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初めての擁壁設計法
(株)第一コンサルタンツ 右城 猛
1. まえがき この原稿は,初めて擁壁の設計法を勉強されようとしている方のためにできるだけ易しく書き
ました。擁壁には,重力式擁壁,もたれ式擁壁,逆T型擁壁,L 型擁壁などいろいろな型式がありますが,最もよく使われるのは台形の形をした重力式擁壁です。他の型式に比べて形状がシン
プルなため,設計計算も簡単です。ここでは,道路の路側部に造られる重力式擁壁の設計法を,
日本道路協会の道路土工-擁壁工指針に準拠して説明します。 2. 擁壁設計の手順 擁壁設計の手順を図-1に示します。まずは,擁壁の断面形状を仮定します。台形をした重力
式擁壁であれば,擁壁の高さ,天端幅,前面勾配,底面幅です。 次に擁壁に作用する荷重を算定します。擁壁の自重,土圧などです。その次は,安定計算です。
荷重の作用を受けたとき,擁壁が転倒,滑動,支持力に対して所定の安全性を確保しているかを
照査します。転倒,滑動,支持力に対して安全率が不足していれば,擁壁断面の仮定からやり直
しです。所要の安全率が確保されていれば,その安全率が適切かどうかを判断します。あまりに
も安全率が大きすぎると不経済な設計となり,良い設計とは言われません。転倒,滑動,支持力
の全ての安全率が,規定されている安全率に近いのが理想的ですが,実際にはどれか1つの安全
率が規定されている安全率に近ければ OKと判断し,設計を終わります。 ただし,重力式擁壁であっても図-2の右のように断面変化している擁壁は,断面変化箇所,
この図では①-①断面と②-②断面でそれぞれ無筋コンクリートとして応力度を照査する必要が
あります。曲げ引張応力度が許容引張応力度を超える場合には,鉄筋で補強して,鉄筋コンクリ
ートとして応力度を照査する必要があります。
擁壁断面の仮定
荷重の計算
安定計算
応力計算たて壁つま先版かかと版
始
終
NG
NGOK
OK
重力式擁壁
図-1 擁壁設計の手順
安定計算のみでOK
応力度の照査が必要
① ①②
②
図-2
2
3. 擁壁に作用する荷重 3.1 荷重の種類
擁壁に作用する荷重には,常に作用する荷重,数十年に 1 度の頻度で作用する荷重など様々なものがあります。 道路土工-擁壁工指針では,高さが 8m 以下の擁壁については,常時についてのみ照査すればよいとしています。図-3に示すように,常時には擁壁の自重,背後の盛土による土圧,地表面
載荷重による土圧の増分を作用させます。 擁壁の天端にガードレールなどの車両用防護柵が設置されていて,自動車の衝突が想定される
場合には,自動車衝突荷重も作用させる必要があります。自動車衝突荷重については,擁壁工指
針の 39ページをご覧になって下さい。自動車衝突時には,地表載荷重は作用させなくても良いことになっています。擁壁高が低くて擁壁延長(目地間隔)が短いと,擁壁断面が自動車衝突時で決まるので注意して下さい。 擁壁高が 8m を超える場合には,地震時の照査を行います。地震時には,自重,自重による慣性力,慣性力の作用を考えた土圧を作用させます。慣性力は重量に設計水平震度を乗じて求めま
す。設計水平震度の算定法は,擁壁工指針の 28ページをご覧になって下さい。 擁壁の天端に遮音壁などが設置されていると風荷重についても検討が必要になります。
PA
Wc
PA
Wc
P
PEAkHWcH
自重
主働土圧
q載荷重
自重
主働土圧
衝突荷重
主働土圧
Wc自重
慣性力
常時(施工時) 自動車衝突時 地震時 H>8m
図-3 擁壁に作用する荷重 (page番号は擁壁工指針に対応している) 3.2 自重と慣性力の求め方
擁壁の形状が台形であれば,台形公式を用いて断面積,図心位置を求めることができます。擁
壁 1m当りの重量は,断面積に単位体積重量を乗じて求められます。 擁壁工指針では,コンクリートの単位体積重量を 23kN/m3,鉄筋コンクリートの単位体積重量
を 24.5kN/m3と決めています。コンクリートに入れる骨材の種類や鉄筋量によって単位体積重量
は異なりますが,それは土の単位体積重量や土圧の推定誤差に比べるとはるかに小さいので神経
に考える必要はありません。擁壁工指針に示されている値をそのまま用いて下さい。
3
( ) cc BbHW γ+=2
( )212
62nn
BbBbHBxc −
++
⋅+=
b
B
Wc
kHWcH
xc
yc
x
y
o
1:n 1
1:n2
1m当り重量
無筋コンクリート γc=23kN/m3
鉄筋コンクリート γc=24.5kN/m3
重心位置
BbBbHyc +
+⋅=2
3
kHは設計水平震度 図-4 擁壁自重と地震時の慣性力
3.3 主働土圧
(1) 設計計算に用いる土圧 擁壁に作用する土圧は,擁壁の変位の状態によって静止土圧から主働土圧に変化します。擁壁
の背後に盛土をしたときに,擁壁が全く動かなければ擁壁に作用する土圧は静止土圧です。擁壁
底面の摩擦抵抗力が小さくて擁壁が前方へ滑動したとすれば,その滑動する直前の土圧が主働土
圧です。 主働土圧に耐えられれば,限界状態ではあるのですが擁壁は安定を保つことができます。この
ようなことから擁壁の設計には主働土圧を用いることになっています。 主働土圧を算定する方法には試行くさび法,クーロン式,ランキン式があります。最も汎用性
が高いのは試行くさび法です。計算が簡単なのはランキン式です。
地表面傾斜:任意壁面傾斜 :任意壁面摩擦 :任意
土圧 土圧
土圧
試行くさび法
クーロン式
ランキン式
地表面傾斜:一様壁面傾斜 :任意壁面摩擦 :任意
地表面傾斜:水平壁面傾斜 :鉛直壁面摩擦 :ゼロ
計算が簡単計算が複雑
図-5 主働土圧の算定法
4
(2) 試行くさび法 擁壁の設計では,主働土圧の算定に試行くさび法がよく用いられています。地表面が複雑に折
れ曲がっていても計算が可能で,汎用性が高く,コンピュータによる計算に適しているためです。 まず図-6のように,擁壁のかかとから任意の直線のすべり面 ab(試行すべり面)を引きます。すべり面が水平面となす角度をω(オメガ)とします。そして,このすべり面と壁面 acで挟まれたくさび状の土塊 abc について,力のつり合いを考えてみます。土塊に作用する力は,土塊の自重W,盛土からの反力 R,壁面からの反力 Pの3つです。盛土の内部摩擦角(せん断抵抗角ともいう)をφ(ファイ),盛土と壁面の摩擦角(外部摩擦角ともいう)をδ(デルタ)とします。擁壁が限界状態で安定しているとすれば,Rはすべり面 abの垂線からφ,Pは壁面 acの垂線からδだけ傾斜していることになります。 3つ力がつり合っているとすれば,力の関係は多角形として描くことができます。力の多角形
に正弦定理を適用すると,
)(90)sin( αδφωφω −−−−=
−WP
ここで, )cos()}(90sin{ αδφωαδφω −−−=−−−−
であることを考慮して,Pを求めると次のようになります。
WP)cos(
)sin(αδφω
φω−−−
−= (1)
ωを仮定すれば,土塊 abc の面積が求められます。面積に土の単位体積重量を掛けると,奥行き 1m 当りの土塊の重量 W が求められます。φ,δ,αが分かっていれば,式(1)で P を算定できます。ωは, 90≤≤ ωφ ゜の範囲で仮定することができます。いろいろなωについて P を算定し,それをグラフ上にプロットすると図-6の右下のようなグラフとなります。P の最大値を与えるωが正解のすべり角であり,そのときの Pが主働土圧となります。 この計算法は,くさび状の土楔に作用する力のつり合い条件式を用いて,P の最大値を試行錯誤的に求める方法であることから,「試行くさび法」と呼んでいます。
WR
P
ω−φ
α+δ力の多角形
P
ω
PA
ωA
Pの最大が正解
W
RPφδ
ω
試行すべり面α
a
b
c
90−(ω−φ−δ−α)
図-6 試行くさび法
5
(3) クーロン式 地表面が水平か一様勾配であれば,P の最大値を試行錯誤的に求めなくても微分法を適用して解析的に求めることができます。そのように求めたのがクーロン式と呼ばれている式(2)です。この式は,ミューラー・ブレスローによって導かれた式なのですが,試行くさび法の原理を考えた
クーロンの名前で呼ばれています。クーロンの時代には,まだ三角関数がありませんでした。
21 2
AA KHP ⋅⋅= γ (2)
ここに,γは土の単位体積重量,Hは擁壁高,KAは主働土圧係数で式(3)となります。
( )
( ) ( ) ( )( ) ( )
coscossinsin1coscos
cos2
2
2
⎪⎭
⎪⎬⎫
⎪⎩
⎪⎨⎧
−+−+
++
−=
βαδαβφδφδαα
αφAK (3)
W
RPφδ
ω
試行すべり面α
P
ω
PA
ωA
H
0=ωd
dP)(ωfP =
β
図-7 クーロン式
(4) ランキン式 潮面が水平(β=0)で,壁面が鉛直(α=0)で,壁面が滑らか(δ=0)であれば,主働すべり角ωAが
式(4)のようになるので,式(3)の主働土圧係数は式(5)のように非常に簡単になります。この式は,ランキン式と呼ばれています。
2
45 φω +=A (4)
⎟⎠⎞
⎜⎝⎛ −=
245tan2 φ
AK (5)
壁面が傾斜していたり,壁面が粗であると,クーロンが仮定したようにすべり面を直線と見な
すのは間違っています。理論的に正しいのはランキン式です。ただし,すべり面を直線と仮定し
たとしても,それによる誤差は少ないことから実務ではクーロン式が使用されています。
6
W
δ=0
PA
ωA
φ
R
PA
RW
H
2
45 φω +=A
力の多角形
図-8 ランキン式
(5) 壁面摩擦角δ かかと版のある擁壁では,安定計算においては擁壁の後端に鉛直の仮想背面を考え,その面に
土圧が作用するものと考えます。その際の土圧の作用方向は地表面に平行とします。つまり,δ=βと考えます。これはランキンの土圧理論に基づいたもので,理論的に正しいといえます。地表
面が水平であれば,土圧の作用方向も水平となり,土圧は式(2),式(5)で算定することができます。 たて壁に作用する土圧を算定する場合には,重力式擁壁の場合と同様に,土圧は壁面の垂線に
対してδだけ傾斜,つまり水平面とは(α+δ)傾斜するものと仮定して計算します。δの値としては,経験的にδ=2φ/3として求めることになっています。 以上の壁面摩擦角の考え方は,常時土圧を算定する場合にのみ使えるものです。地震時土圧を
算定する場合には異なるので注意をしてください。また,道路橋示方書など他の技術基準では,
δの考え方が擁壁工指針と異なるので注意が必要です。
W
R
P
ω
α
ωR
仮想背面
α=0
δ=0α+δ
P
ランキン式で計算 クーロン式で計算
安定計算用土圧 たて壁の応力計算用土圧
図-9 壁面摩擦角
7
(6) 土圧分布 地表面に等分布する載荷重が作用する場合,土質の教科書や道路橋示方書では土圧が台形分布
するものとしています。理論的には台形分布が正しいのですが,道路土工-擁壁工指針では三角
形になるものとしています。計算の簡便化を図るためでしょうか。 盛土面が車道の場合には,載荷重の大きさを q=10kN/m2 とします。これは 25t 車の全重量245kNを,車両の投影面積(11m×2.5m)で割って求められた値 8.9kN/m2を丸めたものです。
z
z
H PAPA
道路土工指針の方法(三角形分布)
道路橋示方書の方法(台形分布)
pz pz
⎟⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛+=
HqzKp Az γ
γ 21 ( ) Az Kzqp γ+=
理論的に正しい
図-10 土圧分布
25t トラック荷重11~12m
3.8m
1.8m以上
7.0m以上
2.5m
245kN
200kN 50kN
q =×
= ≈245kN
11 2 58 9 10
m m kN / m kN / m2 2
..
50kN50kN50kN
図-11 地表載荷重
(7) 盛土の土質区分 道路土工-擁壁工指針では,盛土の内部摩擦角として,擁壁高が 8m 未満で土質試験が困難な場合には,礫質土 35゜,砂質土 30゜,粘性土 25゜の値を用いて土圧を算定しても良いとされています。礫質土,砂質土,粘性土がそれぞれどのような土なのかは,地盤工学会の日本統一分類
で図-12のように決められています。細粒分が50%以上を占める土は粘性土です。粗粒分が50%
8
以上を占め,礫分より砂分が多いと砂質土,礫分が多いと礫質土になります。細粒分とはシルト
や粘土のことで,粒径が 0.075mm以下の土です。 通常の盛土材は礫質土と考えて良いでしょう。
れき(多い)
砂(少ない)
シルト,粘土
50%以上
50%未満 シルト,粘土
砂
シルト,粘土
れき質土 砂質土 粘性土
れき(少ない) れき
砂(多い)50%以上
50%未満 50%以上
50%未満
φ=35゜γ=20kN/m3
φ=30゜γ=19kN/m3
φ=25゜γ=18kN/m3
図-12 日本統一分類による土の区分
粘土 シルト
細砂 中砂 粗砂 細礫 中礫 粗礫 粗石 巨石
砂 礫
粗粒分
石
石分細粒分
粒径 0.005 0.075 0.25 0.85 2.0 4.75 19 75 300 (mm)
図-13 粒径による土の区分 3.4 擁壁の底面における合力
常時に擁壁に作用する荷重は,一般的には自重Wcと主働土圧 PAです。これらの荷重によって,
擁壁の底面には図-14に示すように鉛直反力 RVと水平反力 RHが発生します。 鉛直反力 RVは,鉛直方向の力のつり合い条件から次式のように求められます。
)sin( δα ++= AcV PWR (6) 水平反力 RHは,水平方向の力のつり合い条件から次式のように求められます。
)cos( δα += AH PR (7) 荷重の鉛直成分によるつま先回りのモーメントは,次のように表されます。
AAccV xPxWM ⋅++⋅= )sin( δα (8) また,荷重の水平成分によるつま先回りのモーメントは,次のように表されます。
AAH yPM ⋅+= )cos( δα (9) 擁壁底面における合力の作用位置は,つま先に関するモーメントのつり合い条件式から求める
ことができ,次式のように表されます。
VHV
RMMd −
= (10)
擁壁底面中心からの合力の偏心量は,次式で求められます。
9
dBe −=2
(11)
αα+δ
PA
Wc
RH
RV
xA
xc
yA
d
y
x0
e B/2
B
図-14 擁壁底面位置における合力
4. 安定計算 4.1 地盤反力
擁壁底面に発生する地盤反力は,図-15の左端の図のようになります。土質力学の教科書に
書かれているように,粘性土地盤では端部が大きく,砂質土では中央が大きな曲線分布になりま
す。しかしながら設計計算では,底面が離散型のバネで支持されたものと仮定しているので,地
盤反力は直線分布することになります。 合力が底面の中央 1/3の中に入っていれば,つまり偏心量が 6/Be ≤ であれば地盤反力は台形分
布となります。モーメントのつり合い条件を満たすには,つま先から d の位置に台形の図心がこなければなりません。したがって,つま先の地盤反力度 q1とかかとの地盤反力度 q2は次のように
なります。
H=RH
V=RV
dH=RH
V=RV
d
CL
H=RH
V=RV
d
CL
e e
3dB
q1
q2
q1
実際の地盤反力
粘土地盤
砂地盤
合力が中央1/3の内 合力が中央1/3の外
設計上は直線的分布と仮定
図-15 地盤反力
10
つま先の地盤反力度 ⎟⎠⎞
⎜⎝⎛ +=
Be
BVq 611 (12)
かかとの地盤反力度 ⎟⎠⎞
⎜⎝⎛ −=
Be
BVq 612 (13)
合力が底面の中央 1/3から外れていれば,つまり偏心量が 6/Be > であれば地盤反力は三角形分
布となります。モーメントのつり合い条件を満たすには,つま先から d の位置に三角形の図心がこなければなりません。つまり,地盤反力の分布幅は 3dとなります。したがって,つま先の地盤反力度 q1は次のようになります。
つま先の地盤反力度 dVq
32
1 = (14)
4.2 支持力に対する照査
地盤支持力に対する照査方法には,式(15)の方法と式(16)の方法があります。前者は,道路土工-擁壁工指針が採用している方法で,最大地盤反力度 qmaxが許容支持力度 qa以下であることを確
認するものです。後者は道路橋示方書で採用している方法で,底面に作用する鉛直力 Vが地盤の許容支持力 Qa以下であることを確認するものです。
sd
a Fq
qq =≤max (15)
sd
a FQ
QV =≤ (16)
擁壁工指針では,土質や N値に応じて経験工学的に許容支持力度を決めています。許容支持力度は N値より次のように表されます。
qa≒N値×10 (kN/m2) (17) 道路橋示方書では地盤の許容支持力 Qaを式(18)によって求めるものとしています。
⎭⎬⎫
⎩⎨⎧ ++= γγβγκακ SNBSqNScNA
FQ eqqcce
sa 12
11 (18)
三軸圧縮試験などの土質試験によって精度の高い粘着力 c と内部摩擦角φが求まっていないと,式(18)は適用することができません。 式(17)で推定した許容支持力度で照査すると安全となるが,式(18)で求めた許容支持力で照査すると支持力が NG となるという相談をよく受けます。式(17)で推定される許容支持力度はかなり安全側,つまり小さめに決められています。原因は計算に用いた c とφが小さすぎることにあります。擁壁の支持力の照査には,通常は式(17)を用いるのがよいと思います。 図-16は,各種の擁壁について擁壁高さ Hと最大地盤反力度 q1の関係を示しています。どの
ようなタイプの擁壁であっても最大地盤反力度は,式(19)で目安をつけることができます。 q1=50H (kN/m2) (19)
式(17)と式(19)で, aqq ≤1 とおけば式(19)が求まります。つまり,擁壁高の 5倍の N値があれば支持力に対して安全と判断できることになります。
HN 5≥ (19) この式を覚えておくと大変便利です。例えば,擁壁の高さが 3m とすれば, 5×3=15 で, N
11
値 15以上の支持層であれば問題ないと判断できます。
現場打ちコンクリート擁壁 プレキャストコンクリートL型擁壁
0
20
40
60
80
100
120
140
160
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5
れき質土 q=10kN/m2
q1
H
q
砂質土 q=10kN/m2
れき質土 q=3.5kN/m2
砂質土 q=3.5kN/m2
q 1=50H
最大地盤反力度
q1(k
N/m
2 )擁壁高H(m)
1 2 3 4 5 6 7 80
100
200
300
400
擁壁高H(m)
H
0~H
q=10kN/m2
L型擁壁
逆T型擁壁
重力式擁壁
1:1.5
最大地盤反力度
q1(k
N/m
2 ) q 1=50H
q 1=30Hq1
q2
q2
図-16 擁壁高さと最大地盤反力度との関係
4.3 滑動に対する照査
滑動に対する安定性は式(20)で照査します。安全率が常時は 1.5,地震時は 1.2以上あれば安全になります。
)2.1(5.15.0≥
++⋅=
HPBcVF PB
sµ (20)
ここに,Vは擁壁底面に作用する鉛直力(kN/m),Hは水平力(kN/m),Bは底面幅(m),μは底面の摩擦係数,CBは底面の付着力(kN/m2),PPは前面の根入れ部の受働土圧(kN/m)です。 摩擦係数は,支持地盤が土砂の場合にはμ=0.6,岩盤の場合にはμ=0.7とします。付着力は一般には無視します。受働土圧は式(21)のランキン式で算定します。
⎟⎠⎞
⎜⎝⎛ +=
245tan
21 22 φγ fP DP (21)
ここに,Df は地盤面の変動深さを考慮した根入れ
深さ(m)です。 受働土圧は擁壁の安定性に非常に大きな効果を発
揮します。前面にアスファルト舗装があると,受働抵
抗が非常に大きくなります。舗装のやり替えや下水管
の取り替えなどのため,前面の地盤が一時的に掘削さ
れる場合には,掘削されても安全率 1.2以上を確保できるようにしておくのがよいでしょう。擁壁工指針で
は変動深さとして 1m 程度見込むのが良いとしてい
ますが,洗掘などの恐れがなければ仮想地表面を路面
に設定しても良いと思われます。
PPDf
V
H
µV+cBB
地表面
仮想地表面変動深さ
B 図-17 滑動に対する照査
12
4.4 転倒に対する照査
擁壁が転倒に対して安全であるための条件は,次式で表されます。
常 時 6Be ≤ (22)
地震時 3Be ≤ (23)
式(22)は荷重の合力が擁壁底面の中央 1/3の中に入っていること,つまり,底面全体が圧縮状態になることを意味しています。式(23)は荷重の合力が擁壁底面の中央 2/3の中に入っていること,つまり底面の半分以上が圧縮状態になることを意味しています。 転倒の照査には一般的に式(22),式(23)が用いられていますが,私は式(24),式(25)で評価するほうが良いと思っています。この式は無次元化しているので使い勝手がよいためです。
常 時 0.32
≥=e
BFt (24)
地震時 5.12
≥=e
BFt (25)
B
B/3 B/3 B/3
6Be ≤
B
B/6 2B/3 B/6
3Be ≤
合力 合力
常時 地震時
図-18 転倒に対する照査
5. 演習1 右図に示す重力式擁壁の安定性を,「道
路土工-擁壁工指針」に準拠して検討して
ください。 壁面傾斜角α,壁面傾斜角δは少数第2
位まで求めて下さい。安定計算には次ペー
ジからの様式を使用してください。
B=1750
1:0.251:0.
20
砂質土
N値30
400
H=3
000
q=10kN/m 2
礫質土
γ=20kN/m 3φ =35゜c=0
13
5.1 設計条件
(1) 構造寸法 擁壁高:H=3.00 m 擁壁の伸縮目地間隔:L=10m 形状寸法:下図を参照のこと。
B=1750
1:0.251:0.
20
砂質土
N値30
400
H=3
000
q=10kN/m 2
礫質土
γ=20kN/m 3φ =35゜c=0
図 1 擁壁断面
(2) 裏込め土 土 質:礫質土 単位体積重量:γ=20 kN/m3 せん断抵抗角:φ=35 ゚ (3) コンクリート 設計基準強度:σck=18 N/mm2 単位体積重量:γc=23 kN/m3
(4) 支持地盤 土 質:砂質土 N 値:30
14
5.2 荷 重
(1) 自 重 重 量
( ) ( ) kN/m22
=×+×=+= cc BbHW γ
重 心 前面勾配 1:n1=1:0.2 背面勾配 1:n2=1:0.25
( )212
62nn
BbBbHBxc −
++
⋅+=
( ) m262
=−×
++×
×+=
土 圧 地表面が水平(β=0)であるので,土圧の計算にはクーロン式,中畑式,試行くさび法,改良試行くさび法のいずれも適用できるが,ここではクーロン式と試行くさび法で算出してみる。
B=1750
H=3
000
q=10kN/m2y
x0
xA
yA
PA
PAH
PAVα
α+δ
図 2 擁壁に作用する主働土圧
a)クーロン式による計算 壁面傾斜角
゜ === −− 12
1 tantan nα
壁面摩擦角 ゜ =×== 3/23/2φδ 主働土圧係数
15
( )
( ) ( )( )
22
2
coscossinsin1coscos
cos
⎪⎭
⎪⎬⎫
⎪⎩
⎪⎨⎧
++
++
−=
αδαφδφδαα
αφAK
( )2
2
2
cos)cos(sin)sin(1coscos
)(cos
⎪⎭
⎪⎬⎫
⎪⎩
⎪⎨⎧
×+×+
+×+×
−=
= 主働土圧合力
kN/m212121
21 2
=⎟
⎠⎞
⎜⎝⎛
××
+××××=⎟⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛+=
HqKHP AA γ
γ
b)試行くさび法による計算
H
b
ω
α
δ φ
W
PA
R
R
PA
W
ω−φ
α+δ
q
図 3 擁壁に作用する主働土圧
計算式
⎟⎠⎞
⎜⎝⎛ +=
ωα
tan1tanHb , ( )qHbW 2
21
+= γ , WPA )cos()sin(
δαφωφω
−−−−
=
α= ゜, δ= ゜, φ=35゜ ω(゜) ω-φ ω-φ-α-δ b(m) W(kN/m) PA(kN/m)
62 63 64 65 66
主働土圧合力 PA= kN/m
16
62 63 64 65 66
ω(度)
PA(kN/m)
図 4 ωと土圧 PAの関係
c)土圧分力と作用位置 土圧の鉛直成分 )sin()sin( +×=+= δαAAV PP = kN/m 土圧の水平成分 )cos()cos( +×=+= δαAAH PP = kN/m 土圧合力の作用位置 擁壁工指針に準拠して,土圧分布を三角形と仮定する。
×==31
31 HyA = m
=×−=−= AA ynBx 2 m 荷重の集計 鉛直力 =+=+=Σ AVc PWV kN/m 水平力 ==Σ AHPH kN/m つま先回りの抵抗モーメント ×+×=⋅+⋅= AAVccr xPxWM = kNm/m つま先回りの転倒モーメント ×=⋅= AAHo yPM = kNm/m 底面における合力の作用位置
=
−=
Σ−
=V
MMd or m
底面における合力の偏心量
m22
=−=−= dBe
5.3 安定計算
(1) 転倒に対する検討 許容偏心量
17
===
66Bea m >e = m (O.K.)
合力は擁壁底面のミドルサード(核)の内側にある。 転倒に対する安定性は,下記のように表現することもできる。この方が,無次元量で表記でき
るので使い勝手がよい。
0.322
≥=×
==
eBFt (O.K.)
(5) 滑動に対する検討 底面と支持地盤の摩擦係数はμ=0.6とする。 滑動の安全率
5.16.0 >=×=ΣΣ
=
µHVFs (O.K.)
(6) 支持力に対する検討 ・ 許容支持力度 支持地盤は N値 30の砂質土であるので,道路土工-擁壁工指
針より qa=300kN/m2 ・ 地盤反力度 荷重合力が底面のミドルサードの内側にあるので地盤反力は
図-5のように台形分布となる。
⎪⎩
⎪⎨⎧
=⎟⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛ ×±×=⎟
⎠⎞
⎜⎝⎛ ±
Σ=
⎭⎬⎫
22
21
kN/mkN/m6161
Be
BV
q1= kN/m2 <qa= kN/m2 (O.K.) (演習の解答) 自重 Wc=74.2kN/m,xc=0.85m 土圧 α=14.04゜,δ=23.33゜,ω=64゜,PA=43.38kN/m,PAV=26.33kN/m,PAH=34.48kN/m
xA=1.5m ,yA=1.00m 荷重の集計 ΣV=100.53kN/m,ΣH=34.48kN/m,Mr=102.57kNm/m,Mo=34.48kNm/m
d=0.677m e=0.198m 安定計算 Ft=4.42 Fs=1.75 q1=96.4kN/m2,q2=18.5kN/m2
d e
ΣV
q1
q2
ΣH
図 5 地盤反力
18
付録 ブロック塀が倒れたのはなぜか?
1.ブロック塀に作用する荷重 隣地の Bさんが盛土した直後にブロック塀が傾いているので,盛土したことが原因であることには間違いありませんが,盛土をしたことによってなぜブロック塀が傾いたのかについて考えて
みましょう。 ブロック塀に作用する荷重は,ブロック塀の自重と盛土による土圧です。自重はブロック塀に
対して安定させるように働くため,ここでは安全側を考えて無視することにします。 盛土にはどのように土が使用されたのか土質試が行われていないので分かりませんので,ここ
では砂質土と考え,単位体積重量γ=19kN/m3,内部摩擦角φ=30゜,粘着力 c=0,壁面摩擦角δ=2φ/3=20゜と仮定します。この値は,擁壁の設計で一般的に用いられている値です。 土圧は最も一般的なクーロン式を使って算定することにします。ただし,この場合は,壁面傾
斜角α=0,地表面傾斜角β=0です。 主働土圧係数
( )
( ) ( ) ( )( ) ( )
coscossinsin1coscos
cos2
2
2
⎪⎭
⎪⎬⎫
⎪⎩
⎪⎨⎧
−+−+
++
−=
βαδαβφδφδαα
αφAK
Aさんの隣に住んでいる Bさんが,自分の土地に盛土して 1.1m高く上げました。そうしたところ,Aさんと Bさんの土地の境界に造られていたブロック塀が図-1に示すように天端で 7cm傾いてきました。ブロック塀は,図-1に示すように標準的な建築用コンクリートブロックが使
用され,鉄筋で補強されています。ブロック塀はなぜ傾いたのでしょうか。 この質問は,ある弁護士から著者に問い合わせがあった実際の話です。土木技術者である皆さ
んならどのように回答されるでしょか。
190
100
d=50mm
390
190
100
d=50mm
390
盛土
1.4m
0.2m
0.5m
0.07m隣地境界線
1.1m盛土
1.4m
0.2m
0.5m
0.07m隣地境界線
1.1m
図-1
19
( )
( ) ( ) ( )( ) ( )
cos cos sin sin1 cos cos
cos2
2
2
⎪⎭
⎪⎬⎫
⎪⎩
⎪⎨⎧
−×+−×+
++×
−=
= 主働土圧合力
=×××== 21
21 22
AA KHP γ kN/m
主働土圧合力の水平成分 =×== cos cosδAAH PP kN/m 主働土圧合力の鉛直成分 =×== sin sinδAAV PP kN/m
1.4m
H=0.9m
盛土 γ=19kN/m3
φ=30゜c=0PA
基礎コンクリート
δ=20゜ H=0.9mPAH
0.3m
土圧の水平成分
M
S
図-2 主働土圧 図-3断面力 2.ブロック塀付け根の断面力 ブロック塀には自重と主働土圧が作用するが,自重と主働土圧の鉛直成分は無視し,主働土圧
の水平成分のみが作用するものとして断面力を算定することにします。このような考え方は,設
計上安全側となることから,逆T型擁壁や L型擁壁のたて壁の応力度を照査する際にも行われています。 せん断力 == AHPS kN-m/m 曲げモーメント
=×==
33 AHPHM kN-m/m
3.応力度の照査 建築用コンクリートブロックのサイズ 390mm×190mm×100mm 補強鉄筋は建築用コンクリートブロックの中心に D10(SD295A)が1本,つまり壁 1m当り 2.5本(0.4m当りに1本)配置されているものと仮定します。 応力度計算ではブロック塀の自重は安全側に考えて無視します。つまり,ブロック塀の軸力は
無視し曲げモーメントのみで応力度を算定します。
20
壁1m当りの鉄筋量 As=71.33mm2×2.5本=178.3mm2 部材の有効幅 b=1,000mm 部材の有効高 d=100/2=50mm(鉄筋はブロックの中央に配置されていると仮定)
=×
×=⋅
=
1515db
Anp s
npnpnpk −+= 2)( 2 = 2) ( 2 −×+ =
3
13
1 −=−=kj =
コンクリートの曲げ圧縮応力度
22
6
2 N/mm
10 22=
×××××
=⋅⋅⋅
=dbjk
Mcσ
鉄筋の引張応力度
26
mm/N
10=
×××
=⋅⋅
=
djAM
ssσ
コンクリートの平均せん断応力度
23
mm/N
10=
××
=⋅
=
dbS
mτ
基礎コンクリートおよびブロックの中詰めコンクリートの設計基準強度をσck=18N/mm2 とす
ると,許容応力度は次のようになります。 コンクリートの許容曲げ圧縮応力度
2N/mm 33
=== ck
caσ
σ >σc= N/mm2 OK
コンクリートの許容平均せん断応力度
2m N/mm 15.0
10015.0
100=+=+=
cka
στ >τm= N/mm2 OK
鉄筋(SD295A)の許容引張応力度 σsa=180N/mm2>σs= N/mm2 OK 4.鉄筋の引き抜けに対する検討 ブロック塀付け根位置の応力度は,コンクリートおよび鉄筋とも安全余裕が十分ある。このた
め,コンクリートの破壊,鉄筋の降伏あるいは破断によってブロック塀が傾斜したとは考えられ
ません。 原因としては,補強鉄筋が基礎コンクリートから抜け出したことが考えられます。 基礎コンクリートの圧縮強度をσck=18N/mm2 とすると,異形棒鋼とコンクリートの許容付着
応力度は次のようになります。
===1515
ckoa
στ N/mm2
21
鉄筋が基礎コンクリートから抜け出さないためには,基礎コンクリートに下記の l 以上の長さが定着されている必要があります。
=××
×==
14.3oa
ss
DAlτπ
σ mm
応力度はコンクリート,鉄筋共に十分余裕があること,基礎コンクリートとブロックの境界面
で折れ曲がっていることから,ブロック塀の傾斜は鉄筋の定着長の不足と考えられます。 (付録の解答) 主働土圧係数 KA=0.297 主働土圧合力 PA=2.29kN/m 水平成分 PAH=2.15kN/m 鉛直成分 PAV=0.78kN/m 断面力 S=2.15kN/m M=0.65kN-m/m 応力度 np=0.053,k=0.278 j=0.907 σc=2.1N/mm2,σs=80N/mm2,τm=0.04N/mm2
許容応力度 σca=6N/mm2,σsa=180N/mm2,τma=0.33N/mm2,τoa=1.2N/mm2
必要定着長 l=379mm