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TX テクノロジー・ショーケース in つくば 2010 はじめに 従来より人々は、これまでにない色や形などを持つ魅 力的な花を作り出すために、交配や選抜を繰り返し行って きました。近年では遺伝子組換え技術により、従来育種で は得ることのできなかった新しい形質を持つ花を作り出せ るようになりました。シロイヌナズナのようなモデル植物の 研究から解明された遺伝子の情報を利用することで、狙 い通りの形質を持つ花を作ることも可能です。一方で最近 の研究では、基礎研究で得られた情報から予想されるより も遙かに実用的かつ多彩な花の形質変化がもたらされる ことがわかってきました。そこで、どの遺伝子がより商品性 の高い花の形質を付与するのかを、効率的にスクリーニン グする手法を開発しました。 本システムのポイント 植物材料には、園芸植物であるトレニア (Torenia fournieri )を用いました。トレニアは花の構造がシンプルで、 培養や形質転換も容易であることなどから、遺伝子組換え 研究の新たなモデル植物として注目されています。遺伝 子情報の整備が進んでいるシロイヌナズナの遺伝子を用 いることで、遺伝子単離のための時間と労力を大幅に削 減しました。遺伝子の働きをオン・オフするスイッチとして、 多くの花の形質に関わっている「転写因子」を利用したこと も効率化のポイントの一つです。シロイヌナズナの転写因 子を改変し、これを導入した植物が持つ遺伝子の働きを 抑えて新たな形質を引き出す手法(CRES-T法)を用いて、 トレニアの遺伝子組換えを行いました。50種類程度の遺 伝子を同時に導入(バルク導入)し、花の色や形が変わっ たものを一度に選抜することで、新しい花を作るために有 効な遺伝子を効率よく選び出すことを試みました。 新しい花の誕生 バルク導入による遺伝子組換えを2回行った結果、合計 72種類の遺伝子が導入され、750個体の遺伝子組換えト レニアが得られました。花弁の縁が白いものや筋ができる など配色パターンが美しいものや、花弁がフリル化したり 内巻きに形態が変化したものなど、様々な興味深い形質 が花に現れ、効率良く数多くの新しい花を得ることができ ました。 今後の展望 花に有用な形質を付与する遺伝子セットを作り、バラや カーネーションなどに適用することで、新しい魅力あふれ る花を効率的に作り出すことができると期待されます。さら に、本手法で得られた遺伝子組換えトレニアには、シロイ ヌナズナのようなモデル植物では見られないような花の形 質も含まれており、転写因子の新たな機能解明のための 材料としても有効だと考えられます。 農林水産 遺伝子組換えで新しい花を 効率よく作り出すシステムの開発 代表発表者 () 農業・食品産業技術総合研究機構 花き研究所 新形質花き開発研究チーム 問合せ先 305-8519 茨城県つくば市藤本 2-1 TEL: 029-838-6822, FAX: 029-838-6822 [email protected] ■ キーワード: (1) 遺伝子組換え (2) (3) 転写因子 P-70 -72-

1®µ 6&µ µB B* ÂB B)ÎBU:w 2 ¸BKB ÞBM ´B BrBtB B B14? :w...2B-1® µ 6BU 2 ¸BKB 1¬B6 ´B B B+BU.\BBBAB B"Aï:w:w:w:w:w 9 ÂB B)ÎB1. !¢:w B B Bj É IB.BKBN1® µ 6&µ µB

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TX テクノロジー・ショーケース in つくば 2010

■ はじめに

従来より人々は、これまでにない色や形などを持つ魅

力的な花を作り出すために、交配や選抜を繰り返し行って

きました。近年では遺伝子組換え技術により、従来育種で

は得ることのできなかった新しい形質を持つ花を作り出せ

るようになりました。シロイヌナズナのようなモデル植物の

研究から解明された遺伝子の情報を利用することで、狙

い通りの形質を持つ花を作ることも可能です。一方で最近

の研究では、基礎研究で得られた情報から予想されるより

も遙かに実用的かつ多彩な花の形質変化がもたらされる

ことがわかってきました。そこで、どの遺伝子がより商品性

の高い花の形質を付与するのかを、効率的にスクリーニン

グする手法を開発しました。

■ 本システムのポイント

植物材料には、園芸植物であるトレニア (Torenia fournieri)を用いました。トレニアは花の構造がシンプルで、

培養や形質転換も容易であることなどから、遺伝子組換え

研究の新たなモデル植物として注目されています。遺伝

子情報の整備が進んでいるシロイヌナズナの遺伝子を用

いることで、遺伝子単離のための時間と労力を大幅に削

減しました。遺伝子の働きをオン・オフするスイッチとして、

多くの花の形質に関わっている「転写因子」を利用したこと

も効率化のポイントの一つです。シロイヌナズナの転写因

子を改変し、これを導入した植物が持つ遺伝子の働きを

抑えて新たな形質を引き出す手法(CRES-T法)を用いて、

トレニアの遺伝子組換えを行いました。50種類程度の遺

伝子を同時に導入(バルク導入)し、花の色や形が変わっ

たものを一度に選抜することで、新しい花を作るために有

効な遺伝子を効率よく選び出すことを試みました。

■ 新しい花の誕生

バルク導入による遺伝子組換えを2回行った結果、合計

72種類の遺伝子が導入され、750個体の遺伝子組換えト

レニアが得られました。花弁の縁が白いものや筋ができる

など配色パターンが美しいものや、花弁がフリル化したり

内巻きに形態が変化したものなど、様々な興味深い形質

が花に現れ、効率良く数多くの新しい花を得ることができ

ました。

■ 今後の展望

花に有用な形質を付与する遺伝子セットを作り、バラや

カーネーションなどに適用することで、新しい魅力あふれ

る花を効率的に作り出すことができると期待されます。さら

に、本手法で得られた遺伝子組換えトレニアには、シロイ

ヌナズナのようなモデル植物では見られないような花の形

質も含まれており、転写因子の新たな機能解明のための

材料としても有効だと考えられます。

農林水産

遺伝子組換えで新しい花を 効率よく作り出すシステムの開発

代表発表者 �� ������ ����� 所 属 (独) 農業・食品産業技術総合研究機構

花き研究所 新形質花き開発研究チーム

問合せ先 〒305-8519 茨城県つくば市藤本 2-1 TEL: 029-838-6822, FAX: 029-838-6822 [email protected]

■ キーワード: (1) 遺伝子組換え (2) 花 (3) 転写因子

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