデルを

基に,壁面から1m以内では,掘削に伴い坑道周辺に新

たに発生する割れ目同士が互いにネットワークを形成し

ており,それらが透水性の増大に寄与すると論じている.

Satoら12)は,東濃鉱山において弾性波トモグラフィ調査

と同時に透水試験を行い,弾性波速度が顕著に低下した

壁面から1m以内の範囲において,透水性が2オーダー以

上増加したと報告している.また,室内試験によって,

割れ目密度の増大とともに弾性波速度や弾性波の初動の

振幅が低下する傾向を示した事例17), 18), 19)もいくつか見ら

れる.しかしながら,原位置岩盤において,物理探査結

果と割れ目の情報を統合して,掘削に伴う割れ目の発達

を詳細に検討した事例は見られない.一方,EDZ内部の

Self-sealing挙動の検討のために,地下研究所において,

掘削により生じた割れ目の透水性の経時変化について検

討した事例も多く見られる20).しかしながら,これらの

検討においても,原位置における物理探査結果に基づい

てEDZの空間的な経時変化を報告している事例は見られ

ない.

これらの研究事例より,掘削による割れ目の発達を把

握し,その経時変化を捉えることにより,EDZの長期的

な挙動を,空間的に検討していくことが研究課題として

重要なものである.本論文では,(独)日本原子力研究

開発機構(以下,原子力機構という)が建設している幌

延深地層研究所の250m調査坑道において,数年にわた

り実施している弾性波・比抵抗トモグラフィの結果と,

坑道掘削時の地質観察に基づく坑道側面の割れ目分布の

分析に基づいて,掘削時からその後2年程度の期間にお

けるEDZの空間的な発達とその状態について論じる.

2. 原位置試験の概要

(1) 幌延深地層研究所の概要

原子力機構は,堆積岩を対象として,高レベル放射性

廃棄物の地層処分技術の信頼性向上のための調査研究開

発を,北海道天塩郡幌延町に位置する幌延深地層研究所

で進めている.図-1に,同研究所の地下施設のレイアウ

トを示す.2013年12月末時点で,青色部分の施工が完了

している.東・西立坑は深度350mまで,換気立坑は深

度362mまで掘削された.2014年6月までに深度350mの水

平坑道全域と,東・換気立坑の深度380mまで,西立坑

の深度365mまでの掘削が完了する予定である.本研究

の調査は,鮮新世の珪藻質泥岩で構成される声問層で実

施された.表-1にその物性値21)を示す.図-2に250m調査

坑道全体の平面図を示す.調査を行った西側調査坑道の

断面形状は三心円馬蹄形であり,幅は直径約4.0m,高さ

図-1 幌延深地層研究所のレイアウト

土木学会論文集C(地圏工学), Vol. 70, No. 4, 412-423, 2014.

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Page 3: 幌延深地層研究所の250m調査坑道における 掘削損傷領域の経時 …

は約3.2mである.掘削は,機械掘削で行われた.また,

主要な支保構造は,厚さ約20cmの吹付けコンクリート,

H-150の鋼製支保工,長さ2mのロックボルトであった.

同調査坑道では,切羽が1m掘進するたびに切羽および

側壁面の地質観察を行った.地質観察では,当該切羽に

おける50cm以上の連続性を有する割れ目をスケッチす

るとともに,2m以上の連続性を有する割れ目に関して

は,割れ目の成因,形態,走向・傾斜などを記録した22).

(2) 弾性波トモグラフィ調査

図-3(a)に弾性波トモグラフィ調査領域の平面図を,(b)

に側面図を示す.本調査の対象となる西側調査坑道の掘

削に先立ち,換気側調査坑道および東側調査坑道の掘削

が実施された.西側調査坑道の掘削前に,換気側調査坑

道から直径 86mmの水平な発振孔および受振孔を穿孔し

た.発振孔の孔長は 15.6m,底盤からの高さは 1.5m,受

振孔の孔長は 22.3m,底盤からの高さは 1.0mである.そ

れら 2本の孔底にあたる坑道壁面から約 4mの平行四辺

形で囲まれた領域をトモグラフィ領域とした.調査は,

西側調査坑道掘削前(2011 年 2 月 20 日),坑道掘削中

は,図-3(a)に示す掘削 1~12の各段階(2011年 3月 1日

~16 日)で実施した.西側調査坑道は,初期値の取得

から 54日後(2011年 4月 15日)に掘削が完了した.掘

削の完了後も,掘削切羽が調査領域を通過してから一年

間は約 50 日おきに,その後は年 4 回定期的に調査を継

続している.

弾性波トモグラフィ探査には,140m 調査坑道におけ

る水平坑道掘削影響試験で実績のある簡易型弾性波トモ

グラフィ調査システムを利用した 23).図-4にシステムの

図-3 弾性波トモグラフィ調査領域.(a)は弾性波トモグラ

フィ調査領域平面図を,(b)は南西方向から見た弾性波

トモグラフィ調査領域の側面図を表す.

図-4 弾性波トモグラフィ調査システムの概略図(杉田

ら,2011に加筆)

表-1 珪藻質泥岩の物性 21)

図-2 250m 調査坑道全体図と弾性波・比抵抗トモグラフ

ィ調査実施位置

土木学会論文集C(地圏工学), Vol. 70, No. 4, 412-423, 2014.

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Page 4: 幌延深地層研究所の250m調査坑道における 掘削損傷領域の経時 …

概略図を示す.既往の研究では,弾性波の発振源として,

電気雷管を用いた事例や,ファンクションジェネレータ

から発生する弾性波を増幅させてピエゾ震源により発振

する事例などが見られるが,地下水に可燃性ガスを伴う

幌延の地質環境条件のもとでは,防爆の観点からそのよ

うな電気式の発振源を使用することは難しい.また,表

-1 に示したように低強度の堆積軟岩を対象として繰り

返し調査を行うためには,弾性波の発振による孔壁の損

傷を極力抑える必要がある.そのため,孔内で電気を使

用せず,なおかつ繰り返し探査により,ボーリング孔内

に著しい損傷を与えない程度の打撃エネルギーを有する

発信源として,圧縮空気のエネルギーを利用して孔壁を

打撃する,特注のエアノッカー式ハンマーを使用した.

ハンマーはアルミ製の四角ロッドに取り付けられている.

これにより,毎回同じ位置,方向での調査が可能である.

発振孔には,15 個の発振点を設けた.各発振点は,孔

底から 1 点目は 20.5cm に設け,次の 12 点は 25cm 間隔

で,残り 2点は 50cm間隔で設けた.受振孔には,15個

の受振器を配置した.受振器を地山に密着させなくても

水を介して振動を感知できること,さらに,初動の立ち

上がりを鋭敏に捉えることができることから,受振器に

は,ハイドロフォン(HTI-96-MIN)を採用した.受振器

は,孔底から 10 点は 25cm,残り 5 点は 50cmに設置し,

その後孔内を,坑道内に供給されている井戸水で満たし

た.また,掘削 11 に達した時に新たに壁面に 3 個のジ

オフォン(GS-100)と 1個の発振点を設け,坑道壁面近

傍の弾性波速度構造を詳細に把握することとした.

弾性波トモグラフィ調査の解析手順については,まず,

10 回の発振により得られた波形データを重合した後に,

弾性波の初動をピックアップする.それを基に初期モデ

ルを逆投影法(Back Projection Technique)により計算する.

なお,西側調査坑道の掘削前に取得した弾性波速度を初

期モデルとして設定した.計測領域を 72 個のセルに分

割し,発振点と受振器まで直線の測線を仮定する.そし

て,各走時に対して平均速度を求め,セル内の平均速度

を求めることにより初期モデルを作成する.次に,同時

反復法(Simultaneous Iterative Reconstruction Technique)によ

り初期モデルの走時残差を計算して,弾性波速度構造の

誤差が収束するまで初期モデルを更新していき,最終的

な弾性波速度のコンター図を作成した.本論文に示す結

果は,掘削前に得られた速度構造を初期モデルとして解

析したものである.

(3) 比抵抗トモグラフィ調査

図-5 に比抵抗トモグラフィ調査領域のレイアウトを

示す.弾性波トモグラフィ調査と同様,換気側調査坑道

から穿孔した 2 本の水平孔(直径 86mm)を利用し,調

査領域を設定した.図-5(b)の側面図に示すとおり,電極

設置孔 2は受振孔と同一の孔を利用し,電極設置孔 1は,

坑道底盤から 0.5m の高さに穿孔された.電極設置孔 1

には孔の奥から順に計 30個,電極設置孔 2には計 23個

のステンレス製電極を取り付けた多芯ケーブルをそれぞ

れ設置した.電極間隔は全て 25cm である.なお,西側

調査坑道の掘進に伴い孔の一部が崩壊したため,解析に

は 25個(電極設置孔 1),21個(電極設置孔 2)の電極

による計測値を用いた.計測においては,岩盤と電極と

の導通を向上させるため,孔口にホースを上向きに接続

させて孔内に一時的に水を溜めた.水は地上部から坑道

へ供給されている井戸水(電気伝導度約 200S/cm;

50m)を用いた.

計測は,まず西側調査坑道の掘削前に 3回(2010年 5

月,8月,および 2011年 1月)実施した.その結果,比

抵抗の変化は概ね 5%以内と,ほぼ一定の値を示すこと

を確認した 15).さらに,坑道掘削中は,掘削 6 の段階

(2011年 3月 8日)に 1回計測し,掘削後は年 2回の頻

度で定期的に計測した.

比抵抗の計測には,任意の周波数の矩形波電流を送信

図-5 比抵抗トモグラフィ調査の概略図.(a)は比抵抗トモ

グラフィ調査領域の平面図を,(b)は南西方向から見た

比抵抗トモグラフィ調査領域の側面図を表す.

土木学会論文集C(地圏工学), Vol. 70, No. 4, 412-423, 2014.

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Page 5: 幌延深地層研究所の250m調査坑道における 掘削損傷領域の経時 …

し,4 チャンネルの電位を同時に受信することができる

電気探査装置を使用した.電極配置は,4 極法での計測

法のうち,ウェンナー配置及びエルトラン配置を用いた.

各配置時点において,周波数を 2.5Hz,スタッキング回

数を 4回として計測した.

解析は,市販の 2次元比抵抗解析ソフトウェアである,

EarthImager 2D(AGI製)を用いた.ソフトウェアに組み

込まれている差解析機能を用いて,基準時点(2010 年 8

月)における比抵抗分布を初期値とした解析を実施した.

また,スタッキングにおける標準偏差や,後述する基準

時点同士における比抵抗の違いを考慮して,5%のノイ

ズを加えた上でそれぞれ解析した.

3. 原位置調査結果

(1) 弾性波トモグラフィ調査

図-6(a)~(h)に,坑道掘削前,調査領域付近を掘削中の

掘削6,12,掘削完了後の初期値取得から64日後,214日

後,369日後,561日後,743日後の速度構造のコンター

図を示す.弾性波速度コンター右側の白色部分は未掘削

領域を,灰色部分は掘削された領域を表している.発振

波の卓越周波数は約5~15kHz,健岩部を透過した受振波

の初動周波数は約3.0kHzであった.図-6(a)に示す坑道掘

削前の調査により,初期の岩盤の弾性波速度の平均値は,

1.67km/sであった.これは,地下施設建設前の地上から

のボーリング調査で実施された音波検層の計測値である,

1.66~1.85km/sに調和的な速度である24).さらに,調査領

域全体の速度が1.6~1.8km/sで分布していることから,掘

削前は速度構造がおおむね均質である.切羽が調査領域

に到達する前の掘削段階である,図-6(b)の掘削6では,

弾性波速度に顕著な変化は見られなかった.その後,切

羽が調査領域から掘削径である約4m程度離れた状態ま

で掘削された図-6(c)の掘削12では,壁面付近の弾性波速

度が顕著に低下した.コンター中に暖色系で示す弾性波

速度低下領域,すなわち弾性波速度が1.4km/s以下の領域

が,壁面から約1.0mの範囲まで広がった.次に,調査領

域掘削後の弾性波速度低下領域の変化に着目すると,図

-6(d), (e)に示す初期値取得から64,214日後にかけて,壁

面から約50cmの範囲まで狭まるが,図-6(f)に示す369日

後には,再び広がり始め,図-6(g)および(h)に示す561日

以降は,速度低下領域が壁面から約70cmの範囲で安定

する様子が見られた.掘削後2年間の範囲では,弾性波

速度の低下領域は,掘削直後に相当する掘削12で確認さ

れた,壁面から約1mの範囲を越えることはなかった.

また,このように約2年程度繰り返し弾性波トモグラフ

ィ調査を実施したが,発振孔の孔壁の損傷に伴う受振波

の減衰により初動の読み取りが困難になることはなかっ

たことから,今回採用した簡易弾性波トモグラフィ調査

システムは,長期的な計測に適用可能であると考えられ

る.

受発振波形の例を図-7に示す.図中の波形は西側調査

坑道掘削後の,初期値取得から64日後に実施された調査

で取得したものである.同図より,孔底から1.25mまで,

すなわち坑道壁面から約1.0mまでに位置するハイドロフ

ォンおよび坑壁に設置したジオフォンでは,受振された

波動が小さく,弾性波の振幅および周波数の減衰が著し

かった.よって,壁面から約1mの範囲では,坑道掘削

の影響による弾性波の減衰が顕著に生じたといえる.

図-6 弾性波トモグラフィ調査結果.それぞれ,(a)掘削

前,(b)掘削 6,(c)掘削 12,(d)初期値取得 64日後,(e)

初期値取得 214日後,(f)初期値取得 369日後,(g)初期

値取得 561 日後,(h)初期値取得 743 日後の弾性波速

度を表す.

土木学会論文集C(地圏工学), Vol. 70, No. 4, 412-423, 2014.

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Page 6: 幌延深地層研究所の250m調査坑道における 掘削損傷領域の経時 …

(2) 比抵抗トモグラフィ調査

図-8 に,電極設置孔 1,2 それぞれにおける見掛比抵

抗分布のうち,坑道掘削前(2010年 8月),掘削 6の時

点,および弾性波トモグラフィの初期値取得日を基準と

して 216日後,361日後,570日後,765日後における結

果を示す.また,図-8 は,ウェンナー配置の最小電極

間隔の場合に得られた見掛比抵抗値である.同図より,

電極設置孔 1,2 ともに約 5.0~5.5m の見掛比抵抗値を

示しており,深度による違いはほとんど見られない.西

側調査坑道の掘削前後における見掛比抵抗値を比較する

と,壁面付近であっても変化はほとんど見られない.な

お,見掛比抵抗値が全体的にやや高い時期と低い時期に

分かれる傾向が見られるが,これは,計測した季節によ

る違いを反映しており,冬に計測した場合のほうが,見

掛比抵抗値が最大 10%程度増大していた.一般に,岩石

の比抵抗は温度に応じて変化することが知られており,

温度が低くなるほど比抵抗は増大する 25).本調査領域で

は,夏季は最大 25℃,冬季は最低 10℃の気温が観測さ

れており,最大約 15℃の温度変化が見られる.過去の

研究による実験式では,温度が 10℃から 25℃に変化す

るとき,比抵抗は約 30%低下する結果が得られている 26).

従って,比抵抗に季節変化が生じる要因の一つとして,

岩盤温度の違いが考えられる.ただし,岩盤温度の経時

変化に関するデータは本調査期間中取得していないため,

今後ボーリング孔内に温度計を設置して取得していく予

定である.

図-9 に,図-8 で示した各時点における比抵抗二次元

図-7 初期値取得 64 日後の受発振波形の一例(横軸は時

間,縦軸は電圧)

図-8 ウェンナー配置,最小電極間隔での見掛比抵抗値の

分布.(a)は電極設置孔 1,(b)は電極設置孔 2 の分布

を示す.

図-9 比抵抗二次元解析断面.それぞれ,(a)掘削前,(b)掘

削 6,(c)弾性波トモグラフィの初期値取得 216日後,

(d)弾性波トモグラフィの初期値取得 361 日後,(e)弾

性波トモグラフィの初期値取得 570日後,(f)弾性波ト

モグラフィの初期値取得 765 日後の比抵抗値の分布

を表す.

土木学会論文集C(地圏工学), Vol. 70, No. 4, 412-423, 2014.

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Page 7: 幌延深地層研究所の250m調査坑道における 掘削損傷領域の経時 …

解析断面を示す.解析における RMS 残差は 4.49%から

5.65%であった.同図より,見掛比抵抗分布(図-8)と

同様,約 5.0~5.5m 程度とほぼ一様な比抵抗分布を示し

ていることが分かる.掘進に伴う比抵抗値の変化はほと

んど見られず,壁面近傍であっても期間を通して大きな

変化は見られなかった.

(3) 地質観察による割れ目分布の検討

本論文では,西側調査坑道の北側側壁面全域に着目し

て,壁面観察の結果から物理探査領域内の割れ目分布を

検討した.図-10 に物理探査領域を含む掘削 3 から 8 の

断面の側壁面の地質観察結果を示す.図-10 に示すとお

り,観察された割れ目は,割れ目面に鏡肌や条線を伴う

せん断性割れ目と,割れ目面にそれらのせん断破壊に伴

う証拠がほとんどなく,羽毛状構造を伴う非せん断性割

れ目に大別された.それぞれの割れ目のステレオネット

下半球投影図を図-11に示す.図-11(a)に示す非せん断性

割れ目の走向は概ね南北方向,傾斜は東または西方向に

概ね 70~90°に集中する.また,図-11(b)に示すせん断性

の割れ目の走向は概ね東西方向で,北もしくは南側に急

傾斜した分布を示す.地下施設建設前に実施した地上か

らのボーリング調査 27)に基づくと,声問層中に分布する

割れ目は,せん断性割れ目がほとんどであり,その方向

性は,東西または北東―南西の走向であり,北または南

への急傾斜であった.この結果より,壁面で観察された

せん断性の割れ目は,掘削前から岩盤中に存在する割れ

目であり,一方,非せん断性割れ目は,坑道掘削による

応力再配分により新たに生じた割れ目(以下では,EDZ

割れ目という)であると判断できる.なお,声問層中の

非せん断性割れ目が掘削影響により生じた EDZ 割れ目

であることは,Tokiwaら 28)が詳述している.

(4) 坑道壁面岩石の飽和度の計測

坑道壁面周辺岩盤の飽和度の計測を,岩石コアの重量

計測により実施した.図-10 に示す物理探査領域内の岩

盤露出部において,直径約 30mm,高さ約 30mm の岩石

供試体を,図中の A~C の 3 箇所で採取した.採取日は,

2013年 7月 9日(初期値取得 870日後)である.坑道壁

面の見掛飽和度を,原位置重量および乾燥・飽和重量の

計測により,以下の式(1)に基づいて算出した.

drysat

dry

mm

mmSr

(1)

ここで,式中の Srは見掛飽和度,m は原位置重量,msat

は飽和重量,mdryは絶乾重量を示す.岩石の飽和方法と

しては,大気圧下での浸水よりも飽和促進効果が高いと

報告されている浸水脱気法 29)を用いた.なお,岩石は原

位置の地下水を用いて,一週間真空脱気することにより

完全飽和状態にした.その後の乾燥過程では,高温での

乾燥時の乾燥収縮による供試体の破壊を防ぐために,一

週間程度室内で放置して,ある程度乾燥状態にした後に,

50℃に保った乾燥炉内に一週間放置した.炉での乾燥中

は,重量を逐次計測し,重量の減少に収束が見られた時

点で絶乾状態と判断した.それぞれの採取箇所における

図-10 側壁面の地質観察結果の例(掘削 4~9).図中 A~C

は,飽和度の計測のための岩石供試体の取得位置を

示す.

図-11 250m西側調査坑道北側側壁面で観察された割れ目の

方向.(a)は非せん断性割れ目,(b)はせん断性割れ目

の走向傾斜をステレオネットに下半球投影したコン

ター図を示す.コンター間隔は 2%である.なお,

本図はRocScience社のDips V6.0を用いて作図した.

表-2 重量測定による見掛飽和度の計測結果

土木学会論文集C(地圏工学), Vol. 70, No. 4, 412-423, 2014.

418

Page 8: 幌延深地層研究所の250m調査坑道における 掘削損傷領域の経時 …

見掛飽和度の計測結果を表-2 に示す.表-2 より,原位

置の岩石の飽和度は,93~97%程度であり,概ね飽和状

態にあるといえる.

4. 考察

(1) 岩盤の弾性波速度と比抵抗に影響を与える要因

一般に,岩石の弾性波速度に影響を与える主な要因と

して,温度,圧力,岩質,空隙率,岩石中の飽和度,割

れ目などの岩石内部の欠陥が挙げられる30), 31).これらの

条件のうち,温度に関しては,地下施設建設前に実施し

た地上からのボーリング調査で行われた温度検層と音波

検層の結果24)に基づくと,坑内で予想される10~25℃の

温度変化の中では大きな弾性波速度の変化はない.また,

岩盤の応力変化に伴う弾性波速度の変化に関しては,珪

藻質泥岩を用いて様々な静水圧条件下で拘束圧を0.7MPa

から4.2MPaまで,0.7MPaずつ増加させて弾性波速度を計

測した結果32)では,拘束圧の増大により弾性波速度は漸

増したものの,その程度は0.1km/s未満とわずかであった.

さらに,今回弾性波トモグラフィ調査を実施した西側調

査坑道では,切羽および側壁面での地質観察に基づくと,

約4m四方の調査領域において,岩質や空隙率に関して

おおむね均質な岩盤が分布しているといえる.よって,

図-6に示した物理探査領域内部の弾性波速度の低下に影

響を及ぼしている主要因は,岩盤中の飽和度と割れ目で

あると考えられる.

次に,岩盤の比抵抗は,岩盤中の飽和度や間隙率,間

隙水の比抵抗,温度などといった様々な要因により変化

する33).これらのうち,EDZにおいて生じる主要な物性

変化は,割れ目の形成に伴う間隙率の変化,水分の蒸発

散や大気の流入に伴う飽和度の変化である.

調査領域では掘進に伴う割れ目の形成は確認されてい

るが,それらの割れ目はかみ合わせがよく,ほとんど開

口していないことが推定されている34).このことから,

調査領域内部の岩盤の割れ目の開口に伴う間隙率の変化

は大きくないと考えられる.さらに,割れ目の形成に伴

う比抵抗の変化に関しては,岩石のマトリックス部分の

比抵抗が小さい泥岩で,割れ目を満たす地下水の比抵抗

との差が小さければ,割れ目の存在の有無に関わらず,

岩盤の比抵抗に変化は生じにくいと考えられる35).よっ

て,割れ目の形成に伴う比抵抗の変化は生じていないと

考えられる.

飽和状態から不飽和帯が形成されると,岩石の比抵抗

は増大する36).表-2に示したように,調査領域において

採取した岩石供試体の見かけ飽和度は全て90%以上であ

った.また,幌延地域の珪藻質泥岩の供試体を用いて実

施した飽和度と比抵抗との関係を計測した結果15)では,

完全飽和状態から飽和度が90%に低下する場合,比抵抗

は10~20%程度増大する.さらに飽和度が低下していく

と,比抵抗は数倍以上にまで増大していく.このため,

飽和度が90%程度の高い領域における飽和度変化に対し

て分解能が小さい傾向にあると思われる.従って,比抵

抗トモグラフィ調査の結果に基づくと,調査領域の岩盤

の飽和度の低下は大きく生じていないと考えられる.

以上の検討を踏まえ,以降では,壁面に分布する割れ

目の密度に着目して,弾性波速度との関係を議論する.

(2) 調査領域内部の割れ目の密度と弾性波速度の関係

a) 調査領域周辺の三次元割れ目モデルの作成

調査領域内部の割れ目の分布と弾性波速度の関係を検

討するために,地質観察により得られた割れ目のトレー

スと測定された方向の情報を基に,調査領域周辺の割れ

目の発達を三次元的に表すことができるモデルを作成し

た.同モデルにおいて,割れ目は厚さが無視できる円盤

でモデル化した.その直径は,EDZ 割れ目については

トレース長とし,せん断性割れ目は,その拡がりを地質

観察では把握できていないため,トモグラフィ領域を内

包するように,直径 20m とした.割れ目の方向性は,

地質観察で計測された走向傾斜とした.ただし,EDZ

割れ目については走向傾斜が計測されていないものもあ

るため,それらについては,図-11(a)に基づいて,最頻

値(N9°E77°E)を用いた.作成した割れ目の三次元分布

と弾性波トモグラフィ調査の発振・受振孔,代表的な測

線を図-12 に示す.図-12(a)に示すモデルは,EDZ 割れ

目とせん断性の割れ目の分布を示している.この図では,

調査領域付近に割れ目が発達していることはわかるもの

の,EDZ 割れ目がどの程度発達しているのかがわから

ない.そこで,図-12(b)では,EDZ 割れ目のみを描画し

た.図-12(b)より,調査領域周辺で,EDZ 割れ目が発達

している様子がわかる.

b) 割れ目密度と弾性波速度の関係

弾性波トモグラフィ調査のうち,調査領域から切羽が

十分離れた初期値取得 64 日後の速度構造(図-6(d))に

おける割れ目密度と弾性波速度の関係を図-13 に示す.

割れ目密度は,三次元割れ目モデル上で,発振点―受振

点間の測線が横切った割れ目の数をその測線長で割った

値とした.図中点線は,坑道掘削前の調査により得た岩

盤の弾性波速度の平均値である 1.67km/s である.図-13

より,割れ目密度の増大に伴い,弾性波速度がほぼ線形

に低下する.

図-13 に示す曲線は,人工材料に割れ目を造成して弾

性波速度を測定した室内試験により導かれた,弾性波速

度と割れ目密度に関する近似式である.この関係は,以

下の式 19)で表される.

土木学会論文集C(地圏工学), Vol. 70, No. 4, 412-423, 2014.

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Page 9: 幌延深地層研究所の250m調査坑道における 掘削損傷領域の経時 …

ntV

ll

V

d* (2)

式中の V*は割れ目を通過する弾性波速度,V は健岩部

の弾性波速度,l は弾性波の伝播距離,n は割れ目密度,

td(n)は割れ目を通過する弾性波の走時の時間遅れの割れ

目密度に関する関数である.図-13 においては,健岩部

の弾性波速度 V は,西側調査坑道の掘削前の弾性波速

度の平均値である 1.67km/sを採用した.また,時間遅れ

の関数 td(n)は,割れ目を通過する波が伝播する走時と健

岩部を波が伝播する走時の差をとることにより算出され

た走時の時間遅れと,割れ目密度 nとの関係である.本

調査領域では,割れ目密度の増大とともに,概ね線形的

に走時の時間遅れが大きくなる傾向が見られたため,

td(n)を線形関数として設定した.図-13 より,原位置試

験により得られた弾性波速度の低下の傾向は,式(2)の

近似曲線の傾向と整合する.

以上の結果から,坑道周辺の弾性波速度の低下は,

EDZ割れ目の形成が主な原因であると考えられる.

(3) EDZの経時変化と長期計測に対する課題

第3章(1)節に示した通り,坑道掘削後1年間は坑道周

辺の弾性波速度の低下領域が変動する傾向を確認した.

これらの変化の要因としては,坑道周辺岩盤内が,坑内

換気の影響による坑内の温度変化,比抵抗トモグラフィ

調査では分解能の関係からとらえることができなかった

ような飽和度の若干の変化,水分量の変化に伴う岩盤の

湿潤膨張や乾燥収縮の発生,岩盤へのクリープ変位の作

用に伴う割れ目開口幅の変動等の要因を反映している可

能性がある.しかしながら,現時点において,岩盤内部

の水分量に関する詳細な検討や,変位の検討事例が無い

ため,明確な要因を特定することが不可能である.また,

弾性波速度の低下領域の変化に伴う岩盤の透水性の変化

を捉えることも重要と考える.これらの問題を解決する

ためには,岩盤内の水分量の計測,定期的な透水試験の

図-12 三次元割れ目モデル.(a)はEDZ割れ目とせん断性割れ目の三次元モデル,(b)はEDZ割れ目の三次元モデルを示す.

図-13 割れ目密度と弾性波速度の関係

土木学会論文集C(地圏工学), Vol. 70, No. 4, 412-423, 2014.

420

Page 10: 幌延深地層研究所の250m調査坑道における 掘削損傷領域の経時 …

実施,岩盤の変形挙動の計測,岩盤内温度測定の実施な

どが必要である.250m調査坑道における測定において

見出されたこのような課題は,現在実施中の350m調査

坑道における原位置調査の計器設置レイアウトに反映さ

れている.そのため,今後,力学―水理学―化学的な観

点からEDZの空間的な発達とその状態について,長期的

な計測結果を基にさらに検討していきたいと考えている.

5. 結言

本研究では,幌延深地層研究所の250m調査坑道にお

いて,数年にわたり実施している弾性波・比抵抗トモグ

ラフィの結果と,坑道掘削時の地質観察に基づく坑道側

面の割れ目分布の分析に基づいて,掘削時からその後2

年程度の期間におけるEDZの発達とその状態について論

じた.本研究により得られた成果を以下に示す.

1) 弾性波トモグラフィ調査の結果,切羽が調査領域

に達するまでは,坑道壁面近傍の弾性波速度に顕

著な低下は見られなかったが,切羽が坑道の掘削

径程度離れた時点で,坑道壁面から約1mの範囲内

の岩盤の弾性波速度が顕著に低下した.また,調

査領域掘削から2年程度の範囲では,弾性波速度の

低下領域の若干の変動が見られたが,掘削直後に

生じた壁面から約1mの範囲を越えることはなかっ

た.

2) 比抵抗トモグラフィ調査の結果,坑道掘進の前後

において見掛比抵抗値はほとんど変化しなかった.

このことから,本調査領域においては,開口幅の

大きな割れ目の発生や,水分の蒸発散に伴う飽和

度の顕著な変化はなかったといえる.

3) 坑道掘削前の側壁面の地質観察結果に基づいて,

弾性波トモグラフィ調査領域周辺の三次元割れ目

分布モデルを作成し,一次元割れ目密度と弾性波

速度を比較した.その結果,割れ目密度の増大と

ともに弾性波速度が低下することを評価すること

ができた.また,近似式による弾性波速度低下の

傾向にも整合する結果が得られた.このことから,

弾性波トモグラフィ調査と割れ目密度の検討によ

り,EDZ内の損傷状態や範囲を適切に評価するこ

とが可能であることが示された.

以上の結果を総合すると,当該地点におけるEDZは,

壁面から約1.0m以内の領域まで発達したと推定される.

ところで,EDZの幅や内部の透水性の増大の把握は,

高レベル放射性廃棄物の地層処分における安全評価のた

めに重要である.その評価に資するためのデータとして,

EDZの概念モデルの構築が課題となる.今後は,坑道壁

面周辺において透水試験を実施し,壁面周辺の割れ目発

生に伴う透水性の増大について議論していき,EDZの力

学的・水理学的な概念モデルを構築していくことを考え

ている.さらに,弾性波・比抵抗トモグラフィ調査を今

後も継続するとともに,ボーリング孔内での岩盤温度の

測定も実施し,坑内環境の変化の観点からEDZの長期的

な変化について検討していきたいと考えている.

謝辞:本研究は,原子力機構と一般財団法人電力中央研

究所との共同研究「幌延地域における地質・地下水環境

特性評価に関する研究」の成果の一つである.共同研究

の取りまとめを行っていただいた,電力中央研究所の中

田英二博士に謝意を表する.株式会社大林組の丹生屋純

夫氏および,大成建設株式会社の本島貴之博士には,原

位置試験の現場監理を行っていただいた.弾性波トモグ

ラフィ調査の実施に際しては,サンコーコンサルタント

株式会社の山中義彰氏にご尽力いただいた.地質観察の

実施に際しては,株式会社地層科学研究所の松原誠氏,

小川大介氏,株式会社三菱マテリアルテクノの石川泰己

氏,株式会社エーティックの高橋昭博氏にご尽力いただ

いた.匿名の査読者3名からは,本論文の内容を充実さ

せるための有益なご意見を多々いただいた.ここに深く

感謝の意を表する.

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422

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INVESTIGATIONS FOR A CHANGE OF AN EXCAVATION DAMAGED ZONE WITH TIME AT THE 250M GALLERY IN THE HORONOBE UNDERGROUND

RESEARCH LABORATORY

Kazuhei AOYAGI, Kimikazu TSUSAKA, Kenji KUBOTA, Tetsuya TOKIWA, Keiji KONDO and Daisuke INAGAKI

The authors have been conducting seismic and resistivity tomography surveys in a gallery of the Ho-

ronobe Underground Research Laboratory in order to investigate an extent of an Excavation Damaged Zone (EDZ) along time. The objective of this paper is to discuss an influence of fracture distribution and water saturation of a rock mass on variations in seismic velocity and the value of apparent resistivity in an EDZ. Based on the result of seismic tomography survey, the extent of a layer which has low seismic ve-locity was about 1.0 m from the gallery wall after excavation of the tomography area. From the results of resistivity tomography survey, the value of apparent resistivity has not changed remarkably along time. To investigate a relationship between variations in seismic velocity and density of fracture in the survey area, the authors built a three dimensional fracture model around the tomography area. From the compari-son of seismic velocity with density of fracture, seismic velocity decreased almost linearly as the density of fracture increased. Also, it was found that density of fracture in the layer of low seismic velocity could be estimated using a simple numeric model. From this result, seismic tomography survey and investiga-tion of density of fracture are suitable method for evaluation of an EDZ.

土木学会論文集C(地圏工学), Vol. 70, No. 4, 412-423, 2014.

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